功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『激突!合気道』

2010-03-28 22:18:34 | 千葉真一とJAC
「激突!合気道」
英題:Power Of Aikido/Machine Gun Dragon
製作:1975年

▼久々の千葉チャン空手映画の登場であるが、今回はいつもの東映カラテ映画ではない。
この時期、功夫映画ブームによって多くの千葉真一主演作が作られたが、数を重ねるごとにマンネリ化も進行しつつあった(1974年以前の時点で、千葉の出た空手映画は8本にも上る)。殺陣や出演者の顔ぶれに変化が無いこと、千葉や志穂美悦子と同等に戦える相手が少なかったことなどが原因であり、その事は千葉自身も身に沁みて解っていたようだ。
そこで本作で千葉は脇に回り、実弟の千葉治郎を主演に起用している。治郎を主役にすることで目新しさを生み、合気道を持ち込むことによってアクションにも新風を吹き込むことが本作での目論みであったのだと思われるが…。

■舞台は大正時代の北海道。後の合気道創始者・植芝盛平(千葉治郎)は、僻地で開拓団の団長として活動する傍ら、柔術の使い手としても実力を発揮していた。
ところが、あるとき地元のヤクザと悶着を起こした治郎は、用心棒の空手家・千葉真一に完敗を喫してしまう。リベンジに燃える治郎は、武術師範・鈴木正文(『激突!殺人拳』の頃より演技が上手くなってます・笑)のコーチを受け、過酷な鍛錬に没頭。鈴木から免許皆伝を受け、全国を行脚して様々な武術家と拳を交わしていった。
一方の千葉は用心棒の任から離れ、治郎の元から去った小泉洋子と遭遇。彼女はある出来事から重症をを負っており、千葉と行動を共にすることに。だが、ヤクザとの争いで人を殺してしまった千葉は、小泉ともども行方知れずとなってしまう。
 さて、治郎はその千葉の兄と闘って勝利したのだが、負けを恥じた千葉の兄は自決。この一件に激怒した千葉の兄の門弟(うち1人が斉藤一之)が、堕落した剣士・大塚剛と共謀して治郎に襲撃を仕掛けてきたのだ。そこへ通りかかった貴族のオッサンに助けられた治郎は、彼の好意で精神修行を受けさせてもらい、道場を任される事となった。日本海軍からも認められ、名実共に一流の武術家として成長した治郎…と、そこへ突然千葉が姿を現した。
千葉は治郎に「小泉が死にかかっているから、ひと目会ってくれ」と嘆願し、2人の見守る中で彼女は静かに息を引き取った。小泉を弔った治郎と千葉は、最後に武術家として立ち会うことを望む。しかし、治郎を狙っていた千葉の兄の門弟&大塚が、2人に雪辱戦を挑んできたのだ!治郎の門弟となった悦ちゃんも巻き込んだ大乱戦が始まるが、治郎と千葉の対決は意外な形での決着を見るのだった…。

▲これまでJACの格闘伝記映画は、『けんか空手極真拳』『少林寺拳法』と作られてきたが、本作はそれ以上の完成度を誇る名作である。妻になる女を強姦したり、ヤクザのキンタマを犬に食わせるような荒唐無稽さは無く、主人公がいかにして合気道を極めたのかという工程がはっきりと描かれており、硬派な作品として仕上がっているのだ。
この「荒唐無稽さの欠如」に関しては意見の分かれるところであるが、単なる悪役ではない千葉の存在や、がめついように見えて実は…な鈴木正文のキャラなど、人物設定が実によく出来ている。ストーリーラインや悦ちゃんの役どころは『少林寺拳法』を彷彿とさせるが、そのへんのデジャブは本作にとって些細な問題でしか無い。
格闘アクションも、専守防衛合の合気道という題材を見事にアレンジし、濃密な殺陣を作り上げている。相変わらずキレキレの千葉カラテは勿論の、治郎の見せる合気道や悦ちゃんのアクション、そしてJACの絡むファイトシーンは出色の出来栄えだ。ラストの治郎VS千葉は治郎のベストバウトとも言うべき対戦で、途中挟まれる早回しアクションは『激殺!邪道拳』で更なる発展を見せるのだが、それはまた別の話である。

 だが、本作で最も残念なことは、治郎に主役としての華が無い(少ない?)という点だろう。
『仮面ライダー』等での好演が印象深い治郎だが、JACの空手映画ではもっぱら弱い役が多い。『激突!殺人拳』では勝手に窓から落ちて死ぬ役、『帰って来た女必殺拳』ではいつの間にか刺されて死んでいる役など、過去作品では弱々しいイメージが極端に強いのである。
そのため、本作で治郎が見せる合気道アクションも、凄いのだが不釣合いに見えてしまうという難点を含んでいる。しかも相手役に千葉真一という濃い役者が配され、クライマックスでは見せ場の一部まで奪われてしまい、完全に割を食っているのだ。
 更に、本作でもう1人ぞんざいな扱いを受けた人物がいる。それが大塚剛である。大塚はプロ空手の使い手として『世界最強の格闘技 殺人空手』等に出演し、東映の空手映画では『吼えろ鉄拳』『猛虎激殺』にも顔を出していた。…が、その華々しい経歴とは対照的に、JACの面々とまともに戦ったことがほとんど無いのである。
『吼えろ鉄拳』では悪の組織の用心棒として登場し、最後の最後まで主役の真田広之と戦わず、いざ対決!となるとパンチ一発で撃沈。本作では治郎に執着する剣士として登場し、序盤こそ戦闘シーンがあるものの、千葉との絡みは無いうえにラストでは呆気なく瞬殺されている。
唯一『猛虎激殺』だけは未見なのだが、どうして大塚はここまで素っ気無い扱いを受けたのか不思議でならない。立ち回り次第では、石橋雅史に次ぐ空手映画の名悪役となったかもしれないのに…まったくもって妙な話である。
 その後、治郎の新たな主演作が作られることはなく、千葉も『空手バカ一代』を最後に空手映画を卒業し、後進の俳優を育てることに尽力していった。JAC作品も硬派から軟派へと方向を転換したが、その作品群に千葉治郎の名は無い。JACの転換期に消えていった千葉治郎にとって、本作は…そして空手映画とはどのような存在であったのだろうか?

『侠客シラソニ』

2010-03-24 22:51:12 | カンフー映画:佳作
侠客シラソニ
英題:Invincible From Hell
製作:1980年(81年説有り)

▼(※…画像は本作を収録したDVDパックの物です)
 ちょっと前に『黄砂塵』という奇妙な映画を紹介したのを覚えているだろうか?香港製なのか韓国製なのかよく解らない珍品で、結局は私も正体が解らなかったのだが、その作品で武術指導を担当していたマスター・リーという人が主演した韓国映画を、このたび発見することができた。
このマスター・リーさん、名前は李大根という韓国の大物映画スターらしい。この作品でも武術指導を兼任しているので、武術の心得のある人であろうことはなんとなく察せられる。本作はタイトルにある「シラソニ」というヤクザを扱った話のようで、要するに『将軍の息子』みたいな作品のオールドタイプということなのかな?(すいません…こういった方面の話は本当に疎いんです・汗)

■IFDプレゼンツという韓国産功夫片おなじみの嘘テロップを挟みつつ、ストーリーはナイトクラブで幕を開ける。
いきなり登場するこの赤帽のサエないおっさんがダイコンさん(と呼ばせて頂きます・笑)か?と思いきや、こいつは偽物で本物のダイコンさんが後から登場。ダイコンさん自身は普通のおっさんみたいな風貌なのだが、パンチや蹴りが早い!しかもテコンドー一辺倒でない動きを見せ、なかなか魅せてくれます。
そんな素早いダイコンさんを、日本のヤクザが虎視眈々と付け狙っていた。日本人のリーダーは様々な手でダイコンさんを陥れようと企み、遂には彼の友人が殺されてしまう。悪い事は続くもので、どうやらダイコンさんは持っていた大事な手帳?を無くしちゃったご様子。おまけに友人の息子は行方不明で、ダイコンさんを恨む日本人のボスまで登場。ダイコンさんは、たった1人でこの困難に立ち向かっていく羽目になるのだった。
 その後、奇襲で傷付いていたダイコンさんはバーのお姉さんに助けられたが、敵に居場所を悟られないようにとバーを後にした。すると、バーからそう離れていない路地で友人の子供を発見し、幸運にも再会できたのだった…って、そんな展開でいいんかい!?友人の子供はかなり不機嫌だったが(そりゃそうだ)、行動を共にしているうちに関係は修復。友人の子供は「僕も父ちゃんの仇を討ちたい」と言うが、子供を戦いに巻き込むわけにはいかないとダイコンさんはこれを拒否した。
知り合いの女性に友人の子供を預け、単身ヤクザと闘おうとするダイコンさんだが、先手を打ったヤクザによって友人の子供が誘拐されてしまう。すぐさまダイコンさんは敵地へと乗り込むも、逆に捕まって絶体絶命の窮地に立たされた。もはや打つ手なしかと思われたが、ダイコンさんの知り合いだった神父が斬り殺されるに至って、とうとう怒りが爆発!幹部やリーダーをしこたま蹴散らし、ボスとの一騎打ちになるのだが…。

▲実を言うと、私はこういった韓国ヤクザ映画というものはあまり好きではなかったりします。
私が初めて見た韓国ヤクザ映画は『将軍の息子』という作品だったが、のっぺりした顔で好きになれない主演俳優、まるでスタント吹替えを使っているようなアクションシーン、そして知っている顔が誰1人いない空間に耐え切れず、途中で視聴を中断してしまった経験があった。そのため、どうにも韓国ヤクザ映画には良い印象を持っていなかったのである。
 しかし、本作はダイコンさんと少年の交流が主軸として描かれ、殺伐とした雰囲気にはなっていない。また、重複するが格闘シーンが手技中心の見応えあるアクションとなっていて、韓国映画にありがちなテコンドー系アクションとはまた違った迫力を発揮している(特に、友人の子供を肩車したまま闘う場面が、コミカルながら凝っていて面白い)。それに、最初こそサエないおっさんにしか見えなかったダイコンさんのキャラも、見ていくうちに魅力的に見えてくるから困ったものだ(苦笑
会話が中心となるシーンは見ていて退屈であり、出てくる役者が全員ブサイクだったりと荒々しい部分もあるが、個人的には嬉しい不意打ちを喰らった佳作…といった感じの作品でした。ちなみに本作はシリーズ物の1本らしいが、他の作品ではどのようなダイコンさんの活躍が見られるのか、ちょっと気になります。

『南北酔拳』

2010-03-20 23:11:43 | カンフー映画:傑作
「南北酔拳」
原題:南北醉拳
英題:Dance of the Drunk Mantis/Drunken Master 2
製作:1979年

▼これまで、当ブログでは『蛇拳』『酔拳』の登場とその影響について何度か触れてきた。以前にも『龍刑摩橋』でジャッキーに去られた後の呉思遠(ゴ・シ・エン)の動向に注目したが、ジャッキー離脱直後に呉思遠が放ったのが、今回紹介する『南北酔拳』だ。
本作はご存知の通り、『酔拳』に登場した袁小田(ユエン・シャオ・ティエン)の「その後」を描いた続編である。当然、キャストとスタッフは『酔拳』そのままの人員なので、どう転んだとしても良質の功夫片が完成するであろう事は確証済みだった。だが本作は"あの"『酔拳』の続編なのだから、安易に普通のコメディ功夫片へ押し込める訳にはいかない。一体この状況を呉思遠は、いや袁和平(ユエン・ウーピン)はどのように料理したのであろうか?

■ジャッキーと黄正利(ウォン・チェン・リー)の激闘を見届けた袁小田は、久しぶりに故郷へと帰ってきていた。妻の林瑛と再会し、養子(というかホントは実子なのだが・笑)の袁信義(ユエン・シェンイー)とは出会い頭に乱闘を繰り広げた。その際の第一印象が思わしくなかったのか、袁小田は袁信義のことをよく思ってない様子。袁信義は酔拳の修行をしたいと訴えるが、結局は袁小田にからかわれて飛び出してしまう。
 一方、その袁小田を黄正利(前作とは別の役)と元奎(コリー・ユン)が血眼になって探していた。この2人は北酔拳の使い手であり、南酔拳の使い手である袁小田を倒すべく、密かに暗躍していたのだ。元奎によって袁信義が半殺しの目に遭い、袁小田と黄正利の対決は避けられない事態となる。前作でジャッキーに伝授した酔八仙拳で攻める袁小田だったが、黄正利が繰り出す酔蟷螂の前では何仙姑までもが通じなかった。
そんな中、袁信義は奇怪な半病人・任世官と遭遇する。この男もまた拳法の名手であり、袁信義は黄正利に勝つために秘術・病気拳を習うこととなった。次第に病気拳を習得していく袁信義と、酔蟷螂の対抗策を講じる袁小田。遂には林瑛VS元奎、袁小田&袁信義VS黄正利の決戦が始まった!

▲『キックボクサー2』や『新精武門』『帰ってきた少林寺厨房長』などはダメな続編の典型であったが、それらが失敗してしまった原因は実に多種多様であった。
『キックボクサー2』は、本作と同様に主役の続投が不可能になってしまった作品だが、その主役が殺害されたという後付け設定によって全てが台無しにされている(前作のハッピーエンドがブチ壊し)。『新精武門』も同じ条件の下に作られた作品で、こちらは前作からの大幅なスケールダウンが致命傷となった。『帰ってきた少林寺厨房長』は主役も裏方も前作と同じでありながら、ストーリーを無闇に複雑化してしまったことが破綻のきっかけとなっている。
 本作はストーリーを迷走させることもなく、設定や功夫アクションも実にユニークであり、続編としては成功した部類に入るだろう。前作では「弟子が師の教えを受け継ぎ、新たに発展させていく」という、この"発展"こそが大きなテーマとして確立されていた。では、本作ではどうだったのだろうか?
作中、あくまで拳法を教わりたい袁信義だが、袁小田は終盤までネガティブな発言を繰り返していた。任世官にも「袁小田は新しい拳を開発しない」と指摘され、彼が旧世代の象徴である点が強調されている。これに対し、袁信義はひたむきに拳の修行へ没頭し、いつしか仇敵をも倒す実力を身に付けていく。姿や形は違うものの、間違いなく本作には『酔拳』と同じ"発展"が存在したのである(ちょっと強引かな?)。
とはいえ、これによって袁小田の印象が悪い感じになっており、黄正利の噛ませ役に宛がわれたのも少し残念。そもそも本作のタイトルは『南北酔拳』なのだから、病気拳なんか登場させないで最後まで酔拳ひとつで貫き通して欲しかった、というのが私の率直な感想だ。しかし、病気拳と酔拳をミックスさせて新たな拳法を…なんて展開だと、思いっきり前作とかぶってしまうので、もとよりこうするしか仕方が無かったのかも知れない。
 …と、ちょっとケナし気味の文になってしまったが、功夫アクションに関しては素晴らしいの一言に尽きる。ちょっと病気拳のインパクトが弱い気がするけど、珍しく目立ちまくってる元奎や、前作では少ししかアクションを見せなかった林瑛のバトル、そして出ずっぱりで闘いまくる袁小田など、どのバトルも見応え十分のものばかり。こちらについては文句ナシなので、功夫映画ファンには是非ともご覧になって欲しいです。

『Devon's Ghost: Legend of the Bloody Boy』

2010-03-16 23:16:11 | マーシャルアーツ映画:中(1)
Devon's Ghost: Legend of the Bloody Boy
製作:2005年

▼昨年公開された『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』は驚くべき映画であった。何が驚くべきなのかと言うと、この作品でメガホンを取ったのがあの坂本浩一であった点である。氏は『パワーレンジャー』シリーズなどで既に監督経験はあるものの、日本の…しかも人気特撮番組の劇場版を手掛ける事になるとは、昔を知るファンにとっては非常に嬉しい出来事でありました(涙
その後は『仮面ライダーW』にも進出した坂本監督であるが、『パワーレンジャー』以外の映画作品でも監督業に乗り出している。日本でもリリースされた『ウィケッド・ゲーム』が好例で、それ以外にも何本か作品を撮っているという。そんな中でこの『Devon's Ghost: Legend of the Bloody Boy』は、なんとスラッシャー・ムービー(殺人鬼映画)に挑んだ意欲作である。
もちろん本作が単なるホラーではないことは、ジョニー・ヨング・ボッシュが主演である時点で明々白々。果たして、坂本監督の描くホラー映画とはいかなるものなのだろうか?

■舞台は、新しくハイスクールが開校したキャニオン・シティという街から始まる。10年前、この街では年端もいかぬ子供が人を殺すという事件が起きており、ハイスクールの学生たちも知る伝説「Bloody Boy」として語り継がれていた。事件後、少年はDV夫婦(少年を歪んだ性格にさせ、事件に至らせた間接的な要因となった連中)から祖父母の元に引き取られているが、かつて少年の殺人現場を目撃した学生キャラン・アシュレイ(ジョニーや坂本監督と同じ『パワーレンジャー』出演組)は少年の影に怯えていた。
しばらくは平穏な日々が続いていたのだが、フットボールの試合が行われた夜にBloody Boyは現れた。Bloody BoyはDV夫婦から受けた暴力がトラウマとなり、愛し合っているカップルを見つけては次々と撲殺していく。キャランとその彼氏&ジョニーとその彼女は危機感を抱くのだが、遂には彼女たちの元にもBloody Boyの魔の手が伸び、キャランの彼氏とジョニーの彼女が殺されてしまった。
 Bloody Boyは確実にそこにいる。それを確信したジョニーたちは、Bloody Boyに襲われて入院した彼の祖母(祖父は既に殺害済み)の元を訪ね、Bloody Boyの過去と10年前の事件の真相を聞きだした。それによると、10年前にBloody BoyはDV夫婦によって殺されてしまっているというのだ。では、今まで殺人を繰り返しているアレは一体…?(恐らくこれがタイトルの由来だと思われます)
兎にも角にも、Bloody Boyの祖母から奴の居場所を聞いたジョニーたちは現場へ急行…するのだが、ハイスクールの学長やマスコミのおっさん、そして最後に残っていたジョニーの友人までもがBloody Boyの凶刃に裂かれてしまう。キャランはBloody Boyの居場所に向かい、ジョニーも続こうとするが警官の足止めを喰らってしまった。
即座にBloody Boyはキャランを殺そうとするが、少年時代に彼女と出会ったことを思い出し、思わずその手を止める。そこへ警官たちを突っ切ったジョニーが駆けつけるが…。

▲実にコテコテなB級ホラー映画である。この手の映画の定番といえそうな要素をいくつも取り入れ(殺されるカップル・暗い過去を持つ殺人鬼・余計な青春ドラマ・ラストで実は…等々)、良くも悪くも安定した作りになっている。こういった作品ではスプラッタな演出が多様されるケースが多いが、本作は直接的な描写を抑えているため、私のようなホラーが苦手な人でも楽しめる内容になっているのだ(その代わり、本作ならではというポイントが見当たらない)。
さて、皆さんが気になる格闘アクションについてだが、こちらも香港式の濃厚なやつが3つも用意されていました。流石は坂本監督、手抜かり無しだ(笑
まず中盤にジョニー対Bloody Boyとキャラン対Bloody Boyがあり、クライマックスのキャラン対Bloody BoyとジョニーVS警官3人、そしてラストのBloody Boy対ジョニーが主な見せ場である。作品の性質上、殺人鬼が理不尽なほど強いので盛り上がりに欠けるものの、どのバトルもそれなりに作り込んであり、格闘映画ファンも納得できる殺陣になっている。
 しかし、スラッシャー・ムービーといえば殺人鬼が傍若無人に暴れまわるのがお約束だが、ここまで互角の戦いをさせてしまって良かったのだろうか?例えば、ジェイソンやマイケル・マイヤーズなんかは得体の知れなさと異様な強さで有名だが、本作のようにいい勝負を展開してしまうと、どうにも恐ろしさを感じなくなってしまうのだ。やはり殺人鬼なら、常人も及ばないような描写があってこそのものだと思うのだが…う~ん、映画って難しいなぁ(苦笑
なお、本作以外にも坂本監督の未公開作に『Broken Path』という作品があるが、こちらも『ウィケッド・ゲーム』ともども将来的に是非拝見したいタイトルである。『ニンジャ in L.A.』みたいにどっかのメーカーさんが出してくれないかなぁ…?

『少林寺破戒大師伝説』

2010-03-12 23:17:27 | カンフー映画:珍作
「少林寺破戒大師伝説」
原題:破戒大師
英題:Carry On Wise Guy
製作:1980年

●功夫映画界には数多の武術指導家たちが存在するが、どれも様々な特色とスタイルを持ち合わせており、どれがナンバー1かを決めるのは至難の業だと言えるだろう。だが、格式や功夫アクションの表現力などを比較するなら、この劉家班がトップクラスの実力派集団であったことだけは間違いないはずだ。
劉家班は名武術指導家・劉家良(ラウ・カーリョン)を頂点とするスタント・グループで、東洋のハリウッドと呼ばれたショウブラザーズにおいて、常に最高級の功夫アクションを構築し続けた精鋭中の精鋭だ。"功夫良"劉家良・"三徳和尚"劉家輝(ゴードン・リュウ)・"蟷螂"劉家榮(リュウ・チャーヨン)の3人が中心となって活躍。代表作は『少林寺三十六房』『少林虎鶴拳』『邪教逆襲』『嵐を呼ぶドラゴン』等で、クリエイターとしての実力も確かなものであった。
 その劉家班、80年代中頃まではショウブラ以外での活動が制限されていたのだが、それでも外部で数本の作品を残している。劉家良の秘蔵っ子・汪禹を担ぎ出して撮った『鬼馬功夫』『功夫小子』、韓国へ出張した『少林寺の復讐』『大兄出道』、台湾製の『片腕カンフー対空とぶギロチン』『中原[金票]局』等々…そして本作も劉家班が外部で撮った作品であり、劉氏兄弟の一角である劉家榮が監督を務めた作品だ。
劉家榮は武術指導一家の出でありながら、変則的な作品を得意としていた。先に挙げた『鬼馬功夫』や『功夫小子』も彼の作品で、普通の功夫映画とは違ったアプローチで撮られた物が多いのが特徴である。この『少林寺破戒大師伝説』は、前年に劉家班が協力した劉家榮監督作『ガッツ・フィスト魔宮拳』と同じタッチで作られ、物語の牽引役には『魔宮拳』と同じ劉家輝を起用し、それに着いていく2人組には劉家勇と曾志偉(エリック・ツァン)の両名が参加している。

 ストーリーは瀕死の男から託された箱を巡って、劉家輝・曾志偉・劉家勇らと劉家榮&李麗麗(リリー・リー)が闘うというもの。『魔宮拳』は劉家輝がマヌケな2人組を利用するという話だったが、本作では劉家輝がマヌケな2人組に利用されてしまうという逆のパターンを辿っている。しかし、困ったことに本作は全然面白くないのだ。ギャグのキレもイマイチだし、パロディ描写も中途半端。『魔宮拳』もこれといって良い話ではなかったが、本作はそれ以上に出来が落ちてしまっている。
特に問題だったのが劉家輝と曾志偉らの温度差だろうか。劉家輝はオープニングから突然寺を襲撃され、仲間や師匠を皆殺しにされるというヘビーな身の上のキャラだ。そんな可哀想な劉家輝とは対照的に、曾志偉&劉家勇は金儲けの事しか頭になく、町民を騙して劉家輝に差し向けるなど、ムカつく行動ばかり取っている。私としては『魔宮拳』の劉家榮と李海生が気に入っていただけに、この落差は正直受け付けませんでした。
 一方、劉家班が手掛けているだけあって功夫アクションは一級品。奥の手が拳銃という劉家榮には参ったが(苦笑)、全体的なレベルは非常に高い。こちらはまどろっこしい出来になった『魔宮拳』と違い、素直にアクションを堪能できました(江島や馮克安といったお馴染みの顔も飛び出します)。これで話がもうちょっと良ければなぁ…。

『抜け忍』

2010-03-08 23:03:40 | 日本映画とVシネマ
「抜け忍」
製作:2009年

▼忍者映画というものは海外で盛んに作られてきましたが、そのどれもが陳腐で奇天烈なものばかり。金髪の外人がカラフルな忍装束に身を包み、真昼間にチャンバラもどきのアクションを見せるという光景は、我々日本人からすれば異様なものにしか見えませんでした。
それならば、忍者の本場といえる日本が「本格派忍者映画」を作れば、過去の忍者映画に負けない凄い作品を作ることができるのではないでしょうか?
 しかし現在の邦画界でそういう奇異な作品を望む声はほとんどありません。それでも忍者映画を製作したいのなら、流行のアイドルなどを起用した『SHINOBI』のような映画か、或いは香港映画の縮小コピーで奇をてらった『血蜘蛛の十蔵』のような映画を作るしかないのが現状なのです。
本作はその中で後者に該当する作品であり、『伊賀の乱』系列などを撮った千葉誠治が監督を務めてます。千葉氏は何故か谷垣健治や下村勇二といったドニー門下の精鋭と縁があり、谷垣導演の『隠忍術』などにも参加。本作では下村氏がアクション指導を担当し、香港系の忍者アクションを作り上げています。

■時は織田信長が伊賀忍者を壊滅させる数年前の頃。凄腕の下忍・肘井美佳は、今日も任務を遂行して帰路に着いていた。幼馴染の泉政行や義兄の虎牙光揮とは親しいのだが、色狂いの下忍頭・島津健太郎とは対立している。どうやらこの男、何か良からぬことを企んでいるようだが…。
折りしも、伊賀の里では下忍たちが謎の刺客によって次々と暗殺されるという事件が起きていた。下忍を指揮する上忍たちは何の行動も起こそうとせず、肘井たちは苛立つばかりだ。そして刺客の魔手は、ついに肘井の理解者であった里の長にまで及んでしまう。
この混乱に乗じた島津は、クーデターを起こして伊賀の里を掌握。邪魔な肘井を始末しようと企み、大勢の追っ手を彼女へ差し向けた。肘井はこれに怯むことなく立ち向かい、島津に捕まった仲間を助けようとする。果たして、謎の刺客の正体とは…?

▲この作品、本筋となるストーリーは本当にこれだけしかありません。多少のどんでん返しはいくつか用意されてはいますが、サブストーリーなどは一切存在しないのです。そのせいか尺も短く、非常にミニマムな作品になっていました。
大体、「強いくノ一がいました、悪い下忍頭がいました、刺客が伊賀の里に入り込んでしまいました、色々あって下忍頭は倒されました、刺客の正体は○○でした、おしまい」…だけじゃ余りにもボリューム不足です
また、本作のクライマックスでは謎の刺客と肘井の戦闘は無く、あからさまに続編を作れそうな終り方をしています。この手のVシネ作品にありがちな事ですが、作品のオチを付けようとせずに宙ぶらりんな幕引きで済ませてしまうのは、ちょっとどうかと思いますね。そういえば『血蜘蛛』も『男組』こんな感じだったような…(汗
 そんなわけで作品自体は良い出来とは言えませんでしたが、下村氏の指導したアクションシーンは光っています。主人公の肘井美佳は激しいソードアクションに挑戦しており、なかなか良い動きを見せていました(彼女は全編に渡ってほぼノンスタントでアクションを演じ切っています)。
その他の役者さんたちも大いに奮戦していて、とりわけ虎牙光揮の暴れっぷりが見事でした。リアルヒッティングっぽい演出をしておきながら実際にヒットさせていない箇所が幾つかあったのは残念ですが、全体的にとても見ごたえのあるアクションだったと思います。
格闘アクション的には満点ですが、単純なストーリーが水を差す惜しい作品。今現在はこのような作品しか出来ないけれど、いつか日本の映画界は「本格派忍者映画」を創り出して欲しいと、私は切に望んでいます。

『天空伝説/ハンサム・シビリング』

2010-03-05 23:33:18 | カンフー映画:珍作
「天空伝説/ハンサム・シビリング」
原題:絶代雙驕
英題:Handsome Siblings
製作:1992年

▼90年代に起きた武侠片ブームは、各方面へと様々な影響を及ぼした。このブームの火蓋を切った『黄飛鴻』系列にあやかって少林英雄を持ち上げる者がいれば、脚光を浴びた俳優を起用して2匹目のドジョウを狙う者、そして武侠小説の映像化に挑もうとする者など、ありとあらゆるパターンの武侠片が作られていた。
本作は『スウォーズマン』で強烈なキャラクターに扮した大女優・林青霞(ブリジット・リン)を担ぎ出した作品で、加えて劉華(アンディ・ラウ)も出演。監督にはシネマシティの立役者である曾志偉(エリック・ツァン)を向かえ、単なる便乗作品でない気概を見せている。
ちなみにこの作品、元々は武侠小説が原作であり、1979年にショウブラザーズでも映像化されている。私はショウブラ版を見ていないので、本作がショウブラ版のリメイクなのか、あるいは別物なのかまでは解らない。が、原作者の名前を見て一抹の不安を感じた。そう、この映画の原作者はトンデモ超展開を得意とする、あの古龍(クー・ロン)だったのである。……なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ?(爆

■江湖のはずれにある悪人の谷で、正義の使者・張敏(チャン・マン)が十悪人という集団を「飢饉の人々を殺した罪」で殺そうとしていた。本当は裏切り者によって濡れ衣を着せられていただけなのだが、あくまで張敏は十悪人の罪を許そうとしない。そこへ張敏の元夫・苗僑偉(ミウ・キウワイ)が現れ、命を賭して張敏の暴挙を阻んだ。そのとき苗僑偉が連れていた子供は十悪人に引き取られ、引き下がった張敏も養女を育てようとしていた。
時は流れて18年後、十悪人に育てられた赤ん坊は劉華(アンディ・ラウ)に成長し、「武術大会へ出場して裏切り者2人を探してほしい」と十悪人から頼まれ、育ての親である呉孟達(ン・マンタ)らと共に出奔した。大会の開催地へ向かう道中、劉華は張敏に育てられて正義の使者となった林青霞と遭遇する。彼女の事が気になる劉華は、開催地に到着するなり林青霞のことを探ろうとするが、林青霞も劉華のことが気になりつつあった。
 そんなこんなで開催された武術大会は、準決勝までに劉華・林青霞・大会主催者の張國柱・馮克安の養子呉鎮宇(フランシス・ン)の4人が出揃っていた。時を同じくして、劉華は大会そっちのけで林青霞に接近しつつあったが、何としてでも娘を勝たせようと企む張敏が介入し、林青霞に毒薬を飲ませるという暴挙に出てしまう。
そして迎えた準決勝での劉華VS林青霞戦。見かねた張敏が乱入するという事態が起きるが、この機に乗じて張國柱が張敏を謀殺。劉華と林青霞は目の前で母親を殺されてしまった。ところが、事態の収拾に武林のお偉方(正体は見てのお楽しみ・笑)が登場し、呉鎮宇のタレコミによって張國柱の悪事は露見してしまう。これで事件は一件落着かと思われたが、実はすべて呉鎮宇が仕組んだ計画だったのだ。
 呉鎮宇は力こそ無かったが、武術大会の優勝者に授けられる奥義を虎視眈々と狙っており、奥義を身に付けると武林のお偉方の力を奪い、更なるパワーアップを果たした。こうして武林の覇権を手に入れた呉鎮宇だが、悪の栄えた例は無し。苗僑偉の犠牲によって蘇えった林青霞と劉華は、力を失ったお偉方から「二人剣」という奥義を伝授され、打倒・呉鎮宇に挑むのだった。

▲本作は曾志偉プレゼンツの作品だが、本当に彼が監督したのか疑ってしまうような出来である。
無駄に残酷で下品な演出を加えたり、劉華と林青霞のラブストーリーを中途半端に描いてしまうなど、曾志偉の監督作にしては消化不良な箇所がところどころで目に付く。また、武林のお偉方が登場→呉鎮宇パワーアップまでの展開には驚かされたが、裏切り者の件が完全に放置されたまま終わっているのは頂けない。超展開は古龍のお家芸だが、いくらなんでもコレはなぁ…。
 功夫アクションにも思い切りが無く、作品の舞台となる武術大会も適当な扱われ方をしている。
まず最初に予選大会が始まるのだが、信じられないことに闘いの様子はサラッと流されるのみで、2分少々でもう準々決勝に到着。さらに出場者が逃げ出して(!)即座に準決勝へ進んでしまうのだ。そりゃあジックリと大会を描写しすぎるのはナンセンスだろうが、ここまで端折ってしまうのもどうかと思う。
さらに功夫アクションの端折り問題はラストバトルにも影響していた。最後の決戦で劉華らは「二人剣」という技を使用するのだが、これが単に手を繋いで剣を飛ばしているだけにしか見えないという代物。それどころか呉孟達が放ったアホ技の方が役立っている上に、バトル自体も5分と経たず終わっている。殺陣自体もワイヤーで飛ぶだけのありきたりなアクションで、特に面白いものではなかった。
 並みの便乗作品ならともかく、本作はあの曾志偉が撮った作品だ。しかし本作には曾志偉らしい独創性が見出せないばかりか、複線放置・功夫アクション無視・人命軽視といったネガティブポイントばかりが目立っている。やはり、さすがの曾志偉でも古龍作品を料理するのは難しかったのだろうか…?

更新履歴(2010/2月)

2010-03-02 23:40:08 | Weblog
 2月はオリンピックで盛り上がっていたせいか、あっという間に過ぎ去っていった気がします。当ブログでは、新たな試みとして年度毎のランキングを企画してみましたが、実は密かに"何か"の特集を企画しています(笑
とりあえず来月あたりに某シリーズの香港ロケ編を総ざらいしてみたり、邦画アクションを幾つかまとめて紹介してみたり、ジャッキー関連で思う事があるので特集にしてみたりするかもしれません(ジャッキー云々に関してはまだ未定です)。このへんの詳細は来月以降を目処に具体化させていく方針ですので、どうぞご期待下さい!


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02/08 『少女戦士'88』
02/11 『真一文字 拳』
02/15 【功夫電影専科:功夫動作片番付!(2008年度)】
02/19 【功夫電影専科:功夫動作片番付!(2009年度)】
02/23 『NINJA ニンジャ in L.A.』
02/26 『怒れるドラゴン/不死身の四天王』