「ドラゴンヤンキー」
製作:2015年
●松竹倍ヶ原高校で無敵を誇る藤田佳秀は、他校との抗争で先輩の佳本周也や仲間を傷付けられてしまう。深手を負った佳本は姿を消し、場面は安田郁雄(武術指導も兼任)が主宰する世界最強格闘技塾へと移る。
この道場で武術の腕を磨いた武流巣利一こと玖導成近は、師範代の藤原喜明から「荒れた松竹倍ヶ原高校を正して欲しい」と直々に命じられた。玖導は学校へ通ったことすら無かったが、格闘技の腕前だけを頼りに学校へと向かう。
登校初日に知り合った留川真帆によると、松竹倍ヶ原高校は普通の学校などではなく、通っているのは名うての不良ばかり。戦いの勝者には金一封が与えられ、全校生徒が日々ケンカに明け暮れているというのだ。
さっそく玖導もその洗礼を受け、最初の腕試しで相手を一発ノックアウト。あっという間に注目の的となるが、学園長のみろはルール無用の格闘大会を開催しようとしており、不良たちは玖導を率先して潰そうと画策する。
一方、大会をよそに頂点を目指す玖導は、武器使いの教頭たち・留川・中国から来た項羽を次々と下し、ついに藤田との決戦を迎える。だが、戦いの中で学校に対して疑問を抱くようになり、物語は思わぬ方向へと進んでいく。
時は流れて1年後――玖導と藤田たちは協力して身を潜め、生徒を戦わせて金持ち相手の道楽に利用していた高校と戦っていた。そして黒幕はみろではなく、本当の敵が2人の前に立ちはだかるのだが…?
数えきれないほどの不良映画を作り出し、自らのプロダクションで若手俳優とともに戦い続けた佳本監督。その激闘は今も続いていますが、本作では李小龍(ブルース・リー)的な要素を散りばめ、アクション重視の作品で勝負に出ています。
ストーリーについても、冒頭の玖導と藤原による何処かで見たことのある問答、黒幕が主人公と同じ道場の出身者という設定など、『燃えよドラゴン』を意識した描写が幾つか見られました。
ところが、玖導VS藤田が終わった辺りから流れが変わり始め、物語が徐々に迷走してしまうのです。終盤は唐突かつ具体性のない描写が続き、登場人物たちも「何が何だかサッパリ」「訳が分からない」と発言するなど、混迷を深めていきます。
金持ち連中の存在や設定は台詞だけで片付けられ、殆どのキャラクターが何のために動いているのか解らず、学校を出た生徒たちの行方については完全に放置という有様。こうした描写の不親切さ、説明の不足には私も参ってしまいました。
ただし、格闘アクションにだけ集中して見るのであれば、本作は見事な立ち回りを構築しています。序盤は監督自らが派手な蹴りを放ち、玖導VS大村一隆軍団の激突はラストバトルにしてもいいほどのクオリティでした。
その後もハードな小競り合いが続き、玖導VS武器使いコンビでは体当たりのガチンコ勝負を披露。続くVS留川とVS項羽はやや地味(決着も説得で終わり)ですが、玖導VS藤田ではアクロバットな動作も交えた激闘が繰り広げられます。
そして終盤では、先の勝負では決着が付かなかった玖導VS大村のリターンマッチが勃発し、藤田と黒幕が対峙するのですが…残念なことに再び説得する展開に移行し、なんとも尻すぼみな結果となってしまうのです。
ここまで重要な局面のバトルが上質なものばかりだっただけに、ラストバトルもエンジン全開の肉弾戦で締めて欲しかったところ。とはいえ、全体のアクションレベルは決して低くないので、先述の対決だけでも一見の価値はあると言えます。
佳本監督は不良映画のムーブメントに乗り、自らが思い描くヤンキー像を突き詰め、激しい格闘アクションだけを武器に業界を渡り歩いてきました。
全国規模の劇場公開作品と比べると、氏の監督作は完成度という点において後れを取っている部分があり、それが大きな弱点となるケースも多々あります。しかし、佳本監督は怯むことなく作品を撮り続け、不良映画専業の監督として唯一無二の存在となったのです。
果たして今後も不良映画だけを撮っていくのか、それともベーシックなアクション作品を開拓するのか…現時点では何も解りません。ですが、不良映画とそれを求める人々が存在する限り、彼は決して戦いを止めようとはしないはずです。
今回の特集はこれにて終わりますが、佳本監督と若手俳優たちの活躍はこれからも続いていく事でしょう。そんな彼らにネットの片隅からささやかなエールを送りつつ、本稿の締めにしたいと思います。(特集、終わり)
製作:2015年
●松竹倍ヶ原高校で無敵を誇る藤田佳秀は、他校との抗争で先輩の佳本周也や仲間を傷付けられてしまう。深手を負った佳本は姿を消し、場面は安田郁雄(武術指導も兼任)が主宰する世界最強格闘技塾へと移る。
この道場で武術の腕を磨いた武流巣利一こと玖導成近は、師範代の藤原喜明から「荒れた松竹倍ヶ原高校を正して欲しい」と直々に命じられた。玖導は学校へ通ったことすら無かったが、格闘技の腕前だけを頼りに学校へと向かう。
登校初日に知り合った留川真帆によると、松竹倍ヶ原高校は普通の学校などではなく、通っているのは名うての不良ばかり。戦いの勝者には金一封が与えられ、全校生徒が日々ケンカに明け暮れているというのだ。
さっそく玖導もその洗礼を受け、最初の腕試しで相手を一発ノックアウト。あっという間に注目の的となるが、学園長のみろはルール無用の格闘大会を開催しようとしており、不良たちは玖導を率先して潰そうと画策する。
一方、大会をよそに頂点を目指す玖導は、武器使いの教頭たち・留川・中国から来た項羽を次々と下し、ついに藤田との決戦を迎える。だが、戦いの中で学校に対して疑問を抱くようになり、物語は思わぬ方向へと進んでいく。
時は流れて1年後――玖導と藤田たちは協力して身を潜め、生徒を戦わせて金持ち相手の道楽に利用していた高校と戦っていた。そして黒幕はみろではなく、本当の敵が2人の前に立ちはだかるのだが…?
数えきれないほどの不良映画を作り出し、自らのプロダクションで若手俳優とともに戦い続けた佳本監督。その激闘は今も続いていますが、本作では李小龍(ブルース・リー)的な要素を散りばめ、アクション重視の作品で勝負に出ています。
ストーリーについても、冒頭の玖導と藤原による何処かで見たことのある問答、黒幕が主人公と同じ道場の出身者という設定など、『燃えよドラゴン』を意識した描写が幾つか見られました。
ところが、玖導VS藤田が終わった辺りから流れが変わり始め、物語が徐々に迷走してしまうのです。終盤は唐突かつ具体性のない描写が続き、登場人物たちも「何が何だかサッパリ」「訳が分からない」と発言するなど、混迷を深めていきます。
金持ち連中の存在や設定は台詞だけで片付けられ、殆どのキャラクターが何のために動いているのか解らず、学校を出た生徒たちの行方については完全に放置という有様。こうした描写の不親切さ、説明の不足には私も参ってしまいました。
ただし、格闘アクションにだけ集中して見るのであれば、本作は見事な立ち回りを構築しています。序盤は監督自らが派手な蹴りを放ち、玖導VS大村一隆軍団の激突はラストバトルにしてもいいほどのクオリティでした。
その後もハードな小競り合いが続き、玖導VS武器使いコンビでは体当たりのガチンコ勝負を披露。続くVS留川とVS項羽はやや地味(決着も説得で終わり)ですが、玖導VS藤田ではアクロバットな動作も交えた激闘が繰り広げられます。
そして終盤では、先の勝負では決着が付かなかった玖導VS大村のリターンマッチが勃発し、藤田と黒幕が対峙するのですが…残念なことに再び説得する展開に移行し、なんとも尻すぼみな結果となってしまうのです。
ここまで重要な局面のバトルが上質なものばかりだっただけに、ラストバトルもエンジン全開の肉弾戦で締めて欲しかったところ。とはいえ、全体のアクションレベルは決して低くないので、先述の対決だけでも一見の価値はあると言えます。
佳本監督は不良映画のムーブメントに乗り、自らが思い描くヤンキー像を突き詰め、激しい格闘アクションだけを武器に業界を渡り歩いてきました。
全国規模の劇場公開作品と比べると、氏の監督作は完成度という点において後れを取っている部分があり、それが大きな弱点となるケースも多々あります。しかし、佳本監督は怯むことなく作品を撮り続け、不良映画専業の監督として唯一無二の存在となったのです。
果たして今後も不良映画だけを撮っていくのか、それともベーシックなアクション作品を開拓するのか…現時点では何も解りません。ですが、不良映画とそれを求める人々が存在する限り、彼は決して戦いを止めようとはしないはずです。
今回の特集はこれにて終わりますが、佳本監督と若手俳優たちの活躍はこれからも続いていく事でしょう。そんな彼らにネットの片隅からささやかなエールを送りつつ、本稿の締めにしたいと思います。(特集、終わり)