「ドラゴン修行房」
原題:虎鶴雙形/少林虎鶴震天下
英題:Tiger & Crane Fists/Savage Killers
製作:1976年
●今日は12月26日。世間では華やかなクリスマスが終わり、大晦日と元旦が間近に迫りつつありますが、当ブログでは相変わらず王羽(ジミー・ウォング)作品一色のまま。季節感ゼロの記事を黙々と更新しています(爆
…なんだか色々と間違っている気がしますが、ここまで来たからには最後まで完走するしかない! というワケで、ついに本日をもってジミー先生特集は最終回となりました。そこで今回はラストに相応しく、彼の代表作のひとつをご紹介いたします。
時は70年代中盤、李小龍(ブルース・リー)の死去によって功夫片は下火となりました。しかし功夫片そのものは定期的に作られ、『少林虎鶴拳』や『少林寺/怒りの鉄拳』が当時の年間興収ベストテンに食い込んでいます。
中でも劉家良(ラウ・カーリョン)の躍進は著しく、かつてのパートナーだった大導演・張徹(チャン・ツェ)を尻目にヒット作を連発。確かな知識と技量に裏打ちされた名作の数々は、功夫片の在り方を大きく変えていきました。
特に注目されたのが練功(修行シーン)の描写で、従来の功夫片とは異なった明快な表現、そして有無を言わさぬ説得力に満ちています。劉家良は練功を突き詰め、のちに修行がメインとなる傑作『少林寺三十六房』を作り上げました。
かくして練功は功夫片にとって重要なファクターとなり、張徹も『少林寺列伝』等で対抗。その後、こうした真面目な修行シーンへのアンチテーゼとして『蛇拳』『酔拳』が誕生するのですが、この流行はジミー先生の耳にも当然入っていました。
とはいえ、張徹や劉家良にカンフーの知識で勝てるはずもありません。しかし彼は武術指導と共演に劉家榮(リュー・チャーヨン)、脚本に『少林虎鶴拳』も手掛けた倪匡(ニー・クァン)を迎え入れ、本格的(?)な功夫片を監督するのです。
さて本作は、仲違いした鶴拳と虎拳の拳士が反目しあいつつ、武術界の制覇を目論む強敵に立ち向かうという王道路線のストーリーとなっています。が、王道を王道で終わらせないのがジミー流。相変わらず今回もツッコミどころ満載の作風となっていました(笑
まず問題となるのがジミー先生のアクションで、今まで勢いだけで立ち回りをこなしていた彼も、本作の複雑な殺陣には相当苦戦したものと思われます(あと武術指導の劉家榮も)。
おかげで劇中のアクションシーンはシリアスなのに和める出来となっていますが、そこはジミー先生のライバル役である劉家榮や、いぶし銀の魅力を見せる陳慧樓(チェン・ウェイロー)が見事にフォローしています。
ただし王道路線のストーリーといっても、主役以外のキャストは引き立て役が基本。劉家榮は最後まで反目したまま死亡し、その恋人だった謝玲玲(ツェ・リンリン)も即効でジミー先生に乗り換えていました(苦笑
とはいえ、劉家榮は準主役としてしっかり目立っていたし、その他のキャストも個々で熱演を見せています。ラスボスとして立ちはだかる龍飛(ロン・フェイ)についても、その仰々しい存在感はかなりのものでした。
さて、ここで気になってくるのは練功系の功夫片に対し、ジミー先生がどのようなアプローチを試みたのかという点です。本作を監督するにあたり、彼が手本としたのは劉家良の『少林虎鶴拳』だったのではないでしょうか。
虎鶴雙形という名称、敵の弱点をピンポイントに突く展開などは、同作に関わった劉家榮や倪匡から着想を得たと考えられます。「だが自分は練功について劉家良ほど熟知していない」…そのことを痛感していたジミー先生は、ここで思い切った決断を下しました。
まず修行シーンでは凝った演出を無理に描かず、敵の弱点を突くだけのシンプルな案を採用。敵の弱点も固定された鋲にするなど、徹底的な簡略化を図ります。そして武術の技巧ではなく、いつものアイデア勝負でバトルを征してしまうのです。
一見すると扱いきれないテーマから目をそらし、自分の得意を押し付けただけに見えるかもしれません。ですが、中途半端に迎合して失敗するよりも、自身のホームグラウンドに引き込んで納得のいく仕事を貫くことにジミー先生は賭けたのでしょう。
これまで練功をメインにした功夫片は数多く作られています。が、練功という要素を自分の色で染め上げ、強引に上書きすることで自らのアプローチとした作品は、他に例がありません。まさに本作はジミー先生だからこそ作れた逸品と言えます。
天皇巨星・王羽。彼の出演した作品はいかがわしさに満ち、アイデアにあふれ、唯一無二の魅力を誇っています。そのスタイルはバラエティに富み、世界からカルト的な支持を得ていましたが、現在は病床に伏せっているとの事です。
もしジミー先生が退院したとしても、かつてのようにアクションが出来るのか、そもそも日常生活を無事に送れるのかは解りません。しかし、近年も『捜査官X』や『失魂』などで高い評価を得ており、彼のバイタリティーが未だに尽きていないことは明白です。
だからこそ私は信じています。いつの日か銀幕に再臨し、かつてと変わらぬ眼光で後輩たちに睨みをきかせるジミー先生――もとい、天皇巨星・王羽(ジミー・ウォング)の勇姿を!
…2017年を通して始まった10の特集、および王羽十選は今回で終わりますが、きっと彼の伝説は終わらないはずです。ジミー先生の一日も早い回復を祈りつつ、これにて今年最後となる作品紹介の締めにしたいと思います。(特集、終わり)
原題:虎鶴雙形/少林虎鶴震天下
英題:Tiger & Crane Fists/Savage Killers
製作:1976年
●今日は12月26日。世間では華やかなクリスマスが終わり、大晦日と元旦が間近に迫りつつありますが、当ブログでは相変わらず王羽(ジミー・ウォング)作品一色のまま。季節感ゼロの記事を黙々と更新しています(爆
…なんだか色々と間違っている気がしますが、ここまで来たからには最後まで完走するしかない! というワケで、ついに本日をもってジミー先生特集は最終回となりました。そこで今回はラストに相応しく、彼の代表作のひとつをご紹介いたします。
時は70年代中盤、李小龍(ブルース・リー)の死去によって功夫片は下火となりました。しかし功夫片そのものは定期的に作られ、『少林虎鶴拳』や『少林寺/怒りの鉄拳』が当時の年間興収ベストテンに食い込んでいます。
中でも劉家良(ラウ・カーリョン)の躍進は著しく、かつてのパートナーだった大導演・張徹(チャン・ツェ)を尻目にヒット作を連発。確かな知識と技量に裏打ちされた名作の数々は、功夫片の在り方を大きく変えていきました。
特に注目されたのが練功(修行シーン)の描写で、従来の功夫片とは異なった明快な表現、そして有無を言わさぬ説得力に満ちています。劉家良は練功を突き詰め、のちに修行がメインとなる傑作『少林寺三十六房』を作り上げました。
かくして練功は功夫片にとって重要なファクターとなり、張徹も『少林寺列伝』等で対抗。その後、こうした真面目な修行シーンへのアンチテーゼとして『蛇拳』『酔拳』が誕生するのですが、この流行はジミー先生の耳にも当然入っていました。
とはいえ、張徹や劉家良にカンフーの知識で勝てるはずもありません。しかし彼は武術指導と共演に劉家榮(リュー・チャーヨン)、脚本に『少林虎鶴拳』も手掛けた倪匡(ニー・クァン)を迎え入れ、本格的(?)な功夫片を監督するのです。
さて本作は、仲違いした鶴拳と虎拳の拳士が反目しあいつつ、武術界の制覇を目論む強敵に立ち向かうという王道路線のストーリーとなっています。が、王道を王道で終わらせないのがジミー流。相変わらず今回もツッコミどころ満載の作風となっていました(笑
まず問題となるのがジミー先生のアクションで、今まで勢いだけで立ち回りをこなしていた彼も、本作の複雑な殺陣には相当苦戦したものと思われます
おかげで劇中のアクションシーンはシリアスなのに和める出来となっていますが、そこはジミー先生のライバル役である劉家榮や、いぶし銀の魅力を見せる陳慧樓(チェン・ウェイロー)が見事にフォローしています。
ただし王道路線のストーリーといっても、主役以外のキャストは引き立て役が基本。劉家榮は最後まで反目したまま死亡し、その恋人だった謝玲玲(ツェ・リンリン)も即効でジミー先生に乗り換えていました(苦笑
とはいえ、劉家榮は準主役としてしっかり目立っていたし、その他のキャストも個々で熱演を見せています。ラスボスとして立ちはだかる龍飛(ロン・フェイ)についても、その仰々しい存在感はかなりのものでした。
さて、ここで気になってくるのは練功系の功夫片に対し、ジミー先生がどのようなアプローチを試みたのかという点です。本作を監督するにあたり、彼が手本としたのは劉家良の『少林虎鶴拳』だったのではないでしょうか。
虎鶴雙形という名称、敵の弱点をピンポイントに突く展開などは、同作に関わった劉家榮や倪匡から着想を得たと考えられます。「だが自分は練功について劉家良ほど熟知していない」…そのことを痛感していたジミー先生は、ここで思い切った決断を下しました。
まず修行シーンでは凝った演出を無理に描かず、敵の弱点を突くだけのシンプルな案を採用。敵の弱点も固定された鋲にするなど、徹底的な簡略化を図ります。そして武術の技巧ではなく、いつものアイデア勝負でバトルを征してしまうのです。
一見すると扱いきれないテーマから目をそらし、自分の得意を押し付けただけに見えるかもしれません。ですが、中途半端に迎合して失敗するよりも、自身のホームグラウンドに引き込んで納得のいく仕事を貫くことにジミー先生は賭けたのでしょう。
これまで練功をメインにした功夫片は数多く作られています。が、練功という要素を自分の色で染め上げ、強引に上書きすることで自らのアプローチとした作品は、他に例がありません。まさに本作はジミー先生だからこそ作れた逸品と言えます。
天皇巨星・王羽。彼の出演した作品はいかがわしさに満ち、アイデアにあふれ、唯一無二の魅力を誇っています。そのスタイルはバラエティに富み、世界からカルト的な支持を得ていましたが、現在は病床に伏せっているとの事です。
もしジミー先生が退院したとしても、かつてのようにアクションが出来るのか、そもそも日常生活を無事に送れるのかは解りません。しかし、近年も『捜査官X』や『失魂』などで高い評価を得ており、彼のバイタリティーが未だに尽きていないことは明白です。
だからこそ私は信じています。いつの日か銀幕に再臨し、かつてと変わらぬ眼光で後輩たちに睨みをきかせるジミー先生――もとい、天皇巨星・王羽(ジミー・ウォング)の勇姿を!
…2017年を通して始まった10の特集、および王羽十選は今回で終わりますが、きっと彼の伝説は終わらないはずです。ジミー先生の一日も早い回復を祈りつつ、これにて今年最後となる作品紹介の締めにしたいと思います。(特集、終わり)