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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

男はつらいよ・寅さんの世界・・・旅は楽しいのであろうか

2005年08月28日 | 生活随想・趣味
   私が、寅さんの世界に引き込まれたのは、もう随分昔、20年近く以前、アムステルダムに住んでいた頃である。
   最初にこの映画を見たのは、日本行き帰りのJALの機内か、アムステルダムのホテル・オークラの試写会か、記憶は定かではないが、確か、38作目の「知床旅情」、竹下景子がマドンナで、三船敏郎と淡路恵子の恋を描いた、あの壮大な知床の大地に展開されるドラマであった。

   その後、娘が友人から「男はつらいよ」のビデオを3本借りてきたので、8ミリにダビングして何回も見ていた。
   15年以上も前の、松村達雄がおいちゃんをやっていた頃の映画で、吉永小百合の「柴又旅情」、八千草薫の「寅次郎夢枕」、浅丘ルリ子の「寅次郎忘れな草」であったような気がする。
   記憶が定かでないのは、全48作を何度も見ているので記憶が錯綜してしまって忘れてしまっているからである。

   それからは、日本に出張などで帰る度毎に、何本かづつビデオを借りて「寅さん」をダビングして持って帰って来た。
   レンタル・ビデオにガードがかかってダビングできなくなってからは、続けて出ていた新作は勿論、レーザーディスクを買って持ち帰った。
   最後の2作は日本で見たが、ロンドンに居た5年間で、「男はつらいよ」を殆ど全巻見た事になる。ベータ版だったので、テープは処分してしまって今はないが、最後まで、見るだけになってしまったSONYのベータビデオ機はロンドンで動き続けてくれた。

   多忙で出張が多かった私より、この「男はつらいよ」は、家族にとっての生活の一部だったように思う。
   ストレスの多い極めて厳しいビジネスを抱えていた私には、充分に家族の面倒を見る余裕がなかったし、それに出張で家を空けることが多かったので、ロンドン生活も家族には大変な緊張の毎日であった筈である。
   「男はつらいよ」の醸し出す世界は、まさに日本そのもの、喜びも悲しみも、この映画を見ている時には、日本にどっぷりつかって、懐かしい日本を思い出させてくれる。
   日本の空気を、そして、音を、匂いを、そして日本の大地の息吹を感じることが出来るのである。

   一寸した懐かしい映像に心を揺さぶられることもある。昨夜、BSで放映された「寅次郎恋歌」の岡山・高梁での一こま、買い物籠を持って歩く大学教授の志村喬の後を追う腹巻姿の寅の横を蒸気機関車が通り過ぎる。
  
   昨夜の寅さんは、リンドウの花が準主役だった。
   家を殆ど省みずに学究生活を送って来た大学教授・志村喬の語る話。安曇野を歩いていて見た農家の話で、リンドウの咲きこぼれる庭の向こうの赤々と灯が灯った茶の間では家族の幸せそうな会話と笑いが聞こえてくる、これが本当の生活と言うものではないかと思ったと訥々と寅に話す。
   寅が、柴又のとらやでしんみりと同じ話をするが、「家にもリンドウ咲いてるよ、何処でも、夜になれば、電気をつけてみんなでご飯を食べるよ」と言った詩情を解さない語らいでは全くパロディの世界。
   リンドウの鉢植えを持ってマドンナ池内淳子を訪ねる。「旅をしているとお辛い事もあるでしょうねえ」と聞かれて、同じ農家のリンドウの話をする。中秋の名月が美しく輝いている。
   辛い生活からパッと開放されて何もかも忘れて旅をしたいと言うマドンナと、辛くてしがない旅家業を続ける旅烏の寅の旅への思いのズレ、寂しく顔を曇らせる寅は、架かって来た電話中のマドンナをおいて立ち去る。庭の木戸が風に揺れている。
   この映画、寅が振られずに自分でマドンナから離れていく稀有な作品だが、旅とは人生にとって一体何なのかと問いかけている作品でもある。

   渥美清の至芸と素晴らしいマドンナ達とのナンとも言えない人情味豊かな人生の一こま、寅を取り巻く身近な懐かしい人々との絡みなど実に味わい深い映画だと思うが、私の好きなのは、寅と燻し銀のような素晴らしい役者達との至芸。
   志村喬もそうだが、東野英治郎、柳家小さん、宮口精二、ミヤコ蝶々、宇野重吉、岡田嘉子、嵐寛十郎、三木のり平、片岡仁左衛門、辰巳柳太郎、島田正吾、田中絹江、小沢昭一、芦屋鴈之助、室田日出男、書き切れないが、今は殆どなくなられているが、名優の素晴らしい芸が渥美清の芸と呼応して素晴らしい世界を作り出している。
   山田洋次監督は、これ等の名優を、そのバックにある世界を映しながら演じさせている。
   兵庫竜野を舞台にした宇野と岡田の対話には、ソ連に逃亡して彼の地で地獄を見た岡田嘉子にさらりと人生の選択を語らせているところなど胸を打つ。
   実に含蓄の深い人生の数々の名場面が珠玉のように鏤められている。

   私は、非凡な天才山田洋次と渥美清あっての「寅さんの世界」だと思うが、この映画シリーズは、20数年間の世紀末の日本を凝縮して描いた貴重な文化遺産だと思っている。

   書物に踏み潰されるほど読書を愛し勉強し続けて逝った渥美清、句会に通い続けて詩を歌い続けた詩人渥美清、交わらず孤高を続けた渥美清。
   寅さんシリーズをBSで2年間放映し完結すると言う。

   旅の話を書こうと思ったが、話がそれてしまった。
コメント
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