功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『妖魔伝』

2010-01-29 22:27:38 | 女ドラゴン映画
「妖魔伝」
原題:靈幻童子
英題:Kung fu Wonder child
製作:1986年(1989年説あり)

▼『上海エクスプレス』で香港映画デビューを果たした大島由加里は、同年にシネマシティ製作の動作片『悪漢列伝』に出演すべく台湾に渡り、続いてこの『妖魔伝』にも参加している。当時、林小樓(リン・シャオロウ)や羅鋭(アレクサンダー・ルー)作品を多く手がけていた台湾の巨匠・李作楠(リー・ツォーナム)が本作のメガホンを取っており、新進気鋭の大島嬢をバックアップするために入念な体勢を取っていたことが伺える。
 しかし、当時の李作楠は往年の勢いを失ってしまったのか、凡作ばかりを連発するようになっていた。功夫映画時代の李作楠作品といえば、巧みなストーリーと良質な功夫アクションが大きな魅力であった。…が、林小樓や羅鋭と関わって以降の李作楠作品は、その魅力が大きく削がれているのだ。
『ゴーストパワーを持つ少女』『新桃太郎3』『新キョンシーズ』…これらは李作楠が監督やプロデューサーとして関わった作品だが、どれも以前の傑作のような切れ味は息を潜めており、作品的にも「今ひとつ」な物が多くを占めている。本作においてもパッとしない作風が尾を引いており、娯楽作品としてはそれなりに見られる内容ではあるものの、李作楠作品としては不満の多い出来になっている。
功夫片からニンジャ映画へ作風を変え、羅鋭作品に携わるようになった李作楠に、果たして何が起こったのだろうか?

■林小樓は北派茅山術の学校で料理人を務めている龍世家(ジャック・ロン)の孫娘で、北派によって根絶やしにされた南派茅山術の使い手であった。
学校では落ちこぼれコンビと仲が良く、たびたびトラブルに巻き込まれる事もあったが、それなりに楽しい日々を送っていた。そんなある日、幽霊が出ると噂の裏山に出向いた3人は、怪しげな術を駆使する悪の道士・李海興と遭遇する。李海興は延命術のために人々の魂を奪っており、更には異形の怪物・常山を従えていた。
3人は龍世家と大島由加里(彼女の父と妹が李海興に捕らえられている)に助けられて逃げ出すが、実は李海興の正体は茅山学校の学長であった。時を同じくして、学長は学校の中に南派茅山術の使い手がいることを知り、疑いの眼差しを龍世家と林小樓に向けた。一方その頃、林小樓は大島から「李海興に捕まっている父と妹の魂を助けたい」との話を聞き、再び裏山へと赴く。常山の妨害こそあったものの、妹の幽霊を助け出した林小樓は龍世家や落ちこぼれコンビと協力し、彼女を大島の元に連れて行こうと尽力する事に。
だが、学長らの妨害を受けたため計画は頓挫。妹の幽霊は敵の手に落ち、明後日には延命術が完成してしまうという。そうなれば父と妹の幽霊を助ける事は不可能だ…林小樓・龍世家・大島・そして落ちこぼれコンビは一致団結し、邪悪な学長と常山に決戦を挑むのだった。ところが…。

▲本作で目を引かれるのは、やはり大島嬢の美しさだろう。父と妹の魂を奪われ、形勢不利でも戦い抜こうとする儚さは本作に花を添えており、台湾進出第2弾としては上々の活躍っぷりであったと言えよう。
ただし物語はヒネリが無く、李作楠作品とは思えないほどシンプルな作りになっている。本筋とは関係の無いキョンシー親子を出したり、各所で繰り広げられるドタバタに面白みが欠けていたりと、余計な演出もところどころで目に付く。また、全体的に子供向けのタッチで描かれてはいるものの、台湾映画らしく流血アリ人死にアリという無法地帯だったのも頂けない。
最後の最後に落ちこぼれコンビが凄まじい行動に打って出るのだが、あまりにもやりすぎなオチのせいで誰しも唖然とすることは間違いないはずだ(ネタバレ防止のため多くは語れませんが、少なくとも子供向け映画のオチではありません・爆)。
 功夫アクションは李海興と羅鋭(本作では「羅長安」名義)が担当しているため、激しさと勢いだけは一級品。殺陣に工夫は見られないが、ワイヤーワークとSFXを入り混ぜたアクションで頑張っており、ある程度の質は保証されている。ラストバトルでは李海興が龍世家や大島嬢を相手取って大暴れを演じるが、ここでファン驚愕のとんでもないシーンがある。というのも、この戦いの最中に李海興が竜に変身してしまう場面があるのだ。
しかもこの竜というのがハリボテで作った模型などではなく、なんとアニメーション製でビックリ!今まで様々な作品で色んな功夫アクションを見てきたが、敵自らがアニメの竜になっちゃうなんて初めて見たなぁ…(笑
 大島嬢の美しさと、アニメの竜になった李海興に驚かされるが、全体的には凡庸な作品。莊胤建か張建佶が監督したっていうのならこの出来も納得だが、これで李作楠の監督作とは…『鷹爪蟷螂』や『勾魂針奪命拳』に熱狂した身としては、あんまり信じたくないところです。

『Force: Five』

2010-01-26 23:20:43 | マーシャルアーツ映画:中(1)
Force: Five
製作:1981年

▼本作は長らく「幻の作品」と呼ばれていたが、先頃めでたくDVDが発売され、一般にも流通するようになったのは記憶に新しい。ただ、私はこういった幻の作品が容易に入手できる状況に喜ぶ一方で、なんとなく寂しさのようなものを感じている。
何度かコメントやレビュー中でも触れたが、私はここ10年の間に功夫映画ファンとなった後発の者で、功夫映画との付き合いに関しては「ゆとり世代」と言えなくも無い。功夫映画ブームを体験していないし、テレビで放映されたB級功夫映画も見たことが無いし、ショウブラや本作に関してはここ数年の間にやっと知った身である。
故に、直撃世代の方々とは経た年数が違うため、ショウブラの復刻やハーベストの旧作が発売された際も、特にこれといって驚くことは無かった。むしろ「こんな作品もあったのか」という素っ気無い感想しか抱かなかったのだが、これらに対して直撃世代のファンは歓喜に満ち溢れていた事だろう。だから…だからこそ、私は寂しいのだ。
もっと前の時代に生まれて、もっと早くショウブラや『Force: Five』などの存在を知って、もっと多くの輸入版ビデオを購入して、もっと「幻の作品」に思いを馳せ、もっと経験を積んだ上で旧作の復刻や希少作品のDVD化を体験したかったのだ!生まれる時代間違えちゃったかなぁ…(涙

■というわけで本作の紹介である(切り替え早っ!)。簡単な概要を説明すると、本作は『燃えよドラゴン』のスタッフが夢よもう一度と企画した作品で、『ジャガーNo.1』のジョー・ルイスや『七福星』のリチャード・ノートン、そして『スパルタンX』のベニー・ユキーデといった豪華スターが揃い踏みしたオールスター格闘映画である。
 怪しげなカルト教団に、とある富豪の令嬢が入信した。彼女を連れ戻すように命を受けたのは空手使いのジョー・ルイスだったが、そのカルト教団というのが巨大な島を根城にしており、とても1人で突破するのは不可能に近い(誰の協力も得なかった李小龍とはエラい違いだ・笑)。そこでルイスは一計を案じ、腕っ節の強い奴を集めて「フォースファイブ」を結成しようと考えた。
まず最初にルイスが接触したのはベニー・ユキーデ。後の出演作では見せなかった好青年を演じ、軽快なアクションを披露している。次に連絡を取ったのは『バトル・クリーク・ブロー』のソニー・バーンズで、こちらはパワー担当の黒人さんだ。3番目にルイスが雇ったのはハスラーのリチャード・ノートンで、最後は恋人のパム・パディントンを召集した。ところで本作の打撃音は、どうやら『燃えよドラゴン』からサンプリングしているらしい(打撃音といっしょに李小龍の怪鳥音が聞こえます)。
 やっとこさ集結したフォースファイブだったが、依頼主の富豪はカルト宗教が放った用心棒ボブ・スコットによって殺されてしまう。と、そんな事はさておき(おい!)敵の島に行くためにはペリコプターと操縦者が必要らしいので、フォースファイブは刑務所にいるパイロットの救出に向かった。普通にパイロット雇えよ!という私の願いも虚しく、囚人を解き放ってやりたい放題のフォースファイブご一行。これじゃあどっちが犯罪者か解らないぞ(笑
とりあえずパイロットを助け出し、満を持して敵の本拠に乗り込んだフォースファイブは、身分を偽って潜入する作戦を実行。教祖のボン・ソー・ハンの元には、依頼主を殺したボブの他にも多くの兵士たちが顔を揃えている。一方、何も知らない富豪令嬢は教団内でヒゲの信者(実はニューヨークの記者)と親しくなっていた。果たして我らがフォースファイブは、教団の秘密を暴いて巨悪を倒せるのだろうか?

▲はっきり言ってしまうと、ツッコミどころの多い作品である。
ストーリーは『燃えよドラゴン』の焼き増しで、似たテイストの『サンダー・ウォリアーズ』よりも没個性的であると言える。特に物語については『燃えよドラゴン』そのまんまで、本作独自の枝葉が無かったのも残念だ。本家『燃えよドラゴン』も物語はショボかったが、あの作品は李小龍の魅力があったからこそ傑作になり得た。その点を誤解し、新しいものへ挑戦しようとしなかった本作のスタッフは、『カラテNINJA/ジムカタ』で再び失敗を繰り返している。
 しかし、それでも本作がいささかも輝きを失っていないのは、「3大格闘映画スターが揃い踏みしたオールスター作品であった事」と「この時期の作品としては質の高い格闘アクションだった事(スタント・コーディネーターは『燃えよドラゴン』にも参加したパット・ジョンソン)」の2点が大きかったと言って間違いは無いだろう。個人的には今回が初接触となるジョー・ルイスに期待していたが、本作での動きは中途半端な李小龍スタイルだったため、思ったような収穫はありませんでした(『ジャガーNo.1』は様子見かな?)。
だが、香港映画へ出演する前のノートンとユキーデの動きは格段にレベルが高く、ラストの決戦では両者とも打点の高い蹴りやトンボ切りをビシバシと繰り出し、ルイス以上の大活躍を見せていた。どうせなら最後のルイスVSボン・ソー・ハンにも参加して欲しかったが、そのラストバトルも際立った出来ではなく、この作品の〆とするには少々華に欠けていたと思われる。
 たいしたことはない作品ではあるものの、初期のユキーデやノートンの格闘アクションが見られる点が大きく、マーシャルアーツ映画を見た者なら一度は見るべき逸品か。これでストーリーがもっと面白かったらなぁ…。ところで、本作のラストでノートンは赤い上着にジーンズという姿で闘っているが、『七福星』のラストでも似たような衣装で登場している。もしかして、サモハンは本作を見てノートンを起用したのでは…?(ないない)

『辣手小子』

2010-01-22 23:35:00 | カンフー映画:珍作
辣手小子
英題:Bone Crushing Kid/Monkey in the Master's Eyes
製作:1979年

▼コメディカンフー映画が全盛期を迎えていた1979年当時、大小のプロダクションが競って「第2のジャッキー」を探していたことはご存知の通り。特に京劇系の動きをこなせる役者が重宝され、七小福一派どころか他の京劇学校のOBまで担ぎ出される事態に至った(この点において、前々から疑問なのが元奎(ユン・ケイ)の動向だ。様々な七小福出身の役者が主演に祭り上げられていく中に於いて、元奎だけは武術指導家に専念し続けている。決して面構えは悪くない元奎だが、何故ひとつも主演作が撮られていないのだろうか?)。
さて、本作で主演に抜擢されたのは金龍という男である。大したキャリアも無く、スター性も無い彼が主役として選ばれたのは、やはり京劇系のアクションが可能であったところが大きかったと思われる。一般的に、『龍の忍者』の中盤で李元覇(コナン・リー)にシバかれる神打の男でしか知られていない金龍だが、そんな彼の唯一といってもいい主演作がこの映画なのだ。

■ここは苗天が取り仕切っている京劇学校。金龍はそこで下働きをしている身なのだが、おっちょこちょいなのでトラブルを起こしてばかり。今日も苗天と客人である陳浩の前で大失態を演じ、大目玉を食らっていた…っていうか、この時点で既に十分身軽なのは何故だ?(笑
先輩の荊國忠や苗天の妻から叱咤を受ける金龍だが、そんな彼を気にかけてくれるのは苗天の娘である潘迎紫と、同じ小間使いのヒゲ男だけであった。陳浩が潘迎紫をモノにしようと企む一方で、その陳浩の友人で拳法の使い手・田俊(ジェームス・ティエン)は、各地で辻斬り行為を働いていた。襲っている相手は全て田俊と同門の男たちであり、田俊はある同門の男を探しているようだ。
 そんな頃、金龍とヒゲ男が買出しに出かけた際に陳浩とトラブったが、人知れずヒゲ男が手下を叩きのめした。そう、ヒゲ男こそ田俊が探していた男だったのだ。続いて田俊の部下である拳法使いも撃破したヒゲ男だったが、深手を追って倒れてしまう。苗天の妻は「半死人など叩き出せ!」と言い放つが、金龍が1人立ちのために貯めておいた金を差し出したことで事なきを得た。
金龍の行動に感動したヒゲ男は、功夫を習いたい彼のために師匠となる事を承諾。お決まりのヘンテコ修行を経て、金龍は一人前の猿拳使いへと成長した。実力を付けた金龍だったが、ヒゲ男からは私闘を禁じられていた。そのことに納得できない金龍は田俊の部下をヒゲ男の加勢を得て倒すものの、手傷を負ってしまう。そこでヒゲ男は金龍に「かつて田俊によって自分の道場と足を潰された」と過去を語り、軽々しく功夫を使う事の重大さを解いた。
 そのころ、田俊は部下が殺された現場に居合わせた女の証言から、部下を殺した者が京劇学校の関係者だと嗅ぎつけ、王圻生と共に苗天のところへ現れていた。襲われる苗天たちを助けようと金龍が立ち向かったが、そのときヒゲ男から教わった型を使ってしまい、ついに尻尾を掴まれてしまう。
襲撃を受けたヒゲ男は呆気なく殺され、復讐を誓う金龍。まずは潘迎紫といっしょに賭場へ潜り込むと王圻生を倒し、田俊へと挑戦状を送った。金龍VS田俊の息詰まる熱戦が続くが、果たして勝敗は…?

▲全体的には悪くないが、出演者全員が凄まじく地味であるが故に凡作と化した作品である(爆)。まず主演の金龍だが、使用する拳法もこれといって特徴のあるものではないし、個性も欠けている。師匠のヒゲ男も技が凄いだけという印象で、あまり威厳の感じられないキャラであったのも不満の1つ。この他にも、荊國忠や苗天など地味どころばかりが揃っており、スター不在の状況が爽快感の欠如を生んでしまっている。
悪役に扮する田俊もイマイチ迫力が薄いが、そんな中でただ1人印象に残ったのはヒロインの潘迎紫だろうか。本作では序盤と終盤にしか目立った出番は無かったが、ショウブラの花形女優だけあって美しさはピカイチ。これでもっと出番が多ければなぁ…。
 話が進むに連れて、京劇学校や陳浩と関係の無い方向へと行ってしまったのは惜しいが、ストーリーはそれなりに作ってある。
また、功夫アクションは前半こそ地味めで「駄目かなぁ…」と思わせるが、終盤の金龍VS王圻生と金龍VS田俊のバトルで最高潮を向かえ、白熱した戦いを繰り広げている。王圻生戦ではコメディ演出を交えつつも、途中から王圻生が棍棒(三節棍にも可変する優れものだが、もしかして棍から三節棍になる武器って本作が初出か?)を持ち出してきてヒートアップ!田俊戦では手技同士の息詰まる死闘が展開され、地味な印象も吹っ飛ぶ名勝負に仕上がっているのだ。
この王圻生と田俊という両者は、恐らくジャッキー映画での活躍に目を付けられて本作に呼ばれたのだろう。どちらかというと動きが良かったのは王圻生の方だったが、注目すべきは田俊であろう。功夫の腕前を問題視される事もある田俊だが、本作では邪悪な拳法家として大いに奮闘していて、金龍とのラストバトルは台湾時代の田俊にとってベストバウトと言っても過言ではないはずだ。
 本当にどうしようもないくらい地味な作品だが、地味なりに頑張っている様子が伺える拾い物…ということか。ところで本作の監督は陳鴻烈(チェン・ホンリェ)と陳浩の兄弟が勤めており、作品にも出演しているとのことだが、陳鴻烈はどこにいたっけ?

『愛殺2000』

2010-01-18 23:31:57 | カンフー映画:珍作
愛殺2000
英題:Bloody Secret
製作:2000年

●別に意図した訳ではないのだが、今月に入ってから日本が関わっている作品ばかりレビューしている…ような気がするなぁ(笑)。前回と前々回のレビューは邦画作品だし、『レジェンド・オブ・ザ・チュンリー』も製作に日本のスタッフが関わっていたが、今回取り上げるこの映画も日本の某アクションスターが参加している。
 物語はいきなり新宿歌舞伎町から幕を開け、呂良偉と黄秋生(アンソニー・ウォン)がヤクザに追われている場面から始まる。この呂良偉という青年、2年前に中国大陸から日本へ出稼ぎ(留学?)に来た功夫の達人で、ひょんな事から学者の黄秋生と知り合ったのである。で、その黄秋生は南京大虐殺の秘密を記したディスクを所持していたため、右翼のヤクザ(組長が虐殺の関係者だった)の標的にされてしまった…という訳だ。
逃げる途中に黄秋生が殺されるも、なんとか呂良偉は中国へと帰国。一方、ディスクを入手しようとするヤクザたちは中国にまで刺客を送り込んでいた。追っ手をかわしつつ逃げ続ける呂良偉だが、とあるクラブで電話を借りようとした際に、かつて本土で別れた恋人と思わぬ再会を果たした。
しかし、日本で殺人事件に関わったことで公安局にも追われる身となっていた呂良偉は、すぐに恋人の元から去らねばならぬ事に。果たして、一枚のディスクを巡っての抗争と、呂良偉と恋人の運命はどうなってしまうのだろうか?

 本作の監督は武術指導家の徐忠信(アラン・ツィ)だが、それよりも注目すべきは先述の某アクションスターである。なんとこの作品、日本からVシネ俳優の松田優が出演しているのだ。
松田はヤクザの幹部として呂良偉を狙い、舞台が中国に変わってからも黄子揚(彼は中国人役)と共に暗躍し、重厚な存在感を発揮している。彼にとっては『覇拳』以来の香港映画出演であり、自身のサイトでも気合十分で挑んだ様子を紹介しているのだが、何故か松田はラストバトルに突入すると同時に姿を消してしまっている。
松田がいなくなった事に関して何の説明も無いが、恐らく松田の予定に不都合が生じたのだと思われるが、最後まで彼の勇姿を見る事が出来なかったのは少々残念である。
 さて、作品そのものの評価についてだが、実際はそれほど際立ったものでは無い。武術指導家として素晴らしい仕事をこなしている徐忠信だが、パクリ映画『香港麻薬捜査官』を撮った前科もあるため、監督としての才能には疑問符を付けざるを得ないのが現在の彼の評価だ。本作では南京大虐殺という題材を扱っているため、日本人が徹底的に悪人として描かれているのは当然として、ラストバトルから一気に昔の国策映画みたいな展開になってしまうのはどうにかして欲しかったものである(涙
しかも、徐忠信は武術指導に関わっていないため、功夫アクションの内容はボチボチ止まり。おまけにラストバトルは拳での決着ではなく、呂良偉が黄子揚を「お前には中国人としての誇りは無いのか!日帝の手先になって良いと思っているのか!」と説得して終わる(!)という残念な結末になっているので、こちらについても満足した結果は得られませんでした。
 日本ロケに徐忠信に松田優…ここまで良い素材が揃っているのに、大人の事情で評価に困る作品に成り果てた珍作中の珍作。松田が出ているとはいえ、この内容なので日本でのソフト化はまず無理だと思いますが、わざわざ輸入してまで見るような作品でもありませんので、ご注意を。

『殴者 NAGURIMONO』

2010-01-16 23:49:36 | 日本映画とVシネマ
「殴者 NAGURIMONO」
製作:2005年

●今回も変わり種の和製マーシャルアーツ映画を紹介すしまが、これまた癖のある一品です。本作は、格闘イベント「PRIDE」を主催していたドリームステージエンターテインメント(以下、DSE)が製作した初の映画作品。作中には「PRIDE」の格闘家たちが多数登場し、スクリーンを彩ろうとしていますが、残念ながら悲しいほどに面白くないのです。

 舞台は明治初期の日本で、陣内孝則率いる任侠集団に属していた玉木宏が、思いを寄せる遊女・水川あさみと共に組織から抜け出そうとする姿を描いています。同じ頃、陣内は篠井英介らギャングと争っており、もめ事の解決にと「殴合(三本勝負の格闘試合)」が行われようとしていました。陣内の指図で動きつつ、密かに反旗を翻そうと暗躍する玉木。そして「殴合」に命を賭ける虎牙光揮などを軸に、本作は物語を進めていきます。
作中に登場する格闘家はバラエティに富んでおり、第1試合では桜庭和志とクイントン・ランペイジ・ジャクソン、第2試合では高山善廣とドン・フライ、第3試合では虎牙光揮とヴァンダレイ・シウバが拳を交えています。これらの顔合わせを見ると、DSEがどれだけ本作に気合いを入れていたかがよく解ります。が、その気合が実を結ぶことはありませんでした。

 まずストーリーですが、本筋の途中に回想シーンを挟み込むという作風になっていて、格闘シーンがいちいち中断されながら物語が進むという面倒臭い仕様となっています。また、玉木が陣内暗殺に挑むところまでは見ていられたのですが、その後のオチがあまりにも意味不明。水川があの行動に至った理由が語られないばかりか、説明不足のまま強引に幕を下ろしていました。
メインイベントである「殴合」も扱われ方が悪く、格闘アクションは映画的な見栄えやカットが一切考慮されていません。脚色は一切行われておらず、演出らしい演出といえば殺陣の合間にスローを挿入するだけ…この手抜き行為の数々が災いして、格闘家たちの頑張りが作品にほとんど反映されていないのです。
本作の監督は須永秀明という人で、PV出身の方だそうです。しかし、氏の代表作となっている『けものがれ、俺らの猿と』も評判は良くないらしく、なぜDSEが大事な商業映画第1弾を不確かな実力のPV監督に任せたのかが気になります。なお、DSEは翌年に『シムソンズ』というカーリング映画を撮り、以後は映画の製作を行っていないようです。

『愛しのOYAJI』

2010-01-12 23:43:23 | 日本映画とVシネマ
「愛しのOYAJI」
製作:2007年

▼さてさて、今回は久々に変り種の紹介です。本作は真樹日佐夫&影丸穣也の『ワル』コンビが手掛けた漫画の実写版で、主演は小沢の兄貴こと小沢仁志。元京都府警の警官だった小沢が、浅草を舞台にセレブ誘拐&麻薬密輸の悪事を働く組織に戦いを挑むというストーリーで、その構成は『ワル』に似通っています。
『ワル』は主人公がアウトローの武術家で、様々なトラブルに首を突っ込みつつ敵の格闘家と闘うという話でした。一方、本作の主人公はアウトローな柔道の使い手で、様々なトラブルに首を突っ込みつつ小悪党と闘うというもの。唯一違うのは、本作における主人公・小沢が人間味あふれるオヤジであるという点で、物語自体はコメディ要素を取り入れた人情モノでもあるのです。

■ストリップ小屋で照明係をやっている小沢は、浅草の治安を守るナイスガイだった。彼の行動で手柄を奪われている警察としては不快な存在と言えるが、捜査一課課長の大和武士(今回アクションは無し)の計らいによって、ある程度の自由を得ている。ちなみに小沢と大和は昔からの腐れ縁で、過去に小沢の妻・細川ふみえを巡ってトラブルが起きたとか起きなかったとか…。
ある日、小沢は資産家の息子(岡崎礼)が起こした誘拐事件を解決した際に、被害者であった橋本愛実を預かる事となった。新顔が増えて賑やかになるストリップ小屋だったが、今度はそこで働く踊り子の1人が謎の失踪を遂げてしまう。小沢の迅速な行動で事件は解決するが、どうやら裏で天狗プロダクションというAVレーベルと暴力団・雷組が悪事を働いているらしい。
大和と手を組んだ小沢は、以前逮捕した岡崎の父親である資産家がバックで動いていることを察知する。そして紆余曲折の末、小沢は堂々とした尾行(笑)で雷組を潰し、大和は資産家を懲らしめて関係者全員の逮捕に成功する。だが、時を同じくして小沢と離婚したはずの細川が浅草を訪れていた…。

▲原作が真樹日佐夫ということで、本作はところどころに格闘アクションが挿入されています。
主演を務める小沢兄貴のアクションはそれなりにグッド。序盤の見せ場は岡崎礼率いるチンピラ集団との戦いで、小沢VS岡崎のタイマン勝負で幸先の良いスタートを見せます。中盤以降はAVプロや雷組との戦闘で投げ技やヤクザキックを繰り出していますが、ラストバトルはコメディ描写に走っているため、ガチガチの格闘シーンを期待している人には厳しいかもしれません。
その他の見どころとしては、元侠客の寿司職人として真樹センセイ本人が出演していたりしますが、個人的に記憶に残ったのは役者たちの演技の方でした。というのも、本作の出演者に滑舌の悪い人が妙に多く、踊り子役の女優さんやストリップ小屋のおばちゃんに至っては、完全にセリフが棒読み状態なのです。…もしかして彼女たち、本職の人?

『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』

2010-01-09 23:45:16 | マーシャルアーツ映画:下
「ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー」
原題:STREET FIGHTER: THE LEGEND OF CHUN-LI
中文題:街頭霸王春麗傳/快打旋風春麗傳/街霸之春麗傳奇
製作:2009年

▼ジャン・クロード=ヴァン・ダム主演作『ストリート・ファイター』は失敗作ではあったが、駄作ではなかった。典型的なアクション映画の型枠に物語を押し込め、数々のキャラクター改変でブーイングを喰らいはしたものの、バカ映画として見るなら十分に楽しめる作品だった。
同年に日本でも劇場用アニメとして『ストリート・ファイターⅡ』が作られたが、「ストⅡ」映画としてはこれがベストの出来だろう。とりわけ凄かったのがアクションシーンで、今見ても作画の精密さには驚かされる(監修は故アンティ・フグ氏)。
なお、この劇場版『ストⅡ』でリュウを演じたのはVシネ俳優の清水宏次朗。同じく格闘俳優のケイン・コスギもOVA『ストリート・ファイターZERO』でリュウの声優を担当しているが、この2人は『ザ・格闘王2』で共演している。今思うと、『ザ・格闘王2』は2人のリュウが闘った貴重な作品と言えるのかもしれない。
 さて、そこへ来て本作である。この映画は「ストⅡ」で人気の女性キャラ・春麗(チュン・リー)のスピンオフ作品だ。しかし本作を前にして、私の中に1つの疑問が浮かんだ…この作品、ターゲットとする客層がよく解らないのだ。ゲームを知らない人は本作に興味を持たないだろうし、実際に見ても何が何やら解らない。逆に知っている人も、作中の改変っぷりには憤慨したはずである。実にあやふやな印象の作品だが、その内容もあやふやな物であったと言えよう(理由は後述)。

■クリスティン・クルック(春麗)は、かつて父親を秘密結社シャドルーに誘拐されるという、痛ましい過去を持っていた。
母の死をきっかけにシャドルーへの復讐を決意したクルックは、謎の巻物を解読した鄭佩佩(チェン・ペイペイ)から「タイに行ってホームレスになれば仇雲波(ロビン・ショウ…年恰好が違うが彼がゲン)に会える」と聞かされ、さっそくバンコクへ。紆余曲折を経て仇雲波と出会い、彼から修行を施される事になったクルックは、シャドルーの総帥ニール・マクドノー(ベガ)に復讐の炎を燃やしていく。
同じ頃、シャドルーを追っていたICPOのクリス・クライン(ナッシュ)は、現地警察の女刑事と協力して捜査に当たっていた。徐々にシャドルーへ近付くクルックとクリス…だが、マクドノーはマイケル・クラーク・ダンカン(バイソン)やタブー(バルログ)らファイターを従え、様々な策略を巡らせるのだが…。

▲ストーリーはカプコンの公式設定から色々と取り込んでいるが、なんとも食えない作品だ。
全体的に演出はぼやけており、クルックが強くなっていく工程やアクションシーンもインパクトに欠けている。また、キャラクターの改悪っぷりがヴァンダム版よりも酷い(ナッシュがただの使えない捜査官、ベガがただのオッサン、バルログがただの雑魚…)というのも問題だろう。
肝心の主役である春麗も、あの印象的なチャイナドレス姿にならないばかりか、演者がアジア系でないという時点でヴァンダム版にも負けている。やはりハリウッドとしては、アジア人が主役になるような映画は認めたく無いという事なのだろうか?個人的に春麗は章子怡(チャン・ツィイー)に演じてもらい、バイソンはマイケル・ジェイ・ホワイトでバルログはレイ・パーク、ベガはセガールあたりに演じてもらいたかったが…って、流石にこのキャストは無理があるか(笑
 ちなみに監督は『ロミオ・マスト・ダイ』のアンジェイ・バートコウィアクだが、李連杰(ジェット・リー)やセガールと組んでた時より質が落ち、格闘アクションも同様の結果に陥っている。もっとも、『ブラック・ダイヤモンド』の李連杰VSマーク・ダカスコス戦や、『電撃』のセガールVSマイケル・ジェイ・ホワイト戦を茶化した過去を持つアンジェイにとって、本作で仇雲波の扱いをおざなりにすることなど屁でもなかったに違いない。
バカ映画にもなりきれず、アクション映画としても個性を発揮できなかった不幸な作品。しかし本当に不幸なのは、今のところ一番忠実に原作を再現した映像作品が『シティ・ハンター』である「ストⅡ」自身に他ならないだろう(合掌)。

更新履歴(2009/12月)+明けまして!

2010-01-05 15:22:52 | Weblog
 謹賀新年、あけましておめでとうございます!…と言うには少々遅れてしまいましたが(爆
私は大晦日も正月も仕事に駆り出され、やっとこさ休みが取れたところなのですが、なんだか正月ムードに乗り遅れたようで、変な虚脱感を感じています。さて、2009年はコラムや特集に追われる日々を送っていましたが、年始の頃に言っていた「ショウブラ作品をもっと見る」という目的は達成できませんでした。ですが、2010年も更なる飛躍を遂げたいと思っております。
 なお、今年このブログで紹介した映画作品の総数は(Gメン特集のエピソードも数えると)、なんと110本となりました。しかし2008年は155本で、2007年は190本のレビューをこなしていた事を考えると、2010年はレビュー総数が100本を割ってしまうのではないかと危惧しています(苦笑
とはいえ、そんな事にならないように「功夫電影専科」はバリバリ更新を続けていくつもりですので、今年もどうか宜しくお願いします!


12/02 更新履歴(2009/11月)
12/05 【Gメン75in香港カラテ①】『南シナ海の殺し屋』&『マカオの殺し屋』
12/08 【Gメン75in香港カラテ②】『Gメン対香港の人喰い虎』前後編
12/11 【Gメン75in香港カラテ③】『Gメン対世界最強の香港カラテ』前後編
12/15 【Gメン75in香港カラテ④】『香港カラテ殺人旅行』
12/19 【Gメン75in香港カラテ⑤】『香港の女カラテ対Gメン』三部作
12/22 【Gメン75in香港カラテ⑥】『香港カラテ対北京原人』前後編
12/25 【Gメン75in香港カラテ(終)】『香港カラテVS赤い手裏剣の女』前後編
12/29 『フィスト・オブ・フューリー 復活!ドラゴン怒りの鉄拳』