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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 407 田淵を超える男

2015年12月30日 | 1984 年 



15年間保ち続けた記録が塗り替えられようとしている。法大・田淵(現西武)がマークした通算最多本塁打記録「22本」にあと7本と迫っている明大・広沢克己。同じく田淵が持っていた年間最多本塁打記録「9本」を更新する「10本」を記録した実績からしても通算記録更新の可能性は大だ。1984年一番のアマ球界注目の男に迫る。


巨体に秘められたパワーには途轍もないものがある。茨城県・結城市の結城小学校時代には子供相撲大会に出場して中学生相手に勝ち続け優勝、中学生になると柔道部に入り二段を獲得したパワーが現在の「田淵越え」の原動力となっている。腕っぷしも強く昭和58年の日米大学野球で選抜されたメンバーで広沢に勝てた選手はいなかった。生涯で唯一負けた相手が小山高校の先輩でもあり重量挙げ全日本のホープである砂岡良治(日体大)というから恐れ入る。「去年は納得出来る成績でした。これまで苦しんできたカーブを練習で徹底的に打ち込んだのが良かったみたい。今じゃカーブの方が打ち易いくらい」と課題を一つ克服した。今年の目標は?と問われると「先ずは小早川さんの16本を抜く事。その後は当然、22本を目指します。僕はヒットよりホームランこそ打者の勲章だと思っています」と普段は大きな体に似合わず蚊の啼くような声で話す広沢がこの時ばかりは力強く言い放った。田淵が力強い手首と天性のミート感覚で本塁打を量産したのに対して広沢は重量挙げ選手並みの220kg の背筋力を生かしたパワーでスタンドへ打球を運ぶ。「アイツはホームランを打つ為に生まれてきたような男」とライバルの山崎(法大)も一目置いている。

広沢には田淵を抜く為の3つの好条件が揃っている。先ずは本塁打の生産ペースで田淵の3年時終了時と比べると広沢の方が2本多い。1年生からベンチ入りしていた田淵に比べ広沢がレギュラーになったのは2年生の春。スタート時のハンデを物ともせず現時点で田淵の上を行く。2つ目はスランプ期間が短い点だ。昨秋のシーズン当初は絶不調だった。「右方向を狙い過ぎてフォームを崩してしまった…」と。だが「常に自分のベストフォームが頭にある(広沢)」ので修正も早く出来てスランプを脱するのも早い。最後は決して本塁打ばかりを狙っていない点。本人は本塁打を意識していると言っているが数字を見る限り広沢はアベレージヒッターである。昨春が打率 .450 、秋が .484 で連続首位打者になっている。過去2季連続で首位打者になったのは半世紀を越える東京六大学リーグの歴史の中で長崎慶一(法大→大洋)だけで右打者では広沢が初めてであり、本人も打率に関しては並々ならぬ自信を持っている。好調を維持出来れば昭和56年秋の小早川(法大)以来の三冠王も夢ではない。

しかし当の本人は首位打者や三冠王には興味がないようで「とにかく僕はホームランを打つ事が第一目標」とあっさりしている。というのも彼なりの打撃哲学があるからだ。「打率はポテンヒットでも上がる。どんな当たりを打つかは運・不運がモノをいう。それは打点も同じで走者がいる時に打席が回ってくるかどうかは運次第。その点でホームランは掛け値なしでフェンスを越えるか否かで分かれる実力だけが数字に現れる。だから僕は打者の凄味はホームランに出ると思うんです」とキッパリ。「そもそも僕は器用な打者じゃないんで三冠王なんて夢のまた夢。大ボラを吹いたら御大に叱られます」ととぼけて見せる。だが3つの利点を考えると田淵の記録を塗り替える事は可能だと思える。考えられる障害を挙げるなら四球攻めであろうか。本人も「多分今年は去年以上にマークが厳しくなるでしょうね。昨春に5本打ったら秋季は外角一辺倒でしたからね。記録更新が目前となったら勝負してくれないんじゃないですかね…」と気にしている。

1㍍85㌢、85㌔ の巨体からは動きが鈍そうなイメージしか浮かばないが実際は100㍍を11秒8で走り遠投は125㍍と見た目と正反対の俊敏さと高い運動能力を持っている。「間違いなく今年のドラフトの目玉でしょう。ポジションが一塁なのはマイナス点だがそれを補って余りある打撃は1巡目で消える逸材。田淵の記録を抜いて契約金が増すのは痛手だけどね(巨人・堀江スカウト)」とプロ側の視線も俄然ヒートアップしてきている。広沢もプロ志向が強く「いずれはプロに行きたい。柔道をしていましたがずっと野球が好きで家に帰ればバットとグローブを持って走り回ってました。好きな球団は巨人ですが今はリーグ戦の事で頭が一杯です。とにかく去年の優勝に続き今年も優勝して大学4年間の有終の美を飾りたい。その為にもガンガン打ちまくるつもりで、田淵さんの本塁打記録を結果として抜ければ最高です」 15年間破られずにいた大記録がとうとう抜かれる瞬間がやって来るかもしれない。

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