功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

メジャー大作を振り返る:香港編(3)『燃えよデブゴン』

2016-04-21 21:01:34 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「燃えよデブゴン」
原題:肥龍過江
英題:Enter the Fat Dragon
製作:1978年

●片田舎に住む洪金寶(サモ・ハン・キンポー)は李小龍(ブルース・リー)の大ファン。今日も豚を相手に自慢のカンフーを見せ付けていたが、香港にいる叔父の馮峰(フォン・フン)から「うちの店を手伝ってくれ」と頼まれる。
彼は渋々と大都会に向かうが、おっちょこちょいな性格が災いして失敗ばかり。そんな中、マフィアが馮峰の息子である陸柱石に目を付けてしまった。画家志望である彼の腕前を利用し、美術品の贋作製造をさせようというのである。
 マフィアのボスである喬宏(ロイ・チャオ)は、教授の楊群(ピーター・K・ヤン)と共に贋作を売りさばくつもりだったが、陸柱石はこれを拒否。その報復として嫌がらせが続き、洪金寶の務めていた店が潰されてしまう。
彼は家出した陸柱石と一緒に職を転々とするが、そこに知人である李海淑が誘拐されたとの一報が舞い込む。これは彼女をモノにしようと企む楊群と、それに協力する喬宏の仕業だった。
果たして洪金寶たちは、連中の悪事を止めることができるのだろうか!?

 今や香港映画界の重鎮となった洪金寶ですが、彼の代名詞といえば何と言っても“デブゴン”でしょう。本作はその語源となった作品で、彼にとっては初めてメガホンを取った現代アクションでもあります。
プロットや原題は『ドラゴンへの道』に倣っているのですが、洪金寶の演出はそれと感じさせないものとなっており、彼らしいスラップスティックな喜劇に仕上がっていました。
 作品のテイストに関しては『福星』シリーズに近く、本筋を無視したギャグの箇条書き(笑)が延々と繰り広げられます。しかし本作最大の見どころは、やはり主人公による李小龍のモノマネに尽きます。
そのなりきり度は凡百のバッタもんを遥かに凌駕しており、オープニングの演武では『ドラゴンへの道』の殺陣をカメラワークも含めて徹底的に再現。もちろん劇中でも李小龍アクションは炸裂していました。
 圧巻なのはラストの三連戦で、存在自体がギャグにしか見えない黒人役の李海生(リー・ハイサン)と白人ボクサー、そして功夫使いの梁家仁(リャン・カーヤン)と熾烈な戦いが展開されます。
ここでも立ち回りのベースは『ドラゴンへの道』ですが、最後のVS梁家仁ではコテコテの功夫バトルに切り替わり、棍や鉄輪を用いた巧みなアクションが堪能できました(ただ、最後まで李小龍のモノマネを楽しみたかった人には、ちょっと期待外れかも)。

 最初から最後まで李小龍に対するリスペクトに溢れ、それでいて自分の作風も貫き通した洪金寶。本作における彼の演技からは、偉大なるドラゴンに対する敬意の念、そして李小龍を演じるのが楽しくて仕方ないという楽しさが伝わってきます。
それだけにバッタもん映画の撮影現場で「俺の理想を壊してくれるな!」と吼える姿は強く印象に残りました(横行する粗悪なバッタもんに対する憤り、のちに彼自身も巻き込まれた映画界の闇を踏まえて見ると、何とも言えない生々しさを感じます)。
さて次回は、香港映画の潮流を変えた重要な作品が登場! 宮中から消えた秘伝書・葵花寶典を巡る剣士たちの戦いに迫ります!

よろしくユン・ピョウ(1)『イースタン・コンドル』

2015-04-04 22:48:45 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「イースタン・コンドル」
原題:東方禿鷹
英題:Eastern Condors
製作:1987年

▼というわけで始まりました「よろしくユン・ピョウ」ですが、まずは元彪(ユン・ピョウ)が主演の一角を担い、彼の兄貴分である洪金寶(サモ・ハン・キンポー)が監督した本作から紹介してみましょう。
この作品は『ランボー』から始まったコマンド・アクションものの流れを汲んでおり、洪金寶にとっては長期間の海外ロケを行った入魂の一本でもありました(そのため元彪たちが『プロジェクトA2』に出演できなかったエピソードは有名)。
 出演者も豪華で、元彪はやたらと強いベトナムの行商人を好演。元奎(ユン・ケイ)や樓南光(ビリー・ロウ)林正英(ラム・チェンイン)に高麗虹(ジョイス・コウ)と、裏方からスターまで様々なキャストが集められています。
ところが巨費を投じて製作されたにもかかわらず、本作は思ったほどのヒットに恵まれなかったため、ゴールデン・ハーベストから洪金寶が離脱する一因にもなったとのこと。しかし本作は決して悪い作品では無いのです。

■ベトナム戦争終結後、アメリカ軍は撤退のどさくさで残された武器庫を破壊するため、2つの部隊をベトナムに派遣した。1つは作戦を遂行する本隊、もう1つは陽動のために囚人で結成された部隊だ。
ところが本隊が撃墜されたため、囚人部隊を率いる林正英は任務の代行を決意。囚人の洪金寶や樓南光たちに加え、高麗虹らカンボジアのゲリラとともに武器庫を目指した。
 その途中、林正英たちは探していた上司の弟(ハイン・S・ニョール)を救出するが、一緒に着いてきた元彪も同行する事となる。しかし道のりは非常に険しく、度重なる戦いによって仲間たちは次々と死んでいった。
裏切りや死闘の果てに、ようやく武器庫へと辿り着いた囚人部隊一行。しかし思いもよらぬアクシデントが発生し、さらには追ってきたベトコン部隊までもが雪崩れ込んできた。銃弾と硝煙の中、最後に生き残るのは…?

▲息つく間もないストーリー展開、殺伐とした戦場の空気と残酷な現実、そして炸裂するアクションシーンの数々…。本作はこれらが有機的に組み合わさり、上質のコマンド・アクションに仕上がっていました。
繰り広げられる銃撃戦はもとより、肉弾戦においても“殺らなきゃ殺られる”という緊張感に包まれており、特にジャングルで高飛(コー・フェイ)の部隊を迎え撃つシーンはその白眉と言えます。
 しかしこのシリアスな作風こそが、大ヒットに繋がらなかった最大の要因だったのではないでしょうか。昔からサモハンの監督作にはコミカルな要素が付き物で、シリアス系の作品でもその姿勢は貫かれています。
80年代に現代劇が主流になると、サモハンはコメディセンスに磨きをかけて『ピックポケット』や福星シリーズを製作。名実ともに「サモハン監督作=コメディ」の図式が成立し、香港の観客からも支持を集めました。
 ところが本作はギャグ描写が皆無に等しく、血生臭い戦いがこれでもかと続くのです。前年に『上海エクスプレス』で好成績を上げていただけに、観客が戸惑ったことは想像に難しくありません。
監督のやりたかった事と、観客が求めた物の大きなズレ…これこそが本作の大ヒットを阻んだ原因だと思われます(この翌年、サモハンはコメディ路線に立ち返り、『サイクロンZ』で本作の雪辱を晴らします)。

 …なんだか作品分析ばかりで元彪に触れていませんが(爆)、本作の彼は明るくて抜け目のない商人をのびのびと演じており、作品の照明として大いに活躍していました。
ことアクションにおいては、得意のアクロバティックな足技を惜し気もなく披露し、サモハンと共にファイトシーンを盛り上げています。ラストではベトコンの倉田保昭と戦って圧勝しますが、この顔合わせならもっと接戦にして欲しかったなぁ…。
 負けじとサモハンも周比利(ビリー・チョウ)の動きを読み切り、高麗虹は狄威(ディック・ウェイ)と壮絶な死闘を展開。最後のサモハンVS色んな意味でキレてるベトコンの首領・元華(ユン・ワー)に至るまで、ハイレベルなバトルが目白押しでした。
アクション・ドラマともに抜かりなく、まさに隠れた傑作と呼ぶにふさわしい作品。ただし元彪ひとりが目立つ作品ではなかったので、次回は彼の単独主演作でいってみたいと思います。

『デブゴンの霊幻刑事』

2015-02-27 23:40:27 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「デブゴンの霊幻刑事(キョンシー・デカ)」
「サモハン・キンポーのオバケだよ!全員集合!!」
原題:霹靂大喇叭
英題:Where's Officer Tuba?
製作:1986年

●香港警察の音楽隊に所属する洪金寶(サモ・ハン・キンポー)は、友人で警官になりたての張學友(ジャッキー・チュン)と2人暮らし。商店の経営者である王祖賢(ジョイ・ウォン)に惚れたりと、ささやかながら平和な日々を送っていた。
そんなある日、彼は敏腕刑事の姜大衛(ジョン・チャン)に頼まれ、会社社長を恐喝する組織との接触を試みることとなる。しかし計画は失敗に終わり、姜大衛は張翼(チャン・イー)と黄正利(ホアン・チェン・リー)に殺されてしまう。
 今わの際に姜大衛から事件解決を託されたサモハンだが、小心者の彼は「そんなの無理に決まってる」と音楽隊へ帰属した。死んでも死にきれない姜大衛は幽霊となって現れ、何度もサモハンにちょっかいを出し続けていく(笑
結局、王祖賢との関係をメチャクチャにされたサモハンは根負けし、張學友と一緒に組織のアジトへ飛び込んでいった。はてさて彼らは悪を倒し、ついでに王祖賢と寄りを戻すことができるのだろうか!?

 サモハンといえば功夫片の印象が強いですが、香港におけるホラー映画の立役者としても知られています。そのキャリアは1980年に大ヒットした監督&主演作『鬼打鬼』から始まり、『霊幻道士』でキョンシーという人気キャラを誕生させました。
しかし彼はキョンシー人気に慢心せず、多種多様なホラー映画を撮り続けたのです。本作もそのうちの1つで、お得意のコメディ・アクションにオカルト要素をドッキング! おなじみの役者たちも方々で顔を出しています。
 作品としては『福星』シリーズと同じパターンで、最初と最後に派手なアクションやスタントを見せ、その間をギャグの数珠繋ぎで持たせていました。まだサモハンに勢いがあったころの作品なので、笑えるシーンも盛りだくさんです。
ただ、王祖賢の家に招待された洪金寶が災難に遭うくだりは、正直言って面白くありません。いくら捜査のためとはいえ、無関係の家族まで巻き込む姜大衛に不快感を覚えてしまうし、最後に復縁するシーンも唐突すぎます(家族も納得してないし…)。

 一方でアクションシーンはサモハン映画らしく、無茶なスタントと格闘戦が用意されていました。先述の通り、主な見せ場は最初と最後に集中していますが、スタントに関しては今回も迫力満点です。
格闘戦についてはサモハンの強さが解りづらく、幽霊がパワーを貸しているのかどうかもボカされているので、釈然としない点が目に付きます。しかし防戦一方ではあるものの、ラストではあの黄正利と念願の初対決を果たしているのだから堪りません!
 この勝負は各所で酷評されており、私も「できれば全力で洪金寶に暴れて欲しかった」という思いがありました。ですが、少なくとも戦いとしてはそれなりに形になっていたし、決してダメな凡戦ではなかったと言えるでしょう。
また、本作が映画初出演だったにも関わらず、演技面やアクションで健闘していた張學友も印象深かったですね。ラストバトルで彼は大ベテランの張翼と戦い、一歩も引かない大立ち回りを繰り広げました(姜大衛VS黄正利というレア対決にも注目!)。
 のちにゴールデンハーベストから離れ、大きな転換期を迎えることになるサモハンですが、その後もホラー映画をいくつか手掛けています。現代劇の『ギャンブリング・ゴースト』、古典ホラーの『鬼喰う鬼』などなど…。
ところが現在は活躍の機会が増えたものの、昔のようなホラー映画は撮っていないようです。はたして彼に大きな成功をもたらしたホラー映画とは、どのような存在だったのでしょうか?

追憶:香港映画レーベル(終)『燃えよデブゴン10 友情拳』

2013-11-26 22:45:53 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「燃えよデブゴン10 友情拳」
原題:贊先生與找錢華
英題:Warriors Two
製作:1978年

▼2000年代の旧作リリースラッシュは非常に意義のあることでした。しかし、ややマニア向けに傾きすぎていた感があり、一般の香港映画ファンには敷居の高いものになってしまった気がします。
その後も、ラインコミュニケーションズから「G1 功夫電影ゴールデンセレクション」が発売されましたが、こちらもマニア向けの域を脱していません(発売された作品自体は面白いんですが…)。
 しかし、2010年代にツインとパラマウントジャパンが打ち出した「Happy the BEST!」は、マニアと一般の香港映画ファンの両方を驚愕せしめるラインナップを展開しました。
このレーベルは香港映画専門ではないのですが、それまでどのメーカーも出し渋っていた初期ジャッキー作品の日本語吹替え版(オリジナル主題歌入り)を、低価格でリリースするという英断に踏み切ったのです。
「Happy the BEST!」はそれだけに留まらず、ショウブラの再販や李小龍(ブルース・リー)の日本語吹替え版を続々と発売!今後がとても楽しみなレーベルの1つと言えるでしょう。

■両替商を隠れ蓑にしている馮克安(フォン・ハックオン)一味は、佛山の町を我が物にしようと企み、町長の暗殺を計画していた。偶然それを知ってしまった[上下]薩伐(カサノヴァ・ウォン)は、一味に命を狙われる事となる。
彼は詠春拳道場の門弟である洪金寶(サモ・ハン)に助けられたが、母親を一味の用心棒たちに殺されてしまう。仇討ちを誓った[上下]薩伐は、洪金寶の取り成しで梁家仁(レオン・カーヤン)に弟子入りし、詠春拳の修行を開始した。
 一方、まんまと計画を遂行した馮克安は、町長の座に収まると邪魔者の排除に乗り出した。梁家仁は罠にはまって殺され、道場も襲撃を受けて壊滅。生き残ったのは[上下]薩伐と洪金寶、梁家仁の姪である張敏庭だけとなった。
3人は手強い用心棒トリオを倒し、その上で馮克安を討とうと計画する。だが、洪金寶のミスや新たな刺客の出現によって張敏庭が討ち死にした。果たして2人の友情拳は、邪悪な馮克安を倒せるのだろうか!?

▲本作はデブゴン系列の中でも傑作と称される作品ですが、なかなかソフト化の機会には恵まれませんでした。しかし「Happy the BEST!」から発売されたことで、ようやく手軽に入手できるようになったのです。
ストーリーは主人公以外が全員死んでしまう陰惨なもので、最終的に馮克安の悪事を公に暴いていない点も気になりますが、『ドラ息子カンフー』『燃えよデブゴン7』のようにフラストレーションの溜まる作風にはなっていません。
 アクション面に関しては詠春拳に関する描写が濃厚で、基本的な動作から点穴の特訓、棒術の修練に至るまでを丹念に描いています。後半では主人公たちが修行の成果を生かし、足技の楊成五・鐵布杉の李海生・槍の楊威、そして蟷螂拳の馮克安と死闘を演じます。
これらの演出からは劉家良(ラウ・カーリョン)作品の影響を感じますが、ちゃんと洪金寶らしいハードな肉弾戦も充実していて、[上下]薩伐が見せる詠春拳と足技のアンサンブルは実に見事。ラストの[上下]薩伐&洪金寶VS馮克安も、素晴らしい出来栄えとなっていました。
 思えば、香港映画レーベルとは日本における香港映画事情の縮図だったのかもしれません。人気の高まりとともにレーベルが頻出し、市場の元気が無くなれば過去を振り返ることで存続する――この流れの中で、様々なレーベルが現れては消えていきました。
現在、現役で稼動している香港映画レーベルは「Happy the BEST!」のみとなっており、近作を扱ったシリーズの登場が待たれます。次にどのようなレーベルが発表され、ファンを楽しませてくれるのか…ほのかな期待を抱きつつ、これにて今回の特集を終えたいと思います。

『金城武の死角都市・香港』

2013-06-12 23:42:30 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「金城武の死角都市・香港」
「死角都市・香港」
原題:無面俾/摩登笑探
英題:Don't Give a Damn/Burger Cop
製作:1995年

▼90年代初頭に撮影された『痩虎肥龍』で、洪金寶(サモ・ハン・キンポー)は昔ながらのコミカルなスタイルを貫き通し、ユニークな作品を作り上げました。本作はそれから5年後に製作されたものですが、さすがにここまで来ると80年代スタイルも通用しません。
そこで洪金寶は80年代的な演出を極力控え、ニューフェイスの金城武を準主役にすることで作品の近代化を講じたのです。それに加えて、元彪(ユン・ピョウ)を始めとした昔馴染みの俳優たちも結集している…んですが、残念ながらこれらの目論見は頓挫してしまいます。

■洪金寶は刑事課に所属するドジな刑事。今日も密輸局の捜査官・元彪と捜査でかち合ったりしていたが、そんな彼の部署に2人の新顔が赴任してきた。1人はエリート刑事の金城、もう1人は新人の周海媚(キャシー・チャウ)だ。
スカした感じの金城は、さっそく刑事課の面々を率いて麻薬の取引現場を急襲。日本人の組織が売りさばこうとしていた大量の麻薬を押収する。一方、洪金寶は元彪と親睦を深めたり、周海媚と良い仲になったりするのだが、水面下で組織による麻薬奪還計画が進行していた。
 組織は配下の外人グループを使い、警察署を爆破して(!)麻薬を奪い去った。ところが、その過程で外人グループのリーダーの弟が拘束され、さらには組織が彼らを切り捨てようとしたため、両者の関係は決裂してしまう。
外人グループは周海媚を誘拐して弟の引渡しを迫った。洪金寶・元彪・金城は彼女を助けるために敵陣へ向かい、組織も外人グループが持つ麻薬を狙って動き出していく。果たして、この三つ巴の戦いを制するのは誰なのか…!?

▲本作で監督を務めた洪金寶は、コメディの代わりに恋愛描写を濃くし、安易にギャグに頼らない姿勢を打ち出しました。しかし、年を食った洪金寶と周海媚のラブストーリーは不自然極まりなく、元彪の恋愛模様も中途半端な形で終わっています。
登場人物も個性に乏しく、洪金寶・元彪・金城のトリオが全員揃うシーンも数えるほどしかありません。ではアクションの方はどうなのかというと、こちらも中途半端。作品に合わせて派手な演出を避けたつもりでしょうが、完全に裏目に出ていました。
 特に致命的なのがラストバトルで、立地条件(暗い倉庫の中)が災いしてアクションが見辛くなっています。Vシネマではよくある事ですが、まさか洪金寶作品でこんなミスに巡りあうとは…。
また、元彪が雑魚っぽい外人に苦戦したり、金城が役立たずだったりと、キャストの扱いの悪さ目立っていました。洪金寶は倪星(コリン・チョウ)やロバート・サミュエルズと戦いますが、両者とも洪金寶に直接倒されないため、こちらも中途半端な印象を残しています。
 時代に合わせようと無理をして、映画そのものが微妙な出来になってしまった失敗作の典型。90年代における洪金寶は低迷期の只中にあり、本作の次に撮った『ワンチャイ/天地風雲』が(監督作の中では)最後のヒット作となりました。
現在の彼は役者として、或いは武術指導者として活躍していますが、監督としては2009年の『響箭』(何故か異様に情報が少ない謎の作品)を最後にメガホンを置いています。個人的には、また昔のようにコミカルな作品を監督して欲しいと思っているのですが…う~ん。

『痩せ虎とデブゴン(痩虎肥龍)』

2013-05-21 21:37:03 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「痩せ虎とデブゴン」
原題:痩虎肥龍
英題:Skinny Tiger and Fatty Dragon
製作:1990年

●本日紹介するのは、デブゴンの名を冠した(現時点で)最後の作品です。主演は洪金寶(サモ・ハン・キンポー)と麥嘉(カール・マッカ)、監督はラスボスも兼ねている劉家榮(ラウ・カーウィン)で、奇しくもデブゴン映画の初期を支えた3人が再結集しています。
しかし彼らを取り巻く状況は、『豚だカップル拳』を撮った70年代末期から大きく変化していました。サモハンは古巣のゴールデンハーベストを抜け、麥嘉が設立に関わった新藝城企業有限公司(シネマシティ)も90年代を境にペースダウン。それぞれが苦闘の時代を送っていたのです。

 そんな彼らが集まり、かつて自分たちが得意としたジャンルの再演に臨んだのが、この『痩せ虎とデブゴン』です。
サモハンは『燃えよデブゴン』の時と同じ李小龍マニアを、麥嘉は『悪漢探偵』を思わせるお調子者の女好きをそれぞれ好演。そのため90年代の作品とは思えないほど古臭い印象を受けますが、時流に関係のなくなった今だからこそ楽しめる作品と言えるでしょう。
 ストーリーはいちいち細かく書くほどではありません(笑)。おバカな刑事コンビのサモハン&麥嘉が、シンガポール観光や呉家麗(ン・ガーライ)のおっぱいを楽しみつつ、劉家榮率いる麻薬密売組織と戦う様子を描いています。
全体的にかなりゆる~い感じの作品で、呉家麗の扱いなどに疑問を感じるものの、アクションは思ったより激しいものを見せていました。サモハンの李小龍チックな動きは相変わらず完成度が高く、終盤のVSマーク・ホートンでは『ドラゴンへの道』のラストバトルをちょこっと再現しており、こちらも必見です。

 ただ、サモハンの李小龍っぷりは『燃えよデブゴン』より低めで、常に李小龍を意識していた第1作とは趣を異にしています。その代わりオーソドックスな肉弾戦が増えており、最後のVS劉家榮では集団戦・ナイフ2刀流・李小龍が混ぜこぜとなった闇鍋バトルが展開されていました。
たとえ時を経て、自分たちのスタイルが時代遅れになろうとも、己を貫き通した3人の男たち。映画としてはまずまずの出来ですが、本作にはサモハンたちの揺ぎない信念が込められていた…というのは少し考えすぎでしょうか(苦笑

『燃えよ、マッハ拳!』

2012-07-25 23:26:19 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「燃えよ、マッハ拳!」
原題:蔡李彿/蔡李彿: 極限拳速
英題:Choy Lee Fut
製作:2011年

●ここ最近、日本に続々と上陸している洪金寶(サモ・ハン・キンポー)の出演作。この作品もそのうちの1つで、多くの功夫映画で取り上げられてきた実戦派の拳法・蔡李彿拳を主題に添えたものとなっています。
主演はサモハンJrの洪天照(サミー・ハン)とケイン・コスギで、かの劉家榮(リュー・チャーヨン)を父に持つ劉永健も出演。彼ら2世俳優軍団に加え、サモハンや元華(ユン・ワー)といったベテラン陣が脇を固めており、キャストを見る限りではかなりの期待が持てます。

 しかし、ストーリーは「功夫道場とそれを買収せんとする大企業との対立」というありがちな内容で、特に真新しいものではありません。これは古きよき功夫映画の再現…とも考えられますが、尺の大半を洪天照の安いラブストーリー(しかも相手の女は彼氏あり)が占めており、まったく燃えない出来になっているのです。
アクション描写も同様で、蔡李彿拳を題材にしているわりに修行シーンはとてもアッサリ。ケインが元華やゲスト出演の劉家榮と手合わせをするシーンも短く、せっかくの大物香港映画スターとのバトルも不発に終わっています(劉永健と劉家榮の親子対決は興味深いのですが…)。

 後半からは『ベスト・オブ・ザ・ベスト』風の格闘大会が始まりますが、ここでのファイトもスローモーションを多用するなどの雑な演出が見られました。唯一、ケインVSイアン・パワーズの闘いだけは激しかったものの、最後の洪天照VS黄嘉樂で再びラブストーリーに突入してしまいます(涙
次世代の若者たちが成長し、自分が進むべき道を見つけていく…。本作が伝えたかったことは、恐らく『拳師』と同じ「若者の旅立ち」だったはずです(だからこそ主演俳優も2世俳優を選んだのでしょう)。しかし、あくまで心身の成長を細かく描いていた『拳師』と違い、本作はそれらの描写をラブストーリーだけに押し付けてしまったのです。

 ドラマの配分ミス、あんまりな邦題、回想シーンにおけるチャチなCGなど、他にも問題が山積している本作。製作段階ではオダギリジョーの出演が予定されていたと聞きますが、この様子では出演が実現していても結果は変わらなかったと思われます。…しかし、オダギリ氏にどんな役柄が設定されていたのかは非常に気になりますね。
なお、本作を監督したのは武術指導も兼任している黄明昇(作中でも劉永健の対戦相手として出演)という人。彼はジャッキー率いる成家班の出身者で、『ポリス・ストーリー3』ではジャッキーが中国の武装警察隊を訪れた際、タイマン勝負の相手を務めた人物だったりします。

『拳師 ~The Next Dragon~』

2012-07-06 21:33:35 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「拳師 ~The Next Dragon~」
原題:武術/武術之少年行
英題:Wushu/WuShu The Young Generation
製作:2008年

●母を亡くし、祖母のもとに預けられていた2人の兄弟がいた。彼らは父・洪金寶(サモ・ハン・キンポー)に伴われて武術学校へと入学。3人の仲間と苦楽を共にしながら、武術の腕を磨いていった。
それから10年後、2人の兄弟は王文杰と汪亞朝に成長。兄の王文杰は友人の劉峰超・王菲と一緒に演舞を、弟の汪亞朝は同じく友人の劉泳辰と共に散打の道を選んだ。テコンドー娘の毛俊傑を仲間に加えた5人は、来るべき省代表を決める選抜大会に備え、鍛練を続けていた。
 時にライバルとの戦いに挑み、時に将来の進路に悩む6人の少年少女たち。だが、その平穏な時間は武術学校OBである鐵南によって乱されることとなる。鐵南は武術の道を捨て、子供の人身売買を行っている外道であった。彼は同じく学校OBの張晉(『テラコッタ・ソルジャー』にも出演)を利用し、武術学校の生徒を誘拐しようと企んだのだ。
一緒に誘拐された張晉は腕を折られ、劉峰超も鐵南の拳に敗北を喫した。異変を察知した王文杰と汪亞朝は、サモハンと共に人身売買組織の本拠地へと向かう。果たして彼らは無事に帰ってこれるのか、そして選抜大会の結果は…?

 本作はジャッキーがプロデュースし、サモハンが助演を務めたことで知られる青春スポ根映画です。サモハンと武術学校…とくれば『七小福』を思い出すところですが、本作では厳しい修行などの描写はほとんど無く、あくまで青春群像劇として描かれています。
コテコテの功夫アクションを期待していた人はガッカリしたかもしれませんが、主役となる6人は実際に武術の達人であり、演舞やスパーリングだけでもなかなか見応えのある動きをしていました。ドラマに関しても抜かりはなく、ちゃんと6人全員にきちんとスポットが当てられています。
 師匠として父として貫禄を見せるサモハンの姿など、その他の見どころも多い本作。しかし、後半の人身売買組織との対決は青春ドラマとのギャップが激しく、サモハンが目立ちまくる点も含めて往年のサモハン映画に近い雰囲気を醸しだしていました(笑
ここでのバトルは迫力満点で、サモハンVS鐵南&麥偉章(『ドラゴン危機一発97』でドニーと戦った人!)の一戦も見事でしたが、そのせいで後に控える選抜大会が蛇足に見えてしまうという逆転現象が発生しています。全体的に完成度の高い作品だっただけに、この一点だけは惜しい気がしました。
それにしても、本作の監督がまさか『キックボクサー』でヴァンダムを鍛えていた陳國新(デニス・チャン)なのにはビックリしました(監督はアンソニー・シトと共同)。彼は王菲がカメラテストを受けるシーンにカメオ出演しているので、こちらも要チェック…かもしれませんね。

『ツインズ・ミッション』

2012-03-24 23:04:26 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「ツインズ・ミッション」
原題:雙子神偸
英題:Twins Mission/Let's Steal Together
製作:2007年

▼さて本作は、蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)&鍾欣桐(ジリアン・チョン)らTwinsの2人が主演した現代アクション活劇です。共演にはサモハン元華(ユン・ワー)呉京(ウー・ジン)などのカンフー系俳優が顔を連ねています(元華と呉京にいたっては一人二役!)。
しかし日本でお披露目された際は、奇しくも例の騒動の後という微妙なタイミングでのリリースとなりました。私としては、そんなモヤモヤを吹き飛ばしてくれる痛快アクションを期待していたのですが…。

■サモハンと呉京は、チベットから仏陀の天珠(これを使うと重病人も治るらしい)という大事なアイテムを輸送していたが、謎の組織による襲撃でこれを紛失してしまう。組織は天珠が香港に運ばれたと知り、血眼になって捜索を開始。その過程で何の罪もない男が惨殺された。
サモハンらも香港へ向かい、天珠を追って調査を始めるが、組織の妨害によってサモハンが負傷する。そこで、かつて双子門という一団(この団体がいまいちどういう集団なのか解らない…窃盗団?)を率いていた元華が手を貸すこととなった。彼はかつての弟子たち(蔡卓妍・鍾欣桐ら)を再び召集し、新たな戦いへと臨んでいく。
 敵の正体は元華の弟(元華の二役)が再始動させた双子門であり、天珠を欲する資産家・石修が裏で糸を引いていた。石修は天珠を手に入れ、これをエサに病魔に侵された妹を持つ張茜から土地を買収しようと企んでいたのだ。だが、たまたま彼女と知り合った呉京の説得により、眼が覚めた張茜は石修の誘いを断るのだった。
一方、元華の弟はまんまと天珠を入手し、雇い主の石修を殺害。張茜の妹を人質に取り、張茜に土地を売れと脅迫してきた(土地買収で元華の弟にどんなメリットがあるかは不明)。蔡卓妍と鍾欣桐たち双子門一行は、暴走する元華の弟を倒すことができるのか!?

▲次から次へとアクションが連続する、良くも悪くも80年代の香港映画テイストに溢れた作品です。監督の江道海は武術指導やスタントがメインの方で、本作では武術指導も兼任。過剰なまでにガラスを割り、双子だらけのキャストがワイヤーで飛びかう派手なファイトを演出しています。
ただ、「良くも悪くも」と言ったように、本作は80年代作品の悪い部分(勢いだけで物語を描こうとする事で生じる雑さや唐突な描写)も発現しています。ネズミを使ったエグい拷問、登場した途端に死ぬ呉京の兄、そして何が狙いなのか明示されぬまま始まる潜入作戦などなど…ちぐはぐな描写がいたる所で見られるのです。
 この雑さは終盤でも猛威を振るい、ラストでは尻切れトンボなエンディング(バッドエンド?)で幕を閉じます。肝心のTwinsも主役というには微妙な立ち位置だし(どちらかというとメインは呉京)、一体どうしてこんな事に…?
先述の通り、アクション面は呉京やサモハンがいるので良好ですが、ストーリー面で疑問符が浮かぶ作品。割り切ってアクションだけを見るだけなら、それなりに楽しめるかと思います。

『ギャンブリング・ゴースト』

2011-10-10 23:11:35 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「ギャンブリング・ゴースト」
原題:洪福齊天/鬼賭鬼
英題;Gambling Ghost
製作:1991年

●サモハンはギャンブルに目がないダメ人間で、いつも仕事仲間の孟海(マン・ホイ)といっしょに賭場へ入り浸っていた。彼の父親であるサモハン(以下、父サモと表記)は、息子が非業の死を遂げたギャンブル狂の祖父・サモハン(以下、爺サモと表記)の二の舞にならないように、いつも神経を尖らせていた…のだが、当の本人はまったく聞く耳を持たなかった。
そんなある日、サモハンは女詐欺師の利智(ニナ・リー)と遭遇する。利智は自動車ドロを生業としており、犯行の一部始終を見ていたサモハンと孟海は、彼女を出し抜いて大金をせしめようと企んだ。しかし、彼らは黒社会のいざこざに巻き込まれ、孟海が香港マフィアに捕まってしまった。
 「孟海を助けたかったら1千万ドル用意しろ!」と脅迫され、失意のどん底に突き落とされたサモハン。偶然見つけた爺サモの墓に当たり散らしたが、そんな彼の元に爺サモが化けて現れた。彼は「お前の力になってやるから、ワシを殺した相手に仇討ちしてくれ」と告げ、これを了承したサモハンは身代金を工面するべく、様々なギャンブルに挑戦していく。
その後、人質交換の際に爺サモが加勢したお蔭で、彼らの手元には1千万ドルがそのまま残った。さっそくサモハンたちは豪遊を始めるが、仇討ちの件も忘れてはならない。爺サモを陥れ、黒社会の顔役となった葉榮祖に彼らは接近を試みるが、ここで問題が発生する。敵の用心棒である僧侶・田俊(ジェームス・ティエン)によって爺サモのパワーが封じられてしまったのだ。
結局、サモハンたちは圧倒的に不利な状態で対決の時を迎えてしまう。たまたま一緒になった利智も巻き込み、最後の戦いは激しさを増していくのだが…?

 ギャンブル映画ブームに目を付けたサモハンが、自分の好きなオカルト要素をブチ込みつつ、一人三役という暑苦しいサービス(笑)まで提供したコメディ映画です。当時のサモハンは古巣のゴールデンハーベストから離脱し、小規模な作品を撮りながら食い繋いでいました。
本作はそんな過渡期の作品で、いつもなら一緒にいてくれそうなキャスト(林正英とか呉耀漢とか)がゲスト扱いだったりするなど、往年の作品からのスケールダウンが随所で目立ちます(涙)。とはいえ、全体的な作風は80年代の福星シリーズから変わっておらず、良くも悪くもいつものサモハン映画として成り立っているのです。
 ギャグ描写に関しても概ね良好ですし、功夫アクションも高水準のボリュームで魅せてくれます。一番の見どころはラストの3連戦で、黒人のロバート・サミュエルズ、元キックボクサーの周比利(ビリー・チョウ)、そして老骨にムチ打って戦う田俊(!)と立て続けに闘います。ただ、これらタイマンバトルが実に見事だった反面、集団戦はあまり充実していなかった気がしました。
雰囲気としては、全盛期のサモハン映画の縮小コピーといった感じの本作。過度な期待は禁物ですが、小粒でも及第点以上の面白さはギリギリ保っているので、見て損はないはずです。