功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『決鬥死亡塔/人生遊戯』

2009-09-27 22:27:57 | バッタもん李小龍
決鬥死亡塔/人生遊戯
英題:True Game of Death
製作:1979年(1981年説あり)

●バッタもん李小龍(ブルース・リー)作品は数あれど、この作品ほど香港映画界の闇を浮き彫りにした物も珍しい。本作は『死亡遊戯』撮影中のサモハンが拉致られ、台湾で無理矢理撮らされたいわく付きの映画であることは皆さんもご存知の通り。ただ、どうも本作はそれだけの作品ではない事を伺わせる「影」を感じるのだが…(後述)
オープニングはバッタもん作品おなじみの葬儀シーンなどで構成されているが、どうも後から加工した映像を被せてあるらしい(カット割が明らかに映画のそれではない)。作中ではたびたび李小龍本人の映像が挿入されるが、これらも後から挿入された映像のようだ(余談だが、どうも本作は龍天翔のトレーニングシーンが冒頭に出るバージョンとラストに出るバージョン、ラストに出てナレーションが被るバージョンの3つがあるようだ)。
本編のほうはスーパースターの龍天翔が黒社会に目を付けられ、殺されかけるが復讐に転じて…と、本家『死亡遊戯』にそっくりの話が綴られる。恐らく作り手は本家『死亡遊戯』のプロットを参考にして製作したのだろうが、実際の作品そのものは壊滅的に酷い。
たぶん別の映画から拾ってきたと思われる龍天翔VS唐家拳のバトルを挟み、いよいよ物語はクライマックスへ。本作が面白くなってくるのは正にここからで、本家『死亡遊戯』のバイクチェイスやレッドペッパー・タワーの攻防が、忠実に(かつ中途半端に)再現されている。サモハン指導の功夫アクションはやはり一級品で、タワーで繰り広げられる死闘は意外と面白い。
しかしサモハンの事情を考えると少々複雑な心境になってしまうところであり、のちに『燃えよデブゴン』でバッタもん李小龍に対して吠えた気持ちも良く解るというもの。『燃えよデブゴン』で見せたあの怒りは、もしかすると本作に向けられたものだったのではないだろうか。

ところでこの作品、私がサモハンよりも気になったのが龍天翔だ。龍天翔は70年代に台湾でB級功夫片に出演し、当ブログでも紹介した『雙龍屠虎』はその時期の作品に当たる。ところが、80年代を境に龍天翔は突然ショウブラに現れるのである。台湾から突然抜擢されて…という流れは程天賜も同様だが、ショウブラ上陸の直前に龍天翔は本作に出演していた。龍天翔自身は黒社会の人間ではないが、このような粗悪品に出演していた事実は大きなマイナスイメージになったはず。それなのに、ショウブラはこの龍天翔という男をどうして受け入れたのか?
彼を擁立した張徹(チャン・チェ)監督の熱烈な支持があったという可能性も考えられるが、私は何か別の大きな力が働いている気がしてならないのだ。

一旦、話をショウブラに移そう。かつて、李小龍の獲得に失敗してライバル社のゴールデンハーベストに餌を与える結果となった事を、ショウブラ側は大層悔んでいたと聞く。李小龍に対する大きな憎悪は『実録ブルース・リーの死』という作品を生むが、それだけでショウブラの反論は終わったのだろうか。
『新死亡遊戯・七人のカンフー』という作品がある。こちらも黒社会産の映画として知られ、さる某氏の影が見え隠れする作品として有名だ。ところが書籍「ドラゴン大全科」では、『新死亡遊戯』がショウブラ作品として紹介されている。実際の製作会社はショウブラと無関係だったが、近年になって天映娯楽からショウブラ作品と共に『新死亡遊戯』が発売されるという異例の事態が起きた。
また、ショウブラからは呂小龍(ブルース・リ)というバッタもんスターが輩出されている。この呂小龍がショウブラを出た後にすぐ撮ったのが『龍門秘指』なる作品で、苗可秀・陳惠敏・羅烈という大物が大挙して出演していた。ショウブラ時代は単なる脇役でしかなかった男が、いきなりの初主演作(しかもバッタもん映画)で、ここまでの豪華キャストを容易に揃えられる事が出来ただろうか。ちなみに苗可秀は『龍門秘指』での出演後、古巣のハーベストから唐突にショウブラへと渡っている。

突然ショウブラに現れて主演作を撮るまでに急成長した龍天翔、ショウブラに関連したバッタもん李小龍たちの動向…果たしてこれらの出来事は何を意味するのか。いささか暴論気味な話となったが、もしかすると龍天翔を押し上げた存在の正体は意外な所に潜んでいるのかもしれない。

『ドラゴン酔太極拳』

2009-09-23 21:42:26 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ドラゴン酔太極拳」
「女デブゴン強烈無敵の体潰し!」
原題:笑太極/醉太極
英題:Drunken Tai Chi
製作:1984年

▼80年代中期、袁和平(ユエン・ウーピン)は苦闘を強いられていました。かつては『酔拳』でジャッキーをスターダムに押し上げ、サモハンやユンピョウともコラボを果たしてきた男も、近代化の進む香港映画界から徐々に取り残されつつあったのです。
ハーベストから飛び出した袁和平ら袁家班は台湾へ向かい、羅維(ロー・ウェイ)や第一影業などを転々としながらオカルト功夫片の製作に着手。当時全盛を極めていたキョンシーをあえて取り入れず、独自のキャラクターやクリーチャーで勝負したまでは良かったものの、パッとしない状況に変わりはありませんでした。
 本作はその袁和平が監督した作品で、甄子丹(ドニー・イェン)のデビュー作としても名高い一編です。本作が作られた1984年は香港映画にとって転換期にあたり、そんな時期に本作のような古いコメディ功夫片を作るとは、いささか時代遅れの感があります。
袁和平らもそれは解っていた様で、作中に自転車や爆破アクションを取り入れているんですが、やはり古臭さは否めません。結果として本作はヒットに恵まれなかったようですが、決して悪い作品ではなかったのです。

■やんちゃ者の甄子丹は兄貴(袁日初)思いな男だが、あるトラブルで金持ちドラ息子の陳志文から恨みを買ってしまう。さっそく報復に現れる陳志文だが、甄子丹はこれをサラッと返り討ちに。ところがアクシデントで陳志文が知的障害者となり、陳志文の父である王道(ウォン・タオ)は息子の復讐を誓い、殺し屋の袁信義(ユエン・シンイー)を差し向けた。
袁信義によって父・李昆と袁日初を殺された甄子丹は、たまたま知り合った袁祥仁(ユエン・チョンヤン)の元に転がり込み、そこで太極拳を伝授される事に。のちに陳志文と王道の問題は決着がついたが、最後に袁信義との対決が待っていた…。

▲…と、物語的に内容はこれだけ。袁祥仁のキャラは一連のオカルト功夫片そのままで、ギャグやギミックの演出は『妖怪道士』の時から殆ど進歩していないし、それらが更に本作の古臭さを助長させています。また、これまで狂気の殺人鬼を演じる事の多かった袁信義を、本作では子持ちという設定にして奥行きを広げる事に成功しています…が、袁信義の息子が辿る末路を考えると、オチにも重苦しさを感じてしまいました。
本作はオカルト功夫片の流れを汲む作品であり、上記の通り全ての演出が『妖怪道士』といった作品群の延長線上にあります。もし今回も袁日初が主演であったなら、恐らく単なる珍作で終わっていたに違いないですが、袁和平とて同じドジを踏むはずがありません。本作が傑作として昇華し得たのは、何よりも甄子丹という新風の存在があったからなのです。

 本作における甄子丹は気のいいあんちゃんを好演していて、オープニングで見せる太極拳の演舞も実に華麗。柔らかさの中にも力強さを感じさせる動きは本当に素晴らしい出来栄えです。武術指導は袁和平が渾身の殺陣を構築し、バラエティに富んだアクションシーンは圧巻の一言。ところどころリアル・ヒッティングな技を見せる部分があり、のちの甄子丹作品を連想させるカットも存在します。
甄子丹との出会いを経た袁和平は動作片へ方針を転換し、『タイガー刑事』系列や古装片で再び盛り返していきました。しかし甄子丹が自らの元から離脱した際、袁和平は呉京(ウー・ジン)を彼の後釜として担ぎ出しますが、本作同様にまたも失敗を喫してしまいます。
 その失敗作というのが『太極神拳』(この作品も本作と同じ太極拳の映画)で、この作品は時代に合ったワイヤー古装片だったんですが、ストーリーがあまりにも二番煎じ過ぎたために凡作止まりの出来でした。この失敗が相当応えたのか、袁和平は『太極神拳』を最後に監督業から退き、武術指導家に専念していくことになります。
しかし、『太極神拳』から数えて13年目の今年(2009年)、袁和平は再びその手にメガホンを構えました。それが趙文卓主演作『蘇乞兒』です。『蘇乞兒』も本作と同じく袁家班が結集して製作に当たっているとの事ですが、果たして『蘇乞兒』は袁和平にとって三度目の正直となるのか…是非とも期待して待ちたいところです。

『ワル 外伝』

2009-09-18 22:34:28 | 日本映画とVシネマ
「ワル 外伝」
製作:1998年

▼タイトルの『ワル』とは真樹日佐夫原作の学園バイオレンス劇画の事で、本作はその劇画作品の実写版になります。
主人公・氷室洋二は「ワル」の異名を持つ凄腕の不良で、木剣の達人でもあった。幼少のトラウマによって日常的な暴力を求める彼は、教師や同級生らと死闘を繰り返していく。最終的には自分を更生させようとする女教師を手込めにし、対立していた別の教師を殺害して少年院送りになるのだった……と、原作は要約するとこんな感じの物語でした。
この強烈な物語が1970年に少年マガジンで連載されていたとは驚きです。不良漫画といえば現在も数多く連載されていますが、『ワル』からは甘酸っぱい青春要素や、気になるあのコとの恋愛要素は微塵も感じられません。『男組』の時もそうでしたが、70年代の不良漫画はまさにアウトローを地で行く不良漫画であったことが感じられます(まぁ今回も現物の漫画は見ていないのですが・汗)。

 『ワル』はその後もタイトルを変えて長期連載を続け、同時に実写版も多く作られました。70年代には『非情学園ワル』三部作が製作され、現在に至るまで様々な作品が断片的に生み出されていますが、最も有名なのは白竜主演の『新書ワル』系列でしょうか。
本作は本宮泰風演じる氷室洋二が、様々なトラブルに直面する様を描いています。当初は学校を舞台にしていた氷室も、シリーズを重ねる事に刑務所・裏社会へと活動の場を移行。本作は恐らく『新書ワル』ぐらいの時期を扱ったエピソードのようです。

■物語は氷室が手込めにしている元女教師(演渡辺典子)が、高飛車なアイドルの事故によって怪我を負わされる事から動き出す。「俺の女に謝れよこの野郎!」とアイドルの自宅に乗り込む本宮だったが、ちょうど3人組の脱獄囚が彼女に乱暴狼藉を働いている最中だった。普通の正義感あふれる主人公なら助けに入るところだが、本宮はアイドルに文句があるので暴漢を傍観するだけだ(寒
結局、なんだかんだで脱獄囚らを蹴散らした本宮だが、今度は彼のことを知った警察署長・真樹日佐夫が接触してきた。2人は成り行きから空手道場で立ち会うことになるが、真樹センセイの拳に本宮は全く太刀打ちができない。ところで真樹センセイ…そのナリはどう見ても署長には見えませんよ!(爆
その後、日を改めてアイドルの元に現れた本宮は、脱獄囚が残した盗撮写真でアイドルを脅迫して強引に謝罪を強要する。この仕打ちに逆ギレした彼女は、ヤクザに頼んで本宮へ報復しようと企んだ。だが一方で、脱獄囚の仲間である元キックボクサー・村上竜司も本宮に果し合いを挑んでいた。交錯する二者の陰謀…特にこれが絡むことは無いが(オイ!)、本宮は自ら修羅の中へと歩み出すのであった。

▲正直、かなり期待外れな作品でした。カメラワークも演技もどこか軽く、不必要に多いお色気シーンが作品のテンポを悪くしています。私が見たのはDVD版ですが、まるでビデオをダビングしたかのような画質だったのも大減点です。これらマイナスポイントの多可もあってか、肝心のストーリーにも今一歩乗り切れませんでした。
 出演者は真樹や村上竜司というモノホンの方々が名を連ねていて、彼らと本宮のバトルも用意されています。しかし、効果音の偏り(打撃音はあるが風切り音がないので実に不自然)や余計な演出(インパクトの瞬間に不自然なスロー処理を入れる等)が殺陣のスピード感をことごとく削いでいます。
ラストの本宮VS村上では、両者がジャンプキックを放った瞬間にエンドマークが叩き付けられるという中途半端な幕引きで終わっており、実写版『ワル』初接触としては散々な結果になってしまいました。とりあえず他の『ワル』実写版に望みを託したいと思いますが…。
なお、原田龍二は本宮と廊下ですれ違う男の役、峰岸徹は冒頭の回想シーンで顔見せするだけで、両者とも特別出演扱いとなっています。

『沖天炮/冲天炮』

2009-09-15 22:44:37 | カンフー映画:佳作
沖天炮/冲天炮
英題:Two Graves to Kung Fu/The Inheritor of Kung Fu
製作:1977年(73年?)

▼多分このブログを見ている人は既にご存じかと思いますが(2回目)、この秋に協利作品が何本か発売されるようです。
もうそのラインナップは各所で公開されてますが、まさか『天才功夫』に『匯峰號黄金大風暴/闖禍』までソフト化されるとは未だに信じられません(笑)。しかし『猴形扣手』発売中止の件もあるので実際にリリースされるまで油断はしない方が良いかと思われます(個人的には『猛男大賊[月因]脂虎』の商品化には納得できないところもあるのですが・爆)。ということで今回は『カンフー・クエスト/覇者の剣』に引き続き、再び協利電影発売を記念した協利レビューをお送りしていきます。
この作品、主演はショウブラから出向してきた劉家榮(ラウ・カーウィン)で、同じくショウブラで仕事をこなしてきた仲間たちが会しているが、どうも彼の単独主演作は(私が知る限りでは)本作だけのようだ。劉家榮の代表作として有名な『Mr.ノーボディ』は石天(ディーン・セキ)が脇に来るし、デブゴン映画ではサモハンが影の主役として立ち回った。もっともこれらは後出しの付加価値に過ぎないが、結果的に本作は歴史上唯一の劉家榮単独主演作ということになる。流石は協利電影、目の付け所が斜め上を行っているぞ(笑

■物語はとてもシンプルで、劉家榮と4人の悪党が切った張ったの大勝負を繰り広げるというものだ。劉家榮は採石場で働く好青年で、石堅(シー・キェン)の道場に通っている。そんな劉家榮たちの町に、突如として怪しげな男たち(徐蝦・王將・黄培基)が出没するようになった。不穏な空気が町を支配する中、劉家榮は王將が起こした殺人事件の濡れ衣を着せられ、時を同じくして石堅は徐蝦ら極悪トリオに殺害されてしまった。
この極悪トリオを操っているのは、連中のボスである陳鴻烈(チェン・ホンリェ)だ。彼らの目的は町全体の支配にあり、警察署長を買収して自らが警備隊に成り代わると、職権を乱用して横暴の限りを尽くし始めた。劉家榮の友人である馮克安(フォン・ハックオン)が、石職人の任浩が次々と極悪トリオの手によって命を落としていく。面会に来たヒロイン・李影と牢獄から脱出した劉家榮だが、これは資産家である李影の父から財産を巻き上げようと、陳鴻烈が仕組んだ罠であった。
続いて李影も敵の手に落ちるが、極悪トリオの悪質さについていけなくなった警備隊員から密告を受け、遂に立ち上がる劉家榮。怒りの火の玉となった劉家榮は王將と黄培基を、そして徐蝦を撃破して陳鴻烈に立ち向かうが、そこにはあまりにも哀しい結末が待っていた…。

▲正直、少し期待外れな作品だ。ストーリーはただ単に陰惨なだけだし、片っ端から善良な人物が殺されていく様は気持ち良くない。
監督は本作でボスも演じた陳鴻烈だが、あまり奥行きの感じられない物語になってしまったのは残念である。また、唯一の劉家榮単独主演作であると先述したが、本作における劉家榮はどこか個性に欠けていた。別に劉家榮の演技が悪いわけではないが、やはり彼はダブルキャストでこそ光る存在なのだと改めて認識しました。そういえば劉家輝はともかくとして、劉家良も単独主演作をあまり撮ってないような気が…(ピンの主演は『秘技・十八武芸拳法』くらいか?)。
これで功夫アクションも淋しい出来だったら目も当てられないが、こちらは劉家榮自身が渾身の殺陣を構築していて本当に素晴らしい。右も左も悪役俳優ばかりで占められた本作だが、似た感じのキャスティングである『白馬黒七』のような体たらくには陥っておらず、立体的な技の応酬を見ることができる。特に黄培基と徐蝦は劉家榮と同じ殺陣師ということもあって、ラストの2連戦は手に汗握る名バトルと言えよう。
ただし問題なのは…そう、陳鴻烈だ。これまでにも『燃えよジャッキー拳』『唐手[足台]拳道』などでラスボスとして君臨した陳鴻烈だが、どちらの作品もモタついた立ち回りに終始している。本作では劉家榮を相手に闘っているが、徐蝦たちの見せた前哨戦に比べると物足りない内容だった。そもそもこの陳鴻烈、劇中では徐蝦らに指示しているだけで戦闘には参戦しておらず、彼が動き出すのはラストバトルのみ。せめて石堅にトドメを刺す役が彼だったら「陳鴻烈は強い」と印象付けられたと思うのだが……。
と、ちょっぴり厳しい評価になりましたが、功夫アクションは協利らしくサービス満点だし、レア対戦も数多く実現しているので、とりあえず見て損は無い作品かと。

『醉侠行/醉鬼張三』

2009-09-11 21:28:42 | カンフー映画:珍作
醉侠行/醉鬼張三
英題:Legend of the Drunken Tiger
製作:1991年(92年説あり)

▼本作は実在の武術家・張策(張長禎?)を扱った作品だ。
張策は清朝末期に活躍した達人で、太極拳や通臂拳に通じていたといわれている。別題に"醉鬼張三"とあるが、これは普段から敵の油断を誘うため酔っ払いに扮していた事から由来した、張策の異名だという(諸説あり)。この映画では張策が酔拳の使い手で革命派という設定で、同じ革命派として大刀王五・王正誼も登場し(冒頭では処刑される六君子のエピソードも)、中国大陸での大々的なロケーションなどで趣向を凝らしている。

■物語は革命派の徐麒威(彼が張策役)の活躍を描くもので、王侠の元で張國強(こちらは大刀王五役…『チャンピオン鷹』の彼とは同名異人)と共に革命?を志している。一時は清朝高官の谷峰(クー・フェン)と交戦していた徐麒威だが、そうこうしているうちに義和団事件が発生。中国は一気に動乱の中へ叩き落される事になった。連合軍に対して王侠は神打術を用いて立ち向かうが、圧倒的な戦力差に成す術も無く蹂躙されてしまう。
一方、谷峰邸から朱秀[丹彡]を助け出して身を隠していた徐麒威の元へ、敵(谷峰らの残党?)の追求が迫っていた。この襲撃で朱秀[丹彡]は死亡し、徐麒威は抵抗活動を続ける王侠と合流する事に。捕まっていた大勢の中国人を助け出し、連合軍との最終決戦に向かう徐麒威ら革命派。王侠の身を挺した犠牲によって血路を開いた一行は、追跡してきた連合軍の猛者との一騎打ちに挑むが…。

▲『少林寺』よろしく中国ロケを行った一本だが、少々スマートさに欠ける作品である。後半から突然義和団事件を持ち出してくる唐突な展開が統一感を損なっており、全編に渡って立ちはだかる敵が不在(谷峰は途中で消えるし、連合軍には目立った敵キャラは無し)なのも失敗の一因だろう。そもそも、本作が作られた頃は古装片ブームが爆発する直前の時期で、いまさら『少林寺』的な作品造りは完全に時期を逸している気がする。
出演者は徐麒威の他に、お転婆なお嬢様役で惠英紅(ベティ・ウェイ)、最後に徐麒威と闘う西洋人の1人に羅鋭(アレクサンダー・ルー)が参加し、功夫アクションだけは水準以上の迫力を保っている。それもそのはずで、本作で武術指導・脚本・監督を一手に引き受けたのは戴徹(ロバート・タイ)なのだ。ラストバトルでの徐麒威VS羅鋭ら西洋人4人組・惠英紅VS張春仲は、ニンジャ映画時代と変わらぬハイテンションなファイトで頑張っており、その辺りは満足な出来に仕上がっている。
しかし、ストーリーの乱雑さもニンジャ映画時代から不変なのはちょっと残念。張策を史実と違う酔拳使いにした改変も何の意味があったのか解らないし、大刀王五が脇役同然の扱いというのも腑に落ちない。そういえば、戴徹の師匠である張徹(チャン・ツェー)は本作と同じ義和団ものである『八國聯軍』を撮り、大刀王五の物語も陳觀泰(チェン・カンタイ)主演で製作している。どちらも私は未見だが、もしかしたら戴徹はそれらを意識して本作を作り上げたのだろうか?(ないない)

『ライオンハート』

2009-09-08 23:52:30 | マーシャルアーツ映画:上
「ライオンハート」
原題:LIONHEART/A.W.O.L. ABSENT WITHOUT LEAVE
製作:1991年

●そういえば随分ジャン=クロード・ヴァン・ダムとはご無沙汰だなぁ…と思いつつ見てみた作品だが、何とこれは「辻斬りの旅」作品ではないか!
今までにも何度か語ったが、「辻斬りの旅」とは主人公が全編に渡って名のある強敵と戦う作品の事を指す(もちろん私の造語です)。功夫片では『黒名單』『一代天嬌』『太極八蚊』等を紹介したが、マーシャルアーツ映画にも「辻斬りの旅」が存在したとは驚きだ。この「辻斬りの旅」というジャンル、ただ単に主役を敵と闘わせていけば良いというものではなく、戦いだけでいかに物語を描くかが重要になってくる。それゆえに香港映画でもあまり見ないタイプの作品であり、マーシャルアーツ映画でその点は大丈夫なのか?と私は最初不安に思いました。
ストーリーは、弟の危篤を知ったヴァンダムが所属していた外人部隊から脱走する所から始まる。と、ここでいきなりヴァンダムVSビリー・ブランクスというドリームマッチが実現しているのが面白い(思遠影業の新旧マーシャルアーツスター対決だ!)。面白いとは言っても本作でのビリーは単なるザコその1なので活躍は望むべくも無いが(涙)、そんなこんなでヴァンダムは弟のいるアメリカへと密航。ロサンゼルスに向かうため、軍資金を稼ごうとストリートファイトに参加した事が縁で、彼は黒人のおっちゃんと知り合う。
黒人のおっちゃんは「あんたの腕はスゲェ!もっと稼ごうぜ!」とヴァンダムを別のストリートファイトに参加させ、主催のセレブに引き合わせた。このままヴァンダムが言いなりになると『マッハ!』になってしまうところだが、一刻も早く弟のところに行きたいヴァンダムは「もっと闘わない?」というセレブの誘いを一蹴。黒人のおっちゃんと一緒にロスに到着するが、既に弟は亡くなっていた。続いて弟の妻の元に顔を出すが、到着の遅れが原因で完全に信用を失っていた。
そこでヴァンダムは主催のセレブに掛け合い、弟の妻が抱えた借金を返済するために再び賭け試合に飛び込んだ。だが軍の逃亡者であるヴァンダムを追ってミシェル・クイシらが迫り、更なる強敵が待ち構えていたのだが…?

…うん、これは面白い。ストーリーには奥行きが感じられるし、格闘アクションもあまりノロノロしていない(ファイトコーディネーターはヴァンダムとクイシの『キックボクサー』コンビ)ので、最初から最後まで一気に見ることができました。「辻斬りの旅」作品としても、ちゃんと対戦相手の特色が分けられていたし、最後の敵も鈍マッチョ系にしては盛り上がる戦いに撮れている。このへんは『オンリー・ザ・ストロング』も手がけた監督のシェルドン・レティックの采配だろう。
個人的にはクイシらの心変わりの過程がちょっと不明瞭で、最後のオチも少々唐突な印象を受けたのだが、それ以外はバッチリの出来。夢の対戦も見れて辻斬りの旅も堪能できて格闘アクションも味わいたい人は、是非とも本作をオススメします!

『となりの凡人組』

2009-09-05 23:11:45 | 倉田保昭
「となりの凡人組」
製作:1993年

▼ビデオバブル期に全盛を極めたVシネ業界では、実に多くのヤクザ映画(俗に言う「ネオヤクザ」もの)が作られた。一般的にヤクザVシネのイメージといえば、暴力的・残虐性・竹内力・跡目争い・白竜・エログロ・GPミュージアム・哀川翔といったアウトローな印象が強く、とっつきにくさを感じる人も多い事だろう。そのあたりのイメージを逆手に取り、シチュエーション・ギャップを見せることで物語を綴っているヤクザVシネも少なくない。
例えば『極道ステーキ』は大卒の武術家青年がヤクザになるという話で、コミカルな部分もあって中々悪くない。他にも『FM89.3MHz』『特攻会社員』『ゾク議員』のような作品もあり(ヤクザじゃないのも混ざってるけど)、古くは『やくざ坊主』という時代劇にそのルーツが垣間見える。本作もその流れを汲んだ作品で、主人公が平凡なサラリーマン…にしか見えない伝説のヤクザという設定の作品だ。

■主人公・倉田保昭は、かつて金色の唐獅子牡丹を背負って関西を席巻した伝説のヤクザだったが、今は繁華街の片隅で小さな組の親分として暮らしている。ただし自分の身分は娘の中山忍には内緒で、娘に真実を告げるか否かで倉田は悩んでいた。そんな折、倉田らのシマに山王会氷室組という大型組織が参入し、荒貝組の菊池健一郎と共に余談を許さぬ状況となっている…が、それよりも倉田が心配なのは、中山と菊池が交際しているという事実であった。
菊池も中山には自身の身の上を言い出せずにおり、倉田は菊池に「うちの娘から手を引け!」と言う。そんな時、ふとした事から倉田と菊池の正体を知ってしまった中山は、突然現れた氷室組によって誘拐されてしまった。倉田と菊池はたった2人で敵地に向かうが…。

▲本作はのちに第3作まで作られたシリーズの第1作にあたり、かなりコメディ色の強い作品になっている。主演を飾った倉田保昭もギャップの大きい役柄を好演しており、物語にも破綻は無かった。ただ問題なのは、本作の主演が「倉田保昭である」という点だ。
李小龍(ブルース・リー)登場以前の香港に乗り込み、鋭い蹴りで現地の観客に賞賛の嵐を受け、ジャッキー・サモハン・ユンピョウらと互角の勝負を繰り広げ、本作の翌年には李連杰(ジェット・リー)を相手に死闘を展開し、今もなおバリバリ活躍中というのが倉田保昭という男である。そんな彼が伝説のヤクザなんて大層な役を演じるのだから、当然アクションに期待しない方がおかしい筈だ。
ところが本作での倉田は全く何もしない!敵の三下とバトルになりかけても、途中で邪魔が入ってやっぱり闘わない!コメディ部分は悪くないけど、とにかく全然闘わないのだ!倉田がようやく動き出すのはラストバトルを迎えてからだが、ここも随分とアッサリ目であまり面白くない。しかも最後まで大物ぶっていた敵ボスは倉田に瞬殺される始末…第2作以降がどうなっている知らないが、もし本作を倉田保昭のアクション目当てで見ようとする人がいるなら、私は敬遠したほうがいいと思います。
ところで本作で倉田と共演した中山忍、その後『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』でも倉田と共演していたが、もしかして本作の縁故で出演したのだろうか?

更新履歴(2009/8月)

2009-09-02 20:55:07 | Weblog
7月の天候を引きずったまま終わりを迎えた8月ですが、当ブログ的には実に充実した紹介ラインナップをお送りできました。と、そういえば『覇者の剣』の項で「協利作品が日本発売!」などと紹介していましたが、残念な事に『猴形扣手』は発売中止になってしまったそうです。
どうせなら埋め合わせで『鷹爪鬼手』とかリリースしてくれたら良かったのですが、結局は倉田保昭の主演作2本・協利作品1本での発売となります。まあこの手の作品はリリースが決定しただけでも奇跡といえるので、店頭に並ぶのを座して待ちたいと思います。


08/03 更新履歴(2009/7月)
08/07 『エターナル・フィスト』
08/10 『バトル・ファイター』
08/13 『唐山五虎』
08/17 『ファイナルヒート』
08/20 『ヒート HEAT』
08/23 『カンフー・クエスト/覇者の剣』
08/27 『天使特警/野戰神風』
08/30 『霸道縱構/霸道殺星』(『覇拳/振り向けば修羅』香港版)