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コロナ対応で見える共産党中国の現実。

2020-05-18 09:32:07 | おっさんの中国一人旅終了?に伴って、もっと日本を旅します。

都市封鎖、コミュニティ封鎖を実現した社会。我々が想像できない、異質な権力統治社会体制の現実をコメントしています。

社区(私有地のない国土での居住区)は「居民委員会」により管理されています。しかし私たち社会の町内会とは似て非!共産党末端組織です。

『ウィキペディア(Wikipedia)』居民委員会(きょみんいいんかい)とは、中華人民共和国において都市地域社会に設置された住民組織である。日本の町内会にあたり、住民の相互扶助組織として「大衆的自治組織」と性格づけられる一方、行政系統の末端に位置付けられて、政府の保護を受けながら行政補助機能を担っている。「都市居民委員会組織法」によると「自己管理、自己教育、自己奉仕の末端大衆自治組織」と定義される。

現実は、委員会主任、副主任は共産党支部書記、副主任の兼務、共産党支部そのもの、彼らは組織内指示のもと、結果、成果を出すべく励みます。

割のいい職業、給与はもとよりインセンティブは組織内昇進=権限・権力の付与=面子・余得。結果腐敗と表裏一体。

例えば、社区では駐車場は基本的にありません、よって道路脇や社区内道路脇を指定駐車スペースに、配分は委員会権限、結果委員会から睨まれたら車は持てません。日常生活全般にかかわるので、日ごろからコミュニケーション(会食、付届け)は疎かにできません。

私がよく泊まる北京市内胡同の様子   

委員会を補佐するボランティア(志愿者)の多くはこのコミュニケーションの一環又は支配快感。

交差点の監視やバス停での指導ボランティアもしかり。

私は嫌いだとか主義に反する、矜持が許さないと言っていたら生きていけません。でも犠牲者、被害者はどこでも発生します、そちらに入らないように絶えず、ある意味緊張(死活問題)の中で一般の中国の人は暮らしています、逃げ場はないのです。

 

ダイヤモンドオンライン 2020.5.12 5:00 王 青:日中福祉プランニング代表

中国のコロナ対策で大活躍、行政の末端組織「居民委員会」の実態

中国では、新型コロナウイルスの感染拡大はピークを過ぎ、封じ込めに成功しつつある。その要因は「武漢閉鎖」に代表される都市封鎖や外出禁止などの強硬措置といわれている。日本ではあまり知られていないが、こうした強硬策の徹底やマスクの配布など住民の管理と世話に重要な役割を担ったのが「居民委員会」と呼ばれる行政の末端組織である。(日中福祉プランニング代表 王 青)

中国・上海市のマンション入口で検温する居民委員会のボランティア 

中国でのコロナ封じ込め対策に大きな役割を果たした「居民委員会」

「皆さん!外に出ないように、家にいてください!我慢してください!コロナウイルスとの戦いは、煙のない戦争のようなものです。家にいることだけで、皆さん一人ひとりは立派な戦士です!社会に対しての大きな貢献になるのです!」

「皆さん!長く外出できなくて、息苦しいよねー。わかっています!しかし、これでコロナウイルスも息苦しくなって、消滅するのです!あなたが家にいることで、医療の現場を救うことになるのです!医療従事者を手伝うことになるのです!」

今年1月下旬から3月初旬までの約2カ月間、中国上海市の各住宅地では、このような呼び掛けが響き渡った。3〜4人のスタッフがメガホンを手に、住宅地の中をパトロールしながら、住民に声をかけて練り歩くのだ。昼間によく見かける光景だった

「震源地」とされる中国では、現在、新型コロナウイルスの感染拡大のピークが過ぎ、終息までの光明が見え始めている。街には活気が戻り、普段通りの生活が徐々に戻りつつある。

中国が新型コロナウイルスの制圧にほぼ成功したのは、「一党独裁」による「強制措置」の結果だと広く認識されている。ウイルスが蔓延し始めた初期段階の混乱を除き、1月23日の「武漢封鎖」以来、猛スピードで国威をかけてウイルスを封じ込めた。

とはいえ、中国は14億人もの人口を有する巨大国家だ。中国が得意とされるIT(情報通信技術)を駆使したとしても、これだけ多くの国民を統率するの容易ではない。なぜ、このような成果を収めることができたのか。

実は、中国には全土に「居民委員会」という政府の末端組織がある。この組織の存在が今回のコロナ対策で大きな役割を果たしたと思われる。

具体的に説明しよう。

かつては「一人っ子政策の監視役」現在は安定した人気の職業

居民委員会とは、中国都市部の各社区(コミュニティ)にある行政の末端組織だ。中国の各都市の地域社会に設置された住民の“自治組織”であり、立ち位置としては日本の町内会に近い。

ただし、日本の町内会との大きな違いは「行政の末端組織」として行政補助機能を担っているということだ。行政組織のピラミッド図に例えると、「市→区→街道弁事処(行政機関)→居民委員会」という位置づけになる。

居民委員会の管轄範囲は、住宅街の社区(コミュニティ)である。都市部により異なるが、上海市の場合、1つの社区に約1000~1500世帯、人口は約3000〜5000人。現在、約6700の居民委員会がある。

業務は社会治安の維持、文化・福祉活動、ボランティアの管理、紛争調停、流動人口の管理など多岐に渡る。その一方で、“住民の監視役”として、“中央集権の象徴的な存在”ともいえるものだ。かつて「一人っ子政策」を実施していた時代には、第二子を妊娠しているかどうか厳しく取り締まりを行ったこともあり、「国家の監視役」として非常に恐れられていた。

以前の居民委員会の職員は、その地域の世話焼き好きな40〜50代の中年女性が多かった。大家族が同居し、住宅事情も良くなかったため、居民委員会の一番多くの仕事は「紛争調停」だった。つまり、隣人同士のトラブル、兄弟や親子、嫁姑間の紛争、恋愛、結婚、浮気など、さまざまなことで“仲裁役”を果たした。

もちろん、今もこのような仕事も少なくない。その後、経済が発展し、都市部の人口流動が大きくなったり、高齢化が進んだりするにつれ、「居民委員会」の業務は、地域の高齢者の安否確認や家庭訪問、住民間の互助関係づくりなど日本の民生委員のような業務が増え、多様多元になってきた。

そして、十数年前からは「就職先」としての人気が上昇し、高学歴や中途採用の優秀な若者が多く入ってきた。その理由は明白だ。

公務員ではないが安定した職業であり、将来的に社会的地位が向上する可能性が高いからだ。実際、現在では40歳以下の人が8割以上を占めている。その多くはソーシャルワーカーの資格を持ち、常に新しい知識を身につけていて、ITを巧みに駆使し、柔軟な思考力の持ち主である。

その上、住民とのコミュニケーション力も求められる。また、外国人が集中する地域では、英語が話せることも条件の一つとなる。ゆえに「居民委員会」の運営能力は昔よりも格段に上がってきている。

ちなみに、職員の給料は政府の予算と管轄地域にある政府の土地や物件を民間に貸す賃貸料などから出ている。

居民委員会も住民を世話・管理しやすい中国の住宅形態

話は少し脱線するが、中国では、マンションなどの住宅の形態は、日本とは大きく異なり、非常に管理・監視しやすい構造となっている。

中国の都市部のマンションにはゲートがある 写真:筆者撮影

日本は一戸建てが多く、マンションもバラバラな立地に建てられているのに対して、中国は大都市の場合、マンションは各棟ごとに塀に囲まれた敷地内に建てられている。中国語で「小区」と呼ばれ、日本の団地に似ている。各「小区」には名前がついていて、入口(ゲート)が設けられているのだ(※写真参照)。そこには、守衛所が設置され、民間の管理会社のスタッフが(守衛のように)常駐している。

ゆえに、コロナの時には、これらゲートが住民の出入りを管理・監視するのに都合の良い防壁となった。大きな団地の場合は入口を一カ所に集約して住民の出入りを管理した。

古いアパート地区の入口にある守衛所 写真:筆者撮影

話を元に戻せば、こうした住宅の形態や構造もあって、居民委員会は極めて効率的に住民の動向を把握できるのだ。

加えて、居民委員会は、住民の個人情報をすべて把握している。

ボランティアなども居民委員会の仕事を手伝う

郵便物を配布する居民委員会のスタッフ

コロナの感染防止として、管轄圏内の住民の感染の有無、体温測定、外出制限などの行動確認などにあたる業務は、これらの個人情報が大いに活用されている。中国では飛行機や新幹線のチケット購入時に、身分証を提示しなければならない。いわゆる「実名制」である。

(私の場合 名前とパスポート番号がチケットの打ち込まれます)

武漢など「震源地」からきた人や濃厚接触者であるかどうかは、ビックデータから洗い出して追跡し、隔離するように促す。そして「外出制限」の期間中、上海では各世帯に1枚の外出用カードが配布された。外出時にはこのカードの携帯が必須となり、1世帯につき1〜2人の利用限定で、利用は1日1回(時間帯が決められている)としていた。

マンション入口で控える居民委員会の職員やボランティア

「小区」の入口では、出入りする人のチェックや検温を行い、さらに、デリバリーの荷物の置き場も設けられていた(配達員を敷地内に入れないため)。居民委員会の職員は一人暮らしの高齢者や子育て中の家庭に、水やお米などの重い荷物を玄関まで届けるサービスも行っていた。

今の日本と同様、当時はマスク不足が深刻で、薬局の前に毎日のようにマスクを求める長蛇の列があった。それらを解消するため、上海市政府は居民委員会を窓口にして、住民が予約手続きをすれば、職員が1世帯に5枚のマスクを届けるという仕組みを作った。このため、日本が“アベノマスク”に460億円も使い、郵便局員が配布するよりも、はるかに効率良くマスクの配布が実現できた。これも「居民委員会」があったからだ。

そのほか、「小区」敷地内やマンションのエレベーター、廊下などの公共スペースを1日に何回も消毒したり、ゴミの分別管理、注意事項が書かれた通告書を一軒ずつ配るなど、莫大な作業を24時間交代で担った。

多忙を極める中、休校中の大学生や退職したサラリーマン、フリーランスなどのボランティア活動も、今回のコロナ対策では大きな力となったようだ。

「健康と安全」では優れているがプライバシー保護の観点では難しい面も

筆者は仕事の関係で普段「居民委員会」との交流が多いため、2月に何人もの知り合いから写真が送られてきた。寒風が吹く中、厚いダウンコートを着て、やつれた顔で弁当食べる姿から彼らの奮闘ぶりがうかがえた。時には「今日は18時間も働いていたよ」などのメッセージも届いた。

先日、1人の知り合い、40代のベテランの男性職員と話ができた。

「今月に入ってから、上海の感染状況がかなり落ち着いてきた。しかし、まだ油断ができない。今、海外から一時帰国した人の感染が続々と確認されている。われわれの今の一番大きな任務が、このような「逆流感染」の拡大を阻止することです。なので、14日間の隔離を厳格に実施している。そして、マスクはまだ外せない状況だ」と語ってくれた。

最前線にいる居民委員会は、市民を管理する組織ではあるが、今回のコロナウイルスを封じ込める役割には大きく貢献した一面もある。入口の赤いテントはデリバリー商品の置き場。

このように、最前線にいる居民委員会は市民を管理する組織ではあるが、今回のコロナウイルスを封じ込めに大きく貢献した一面もあるのだ。

「健康と安全」を優先するならば、こうした管理を是認することもあるが、民主化の意識が進む中国社会において、個人のプライバシー保護の面では難しい問題も抱えており、悩ましいところである。

私見;人の性、集団ができれば25:50:25(いい人:どちらでもない人:悪い人)、心の中にも25:50:25。だから法治が拠り所ですが、共産党は人治を標榜して憚りません。この制度を採り入れますか?この国を指導国に仰ぎますか?、私たちの国は別だと言うことが通用しないと今回のコロナで証明されています。考え続けましょう。。

しかし、後進国、独裁国家はこの国の援助・情宣もあって、見習う国が出てきています。

ナイロビの街のあちこちに取り付けられている華為製の監視カメラ。カメラ部分は回転し、ズームもでき、遠隔操作で映像を見ることができるという=2020年2月7日、奥寺淳撮影 写真は転載不可。

 

朝日新聞デジタル 2020年5月11日 17時00分 ナイロビ=奥寺淳

10億人追う中国式カメラ 米国ピリピリ、日本の戦略は

ケニアの首都ナイロビ。中心部にあるケニア国立文書館前の広場は、夕刻になると、バスを待つ人、若者のカップル、仕事を終えた人たちでごった返す。

ふと見上げると、キノコ形をした監視カメラが人々を見渡していた。カメラには「HUAWEI」というロゴが見えた。

広場から約500メートル離れたケニヤッタ国際会議場。安倍晋三首相は4年前、日本が主導したアフリカ開発会議(TICAD)に臨み、中国の経済圏構想「一帯一路」に対抗するための外交方針「自由で開かれたインド太平洋」戦略を打ち出した。しかし今、その会場近くにも中国のデジタル覇権の影が迫る。

中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)はケニア政府の発注で、2015年から監視カメラを設置。「セーフシティー」と呼ばれるシステムが街のあらゆる交差点に整備され、ナイロビとモンバサの2大都市で約1800個のカメラが市民を追う。映像は治安機関のデータセンターに集められ、治安対策に加え、渋滞緩和にも役立てられるという。

3月には新型コロナウイルスの感染対策で夜間外出禁止令が出て、帰宅を急ぐ市民がフェリー港に殺到。混乱を収めるため、治安部隊が催涙弾を浴びせた。人々が逃げまどう道にも監視カメラは設置されていた。

ケニアではショッピングモールや大学などが狙われるテロ事件が相次ぎ、「治安が良くなるなら、監視カメラは問題ない」という空気が強い。タクシー運転手のジシンジ・シモンさん(68)は「自分は悪いことはしていないから監視カメラは気にならない。それより犯罪の強い抑止力になる」と歓迎する。

治安に課題を抱え、強権的な体制も多いアフリカでは中国の監視システムへの抵抗は薄い。セーフシティーは、中国を含めアフリカやアジアなど約90カ国、230を超す都市で導入され、10億人の姿をカメラが追う。

「第4次産業革命の趨勢(すう…

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ナイロビの街のあちこちに取り付けられている華為製の監視カメラ。カメラ部分は回転し、ズームもでき、遠隔操作で映像を見ることができるという=2020年2月7日、奥寺淳撮影

 

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コロナ下での挑戦山旅とコロナ後の世界は中国共産党をリーダーに仰ぐのか。

2020-05-10 11:56:24 | おっさんの中国一人旅終了?に伴って、もっと日本を旅します。

先日日曜(5月3日)いつも仰ぐ手稲山1024mへ、登山口は高速潜った80m地点、通称北尾根ルート、2年前から近場での充実コース。

登り3時間半、往復6時間強、体力チェックには手ごろ、年配の単独登山はやはり非常時も考慮して。

今時は熊が活発な時、このルートで登る人は特殊な人?、出会ったら終わりなので十分なクマ対策(登山ナイフ、呼子、鈴、ラジオの完全武装?)。

山はそこそこの高さ、よって雨具、ダウン、非常食に昼食・水分。

8:24登山口、先着は2台、札幌は桜。

1キロほど住宅地直上を巻き込んで沢筋を登り始める所にお寺?(お寺・病院は市街化調整区域に設置できます)。

 

沢筋を500m登った所から北尾根の登りに入ります。途中第一村人?山菜取りの人。

9:47 展望台2.9キロ地点、 

聖火台第2リフト、手稲山!侮れません。 

展望台からは北尾根自然林の中。 

10:40研修所5.8キロ地点で市道交差、途中年配男性一名と交差。

ハイランド・オリンピアの連絡コースへ 

10:55ハイランドゴンドラ乗り場・駐車場、目の前に聳える手稲山、ここからは登山者や春スキーを楽しむ人で賑わいます。密集は避けて・・・。

  

女子滑降コースの壁から上はまだ滑れます、滑ってる人写っています  

12:13手稲山頂、   3時間50分休みなし!車道交差から図上3.0キロ。

頂上リフト降り場からの眺望(昼食おにぎり・卵焼き) 男女ペアにおばさん2人、距離とって!

食事済み次第下山、ボーダーが映り込んでいます。 

下りは緩んだ雪の上を軽快に下ります、20分以上下ると壁もあと少し、フム・・・、ストック!(ここまで降りて・・、エイ、いいや!、・・・南木曽でも忘れてウッチャッタな、2度はないな!)。

登り返します!、あのペアのボーダーがもしかしたら・・・、でコースを直登します(最後は5mピッチ!)。

オ、彼らだ!(持ってる様子ありません)「すいません、ストックなかった?」「おばさんたちが、置いてたほうがいいと、で置いてます」(クッソ!)。往復1時間のロスでストック確保!

駐車場で彼らに会ったので「気が利かないぞ!」(お互い、笑いながら)。

帰りはオリンピア白樺平から車道を。坂ばか写りこんでます。 

手稲大橋から軽川沿いで登山口。15:24 

7時間35,000歩の強化トレーニング。

 

さて隣の中国共産党、やはり゛災い転じて福となす”でしょうか、彼らにとって共産党こそが命、人の目など気にしません!、が、非難や中傷?には異常に反応します。

それにしても、当初の武漢でのコロナ発生時、あの広い中国、北京から1500㌔も離れているのに中国全土で戒厳令もどきを。2億党員、シンパをもって宣戦布告!!(何かを隠してる!当然?)。

あなたはこの中国共産党を世界のリーダーに仰ぎますか?その時を想像してみましょう。。

でも中国には共産党員、シンパ以外に私達と何ら変わらない10億以上の国民(人民?)がこの支配下で日々生活しています。

以下追って各方面のコメント羅列します(怖いほうにますます流れていくような・・・)。

 

ダイヤモンドオンライン 2020.3.24 5:05 上久保誠人:立命館大学政策科学部教授 上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

「中国のウソ」を葬るため、日本はコロナに絶対に負けられない理由

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を巡って、中国政府が自らの正当性を誇示するために欧米の対応の甘さについて批判を強めている。世界中が新型肺炎対策に追われて弱っているときに、「中国=権威主義が正しい」としつこく言われ続けたら、それを信じる人が増えてしまうかもしれない。そこで注目すべきは、中国のような強権的手法を用いずに、コロナの感染者・死亡者数を抑え込んでいる日本だろう。欧米が崩れつつある今、日本は自由民主主義陣営の最後のとりでとなっているのかもしれない。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

中国が新型肺炎の国内終息を事実上宣言したが…

中国外務省の趙立堅報道官は3月13日、ツイッターで「米軍が武漢にコロナウイルスを持ち込んだ可能性がある」と投稿した。趙報道官は、米国は透明性を持って、最初の感染者確認の時期や病院の名前、現在の感染者数を公開し、中国に説明する義務があると書き込んだ。

中国国家衛生健康委員会は3月19日、武漢市・湖北省を含めて18日に中国国内で発生した新規感染例が「ゼロ」だったと発表した。新型肺炎は、中国・湖北省武漢市で発生して拡散。19日時点での中国国内の累計感染者数は8万0928人。死亡者は3245人に達していた(『新型コロナウイルス、現在の感染者・死者数(19日午後8時時点)』. AFP)。だが、国内での新型肺炎の拡散は終息したと、事実上宣言したのだ。

一方、新型肺炎は欧州や米国に猛烈な勢いで拡散している。NHKがまとめた「感染者多い国や地域(23日午前2時)新型コロナウイルス」によると、イタリアでは、感染者が5万9138人、死者が中国を上回る5476人に達し、致死率が9%超と完全な「医療崩壊」を起こした。フランスやスペイン、ドイツなどでも感染者が増加し、世界保健機関(WHO)が「パンデミック」を宣言した。そして、新型肺炎の発生後、早々に中国からの入国を禁止していた米国でも感染が広がり始め、ドナルド・トランプ米大統領が「国家非常事態」を宣言した。

新型肺炎の世界的拡散の責任は中国政府にあることを書き残しておく

中国政府は欧米への批判を強め始めている。例えば、中国共産党系のメディア「環球時報」は、欧米の新型肺炎への対応の甘さを「個人主義的で生ぬるい」と批判した。欧米は、初期に新型肺炎への警戒レベルが非常に低く、予防措置の実施に失敗し、感染拡大後は後手に回った。

また、欧米は日常生活を維持したいという国民の希望を退けることができず、国家総動員の体制を築くことができなかった。甘い対応によって、既に手遅れとなってしまったことを「反省すべきだ」と、中国は訴えたのだ。

「盗っ人たけだけしい」「どの口がそれを言う」という感じだが、筆者にはまったく驚きはない。中国共産党政権は絶対に間違えないという「無謬性」を権威として成り立っている(本連載第213回)。新型肺炎が一区切りついたときは、どんな形になろうが必ず他に責任転嫁するだろうし、高らかに「勝利宣言」するだろうと、最初から思っていたからだ。想定の範囲内というしかない。

中国政府の主張は、残念ながら正しくない。だが、今後も新型肺炎との闘いが続く中で、「中国は全て正しく、欧米は全て間違っている」「中国が世界を指導する」という主張を、中国政府がこれからも延々と続けることは間違いない。

「ウソも言い続ければ真実になる」という。世界中が新型肺炎対策に追われて弱っているときに、「中国が正しい」としつこく言われ続けたら、それを信じる人が増えてしまうかもしれない。だから、本稿は新型肺炎の世界的拡散の責任は中国政府にあることを、明確に書き残しておきたい。

中国のメンツ最優先主義とWHOの忖度に重大な責任あり

この連載では、中国政府の新型肺炎への初動の誤りが、事態を深刻化させたことを時系列で整理した(第232回)。初動の段階で、中国政府はいつものように、都合の悪い事実を「隠蔽」するという選択をした。その後も、中国政府の「メンツ」が最優先されて、情報を都合よく小出しに発表した。

結局、中国国民は何も知らされないまま春節を楽しむために「民族大移動」し、感染者や死者を急拡大させてしまった。気付いたときには都市は封鎖され、幽閉状態に追い込まれてしまったのだ。

また、WHOの中国への「忖度」を思わせる行動も、事態を深刻化させた。WHOの「緊急事態宣言」は、遅れに遅れた。1月22日に緊急委員会を開催したが、何も決まらなかった。ようやく「緊急事態宣言」を出したのは1月30日だった。

その上、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は中国の新型肺炎への対応を絶賛。さらに、普通はWHOが緊急事態宣言を出す場合、発生源となった国への渡航制限や物流の規制を設けて、さらなる感染の拡大を防ごうとするものだが、今回は全く異なっていた。「緊急事態宣言」は中国以外の国への感染拡大が問題だとした。そして、「中国への渡航や交易を制限する理由は見当たらない」とまで言ったのだ。

テドロス事務局長はチャイナマネーなしでは国家運営できないエチオピア出身だ。中国に「忖度」していると見なされても仕方がない言動を続けてきた。しかし、それは新型肺炎の「パンデミック(世界的な大流行)」という悲惨な結果をもたらしたと言わざるを得ないのではないか。

中国政府が批判するように、確かに欧米は新型肺炎に対する警戒が甘かったと言わざるを得ない。しかし、それはWHOが「緊急事態宣言」をなかなか出さず、警戒しすぎるなと言ったからではないか。

その上、中国との政治的・経済的な結び付きの強い国は批判を恐れて、中国からの入国制限をなかなか発動できなかった。韓国やイタリア、イランなどがそうだが、これらの国では2月中旬以降、感染者が激増することになってしまった。

さらに、WHOは中国での感染拡大が終息に向かい始めた3月11日になって、ようやく「パンデミック宣言」を出した。ご丁寧なことに、その際「パンデミックの中心は欧州」だと名指したのである。このように、新型肺炎の世界的拡散の推移を追っていけば、中国とWHOに重大な責任があるのは明らかではないか。

日本政府は、新型肺炎を巡る国際貢献の一環として、WHOなど複数の国際機関に150億円を拠出することを決めた。そのうち、WHOには50億円を出すという。地球温暖化や捕鯨、自由貿易など国際政治の駆け引きに疎く、生真面目な姿勢で損ばかりしている印象の日本政府が急遽、拠出金の増額を決めたのだ。いかにWHOがカネに汚く、中国に影響されているかを日本政府が痛感している証拠である。

実際、WHOのテドロス事務局長は3月13日の記者会見において、急に「安倍首相自らが指揮を執る政府一丸となった取り組みを実行に移している」と称賛し始めた(WHO Director-General's opening remarks at the media briefing on COVID-19 - 13 March 2020)。日本がWHOにカネを出すと分かったからだと考えざるを得ない。というのも、同じ会見の中で、日本が4600万ドルをWHOに拠出することに対しても言及。感謝の言葉を述べているからだ。あまりに分かりやすい「正直な言動」には、もはや笑うしかないではないか。

中国は権威主義の優位性を世界に示し民主主義に代わる「勝者」を目指す

この連載では、中国政府が習近平国家主席の時代になって急激な経済発展・軍事力拡大を実現して自信を持ち、中国の権威主義体制を欧米式の民主主義に代わる「世界の政治体制のモデル」として世界に普及する戦略を取るようになったことについて、何度も論じてきた(第220回)。

中国政府は、新型肺炎もこの戦略に利用しようとしているようだ。中国政府は、徹底した都市封鎖によって、新型肺炎を抑え込んだ。「新型肺炎の蔓延を最も包括的に、厳格に、徹底的に押さえ込んだ」「感染が広がる他の国に支援する用意がある」とアピールし始めているのだ。

そして、中国に派遣されたWHOの国際専門家チームを率いたブルース・エイルワード事務局長補が「自分が新型肺炎にかかったら中国で治療を受けたい」と絶賛してフォローしている(『WHOエイルワード事務局長補「私が新型肺炎に感染したら中国で治療受けたい」』. 人民網日本語版)。中国は、WHOのお墨付きも得て、効果的な新型肺炎対策を採れない民主主義陣営に対する権威主義体制の圧倒的な優位性を世界に示し、「勝者」になろうとしている。

だが、中国政府の思惑通りに事が進むかといえば、それは難しいのではないだろうか。そもそも、中国がどこまで本当に新型コロナウイルスを押さえ込めているかが疑問だ。中国政府が主張する「新規感染者ゼロ」が信じられないということだ。1カ月前には1万5000人も新規感染者がいたのだ。それが急にゼロになったというのは、あまりにも不自然だ。

しかし、「新規感染者ゼロ」が、共産主義の「計画経済」においてトップダウンで示された目標だと考えると、何が起きているのか理解できる(第114回)。現場は目標を達成しなければ処分されてしまう。どんなことをしてでも新規感染者ゼロという数字を出さなければならない。数字は操作されたものだと考えるべきだ。

また、仮に国内の新規感染者の増加を完全に封じ込めたというのが本当だとしても、中国には新たな危機が起き始めている。海外から入国した人の感染事例が200人を超えて、全国に拡大しつつあるのだ。人工衛星が映した情報によれば、中国は工場を徐々に再稼働させつつあるという(“Satellite Pollution Data Shows China Is Getting Back to Work”. Bloomberg Green)。今後、中国人の国内外の移動が活発化していくと再び感染が急拡大していく懸念がある。

さらに、科学的な観点からも、中国の封じ込め策では新型肺炎を抑え込むことは不可能だという見解がある。人口の約6割の人たちが感染して免疫を獲得すれば人から人への伝染が起きにくくなり、ウイルスの大流行が自然に終焉するという「集団免疫」という概念がある。

この概念では、どんなに強力に地域や都市を閉鎖して住民を外出させない隔離政策をとっても、一時的には感染者の増加が抑えられるが、閉鎖や隔離を解いたら流行が再燃するというのだ。従って、新型肺炎のワクチンの完成が早くても2~3年後だとすれば、新型肺炎の世界的な流行が終息するのは、感染がじわじわと広まって集団免疫が成立したときしかない(小野昌弘『英政府の対コロナウイルス戦争の集団免疫路線から社会封鎖への「方針転換」と隠れた戦略』. Yahoo!ニュース)。

要するに、中国が都市封鎖によって新型肺炎の流行を抑え込んだとしても、世界中に「勝利」を宣言することは、あまりにも拙速であるばかりか、非常に危険なことだと考えられる。実際、イタリアやイランの医療崩壊は、「中国モデル」を採用したことが原因であるという指摘がある(姫田小夏『コロナ対策を中国に学んだイタリアとイランでなぜ感染拡大が止まらないのか』. ダイヤモンド・オンライン)。

中国と真逆の新型肺炎対策を採用した日本に注目すべき

山中伸弥・京都大学教授は、新型肺炎のホームページを開設し、「新型コロナとの闘いは長いマラソン」だと主張している(山中伸弥『山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信』)。そこで、注目すべきは、中国と真逆の新型肺炎対策を採用している日本だろう。

日本の新型肺炎対策は、初動で後手に回った上に、安倍晋三首相の全国一斉休校の決断という専門家無視の独断での決断が行われるなど混乱があるものの、次第に落ち着きを取り戻し、現在のところ「結果オーライ」となっている(第234回)。

特筆すべきは、早期から新型コロナウイルスが上陸していたにもかかわらず、感染者・死亡者数が急増していないことだ。3月22日午前4時現在の「感染者(死亡者数)」を確認すると、中国本土8万1008人(3255人)、イタリア5万3578人(4825人)、イラン2万0610人(1556人)、スペイン2万4926人(1326人)、フランス1万4459人(562人)、米国2万2177人(278人)だ(『新型コロナウイルス、現在の感染者・死者数(22日午前4時時点)』. AFP)。

これに対し、ダイヤモンド・プリンセス号を除く日本は1089人(41人)だ(厚生労働省『新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について(3月22日公表分)』)。

日本の新型肺炎への対応には、当初世界中から厳しい視線が向けられてきた。PCR検査を抑制的に実施してきたことにも「東京五輪を開催するために、感染者数を隠蔽しているのではないか」との疑惑さえあった。

確かに、感染者数については公表されている数字は少なすぎるだろう。医療崩壊を起こしてない国では致死率が1%程度であり、日本もその程度であると推測すると、実際の感染者数は約5000~7000人ではないかと思われる。ただし、死亡者数は隠しようがなく実際の数字だ。少なくとも、日本は他の国と比べて死亡者数の少なさが圧倒的だとはいえる。

日本の新型肺炎対応の特徴は、次第に世界でも報じられるようになった(Gearoid Reidy. “A Coronavirus Explosion Was Expected in Japan. Where Is It?”. Bloomberg. )。PCR検査を抑制的に行い、感染のピークを遅らせる戦略を採用してきたこと、中国に近いので初期段階から強く警戒して国民が手洗いやうがい、マスク着用を徹底してやっていたこと、感染のクラスターを比較的初期に特定できていること、握手の文化がそれほど定着していないこと、現に季節性インフルが記録的低レベルにとどまったことなどが紹介されている。

本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されました。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

日本は、小・中学校、高校の全校一斉休校や各種イベントの自粛を政府が要請したが、企業活動を継続させ、飲食店・歓楽街も営業を続けさせている。その上で、医療崩壊を防ぐためにPCR検査を抑制的に実施する一方で、患者クラスターの発生は徹底的に追跡し、これをつぶす。また、安倍政権は国民への「現金給付」を含む緊急経済対策を検討中である。

経済活動の維持と感染拡大の抑制、医療崩壊の防止のバランスに配慮しながら、感染のピークを遅らせて国民の「集団免疫」の獲得を待つということだ。こののらりくらりとしたやり方は、不格好ながら「世界最強の包括政党(キャッチ・オール・パーティ)」の自民党らしいしたたかさが発揮されているといえるのかもしれない(第218回・P3)。

もちろん、これからオーバーシュート(爆発的感染拡大)が起きるかもしれないことは強く警戒すべきだ。しかし、中国のような権威主義による都市封鎖という強権的な手法を用いることなく、医療崩壊を起こさずに日本が新型肺炎の危機を乗り切れたならば、中国の主張する「権威主義」の優位性を覆す、自由民主主義の優位性を示すことになる。

欧米が崩れつつある今、日本は自由民主主義陣営の最後のとりでとなっているのかもしれない。この連載が主張してきたように、今後の世界における政治体制のモデルは、もはや欧米にはなくアジアにある。「権威主義の代表・中国共産党」と「自由民主主義の代表・自民党」の競争なのかもしれない(第218回)。

 

ダイヤモンドオンライン 2020.3.24 5:10 加藤嘉一:国際コラムニスト 「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

習近平が「コロナ外交」を積極展開、底流にある中国共産党の思惑

お友達外交の一環として世界各地で“コロナ外交”

コロナショックが世界を震撼させている。

これまでも検証してきたが(過去記事参照)、中国共産党の基本的な戦略は、(1)国内での感染、死亡件数を早急かつ大胆に抑え込み、(2)国民の間で広まりうる社会不安、経済へ与えうる悪影響を最小限に食い止めた上で、(3)積極的に“コロナ外交”を展開し、対外的影響力と対内的正統性を正比例的に強化していくことである。

結果的に、世界各国の政府や人々に「中国こそが味方だ」と、中国人民には「私たちこそが最も幸せだ」と認識してもらい、その過程で、湖北省武漢市で最初に発生した案件に対する初動の遅れや情報の隠蔽、操作など「習近平一強体制」が根本的原因で生じた問題に関しては、可能な限りカモフラージュすることだ。

「習近平に権力が集中しすぎていることが原因で、現場が硬直し、柔軟な対応が取れず、結果的に問題をより深刻に、複雑にしてしまうこともある。しかし、問題が発生した原因を“そこ”に求めることは、私たちの業界でも目下最大のタブーだ」

中国外交部で対米関係を担当する中堅幹部は筆者にこう語る。対外関係を担当する部署を中心に、中国から発生し、まん延していったコロナショックによって、党の核心である習近平総書記(以下敬称略)に国際社会からの批判の矛先が向かないように、必死につじつまを合わせ、この危機を契機に国際社会が習近平が掲げる「人類運命共同体」の支持者に転化するよう、奔走しているように見受けられる。

中国政府の発表によれば、3月22日の時点で、中国はすでに82の国家や国際組織に援助を表明している。21日、習近平がフランス、ドイツ、スペインの首脳とそれぞれ電話会談をし、慰問や支援を表明し、共に戦っていく意思や体勢を呼びかけている。さらに同日、中国政府はセルビアに、23日にはカンボジアに対して医療専門家チームを派遣した。コロナ外交は当分の間、大胆に展開されることであろう。習近平の「お友達外交」(中国の特色ある大国外交)の一環である。

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AFPニュース 2020年4月16日 13:04 発信地:ジュネーブ  特集:新型コロナウイルス感染症「COVID-19」

発生からパンデミックまで、WHOの新型コロナ対応 時系列で振り返る

【4月16日 AFP】世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)対応をめぐっては、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が対応を誤ったと非難し、資金拠出を停止するよう政権に指示したと発表している。中国で最初の症例が報告されてからのWHOの対応について、以下に時系列でまとめた。

■中国で初の感染者

2019年12月31日、中国はWHOに対し、湖北(Hubei)省武漢(Wuhan)市で「原因不明の」肺炎のクラスター(感染者の集団)が確認されたと報告。44人のうち11人が「重症」で、残り33人の容体は安定していた。

2020年1月1日、WHOは原因不明の肺炎の流行への有事対応として、危機対応グループを立ち上げた。

1月4日、WHOはソーシャルメディア上で武漢での肺炎のクラスターにおいて、「死者はいない」と報告した。

1月5日、WHOは科学者と公衆衛生の専門家に向けて、新型ウイルスに関する「流行発生ニュース(Disease Outbreak News)」を初公開した。

1月10日、WHOは全ての国々に「技術的指針」を送付し、感染が疑われる患者を特定したり、検査したり、管理したりする方法について助言した。WHOによると、当時のエビデンスは「人から人への感染はない、または限定的」であることを示唆していたという。

■中国以外にも感染拡大

1月11日、中国がWHOに新型コロナウイルスの遺伝子配列情報を提供した。

1月13日、タイが同国初の流入症例を確認したと報告した。

1月14日、WHOの新興感染症対策部門を率いるマリア・ファン・ケルクホーフェ(Maria Van Kerkhove)氏が記者会見で、確認された41人の患者に基づけば「限定的な人から人への感染が起きる可能性」があると指摘し、より広範囲で流行する恐れがあると述べた。

1月20日と21日、中国と西太平洋地域出身のWHO専門家が武漢を短期間で現地視察。

1月22日、上記のWHO専門家らは、武漢で家族内や医療施設内での濃厚接触を含む人から人への感染が起きたエビデンスがあると指摘したが、「感染が及ぶ範囲を完全に理解するにはさらなる調査が必要」と述べた。

1月22日と23日、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長はこの流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たるかを判断するため、緊急委員会を招集した。同委員会は、合意に至ることができず、10日後に再び招集されることになった。

1月28日、テドロス氏率いるWHO代表団が北京を訪問。テドロス氏と中国政府は、国際的な専門家チームを中国に派遣することで合意した。

■パンデミック宣言へ

1月30日、WHOは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たると宣言した。

2月16~24日、米、中、独、日、韓、ナイジェリア、ロシア、シンガポール、カナダ出身の専門家チームが武漢を訪問した。

2月24日、WHOと欧州疾病予防管理センター(ECDC)の専門家チームが、中国の次の流行の中心地となったイタリアを訪問した。

3月11日、WHOは新型コロナウイルスのパンデミックを宣言。WHOによると、この時点の感染者は、わずか4か国が90%を占めており、57か国が10人以下、81か国がゼロだった。

■米が資金拠出を停止

4月14日、トランプ大統領は、WHOへの資金拠出を停止するよう政権に指示したと発表。これを受けて各国からは非難が相次いだ。トランプ氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大へのひどく不適切な対応と隠蔽(いんぺい)におけるWHOの役割を検証する間」、資金拠出を停止するよう指示したと説明。

トランプ氏は、WHOが中国寄りだとし、「人命救助の措置よりもポリティカル・コレクトネスを優先している」と非難した。(c)AFP

 

日経ビジネス 2020/4/23 世界鳥瞰

中国は米国の役割を果たせるか

新型コロナ危機は、感染を終息させたとする中国が米国から地政学的優位を奪うきっかけになるとの見方がある。だが中国は他国に信用されておらず、中国自身もこれまでの米国のように世界の厄介事に乗り出す気はない。中国が国際協調路線を歩まず、他国の干渉の排除に努めるだけだと、世界には悲劇が訪れるだろう。

中国にとって2020年は最悪の年明けとなった。武漢で呼吸器系に症状が出る新型コロナウイルスが猛威を振るい、共産党幹部は本能的にもみ消しに走った。

一部には、この出来事が中国の「チェルノブイリ」になるかもしれないとの予想もあった。かつてソビエト連邦政府が原発事故をごまかそうとしたことがソ連崩壊を早めたように、新型コロナが中国の致命傷になると考えたのだ。だがその予想は誤っていた。

中国を支配する共産党は最初の失策から立ち直ると迅速に動き、とてつもない規模と厳しさをもって検疫を実施した。都市封鎖は成功したように見える。新型コロナウイルス感染症の新たな感染者は、驚くほど減っている。工場の操業は再開されつつある。中国の感染症研究者らは、ワクチン候補を急いで臨床試験に持ち込もうとしている。もはや公式発表の死者数においては、英国、フランス、スペイン、イタリア、米国の方が、中国をはるかに上回っている。

中国はこれを「勝利」と自賛する。強力な一党支配のおかげで疫病を制圧した、と大々的に宣伝しているのだ。また世界に医療用物資を供給するなどして、博愛の精神を示しているとも訴える。実際、中国は3月1日から4月4日までに、40億枚近いマスクを提供した。

また、このようなことも言い始めている。中国の犠牲のおかげで世界はウイルスに備える時間を稼ぐことができた。欧米の一部の国がこの時間を無駄に使ったとしたら、それはその国の統治体制が中国よりも劣っていることを示しているのだ、と。

欧米の神経質な国際政治専門家の中には、新型コロナ危機の勝者は中国になると結論づけた者もいる。このパンデミックは人類の厄災としてだけでなく、地政学的に米国離れが起こった転換点として記憶されるだろう、と彼らは警告する。

こうした見方が根付いた一因は、米国の消極性にもある。米国のドナルド・トランプ大統領は、国際的な新型コロナ対策を主導することにはまるで関心がないようだ。過去の米国大統領は、HIV/エイズウイルスやエボラ出血熱に対する対策の指揮をとったが、トランプ大統領は世界保健機関(WHO)が中国寄りだとして資金拠出の停止を宣言した。ホワイトハウスの主が、連邦政府には「絶対的な権限」があると言いながら「私の責任ではない」などと口にする現状では、中国にも影響力を高めるチャンスがあると言える。

世界を主導できない理由

とはいえ、中国が実際に影響力を高められるとは限らない。まず、中国の新型コロナへの対処方法が本当に中国政府が主張するほど素晴らしいものなのか確かめるすべがない。封じ込めに成功した韓国や台湾などの民主主義国・地域と同程度のものであるかも、もちろん不明だ。秘密主義を貫く中国の役人たちが感染者数や死者数を正直に報告したのか、外部からは確認しようがない。

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ダイヤモンドオンライン 2020.5.1 5:00 姫田小夏:ジャーナリスト China Report 中国は今

「漢方は新型コロナに効く」は本当か、背後に絡む習近平の“中国夢”

中国が新型コロナウイルスの封じ込めに一定の成果を出したその理由を、“大胆な封鎖措置”だけで語ることはできない。ワクチンもない、特効薬もないといわれる新型コロナの脅威だが、今、スポットが当たるのは「漢方の効き目」だ。中国では新型コロナウイルスの感染者に漢方治療が導入され、その成果が続々と報告されているというのだ。私たちには「漢方」という言葉になじみがあるが、本文では中国で常用される「中医薬」という言葉に置き換えてお伝えしたい。(ジャーナリスト 姫田小夏)

中医薬に関する“定説”

「中国では今、多くの患者が中医薬万歳!を唱えています。西洋医学に中国の伝統的な中医薬を結合させる『中西結合』というコンビネーションで、てきめんの効果が出ているのです」

こう語るのは、亜細亜大学の範雲涛教授だ。中国古来の伝統医学に根差す中医治療は、今なお中国で研究開発が続けられており、このコロナ禍でも力を発揮しているという。

湖北省武漢市で都市封鎖が行われたわずか2日後の1月25日、習近平国家主席は中央政治局常務委員会の会議で、感染者治療における「中西結合」を強く指示した。

「中医主導の中西結合モデルを飛躍的に高めよ」――

国家中医薬管理局はこの習氏の要求に対して即座に反応し、27日に「新型コロナ予防治療プロジェクト」を起動させた。

4つの省での中医薬治療の実験的な導入を経て、2月6日には国家衛生健康委員会が、「清肺排毒湯(せいはいはいどくとう、麻黄、炙甘草、杏仁をはじめとした生薬で構成された中薬)」と西洋医学を結合させた使用を推薦すると、これがたちまち全国に広がった。

武漢封鎖から2カ月後の3月23日、国務院が湖北省武漢市で開催した記者会見では、中国全土における新型コロナ感染患者7万4187人のうち、91.5%に上る患者が中医薬を服用したことが明らかになった。ちなみに、このうち9割以上に当たる6万1449人が湖北省の患者である。

北京中医薬大学によれば「中医薬は重症化を阻止し、重症患者の病状を緩和させ、治癒率を高め、死亡率を低減させることができる」という。中医薬治療で感染患者の9割に「効果が出る」というのは、中国では “定説”になりつつある。

新型コロナまん延は願ってもないチャンス

新型コロナがまん延を始める以前の昨年10月末、習氏が重要指示を出したことがあった。それは、中医薬学の現代化と産業化を推進させよ、という内容だった。

「中華民族の数千年にわたる健康保養の理念である中医薬学は、中華文明の貴重な宝であり、中国人民と中華民族の豊かな知恵である。中医薬と西洋の医薬を相互に補充させ、中医薬産業を世界に送り出すことは、中華民族の偉大な復興と中国の夢を実現させるものだ」

2カ月後の12月18日、中国人民対外友好協会と北京市人民政府は、「中医薬を世界に知らしめ、世界に送り出す」――をテーマにしたフォーラムを北京で開催、「中医薬は『一帯一路』の沿線国の医療体系に取り込まれ、共有されるべき重要な衛生資源である」と発した。

習氏は政権に就いて以降、過去に何度となく中医薬の発揚を繰り返し、自らが力を入れる『一帯一路』構想に乗せて世界に拡散しようとしているようだ。西洋医学では後れを取る中国だが、中医薬で対抗して世界の医療体制に影響を与えたいと算段する習氏にとって、この新型コロナの世界的流行は願ってもないチャンスになったことは間違いない。

「中医薬は特効薬」とする発言も

そして4月に入ると、中国ではついに「中医薬は特効薬」という発言まで飛び出した。同月17日、国務院の記者会見で、北京中医薬大学副校長の王偉教授が「清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)は、新型コロナウイルスの特効薬だと認識している」と発言したのだ。

筆者のもとにも「衝撃の発言の瞬間」をとらえた会見の動画が届いた。だが、動画に映り込んでいたのは、一部の記者たちの白けた表情だった。中には、会見内容のメモすら、あるいはパソコンに打ち込むことすらしない記者もいた。

このときすでに、新型コロナ治療で主導的立場にいた鐘南山氏が専門家グループの組長という地位から降ろされていた。彼は最も早く武漢に乗り込んだ感染症の権威だが、“中医学否定派”で「新型コロナに特効薬はない」と主張していた人物でもある。水面下では西洋医学派と中医学派の激しい綱引きが見て取れる。案の定、人民日報は「特効薬」の3文字を外して報道した。

一方で、「武漢の医療現場はまさに政治だった」とする声がある。ラジオ・フリー・アジア(RFA)の中国語版は、いくつかの現場の声を拾っている。その一つは「死亡率が依然として下がらなかった一つの要因は、政治主導での中医薬治療を強く推されたため」というもので、最前線にいる医療スタッフからは、官のやり方に不満が出たことを伝えている。

また、林斌と名乗る医療関係者は、RFAの記事中で次のようにコメントしている。

「これらのやり方は科学の常識に反するという見方もあったが、反対意見を声に出すことはできなかった。官僚も医療の専門知識を持っておらず、たとえ国家衛生健康委員会に専門家がいても、“ビッグボス”には怖くて言えなかった。真実を語れば職を失う。私も微信(ウィーチャット)で2回ほどこの問題を発信したが、その後当局がやって来た」

上海でコロナ死亡者がわずか7人の理由

興味深い事例がある。上海市は東京都の人口を1000万人も上回る約2430万人もの人口を抱える大都市だが、累計感染者数は645人(4月30日現在)で、死亡数はわずか7人にとどまっているのだ。超巨大都市であるにもかかわらず、感染者や死亡者はなぜこんなにも少ないのだろうか。

中国を代表する感染症研究者である張文宏氏(復旦大学附属華山医院感染科主任)は、その理由を「迅速な発見、隔離、追跡」だとしている。症状がある患者を早期に隔離し、濃厚接触者についても徹底的に追跡し隔離を行ったという。

中医薬の貢献もあるという。張氏は4月中旬の会見で、次のように語っている。

「上海では病例の約93%の感染者が中医薬を服用しており、治癒率は約97.5%だった。これは、中医薬と西洋の治療法による中西結合がもたらした結果だ」

もとより日常の食事や生活習慣の見直しから、自己免疫力を高めるのが中医学の発想だ。薬も長期的な服用が求められ即効性は期待できない。そのため、呼吸悪化など緊急性を伴う場合は、むしろ西洋医学のアプローチが必要となる。だからこそ「中西結合だ」というわけだが、果たして中医薬それ単独での貢献はどれほどのものなのか。

「中医薬は、新型コロナの防疫において確かに大きな働きをしたが、それが中医薬の働きなのか、あるいは西洋医学の働きなのかに分けることは難しい。有名大学に合格した子どもを、お母さんの影響が大きいのか、お父さんの影響が大きいのかを区別するのが難しいのと同じだ」(張氏)

習氏が思い描く「中医主導の中西結合モデル」には「中華民族の偉大な復興と中国の夢の実現」も絡む。中医薬の力で人々が健康を取り戻せば何よりだが、“政争の具”や “覇権の具”に使われればなおさらその効能も曇ってしまう。

 

ビジネスインサイダー May. 01, 2020, 01:00 PM Politics 黒井 文太郎 [軍事ジャーナリスト]

「コロナに牛乳が効く」「製薬大手の陰謀」中国・ロシアのデマ拡散工作の実態をEUが公表

欧州連合(EU)の外交機関「欧州対外活動庁(EEAS)」はロシア、イラン、中国の3カ国による対外工作活動の実態を示すレポートを公表した。

新型コロナウイルスは言うまでもなく、人類共通の強敵だ。世界中の国々が力を合わせ、知見を共有して戦っていくほかない。実際、各国の保健衛生当局は、概してそのように行動している。

しかし、そんななかでも、故意に感染症に関するデマを拡散し、仮想敵国で社会不安を煽り、人々を分断して国民の政府への信頼を阻害し、敵国全体を弱体化させようと暗躍する国家(の対外工作セクション)がいくつかある。

ヨーロッパにおける悪質なデマの拡散を調査している欧州連合(EU)の外交機関「欧州対外活動庁(EEAS)」は地道にレポートを発表しているが、とりわけ最近発表した報告書(調査期間は4月2日~22日)は、ロシア、イラン、中国の3カ国による対外工作活動の実態を詳細に記してている。

この3カ国はもともと反欧米の「御三家」といえる存在なので、それらの国々が対外工作をくり広げていること自体には何の驚きもない。

ただ、多少気になるのは、デマ拡散のようなフェイク情報工作はロシアの情報機関が何より得意とするところだが、今回は中国も大々的に乗り出している形跡があることだ。

中国からフランス、ドイツへの「圧力」

EU当局者が中国からの圧力を受け、EEASレポートでの批判的態度を軟化させたことを指摘する米ニューヨーク・タイムズ記事。

中国側の視点に立てば、ウイルスの感染源とされる武漢での初期対応に、情報隠匿をはじめいくつもの不備があったのではと批判されるなか、世間の注目を免れたい思惑もあるのだろう。

前述のEEASレポートに対しても、水面下で「中国に関する記述を手控えるよう」に裏工作していたことが明らかになっている。米ニューヨーク・タイムズ(4月24日)によれば、EU当局者は中国からの圧力を受け、レポートでの批判的態度を軟化させたとされる。

具体的には、フランスの政治家が世界保健機関(WHO)のトップに対して人種差別的な中傷を行ったとのフェイク情報を中国大使館が拡散した例(リンク記事を参照)を除外したり、中国の工作活動よりロシアのそれを強調したりといった形で、レポートに手心を加えたのだという。

もっとも、英フィナンシャル・タイムズ(4月25日)によれば、中国が圧力をかけたのは事実ながら、それを受けてEU当局者が実際に記述を手控えたかどうかについては、見方が分かれているようだ。

他方、英ガーディアン(4月27日)は、中国大使館がフランスの政治家による中傷行為というデマを拡散した上記の件について、改訂前のレポートには記載があったとの情報を紹介し、やはり中国からの政治的圧力で記述を手控えた可能性を指摘している。

中国当局がドイツ政府関係者に対し、中国の新型コロナウイルス対策を称賛するよう要求していたと指摘する独ウェルトの記事。

さらに、独ウェルト(4月12日)によると、中国当局はドイツ政府関係者に対し、中国の新型コロナウイルス対策を称賛するよう要求していたという。中国当局は否定し、ドイツ外務省はコメントを控えているが、ウェルトは外務省の極秘文書にもとづく確かな情報だとしている。

中国によるネット情報工作の「作法」

中国の悪質なデマ工作は現在も続いている。ただし、前節で触れた中国大使館が関与するデマ拡散のような「足のつきやすい」工作は手控え、最近では、ネット上でデマを拡散する水面下の工作が多くなってきている。手口としては、まずSNSなどでフェイク情報を発信し、それをアメリカの陰謀論系サイトなどにつなげて拡散するのだ。

新型コロナ「アメリカ起源説」「中国生物兵器説」は両方デマ。発信源は2つの有名陰謀論サイトだった。

アメリカでは今、コロナ感染抑制策としてのロックダウン(都市封鎖)に反対するデモが各地で発生している。直近の4月30日には、ミシガン州の州都ランシングで、銃で武装した市民ら数百人が、州知事の非常事態宣言の延長に反対する抗議デモを行っている。

経済的な苦境にあえぐ人々、とくにトランプ大統領の支持層が多く参加しているが、 デモ組織の中心にいるのは政治的右派勢力のリバタリアンや茶会運動、あるいは陰謀論系極右勢力のオルタナ右翼の人脈とみられる。 オルタナ右翼系の陰謀論界のスターであるアレックス・ジョーンズ氏らは、デモ会場に登場すると参加者たちから拍手で迎え入れられたりもしている。

各州当局が苦慮しながらロックダウンを実施するなか、他ならぬトランプ大統領が反対デモを応援する構図のあり方はアメリカの現状を示しているように思うが、それはともかく、こうした社会分断の局面では、ロシア情報機関がデマ工作で介入して、分断を助長するのがかつてのパターンだった。そして今回、そこに参入してきたのが中国だ。

ニューヨーク・タイムズ(4月22日)によると、アメリカでは3月中旬に「政府がまもなく全国でロックアウトを行う」「米軍が展開準備」とのデマ情報がSNSで急速に拡散したが、それに中国の工作員が関わっていたと米情報機関はみているという。

ロシア情報機関の得意技「メディア・ミラージュ」

ロシア政府系メディアが西側諸国のコロナ危機を悪化させる目的でデマを拡散していたと指摘する英ガーディアンの記事。

もちろん、中国の参入によって、フェイク情報工作の本家本元であるロシア、イランの動きが縮小したとか、抑制されたということはない。

例えば、ガーディアン(3月18日)は前出EEASが3月に出したレポートをもとに、ロシア政府系メディアが西側諸国のコロナ危機を悪化させる目的でデマを拡散していたと指摘している。

同紙によると、1月半ばから3月半ばまでの2カ月間に、ロシアが発信源のデマが80件確認されたという。内容は「新型ウイルスは中国、アメリカ、イギリスの生物兵器」「感染の発生源は移民」「製薬会社の陰謀」「コロナ自体がデマ」などだった。

ガーディアンが指摘するフェイク情報の拡散は、ロシア政府系メディアのスプートニク、RIA-FAN通信、レン・テレビ(REN TV)などでみられたが、その多くはアメリカの陰謀論サイトや中国、イランのネット上にある陰謀論的書き込みをシェアする形で行われた。

「リトアニアで米軍兵士が感染した」とのデマもSNS経由で拡散されたが、その引用元として多かったのは、ロシア政府系メディアのRT(ロシア・トゥデイ)スペイン語版だった。

このように政府系メディアとSNSの相互引用で情報発信源を隠しつつ、信ぴょう性を持たせてデマを拡散する手法はロシア情報機関の得意技で「メディア・ミラージュ」と呼ばれる。イランでも同様の手法で「アメリカの生物兵器」「イスラエルの生物兵器」といったデマが拡散された。

ロシアの模倣を始めた中国

セルビアの街頭に掲げられた看板。新型コロナウイルス対策を「輸出」する戦略も抜かりない中国。

ニューヨーク・タイムズ(3月28日)は、ロシアと中国とイランのデマ拡散工作が互いに連動して、アメリカ社会の分断と弱体化が促されていると指摘している。

同記事によれば、今回はとりわけ中国が積極的だという。これまで中国は、台湾や香港、チベット問題などに関する政治的プロパガンダには積極的に資金を投入してきたが、陰謀論の拡散にはあまり関与してこなかった。

にもかかわらず、今回は「ウイルスの発生源はアメリカ」「ウイルス封じ込めに成功した中国共産党のシステムは優れている」といった言説を、発信源を隠して拡散している。コロナ問題で責任の矢面に立つきわめて不利な立場に追い込まれたことで、ロシアの情報戦略の有効性を認識し、模倣を始めたということだろう。

そのためか、中国がデマ情報拡散に活用しているサイトは、カナダの親ロシア系陰謀論サイト「グローバル・リサーチ」や、親イラン・ロシア反米系の陰謀論サイト「ベテランズ・トゥデイ」など、もともとロシアが陰謀論を拡散するのに利用してきたところが多いようだ。

拡散されたデマの数々

最後に、ロシアや中国が意図的に拡散したフェイク情報を、前述のEEASレポートから紹介しておきたい。
▽「牛乳がCOVID-19に効く」説(presentnews.biz.ua、ウクライナ語)
▽「そもそもコロナ感染は起きていない」説(Der Fehlende Part、ドイツ語、動画)
▽「大手製薬会社の金儲けが目的のアメリカ製人工ウイルス」説(NewsFront、スペイン語)
▽「ビル・ゲイツとロックフェラーによる人口削減の陰謀」説(Journal of New Eastern Outlook、英語)
▽「手洗いは効かない」説(RT、ドイツ語)
▽「亜鉛がコロナに効く」説(RT、アラビア語)
▽「大手製薬会社と手を組んだ欧米メディアは、中国でビタミンCによる治療に成功したことを無視している」(South Front、英語)
▽「パンデミックは誇張された陰謀。ファシスト国家を作るのが目的」(スプートニク、ドイツ語版)
また、中国の一連のデマ拡散工作について、各所からの分析報告を紹介しておく。
▽「中国の国営メディアが新型コロナウイルスのパンデミックに関して、国際的な認識に影響を与えようとしている」(Recorded Future)
▽「中国はどのようにツイッターによるプロパガンダの仕組みを構築し、コロナウイルスを解き放ったか」(プロパブリカ)
▽「中国がトランプ非難のプロパガンダ広告~国営メディアは中国のパンデミックへの対応を称賛し、アメリカの過ちを攻撃する広告を多数購入」(テレグラフ)

関連記事;ノーベル賞学者も唱える「武漢の研究施設から人工ウイルス流出」説、やっぱりデマと言えるこれだけの理由
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう):福島県いわき市出身。横浜市立大学国際関係課程卒。『FRIDAY』編集者、フォトジャーナリスト、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。取材・執筆テーマは安全保障、国際紛争、情報戦、イスラム・テロ、中東情勢、北朝鮮情勢、ロシア問題、中南米問題など。NY、モスクワ、カイロを拠点に紛争地取材多数。

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