ダイヤモンドオンライン 2019.4.9 加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ
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習近平が「中国の特色ある社会主義」を魯迅の言葉で解説した理由
習近平が投稿した論考の意味
中国共産党は『求是』という機関誌を持っている。党の中枢機関である中央委員会が主催しており、共産党が自らの正統性を死守し、強化していくために必要だと認識する政治思想やイデオロギーを宣伝するための場だといえる。
中央、地方を問わず、特に高級、中堅幹部を中心に党員たちは同誌を読みながら、時に読むことを半ば強要されながら、党指導部が現在何を考えているのか、どんな方針で党の運営を進めていこうとしているのかを察知し、自らの政治的活動を実践していく。その過程ではいわゆる“忖度”たる発想や行動も生まれるのだろう。
4月1日、『求是』に1本の論考が掲載された。作者は中央委員会総書記の習近平で、タイトルは“関于堅持発展中国特色社会主義的幾個問題(中国の特色ある社会主義を堅持し、発展させることに関するいくつかの問題)”である。
その名の通り、中国が社会主義という政治体制、イデオロギーを堅持した上で国家の発展を推進していくことがいかに重要か、なぜそれが重要なのかが論じられている。「中国民主化研究とは中国共産党研究」という立場を取る本連載にとっても、習近平の論考は極めて重要であり、必ず検証しておかなければならない類に入る素材である。
これから2回にわたって、習近平論考の意味するところを解読、検証しつつ、習近平率いる共産党指導部が今現在、そしてこれから中国をどのように、どういう方向に導こうとしているのかという問題を考えてみたい。
習近平は就任以来「ゴルバチョフ現象」を警戒
「中国の特色ある社会主義はあくまでも社会主義であって、何か他の主義ではない。一国がどのような主義を実行するかに関して鍵を握るのは、その主義がその国家が直面する歴史的課題を解決できるかどうかということである」習近平は冒頭で次のように主張する。
「中華民族が貧弱で、列強に搾取されていた頃、あらゆる主義や思想が試された。資本主義の道は切り開けなかった。改良主義、自由主義、社会ダーウィニズム、無政府主義、実用主義、ポピュリズム、無政府組合主義など外から続々と流れ込んできたが、どれも中国の前途と運命に関わる問題を解決することはできなかった」
習近平は就任以来“ゴルバチョフ現象”を警戒し、自らが、そして中国がソ連の二の舞にならないように細心の注意を払いながら政治を運営しているように見受けられる。
「ソ連はなぜ解体したのか?ソ連共産党はなぜ転覆されたのか?一つの重要な原因はイデオロギーの分野における闘争が激烈になりすぎてしまった点にある。ソ連の歴史、ソ連共産党の歴史、レーニン、スターリンを全面的に否定し、歴史虚無主義に陥り、思想が混乱してしまったのである。各級の党組織が機能しなくなり、軍隊は党の支配下にいなくなってしまった」
ソ連崩壊前の最後の最高指導者となったミハイル・ゴルバチョフが推し進めようとしたペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)は行き過ぎており、急速に内政の自由化を進めた結果崩壊に追いやられた。中国、そして中国の最高指導者が同じ轍を踏んではならない。
習近平はそう考えている。
近年赤裸々に強化されている政治の引き締めやイデオロギーの統一化、言論抑圧、市民社会、NGO、人権活動家などへの圧力といった政策の背後には中国共産党指導部のそういう思惑が明確に潜んでいるものと思われる。
中国の特色ある社会主義が中国を急速に発展させた
習近平は続ける。
「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想が中国人民を長い夜から抜け出させ、新中国を設立した。中国の特色ある社会主義が中国を急速に発展させたのだ。もっと早い時期は言うまでもなく、改革開放の初期、特にソ連が解体し、東欧に劇的な変化が生じた後、中国の衰退を唱える世論は国際社会で後を絶たず、ありとあらゆる“中国崩壊論”はこれまで中断したことがない。
しかし、中国は崩壊しないどころか、その総合国力は日増しに増強し、人民の生活水準も不断に向上している。歴史と現実は我々に語りかけている。社会主義だけが中国を救うことができる、中国の特色ある社会主義だけが中国を発展させることができるのだと。これは歴史の結論であり、人民の選択である」
今年、中国は“天安門事件”(6月4日)30周年を迎える。習近平が言うように、この期間、確かに“中国崩壊論”は後を絶たなかった。
中国がソ連の後を追い、米国の政治学者フランシス・フクヤマが提起した“歴史の終わり”が完結するのではと騒がれた(参照記事:『歴史は終焉するか? フクヤマVS鄧小平 未完のイデオロギー闘争』)。“中国崩壊”を巡ってあらゆる分析や予測が試みられてきた。
中国はいずれ“崩壊”するという予測あるいは希望的観測があらゆるウオッチャーによってなされ、中国でビジネスを展開してきた企業家たちは、中国は“崩壊”してしまうのか、そうなったら自分たちの商いはどうなるのかという不安や懸念を抱えながら政治や市場の動向を注視してきた。
ただ中国は“崩壊”しなかった。
そして、習近平はその理由を中国が社会主義を選択し、中国の特色ある社会主義によって自国を発展させてきた経緯に帰結させ、それを“歴史の結論”と定義づけたのである。
上記の論述から、中国が共産党による領導の下で生存、発展しようとする限り、“中国の特色ある社会主義”という政治体制およびイデオロギーを自ら放棄する可能性は限りなくゼロに近いという現実が今回の習近平論考によって一層明白になったと筆者は捉えている。
習近平が魯迅が残した言葉を引用した理由
「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」――。
習近平は論考の中で作家・魯迅が残したこの言葉を引用した。
仮に魯迅が生きていたとして、昨今の習近平政治にどのような感想を抱くかに関してはいろいろと想像力が膨らむところであるが、習近平が魯迅を引用した動機は明確であるようだ。中国が独自の道を創っていく実現性を正当化するためである。
この点において、習近平はなかなか具体性を伴った興味深い表現をしている。
「近年、国内外の一部世論には中国がいまだ社会主義国家なのかという疑問を投げかけている。“資本社会主義”“国家資本主義”“新官僚資本主義”といった表現が見られるが、これらは完全に間違っている。我々が言うところの中国の特色ある社会主義とは社会主義であって、どうやって改革、開放しようが、終始中国の特色ある社会主義の進路、理論体系、制度を堅持していくのである」
「近年、わが国の総合国力と国際的地位が上昇するに伴い、国際社会では“北京コンセンサス”“チャイナモデル”“中国道路”といった議論や研究が増えてきている。その中にはそれらを称賛する者もいる。一方で、一部海外の学者は中国の急速な発展は一部西側の理論が疑問視される状況を作り出し、一種の新たなマルクス主義理論が西側の伝統的な理論を転覆していると考えているようだ。我々は、各国の発展の道は各国の人民によって選択されるべきであると終始考えている。いわゆる“チャイナモデル”というのは中国人民が自らの奮闘と実践の中で創造した中国の特色ある社会主義の道に他ならないのである」
「チャイナモデル」について習近平が自らの論考で言及
約10年前に勃発した金融危機(リーマンショック)あたりから提起、議論されるようになり、時に物議を醸してきた“国家資本主義”や“チャイナモデル”という言葉あるいは概念を習近平が自らの論考で言及した事実自体を筆者は興味深く受け取った。
“百戦錬磨”の中国共産党の最高指導者であっても、なんだかんだいって気にしているのだと感じさせられた。
ここで重要なのは、習近平や党指導部が国際的に中国の発展のあり方やモデルを巡って行われてきた議論や問題提起を正視し、それらを利用しながら“中国の特色ある社会主義”の存在意義と実行可能性を証明しようとしている現状である。
と同時に、習近平は「各国がそれぞれの道を歩むべき」という中国共産党従来の立場表明を付け加えることも忘れなかった。本連載でも議論してきたように、中国共産党は国際社会全体が自由民主主義や資本主義といった西側発の政治体制、発展モデル、価値体系に染まってしまう情景を極端に嫌う。ソ連解体後、社会主義国家が数えるほどしか残らなくなり、“資本主義陣営”と比較した場合、その政治体制、イデオロギーとしての優位性が劣っているのは明白である。
そんな中、中国共産党がもくろんでいるのは、西側の体制や価値観に疑問が投げかけられ、それに不満を持ち、異なる進路を歩もうという国家や地域が増えていく局面が生まれることである。“世界の多極化”を望んでいるのである。中国共産党自身が言うように、同党はもはや革命党ではなく執政党である。中国自身も現在革命ではなく改革の発展段階にある。「万国の労働者よ、団結せよ!」のスローガンを掲げて共産主義や社会主義を“輸出”する選択肢は取れないだろうし、実際に取らないだろう。
しかしながら、習近平は論考の中で次のようにも語っている。
「中国の特色ある社会主義が不断に発展するに伴い、我々の制度は必ず日を追うごとに成熟していくはずだ。わが国の社会主義制度の優越性は必ずより一層明らかになっていくはずだ。我々の道は進めば進むほど広くなっていくに違いない。わが国の発展の進路が世界に与える影響も必然的に大きくなっていくものと確信している」
“中国の特色ある社会主義”の優位性や正当性を自らの政策や実践の中で証明しつつ、若干踏み込んだ表現をすれば、それが“複製可能”であることを示唆しつつ、世界中で中国のような経済発展モデル、中国共産党のような政治手腕を採用する国家や地域が増えていく局面を習近平は望み、あわよくば狙っているということであろう。それが結果的に「中国共産党の正統性の死守と強化」という共産党にとって最大の目的を達成することにつながるからである。(4月23日公開予定のの次回に続く)
(国際コラムニスト 加藤嘉一)
私見;社会主義が危険だとか間違ってるとは思いません、現に戦争に敗れた日本は、アメリカを中心とする西側諸国の指導の下(占領政策)、世界で一番社会主義的国家だ(今はまたかなり戦前回帰?)と言われていました。
危険だ間違いだとされるのは、その国の人々が独裁者(独裁体制)により抑圧と管理の下におかれ、人としての基本的な権利を阻害されてる国家統治を指してるのです。
その意味で今習近平の目指している国家体制は早晩周辺国を巻き込んだ災禍を生むだろうと思います。
中国の14億の人がたった一人に支配され運命づけられるのははなはだ不合理です。ましてや彼も永遠の生命を与えられてるわけでもなくこの十年の栄華、その後の事を考えると怖くなります。“絶対的権力には絶対的腐敗を伴う”
だからと言って私達の国、政治も経済も社会もおかしいぞ!
今日の新聞コラムに“朝三暮四”という中国古典の言葉。今の安倍首相がサル使いに擬せられて(私達国民はサル!)、それでも代わりの人がいないからと、私達の未来を託しています。とても民主主義が機能しているとは思いません。
日産問題も、見逃すことも気付かないことも協力と変わらない、そして変わった経営者も金太郎あめでしょう。
社会は歩きながらもゲームやネットショッピング、そして子供を虐待して憂さ晴らし、そういった人が社会の前面に出て来て憚らない。
それでも、やはり民主主義の方が今考えられる最良の社会制度だと。25パーセントの人達のたゆまない真剣さに期待します、やはり人類は素晴らしいと“強い信念”を持って。
ダイヤモンドオンライン 2019.4.7 吉川尚宏:A.T.カーニー株式会社 パートナー
『政治の衰退 フランス革命から民主主義の未来へ』(上・下)書評
国家と法の支配と民主主義、フクヤマが描く人類興亡史
本書の前作『政治の起源』(上・下)で、フクヤマは政治が機能するには三つの政治制度、すなわち「国家」、「法の支配」、「政府の説明責任」が整い、これらがある種の均衡を持たなければならないと主張した。この視点で分析していく。行き着く結論は、近代的国家制度に到達するには幾つもの経路があるということである。
彼の見解では、この三つにも優先順位があり、実効性のある強力な国家機構、次いで法の支配、民主的説明責任に基づく抑制の制度という順となる。今回の『政治の衰退』では、欧州、北米、アフリカ、中南米、東アジアなどの政治制度を三つの視点で分析していく。行き着く結論は、近代的国家制度に到達するには幾つもの経路があるということである。
フクヤマの評価が高いのは、東アジアだ。中国、日本、その他の東アジア諸国は西洋諸国と接する前に、強力な近代国家制度をつくり上げた。東アジアにおける政治的発展の原動力は法の支配ではなく、国家制度であった。特に、日本は、江戸時代(徳川期)にすでに強靭な国民意識を持っていた点、競争率の高い試験でふるいにかけられた官僚による統治機構が整備されていた点、そして戦争によってそれが鍛え上げられた点など、肯定的な評価が多い一方で、官の自律性が凶暴となって戦争に導いたことを否定的に捉えている。
中国の政治形態が今後どうなるのかも気になるところだ。自律性の高い共産党に率いられた中国の発展について、フクヤマは中国の体制がより自由な制度に向かって針路を変更する自律性を持てるかどうかに懸かっていると指摘する。すなわち、より自由な制度なら、もっと活発な経済競争を促すことで、社会全体に自由な情報の流れを認めることができる、という。
それにしても、自由民主主義という政治体制の何と普遍性のないことだろう。前段で述べた三つの政治制度と比較すれば、たかだか2~3世紀前に登場したに過ぎず、人類の政治秩序の歴史から見れば、ほんの一瞬に過ぎない。
さて、本書の中で評者が最も驚いたのは、ラテンアメリカにあるコスタリカだ。人口500万人に満たない小国だが、近隣諸国の中でもとりわけ裕福で、1人当たりGDP(国内総生産)は周辺国の3000~5000ドルに対し、1万2000ドルを上回る。その理由は、1949年に施行された憲法で、常備軍(軍隊)を廃したことにある。一国の政治を担う主勢力が、憲法のルールに従って敵対者だけではなく、自らの行動にも制約を課す。
この決断が政治を発展させ、経済成長にもつながった。数年前、「コスタリカの奇跡」という映画があったが、奇跡を支えているのは「法の支配」だったのである。
(選・評/A.T.カーニー株式会社 パートナー 吉川尚宏)
私見;これを習近平が聴いたらどう思うだろう、“その時私は生きていない、今が問題なのだ”と。そう習だけでなく生きてる人皆まず今が大事?、そして勝者の歴史、反省の歴史が残る。
自由主義国、資本主義国は中国共産党の延命、賛助だけは避けてほしいものです。今は良くても倍返しが待っています。過って糸偏企業が中国進出で生き残りを模索しましたが身ぐるみ剥がれて追い出されています。
今の中国、共産党で回っています、ファーウエイの仁さんがなんと弁明しようと。。