功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『十福星』

2007-08-29 22:11:03 | 洪金寶(サモ・ハン・キンポー)
「十福星」
最佳福星
Lucky Stars Go Places
1986

●日本ではサモハンの人気コメディシリーズとして名高い福星シリーズ。日本では『五福星』『大福星』『七福星』の3本が公開されたが、それ以降もシリーズは作り続けられており、第4弾となる本作は日本に入ってきた最後の福星作品である。
しかし、ジャッキーとユンピョウがシリーズから離脱。苦肉の策として『悪漢探偵』シリーズ(こちらも許冠傑(サミュエル・ホイ)が離脱している)とドッキングし、更に新しい福星メンバーを添えて華やかにしようとしていた…が、これが大失敗作となっている。本作に脚本が6人もいることからその混乱ぶりは察することができるが、とにかくヒドい出来なのだ。
まず、新福星メンバーは劉徳華(アンディ・ラウ)、譚詠麟(アラン・タム)、鄭則士(ケント・チェン)陳友(アンソニー・チェン)、樓南光(ビリー・ロウ)とそれなりに豪華な面子揃い。だが明確な性格設定と個性のあった前福星メンバーに比してこちらはあまり魅力が無く、陳友と樓南光がキャラが被っていたり譚詠麟がただのヘタレだったりといいとこなしである。
更に以前は福星メンバーもそれなりに体当たりアクションに挑んでいたものの、本作で頑張っているのは劉徳華ただ1人だけである。ギャグ面でもその優柔不断ぶりは炸裂し、鄭則士の笑えないギャグや明らかにマンネリ気味のイタズラなど、正直見ていて辛かった。本作のみの措置だったのかは不明だが、本作以降福星シリーズにこの新福星メンバーが登場する事は無かった。
次に問題なのがサモハンだ。本作では前半に登場した後は新福星メンバーが主役となり、最後の最後で劉徳華がピンチになった時にいいところをかっさらうという、まるで石原裕次郎みたいな立ち回りなのである。ちなみに、本作以降サモハンは次第に福星シリーズには出演しなくなっていくのだが、それはまた別の話…。
そしてここが1番の問題点だが、本作はキャラクター設定がメチャクチャなのだ。サモハンに連絡を取らずに勝手に強盗行為をする福星メンバーたちから始まって、支離滅裂な発言をする曹達華(チョウ・ダーワ)と、誰も彼もシリーズを見ていたら違和感を感じ得ない変な行動ばかりしている。特に麥嘉(カール・マッカ)は誤解と嫉妬からサモハンを陥れようとあれこれ暗躍し(当然サモハンは何が何だか解らない)、本作の彼はただ邪魔するだけの嫌なオヤジと化している。『悪漢探偵』を見ていればこの行動にも合点がつくかもしれないが、知らない私からしてみれば単に腹が立つ存在でしかなかった。
脚本が迷走し、キャラクターが崩壊し、これでアクションも駄目だったら完全に救いようが無いが、そこはギリギリ松井哲也が守っていたのでどうにかクオリティを保つ事はできた。が、一部のファンからは黒歴史扱いされるほどの内容だったのは確か。もう少しどうにかならなかったのだろうか、非常に勿体無い作品である。

『ドラゴン危機一発』

2007-08-28 21:17:30 | 李小龍(ブルース・リー)
「ドラゴン危機一発」
唐山大兄
The Big Boss
Chinese Connection
1971

●あまりにも有名な李小龍の初主演作である。何故こんな有名なタイトルをわざわざ取り上げるのかというと、李小龍のコーナーが『死亡塔』ひとつだけではあまりにも殺風景だから…というのもあるんですが(笑)、久しぶりに見返してみた際に思うところがあったのでレビューに至った訳です。
この映画は李小龍ファンからも功夫映画ファンからもあまり好かれてはいない作品です。理由としてはそのチープさや李小龍的なアクションがあまり見られないなど、数々の指摘があります。一部では「李小龍の初主演作であることのみが本作のいいところ」とまで揶揄されていたりしますが、調べていくうちにそれはまったくの検討違いな意見であった事がわかってきました。今回は本作にまつわるエピソードや指摘から『ドラゴン危機一発』の真実について迫ってみたいと思います。

・当初の主演は田俊(ジェームス・ティエン)で、李小龍が格好良いから急遽主演を変更した
まずはこの逸話から探っていきましょう。
これは有名な話で、当時の香港映画界がいかにいいかげんであったかが解るエピソードです。しかしこの当時、独立したてのGHは強大なショウ・ブラザーズに対抗すべく、四苦八苦を重ねていました。田俊・劉永・黄家達らスターを中心に作品を作り、苗可秀ら"嘉禾三大玉女"で女優陣を充実させて華やかさをアピールするなどしていましたが、いまいち決まり手に欠けていました。一方のショウブラでは姜大衛や狄龍などといったきら星のようなスターが大量におり、GHは圧倒的不利な状況にあったのです。
切り札としてショウブラから引き抜いたジミー先生も『破れ!唐人剣』でショウブラと裁判となり、その後は台湾へと都落ちすることになりました。そこに現れたのが李小龍です。しかしGHは慎重でした…なにしろこれ以上はもう後が無く、失敗は許されないほど追い詰められていたからです。それでまずは助演として田俊の脇に置き、彼の実力の程を見定めたのだと思われます。その結果は皆さんもご覧の通り、李小龍の伝説が始まる事となるのです。

・監督が何度も交代し、最終的に羅維(ロー・ウェイ)となった
これも上記の理由あってのことでしょう。一見香港映画界のいい加減な実情をアピールする逸話と思えますが、慎重だったGHはこの稀代の才能をうまく扱いこなせる人材の選択に苦労していたのでしょう。結局監督は羅維となり、その後このコンビであの名作『ドラゴン怒りの鉄拳』が誕生する事になりました。
ところで羅維監督といえば、その『怒りの鉄拳』で撮影中に競馬中継を大音量で聞いていたり、李小龍とたびたび衝突していた話があります。当時の香港映画はセリフは別撮りだったので表向きは支障は無いですが、人が真剣に演技をしている側でそんなことをされていては確かにイヤで、一部ではこのエピソードをもって「羅維は無能監督」と烙印を押されていたりします。しかしその後ジャッキーを育て、李小龍に蹴られた『地獄の刑事』などの良質な作品も残しています。問題はあったでしょうが、彼は決して無能ではないのです。

・なかなかスポンサーがつかず、やっとのことで現地のお菓子メーカーがスポンサーとなった
香港映画のチープさを表すエピソードとしてこちらもやり玉に上げられることが多い話ですが、ウラをかえせば当時のGHがいかに追い詰められていたかが解る逸話です。よく笑いものにされる話題ですが、その裏にはGHの血の滲むような戦いがあったのを忘れてはなりません。

・やたらと血生臭い演出は当時の日本の仁侠映画からの影響である
これは別に間違った話ではないのですが、当時の風潮も視野に入れないと完全に理解できないと思います。この当時は大導演・張徹の最盛期で『報仇』『十三太保』『続・片腕必殺剣』『大決鬥』といった多くの傑作が生まれた頃であります。それらは英雄たちが血塗れになって戦い、そして死んでいくという張徹の闘いに於ける美学が色濃く表された傑作ばかりでした。それに倣って、当時の香港映画は血の流れる作品が多く出回り、本作もそのひとつだったのです。李小龍が製氷工場でナイフを振るって戦う姿の裏には、姜大衛や狄龍たちの影があったのです。

・トランポリンを多用する殺陣で李小龍の実力が生かしきれていないのではないか?
これはよく聞く指摘です。ですが実績はあるものの新人同然である李小龍が権力を持つようになるのは『危機一発』がヒットして実力をつけた後の『怒りの鉄拳』からです。ここで気になるのが、李小龍ファンからは韓英傑(ハン・インチェ)の武術指導について圧倒的に否の意見が多いという事です。確かに卓越した技量を持つ李小龍のアクションは素晴らしいですし、その後の彼の姿を見ていれば飛んだり跳ねたりする本作の殺陣はイマイチしっくりこないことと思われます。
しかし韓英傑は当時のGHにとっては無くてはならない存在で、武侠片の傑作である『大酔侠』『侠女』なども彼が担当し、『馬路小英雄』『破戒』などGHで多くの仕事をこなしている。そしてサモハンの武術指導の師であり、武術指導という言葉を定着させた第一人者である事は有名な話。軽く見られがちですが、本作における"武術指導・韓英傑"とは、GHにとって最も豪華な取り合わせだったのです。むしろ、李小龍が他人に武術指導を全て任せた作品はこの『危機一発』のみですし、そういう意味でも本作の価値は大きいのです。

現在でも他の李小龍作品と比較すると、それほど評価されていない『危機一発』。
個人的にもあまりいい出来の作品とは思っていませんが、その背景にはショウブラとの過酷な競争、様々な確執、当時の風潮などがありました。その辺りの事情を解せず、ただただ「駄作だ」と切って捨てるにはあまりにも勿体無いのではないのか…私はそう思い、いくつか指摘した次第であります。

『胡惠乾血戰西禅寺』

2007-08-27 22:11:20 | カンフー映画:傑作
胡惠乾血戰西禅寺/冷面氷心血覇/胡惠乾怒打機房
Showdown at the Cotton Mill/Bold Face, Heart and Blood
1978

●再び午馬(ウー・マ)監督&譚道良(レオン・タン)出演作の紹介だ。今回は主役が戚冠軍(チー・クワンチュン)で、タイトルにもある少林英雄・胡惠乾の物語を描いている。本作は主人公が次々と敵を倒すという点で『太極八蚊』にも通じるものがあるが、本作の場合はただただ戚冠軍が暴れまくっているだけで、それほどストーリー性は無い。
とある町に来た戚冠軍は、父の仇である清の連中を打倒すべく、手始めに山茅(サン・マオ)を撃破し、続いていきなり敵の本拠地に押し入ると、譚道良の弟でB級功夫片にいくつか出演している譚道恭(タン・タオクン…残念ながら故人らしい)を撃破し、三徳和尚や荊國忠らの待つ西禅寺へ凱旋し、妻と子にも再会した。ところで余談だが、本作中で荊國忠は"童師兄"と呼ばれている。胡惠乾に三徳和尚ときて"童師兄"とくれば…荊國忠の役は童千斤なのか!?『少林與武當』ではムキムキの羅奔(ロー・マン)が童千斤を演じていたので、でぶっちょの荊國忠が演じると違和感がなくもないような…。
さて、敵だって黙ってはいない。続いて李強が少林寺の内通者である張鵬(本作の武術指導)と結託して戚冠軍をおびき出し、彼の妻子を誘拐する。しかし戚冠軍は提灯を置いて李強らを陽動し、本拠の防備が手薄なうちに妻子を助け出すと李強を一掃した。続いて戚冠軍を罠に陥れようと次なる刺客の張紀平が出撃するが、こちらも戚冠軍に一蹴される。裏切り者の張鵬と姑息な策を弄せずにタイマン勝負を挑んだ陳森林も倒れて後がない敵側だが、白眉道人からの増援が来ると聞いて笑みを浮かべた。
その頃、西禅寺に同門だと言って近付く不振な男、譚道良の姿があった。彼は三徳和尚にある人の位牌を渡し、弔ってもらうように頼んで寺を去った。しかしその位牌の名前には…。その後、茶店で戚冠軍と出会うと、譚道良は力自慢の戚冠軍に「あの大木を引っこ抜いてみないか?」ともちかけた。
敵の刺客のほとんどを倒して意気揚々の戚冠軍は自信満々に挑戦する。このくだりにデジャブを感じた方も多いと思うが、これは『少林與武當』で羅奔が鹿峯にやられたときと全く同じ展開。そして譚道良の役名は高忠進!つまりというかやっぱりというか、譚道良は敵であったのだ!
荊國忠の犠牲でどうにか脱出し寺まで戻った戚冠軍。譚道良も追撃に現れたが、なんとか少林寺の羅漢陣によって水際で食い止められた。三徳和尚の治療によって回復した戚冠軍は、譚道良打倒と父の仇討ちを果たすべく、やっと一矢報いたので祝賀ムードな敵本拠に攻め込むのだった。
戚冠軍と譚道良といえば例の"借金踏み倒し事件"のせいか、譚道良が背後から戚冠軍に蹴りを入れるシーンがどことなくその話とダブって見え、複雑な気持ちになる…っていうか、本作の譚道良は戚冠軍を騙す役なので、かなりシャレにならない役回りである(爆
だが、この顔合わせだけあってラストの拳技VS脚技の対決は珠玉の完成度で、全編に渡ってひたすら辻斬り行為を繰り返す戚冠軍のアクションも素晴らしい。話としては戦ってばかりで前述の通り『太極八蚊』よりも悪く言えば話は薄いが、良く言えばシンプルになってマイルドに解りやすくなっている。功夫アクションについては二重丸で、その筋立ても往年のショウブラ作品を髣髴とさせる正統派なものに仕上がっていました。

『太極八蚊』

2007-08-26 22:42:54 | カンフー映画:佳作
太極八蚊
Shaolin Deadly Kicks/Flash Legs/Deadly Kick, Flash Legs
1977

●過去にも『少林門』など主演作を紹介している譚道良(タン・タオリャン)主演作で、台湾系の俳優が集まったオールスター作品でもある。まずは冒頭の盗賊団がある屋敷を襲い、そこから宝物を盗み出す場面からはじまるのだが、登場する面子が羅烈(ロー・リェ)、金剛(カム・コン)、龍飛(ロン・フェイ)、蔡弘とそうそうたる顔ぶれだ。
彼らはその宝物を分解して持ち去り、3年後に再会するよう打ち合わせた。その後、別件で盗賊団の1人が逮捕され、牢屋へと放り込まれた。ここでようやく譚道良が登場し、盗賊団の1人と相部屋である譚道良は、別室の囚人・陳慧樓(チェン・ウェイロー)の「お宝があるんだ!脱走したら掘り出そうぜ!」との誘いに乗り、共謀して脱獄を図った。
その後盗賊団の1人は仲間と共に陳慧樓の指揮で宝を掘り出そうとする。だが、これは潜入捜査官・譚道良の仕組んだ事で、仲間の刑事と合流した譚道良は盗賊団の1人とその仲間から宝物のかけらを奪取した。陳慧樓と刑事はやられたが、譚道良は更なる奪還に向けて旅立つのだった。
そこから譚道良は、3年後の再開を待ってカタギに身をやつした盗賊団たちと宝物を賭けて戦うことになる。まずは金剛と、次いで龍君兒(ロン・ジェンエール…ジャッキーの『天中拳』でヒロインを演じた人)と遭遇しつつ蔡弘&龍飛らと闘っていく譚道良。どうでもいいが今回の蔡弘は堺正章そっくりである(笑
続いて譚道良は龍飛を匿った同じ盗賊団の一員・王侠と対峙したが、王侠は鄭富雄(チェン・フーシェン)ら大勢の仲間を従え、譚道良を捕らえてしまう。しかも王侠は宝物の独り占めを画策し、龍飛を自慢の仕込み刀で殺害した。そこから脱出した譚道良は再び舞い戻り王侠に戦いを挑む。引っ張っていた割には弱かった王侠を倒す譚道良だが、自身も重傷を負ってしまい、山道で行き倒れとなってしまった。
そんな譚道良を助けたのは先の龍君兒だった。しかし運命とは数奇なもので(ご都合的とも言う)、龍君兒の父はかの盗賊団のリーダー格であった。密かに譚道良の殺害を目論む龍君兒の父…しかし龍君兒が譚道良に思いを寄せていることを知ってその手を止めた。迷う龍君兒の父だが、そこに羅烈が現れた。さっさと譚道良を殺そうとする羅烈と、娘の事を思って行動できない龍君兒の父は対立するが…。
その頃、譚道良と龍君兒の距離は縮まり、譚道良は自分が秘密捜査官である事を明かす。しかし業を煮やした羅烈によって龍君兒の父が殺害されてしまった。宝物のかけら全てを奪い逃走した羅烈を追う譚道良と龍君兒!そして全て集まった宝物は、大いなる財宝を開く鍵でもあった。財宝を目前にして、譚道良&龍君兒と羅烈の死闘が始まる!
話のテンポが龍君兒に助けられた辺りからガクッと落ちてしまうのが残念だが、話としては別段悪くはない。本作の監督は午馬(ウー・マ)で、このほかにもいくつか監督作がある。ちなみにその昔、彼が巨匠・張徹と共に仕事をしていた事はあまり知られていない。最後のオチがよくわからなかったが(「欲は身を滅ぼす」という事?)、譚道良の巧みな足技も堪能できる佳作。なかなか面白かったです。

『空手ヘラクレス』

2007-08-23 22:32:08 | カンフー映画:珍作
「空手ヘラクレス」
碼頭大決鬥/碼頭小子/碼頭龍虎鬥
Chinese Hercules
1973

●タイトルだけなら超有名なこの作品、やっと見る機会がありました。かつて『死闘伝説』に強烈なトレーラーが紹介されていましたこの作品は、李小龍ブームに沸き返る1974年に日本でも公開されています。ちなみに当時は功夫映画の事を"空手映画"と呼んでいましたので、タイトルには作中登場しない空手の名が冠されているということです。ちなみに当ブログでは"空手映画"=千葉真一のカラテ映画で統一しておりますので、ご注意のこと。
さてこの作品、いわゆる『ドラゴン危機一発』形式のものです。ニセ李小龍作品や凡百の低予算カンフー映画にありがちなペラペラの筋書きで、なかなか闘おうとしない主人公が親しい仲間を殺された挙句怒り爆発アイヤー!って展開なのです。特にコレといった見どころもないし、はっきり言ってつまんないです。
主演の陳惠敏(チャーリー・チャン)はお世辞にもカッコいいとは言えない風貌であり、貧相なルックスからは逆に弱々しいオーラが漂ってます(実際はボクシングチャンプだったり他の作品でも良いアクションはしていますが…)。作品自体も貧相で低予算な作りが見え見えで、なにしろ舞台が寂れた港とちっぽけな町のみ!アクションにも思い切りが無く、この作品に楊斯(ヤン・スエ)がいなかったらどうなっていたのだろうと心配にさえなりました。
その楊斯も自慢の筋肉は迫力あるものの、本作での見せ場はそれ"だけ"です。『燃えよドラゴン』ヒットで引っ張られたジム・ケリーが『黒帯ドラゴン』に出演したように、便乗する気満々で作られてるのが明らかです。それにしても、こんな作品でも日本で堂々劇場公開されたのは、当時の熱気溢れる李小龍ブームを象徴する一例とも言えますねぇ…自分も体験したかったです。

『截拳鷹爪功』

2007-08-22 23:06:51 | バッタもん李小龍
截拳鷹爪功
Jeet Kune the Claws and the Supreme Kung Fu
Fist of Fury 3
Chinese Connection 3
1979

▼李小龍の傑作『ドラゴン怒りの鉄拳』には多くの続編・リメイク・偽物・便乗作品が存在する。ジャッキーの『新精武門』、呂小龍の『忠烈精武門』『達摩鐵指功』『火燒少林門』、巨龍の『最後の精武門』、甄子丹の電視劇版とその数は膨大で、『死亡遊戯』と並び李小龍作品ではよく関連作が作られる事で知られている。そして今回紹介する本作は、今まで『精武門續集』と精武門作品に縁のある何宗道(ホー・チョンド)主演の新たな精武門の物語である。
…とまぁ大げさに書いてはいますが、いつもの李小龍バッタもん作品であります(笑

■『怒りの鉄拳』のラストで死んだ陳真こと李小龍の遺影と遺骨を手に、ひとりの男がマカオ(?)の田舎へと降り立った。男はそこでもはびこっていた日本人(この手の作品ではお馴染み魏平澳(ウェイ・ピンアオ)も登場)にケンカを売られるが一蹴する。彼は何宗道…今回は陳真の弟役で、盲目の母とイタズラ好きなお調子者の弟・韓國才の待つ故郷に帰ってきたのだ。…って、何宗道はまだしも、韓國才が李小龍の血縁者とはムリありすぎな気がしないでもないが(爆
何宗道は母と共に李小龍を弔うと、地元にもあった精武門へ挨拶に向かった。そこには道場主の劉鶴年と師範代の唐炎燦(トン・ウェンチャイ!)がおり、道場を切り盛りしていた。だが新参者の姿に唐炎燦はライバル心むき出しだった。一方、魏平澳は日本人の方野(軍関係者でもなければ何かの道場を持っている様子もないが…一体何者?)からある伝言を聞かされていた。
「陳真という男を知っているか?もう死んでるが、上海で俺たちの同胞をずいぶんと手こずらせたらしい。その弟がこの近くに来ているらしい。禍根を断つべく、我々はそいつを抹殺する!」
…かくして、日本人達による何宗道の抹殺計画が行われる事となった。魏平澳は手始めに何宗道の家を襲撃したり、唐炎燦にちょっかいを出したりと動き始めた。その唐炎燦だが、どうやら劉鶴年の娘の事が気になる様子。気になるので四六時中監視し尾行し…ってそれじゃ犯罪だよ(笑)!なかなか想いの伝わらない(当たり前だ)唐炎燦は、酒を煽ったり、大道芸をしている米雪ら親子を襲ったり、何宗道とケンカをしたりと狼藉の数々を行い、劉鶴年からもクギを刺された。
そこに注目した魏平澳は、唐炎燦をこちら側に引き込んでしまおうと画策し、彼の飲んでいた酒にあやしげな薬を忍ばせた。その夜、何故かムラムラして眠れない唐炎燦は魏平澳の言葉もあり、劉鶴年の娘に夜這いをかけた。その際、仰々しい音楽で夜這いに向かう唐炎燦と、黄金の寝間着で寝ている娘さんが爆笑モノだ(笑
結局、劉鶴年に見つかり唐炎燦は破門となる。魏平澳はまんまと日本人陣営に唐炎燦を誘い、改めて何宗道抹殺計画をスタートさせた。その計画の内容は、顔を隠して連続殺人事件を起こし、次に娘さんが何宗道にプレゼントした服を唐炎燦が着て劉鶴年を殺害し、全ての罪を何宗道になすりつける…という、ものすごく回りくどい作戦だった。
作戦は成功し、何宗道は捕まってしまう。その頃、日本人たちの大ボスである谷峰(クー・フェン)が方野たちと合流していた。「何宗道を手筈通りにハメて監獄送りにしてやりまさぁ」と話をしていたが、それを聞いていた米雪親子が舞い戻り、娘さんに何宗道の無実を訴えた。そこへ事実隠蔽をもくろみ唐炎燦が現れ、戦闘となる。誰が正しいのか困り果てた娘さんは、なんと劉鶴年の墓前で自決してしまった(!)。やっと得た娘さんを死なせてしまった唐炎燦の胸中は…。
続いて米雪親子は何宗道を助け、早くこの地を立ち去ろうと持ちかける。最後にひと目母と会ってからと言う何宗道…だが、母と韓國才は日本人たちに殺されていた。怒りに振るえる何宗道は、怒りの鉄拳を振るう!

▲話の方はちょっと寄り道ばかりという印象を受けますが、まぁそこそこといった感じでした。このあと何宗道は方野ら日本人たちを倒し、最後に谷峰との死闘となります…が、ここで大きな矛盾が発生するのです。
というのも、何宗道は母と韓國才を殺したのが日本人とは知りません。そして何宗道は獄中にいたので娘さんが死んだ事も、大ボスの谷峰が現れた事も、唐炎燦が事件に荷担していた事も知らないのです。なのに何宗道は日本人のアジトへとアチャーっと乗り込んでいきます(爆)。この直前まではダメなりに頑張っていた本作ですが、どうしてこんな事になったのでしょうか?
私が思うに、「何宗道の暗殺計画」という物語が進んでいくうちに精武門らしくない展開へと進んでいったので、焦った製作サイドが急きょ精武門らしい展開に持っていった…というのが真相のようです。ではこの矛盾だらけの後始末をどうしたのかというと、それは唐炎燦が死に際に何宗道に詫びるという形で解消する…つもりだったんでしょうが、土手っ腹に日本刀が貫通した状態で延々と喋る唐炎燦の姿はシュール過ぎます(笑
辻褄合わせに大失敗した本作ですが、劇中の功夫アクションは思ったより悪くありません。バッタもん作品にはありがちですが、これだけが唯一の救いかも知れません。あとは要所要所で笑わせてくれる唐炎燦の存在も光っていました(爆

『ストリート・ソルジャー』

2007-08-21 22:21:52 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ストリート・ソルジャー」
「ストリート・ソルジャー/炎の逆襲」
STREET SOLDIERS
1990

●本作の筋書きは、主人公たちタイガース(野球団みたいな名前だが、町の治安を守る愚連隊のような集団)とストリートギャングの一味との血で血を洗う抗争を描いた物語なのだが、作中空手道場の師範として主演し、製作も兼ねたジュン・チョンのおかげか、アクション・ストーリー共になかなかの良作となっている。
アクションはどちらかというと蹴り技中心のテコンドーに近いスタイルなのが特徴だが、本作の注目どころといえば、何と言っても黄正利(ホアン・チェン・リー)が、ジェイソン・ウォン名義で参加している点に尽きるだろう。今回の黄正利はギャングのボスと共に刑務所を出所し、ジュン・チョンらタイガースと戦っていくのだが、やはりその電光石火の蹴り技は凄く、ラストにおけるジュン・チョンVS黄正利の対決は一番の見所と思われる。
話自体は暗くて単調で、『L.A.ストリート・ファイターズ』の時のような泥臭い迫力も薄れ気味だが、他のマーシャルアーツ作品の中では別格のクオリティであり、香港映画に目のなれた人でも満足して見られることだろう。ジュン・チョン関連作はこの他にも『サイレント・アサシン』があり、今後も要注目と思われる。
ところで1つ気になるのが、この時期の黄正利の動向である。黄正利はこの前後に『レイジング・サンダー』『フューチャー・ハンター』といった海外作品に連続して出演している(『レイジング~』は一応香港映画だが)。やはり彼も他のスターのように海外進出を夢見ていたのだろうか?しかし、この4年後に黄正利は韓国映画『ボス』に出演したのを最後に銀幕から遠のいている。彼の映画人生の晩年にあったこの不可解な動きは、果たして何を意味していたのだろうか…?

『フィスト・オブ・レジェンド/怒りの鉄拳』

2007-08-21 00:20:17 | 李連杰(ジェット・リー)
「フィスト・オブ・レジェンド/怒りの鉄拳」
原題:精武英雄
英題:Fist of Legend
製作:1994年

▼本作はかの李小龍の名作『ドラゴン怒りの鉄拳』のリメイク作品である。『精武門』関連作品といえば、これまでにジャッキーが続編の主人公を演じたほか、甄子丹、梁小龍が電視劇で陳真に扮し、バッタもん李小龍を含めれば相当数になるだろう。
肝心の出演陣は李連杰を筆頭に、かつて『怒りの鉄拳』のオファーを受けながらも出演が果たせなかった倉田保昭、キックボクサー出身の周比利(ビリー・チョウ)、さらに"最後の功夫スター"錢小豪(チン・シウホウ)、ヒロインに中山忍を迎えて単なるリメイクではない様相をみせている。

■物語は日本から幕を開ける。陳真こと李連杰は日本の大学に留学して学業に励んでいたが、倉田さんを通じて師匠の訃報を聞き、一路上海に帰ることになった。
師匠の死因が不確定で、かつ他流試合の最中に倒れたことを怪しんだ李連杰は、その時師匠が戦った相手である芥川さん(演じるは樓學賢(ジャクソン・ラウ)という人)のいる虹口道場へ行くと大暴れを展開。芥川さんは呆気なく倒れ、李連杰は「師匠はきっと謀殺されたに違いない」と確信する。
翌日、警察の立会いのもとで検死解剖が行われることとなり、李連杰は師匠の棺を兄弟子の錢小豪と共に墓から掘り出した。検死の結果は毒殺で、道場の仲間たちは身内の犯行だといぶかしむ。それから李連杰は道場で弟弟子の育成に励んだが、一方でないがしろにされ続ける錢小豪はあまりいい気分ではなかった。
この一連の事件は、精武門を潰そうと企む日本軍の藤田(周比利)の仕業だった。周比利はまず邪魔者の李連杰を失脚させるべく、敗北した芥川を殺害してその罪を彼に擦り付けた。李連杰は仕方なく精武門を去り、日本からやってきた中山忍と掘っ立て小屋で暮らすことになってしまい、錢小豪も李連杰に嫉妬して歓楽街へと走ってしまう。
空中分解状態となった精武門…そこに日本軍から挑戦状が送られてきた。相手はなんと倉田さん!倉田さんは李連杰の元へ向かったが、本当は倉田さんは軍部に肩入れしたくなかったこともあり、勝負は引き分けのうちに終わった。その後、再会した李連杰と立ち直った錢小豪は、打倒周比利のために特訓を開始する。敵は虹口道場にいる日本軍人周比利!二人の前に、とてつもない壁が立ちふさがるのだが…!?

▲まず凄いと思ったのが、ラストの李連杰と周比利の一騎打ちだ。とにかく拳を打ちまくる李連杰だが、周比利は不動!殴っても蹴っても倒れない!お前は怪物か!前哨戦の錢小豪VS周比利も周比利が片手片足しか使ってないで勝ったのもまた凄まじい。倉田さんと李連杰との対決もかなりのもので、年齢を感じさせないスピーディーな、世代を超えたドラゴン同士の対決は一見の価値ありだ。
しかし本作で気になったのは錢小豪の扱いである。張徹作品から新たなスターとしてデビューした錢小豪だが、90年代に入ってからは損な役ばかりな気がしてならない。同じく李連杰と共演した『大地無限』では裏切り者だったし、『セブンス・カース』ではいいところを周潤發に持っていかれ、その後もこれといった代表作がないまま現在に至っている。
どちらかというと兄弟の錢嘉樂(チン・ガーロッ)の方が活躍している気がするし、彼は近年も俳優のみならず監督業へ進出するなど精力的だが、錢小豪については最近活躍は全く聞こえてこない。このまま埋もれるには惜しいと思うのだが…それは錢小豪の今後の躍進に期待しよう。

『ジャッキー・チェンのヤング・タイガー』

2007-08-19 22:50:05 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ジャッキー・チェンのヤング・タイガー」
「ドラゴン・ファイター」
女警察/師哥出馬/日可出馬
Police Woman/Rumble in Hong Kong
The Young Tiger/Here Come Big Brother
1971

●ジャッキーが駆け出しの頃に出演した作品で、主演は同じ七小福の元秋…そう、『カンフーハッスル』で元華の奥さんを演じていたあの人である。彼女は甘家鳳(フェニックス・キム)の別名を持ち、本作以外では何故か巨龍(ドラゴン・リー)作品などにも出演している。
本作はタイトルにあるようなジャッキー主演作ではなく、実際の主役は『五福星』でおなじみの秦祥林(チャールス・チン)である。脇には李文秦(リー・マンチン)や張午郎なども顔を覗かせており、話は麻薬組織の事件に巻き込まれたタクシードライバーの秦祥林が、刑事の元秋と共に組織をブッ潰すというありがちな話だ。肝心のジャッキーは比較的登場頻度が高い敵のチンピラ役で、最後に秦祥林と一騎打ちを演じて見せている(ナゼか頬に巨大なほくろがついている)。
武術指導は袁祥仁(ユエン・チョンヤン)とジャッキーだが、製作プロダクションの大地影業がめちゃ極小の貧乏会社だった為か、たった2カットのみで続くアクションシーンなど、予算の関係で出来ませんでしたと言いたいような場面が連発していて、かなり物悲しい(爆)。なお、これがジャッキーの初武術指導作品でもある。
大地影業はこれともう一つ日本でソフト化されている『ファイティングモンキー昇龍拳』(同じくジャッキー端役出演作だが、主演っぽく売っている反日映画)を製作し、続いて『死党』なる作品で再び秦祥林を呼んで製作している。その時ジャッキーもそれに端役出演しているらしいが、その出演のきっかけは当時京劇学院から出たばかりで一人つっぱっていた彼に、秦祥林が「もう一回出てみない?」と誘ってきてくれた事が始まりだったという。ジャッキーは彼から「映画館で客の反応を見ることが大切だ」とか俳優として大切な話をしてくれて、今も感謝しているとか。
この情報は芳賀書店発行の「ジャッキー・チェン」という書籍の中で触れられていた話で、秦祥林の人柄が偲ばれる面白いエピソードである。ということは、この2人がのちに『五福星』で再開するのは必然だったのかもしれない。運命とは面白いものですねぇ。

…と、ここでレビューが終わりそうなものなんですが、この逸話にはちょっとした謎が残っています。それは『死党』という作品の事です。『死党』は大地影業制作、秦祥林主演でジャッキーは端役と先の本にもあったんですが、ネットで探してみてもそんな作品は無いのです。
ものの話によると大地影業は上記の『順天立地』と本作を作った後すぐに潰れたという話ですし、秦祥林のフィルモグラフィーを調べてみてもそのような作品は見当たりません。一体『死党』とはいかなる作品だったのか、そもそも存在する作品であるのか否か…まだまだ謎は尽きません。

『拳鬼』

2007-08-18 22:47:24 | 日本映画とVシネマ
「拳鬼」
製作:1995年

●かつてライバルの塩谷庄吾を死闘の末に殺してしまった空手使いの阿部寛。彼は空手を捨てて整体士として生きる道を選び、刑事の長谷川初範やヒロインと平和に暮らしていた。だが、謎の老人石橋雅史がヤクザの桜井章一を一撃で撲殺したことを発端に、ヤクザが阿部を利用しようと画策する…。
 『ドラゴン桜』『トリック』の個性派俳優・阿部寛が若い頃に挑んだVシネ作品です。かつて彼は『孔雀王/アシュラ伝説』でも体を張ったアクションを演じていましたが、本作でも体当たりの格闘アクションを熱演!序盤における塩谷庄吾とのハードな対決、そしてラストの太極拳の使い手・石橋雅史(!)との戦いは、当時のVシネとしては十分良質なクオリティに達していたと思います。
当時を振り返った阿部は某紙のインタビューで「自分の体格が大きく、吹替えのスタントが一切使えなかったので大変だった」と述懐しています。その苦労の甲斐もあって、劇中では長身から繰り出される拳打にかなりの迫力があり、見事なファイトシーンを演じ切っていました。
 しかし、本作で一番気になるのは石橋雅史の存在です。彼は『激突!殺人拳』などの空手映画で何度も千葉真一と対決し、『女必殺拳』シリーズで志穂美悦子と倉田保昭に立ちはだかり、『吼えろ鉄拳』で真田広之とも共演しました。まさしく石橋こそが70年代の東映空手映画ブーム最大の功労者であり、また同時に生き字引ともいえる存在だったのです。
そんな彼が空手ブームから20年近く経ち、久々に空手アクションを見せるというのだから、興味を持たぬファンがいるはずがありません!さすがに高齢のため、本作では各所で吹き替えスタントが挿入されていますが、往時と変わらぬ力強い動作を披露していました。香港映画では年を食っても動ける人が沢山いますが、日本でもこういう人がいるとは実に驚きです。
 必然的にノースタントで挑んだ阿部と、老いてもなお衰えを知らない石橋。ラストで両者が見せる一騎打ちは、さながら世代を超えた夢の対決といえるのかもしれません。本作はVシネなので尺も内容も薄味ですが、今となっては古武道を得意とする阿部の肉弾戦が見られる貴重な作品でもあるので、阿部ファンも見て損はないはずです。