功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『ドラゴン酔太極拳』

2009-09-23 21:42:26 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ドラゴン酔太極拳」
「女デブゴン強烈無敵の体潰し!」
原題:笑太極/醉太極
英題:Drunken Tai Chi
製作:1984年

▼80年代中期、袁和平(ユエン・ウーピン)は苦闘を強いられていました。かつては『酔拳』でジャッキーをスターダムに押し上げ、サモハンやユンピョウともコラボを果たしてきた男も、近代化の進む香港映画界から徐々に取り残されつつあったのです。
ハーベストから飛び出した袁和平ら袁家班は台湾へ向かい、羅維(ロー・ウェイ)や第一影業などを転々としながらオカルト功夫片の製作に着手。当時全盛を極めていたキョンシーをあえて取り入れず、独自のキャラクターやクリーチャーで勝負したまでは良かったものの、パッとしない状況に変わりはありませんでした。
 本作はその袁和平が監督した作品で、甄子丹(ドニー・イェン)のデビュー作としても名高い一編です。本作が作られた1984年は香港映画にとって転換期にあたり、そんな時期に本作のような古いコメディ功夫片を作るとは、いささか時代遅れの感があります。
袁和平らもそれは解っていた様で、作中に自転車や爆破アクションを取り入れているんですが、やはり古臭さは否めません。結果として本作はヒットに恵まれなかったようですが、決して悪い作品ではなかったのです。

■やんちゃ者の甄子丹は兄貴(袁日初)思いな男だが、あるトラブルで金持ちドラ息子の陳志文から恨みを買ってしまう。さっそく報復に現れる陳志文だが、甄子丹はこれをサラッと返り討ちに。ところがアクシデントで陳志文が知的障害者となり、陳志文の父である王道(ウォン・タオ)は息子の復讐を誓い、殺し屋の袁信義(ユエン・シンイー)を差し向けた。
袁信義によって父・李昆と袁日初を殺された甄子丹は、たまたま知り合った袁祥仁(ユエン・チョンヤン)の元に転がり込み、そこで太極拳を伝授される事に。のちに陳志文と王道の問題は決着がついたが、最後に袁信義との対決が待っていた…。

▲…と、物語的に内容はこれだけ。袁祥仁のキャラは一連のオカルト功夫片そのままで、ギャグやギミックの演出は『妖怪道士』の時から殆ど進歩していないし、それらが更に本作の古臭さを助長させています。また、これまで狂気の殺人鬼を演じる事の多かった袁信義を、本作では子持ちという設定にして奥行きを広げる事に成功しています…が、袁信義の息子が辿る末路を考えると、オチにも重苦しさを感じてしまいました。
本作はオカルト功夫片の流れを汲む作品であり、上記の通り全ての演出が『妖怪道士』といった作品群の延長線上にあります。もし今回も袁日初が主演であったなら、恐らく単なる珍作で終わっていたに違いないですが、袁和平とて同じドジを踏むはずがありません。本作が傑作として昇華し得たのは、何よりも甄子丹という新風の存在があったからなのです。

 本作における甄子丹は気のいいあんちゃんを好演していて、オープニングで見せる太極拳の演舞も実に華麗。柔らかさの中にも力強さを感じさせる動きは本当に素晴らしい出来栄えです。武術指導は袁和平が渾身の殺陣を構築し、バラエティに富んだアクションシーンは圧巻の一言。ところどころリアル・ヒッティングな技を見せる部分があり、のちの甄子丹作品を連想させるカットも存在します。
甄子丹との出会いを経た袁和平は動作片へ方針を転換し、『タイガー刑事』系列や古装片で再び盛り返していきました。しかし甄子丹が自らの元から離脱した際、袁和平は呉京(ウー・ジン)を彼の後釜として担ぎ出しますが、本作同様にまたも失敗を喫してしまいます。
 その失敗作というのが『太極神拳』(この作品も本作と同じ太極拳の映画)で、この作品は時代に合ったワイヤー古装片だったんですが、ストーリーがあまりにも二番煎じ過ぎたために凡作止まりの出来でした。この失敗が相当応えたのか、袁和平は『太極神拳』を最後に監督業から退き、武術指導家に専念していくことになります。
しかし、『太極神拳』から数えて13年目の今年(2009年)、袁和平は再びその手にメガホンを構えました。それが趙文卓主演作『蘇乞兒』です。『蘇乞兒』も本作と同じく袁家班が結集して製作に当たっているとの事ですが、果たして『蘇乞兒』は袁和平にとって三度目の正直となるのか…是非とも期待して待ちたいところです。

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4 コメント

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Unknown (蛇形酔歩)
2009-09-24 12:07:50
こんにちは! 私も時代遅れという点には全く同感ですね それにドニーの登場で袁日初はいろんな意味でワリを食っちゃった感じもしますね。この後役者としてはやはりドニー主演の「直撃証人」での事件のキーをにぎる男役が最後になってしまうワケですし。 袁和平の作品はいいキャラ設定をあまりいかしきれていない気がするんですよね。 本作でも ドニーと袁日初の 李昆の実子と養子ということで扱いに格差があることからくる 嫉妬 引け目 思いやりの入り混じる関係がストーリーやアクションにうまくからむことなく 袁信義に殺されるカタチで単なる復讐劇におさまるというのがなんとも納得がいかないんですがいかがなものでしょうか。
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返信!(1) (龍争こ門)
2009-09-28 00:00:48
蛇形酔歩さんこんばんは!

>ドニーの登場で袁日初はいろんな意味でワリを食っちゃった感じもしますね。
功夫アクションは問題ない人でしたが、いかんせん華が無い(でも袁家班の中では一番マトモ)のが辛かったですね。
『クライム・キーパー』では韓國才みたいな二番手役になっちゃって少し惜しいと思いました。

>袁和平の作品はいいキャラ設定をあまりいかしきれていない気がするんですよね。
これは私もそう思います。『ツーフィンガー鷹』で特異な殺人鬼を演じた袁信義とか、掘り下げていけば面白そうな設定が疎かにされている事はよくありました。
仰るように本作におけるドニーと袁日初の兄弟愛(?)の描写は面白かったのですが、袁信義にサラッと殺されてしまうのは残念でした。個人的に、袁信義の襲撃で死ぬのは李昆だけに止めておいて、袁日初はクライマックスで犠牲になっちゃう役柄にすれば見せ場も増えたかと思われます。
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こんばんは。 (ひろき)
2016-01-28 21:05:23
龍争こ門さん、こんばんは。
いつもお世話になります。
よろしくお願い致します。

本作は、ストーリーは、陰惨且つ暗めで、後味も良いとは言えない作品でしたが、アクションに関しては、ドニー・イェンの「力強さ」とユエン・ウーピンの「美しさ」の混ざり具合が絶妙で、尚且つ、僕の大好きなジャッキー・チェンの「~蛇拳」や「~酔拳」と作風が似た感じのコミックカンフー映画なので、結構気にっています。
現在、武打映画界の最前線にいる、ドニー・イェンのデビュー作品にもかかわらず、ビデオ(VHS)化はされたのに、何故か、未だに、日本版のDVDがリリースされないのか不思議ですよね。
是非古川さんの日本語吹き替え版を収録したDVDをリリースして頂きたいですね。(「HAPPY THE BEST」シリーズの廉価版価格でのDVDリリースがベストだと思います。)

>武術指導は袁和平が渾身の殺陣を構築し、バラエティに富んだアクションシーンは圧巻の一言。

仰るとおりですね。
ユエン・ウーピンが得意とする「型」の美しさに拘ったリズミカル且つ優雅な芸術的なアクションはもちろん、ローリングソバットや踵落としなどの多彩な足技の数々、跳ね起きやハンドスプリングなどの各種アクロバット、チェーンを巧みに駆使したアクロバティックな動き、パントマイム、ブレイクダンス、ロボットダンスなどなど、バラエティーに富んだアクションのオンパレードでしたね。

>ところどころリアル・ヒッティングな技を見せる部分があり、のちの甄子丹作品を連想させるカットも存在します。

確かに、随所にリアル・ヒッティングな技を炸裂していましたね。
特に、冒頭の対決で、ドニー・イェンお得意のローリングソバットが、ドンピシャなタイミングで、バッチリと決めてましたね。

>その失敗作というのが『太極神拳』~。

確かに、アクションに関しては、カンフー映画=芸術と認識させてくれるような作品で、華麗な技や動作を魅せてはくれたのですが、ストーリーが・・・で、総合的には、イマイチでしたね。

>趙文卓主演作『蘇乞兒』~。

ありえない展開や描写が多々見られ、ツッコミ所が満載の作品でしたが、でも、アクションは、斬新で、中々カッコ良かったと思います。
特に、ブレイクダンス酔拳(酔拳とブレイクダンスを融合した動き)は、中々面白い試みだと思いました。
ユエン・ウーピンの京劇的な振り付けとエクストリームアクションの合体は、とても斬新でしたね。
谷垣健治監督も、「るろうに剣心」シリーズで、ブレイクダンスのような動きやアクロバティックな動きを取り入れたり、「捜査官X」では、カンフーに、パルクールの動きを取り入れたように、常に新しさを追求する姿は素晴らしいと思いいますね。カンフー映画にも、どんどん新しい要素を取り入れて、進化して行ってほしいと思っています。
それでは、失礼致します。
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返信。 (龍争こ門)
2016-02-03 21:25:31
ひろきさん、改めましてこんばんは。

>現在、武打映画界の最前線にいる、ドニー・イェンのデビュー作品にもかかわらず、ビデオ(VHS)化はされたのに、何故か、未だに、日本版のDVDがリリースされないのか不思議ですよね。
 この作品も国内での扱いが不遇なタイトルの1つですね。私は海外版のDVDを所有していますが、音ズレが起きるので国内正規版が出た際には、是非とも買い換えたいと思っています。
あと甄子丹関連では、劉家輝と激突する『猟豹行動』、ホラーアクションの『666魔鬼復活』も国内リリースを望みたいところです。

>ありえない展開や描写が多々見られ、ツッコミ所が満載の作品でしたが、でも、アクションは、斬新で、中々カッコ良かったと思います。
 この『蘇乞兒』こと『酔拳 レジェンド・オブ・カンフー』ですが、実を言うと恥ずかしながら未見だったりします(爆
ビジュアルに関してはかなり奇抜で、今回もブレイクダンスを取り入れたりと革新的な試みに挑んでいるようですが…予告編を見る限りではちょっと微妙な感じですね(汗
とりあえず、こちらは近いうちに目を通しておこうかと思います。。
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