功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『マッドクンフー 猿拳』

2016-01-11 20:13:50 | ショウ・ブラザーズ
「マッドクンフー 猿拳」
原題:瘋猴
英題:Mad Monkey Kung Fu
製作:1979年

▼今回は『天中拳』に続いて、猿にちなんだ作品を再びセレクトしてみました。猿といえば猿拳、猿拳といえば『モンキーフィスト/猿拳』!…はもう紹介済みなので、本日は巨匠・劉家良(ラウ・カーリョン)の監督作でいってみたいと思います。
本作は香港映画界をリードしていたショウ・ブラザーズにて、『酔拳』のヒットに追い付け追い越せとばかりに企画された作品の1つです。この手の便乗作過去にいくつかレビューしていますが、どれもある程度の質を保っていました。
そんな中、功夫映画の大家である劉家良が手掛けた本作は、他の便乗作を遥かに凌駕するアクションを構築。“功夫良”の二つ名に恥じない、素晴らしいファイトを残しています。

■物語は劇団を率いる劉家良が、楼閣を経営する羅烈(ロー・リェ)の元に招かれるところからスタート。実はこの男、劉家良の妹・惠英紅(ベティ・ウェイ)に下心を抱いており、彼女を我が物にしようと企んでいたのだ。
その結果、夜這いの濡れ衣を着せられた劉家良は両手を潰され、妹を奪われた挙句に猿回しへ身を落とす事となる。その後も悪党たち(実は羅烈の手下)による嫌がらせが続き、商売道具の猿を殺されてしまう。
 そんな彼を慕い、親身になってくれたのが好青年の小候(シャオ・ホウ)であった。仕事の手伝いを買って出た彼は、度重なる嫌がらせに対抗すべく、「おいらに猿拳を伝授してくれ!」と直訴する。
かくして2人は山籠もりに入り、指やバランス感覚を鍛える特訓に没頭した。その後、一旦下山することになった小候はリベンジを敢行するも、別格の強さを誇る羅烈に敗北。一時は殺されそうになるが、惠英紅の機転によって救われた。
 彼女が師匠の妹と知り、なんとか救出を試みようとする小候であったが、やはり相手は手強い。結局、奮闘むなしく惠英紅は殺され、逃げ帰った弟子から「全ては羅烈の陰謀だった」と聞かされた劉家良は、特訓の総仕上げに突入する。
そして心身ともに充実した猿拳師弟は、いよいよ仇討ちのために楼閣へと向かう。…今、仇討ちのゴングは鳴った!

▲古来より、猿拳映画というものは幾つか作られてきました。大聖劈掛拳の大御所・陳秀中が主演した『猴拳寇四』に始まり、元彪(ユン・ピョウ)の軽快さが光る『モンキーフィスト』、陳觀泰(チェン・カンタイ)の監督作である『鐵馬[馬留]』等々…。
これらに対し、劉家良は自らの得意とする猴拳の妙技と、小候による京劇仕込みのフットワークに全てを賭けたのです。その成果は皆さんもご存じの通り、惚れ惚れとするようなパフォーマンスの連続となっていました。
 冒頭、気を良くした劉家良のデモンストレーションからして、その動作は実に軽やか。実際に内弟子であった小候との演武では、徐々に動きがシンクロしていく様を見事に演じ切っています。
ラストバトルでは、小候がジャッキーや元彪も驚くほどの身軽さを見せ、怒りを内に秘めた劉家良も迫真の殺陣を披露(ちょっと李小龍が入ってるかも)。そんな彼らを真っ向から迎え撃つ羅烈との決戦は、手に汗握る名勝負に仕上がっていました。
 と、このようにアクションだけなら芸術的なレベルなのですが、本作のストーリーはやや小ぢんまりとした物になっています。ギャグに冗長さを感じる場面も多く、もう少し洗練されていたら文句なしの傑作になれたのに…と悔やんでなりません。
しかし先述した過去の猿拳映画にも負けない、圧倒的なボリュームのアクションを誇っているのも事実。のちに猴拳を再演した『超酔拳』ともども、功夫映画ファンには必見の作品と言えるでしょう。

『続・少林虎鶴拳 邪教逆襲(洪文定三破白蓮教)』

2015-03-07 22:42:27 | ショウ・ブラザーズ
「続・少林虎鶴拳 邪教逆襲」
原題:洪文定三破白蓮教
英題:Clan of the White Lotus/Fist of the White Lotus
製作:1980年

▼カンフー映画が好きな方なら、羅烈(ロー・リェ)という名前を一度は聞いたことがあるはずです。邵氏兄弟有限公司ことショウ・ブラザースで映画人生をスタートさせた羅烈は、長きに渡って多くの映画に出演しました。
欧米でカンフー映画ブームを巻き起こした『キングボクサー・大逆転』、徐克(ツイ・ハーク)監督の問題作『ミッドナイト・エンジェル』、ジャッキーとの掛け合いが見ものの『奇蹟』などなど…。
 そんな彼が友好関係にあった劉家良(ラウ・カーリョン)の全面協力を受け、初めて監督として手掛けた作品がこの『続・少林虎鶴拳 邪教逆襲』です。
ストーリーは『少林虎鶴拳』の流れを汲んでおり、前作で羅烈が演じた白眉道人の強化版ともいうべき怪物・白蓮教主が登場。より濃密な、よりアバンギャルドな功夫アクションが炸裂しています。

■洪文定こと劉家輝(ゴードン・リュー)&胡亞彪こと京柱は、死闘の末に少林寺の宿敵・白眉道人(唐偉成)を倒した。その後、京柱が投獄されるも民衆の反対運動が起こり、やむなく朝廷は彼と反朝派の人々を釈放するのだった。
この措置に提督の王龍威(ワン・ロンウェイ)は納得せず、白眉道人の兄弟子である白蓮教主・羅烈に協力を依頼。さっそく羅烈は手下を率いて襲いかかり、京柱と劉家輝の恋人・楊菁菁が犠牲となってしまう。
 なんとか逃げ出した劉家輝と京柱の妻・惠英紅(ベティ・ウェイ)は、親戚で紙細工職人である林輝煌のもとに転がり込んだ。彼は白眉道人を倒した虎鶴雙形に勝機を見出し、ひたすら特訓を重ねていく。
そして1度目の挑戦に行くが、飄忽身形という見切り技によって攻撃がまったく当たらない。撤退を余儀なくされた劉家輝は、「飄忽身形の突破にはパワーよりもしなやかな動きが必要」と惠英紅に諭され、女性的な動きの拳法を教わった。
 そこそこ実力を身に付けた劉家輝は、2度目の挑戦でついに飄忽身形を破るも、羅烈にはまだ無敵の防御技・鐵布杉があった。しかも百歩歩けば死ぬという百歩追魂掌を喰らい、倒れてしまうが林輝煌に助けられた。
重傷を負った劉家輝は、林輝煌の主人(実は彼も反朝派)の針治療により回復する。このとき見せられた針の教本を参考に、彼は羅烈を倒す奇想天外な方法を思い付く。そして今…3度目の挑戦が始まった!

▲前作が親子二代に渡るドラマだったのに対し、本作は特訓!リベンジ!はい終わり!という恐ろしくシンプルな構成に変更。そのぶんアクションシーンのレベルが高くなっていました。
また、作品としてはシリアスな復讐劇なんですが(人もわりと死ぬ)、ユニークな演出が多いので殺伐としすぎていません。かと言って雰囲気を壊すようなこともなく、とにかく功夫アクションを見てほしいという羅烈の熱意が感じられます。
 注目の白蓮教主も、傲岸不遜なところは前作の白眉道人と同じです。しかし急所を打てない劉家輝にドヤ顔でレクチャーしたり、入浴していたところを襲われて「貴様ジジイが趣味か!」と口走ったりと、なかなか面白いキャラに進化していました(爆
3度目の挑戦にいたってはコメディに片足を突っ込んでおり、まさかのオチには「それで終わりかい!」と誰しもツッコミを入れることでしょう(まぁ、人によっては拍子抜けに感じるかもしれませんが…)。
 一方、重複しますが功夫アクションはどれも質が高く、オープニングの劉家輝&京柱VS唐偉成から並々ならぬ気合を感じました。羅烈との戦いはどれも趣向を凝らしていますが、前哨戦となるバトルも実に見事です。
1度目の挑戦で王龍威や白蓮教のザコと戦い、2度目の挑戦で召使いの小侯(シャオ・ホウ)らと激突。3度目の挑戦では王龍威を倒し、長刀を振るう召使いコンビに三節鞭で立ち向かっていました。
 その他にも、大勢の敵を相手に舞う惠英紅と楊菁菁のコンビネーションなど、見どころを挙げればキリがありません。前作の重厚さから程遠い内容ですが、功夫映画ファンなら必ずや満足できる作品だと言えます。
…それにしても羅烈、本当にイキイキと楽しそうに演じてましたねぇ(笑

『少林皇帝拳(爛頭何)』

2015-02-15 21:56:20 | ショウ・ブラザーズ
「少林皇帝拳」
原題:爛頭何/鬥智鬥力鬥功夫
英題:Dirty Ho
製作:1979年

▼国内外からの評価が高く、数ある劉家良(ラウ・カーリョン)作品の中でも傑作と称される『少林皇帝拳』。主演の劉家輝(ゴードン・リュウ)と汪禹(ワン・ユー)の見せるアクションはとても見事で、私も数年前に本作を視聴しています。
しかし個人的にどうしても釈然としない部分があり、「面白かったけど後味が悪い」と結論付けていました(理由は後述)。ですが、このほど久方ぶりに視聴してその見識を改めたため、そのへんについても色々と書いてみたいと思います。

■物語は遊女たちをはべらせて遊んでいた汪禹と、宴を開いていた劉家輝が張り合う場面から始まる。実は汪禹は詐欺師で、盗んだ金品で豪遊していたところを役人に詰め寄られるが、劉家輝の取り成しで捕まらずに済んだ。
だがその際、盗んだ金品を劉家輝にちょろまかされてしまい、すったもんだの末に恵まれない村へ寄付されてしまう。激怒した汪禹は彼に掴みかかるも、遊女の惠英紅(ベティ・ウェイ)に阻まれて手傷を負うのだった(←実は劉家輝の仕業)。
 奇妙なことにこの傷がなかなか治らず、再び劉家輝のもとを訪れた汪禹は「私の解毒剤がなければ完治しない」と告げられ、不本意ながら彼に弟子入りすることとなる。
だがその一方で、朝廷の第四皇子が劉家輝の暗殺を目論み、将軍の羅烈(ロー・リェ)に刺客を放つよう命じていた。ある時は利き酒の席に、またある時は骨董品のお披露目に見せかけて、次から次へと刺客が襲いかかってくる。
 劉家輝は汪禹を巻き込むまいと密かに戦うが、最終的には自らが第十一皇子だと明かした。一連の戦いは次期皇帝の座を巡る争いによるもので、負傷した彼を放っておけない汪禹は正式に弟子入りを志願する。
一か月の短期特訓を経て、いよいよ皇位の継承式に向かうこととなった劉家輝と汪禹。果たして彼らは道中に待ち受ける第四皇子の刺客と、最後の関門である羅烈を突破することが出来るのだろうか!?

▲詐欺師が謎の紳士に振り回され、やがて皇族の陰謀に立ち向かうという単純明快な本作ですが、かつての私はラストシーンに疑問を持っていました。
物語の最後で劉家輝は無事に継承式へ出席し、杖を差し出した汪禹を放り出して終劇となります。これが私には命懸けで皇子のために闘い続け、最後まで気を遣った彼を用済みとばかりに捨てたように見えたため、悲惨すぎるラストと解釈していたのです。
しかし皇帝に謁見する場に一般人を連れ込むのは言語道断だし、そもそも今は継承式の真っ最中。劉家輝がお忍びで旅をしていたことがバレる可能性もありますし(笑)、あそこで汪禹が叩き出されたのは至極当然だと言えるでしょう。

 ところでこれは単なる深読みですが、汪禹があの場にとどまっていれば第四皇子に存在を知られ、更なる危険が及んでいたかもしれません(汪禹が一枚噛んでいることを知っているのは羅烈までで、第四皇子はまだ知らない)。
劇中で登場する皇帝は康熙帝で、その第四皇子といえば後の雍正帝…。劉家輝に対する仕打ちが明るみに出れば、継承式の結果も史実と違うものになっていたかもしれず、どちらにしても宮廷内の波乱は必至だったはずです。
 ゆえに劉家輝は汪禹が関わり過ぎること・知り過ぎることを危惧し、だからこそ彼を強引に継承式の場から叩き出したり、黒幕のことを聞こうとした所を何度もいさめていた…とは考えられないでしょうか?
ただ、そうすると唐偉成(ウィルソン・タン)に詰門した際の辻褄が合わなくなりますが…まぁこれはノーカンということで(苦笑

 そんなわけでストーリーは考察の余地があり、冗長さを感じる部分もあったりしますが、ことアクションについては素晴らしいものを作り上げています。
本作で武術指導を受け持った劉家良は、「アクションシーンの複雑化」をとことんまでに追求しており、1つとしてオーソドックスな立ち回りは存在しません。
 まず最初に劉家輝がこっそり汪禹を牽制し、惠英紅を操って功夫の達人に仕立て上げたかと思えば、王龍威や唐偉成と談笑しているように見せながら激闘を展開。追っ手との戦いでは、車椅子に座った状態で刀や槍などを華麗にかわします。
ラストでは2対3の決闘となり、片足の劉家輝に支援を受ける半人前の汪禹と、連係攻撃で迫る羅烈チームによる複雑化を極めたバトルが展開されていました(ただしこの立ち回りは複雑化が行き過ぎていて、スピード感が削がれていた感があります)。
単なる腕比べに終わらない功夫アクションが、最初から最後まで堪能できるなかなかの良作。ちなみに史実の第十一皇子こと胤[示茲]は11歳で病死しており、本作で劉家輝が演じた勤親王というキャラクターは架空の存在と思われます。

『洪家拳対詠春拳』

2014-04-26 23:33:00 | ショウ・ブラザーズ
「洪家拳対詠春拳」
原題:洪拳與詠春
英題:Shaolin Martial Arts
製作:1974年

▼功夫映画の華といえばアクションですが、特訓や修行の描写も欠かせません。前にも書きましたが修行シーンには大きな利便性があり、これを丹念に描くことで主人公の強さに説得力を持たせ、同時に心身の成長を表すこともできるのです。
香港を代表する名監督・張徹(チャン・チェ)もたびたびこの手法を用いており、本作では傅聲(フー・シェン)と戚冠軍(チー・クワンチュン)、劉家輝(ゴードン・リュウ)と唐炎燦の計4人に修行を施しています。
これらの修行シーンはその後の戦いにちゃんと生かされ、数々の勝負をよりドラマチックに演出しているのですが…詳しくは後述にて。

■漢人が中心の林氏武館と、満州族が中心の八旗武館は犬猿の仲。関帝を祭る儀式の最中にもトラブルが起き、林氏武館の劉家榮(リュー・チャーヨン)が刺し殺されてしまう。
朝廷の将軍・李允中は、これを機に目障りな少林派の林氏武館を潰そうと画策し、八旗武館に強力な2人の助っ人を貸し与えた。1人は鐵布杉の使い手・梁家仁(リャン・カーヤン)、もう1人は気功の名手・王龍威(ワン・ロンウェイ)だ。
 2人の実力は桁違いで、挑戦を受けた林氏武館は壊滅状態に。門下生の傅聲・戚冠軍・劉家輝・唐炎燦は、どうにか師匠である盧迪のもとへ逃げ延びた。
盧迪は劉家輝と唐炎燦に「鷹爪功を習え」と指示し、短期特訓で技を身に付けた2人はリベンジを敢行した。が、梁家仁と王龍威の技は鷹爪功でも破れず、2人はあえなく討ち死にする。
 そこで盧迪は傅聲と戚冠軍に望みを託し、修行のために彼らを出奔させた。しかし、その直後に盧迪の隠れ家が敵に見つかってしまい、死を覚悟した彼は娘の陳依齡とその友人・袁曼姿を逃がすと、自刃して壮絶な最期を遂げた。
傅聲は洪拳の虎鶴雙形、戚冠軍は詠春拳の修行をこなす中でWヒロインと合流。死んでいった師匠と仲間たちに報いるため、八旗武館との最終決戦に臨む!

▲本作のように修行シーンのある作品は無数に存在しますが、場合によっては修行で培った技術がまったく使われないという、本末転倒なケースも少なからずあります。
コメディ功夫片の全盛期にはこうした事例が多発し、目先のインパクトにとらわれて極端な誇張表現が横行。修行シーンから合理性が失われ、アクションがグダグダになる作品が増加したのです。
 こうした問題の原因は、監督と武術指導の力量不足によるものが大きいと考えられます。しかし本作には一流のスタッフとキャストが集結しており、とても良い出来栄えの作品に仕上がっていました。
まず劇中で使用される拳法ですが、きちんと「なぜこの拳法を修行しないといけないのか?」という理由が説明され、単純に見栄えのいい拳法を選んだわけではないことが解ります(できれば本作の視聴前に『嵐を呼ぶドラゴン』と『少林虎鶴拳』を見ておいたほうが良いかも)。
 修行の方法も4人ごとに違い、パターンの重複を避けているのも◎。ラストでは修行で身に付けた技が火を噴き、豪快かつ衝撃的な決着に至っていました。修行を生かす殺陣を構築し、それを最後まで徹底した劉家良(ラウ・カーリョン)と唐佳の手腕、そして張徹の丁寧な演出はやはり素晴らしいと言わざるを得ません。
デビュー間もない梁家仁と王龍威の堂々たる悪役っぷりもナイスだし、張徹作品にしては珍しくWヒロインとのラブコメがあるのも見逃せない本作。欲を言えば、事件の発端となった黄哈の始末はきっちり付けて欲しかった…かな?

「酔拳」に挑んだ男たち(3)『廣東[見]仔玉/烈火神功』

2014-03-10 23:06:18 | ショウ・ブラザーズ
廣東[見]仔玉/烈火神功
英題:Kid from Kwangtung
製作:1982年

●『酔拳』の大ヒットにより、同作に出演したキャストは数々の作品で引っ張りだことなりました。前回は師匠役を演じた袁小田(ユエン・シャオティオエン)について触れましたが、今回は殺し屋・鉄心に扮した黄正利(ウォン・チェン・リー)の便乗作を取り上げてみましょう。
これまでに彼は『南拳北腿』や『鷹爪鐵布杉』などで素晴らしい仕事を見せており、『蛇拳』『酔拳』への出演によって悪役功夫スターの代表格となります。その実力の高さを見込まれた黄正利は、やがて”『酔拳』に出演した俳優”という冠から解き放たれ、次第に模倣品ではない映画にも出演するようになっていきました。
他の『酔拳』共演者たちが同じような役をやらされていたのに対し、テコンドー仕込みの足技で一歩先を駆け抜けた黄正利。この類稀なる俳優を起用せんとする映画製作者は多く、本作で彼は香港映画界の頂点に立つショウ・ブラザーズ社の作品に参加しています。

 当時、ショウブラは『酔拳』に便乗した作品をいくつも撮っていましたが、アクション的には間違いなく本作がベストの出来だと思われます。粗筋はとてもシンプルで、悪ガキの汪禹(ワン・ユー)と蒋金(ジャン・ジン)が清朝と反政府派の戦いに巻き込まれ、それぞれ家族を殺されて仇討ちを目指す!といった感じのお話です。
ヒロインに楊[目分][目分](シャロン・ヤン)、主役2人の先生にして師匠役を任世官、ヒロインの母親を黄薇薇が演じています。黄正利は清朝が放った刺客として暴れ回り、先述した面々と白熱したバトルを繰り広げました。
 とりわけ興味深いのが任世官VS黄正利で、ともにジャッキー映画で最大の強敵として君臨した2人のバトルは壮絶の一言。相変わらず黄正利の見せる足技は凄まじく、得意の三段蹴りもショウブラのスクリーンで見ると新鮮に感じるから不思議です(笑
もちろん他のキャストも奮闘していて、主演の汪禹や珍しく大役を任された蒋金の立ち回りも見応えバッチリでした。脇役の元や關鋒なども見せ場をもらっており、功夫映画ファンは必見の作品といえますね。

 これらのアクションを振り付けたのは本家本元にも参加した徐蝦(ツィ・ハー)で、本作では監督も兼ねています。彼は駆け出しの頃からショウブラで働いていたため、ショウブラが手掛けた『酔拳』便乗作の武術指導を何度も請け負いました。
本作ではオープニングから将軍令を流し、元祖『黄飛鴻』シリーズにあった鶏とムカデの対決を再現するなど、いつも以上に『酔拳』を意識した作風に徹しています(鶏とムカデは李連杰の『烈火風雲』にも登場)。
 しかしコメディ描写がしつこかったり、終盤に人死にが多くなったりと稚拙な部分も多く、ストーリーの出来は微妙と言わざるを得ません。また、本作が製作された頃はコメディ功夫片ブームも終息に向かっており、製作時期を逸していた感もあります。
とはいえ、黄正利inショウブラという点だけでも大きなインパクトを持つ本作。黄正利は今も映画界に身を置いていますが、いつかまた熱気あふれる彼のアクションが見てみたいものです。次回は、第2のジャッキーを目指した若者たち…京劇出身の若手俳優が出演した作品に迫ります!

『少林寺英雄伝(少林英雄榜)』

2014-02-27 21:50:41 | ショウ・ブラザーズ
「少林寺英雄伝」
原題:少林英雄榜
英題:Abbot of Shaolin/A Slice of Death
製作:1979年

●時は清の時代。反清復明を掲げる少林寺は、抵抗活動に必要な武器の設計図を調達すべく、武當派の重鎮・楊志卿のもとへ姜大衛(デビッド・チャン)を派遣する。しかし楊志卿の弟弟子である羅烈(ローリェ)は、少林寺への協力に断固として反対した。
半年後、設計図の収集と鍛錬を終えた姜大衛は帰路に着くが、少林寺は先手を打った清朝の攻撃によって壊滅。ただ1人生き残った彼は、少林寺の再興と清朝打倒を目指して出奔する。
 やがて姜大衛の元には徐少強や呉杭生といった若者たちが集い、寺の再建も順調に進んでいく。だが一方で、密かに清朝と結託した羅烈は楊志卿を暗殺し、旅を続ける姜大衛に迫ろうとしていた。
楊志卿の弟子である李麗麗(リリー・リー)と合流した姜大衛たちは、熾烈な戦いの末に広州からの脱出を決意する。敵の包囲網をかわしながら進む一行だが、彼らの前に宿敵・羅烈が立ちはだかった!

 本作は非常にオーソドックスな少林寺映画で、洪家拳の源流を築いたとされる至善大師が主役となっています。他にも白眉道人を始め、洪熙官や五枚といった伝説上の人物が一堂に会している…のですが、作品としては驚くほど小ぢんまりとしていました(苦笑
製作したのが天下のショウ・ブラザースなので、セットやエキストラの規模は独立プロ作品の比ではありません。しかし、少林寺が焼き討ちされて少林英雄が集まり、白眉道人を倒すという大河ドラマをたったの79分(!)に収めているのです。
 尺が短いので当然ストーリーも駆け足気味。繰り広げられるドラマも必要最低限に絞られ、張徹(チャン・ツェ)や劉家良(リュー・チャーリャン)が手掛けた少林寺映画とは趣を異にしています。
では本作は面白くないのか?と思ってしまうところですが、監督を担当した何夢華(ホー・メンファー)の演出はテンポが良く、意外とそつなくまとまっていました。他作品を意識したキャスティングや、若き大師を爽やかに演じた姜大衛も印象的です。
 ただ、アクションもストーリーと同様に薄味で、やや決め手に欠けているように感じました。武術指導の祥は、『非情のハイキック ~黄正利の足技地獄~』 や『武状元』等で見事な立ち回りを構築しているのですが…。
あっさり風味の作品ではあるものの、少林寺の興亡や少林英雄たちを簡単に知ることができるので、本作は少林寺映画の入門編に適しているといえる…かもしれませんね(爆

追憶:香港映画レーベル(06)『続・少林寺列伝』

2013-11-22 22:30:36 | ショウ・ブラザーズ
「続・少林寺列伝」
原題:少林五祖
英題:Five Shaolin Masters/Five Masters of Death
製作:1974年

▼かつて香港映画最大のプロダクションとして名を馳せたショウ・ブラザーズ。同社の作品はどれもクオリティが高かったのですが、天映娯樂社によってライブラリが解放されるまでは”知る人ぞ知る”存在でした。
キングレコードはそんなショウブラ作品の国内リリースに着手し、充実した特典を満載した「ショウ・ブラザース・スタジオ 黄金のシネマ・シリーズ」を世に送り出したのです。
 劇場公開された『嵐を呼ぶドラゴン』をはじめ、同レーベルからはきら星のような傑作が次々と発売されました。このシリーズは第3期(レーベル名は「ショウ・ブラザース 黄金のシネマ・シリーズ」に変更)まで続いており、本日紹介するのは第2期の作品です。
本作は名編『少林寺列伝』より先に作られていますが、物語的には『少林寺列伝』の後日談にあたります。主演は傅聲(フー・シェン)、戚冠軍(チー・クワンチュン)、姜大衛(デビッド・チャン)、狄龍(ティ・ロン)、そして孟飛(メン・フェイ)の5人となっています。

■少林寺の焼き討ちから逃れた傅聲たち少林五祖は、清朝打倒と死んでいった仲間たちの敵を討つため、各地に散らばる同志たちのもとへと向かう。一方、焼き討ちを決行した江島率いる朝廷の精鋭たちも、彼ら反政府グループを血眼で追っていた。
傅聲たちは戦いの中で強敵と巡りあい、ともに少林寺で修行した王龍威(ワン・ロンウェイ)が焼き討ちを手引きしたのだと知る。再会した5人はいったん反政府グループから離脱し、江島たちを倒すための修行に専念した。
 少林寺に戻った傅聲たちは、各々が倒すべき相手を想定しての特訓に打ち込んでいく。やがて反政府グループの動きに呼応し、江島たちが先発隊として出動。5人はこれを迎え撃つべく、最後の戦いに挑むのだった。
棒術の狄龍VS飛斧の葵弘、三節鞭の姜大衛VS双子つきの江島、地功拳の孟飛VS劈掛掌の梁家仁(リャン・カーヤン)、十形拳の戚冠軍VS蟷螂拳の馮克安(フォン・ハクオン)、虎鶴雙形の傅聲VS梅花拳の王龍威……果たして、生き残るのは誰だ!?

▲大導演・張徹(チャン・ツェー)の監督作にしてはシンプルな作りですが、それだけにアクション描写が光る傑作です。本作で注目すべきは孟飛の存在で、彼とショウブラ俳優たちとの絡みは実に貴重。個人的には他作品でも絡みのない王龍威あたりと戦って欲しかったなぁ…。
動作設計は安心と信頼の劉家良(ラウ・カーリョン)なのでバッチリ。『少林寺列伝』と比べるとボリューム不足ではあるものの、出演者それぞれの個性を引き立たせ、それでいて見応え十分の殺陣を構築している様は流石と言うほかありません。
 張徹らしさという点では他の監督作に劣りますが、主役と敵役が各々5人もいる本作に重厚なドラマまで盛り込むと、詰め込みすぎて窮屈な印象を与えてしまう恐れがあります(『少林拳対武当拳』は詰め込みすぎの典型)。
それゆえに本作は5人全員の見せ場を均等に割り振り、ドラマの不足を功夫アクションで補ったのです。この経験がやがて『少林寺列伝』に繋がっていくと思うと、なんとも感慨深いものを感じてしまいました。
 さて、本レーベル以降も同様の企画は続き、キングレコードからはゴールデンハーベストの初期作品をまとめた「フォーチュンスター クンフー・クラシックス20」が登場します。
さらに角川エンタテイメントからは、事実上のシリーズ第4期となる「ショウ・ブラザース エクセレントセレクション」が登場。これらの旧作発売ラッシュにより、今まで日の目を見なかった傑作たちが身近な存在となりました。
そして2010年代となった現在、香港映画レーベルは新たな段階へと進みます。香港映画レーベルの行き着く先とは…次回、特集最終回です!

『佛都有火/佛家小子』

2013-09-16 22:16:24 | ショウ・ブラザーズ
佛都有火/佛家小子
英題:The Boxer from the Temple
製作:1979年

●ある日、少林寺の前に1人の赤ん坊が捨てられていた。不憫に思った館長は、この子を寺で育てる事を決める。それから十数年が経ち、赤ん坊はやんちゃ坊主の呉元俊へと成長した。
功夫が習いたくて仕方ない呉元俊は、館長の計らいで十八羅漢拳の修行を受ける。しかし兄弟弟子とトラブルを起こしたため、彼は一時的に寺から追い出されてしまう。
 その後、呉元俊はとある小さな町に流れ着き、悪事を働く關鋒の一派を追い払った。町の人々に賞賛された彼は食道の店主となり、關鋒の経営する娼館から逃げてきた黄薇薇を保護。關鋒一派の反撃をいなしつつ、程なくして呉元俊は彼女と結ばれた。
だが、關鋒一派が殺し屋の劉鶴年を呼び寄せたことで、事態は急変する。劉鶴年によって黄薇薇とその弟、さらには呉元俊の部下だった劉晃世までもが殺されたのだ。激怒する呉元俊は、下山する際に館長から言われた戒めを破り、復讐に燃えるが…。

 本作はショウ・ブラザーズがコメディ功夫片ブームにぶつけた便乗作の1つですが、終盤で思いっきり失速してしまった作品です。
ストーリーは典型的なコメディ作品のパターンで、途中から主人公がヒロインと結婚するという、ほんわか幸せなシークエンスへと突入します。このへんの和やかな雰囲気は悪くありませんが、劉鶴年が登場した途端に陰惨な方向へとシフトしてしまいます。
 「積み重ねた雰囲気を壊して血生臭い展開に走る」…これと同様の作風を持った作品に『癲螳螂』(伝説の大怪作)がありますが、本作はそこまで鮮烈な印象は残せておらず、単に後味が悪いだけの作品と化しています。普通にコメディに徹していれば亜流なりに面白くなっていたはずなのに…。
ショウブラ作品なのでセットやエキストラは豪勢ですが、作品自体がこんな出来なので援護には至らず。これまで取り上げてきたショウブラ産コメディ功夫片の中でも、本作は特にマズい出来だったと思います。
 一方の功夫アクションについても、袁和平(ユエン・ウーピン)を意識した…というかマネた立ち回りを見せていて、やや個性に欠けていました。しかし、クライマックスでコメディ色が無くなると同時に、作中のアクションは一段と激しさを増していきます。
 ザコの棍棒をかわし、蹴り技を放つ劉鶴年を跳ね除け、最後は扇子を振るう關鋒と激突!この一連のファイトシーンでは、七小福出身である呉元俊の伸びやかな動きが生かされ、華麗な激闘が繰り広げられていました。
この他にも、本来は武術指導家である劉晃世や黄薇薇も活躍するのですが、コメディ演出をやめた途端にアクションレベルが上がるとは、なんとも皮肉な話です(ちなみに武術指導は本家『酔拳』の徐蝦と、ショウブラ系の元&徐發)。
とはいえ、本作が失敗作であることに変わりはありません。同じ羅馬(ロー・マ)の監督作なら、私は『唐山五虎』のほうが好きですね。

『少林拳王子(少林傳人)』

2013-07-01 23:08:13 | ショウ・ブラザーズ
「少林拳王子」
原題:少林傳人/少林辣撻大師
英題:Shaolin Prince/Death Mask of the Ninja
製作:1983年

▼皆さんご無沙汰です。現在、私事で重要な出来事が起こっており、ブログにタッチしにくい状況が続いています。しばらくは以前よりもスローな更新になると思われるので、どうかご了承下さい。
さて今回紹介するのは、かの秀作『少林羅漢拳』を手掛けた武術指導の大家・唐佳(タン・チァ)の監督作です。本作が作られた1983年は、『プロジェクトA』や『悪漢探偵2』などが公開され、香港映画全体が急速な勢いで発展していました。
本作はそれらの作品と比べると、ちょっと時代遅れ気味です。しかし内容に関してはとても優れていて、あと3年早く公開されていたら『少林羅漢拳』ともども大ヒットを飛ばしていたかもしれません。ですが、時代は淡々と…そして容赦なく変革の時を迎えてしまいます。

■時の皇帝が逆賊・白彪(バイ・ピョウ)とその軍勢によって討たれた。残された2人の皇子は臣下たちに救い出され、1人は宰相の谷峰(クー・フェン)に、もう1人は少林寺の戒律院を守る3人の変人和尚(笑)に託された。
それから20年あまりの時が経ち、宰相のもとで育てられた皇子は爾冬陞(イー・トンシン)へ、少林寺に預けられた皇子は狄龍(ティ・ロン)へと成長。一方で白彪は甥を皇帝に仕立て上げ、影で国家を牛耳っていた。
 そんな中、白彪は皇子たちが生きていているのではと疑念を抱き、同時に少林寺に収められた秘術・易筋経を手入しようと画策していく。爾冬陞も仇討ちのために易筋経を求めていたが、肝心の易筋経は変人和尚たちを介して狄龍に伝授されていた。
さっそく少林寺を尋ねた爾冬陞だが、少林僧でありながら朝廷の犬に成り下がった李海生(リー・ハイサン)たちによって窮地に陥り、狄龍ともども脱出せざるを得なくなってしまう。
かくして、2人は打倒・白彪を誓って一致団結。意見の相違により対立することもあったが、最終的に互いが兄弟であることを知り、少林寺に攻め入ろうとした白彪に立ち向かっていく。果たして勝つのは2人の皇子か、邪悪な反逆者か!?

▲『少林羅漢拳』が謎解き要素の強い話だったのに対し、本作は2人の皇子が悪を討つという単純明快な筋立てとなっています。登場人物たちも個性豊かで、オカルトからホッピングまで飛び出す展開の奔放さも魅力の1つといえるでしょう(ちなみに脚本はあの王晶!)。
 アクションシーンもボリューム満点で、中盤の羅漢陣との激闘は圧巻の一言。『少林羅漢拳』でも似たようなシークエンスはありましたが、ワイヤーワークの縦横無尽さでは本作も負けていません。
さらにラストバトルでは、白彪が変形しまくる御輿に乗り込み、ハチャメチャな暴れっぷりを見せています。こういうギミック重視のアクションは唐佳の得意技ですが、この一戦は御輿と白彪の死に様(見てのお楽しみ)のせいで完全にギャグと化していました(爆
 本作が公開された2年後、本作の製作元であり業界最大手だったショウ・ブラザーズは、経営不振により映画事業から撤退します。ショウブラの衰退は1つの時代が終わった事を意味し、新たな風が香港映画界を包み込んでいきました。
しかし、たとえ変革を経て時代遅れになろうとも、ショウブラ作品は決して輝きを失ってはいないのです。当ブログでは、こうした作品を今後も紹介していきたいと思っています。

【春のBOLO-YEUNG祭り①】『血洒天牢/血酒天牢』

2013-04-04 21:49:44 | ショウ・ブラザーズ
血洒天牢/血酒天牢
英題:The Rescue
製作:1971年

●というわけで、今月は「春のBOLO-YEUNG祭り」と題しまして、香港映画を愛する者なら誰もが知っている楊斯(ボロ・ヤンorヤン・スェ)にスポットを当てたいと思います!
楊斯は1946年に広東省で生まれ、重量挙げや功夫などを学んだといわれています。彼は60年代に中国から脱出しますが、泳いで香港に渡ったという逸話は皆さんもご存知のことでしょう。
 渡航後、楊斯は持ち前の肉体美を生かしてボディビルの王者となり、ある映画プロダクションから映画出演の誘いを受けます。そのプロダクションこそ、当時香港で最盛を誇っていたショウ・ブラザーズ(邵氏兄弟有限公司)でした。
70年代初頭のショウブラは功夫片よりも剣戟映画を重視し、『片腕必殺剣』を始めとした多くの傑作・名作が作られていました。本作では施思(シー・ズー)と羅烈(ロー・リェ)という2人のスター俳優が主演を飾り、作品に大きな花を添えています。

 この『血洒天牢』は南宋末期に実在した軍人・文天祥を巡る物語です。文天祥は滅亡の危機に瀕していた南宋に最後まで仕えた忠臣で、元朝に対して抵抗活動を続けていましたが、1278年にとうとう捕えられてしまいました。
その実力の高さを買われ、元朝から仲間にならないかと勧誘されたものの、彼は刑死するまで南宋への忠義を貫き続けたと伝えられています。本作は獄中にあった文天祥を助けようと、南宋の残党たちが難攻不落の監獄に挑む!という物語なのです。
尺の大半は残党の女剣士・施思と、飄々とした侠客・羅烈の2人による監獄攻略戦に集中。わざと入獄したり、トンネルを掘ったりして文天祥(演ずるは房勉)を助けようとしますが、獄長である金珠(!)の策略の前に翻弄され、最終的には総力戦に発展します。

 まず作品自体の評価ですが、ストーリーはそれほど大したものではありません。脱獄を阻止されて失敗するパターンが3回も続くうえに、文天祥の死因や、今わの際に書かれた詩が「正気の歌」ではなく「過零丁洋」の方だったりと、いくつか史実との差異が見られます。
とはいえ、血まみれで戦う施思や羅烈の姿は儚くも美しく、ワイヤーワークを取り入れたアクションシーンも実に迫力がありました(武術指導は唐佳と袁祥仁!)。唯一の不満点は終盤にタイマン勝負がないこと。せめて金珠が動ける役だったらなぁ…。

 結局のところ、ひいき目に見ても佳作の域を出ない作品ではありますが、楊斯はなかなか目立っています。彼は敵のモンゴル系用心棒として登場し、前半で羅烈と対決。後半では施思に敗北を喫し、なりゆきで残党メンバーに協力するという美味しい役を演じていました。
しかし、俳優としていまいちビッグになりきれず、次第に楊斯はショウブラから離れてしまいます。そんな彼に救いの手を差し伸べたのが、プライベートでも親交のあった李小龍(ブルース・リー)でした。『燃えよドラゴン』…この稀代の傑作に出演した事で、楊斯の運命は大きく変わっていくのです。
(次回へ続く!)