功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

メジャー大作を振り返る:香港編(終)『スウォーズマン 剣士列伝』

2016-04-30 23:17:36 | カンフー映画:佳作
「スウォーズマン 剣士列伝」
「スウォーズマン」
原題:笑傲江湖
英題:Swordsman
製作:1990年

▼今月は有名な香港映画をいくつか紹介してきましたが、ラストとなる今回は武侠片ブームの先駆けとなった本作を視聴してみましょう。この作品は金庸の著書である「笑傲江湖」を原作とした作品です。
過去にも何度か映像化されていますが、本作は『大酔侠』の名匠・胡金銓(キン・フー)が監督に就任。新進気鋭の実力派だった徐克(ツイ・ハーク)と手を組み、香港で大ヒットを叩き出しました。
 ただし胡金銓は撮影早々に降板してしまい、実際は徐克を始めとした4人の監督(HKMDBによると許鞍華(アン・ホイ)まで参加している模様)によって仕上げられたとのこと。他にも脚本家が6人もいるなど、現場がどれだけ混乱していたかが伺えます。
しかし本作のスタッフは、数々の困難を乗り越えて革新的な映画を生み出したのです。果たして香港のスピルバーグと呼ばれた男は、いかなる作品を撮ったのでしょうか?

■時は明の万暦年間。宮中の書庫より“葵花寶典”なる秘伝書が盗まれた。そこには極めれば国をも征するという奥義が書かれており、東廠の長官・劉洵(ラウ・ジュン)は不審な動きを見せた金山が犯人だと察する。
そのころ金山の屋敷には、崋山派の師匠の遣いである許冠傑(サミュエル・ホイ)と、師匠の娘である葉童(イップ・トン)が訪れていた。劉洵は彼らに刺客の元華(ユン・ワー)をけしかけ、金山とその一族を皆殺しにしてしまう。
 金山の遺言を受け取った許冠傑たちは、敵に追われながらも崋山派の本拠へと急ぐ。2人は“笑傲江湖”の詩を作った林正英(ラム・チェンイン)と午馬(ウー・マ)、奇妙な老人・韓英傑(ハン・インチェ)と出会いつつ、逃避行を続けていった。
そんな中、劉洵の配下である張學友(ジャッキー・チュン)は、彼らに先んじて崋山派の師匠・劉兆銘(ラウ・シューミン)と接触。自身を金山の遺児だと偽り、“葵花寶典”のありかを掴もうと企む。
やがて物語は苗族の張敏(チョン・マン)や袁潔瑩(フェニー・ユン)を巻き込み、最終局面になだれ込んでいく。様々な勢力が入り乱れる中、最後に秘伝書を手にしていたのは…!?

▲本作は長編小説が原作ということもあり、大幅なアレンジを加えているようです(当方は原作未読)。そのためストーリーはダイジェストとまではいきませんが、やや雑多な印象を受けました。
しかし話が進むにつれて、単なるゲスト出演と思われたシーンが意外な影響を及ぼしたり、登場人物の優劣が頻繁に入れ替わったりするなど、見逃せない展開になっていきます(頭を下げた仕返しをする劉洵が大人気なくて笑えます・笑)。
ただ、やはり最後の連戦は蛇足気味に見えてしまい、あまり綺麗なラストとはいえないものになっていました。個人的には中々楽しめたし、林正英がらみの場面はとても感動的ではあるんですが、ここだけはちょっとなぁ…。
 一方、アクション面については功夫スターが少ないというハンデを乗り越え、実に荒唐無稽なバトルを作り上げていました。手数の複雑さを度外視し、ビジュアルの派手さだけを優先した作りは、後の香港映画にも大きな影響を与えています。
ところが、これにより替え身を多用したスタントマンショーが横行するようになり、アクションシーンの有り様が大きく変わってしまうのです(兆候は『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』辺りからありましたが)。
 本作でも役者本人による殺陣は少なく、特殊効果がメインなので物足りないと言わざるを得ません。例外は林正英や元華くらいですが、生の迫力という点では大いに不満が残ります。
古装片という新たなムーブメントを呼び込み、良くも悪くも数々の変革をもたらした本作。例えるならば、時代にひとつの節目を付けた作品…と言うべきでしょうか。
 さてさて、一ヶ月に渡ってお送りしてきた“メジャー大作を振り返る”ですが、香港編はこれにて終了。来月からは舞台をハリウッドと日本に移し、新たな特集を開始する予定です。
題して、“メジャー大作を振り返る:日米編”! いまだ当ブログで触れていない傑作・話題作の数々をクローズアップしていきますので、まずは次回の更新をお待ちください!

メジャー大作を振り返る:香港編(3)『燃えよデブゴン』

2016-04-21 21:01:34 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「燃えよデブゴン」
原題:肥龍過江
英題:Enter the Fat Dragon
製作:1978年

●片田舎に住む洪金寶(サモ・ハン・キンポー)は李小龍(ブルース・リー)の大ファン。今日も豚を相手に自慢のカンフーを見せ付けていたが、香港にいる叔父の馮峰(フォン・フン)から「うちの店を手伝ってくれ」と頼まれる。
彼は渋々と大都会に向かうが、おっちょこちょいな性格が災いして失敗ばかり。そんな中、マフィアが馮峰の息子である陸柱石に目を付けてしまった。画家志望である彼の腕前を利用し、美術品の贋作製造をさせようというのである。
 マフィアのボスである喬宏(ロイ・チャオ)は、教授の楊群(ピーター・K・ヤン)と共に贋作を売りさばくつもりだったが、陸柱石はこれを拒否。その報復として嫌がらせが続き、洪金寶の務めていた店が潰されてしまう。
彼は家出した陸柱石と一緒に職を転々とするが、そこに知人である李海淑が誘拐されたとの一報が舞い込む。これは彼女をモノにしようと企む楊群と、それに協力する喬宏の仕業だった。
果たして洪金寶たちは、連中の悪事を止めることができるのだろうか!?

 今や香港映画界の重鎮となった洪金寶ですが、彼の代名詞といえば何と言っても“デブゴン”でしょう。本作はその語源となった作品で、彼にとっては初めてメガホンを取った現代アクションでもあります。
プロットや原題は『ドラゴンへの道』に倣っているのですが、洪金寶の演出はそれと感じさせないものとなっており、彼らしいスラップスティックな喜劇に仕上がっていました。
 作品のテイストに関しては『福星』シリーズに近く、本筋を無視したギャグの箇条書き(笑)が延々と繰り広げられます。しかし本作最大の見どころは、やはり主人公による李小龍のモノマネに尽きます。
そのなりきり度は凡百のバッタもんを遥かに凌駕しており、オープニングの演武では『ドラゴンへの道』の殺陣をカメラワークも含めて徹底的に再現。もちろん劇中でも李小龍アクションは炸裂していました。
 圧巻なのはラストの三連戦で、存在自体がギャグにしか見えない黒人役の李海生(リー・ハイサン)と白人ボクサー、そして功夫使いの梁家仁(リャン・カーヤン)と熾烈な戦いが展開されます。
ここでも立ち回りのベースは『ドラゴンへの道』ですが、最後のVS梁家仁ではコテコテの功夫バトルに切り替わり、棍や鉄輪を用いた巧みなアクションが堪能できました(ただ、最後まで李小龍のモノマネを楽しみたかった人には、ちょっと期待外れかも)。

 最初から最後まで李小龍に対するリスペクトに溢れ、それでいて自分の作風も貫き通した洪金寶。本作における彼の演技からは、偉大なるドラゴンに対する敬意の念、そして李小龍を演じるのが楽しくて仕方ないという楽しさが伝わってきます。
それだけにバッタもん映画の撮影現場で「俺の理想を壊してくれるな!」と吼える姿は強く印象に残りました(横行する粗悪なバッタもんに対する憤り、のちに彼自身も巻き込まれた映画界の闇を踏まえて見ると、何とも言えない生々しさを感じます)。
さて次回は、香港映画の潮流を変えた重要な作品が登場! 宮中から消えた秘伝書・葵花寶典を巡る剣士たちの戦いに迫ります!

メジャー大作を振り返る:香港編(2)『少林寺』

2016-04-08 23:32:28 | 李連杰(ジェット・リー)
「少林寺」
原題:少林寺
英題:Shaolin Temple
製作:1982年

▼香港が功夫映画の最先端を突っ走っていた80年代初期、その地位を脅かさんとする刺客が中国大陸から現れました。各省を代表する武術家たちを集結させ、“本物”の迫力で観客を魅了した超大作…そう、かの有名な『少林寺』です。
本作は世界的なスターとなった李連杰(リー・リンチェイ)のデビュー作であり、日本においても大ヒットを記録しています。後世の作品に与えた影響は大きく、功夫映画史を語る上でも外せないタイトルといえるでしょう。
ところが本作は、そうした大きな意義を持っている一方で、とてもアバンギャルドな一面を秘めているのです。実を言うと、私が本作を視聴したのは割と最近の事であり、予想とは違う内容に「マジで!?」と驚いた覚えがあります(苦笑

■隋の時代、戦乱に揺れる中国では干承恵(ユエ・チェンウェイ)将軍が台頭し、力による支配で民を苦しめていた。彼に父親を殺された李連杰は、重傷で倒れていたところを少林寺の門弟たちに救われる。
師匠の干海(ユエ・ハイ)、兄弟子の胡堅強(フー・チェンチァン)や孫建魁と親睦を深めた彼は、仇討ちのために少林寺で武術を学ぼうと決意。しかしその道のりは険しく、血気にはやる李連杰は「何年も修行していられない!」と寺を飛び出してしまう。
 彼はその足で敵陣に向かい、捕まっていた干海の娘・丁嵐(ティン・ナン)とともに戦うが、干承恵の巧みな剣術の前に敗走。彼女の説得で少林寺に戻った李連杰は、改めて修行に打ち込んでいった。
その後、李連杰が干承恵と敵対する勢力の将軍を救った事で、図らずも少林寺に戦火が及んでしまう。果たして少林寺の運命は、そして仇討ちの行方は…!?

▲過去の少林寺映画では、たびたび「復讐心を捨てよ」「仏法を守るべし」という教えが提唱されてきました。これは少林寺という題材を描く上で絶対に無視できない要素であり、功夫片にも通ずるワードを見出すことが出来ます。
しかし驚いたことに、少林寺映画のパイオニアであるはずの本作では「肉を食う?人を殺めた?御仏の慈悲があるから大丈夫でしょ!」というノリで一貫され、説教臭い要素が削ぎ落されているのです(笑
 このアバウトさは主人公のキャラクター像にも反映されています。本作における李連杰(めっちゃ若い!)は堪え性がなく、復讐心を捨てずに最後までリベンジまっしぐら。埋葬した犬を食べるシーンには私も仰天してしまいました。
師匠や兄弟子たちも戒律をあまり重要視しておらず、館長にいたっては全てを御仏の慈悲に丸投げという有様。ここまでムチャクチャだと清々しさすら感じます(爆

 ストーリーも行き当たりばったり感が強く、これだけならヒットしたのが不思議に思えてしまうところです。しかし、抜群のロケーション効果と本物の武術家の投入により、本作は比類なき存在感を得ました。
特に武術家たちの出演は、アクションシーンの向上だけに留まらず、作品そのものに確固たる説得力を持たせています。モノホンを起用した映画は世界中に数あれど、ここまで素材の味を生かせた作品は二つとありません。
劇中のファイトに関しても、映画向けにデフォルメされていた香港系のものとは違い、表演や演武をそのまま持ってきたような流麗さがあります。そのため、ややメリハリに欠けている部分があるものの、見事なバトルが展開されていました。
 荒々しい李連杰の棍術、胡堅強と計春華(チー・チュアンホワ)の死闘、華麗な酔棍で舞う孫建魁などなど…。無論、本作もそれなりに誇張された部分はあるのでしょうが、随所に“本物”を感じさせる気迫が存在しています。
映画としては未整理な部分が目に付くも、今や大陸産功夫片から失われた“本物”の魅力が凝縮された逸品。本作の成功が『少林寺2』や『阿羅漢』、ひいては『黄河大侠』へ繋がっていくと思うと、なんとも感慨深いものを感じてしまいますね。
さて次回は、都会にやって来たドラゴンが大暴れ! 唸るヌンチャクと怪鳥音、そして波打つ贅肉に迫ります!

メジャー大作を振り返る:香港編(1)『酔拳2』

2016-04-03 23:40:09 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「酔拳2」
原題:醉拳II
英題:Drunken Master II/Legend of the Drunken Master
製作:1994年

●ここのところ更新履歴や記事のUPが疎かになっていますが、今月は景気付けに突発的な企画をスタートしてみたいと思います。題して、“メジャー大作を振り返る:香港編”です!
当ブログでは、マイナー気味な作品を紹介する一方で、有名なタイトルは意図的にスルーしてきました。名作や傑作の類は他のサイトでレビューされ尽くしているし、わざわざ紹介する必要もないのでは…というのが主な理由でした。
 とはいえ、いつまでも王道に背を向けるわけにはいきません! という事で、あまり大したことは言及できないかもしれませんが、今月は思い切って香港映画のビッグネームに着目したいと思います。
ちなみに特集の題に“香港編”とありますが、こちらの詳細については…来月をお楽しみに(謎

 さて本作は、成龍(ジャッキー・チェン)の主演作でも有数の人気を誇り、功夫映画界の巨匠・劉家良(ラウ・カーリョン)と奇跡的なコラボレーションを果たした事でも知られています(製作背景については有名なので割愛)。
説明不要の大スターであるジャッキーと、『少林寺三十六房』『阿羅漢』を撮った劉家良。これほどの大御所が手を組んだのですから、アクションシーンについては本当に素晴らしいものを残していました。
 立ち回りのタッチは劉家良のカラーが強く、技巧を駆使した丁々発止のバトルが堪能できます。もちろんジャッキーも負けてはおらず、酔拳が登場すると一気に彼らしさが全開! これら両者の見せる特色の違いも、本作の魅力の1つとなっているのです。
特筆すべき個所は随所にあり、全編が名勝負のバーゲンセールといっても過言ではありません。初っ端から始まるジャッキーVS劉家良では、わざわざ狭い場所(中腰状態!)で刀と槍を操り、熟練者同士による戦いが見られます。
その後もジャッキーによる激闘が行われる一方で、悪酔いしたジャッキーVS重々しい拳で諌める狄龍(ティ・ロン)や、ショウ・ブラザーズ時代には実現しなかった劉家良VS狄龍など、いくつものドリームマッチがさらりと実現していきます。

 注目は中盤の山場となる茶店の死闘で、恐らく劉家良はこのパートを最後に監督を降板したものと思われます。しかし降板するとはいえ、最後に演出するアクションはベストな物にしたかったはずです。
そのせいか、このシークエンスにおける戦いはテンションが高く、このままラストバトルにしても良いほどの熱気に満ちています。斧頭党の登場や立地条件など、まるでショウブラ作品かと見まごう設定の数々には、劉家良の拘りを感じました。
 ここから先は完全にジャッキー主導となり、派手なワイヤーワークの投入などが行われますが、やはり目玉となるのは最後のジャッキーVS盧惠光(ロー・ワイコン)です。
変幻自在の異様な足技で迫る盧惠光に対し、滅茶苦茶なパワーアップによって黄飛鴻のような何かへと変貌していくジャッキー(爆)の暴れっぷりには、実に鬼気迫るものがありました。
 これは完全に推測ですが、ここまでジャッキーは劉家良によってセーブをかけられ、自分なりのやり方を容易に通せなかったと考えられます。
しかし、劉家良の離脱によって抑制が解かれたため、ジャッキーは溜め込んでいた物を最後にぶつけたのでしょう。だからこそ本作のラストバトルは、同時期の主演作とは一線を画した仕上がりになった…のかもしれませんね。

 と、このように功夫アクションは当時の最高レベルに達していますが、ストーリーについては残念ながら大きな問題点を抱えていました。
物語は、ドラ息子のジャッキーが秘宝密売事件に巻き込まれ、国家を憂う名武術家の劉家良が戦死。彼の死を乗り越え、仲間たちと共に巨悪へ立ち向かう姿を描いています。
 問題となってくるのはカタルシスの薄さで、中盤に彼は父親の狄龍から大目玉を食らい、叱咤の末に勘当されてしまいます。ここは自業自得なので良いのですが、これ以降ずっとジャッキーが痛い目を見るシーンが続きます。
その後、彼は敵にボコボコにされた挙句に晒し者にされ、死闘の末に劉家良を殺され、意を決して敵陣に侵入したらアッサリと捕まり、リンチにあって実家の土地まで奪われてしまうのです。
 最後は憎き盧惠光一味を倒すも、黒幕の英国領事とその取り巻きについての言及は一切無し。例のエンディングの中で補足説明がされているようですが、ここまで負けっぱなしだとフラストレーションが先立ってしまいました。
コメディエンヌとして主役以上に目立っている梅艶芳(アニタ・ムイ)、気のいい仲間の黄日華(フェリックス・ウォン)など、見所が無いわけではないのですが…う~ん。
 監督交代の影響なのかは解りませんが、良質なアクションに対して話の粗さが目立ってしまう本作。ストーリーさえスッキリしていたら文句なしの傑作になれたのに、つくづくその点が惜しくてなりません。
さて次回は、世界を代表する“もう1人のドラゴン”の初主演作をピックアップする予定です。キーワードは「天に竹林寺、地に少林寺」!