功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

【Gメン82in香港カラテ③】『香港の女必殺拳』

2010-04-20 23:32:47 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「香港の女必殺拳」
製作:1982年

▼最初の『燃えよ!香港少林寺』『吼えろ!香港少林寺』で大失敗し、続く『赤いサソリVS香港少林寺』で持ち直したかに見えた『Gメン82』の香港カラテシリーズであるが、今回は一気に急降下していました(爆
時期的にも打ち切りが目前に迫っていたので、そのへんの事情も影響しているものかと思われるのだが…っていうか、これがシリーズ最後の香港ロケなのか……なんか非常にやりきれない気分にさせてくれますが、まずは粗筋を。

■今回はヘロイン密輸に絡んだ物語で、タイのバンコックから香港へと売られる麻薬を追って、Gメンの江波杏子が香港入りするところから始まる。
江波は運び屋の女・吉岡ひとみを尾行し、その流通ルートを探った上で摘発しようとしていたのだが、謎の刺客に襲撃を受けて目を負傷。失明の危機に陥ってしまう(この人、香港に来るたびに災難に遭ってばっかりだなぁ)。捜査は同行していた三浦浩一が引き継ごうとするが、江波は絶対に麻薬シンジケートを摘発しようと決意していた。
ヘロインは人形の中に詰め込まれて密輸されており、吉岡はそれをタイから元締めの小林稔侍の元へ運んでいる。そこで三浦は人形をすり替えることに成功し、これをエサに敵と取り引きしようと考えていた。一方、作戦のとばっちりを喰らった吉岡は小林の逆鱗に触れ、用心棒・阿藤快によって殺されてしまう。
 三浦は、麻薬を片手に仲介人の石橋雅史(!)の元へ接触したが、彼らの前にあの三妹(サン・ムイ)が姿を見せる。しかし彼女は江波に襲い掛かり、麻薬の入った人形を奪い去ってしまった。奇妙な行動を見せる三妹に疑問を抱く三浦たち…だが、その背後に阿藤が迫っていた。実は、三浦が石橋に見せたヘロインは純度が高く、バンコックでしか作れないという特徴があった(要するに奪ったヘロインを持っていたのがバレた)のだ。阿藤に捕まった三浦は、ボコボコにされた挙句に東シナ海へと放り込まれてしまう。
窮地に立たされた三浦だが、そんな彼を助けたのは三妹であった。三妹は「私は麻薬シンジケートに兄を殺された。人形を奪ったのは貴方たちを助けるためだった」と告げ、シンジケートの一掃を誓って手を取り合った。
 そのころ、病院にいた江波のもとに石橋と阿藤が現れ、麻薬を取り返そうと血眼になって襲いかかってきた。倉庫へと逃げ込んだ江波と三浦は、追ってきた阿藤を高圧電流の機械に叩き込んで撃破!江波の目も回復してホッとしたのも束の間、今度は小林稔侍がやって来た!
三妹は三浦と協力してこれを叩きのめしたが、最後に江波を襲撃した刺客が現れた。江波の機転で反撃に転じたが、そこで意外な刺客の正体が判明する!

▲…と、話はこんな感じである。麻薬がらみの話になってしまうのは、原点回帰だと考えれば悪くは無い。香港側のゲストが2人しかいないのも、末期だから仕方が無いとする。敵のボスと用心棒が功夫のできない日本人であるのも仕方ない……訳が無いよ!(泣
本作は、ストーリーこそコレといって普通の話だが、あらゆる面でのミスキャストっぷりが際立っている。まず小林稔侍がボスで阿藤海がカラテ使いの殺し屋という時点で間違っている。『燃えよ!香港少林寺』のストロング金剛にも随分と参ったが、彼の場合はアクションを演じられるのでギリギリ許せた。だが、小林と阿藤は功夫アクションが全く出来ない普通の俳優さんだ。せっかく香港でロケまでしておいて、メインの悪役が動けない日本人では全く意味が無いではないか!
 一応、石橋雅史や竜咲隼人といった動ける人員も出演しているが、彼らに関する扱いも極端に悪い。
石橋はクライマックスで三妹と対戦するのだが、阿藤に「三浦たちを追え」と促したシーンを最後に姿を消してしまうのだ(このあとカメラは阿藤ばかりを映し続け、ようやく阿藤の出番が終わったと思ったら、何事も無かったかのように三妹が登場している)。石橋にとっては2度目の香港勢との対戦であり、それまで良いファイトを展開していただけに、結末どころか退場する描写すら見せずに終りというのは、いくらなんでも酷すぎる。
竜咲に至っては、石橋のジムでトレーニングしているだけのエキストラ同然な扱いで、当然アクションは見せていない。そして、三妹と並んでゲスト出演している陳惠敏(チャーリー・チャン)だが、ラストバトルを除くと見せ場は一切無し!まぁ、役柄が役柄だけにしょうがない部分があるかもしれませんが…。
しかし、「動ける奴を放置して動けない奴を動かす」というヘマを、よりによって香港カラテシリーズの最終回にやらかしてしまった罪は限りなく重い。番組の打ち切りが決まって、監督がメガホンを東シナ海に放り投げたのかと思ってしまうような、そんな出来のエピソードである。それにしても、何度も言うけどこれがシリーズの最後だなんて…そりゃ番組も打ち切りになりますよね(号泣

 ところでタイトルに「女必殺拳」とあるが、三妹の兄が潜入捜査の末に死亡したという設定や、麻薬シンジケートの密輸方法がヘンテコだったり、石橋雅史が出演していたりと、内容もなんとなく『女必殺拳』を連想させる内容になっている。これは製作に東映が加わっていた影響か?

【Gメン82in香港カラテ②】『赤いサソリVS香港少林寺』

2010-04-17 23:35:34 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「赤いサソリVS香港少林寺」
製作:1982年

▼波乱の船出となった『Gメン82』の香港カラテシリーズだが、通算3回目となる今回は一風変わった内容になっている。タイトルにあるとおり『少林寺』を意識した内容で、香港側のキャストの一部が丸坊主にされているのだ。
メインとなるゲストは名悪役の高飛(コー・フェイ)で、楊斯(ヤン・スェ)に次ぐ香港ロケの顔役・江島(チャン・タオ)も復活。そのほかには唐天希と竜咲隼人が前回の『吼えよ!香港少林寺』から引き続き登場している。注目すべきは高飛の動きで、前回の陳觀泰(チェン・カンタイ)は色々と難のあるキャスティングだったのに比べ、今回はキレキレの功夫アクションを披露してます。

■とある組織の内部抗争によって、一人の男が香港警察に留置された。逮捕された男・高飛は秘密結社・赤いサソリの一員であり、Gメンの清水健太郎は赤いサソリの実体解明&誘拐された妹を救出するため、彼に接触を試みるのだった。
高飛と同じ牢屋に送り込まれた清水は、脱獄しないかと高飛を誘いにかけ、外におびき出すと手錠で互いの手を繋いだ。もちろん高飛は激しく抵抗したのだが、清水の目的が妹の救出だと知り、自らの身の上を語りだした。高飛は妹と共にベトナムから疎開してきた中国人で、生きるために赤いサソリの仲間になったのだが、組織が人身売買を始めると聞いて反抗したというのだ。
その際、高飛の妹は組織に捕らわれてしまったため、彼は組織に刃向かったのである。それぞれの事情を明かした清水と高飛は、手錠を捨てて組織の壊滅を誓い合った。
 妹たちを助けるため、2人はまず赤いサソリのボス・江島(表向きは慈善家の大富豪)の娘を捕まえ、彼女と引き換えに妹たちを助けようとしていた。だが、高飛の不在時に竜咲隼人らが現れ、江島の娘もろともアジト(ロケ地はいつものタイガー・パーム・ガーデン)に連れ去られてしまう。一方、江島の娘は清水たちから真実を聞かされており、父親である江島に疑問を持ちつつあった。
そして、時を同じくしてGメンの三浦浩一と合流した高飛は、清水たちを救い出すためにアジトへと潜り込んだ。だが、高飛も捕らわれの身になってしまい…と、そこへ江島の娘が現れた。江島の娘は清水と高飛を助け出し、妹たちの居場所を2人に告げた。清水は地下牢へ向かうと、自分の妹と高飛の妹を救出!高飛は竜咲や唐天希たちを叩きのめすと、最後に残った江島に立ち向かうのだった。

▲これまで、香港カラテシリーズは人質交換と麻薬のみで話を進めてきたが、『Gメン75』の終盤あたりから次第に新たな物語を模索していくようになる。
前回の『燃えよ!香港少林寺』前後編は宝石の争奪戦を主軸とした話で、今回は刑事ドラマによくある「手錠のままの脱獄」的なストーリーを辿っている。無論、それだけでは日本でもやれる内容なのだが、高飛に難民の悲哀を語らせることで香港ロケの必要性を強調し、一応の体裁を整えている。
清水と高飛の友情も爽やかだし、一筋縄ではいかない敵の描写もなかなかのもの。ただ、欲を言えば江島の娘の顛末をもっと細かく描いて欲しかったし、最後に高飛とその妹が再会するシーンも入れて欲しかったところである(正直、「敵を倒して終り」というB級カンフー映画みたいなラストを『Gメン』でやってもらいたくなかったです)。
 功夫アクションはさすがに面白く、オープニングから高飛によるハイスピードなバトルが炸裂!なかなかレアな高飛VS竜咲隼人という対戦や、前回は陳觀泰とリズムが合わなかった唐天希との接戦、そして最後の高飛VS江島に至るまで、燃えるファイトに仕上がっていました。
そして、清水のアクションも前回からボリュームアップしているのが特筆で、今回は高飛と立ち会ったり、手錠に繋がれたまま敵と闘うなど、おいしい見せ場が幾つも登場している。上記の高飛との友情なども含めて、なかなかの好印象を残しています。

【Gメン82in香港カラテ①】『燃えよ!香港少林寺』&『吼えろ!香港少林寺』

2010-04-14 22:21:10 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「燃えよ!香港少林寺」
「吼えろ!香港少林寺」
製作:1982年

▼去年は『Gメン75』の香港ロケ編を特集で紹介しましたが、まだまだGメンの香港カラテシリーズは数が尽きません。そんなわけで(?)、今回は『Gメン82』の香港編を3回に渡ってレビューしていきたいと思います。

 長年親しまれてきた人気刑事ドラマ『Gメン75』だが、その物語も一応の区切りをつける時がやって来た。そして『75』終了から程なくして、『Gメン82』はブラウン管へと帰って来た。
新規参入のニューフェイス、重厚なストーリーなどは前作から変わらなかったが、対抗馬として『西部警察PART2』が存在した事で、Gメンたちは苦境に立たされてしまう。野性味溢れるアクションと派手なスタントシーンで一世を風靡した『西部警察』…ハードボイルド路線を貫いていた『Gメン』にとって、どんな犯罪組織よりも手強い強敵の出現であった。
『Gメン82』は様々な試みに挑むことで対抗していたが、人気が延びずに17話で終了してしまう。その1クールちょっとの中に、香港カラテシリーズは4本も製作されている。
いわゆる「テコ入れ」というやつだが、それまで『Gメン75』が得意としてきた李小龍(ブルース・リー)的なアクションは、1982年の時点では完全に時代遅れとなっていた。当時はジャッキーがコミックカンフー路線で活躍し、李連杰(リー・リンチェイ)が本場の功夫で登場していた時期にあたる。そこで『Gメン82』でも、タイトルに少林寺の名を冠することで流れに乗ろうと画策していたようだが…。

■日本で500万ドルの宝石を強奪した堀田真三&中田譲治ら兄弟(なんて濃い兄弟だ・笑)は、宝石鑑定士を殺して香港へ逃走。Gメンの篠田三郎・清水健太郎・三浦浩一の3人は、強盗殺人犯の兄弟を追って香港へと渡った。
今回はフレンドリーな香港警察&陳觀泰(チェン・カンタイ)の協力を得て、Gメンはあっさりと中田の逮捕に成功する。しかし、堀田が香港シンジケートに「中田を助けてくれ」と依頼したことから、事態はGメンとの全面抗争に発展してしまう。香港シンジケートのボス・陳惠敏(チャーリー・チャン)の元には、ストロング金剛、楊斯(ヤン・スェ)、竜咲隼人らカラテ使いの殺し屋たちがいた。まず陳惠敏は中田を奪い返すために、なんと警察署を真正面から襲撃!これによって陳觀泰の兄が人質にされてしまった…って展開が無茶すぎるぞ!(笑
 立てこもったストロング金剛らは、中田の釈放を要求。篠田たちは無視を決め込むが、結局は釈放を許してしまう。なんとか陳觀泰の兄は救出されたが、代わりに人質となった清水が窮地に立たされてしまった。しかし、そこに謎の女ドラゴン・三妹(誰?)が救援に現れ、陳觀泰もまんまと楊斯から宝石を奪い返した。
そして、三妹が陳觀泰の兄弟弟子であり、日本で殺された宝石鑑定士の娘であり、被害者かと思われた宝石商が香港シンジケートの仲間だったことが判明する。陳觀泰の兄は宝石商を始末するが、堀田と中田の手によって殺されてしまう。怒りに燃える陳觀泰は、三妹やGメンたちと共に敵地へ乗り込むと、カラテ使いたちを一網打尽にするのだった。

 …だが、これで引き下がる香港シンジケートではない。顔に泥を塗られた陳惠敏は、Gメンから500万ドルの宝石を奪い返そうと動き出していた。今回は逮捕されたカラテ使いたちに代わって、新たに唐天希(タン・テンシー…『小覇王』のハゲヤクザ)が参戦。香港へ立ち寄った警視庁副総監の娘を誘拐し、奪い返された宝石とカラテ使いたちの解放を目論んだのだ。
その後、楊斯とストロング金剛は牢獄から解き放たれ、宝石もGメンの江波杏子が受け渡しに向かうこととなった。ところが、身代金の宝石は突然現れた陳觀泰によって奪われてしまう。この陳觀泰、自分の境遇に絶望して自暴自棄になっていたようで、三妹はそんな陳觀泰を叱咤する。宝石は三妹が取り返してくれたので事なきを得たが、実はこの事件には内通者がいたのだ。その内通者というのが、誰であろう香港警察の本部長その人であった。
事が露見し、Gメンや副総監の説得で改心した本部長だったが、その直後に香港シンジケートの刃に貫かれてしまう。陳觀泰が現場に復帰し、香港シンジケートから取り引きの最後通告が言い渡される中、Gメンと香港シンジケートの最終決戦の幕が切って落とされた。ストロング金剛・唐天希を一蹴し、陳觀泰VS陳惠敏&三妹VS楊斯の死闘が始まる!

▲色々と疑問の尽きない作品だが、あえて言わせてもらいたい…どうしてこうなった!?(涙
まず最初にストーリー面の評価をしたいが、今回のGメンはあまりにも役立たずだ。これまでの香港カラテシリーズでもないがしろにされることの多かったGメンだが、この前後編での扱いは特に酷い。『燃えよ!香港少林寺』では、香港の警察署に襲撃を受けた際に人質の命をスルーし(銃で撃たれて死にそうになっている警官もいるのに)、なすすべ無く犯人を返還。もし三妹が助けに入らなければ、人質になった清水も死んでいた可能性が非常に高い。
『吼えろ!香港少林寺』では更に悪化していて、いとも簡単に副総監の娘を奪われる江波から始まって、三浦と清水が尾行に失敗し、陳觀泰にあっさり宝石を横取りされ、最終決戦には江波を除いて誰も参加しない(!)など、その醜態は目を覆うばかりだ。香港警察の本部長は「彼ら(Gメン)に一体何ができる?」「なぜ人質を助けない?」と発言していたが、まったくもってその通りだ。
 そんな役立たずのGメンに代わって、本筋を引っ張るのが陳觀泰と三妹なのだが、こちらもまた魅力に乏しい。
陳觀泰は身を持ち崩してギャンブル漬けになっているというキャラで、自分の殻にこもっているという点では『Gメン75』に登場した梁小龍(ブルース・リャン)に近いと言えなくもない。だが、よく解らない目的で宝石を奪ったり、途中で三妹に負けてしまったりするなど、完全にダメ中年にしか見えない。三妹もそんなに可愛くないし、いくらなんでもこれはなぁ…。
香港警察の本部長が裏切り者だったという展開や、陳觀泰の兄が家族のことを語った次の場面で殺されるあたりも強引だし、全体的にぼやけた作りになっているのは本当に残念だ。こんなテコ入れじゃ、人気が出なかった理由が何となく分かる気がする。

 功夫アクションはそこそこ頑張っているが、一番のネックは陳觀泰の存在だ。今までの香港カラテシリーズでは、旬の過ぎたスターが出ることもあったが、それなりの技量を見せてクオリティを保っていた。しかし、この作品の陳觀泰は腹が出ていて、技のキレも全盛期と比べて格段に劣っている。同期のスターである陳惠敏と比較すれば一目瞭然で、これでは盛り上がるものも盛り上がれない。
また、楊斯がメインの悪役になっていないことも問題ではないだろうか。『Gメン82』には初登場となる楊斯だが、唐天希やストロング金剛などと同格の扱われ方をしていて、ラストバトルでは陳觀泰に相手をさせてもらうことすら許されていない。楊斯にとって、この前後編は『Gメン82』に出演した唯一のエピソードだっただけに、この仕打ちは不可解だ。
あんまり動けていないストロング金剛の存在意義、出番が少なすぎる陳惠敏など、問題を挙げていけばキリが無いが、『Gメン』の香港カラテシリーズってこんなに質が低かったっけ?最初の香港ロケがこんな出来じゃ、先が思いやられるというか何というか…(爆

【Gメン75in香港カラテ(終)】『香港カラテVS赤い手裏剣の女』前後編

2009-12-25 22:53:23 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「香港カラテVS赤い手裏剣の女」
「香港カラテVS赤い手裏剣の女」PART2
製作:1981年

▼みなさんメリー・クリスマス!…と言いたいところですが、今回も「香港カラテシリーズ」の紹介です。「そろそろGメンは飽きた」という声も上がりそうですが、これにて特集はラストなのでご勘弁下さい(苦笑
さて、本エピソードは『Gメン75』にとっても最後の香港ロケということで期待が高まるところだが、今回は中国残留孤児をテーマにした重苦しい作品となっている。「香港カラテシリーズ」といえば、普段の『Gメン』には無い勧善懲悪(全てがそうという訳ではないが)と功夫アクションが醍醐味であったはずだが、本作はそれらを一切そぎ落として本来の作風に立ち返っているのだ。
また、今回香港側の助っ人として登場するのは孟秋(キティ・メン…女性功夫スターで『タイガー&タイガー/猛虎激突』が発売中)だけで、メインを張れるような功夫スターが不在であり、楊斯の降板など不安要素が多い。個人的な見解だが、幕引きとしては少々ボリューム不足だったのでは…と思ってしまうところである。

■現在もなお残る中国残留孤児問題。Gメンの江波杏子は中国で生き別れた3人の姉を探していたが、大きな成果も得られず帰路についていた。
その頃、香港では中国人・月丘千秋(『マカオの殺し屋』の彼女とは別人)が日本の政府高官・田中明夫を見て、異様な殺意を抱いていた。この田中という男は香港マフィアの江島と通じており、20億円の覚醒剤を密輸しようと企んでいる。江波は帰国のために香港へ立ち寄ったが、そこで彼女は田中が月丘に刺されるという衝撃的な場面へ出くわした。
成り行きから月丘を追うことになった江波は、香港警察の杉江廣太郎と協力して捜査に乗り出していくが、果たして彼女は何者なのだろうか?
 江波は単独で張り込みを続けた末に月丘の姿を見つけたが、孟秋と林崇正(本作ではベンジャミン・ラム名義)に行く手を阻まれてしまった。事情を知った孟秋に介抱された江波は、月丘が母の歌っていた童謡を口にしていたことから、まさかと思い彼女に問いかける。…そう、月丘は江波の生き別れた姉であり、残留孤児だったのだ。
涙の再会を果たした姉妹だが、月丘は田中が戦時中に人身売買に加担した外道であることと、そのために他の姉たちが死んだことを涙ながらに語った。日本に帰ろうと励ます江波だが、警察に追われる身である月丘は帰国できないと言う。江波は田中に直談判し、月丘を許さないのなら過去の悪事を暴いてやると奴に恫喝した。
 だが田中は臆するどころか、江島たちに依頼して月丘を抹殺しようと動き出した。しかも香港警察の杉江も敵の仲間であり、非情の包囲網は彼女たちに迫りつつあった。時を同じくして、香港マフィアは覚醒剤の密輸を目論み、遺骨収集団に化けた運び屋を日本に向かわせていた。だが、Gメンは敵の動きをいち早く察知し、ニセ収集団と60億円の覚醒剤はあっけなく押収されてしまう。
 怒り心頭の香港マフィアは江波も標的として目を付け、彼女もまた手傷を追った。その様子を見かねた月丘は「自分は貴女の姉ではなく、日本に帰りたくて身分を偽った…3人の姉はみんな死んでいる!」と思いも余らぬ事実を告げた。それでも江波は彼女を姉と呼んだが、とうとう田中によって月丘は殺害されてしまった。
江波と孟秋は、無念の死を遂げた月丘のために仇討ちを決意する。本当は姉が袖を通すはずだった黒い和服に身を包み、匕首片手に香港マフィアの根城へと突入する江波。孟秋もこれに加勢し、外道たちを討つために女たちの怒りが燃え上がる!

▲残留孤児にまつわる悲哀を描いた、実に優れたストーリーだ。
孤児たちの声にならない叫びを感じさせる内容で、これまで幾度か触れてきた難民というキーワードが大きく扱われているのがポイント。終盤で江波が討ち入るシーンはえもいわれぬ情念が漂っており、作品としては佳作と言えるだろう。それに、これまで人質と身代金というルーティンな話から脱却し、新たな「香港カラテシリーズ」の形を打ち出したという点でも、本作は注目されるべきエピソードである。
だが、それでも本作に対して私は思うのだ。「何かが違う」と…。
 中国と言う土地ならではの物語を構築した本作だが、革新的な内容ゆえに不満な点も多々ある。まずラストの展開についてだが、個人的にはどうもココが納得できないのだ。この場面で江波がやっていることは単なる仇討ちであり、その時点で田中や江島の罪は公に暴かれてはいない。それに、杉江がマフィアに加担していた事を江波は知らないままなのだ(ラストで江島たちと一緒に登場するが、マフィアの傘下だったことについては一切触れていないし、杉江自身は孟秋に始末されている)。
これまでの「香港カラテシリーズ」では倉田保昭や香港の助っ人が悪人を殺すというシーンはあったが、どれもこれも公儀に悪事が発覚した上での決着であった。しかし本作で江波がやっていることは、私怨による殺人でしかない。物語の勢いに任せてこのような結果になったのだろうが、いくらなんでもあんまりな決着である。
 次に気がかりなのは、アクションシーンと香港側の出演者についてだ。本作で香港に降り立つのは江波ただ1人で、他のGメンは日本で行動している。せめて千葉裕あたりを寄越してくれたなら、もう少しアクションに華が添えられたはずだ。また、孟秋は赤い手裏剣を駆使して華麗な活躍を見せてくれたが、いかんせんメインを張るにはインパクトが薄い。ここは主演級の大物が出てくれれば良かったのだが、おかげで全体的にアクションが尻すぼみになっているのだ。
ちなみに、本作で楊斯の代わりとして筋肉マン担当となるのは李春華である。『酔拳』で食い逃げを働こうとするジャッキーを叩きのめしたブッチャー…といえば知っている方も多いだろう。しかし、本作における李春華はそれほど大きく扱われておらず、蕭錦やジョン・ラダルスキーといった猛者たちも存在感が薄い(江波VS江島に至っては結末もかなり腰砕け)。一体、どうしてこんな中途半端なものになってしまったのだろうか?
もし本作のアクションがより高度な物であったら、悲劇的なストーリーと見事な功夫シーンが組み合わさった傑作が生まれていたかもしれず、それだけにこのような出来になってしまったのは残念だったと言うしかありません。

 そんな訳で長いこと『Gメン75』と「香港カラテシリーズ」を追いかけてみましたが、如何だったでしょうか?私としては多種多様な作品造りと方向性にチャレンジし続けた同シリーズがますます好きになってしまいましたが、特集は終わっても「香港カラテシリーズ」は終わりません。
なにしろ来月(2010年1月)はCSファミリー劇場において、『Gメン82』の香港編が引き続き放送されるのです。今回の特集で取り上げなかったエピソードも含め、この『Gメン82』の香港編もいつかレビューしようと思いますので、その時までしばしのご猶予と「熱い心に強い意志を包んだ人間たち」の活躍にご期待下さい!

【Gメン75in香港カラテ⑥】『香港カラテ対北京原人』前後編

2009-12-22 22:54:14 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「香港カラテ対北京原人」
「香港カラテ対北京原人」PART2
製作:1981年

▼梁小龍(ブルース・リャン)が2度目の出演を果たした本エピソードは、大風呂敷を広げすぎた前回の反省からか、北京原人の化石を巡る争奪戦に重点を置いている。また、マンネリに陥らないように偉豪(本作ではレイモンド・タング名義)というニューフェイスを用意し、悪役には李海生(リー・ホイサン…本作では前編のみ季海生名義)を迎えるという快挙を成し遂げている。
李海生については説明不要だが、ここでは偉豪について触れたい。偉豪はショウブラ出身の功夫スターで、張徹(チャン・ツェ)作品の端役などでスクリーンに登場。孫仲(スン・チェン)監督による武侠片『七殺(殺の字は旧字体)』で主演の座を射止めているが、残念ながら天映娯樂のリマスター版は発売されていない。梁小龍や倉田と直接的な関わりの無い偉豪だが、恐らくは同じショウブラ関係の縁で本作への出演に至ったのだと思われる。
 また、この前後編は「香港カラテシリーズ」を長年支えてきた楊斯(ヤン・スェ)にとって、図らずも最後の出演となったエピソードでもある(のちに『Gメン82』の香港編で復帰)。
今回の楊斯は佛掌拳&金剛拳なる技を駆使しているが、これは劇中の描写を見るに神打の可能性が高い。神打は『マジック・クンフー神打拳』や『龍の忍者』などでその一端が描かれており、香港映画では比較的ポピュラーな黒魔術として扱われている。また、ラストで李海生も鐵布杉(功夫片でお馴染みの防御術)のような技を使用しているが、こうして見てみると本作の演出は今までで最も香港映画的であったと言えるだろう。

■かつて第二次大戦で消えた北京原人の化石が発見され、香港ギャングがその獲得に乗り出した。
ところが、輸送のトラブルで北京原人が下塚誠(Gメンの1人・范文雀の弟)の手に渡り、あらぬ疑いで警察に拘束されてしまう。彼は香港警察の強引な取調べでムショにぶち込まれたが、香港ギャングは「化石の行方は下塚が知っているに違いない」と思い、獄中の彼に刺客を差し向けんと企んだ。一方、Gメンは下塚を救出するために千葉裕・セーラ・范文雀を派遣するも、香港警察の河合絃司は非協力的だった。
そのころ刑務所では、下塚の前に奇妙な男・偉豪が姿を見せていた。彼は下塚を狙う殺し屋(『少林寺VS忍者』の角友司郎!)を迎え撃つなど、悪い男ではないようだが…。
 刑務所で下塚と面会した范文雀は、彼の証言から事件に北京原人の化石が絡んでいることを知る。だが、香港ギャングと組んだ偉豪によって下塚が捕らえられ、范文雀たちの元に「北京原人をよこせ」と連絡が入る。范文雀たちは化石を持たずに取引現場へ向かうが、丹波哲郎の依頼を受けた梁小龍の参入によって、事なきを得た。
時を同じくして、若林豪も香港へ到着。ところが偉豪は梁小龍に接触を図ったり、下塚を逃がしたりと不可解な行動を取り始める。実は偉豪、北京原人の化石を追って中国本土から香港へ潜入した広東省の特別捜査官だったのだ。彼によって下塚の無実は証明されたが、その身柄は再び香港ギャングの手に落ちた。偉豪は下塚を利用して香港ギャングに近づいた事を范文雀に詫び、必ず彼を救い出すと誓った。そんな中、香港ギャングはまたも北京原人の化石を要求してきたが、北京原人の化石が忽然と消え失せてしまう。
 香港入りした丹波は、化石消失が河合の仕業である事を見抜いた。この北京原人の化石には多額の懸賞金がかけられており、大家族を養う河合は金欲しさに犯行へ至ってしまったのだ。若林の説得によって河合は改心し、無事に化石も戻ってきた。改めて協力体制を敷いたGメンは、偉豪と共に香港ギャングをおびき寄せる作戦に出た。案の定、香港ギャングは偉豪をアジトに幽閉し、梁小龍がこれを追いかける。
こうして、2人の龍虎はカラテ使いの殺し屋たちを相手取り、怒りの鉄拳を炸裂させるのだった…!

▲本作は『香港の女カラテ対Gメン』で見られた難点がいくつか解消されている。
前回はゴチャゴチャになったストーリーも方向性が一本化され、不甲斐ない有様だったGメンにも活躍の場が与えられている。また、今回も梁小龍は本筋に絡んでこない役柄ではあったものの、楊斯や李海生で見せた激しい功夫アクションなどで、大いに作品を盛り上げている。また、梁小龍に代わって本筋を受け持った偉豪も、敵か味方か解らないという、かつての何宗道を思わせる役柄を演じ、なかなかの存在感を発揮していた。
 とまぁ、ご覧のようにストーリーやアクションは格段に進歩しており、前回のバージョンアップとして正しく進化したエピソードとなっている。だがその一方で、香港警察が悪役化してしまうという事態を招いている。この「香港カラテシリーズ」において、香港警察はGメンの障害となる存在として一貫されてきた。時に縄張り意識を誇示し、時にGメンの捜査を掻き乱すなど、香港という特殊な環境の閉鎖性を感じさせる汚れ役であったが、彼らの言い分にも一理あることが多かった。
しかし本作での乱暴な態度や、あまつさえ国宝級の化石を売ろうとする行為など、その行動は完全に悪そのものだ。香港警察に不祥事が多かったことは事実だが、単純悪と位置づけてしまうのは安易ではないだろうか?次回でもその傾向が見られるが、これについてはまた次回の講釈で…。

ハードボイルド『Gメン75』次の活躍は、いよいよシリーズ最終作『香港カラテVS赤い手裏剣の女』前後編をお送りします。

【Gメン75in香港カラテ⑤】『香港の女カラテ対Gメン』三部作

2009-12-19 23:15:17 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「香港の女カラテ対Gメン」
「香港の女カラテ対GメンPART2」
「香港の女カラテ対GメンPART3」
製作:1981年

▼前回の『香港カラテ殺人旅行』は単発エピソードだったが、今回紹介するストーリーは3話にも渡る長編作品である。これは「香港カラテシリーズ」にとっても唯一の事例であり、この頃が同シリーズの最盛期であったことを伺わせている。
もちろん三部作という大イベントであるからして、香港側の助っ人は生半可な者では勤まらない。そこで今回白羽の矢が立ったのは、香港映画界最強の男として名高い梁小龍(ブルース・リャン)であった。過去にも主演作が日本公開され、『闘え!ドラゴン』でも客演を果たしている彼の登場は、全国のちびっ子たちに喝采の嵐を浴びたに違いない。
この時期の梁小龍は不摂生から肥満体型になり、往年の精鋭さが欠けている。しかし超人的な技の数々は健在で、この大長編に大きな花を添えているのだ。

■英国人ジャクソン率いる香港コネクションは、世界各国の麻薬Gメンが香港で麻薬撲滅会議を開くと聞き、激怒していた。香港コネクションの恐ろしさを知らしめるため、配下の廖安麗(アニー・リウ)、楊斯(ヤン・スェ)、黄薇薇(オー・メイメイ)は、会議のために集まった要人を次々と血祭りに上げていく。そんな中、日本からは警視庁の鈴木瑞穂が来ていた。香港コネクションに属する日本人・辻蔓長は、この鈴木に煮え湯を飲まされた経験を持ち、並々ならぬ恨みを抱いていたが…。
鈴木はGメンの宮内洋と中島はるみを連れ立って現地入りしていた。多数の要人の死により麻薬撲滅会議は延期となったが、香港警察は香港コネクションの摘発に全力を注ぐつもりのようだ。空いた時間を利用して、中島は難民街に住むチャン姉弟(姉役の中島めぐみは中島はるみの実妹。弟役の吹替えは声優の田中真弓が担当)と再会していた。このチャン姉弟、生活苦からヘロインの運び屋として日本に渡り、補導されたところを中島と鈴木に助けられた過去を持つ。そして、このヘロインを密輸させようとした男こそ、元刑事の辻蔓長だったのだ。
 チャン姉弟との再会を喜ぶ中島だが、廖安麗の姿を追って追跡を開始する。しかし逆に香港コネクションの手に落ち、ヘロイン奪還を狙う敵の人質となってしまった。そのころ、麻薬の売人を殺して刑務所入りしていた元警官の兄・梁小龍が、チャン姉弟の元に帰ってきていた。中島の危機を知ったチャン姉弟は梁小龍に助けを請うが、梁小龍はヌンチャクの封印を解こうとしない。一方、香港コネクションは鈴木に接触し、押収されたヘロインと1億5千万円の身代金をよこせと要求してきた。
Gメンの窮地を知った丹波哲郎はこの要求を仕方なく承諾。香港では動こうとしない梁小龍を見かねたチャン少年が、コネクションの様子を探ろうとして捕まってしまう。事ここに至り、梁小龍はついにヌンチャクの封印を解き放った!さっそく暗黒街の売人たちを相手取り、大立ち回りを演じる梁小龍(ちなみに、この戦闘シーンで背後の広告に狄龍(ティ・ロン)が映っている)。一時は彼も香港コネクションに捕縛されるが、隙を見て脱出に成功した。
 Gメンは総出で香港に向かうも、意見の違いで香港警察と対立。人質の確保まであと一歩というところで、香港警察の横槍によって全てがご破算となってしまう。ところが、逮捕された辻蔓長の口から、思いもよらぬ情報が飛び込んできた。奴が言うには、鈴木の生き別れた娘が香港で生きているというのだ。実は廖安麗は残留孤児の日本人であり、鈴木は彼女が自分の娘であると確信する。
辻蔓長に「廖安麗を連れて帰りたいならヘロインと身代金を渡せ」と促された鈴木は、奴の言葉に従った…が、その見返りはコネクションによる死の制裁であった。鈴木の死を知り、涙を流す廖安麗。父親の無念を感じ取った彼女は、中島とチャン少年を助け出して組織に牙をむいた。しかし強大な組織の前には廖安麗も倒れ、絶体絶命の窮地に陥る。そこへ、ドラゴン梁小龍が颯爽と現れる!

▲都合3話に渡って作られた本エピソードだが、どうにも冗長さを感じる話だ。ストーリーとしては梁小龍の活躍に麻薬がらみの事件を足し、更に残留孤児ネタまで詰め込んでいるが、この詰め込みすぎた構成がまとまりの無さを生んでいる。
特にPART3では、唐突に「実は鈴木の娘が残留孤児だった」という話が出てきたため、梁小龍が本筋から取り残されると言う憂き目に遭っている。どうせなら今まで通りに前後編でコンパクトに話を片付けて、香港コネクションとの攻防戦に徹してしまえばよかったのだが、なまじ三部作にしたことが方向性に迷走を生じさせてしまったと言えるだろう。
 また、本作における不満点はもうひとつある。それは、作中でのGメンの活躍ぶりだ。あくまで本作は『Gメン75』という刑事ドラマであり、刑事たちの活躍が作品の主軸となるべきである。だが今回のGメンは中島を人質に取られ、成すすべも無くコネクションの要求に従い、オコボレを貰うような形で辻蔓長を逮捕しただけ…前回までの何宗道(ホー・チョンドー)と共闘していた頃と比べると、あまりにも活躍に差がありすぎるのだ。
恐らく、これらの難点は製作スケジュールの都合が原因だったのではないだろうか。日本の出演者を大勢香港に向かわせ、慣れない功夫アクションをさせるのは時間の浪費も伴ったはずだ。しかし香港側の助っ人と少数の出演者を主軸にしてしまえば、ある程度の問題が軽減されると踏んだのだろう。その最初の試みこそ、この三部作だったのだと考えられる(なお、中途半端な結果となった残留孤児ネタは、後に『香港カラテVS赤い手裏剣の女』で仕切り直されることとなる)。
 さて肝心の梁小龍だが、作中では『帰ってきたドラゴン』でも見せた切り返しの早い蹴りの連打・壁上り・足技を次々と披露。Gメンたちと直接の顔合わせこそ無かったが、楊斯と黄薇薇の両者と闘ったラストの乱闘はなかなかの名バウトだ。廖安麗も役柄としては印象的だったが、こちらは特にこれといった功夫アクションは無し。組織を裏切った後の戦闘シーンもすぐ終わってしまったが、もう少し活躍しても良かったのでは?
そして次回は、いよいよあの香港映画屈指の名悪役が登場!ショウブラスターまで巻き込んだ梁小龍の第2ラウンドが幕を開けるが、まずは次回の講釈で…。

ハードボイルド『Gメン75』次の活躍は、『香港カラテ対北京原人』前後編をお送りします。

【Gメン75in香港カラテ④】『香港カラテ殺人旅行』

2009-12-15 22:30:06 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「香港カラテ殺人旅行」
製作:1980年

▼今回特集で取り上げる作品の中では、最も小規模なエピソードである。これは「香港カラテシリーズ」全体を見渡しても稀なことで、単発エピソードの回は極端に少ないのだ。ちなみにこの回は何宗道(ブルース・ライ)の再登場だけではなく、準レギュラーとして出演していた遠藤真理子・鳥居恵子ら水上姉妹の降板回なのだが、特にこれといって降板を匂わせる話ではない。
もっとも、『Gメン』という作品自体が降板などのエピソードをドライな捉え方をしているので、感傷的な要素は含もうとしなかったのだろう。だが、単発エピソードのためにわざわざ香港ロケを敢行したのは、彼女ら2人に対する別れの餞別のような意味合いも含まれていたのではないだろうか。

■遠藤真理子と鳥居恵子の2人は、3泊4日の香港旅行を楽しくエンジョイしていた。日本人の観光客らしくパシャパシャと写真を取っていたが、この行動が2人を事件に巻き込んでしまう。
難民街の付近で撮影をしていた遠藤は、知らぬ間に1人の男をファインダーに写していた。男は自分をカメラに撮った遠藤らを手下に襲わせるが、そこへ颯爽と"情報屋のドラゴン"こと何宗道が助けに入った。その後、写真を現像していて眺めていた2人は、数日前に千葉裕たちGメンが追っていた銀行強盗がカメラに収められていた事に気付く。
 この強盗・佐藤仁哉は、かつて千葉が交通機動隊に所属していた頃の同僚であり、千葉にとっても因縁深き男であった。2人の連絡で香港に飛んだ千葉と中島はるみだったが、既に何者かの手によって写真とネガは破棄されていた。とりあえず調査に乗り出した千葉は、難民街で佐藤の姿を見つけ出した。
しかしこの男、決して外道に堕ちたわけではなかった。佐藤は自身が退職するきっかけとなった交通事故で、顔に傷を負った吉岡ひとみを整形手術で元通りにすべく、資金繰りに奔走していたのだ。佐藤は現在、石橋雅史率いる香港シンジケートの傘下に入っており、あっという間に千葉は捕らえられてしまう。良心の呵責に苛まれる佐藤だが…。
 一方、千葉が行方不明になったことでGメンが本格的に動き出し、中島は遠藤・鳥居の2人と共に難民街へと潜入する。千葉は吉岡の手によって敵地から抜け出し、中島や駆けつけた何宗道と共に敵を蹴散らした。吉岡はこれ以上罪を重ねて欲しくないと、必死に佐藤へ懇願する。
石橋の元から去ろうとした佐藤だが、石橋は自分の組織をかき回した佐藤を放っておくはずが無かった。そのころ、遠藤と鳥居は残された時間を観光に活用していたが、佐藤が石橋によって撃ち殺される現場を目撃し、遠藤が捕まってしまう。
 敵のアジトに向かった千葉は冷たくなった吉岡と遭遇、銀行で強奪された金も発見された。香港シンジケートは遠藤を人質に佐藤が強盗で奪った金を引き渡せと言ってきた。Gメンの仲間や何宗道と合流した千葉は、旧友の命を奪った石橋らに対決を挑む!

▲人質と身代金の受け渡しというネタは、既に『Gメン対世界最強の香港カラテ』でやっているので二番煎じの感が強く、何宗道もアクションシーンのみの出演(『大福星』のジャッキーのような役柄が近いか)で、殺陣も技と技の繋ぎが荒々しく、精彩に欠けている。
しかしそれでも見ていられるのは、やはり個々の功夫アクションが決まっている点が大きいと思われる。本作の唯一にして最大の山場は、ラストにおける何宗道VS石橋雅史という異色のビッグマッチだろう。
 何宗道は様々な相手と戦ってきたが、一方の石橋は対戦相手に幅の無い男であった。彼が本格的にアクションスターとして歩み出したのは、『激突!殺人拳』における琉球空手の使い手・志堅原が最初であった。鋭い眼光と切り裂くような拳は、石橋を一気に空手映画の名悪役としてのし上げたが、これが彼自身の首を絞めてしまうことになる。
幾多の空手映画で猛威を振るい続けた石橋だったが、その素質の割りに対戦相手はいつもJACの関係者ばかり。千葉真一や志穂美悦子と飽きるほど戦った石橋だが、対戦した人数はそう多くなかったのだ。
 石橋がこうもJACの悪役としてもてはやされたのには理由がある。第1に、凄味のある悪役で空手のできる役者が彼以外にいなかった事。第2に、石橋の後進を成す悪役を輩出すべき立場のJACから、これといって大物の悪役が出てこなかった事が挙げられる(これらの理由によって、他のJACスターも同じ顔ぶれと闘わざるを得ない状況を生んでおり、JAC作品のマンネリ化を押し進める一因ともなった)。
そして、やっと石橋が部外の相手と拳を交わすようになったのは、Vシネ時代の到来した90年代に入ってからであり、ようやく阿部寛や清水宏次朗といった真新しい顔と出会えるようになっていった。が、既に石橋の全盛期はとうに過ぎ去っていた。
 そんな石橋に「香港カラテシリーズ」参戦の話が舞い込むが、最初の参加作品である『Gメン対香港の人喰い虎』では『女必殺拳』で共演済みの宮内洋の相手をしただけで、これといって印象に残る役ではなかった。そして遂に、今回やっと石橋は念願の対戦相手と邂逅を果たしたのだ、これが興奮せずにはいられるものだろうか(感涙)!結局、出来自体はそれほどでも無かった何宗道VS石橋雅史というこの対戦。しかし、この一戦に込められた思いは、決して軽いものではないのだ。
と、そんなこんなで何宗道の出番はこれまで。続いてはいよいよ"香港映画界最強の男"が、Gメンの世界へヌンチャクを携えて登場するのだが、続きは次回の講釈で…!

ハードボイルド『Gメン75』次の活躍は、『香港の女カラテ対Gメン』三部作をお送りします。

【Gメン75in香港カラテ③】『Gメン対世界最強の香港カラテ』前後編

2009-12-11 22:10:58 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「Gメン対世界最強の香港カラテ」
「Gメン対世界最強の香港カラテPART2」
製作:1980年

▼新メンバー加入で新たな方向性を模索した「香港カラテシリーズ」だが、その狙いは不発に終わった。そこで次に取られた解決策は、なんとも斬新かつ合理的なものだった。Gメンサイドに達人がおらず、香港の敵を迎え撃つのが不安であるのなら、その香港から助っ人を招けばいいのだ。こうして「香港カラテシリーズ」に、また新たな1ページが加えられる事となった。
今回Gメンと共に闘う最初の仲間は、バッタもんスターとして知られる何宗道(ブルース・ライ)である。元々はバッタもんであることを良しとしなかった何宗道だが、本作における彼は飄々とした謎の男を好演しており、彼自身も楽しそうに演じている。

■香港ギャングの江島(チェン・タオ)は、力石考(『南シナ海の殺し屋』の役とは別人)と共謀し、香港在住の日本領事を誘拐して100万ドルの大金を稼ごうと企んだ。さっそくGメンは事件の解決に乗り出したが、実は日本でも同様の手口による誘拐事件が起きていた。事件そのものは誘拐犯の死という形で決着したが、首謀者とされる力石はそのまま逃亡。この男が今度は香港に現れたのだ。
ところが、Gメンの捜査を良しとしない者が現れた。香港警察の警部・高品格は縄張り意識バリバリで、「Gメンの出る幕は無い」と言ってはばからない。敵が身代金を要求してくる中、領事館に一本の不審な電話が掛かってきた。その男・何宗道は情報屋ドラゴンと名乗ってGメンに近付くが、謎が多く要領を得ない。果たして何宗道とは何者なのだろうか?
 この何宗道、高品と繋がりを持つ男だったのだが、高品は身代金の100万ドルを横取りせんと画策していた。ところが香港ギャングの元にも何宗道は現れ、彼らに取り入ろうと動き出す。一方で高品は「身代金も含めて全部俺に任せろ」と言い出すも、Gメンは犯人との裏取引は断固として反対。ようやく犯人からの連絡で身代金の受け渡しと相成ったが、敵は大勢の手下を引き連れていた。
領事の娘とGメンの中島はるみは窮地に陥るも、敵の一味であるはずの何宗道が突然反旗を翻し、敵を一掃した…が、何宗道は身代金までも奪い去ってしまう。身代金を取り損ねた香港ギャングは、またも領事館に100万ドルを要求。しかし領事館の使用人が何宗道の妹であった事から、何宗道の目的と高品の秘密がGメンにも知れることとなる。実は高品、あくまで自分自身の手で香港ギャングを捕らえようと執念を燃やしており、自分が身代金受け渡しに向かうことで連中を現行犯逮捕しようとしていたのだ。
 高品のバックアップに回る何宗道であったが、1人になった所を狙われて高品は殺されてしまう。難民だった何宗道とその妹は、かつて高品に救われた過去を持っていた。香港ギャングに怒りを燃やす何宗道は、領事の居場所を探るためにわざと敵の手に落ちると、すぐにGメンへ連絡を飛ばした。かくして、何宗道の八面六臂の活躍で領事の所在を知ったGメンは、何宗道と共に香港ギャングへ決戦を挑む!

▲ストーリー・功夫アクション・作品の規模など、バランス良く配された「香港カラテシリーズ」でも指よりの傑作エピソードである。
これ以降は香港の助っ人が前面に押し出され、Gメンの活躍が少なくなってしまう傾向になるが、本作ではGメンとゲストの両者がきちんと描かれており、良質の作品となっている。特色だったのは高品格演じる香港の刑事で、本作で強く印象に残った。最初は単なる小悪党かと思いきや、実は誰よりも犯人逮捕に情熱を傾ける男だったという後半の展開が面白く、クライマックスを盛り上げる事にも一役買ってくれている。
 また、何宗道の演技もさることながら、本作中で立ちはだかる猛者たちとのバトルも、バッタもん作品とは違った魅力を見せていた。
今回敵となるのは江島&楊斯(ヤン・スェ)というシリーズお馴染みの顔で、さらに当時ショウブラに在籍していた狄威(ディック・ウェイ)が組織の幹部として顔を見せている(もちろん作中での表記は「屠龍」)。当然、作中では何度も何宗道VS狄威のバトルが繰り広げられ、ラストバトルでは伊吹剛・宮内洋・千葉裕のGメントリオとも立ちあっている。『プロジェクトA』『五福星』に先駆けること3~4年前、既に狄威が日本上陸を果たしていたとは感慨深い。
ラストの何宗道VS江島&楊斯の対決も面白く、この前後編は功夫映画ファンにも自信を持ってオススメできる話といえよう。なお、好評につき何宗道は再びGメンと手を組み、今度は意外な強敵に出くわす事になるのだが、こちらは次回の講釈で…。

ハードボイルド『Gメン75』次の活躍は、今回の特集で唯一の単発エピソードである『香港カラテ殺人旅行』をお送りします。

【Gメン75in香港カラテ②】『Gメン対香港の人喰い虎』前後編

2009-12-08 21:45:14 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「Gメン対香港の人喰い虎」
「Gメン対香港の人喰い虎&PART2」
製作:1979年

▼『Gメン75』と香港の麻薬組織の戦いは、第175~176話『香港カラテ対Gメン』前後編で、より本格化していく。この前後編で楊斯(ボロ・ヤン)はついに最後の強敵へと昇格し、倉田保昭との激闘を繰り広げるのだ。ちなみに後編で楊斯の前に倉田と闘う2人組は、倉田の弟子である竜咲隼人と中村勇。竜咲はショウブラ作品の『少林寺VS忍者』で劉家輝(ゴードン・リュー)と戦い、中村勇は『激突!少林拳VS忍者』で忍者となって奮戦している。
 だが、第201~202話『Gメン対香港カラテ軍団』前後編で、遂に倉田がGメンから去る日が来てしまう。『少林寺VS忍者』の水野結花が登場し、『香港カラテ対Gメン』の楊斯の弟・楊斯(ややっこしい・笑)が立ちはだかるなど、盛り上がりを見せたエピソードであったのだが、ここで倉田の後釜はどうすべきかという問題が浮上する。勿論、Gメンらしい配役である事が第一だが、「香港カラテシリーズ」を続行するのならアクションの出来る俳優が必要となってくる。果たして、日本でJAC以外にあそこまでの格闘シーンを演じ切れる俳優がいるのだろうか?
 そこで白羽の矢が当たったのは、特撮俳優としても知られる宮内洋であった。空手三段・柔道初段という来歴、丹波哲郎との親交が深かった事と、大人気刑事ドラマ『キイハンター』への出演歴が宮内の起用という流れに繋がったのだろう。この『Gメン対香港の人喰い虎』前後編(第227~228話)は、Gメンデビューを果たした宮内をプッシュするために彼を中心として作られ、それに合わせて香港側のキャストもグレードアップしている。だが、本作を経た「香港カラテシリーズ」は再び方向転換せざるを得なくなってしまうのだ。

■黄金の三角地帯が打撃を受けて麻薬市場が高騰していた頃、香港では韓英傑(ハン・インチェ)率いる香港コネクションが動き出していた。
韓英傑は中崎康貴(『少林寺VS忍者』のサイ使い)に1億ドルの麻薬を日本へ密輸するよう指示するが、香港には麻薬捜査官の石田信之が潜入していた。すぐに運び屋の情報はGメンの知るところとなるが、監視役のジョニー大倉によって香港にスパイが潜んでいると気付かれてしまう。石田の仲介役だった2人の協力者は、組織の飼う猛虎シーザー(『武闘拳 猛虎激殺』で倉田保昭と対決した虎と恐らく同一人物)の牙に露と消えた。
程なくして石田も捕らえられ、石田の兄である宮内は警視・川津祐介の要請で香港へ発った。そのころ、Gメンがマークしていた運び屋はジョニーによって殺害されるも、1億ドルの麻薬はGメンの手に渡った。一方、宮内は石田の行方を追って香港コネクションに接近を図るが、闘いのさなかに中崎を死なせてしまい、当局に逮捕されてしまう。当然、組織の人間を殺した宮内も命を狙われる羽目になり、刺客の石橋雅史を倒して獄中を脱したが、韓英傑の部下である楊斯と蕭錦(『Mr.Boo!』の巨人)の拳に叩きのめされた。
 川津は「宮内が殺人容疑で指名手配されている。これは香港コネクションの罠に違いない!」と、事の解決をGメンに依頼。伊吹剛・千葉裕・夏木マリの3人が、宮内と石田を追って香港にはせ参じた。恒例の香港警察門前払いを済ませ(ちなみに『マカオの殺し屋』と本作では香港警察が悪いような描かれ方をしているが、彼らの言い分にも一理ある)、宮内の行方を捜すGメンの3人。だが、当の石田は猛虎シーザーの恐怖に負け、組織の言いなりになって夏木を陥れてしまう。
復活した宮内は伊吹と千葉に出会うが、組織が「麻薬返せや!」と夏木を人質に要求してきた。そんな中、石田と恋仲だった女の口から彼の居場所が判明するが、石田の身柄を拘束していたジョニーが、実は宮内の弟であったことが明らかとなる(それにしてもムチャな三兄弟だ・苦笑)。ジョニーから「俺たちの仲間になれ」と囁かれ、心の揺れる宮内。辞表を書くところまで至ったが、川津の「君は刑事だ」の言葉に動かされ、一転してジョニーに反旗を翻した。
 なんとか夏木を助け出した一行だが、彼女の口から出た猛虎シーザーの名に宮内はひどく動揺した。実は、シーザーはかつてベトナムに住んでいた宮内ら三兄弟の飼っていた虎であり、現在は血に飢えた死刑執行人と化していたのだ。石田とその恋人もシーザーに殺され、宮内を加えたGメンは敵のアジト(毎度おなじみタイガーパーム・ガーデン)に突入する。そこで宮内を待っていたのは、宮内と決別したジョニーとシーザーであった。
ジョニーはシーザーに宮内を殺せと差し向けるが、ベトナム時代を思い出したシーザーはジョニーに襲いかかる。シーザーの牙がジョニーを裂き、ジョニーのナイフがシーザーの腹を突き刺した。息絶えるシーザーとジョニー…2人の亡骸を後に牢から脱出した宮内は、Gメンたちと共に香港のカラテ使いたちと死闘を展開する!

▲「田口逃げろ!こいつらは俺たちが倒せる相手じゃない!」
 ↑は伊吹剛が後編の冒頭に発した言葉だが、これが本作の全てを物語っている。確かに本作での宮内の奮闘ぶりは眼の覚めるものであり、三兄弟の行く末などはグッとくるものがあった。が、功夫アクションはどうもしっくりこないのだ。宮内も十二分に頑張ってはいるが、どちらかというと格闘シーンは千葉裕の方が上手かった気がするし、香港側のキャストも立ち回りでは遠慮している感がある。やはり倉田が抜けた穴は大きく、達人不在という状況がこの結果を招いてしまったのだろう。
そのためか、ラストバトルの結末は非常に冴えないものとなった。蕭錦は台車に押し潰されて死に、楊斯はドアに挟まれて死に、韓英傑に至ってはそのへんに突き出ていた鉄串に刺さって死んでしまう。ここまでの豪華キャストを動員していて、この結末はさすがに腰砕けだ(余談だが、前編の予告ではタイガーパーム・ガーデンで宮内と韓英傑が闘っている映像があったが、作中に使用されていない)。
 製作側もこれではインパクトが薄いと判断したのか、猛虎シーザーを呼んで作品の底上げを講じている。しかし今回はこれで乗り切る事が出来たものの、次からの「香港カラテシリーズ」で同じ事を繰り返すわけにはいかない。浮上する達人不在問題、迫られる方向転換。そしてシリーズは新たな局面へ向けて動き出すのだが、それはまた次回の講釈で…。

ハードボイルド『Gメン75』次の活躍は、『Gメン対世界最強の香港カラテ』前後編をお送りします。

【Gメン75in香港カラテ①】『南シナ海の殺し屋』&『マカオの殺し屋』

2009-12-05 22:16:28 | Gメン75&82・香港カラテシリーズ
「南シナ海の殺し屋」
「マカオの殺し屋」
製作:1977年

▼今月、遂にCSのファミリー劇場で『Gメン82』の香港編が放映されます。それを記念しまして、今回は『Gメン75』に於ける「香港カラテシリーズ」を、香港映画的な視点から考察していきたいと思います。なお、最初にお断りしておきますが、この特集では「香港カラテシリーズ」の全てを紹介いたしません(というか出来ません)。私はCSで本作を視聴していますが何話か見逃した回がありまして(爆)、本来なら全部を総ざらいしたかったのですが、そのへんはご容赦を…。

 全ての発端は第一次ドラゴンブームが巻き起こった1974年から始まる。
李小龍(ブルース・リー)を筆頭に様々なカンフー映画が日本全土を吹き荒れ、大きな影響を与えた事は当ブログでも何度か触れてきたが、その風に乗って1人の男が日本に凱旋を果たす。和製ドラゴン・倉田保昭その人である。香港で活躍していた日本人スターという事で脚光を浴びた倉田は、矢継ぎ早に東映のカラテ映画に参戦。『女必殺拳危機一発』や『必殺女拳士』に出演し、TVドラマ『闘え!ドラゴン』に主演したことで、彼はお茶の間にも知られる存在となった。
日本での人気も定着しつつあった倉田は、1975年にある刑事ドラマへ出演する…それが『Gメン75』だった。『Gメン』といえばシリアス&ハードな刑事ドラマとして有名だが、海外ロケや怪談モノといった多種多様なシリーズ構成も人気の一翼を担っていた。そんな『Gメン』とドラゴン・倉田の出会いが、この「香港カラテシリーズ」を作り上げたといっても過言ではない。
 とはいえ、シリアスな世界観を持つ『Gメン』にいきなりカンフー映画の真似事をさせるのはあまりにも無謀だ。そこで最初の香港ロケとなった第105話『香港-マカオ警官ギャング』と第106話『女刑事殺人第一課』は、ドラマ重視のストーリー展開が行われ、功夫アクションはほんのオマケ程度に挿入された(なお、『女刑事殺人第一課』には刺客として江島(チェン・タオ)が登場する。のちに「香港カラテシリーズ」の顔となる楊斯(ヤン・スェ)に次ぐ出演数を誇る江島だが、楊斯よりも登場は早かったようだ)。
しかし、続く第126話『南シナ海の殺し屋』と第127話『マカオの殺し屋』では、いよいよ倉田のカラテアクションと香港側の大物ゲストが出演する。その後も何度となく死闘が繰り広げられる「香港カラテシリーズ」は、この2本から幕を開けたのだ。

■香港から来たヘロインの運び屋を捕らえたGメン一行。取引相手が誰なのか吐かせようとするが、マカオの香港コネクションは秘密裏に殺し屋・力石考を派遣し、運び屋と護衛の警官が殺害されてしまう。彼らの命を奪った銃弾は、かつて倉田が3年前の事件で撃たれた弾と同じ物であった。力石を捕らえるべく、倉田は丹波哲郎のひと声で香港へと向かった。
香港警察に協力を断られた倉田は、アバティーンや九龍地区を転々としながら証拠集めに奔走。最後にマカオへ辿り着いたが、そこでコネクションの刺客である楊斯と白彪(ジェイソン・パイ)に襲撃を受けた。その時、倉田は孤児院で3年前の事件でとばっちりを受けた女医に再会する。一方、日本では若林豪らが麻薬の取引相手であるボクシングのプロモーターを確保し、コネクションのボスが誰なのか取調べを続けていた。その際に運び屋が「麻薬の仲介人は九龍のダンスホールにいる歌手だ」と自白し、倉田を支援するために伊吹剛と森マリアが香港へ飛んだ。
 そのころ香港では、くだんの歌手が白彪に叱咤を受けていた。この歌手と白彪は愛し合っていたのだが、伊吹たちと合流した倉田の目前で歌手は力石によって射殺されてしまう。捜査は振り出しに戻ったが、香港コネクションは倉田たちを消そうと着実に近付きつつあった。再び白彪たちとまみえた倉田は楊斯を倒すが、白彪は「貴様が彼女(歌手)を殺したんだ!」と憎悪を向ける。
白彪こそ取り逃がしたものの、倉田は女医から力石の人相書きを入手し、続いて奴がマカオに行ったことを知る。マカオで聞き込みをする倉田と女医…が、遂に力石の凶弾は女医の命をも奪った!同じ頃、伊吹と遭遇した白彪は自分が秘密捜査官である事を明かし、死んだ歌手を救いたかった無念を語った。共に大事な女性を失った倉田と白彪は、香港コネクション壊滅を心に誓った。
 白彪でさえも組織の全容はわからなかったが、朗報は日本から入ってきた。若林の追及によってプロモーターが白状し、マカオに黒幕が潜んでいることを掴んだのだ。さっそく香港コネクションのボスを問い詰めるが、自身の罪状に関してはシラを切るばかり。だが、目下の目的はコイツではなく力石の逮捕だ。離島に力石が潜伏していると聞いた倉田は、たった1人で乗り込もうと決意する。
続いて白彪も突入するのだが、果物売りの月丘千秋(白彪の母)と力石の意外な関係が明かされるとは、このとき誰も予想だにしなかった…。

▲香港コネクションと麻薬、香港側の助っ人、アバティーン、九龍城、そして楊斯…この前後編は、その後の「香港カラテシリーズ」で欠かせぬ要素となる物が大量に登場し、以降のシリーズの雛形として作られている。
今回ゲストとなるのは白彪と楊斯で、『アムステルダム・コネクション』や『白馬黒七』などで付き合いのある両者が倉田と戦う構図になっている。後半では白彪が実は味方であったことが明かされるが、一方の楊斯はあまり目立っていない。これがシリーズ初登場である楊斯だが、作中では後編の冒頭であっけなく死んでしまうのだ。
しかし、楊斯が本領を発揮するのは本作以後であり、作中で壊滅することのなかった香港コネクション共々、何度と無くGメンに立ちはだかってくるのである。
 本作とその後の「香港カラテシリーズ」で最も違うのは、ラストが功夫アクションで終わっていない点だろう。筋立ては殺し屋を追う追求劇であり、まだまだシリアスな作風が後を引いているため、その後のシリーズにあった爽快感はあまり感じられない。また、白彪の死や力石の出自など、少々唐突ともいえる展開が鼻に付くが、これらの反省点は以後のシリーズに生かされていくことになるが、それはまた次回の講釈で…。

ハードボイルド『Gメン75』次の活躍は、『Gメン対香港の人喰い虎』前後編をお送りします。