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功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

映画で見る李小龍(1)『ブルース・リー物語』

2017-11-15 22:02:17 | バッタもん李小龍
「ブルース・リー物語」
「カンフーに生きる ブルース・リー物語」
原題:李小龍傳奇
英題:Bruce Lee True Story
製作:1976年

●1940年11月、ひとりの赤子がサンフランシスコの片隅で産声を上げました。親も兄弟も役者という芸能一家で育った彼は、香港へ帰郷すると子役として正式にデビュー。ドラゴンの名を冠した芸名を名乗り、人々からこう呼ばれるようになります――李小龍、と。
というわけで、今月は李振藩こと李小龍(ブルース・リー)の生誕77年目を記念して、彼を題材にした伝記映画をいくつか紹介してみたいと思います。
 武術家にして探究者、そして世界的なスターであった李小龍は、32歳という若さでこの世を去りました。彼は勇猛な魅力に満ちている一方で、どこか超人然とした雰囲気を漂わせています。志半ばでの死により、その神秘性は更に増したと言えるでしょう。
そんな彼の生い立ちを多くの人々が知りたがったのは、至極自然な流れだったのかもしれません。彼の死後、偉大なドラゴンを題材にした映像作品の製作が活発化し、とりわけドキュメンタリーと伝記映画は大量に作られました。

 本作は李小龍が亡くなって間もない頃に製作された伝記映画で、何宗道(ホー・チョンドー or ブルース・ライ)が主演したバッタもん映画のひとつとして知られています。
しかし監督は『酔拳』の呉思遠(ウン・スーユエン)が務め、製作は『猛虎下山』『カンフー風林火山』の恒生電影公司が担当。過去のバッタもん伝記とは一線を画した、リアリティ優先の演出を心掛けたのです。
 ストーリーは李小龍の人生をおおまかに辿っており、最初に何宗道が病院に担ぎ込まれるシーンから幕を開け、オープニングを挟んで彼の青年期(渡米する直前)からスタート。ハリウッドで挫折を経験する下りまでは、概ね史実通りの展開が続きます。
本作で目を引くのは、実際にアメリカ・タイ・ローマなどでロケを行い、作品にリアリティを持たせようとしている点です。主演作の撮影シーンにおいても、セットや立地を可能な限り再現しようとしており、呉思遠の意気込みが垣間見えます。
 また、李小龍に詠春拳を教えた葉問(イップ・マン)の役を、葉問の長男である葉準(イップ・チュン)本人が担当。ここで何宗道VS葉準という興味深い対戦が行われますが、背景をよく見ると葉問の直弟子・招允の名が見えます。
実は本作には、詠春拳指導として招允の実子・招鴻鈞が参加しているのです(もしかして冒頭の道場は招鴻鈞が経営する本物の武館?)。招鴻鈞が関わっているのは何宗道VS葉準のシーンのみと思われますが、バッタもん映画としては破格の陣容です。

 本作はこうしたリアリティの積み重ねにより、底抜け伝記の『詠春截拳』『一代猛龍』を上回るスケール感と、説得力のある描写を作り上げることができました。
しかし、何宗道が『ドラゴン危機一発』の撮影に臨む辺りから、徐々にフィクションの割合が増えてしまうのです。せめて倉田保昭との親交や、羅維(ロー・ウェイ)との確執などを描いてくれたら面白かったのですが、本作はその辺にまったく触れていません。
 おかげで主演作に関する話題はさらっと流され、何宗道が喧嘩を売られる→相手の挑発に乗る→返り討ちにするという展開が延々と続くことに…。さらに“精武指の開発”という意味不明な修行シーンが付け加えられ、作品の崩壊に拍車を掛けていきます。
最後は李小龍の死因についての考察が始まり、暴漢による暗殺説、丁珮(ティン・ペイ)とヤってたら死んだ腹上死説、生存説が生々しい映像と共に展開。最初のリアリティへの拘りはどこへやら…何とも評価に困るオチになっていました(苦笑
 アクションについては梁少松(梁小龍の叔父)の指導により、意外と派手な立ち回りが見られます。が、一部の対戦相手が明らかに動けていなかったりと、こちらも一筋縄ではいきません(李海生や馮克安の扱いも実に勿体無い!)。
余計なフィクションを省き、もっと入念なリサーチを行っていれば傑作になれたかもしれない作品。呉思遠の監督作としても失敗作ですが、同時期の伝記映画の中では抜きん出た存在なので、話のタネに見てみるのも良い…かもしれませんね(爆
さて次回は、かつて李小龍が辛酸を舐めたハリウッドが彼の伝記映画を製作! 李小龍を愛する人々が語った、よりドラマチックなドラゴンの姿とは……続きは次の更新にて!

『猛龍征東』

2015-11-26 20:03:44 | バッタもん李小龍
猛龍征東
英題:Bruce Lee Against Supermen/Superdragon vs Superman
製作:1975年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 アメリカで活躍するグリーン・ホーネットと助手のカーターこと何宗道(ホ・チョンタオ)。今日も彼らは逃走犯の金を警察に届け、報復に来た山茅(サン・マオ)たちを退けていた。
そんな2人の元に新たな指令?が下る。どうやら香港で世界的に有名な科学者・楊易木を狙い、マフィアが動き出しているようなのだ。先んじて香港に渡った何宗道は、旧知の功夫青年・歐陽鐘(『金色太陽』でも共演)と共闘する事となる。
 楊易木の娘と恋仲になったり、余裕でヒットマンを退けていく何宗道であったが、マフィアも黙ってはいない。彼らはスーパーマンと呼ばれる凄腕の刺客・龍飛(ロン・フェイ)とその弟子を助っ人として呼び寄せたのだ。
その後、敵の女とベッドインしている隙に楊易木を拉致された何宗道は、仲間たちと奪回作戦を展開。しかし敵の思わぬ逆襲に遭遇し、反対に歐陽鐘たちが捕まってしまう。
何宗道はリベンジを誓い、たった1人で敵陣に突入した。遅れて到着したグリーン・ホーネットも加わり、ここに最後の戦いが幕を開ける!

 李小龍(ブルース・リー)とジャッキーの偽者を戦わせた『雙輩』、李小龍に海女を絡ませた屈指の珍作『海女』など、クレイジーなコラボを追求し続けた香港の映画監督が存在します。
その名は呉家駿…カメラマンとしてキャリアをスタートさせ、監督の他にもプロデューサーとしての顔を持つ男です。本作もバッタもん李小龍にプラスアルファを施した作品ですが、そのプラスしたものがブっとんでいました(笑
 呉家駿が今回選んだのは、なんとグリーン・ホーネットとスーパーマン! と言っても、龍飛が演じるスーパーマンはクラーク・ケントで有名なアレではなく、中華服に白いマントを羽織った珍妙な代物となっています。
グリーン・ホーネットに至っては、本家のオープニングを再現した映像は蚊取り線香に止まったハエにしか見えず、有名なカトーマスクが出てくるのも序盤のみ。劇中でのルックスは真っ赤なタイツ姿という有様です(爆
 これで演出が吹っ切れていれば最高のバカ映画になったのですが、今回も呉家駿の“いまいち弾け切れてない作風”が災いし、締まりの無いストーリーに仕上がっていました。平気で浮気する主人公、単調な追跡劇などはその象徴と言えます。
先述の赤タイツ姿も、バンバン登場させていれば観客の笑いを誘えたはずなのに、披露するのは最初と最後(事件が解決する直前)のみ……これでは完全に出落ちです。

 アクションシーンにも問題が多く、何宗道・龍飛・山茅の3人以外はすべて無名俳優ばかり、絡み役のレベルが明らかに低いというハンデまで抱えています。
武術指導はあの『胡惠乾血戰西禅寺』を手掛けた張鵬ですが、彼の腕前もこの悪条件では満足に振るえなかったのでしょう。おかげで劇中の殺陣は精彩を欠き、野暮ったいアクションがひたすら繰り広げられていました。
 何度か展開される何宗道VS龍飛はそこそこ見られますが、ザコ戦では殺陣の質が目に見えてダウンしているのが解ります。奇をてらった敵キャラの数々、あの山茅をザコとして早々に消費した点についても、失敗だったと言わざるを得ません。
ビジュアル的には化ける可能性があったものの、結局は尻すぼみに終わってしまった呉家駿らしい本作。彼は他にも少林寺にプラスアルファを施した作品などを監督しているので、いつかは目を通したいと思っています。

『武林十八女傑/猛龍大破脂龍陣』

2013-03-25 23:20:47 | バッタもん李小龍
武林十八女傑/猛龍大破脂龍陣
英題:The 18 Amazones/Bravado of a Lady Fight/Bruce Lee's Ways of Kung Fu
製作:1977年

▼数あるバッタもん李小龍の中でも、その異様なまでにビルドアップされた筋肉で異彩を放つ巨龍(ドラゴン・リー)。彼の主演作はバッタもん要素を含んだ作品が大多数を占めていますが、中には李小龍の影響を感じさせないものも混じっています。
本作は英題が「Bruce Lee's Ways of Kung Fu」となっていますが、李小龍とは無関係のアクション古装片です。この作品における巨龍は、いつものおかしな怪鳥音やプルプルした挙動を見せず、野性的な衣装のおかげなのか割と格好よく撮れています。
このほかに韓国人女優の林銀珠(パール・リン)、テコンドーファイターの張一道も登場し、全編に渡って蹴りまくりのパワフルなファイトを見せていました。

■(※…下記のあらすじは推測がかなり入っています)
 邪悪な拳法家の金珠は、18人の女拳士を始めとした圧倒的な武力で武林を席巻し、悪事の限りを尽くしていた。彼はもともと武林の盟主であったが、かつて祝宴の席で他の3人の盟主を毒殺し、今の力を手にしたのである。
そんな金珠を倒すべく、武林のお偉方たちは鄭真化(エルトン・チョン)を派遣するが、女拳士たちの手にかかって死亡。張一道が第二陣として出立する中、彼に先んじて巨龍が敵の根城に忍び込んだ。しかし逆に捕らえられ、絶体絶命の危機に陥ってしまう。
 ところが、彼を女拳士の1人である林銀珠が助け出した。彼女は裏切り者として糾弾されるが、何故そんなことをしたのか頑として口を割らない。一方、敵の追撃を受けた巨龍は漁師に助けられ、再び敵の根城に向かったところを棺桶職人に呼び止められた。
「無闇に突っ込んでも死ぬだけじゃ」と諭された巨龍は引き下がり、棺桶職人の厚意で林銀珠を逃がす事にも成功する。が、脱出した先で彼は敵の追っ手に襲われ、危ない所を世捨て人の達人?に救われた。のちに達人は女拳士たちに殺されるが、巨龍は遺された書物から金珠攻略の糸口を見つけていく。
 そして張一道や林銀珠と再会した巨龍は、自分たちが金珠に殺された盟主たちの遺児であったことを知るのだった。決意を新たにした3人は、仲間である鞠禎煥・金東浩が命懸けで切り開いた突破口から敵地に潜入する。
3人は様々な武器を操る女拳士やトラップを突破し、とうとう金珠と対決の時を迎える。果たして強大な敵を前に、強い絆で結ばれた戦士たちはどう闘うのだろうか?

▲運命に導かれるかのように集まった3人の戦士が、力を合わせて巨悪に立ち向かうというアドベンチャー風味の快作です。前半は巨龍と張一道のエピソードがあまり絡まず、最初はまるでニコイチ映画のような印象を受けました。
しかし、それまでバラバラに動いていた3人が集まってくる後半から面白くなり始め、様々なギミックが飛び交う怒涛のラストバトルへと突入。巨龍たちは戦力的に敵より少し劣っており、若干押され気味のバトルがさらなる迫力をかもし出しています。
その後の巨龍・林銀珠・張一道VS金珠もなかなかのファイトですが、双方ともこれといった必殺技や特技を持っていないため、アクションにあまり個性を感じられませんでした。ここさえ充実していれば、本作は『地獄十二關門』と同じくらい面白くなったと思うんだけどなぁ…。

『海女』

2012-09-24 23:31:53 | バッタもん李小龍
海女
英題:Bruce Against Snake in the Eagle's Shadow
製作:1979年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 さて、本作は80年代のショウ・ブラザーズで活躍した功夫俳優・龍天翔が、ショウブラ入りする前に主演していた作品です。当時の彼は李小龍のバッタもんを演じることが多く、かの悪名高い『決鬥死亡塔』に出演したのもこの頃でした。
しかし本作は、バッタもんという一言では片付けられない異様な一面を持っています。というのも、この作品のタイトルは「海女」。今まで様々な功夫片を見てきた私ですが、ここまで奇妙な題名の作品は見た事がありません。果たしてどんな内容か気になりますが…もうそのまんまバッタもん李小龍が海女さんの為に戦うという話でした(爆

 地元でトラブルを起こし、数年後に帰って来た龍天翔(役名はなんとタン・ロン!)。帰郷後、彼は町の産業である海女の補佐をする仕事に就くが、産業を潰そうとする?悪党たち(もしかしたら目的が違うかも)が現れる。龍天翔は恋人と愛を育みつつ、この巨悪に立ち向かっていくのだった。
…という話なんですが、どうして海女と李小龍を組み合わせようとしたのか、製作サイドの狙いがまったくもって解りません(笑)。この手の作品にしては珍しく、爽やかなラブストーリーが本筋のひとつになっている点は評価できなくもないでのすが、残念ながら異常すぎるコラボに全てを持ってかれています。

 これでギャグ映画ならカルトムービーとして注目されたかもしれませんが、本作は低予算のバッタもん映画です。ストーリー展開はゆるいし、龍天翔のモノマネは徹底していないし(怪鳥音はたまにしか発しない)、アクションは野暮ったいなど、もっさりした部分ばかりが目に付きます。
キャストも無名俳優だらけで、有名どころといえば中ボスの龍飛(ロン・フェイ)、珍しく善役の馬金谷、組織の用心棒として登場する蔡弘しかいないという有様。彼らと龍天翔が絡むシーンはそこそこ見ていられるものの、元々のアクションレベルが低いので大した事はありませんでした。
撮り方しだいでは『李三脚威震地獄門』のようなバカ映画になれたかもしれない奇怪な作品。ちなみに英題に「Bruce Against Snake in the Eagle's Shadow」とありますが、蛇拳はもちろん猫爪くずしも出てこないので御注意を。

『被迫/精武指』

2012-04-25 22:17:36 | バッタもん李小龍
被迫/精武指
英題:Last Strike/Soul Brothers of Kung Fu
製作:1977年

▼香港や台湾には李小龍(ブルース・リー)のバッタもん俳優が数多く存在しますが、彼らはバッタもんに徹し続けたわけではありません。巨龍(ドラゴン・リー)は90年代からヤクザ映画へ出演するようになり、悪名高い石天龍(ドラゴン・セキ)も現在はノーマルな俳優に転向したと聞きます。
一部を除けば、この手の俳優は全員が偽物としての人生に終止符を打っています。バッタもんはブームが過ぎれば消えゆくだけの、脆くて儚い存在です。全てが過ぎ去っても生き残れるのは、呂小龍(ブルース・リ)みたいなバイタリティを持った者か、新たな道を切り開いた李修賢(ダニー・リー)のような者しかいないのです。
 ところが、偽物として活動中だった最中に脱却を試みた男がいます。何宗道(ホー・チョンドー)は李小龍のバッタもんであることを良しとせず、様々な作品に出演しました。ですが、彼はバッタもん俳優から完全には足を洗えず、功夫スターにもなりきれないまま映画界を去ってしまいます。
しかし彼の孤独な奮闘は、結果的に隠れた秀作を生み出すに至りました。本作で何宗道は莊泉利(ビリー・チョン)の主演作を始め、数々の傑作を作り出した恒生電影有限公司とタッグを結成。バッタもんとしてではなく、あくまで功夫スターとしての力量をアピールしたのです。

■何宗道・歐陽佩珊羅莽(ロー・マン)の3人は大陸から来た密入国者。成功を夢見て香港に渡り、3人そろって貧しくも楽しい共同生活を送り始めた。ある日、何宗道たちは職場で苛められていたカール・スコットを助けたが、苛めた連中の仲間である谷峰(クー・フェン)との間に遺恨が生まれてしまう。
この遺恨、その後も運悪く悪化の一途を辿っていくこととなる。羅奔が悶着を起こした賭場が谷峰の経営する店だったり、何宗道が出場した格闘大会で倒した相手が谷峰の愛弟子だったり…。これに激怒した谷峰は、自陣のアレクサンダー・李海生(リー・ハイサン)・陳龍の3人を差し向けた。
敵の報復によって歐陽佩珊は殺害され、何宗道も手傷を負った。彼は復讐を決意して修行を開始するが、羅奔が谷峰の仕掛けた罠に引っかかり、2人の友情に亀裂が生じていく。戦いは激化し、何宗道が李海生ら3人を撃破するも、リベンジとばかりに谷峰一味が彼の自宅を襲撃。幾多の死闘を経て、対に何宗道VS谷峰の直接対決が始まる!

▲ストーリーは陰惨ですが、何宗道の持ち味である伸びやかな動きが生かされている作品です。本作では徐蝦と袁祥仁が武術指導を担当し、絡み役には袁信義・袁日初・元奎・徐忠信なども参加。何宗道のアクションは武術指導によって出来が左右されやすいのですが、本作では流れるような激しいファイトを演じています。
また、作中ではところどころに李小龍的な要素を含んでいるものの、それらは物語やアクションのアクセント程度に抑えられています(李小龍っぽい戦いもVS陳龍だけ)。あくまで本作は何宗道自身のポテンシャルを重視しており、ラストの何宗道VS谷峰もなかなかの激闘に仕上がっていました。
 ただ、復讐だらけの陰惨なストーリーだけはどうにかしてほしかったと思います。何宗道の本気・豪華共演陣・充実した武術指導スタッフなどのお膳立てが揃っているのに、復讐されたら復讐しかえすだけの粗末な物語では、盛り上がるものも盛り上がれません(涙
ここは同じ恒生電影の何宗道主演作である『打出頭』と『不擇手段』に期待…かな?

『雙輩』

2012-01-22 21:50:19 | バッタもん李小龍
雙輩
英題:Jackie and Bruce to the Rescue/Fist of Death
製作:1982年

●世界を相手に闘った李小龍(ブルース・リー)、そしてコメディ功夫で一世を風靡した成龍(ジャッキー・チェン)。どちらも香港を代表する偉大なドラゴンですが、ファンならずとも一度はこう思ったことがあるはずです…「この2人、戦ったらどっちが強いのか?」
もちろん今となっては叶わぬ夢。李小龍は既に亡く、ジャッキーも随分と年を取りました。この疑問の答えは恐らく永遠に出ることは無いでしょう。しかし、絶対に叶わぬ夢だからこそ、今も多くの人々が思いを馳せているのです。
 ところが、あろうことかその疑問を映画にするという無謀な企画が韓国(と台湾の合作)で立ち上がりました。韓国では、以前にも巨龍(ドラゴン・リー)が主演した『一笑一拳』という同じ題材の大怪作が撮られていますが、本作はあちらほどハジケてはいません。
気になる李小龍役は『死亡遊戯』で李小龍の影武者を演じた唐龍(タン・ロン)が、ジャッキー役は李小明という人が演じています。李小明は別名を程龍といい、羅鋭(アレクサンダー・ルー)の『激突!魔拳塾』でもニセジャッキーに扮した経験を持っているのですが…。

 さて内容についてですが、それほど大したものではありません。精武館の館長がYMCA武館の刺客らしき者たちに殺された。門弟の唐龍は師匠殺しの犯人を探すために動き出し、第三者による巨大な陰謀が動いている事に気付く!……という話ですが、これといって演出にメリハリが無く、非常にユルい出来になっています。
この本筋に李小明が絡むのは開始40分を過ぎてから。それまで深刻なストーリーが続く唐龍サイドに対し、彼の出演パートはコメディ調で描かれていきます。後半にシリアス展開へ突入するものの、かえって作風を統一できておらず、全体的にちぐはぐな印象を残しているのです(ジャッキー作品では絶対にありえない濡れ場を李小明サイドに持ってきているのも×)。
 また、唐龍と李小明のなりきり度はそこそこ高いんですが、アクションシーンは精細を欠いていました。黒幕の腹心を張奔、その手下を白黄基、YMCA武館の門弟を常山、唐龍の兄弟子を韓鷹(イーグル・ハン)が演じてますが、韓鷹以外はみんなロクな見せ場が無いまま退場してしまいます(涙
これら動ける役者を差し置いて行われる最終決戦も実にヒドいもので、バカ映画として突き抜けていた『一笑一拳』の方が遥かに面白いという結果に終わっています。安直に思い付いたネタの安直な映画化…本作はそんな軽はずみな行為を戒める意味を持った作品、だと思いたいです(爆

『死亡魔塔』

2010-06-08 23:53:28 | バッタもん李小龍
死亡魔塔
英題:Enter the game of death
製作:1981年

●幾多の映画で李小龍(ブルース・リー)の名を騙り、世界中からブーイングを浴びても我を貫いた男がいた。しがない脇役俳優から脱皮し、突如としてバッタもんになることを目指した彼は、次々と主演作を連発。いつしか香港のメインストリートから外れ、時代が李小龍からジャッキーに移ろうとも、それでも彼は李小龍になりきることを止めようとはしなかった。アクの強い香港映画界において、最も異彩を放つ異端児…それが呂小龍(ブルース・リ)であった。
そんな経歴が災いしてか、ネガティブなイメージで見られがちな呂小龍だが、本作はそんな彼の素顔が垣間見える作品なのである。

 この作品は『新死亡遊戯・七人のカンフー』や『決鬥死亡塔』のような、いわゆる『死亡遊戯』タイプの作品だが、この手のタイトルはそれほど多く作られていない。『武闘拳 猛虎激殺』『七靈寶塔』のように、『死亡遊戯』から影響を受けた作品こそあるのだが、バッタもんスターが演じた『死亡遊戯』風の作品はとても少ないのだ。
当時、李小龍のバッタもん映画にはいくつかの形式が存在していた。ひとつは『ドラゴン怒りの鉄拳』タイプの抗日映画で、バッタもん映画では最も重宝されたパターンである。バッタもん映画を見慣れている人にとっては、主人公が不戦の誓いを立てる『ドラゴン危機一発』タイプなどもお馴染みだろう。だが一方で『死亡遊戯』タイプの作品は、どうして大量に作られなかったのであろうか?
 その理由は、それぞれのタイプを読み解くことで自ずと説明できる。まず『怒りの鉄拳』タイプの作品は、日本人の横暴と弾圧される民衆、そして最後に怒り爆発な主人公の描写が欠かせないものとなっている。『危機一発』タイプはちょっと似ているが、こちらは敵と主人公の因縁を前提にして、嫌がらせを行う敵→爆発する主人公という方程式で描かれている。この2タイプの作品に共通するのは、全編に渡って「欠かせない要素」が必須となっている点だ。
だが『死亡遊戯』タイプの作品は、こういった「欠かせない要素」があまり見当たらない。要は最後に塔で闘えばいいだけなのだが、作品のタイプを象徴する独自のアイコンが乏しく、そのために他タイプの作品と差をつけられてしまったのではないかと考えられる。

 このように、実は扱いにくい題材であった『死亡遊戯』タイプの作品であるが、呂小龍は(良くも悪くも)自分の作風を貫き通している。ストーリーは抗日的な要素を含みつつ、呂小龍サイドと日本人の対立を主軸としながらダラダラと続いていく。しかし、どうやら呂小龍は「俺は塔に登りたいんだ!登りながら色んな敵と闘いたいんだ!」と思っていたようで、早くも中盤にして塔へチャレンジしてしまうのだ。
恐らく、呂小龍はここに至るまでのストーリー展開に我慢がならなくなったのだろう(本作の監督は呂小龍ではない)。本人としては気合十分に挑んでいたのに、いつまで経っても塔に登らせてくれないので、きっと痺れを切らしてしまったに違いない。その証拠に、ここから彼の大暴走が始まってしまうのである。
塔に向かった呂小龍は全フロアをあっという間に攻略するが、彼は塔を制覇しても戦いを止めようとしない。余程のストレスが溜まっていたのか、呂小龍は「もっと敵をよこせ!ハキムみたいな奴を呼んで来い!ボスにロバート・ベイカーの真似させろ!」と言わんばかりに、テンション全開で戦いを続けていくのだ。そう、まさに「お前は永遠に闘い続けるのだ」と言われた、本家『死亡的遊戯』の李小龍のように…(視聴者そっちのけで)。

 果たして、かつてここまで呂小龍が自身の欲求を炸裂させた映画があっただろうか?勿論、ここまでの台詞は私の想像でしかないのだが、実際の呂小龍も大体こんな感じだったはず。「オレ様映画」というものは香港映画界にいくつも存在するが、ここまで個人の思いが叩き込まれた作品はそうそう無いだろう。
こんな映画を世界中に公開し、それでも得意げな顔をしていられる呂小龍という男は本当に凄い。凄いけど、あえて一言だけ言わせて欲しい……………この映画つまんねーよ!(爆

『ブルース・リの復讐』

2010-04-26 22:29:37 | バッタもん李小龍
「ブルース・リの復讐」
原題:凶終/猛龍反撃
英題:Bruce Strikes Back/The Ninja Strikes Back/Eye of the Dragon
製作:1982年

●単刀直入に言おう、この作品は傑作である。映画作品としては三流レベルだが、あくまで呂小龍(ブルース・リ)の主演作として見るならトップクラスの物と断言しても良い。いつもならナルシズムしか無い呂小龍作品だが、それほどまでにバラエティに富んだ作品なのである。
かつてマフィアの一員だった呂小龍は、ムショから出所したのを契機に足を洗ったが、当のマフィアはそれを許そうとはしなかった。彼らは非情にも呂小龍の父親を殺し、その妹をも連れ去ってしまう。これに激怒した呂小龍は、組織の用心棒たちを相手に世界を駆け巡る!というのが本作のあらましである。いつもの呂小龍作品らしく、実に荒唐無稽かつ一人よがりなストーリーだが、映画そのものはそれほど悪くはない。
 まず驚かされるのが、作中でたびたび登場するローマの風景だ。粗製濫造がまかり通っているバッタもん作品にしては珍しく、実際にローマでロケーションが行われており、ラストでは本物のコロセウムまで登場する。しかも、無謀にもラストではコロセウムで実際にアクションシーンを撮影しており(もちろん無断撮影!)、まさにこれは香港映画史に残る暴挙と言っても過言ではないだろう(笑
この場面は、単なる偽物でしかなかった呂小龍が一瞬だけ本物を越えたシーンとして評価すべき所だが、思ったよりロケーションの効果は発揮されていない。なぜなら、照明などが完備されているセットで撮ったのと、薄暗い石組みの路地で撮ったのでは、どちらが視覚的に映えるものとなるかは一目瞭然。ちょっと惜しい気もするが、まぁ所詮バッタもんはバッタもんですからねぇ…(苦笑
 また、一方でキャスティングにも力が入ってるのが本作の特徴で、製作元のフィルマークも随分と奮発していた様子が伺える。組織の用心棒に黄正利(ウォン・チェン・リー)&楊斯(ボロ・ヤン)といったバッタもん映画の常連を配したかと思えば、『007』のハロルド坂田を起用して国際色を強調。香港パートでは呂小龍の協力者として[上下]薩伐(カサノヴァ・ウォン)と趙志凌(すぐ死ぬ)が顔を見せ、作品の底上げに貢献している。
フィルマークらしくニンジャやおっぱいがポコポコ登場するものの、功夫アクションも(呂小龍作品にしては)上出来だ。特にラストの呂小龍VS黄正利は出色モノで、過去に何度か戦ってきた両者としては今回のバトルがベストだったのではないだろうか?しかもこのシーンはゲリラ撮影だったので、スタッフ一同はコロセウムに長時間留まることは出来なかったはず。となれば、このバトルは文字通り一発撮りの大勝負だったことが考えられる(このへんのエピソードがマジで気になります)。
 豪華ゲストあり・ローマロケあり・ニンジャあり・オッパイありと、極めてサービス精神旺盛な呂小龍の最高傑作。バッタもん作品が気になる方は、是非とも本作から視聴してみる事をオススメ致します。…ただし、あくまで本作は「呂小龍作品として傑作」だという事を念頭に置いとかないと、後で泣きを見るかも知れません(爆

『フィスト・オブ・フューリー 復活!ドラゴン怒りの鉄拳』

2009-12-29 23:24:06 | バッタもん李小龍
「フィスト・オブ・フューリー 復活!ドラゴン怒りの鉄拳」
「復活 ドラゴン怒りの鉄拳」
原題:重振精武門
英題:Return of Dragon
製作:1998年

●さて、今回のレビューをもって当ブログは今年最後の更新と致しますが、最後の最後でこんなクソ映画を紹介してしまうことになってしまい、本当に申し訳ありません(爆
かつて2年前の5日前(12月24日)、私はクリスマスだというのに1本の酷い映画を紹介した。それが石天龍(ドラゴン・セキ)主演作『復活!死亡遊戯』である。当初は方々で「酷い映画だ」と言われていた中身を確認するために視聴していたのだが、そのあまりの悪質さ&杜撰さに私は目眩を覚え、石天龍に拒否反応を示すまでになってしまった。
香港映画のスターなら巨龍(ドラゴン・リー)でも呂小龍(ブルース・リ)でも普通に見ている私が、初めて心の底から嫌いになってしまったスターが石天龍であったのだ。
 なら、「何故そんな奴の映画をまた見るのか」と皆さん思うでしょうが、石天龍の映画には共通した難点が存在します。というのも、彼の出演した作品には必ず「特別ゲスト」が登場するのです。
前述の『復活!死亡遊戯』では周比利(ビリー・チョウ)が、『霍元甲之精武真英雄』では劉家輝(リュウ・チャーフィ)が、『武生情未了』では黄家達(カーター・ウォン)が…といった具合に、共演者を豪華スターで固める事により、石天龍は自分目当てでない観客まで引きこもうとしているのですよ。
で、本作は石天龍の映画初主演作ということで、楊麗青(シンシア・カーン)に午馬(ウー・マ)に高雄(エディ・コー)に林威(デビッド・ラム)に徐忠信(アラン・ツィ)まで呼んでいます。近年の作品でこのメンバーが一堂に会するなんて滅多に無い事ですし、見ない訳にはいかないじゃないですか!(血涙
ちくしょう石天龍め……。

 ということで本作の話に移るが、やっぱり今回も酷いです。一応は『ドラゴン怒りの鉄拳』の続編という事になっているものの、陳真が銃弾で撃たれていなかったという超捏造設定で始まり、田舎に隠居していた陳真がセコい悪事を企む日本人に楊麗青を殺され、怒りの鉄拳アチョーになるという、70年代に飽きるほど見たストーリーにはもはや笑うしかありません(怒
動作設計が洪家班の曹榮ということで殺陣の質は高いものの、反転した映像を何度も繰り返すという珍妙なカット割りのため、アクションのテンポは完全に崩壊。やけに暗がりのシーンが多く、ところによっては功夫アクションが見づらいカットも多々あるなど、とても近年の作品とは思えないような低レベルの内容になっていました。
 ラストでは裏切り者の張来京・石天龍を追う徐忠信・その上司である師範の高桐林と闘うのだが、ここで戦う順番も間違っている。作中、張来京は楊麗青に横恋慕していたという設定が語られ、徐忠信に楊麗青が殺されたところでは戸惑うカットがあった。なので最後は石天龍を守って死んでいくのかと思いきや、結局は最後の最後まで悪党のまま退治されてしまうのだ。
また、橋本力の弟という設定の徐忠信は本来なら最後に戦うべき相手であるはずが、何故か一番最初に呆気なく倒されてしまう。と、このように本作のラストバトルは伏線や設定を全て無視した戦いが繰り広げられるのだが…こんなメチャクチャな物語にどうやって感情移入しろっていうんだ!?(混乱
 作品としては『復活!死亡遊戯』より見ていられるが、クズ中のクズであることに変わりはない。ちなみに石天龍の主演作はもうひとつ『復活 ドラゴン危機一発(戦龍2)』が日本でソフト化されているが、こちらには特に大物ゲストは出てないようなので、恐らく私は絶対に見ないかと思います。

………え~、それではみなさん良いお年を!(逃げた)

『威震天南/南天震威/南洋唐人街』

2009-10-24 22:16:21 | バッタもん李小龍
威震天南/南天震威/南洋唐人街
英題:Bruce Li The Invincible/Bruce Lee The Invincible/Game of the Dragon/The Invincible
製作:1978年

▼『蛇女慾潮』という作品を覚えているだろうか。『蛇女慾潮』は何宗道(ホー・チョンドー)がニューギニアへ向かい、蛇の一族と死闘を繰り広げるというトチ狂った作品だったが、その姉妹編というべき映画が本作である。
キャストやスタッフは『蛇女慾潮』からそのまま似たメンツが投入され、新たに陳惠敏(チャーリー・チャン)まで参加。更に助監督として、あの曾志偉(エリック・ツァン)まで関わっているところも凄いといえば凄い。彼が関わったバッタもん映画といえば、サモハンの熱演が最高な『燃えよデブゴン』と闇鍋功夫片の『李三脚威震地獄門』があり、どちらもいろんな意味で楽しめる作品だった。なので本作も期待できないことは無いと思われたのだが…。

■陳星(チン・セイ)は陳惠敏の兄で、何宗道・張力らが通う功夫道場の道場主。今日も狼藉を働く陳惠敏を戒めたり、何宗道たちに達磨大師の逸話を語って聞かせたりしていた。ところが張力が故郷に帰った際、地元の有力者の腰巾着である山怪(取り巻きに岑潛波と曾志偉!)とトラブルを起こしたことで、彼は恨みを買われてしまう。
 で、その山怪のボスである有力者というのが…お察しの通り、陳惠敏です。陳惠敏は山怪の訴えを聞くと張力のいる商店を視察し、彼の幼馴染である陳維英に目を付けた。女好きの陳惠敏は女を引き渡せと迫り、手下(うち1人が陳龍)を向かわせて強引に誘拐してしまう。これに激怒した張力は陳維英の奪還に挑むが、陳惠敏の強力な拳法にまったく歯が立たない。そこで張力は陳星に助力を仰ぎ、弟子の危機を知った陳星は何宗道と共に敵地へ足を踏み入れた。
ちなみに陳星は陳惠敏に素性を悟られないよう変装しているのだが、変装した姿を火星(マース)が演じている。身代わりとはいえ、この時期に火星が大きい役を演じているのも面白いが、ここまで強い火星というのも珍しい。
 その後、張力と合流した火星(陳星)&何宗道は、まず陳惠敏一派が仕切っている賭場を襲撃。これに対して陳惠敏は報復を企てるが、火星(陳星)たちに小細工は通用しなかった。翌日、陳星たちは陳惠敏の元に向かうと「これ以上闘っても無意味だ」と告げるが、陳惠敏は耳を貸さない。結局は乱闘となる双方だが、どさくさ紛れに異民族が陳維英を連れ去ってしまう。この本編の流れと全く関係ない異民族とのバトルを経て、遂に陳星たちは陳惠敏一派との最終対決に挑む!

▲『蛇女慾潮』と似た感じの本作だが、今回はそんなに狂った内容ではない。
異民族というおかしなキャラクターが介入してくるものの、作品自体は陳星たちと陳惠敏の攻防を描いたオーソドックスな話だ。むしろ異民族という異質な存在が作品のバランスを崩しており、このへんは余計な要素だったと言わざるを得ない。曾志偉がどのくらい口出ししていたのかは解らないが、少なくとも異民族パートに関わっていないことだけは確かだ(もし曾志偉なら、ああいう面白みの無い余計なシークエンスは省いてしまうはず)。
 『蛇女慾潮』があまりにも強烈な作品だったためか、本作は非常に淡白な出来に見える。しかし功夫アクションは『蛇女慾潮』以上のものを展開しているので、こちらは安心して楽しむことができるだろう。武術指導次第でモッサリな動きになりそうな陳星や何宗道だが、本作での功夫アクションはとても機敏に動き回っており、見事なファイトを披露!ラストバトルでは何宗道がヌンチャクを振るい、陳星がパワフルな虎拳で立ち回り、最後の陳星&何宗道VS陳惠敏もそれなりに壮絶なバトルに仕上がっているのだ。
総評すると、ストーリーはボチボチ・功夫アクションは中の上といった感じの珍作か。ちなみに、楊斯(ボロ・ヤン)は冒頭の陳惠敏を静止する師匠役で出演していますが、初見の際は楊斯だと気付きませんでした(笑