功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

迫れ!未公開格闘映画(終)『絶対王者ボイカ(Boyka: Undisputed IV)』

2017-10-31 18:17:01 | マーシャルアーツ映画:上
「絶対王者ボイカ」
原題:Boyka: Undisputed IV/Boyka: Undisputed
製作:2016年

▼香港映画界で下積み時代を過ごし、『人質奪還』で彗星の如く現れたスコット・アドキンス。今や次代の格闘スターとして確たる地位を築いた彼ですが、その地位を確立するのに一役買ったのがアイザック・フロレンティーン監督でした。
見応えのあるアクション演出に定評のあるアイザック監督は、初期の作品でチャド・マックィーンやドルフ・ラングレンといった既存のスターを起用。香港帰りのスコットを発掘し、以後も何度となくタッグを組んで傑作・佳作を撮っています。
 『人質奪還』でスコットに肩慣らしをさせたアイザック監督は、『デッドロックII』で監獄の格闘王・ボイカというキャラクターを創造しました。この役はスコットにとって当たり役となり、続編の『Undisputed III: Redemption』で主役に昇格したのです。
本作はその続編となるシリーズ最新作で、早期の日本公開が待たれる……と言いたいところですが、実はこの作品はNetflixで日本語版が配信済みだったりします(爆
そのため今回の特集で取り上げるのは不適当なんですが、ソフト化もTV放送も未定だしギリギリ未公開作扱いで良いかな?と、超強引な解釈でトリに持ってきてしまいました(でも本作と『III』の日本版は猛烈に欲しい!)。

■前作で自由の身となったボイカ(スコット)は、真っ当なファイターとして活躍していた。今日も必死に食い下がるエミリアン・デ・ファルコを下し、大きな格闘イベントへの参加資格を得ることができた。
だが戦いの末にファルコは死亡し、スコットは激しい罪悪感に苛まれる。ファルコの遺品の中には妻との写真があり、いたたまれなくなったスコットは彼女に謝罪すべく、一路ロシアへと向かった。
 ところが到着してみると、ファルコの妻は孤児院経営のためにマフィアから借金をしており、連中の経営するクラブで働かされていた。マフィアのボス(アロン・アブトゥブール)からは色目を使われ、孤児院には門番までもが張り付いている。
スコットは彼女に陳謝し、先の試合のファイトマネーを渡そうとするが、「それは血塗られた金よ」と拒絶されてしまう。そこでスコットは意を決し、借金の帳消しを賭けてマフィアの主宰する格闘試合に挑んだ。
 アロンから持ちかけられた三本勝負に身を投じるスコットと、次第に心境を変化させていくファルコの妻。やがてスコットはマフィアお抱えのトップ選手(ブラヒム・アチャバクフ)をも倒し、やっとの思いで三本勝負を制した。
これで借金は消え、スコットも今から帰国すれば例の格闘イベントにギリギリで間に合う。だが非道なアロンは更なる勝負を強要し、かつてスコットが収監されていた刑務所で新王者となった怪物(マーティン・フォード)を呼び寄せていた。
目の前で希望を握り潰されたスコットは、圧倒的に不利な状況で最後の戦いに臨む…!

▲本作はアイザック監督が製作に回り、トドール・チャプカノフという人が監督に就任。その点では若干の不安を感じていましたが、ド派手な格闘シーンとド直球のストーリーは今回も変わっておらず、シリーズの名に恥じない傑作アクションに仕上がっていました。
今回のテーマは「贖罪」となっており、今まで闘争本能の赴くまま戦っていたボイカが人のために立ち上がるという、実に印象深い内容となっています。
 本作のボイカは人間的に成長し、『II』で見せた凶暴性は影を潜めています。中盤では孤児院の子供たちに見守られながらトレーニングをするという微笑ましいシーンもありますが、大胆な行動力とラフな戦闘スタイルは健在。今回も縦横無尽に暴れていました。
ドラマに関してはアクションの邪魔をせず、それでいてキッチリと簡潔に描くアイザック監督の作風が継承されており、違う監督になっても違和感はほとんど感じられません。

 そして本命のアクションシーンですが、こちらは近年にわかに注目されているティム・マン(同じアイザック監督の『ニンジャ・アベンジャーズ』も担当)が指導しており、最初から最後まで凄まじい格闘戦のオンパレードとなっていました。
序盤のスコットVSファルコからして気合の入り方が違っており、三本勝負ではスコットのバネを生かした無重力バトルがこれでもか!と炸裂。どの勝負も対戦相手にバリエーションがあって、見応えのあるファイトが展開されています。
 一戦目は普通のタイマンで、鮮やかな蹴りを放つスコットの技量に目を奪われます。続く二戦目では1VS2の変則マッチ(相手の1人がティム・マン)となり、休む間もなく交互に襲いかかる相手との目まぐるしい接戦が見ものです。
そして三戦目では『ザ・サンクチュアリ』で用心棒トリオの一角を担い、『マキシマム・ブラッド』『キルオール』などにも顔を出していたブラヒムが立ちはだかり、スコットに負けない身軽さと足技で互角に渡り合っていました。
 個人的にはこの三戦目が一番好みなんですが、最後に控えていた筋肉ダルマのマーティンとのバトルも実に壮絶。鎧のような筋肉に打撃が効かない中、彼は筋肉で覆われていない頭部を中心に攻撃し、徐々に体勢を崩そうと試みますが…。
正直なところ、本作のラストバトルは相手のビジュアルこそ凶悪ですが、技術や立ち回りの機敏さで言えば『II』のVSマイケル・ジェイ・ホワイト、『III』のVSマルコ・サロールに比べると一歩及ばずといった感じです。
しかしアクションは全体的に高いレベルを保っており、胸のすくラストも含めて“『デッドロック』シリーズにハズレ無し!”と言える出来だったと思います(でもドタキャンされたスコットのオーナーはちょっと可哀想かも・苦笑)。
 と、そんなわけで今月は国内未公開のマーシャルアーツ映画に迫ってきましたが、まだ見ぬ注目作は他にも存在するはず。思えば未公開の功夫片は沢山見てきましたが、格闘映画の未公開作については開拓の余地が大いにあると言えるでしょう。
もしかしたら今回のような特集をまた開催するかもしれないので、その時はまた未知なる格闘アクションに酔いしれ、大いに楽しんでいきたいと思っています。それでは、本日はこれにて……――(特集、終わり)

迫れ!未公開格闘映画(5)『Sworn to Justice』

2017-10-28 23:16:45 | マーシャルアーツ映画:中(2)
Sworn to Justice
製作:1996年

シンシア・ラスロックの登場は格闘映画にとって革命であり、香港映画界にとっても異例の事態でした。香港におけるアクション女優といえば、その多くが舞踊や京劇を立ち回りのベースにしており、必ずしも純粋な武術家ではありません。
しかしシンシアはバリバリの格闘家であり、空手や演武で数々の栄冠を手に入れています。順応性も非常に高く、香港映画という特異な環境に臆することなく挑み、その有り余るポテンシャルを遺憾なく発揮し続けました。
本作は、そんな超本格派のシンシアがアメリカに渡ってから撮った作品で、注目すべきは主人公と恋仲になる青年役に『シンデレラ・ボーイ』のカート・マッキニー(!)が扮している点にあります。

■ごく普通の心理学者であり、格闘技にも精通していたシンシアは、あるとき自宅を強盗団に襲われてしまう。妹と甥が殺害され、彼女自身も殺されかけるがギリギリで脱出。どうにか九死に一生を得るのだった。
悲しみに暮れる中、警察から妹の遺品であるブローチを返却された彼女は、犯行当時の様子を残留思念から読み取っていく。実はシンシアは格闘技のほかに超能力を会得しており、これを活用して自警活動を行っていたのだ。
 彼女はこの能力を駆使し、妹たちの仇を討とうと立ち上がった。事件を担当する刑事のトニー・ロビアンコ(往年の名優。元ボクサーだったためか劇中でチラっと格闘戦を見せている)は、その行動をいぶかしんでいるようだが…。
その一方で、シンシアは仕事先で知り合ったカートと親密になり、徐々に距離を縮めていた。ところが、仕事で立ち合った裁判で提示された証拠品が、強盗団に関与した物であったことが発覚する。
なおも敵に接近しようとするシンシアと、彼女の孤独な戦いに気付きつつあるカート。やがて自身の上司が謀殺されたことから、怒りに震えるシンシアは敵のアジトへと突入する。果たして敵の正体とは? そして2人の運命は…!?

▲カートは『シンデレラ~』でヴァンダムと激闘を繰り広げたことで知られていますが、残念ながらスターとしては成功せず。その後はTVドラマを中心に活動し、格闘映画への出演も本作のみに留まっています。
とはいえ、共演したシンシアとは思遠影業の擬似アメリカ映画(カートは『シンデレラ~』。シンシアは『レイジング・サンダー』)に主演した仲であり、このコラボは実に興味深いと言えるでしょう。
 また、本作にはかつての格闘スターが結集しており、『ショウダウン』ケン・スコット『キックボクサー2』ヴィンス・マードッコ『デスマッチ』イアン・ジャクリンが参加。この他にもマコ岩松などが脇を固めています。
…しかし、90年代の格闘映画では充実したキャストを使い潰す傾向にあり、本作でもこれらの格闘スターとシンシアはまともに絡んでいませんでした(涙
 まず期待されたシンシアVSカートは一切無く、手合せもジャレつく程度。ヴィンズは強盗団のメンバーですが、彼女と少し殴りあっただけですぐに爆殺され、イアンに至っては普通の修理工(ケンにぶっ飛ばされるだけ)という扱いです。
ケンは強盗団のリーダーとして立ちはだかり、ラストで棍棒を持つシンシアにヌンチャクで勝負を挑みます。ここでようやくまともな勝負が見られるかと思いきや、今度は黒幕が横槍を入れてきて勝負は中断…どこまでガッカリさせるんだよコレ!(号泣

 とはいえ、その後に控えているカートVSケンは“亜流『ベスト・キッド』同士の対決”でもあるし、勝負の内容も充実。全体のアクションもレベルが高く、香港時代を彷彿とさせる俊敏なファイトが見られました。
実は本作のアクション指導には、imdbによるとエリック・リーと共同で元德(ユエン・タク)が参加しているとのこと。同サイトの出演履歴には『Mr.マグー』などのハリウッド作品にもスタントで出演している…と書かれています。
 香港映画っぽい立ち回りもあったため、私は元德の登板というサプライズに驚いていたのですが、情報によると実際に参加したのは元德ではなく孔祥德(香港時代のラスロック出演作でも何度か動作設計を担当)なのだそうです。
彼は後半の修理工場における戦いでも、妙に強いザコ役(こちらも最初は元德だと勘違いしてました・汗)としてシンシアと対決。宙返りを見せ、派手に回転しながら車に激突したりと、メインキャスト以上の軽快な動きで妙に目立っていました。

 …と、なんだかアクションの事ばかり書いてしまいましたが、ストーリーの方はこれといって特筆すべき点はありません。ややサービスシーンに力を入れているようですが、それ以外はごく普通の格闘映画といった感じです。
超能力という奇抜な設定も、作品の雰囲気を壊さない程度の描写となっており、身の丈に合ったジャンルで勝負に出たスタッフの判断は間違っていないと言えるでしょう。まぁ、格闘スターたちの扱いは間違いだらけでしたが…(爆
そんなわけで、ちょっとだけ長めにお送りしてきた今回の特集も、次回でついにクライマックス! 今度は監獄から来た格闘王が挑む、最強最後のビッグマッチに着目します!

迫れ!未公開格闘映画(4)『Man from Shaolin』

2017-10-21 22:16:34 | マーシャルアーツ映画:中(2)
Man from Shaolin
中文題:少林漢(正字は簡体字表記)
製作:2012年

●少林寺の僧侶であったペン・チャン・リー(Peng Zhang Li)は、事故で母親を亡くした姪(ジャスミン・ガランテ)の面倒を見るため、アメリカ最大の都市であるニューヨークに移住。小さな武術スクールを切り盛りしながら、慎ましやかに暮らしていた。
しかし、幼いジャスミンとの接し方に悩んだり、武術スクールで弟子の1人(ブライアン・エイムズ)が道場破りを連れてきて問題を起こしたりと、面倒なトラブルが頻発していく。
 ペンは少林寺の故事から打開策のヒント(?)を得ようとするが、状況はまったくもって好転しない。遂にはスクールが閉鎖に追い込まれ、ブライアンに絡んでいた連中に喧嘩を売られた挙句、銃撃を受けるという事件まで起きてしまった。
なんとか大事には至らなかったが、この出来事によりジャスミンはペンの元から引き離されてしまう。そのとき、“少林寺から来た男”が下した決断とは…!?

 本作はペン・チャン・リー(本作ではLi Zhang名義)という謎の中国人武術家が、主演・製作・武術指導・監督を務めた怪しげな武術映画です。話によると少林寺に在籍していた本物の武僧…らしいのですが、検索しても中華系サイトに彼の名は見当たりません。
米国のwikiによると、ペンさんは3歳の頃から少林寺で修行し、22歳になると寺から出立。渡米した先で『Shaolin Ulysses: Kungfu Monks in America』というドキュメンタリーに出演し、それが映画事業に関わるキッカケとなったそうです。
 2010年には初の監督主演作である『The Last Kung Fu Monk』を発表し、抗日アクションの『The Resistance』などを立て続けに製作。いずれも中国との合作であり、作品の持つ雰囲気もマーシャルアーツ映画とは一線を画しています。
そんな中で本作は“少林寺から来た男が直面する試練”を描いており、タイトルからして功夫アクションが炸裂する活劇を思わせます。しかし本作では功夫よりも、叔父と姪の関係を描いたドラマとしての面が強調されていました。

 確かに劇中には悪党も出てくるし、功夫アクションの割合も少なくありません。ただし本作では、少林僧という肩書きが通用しない大都会で、どうにか必死に生きようとする主人公の姿が主題となっているのです。
そのため作品の空気は重く、勧善懲悪とは程遠いストーリーが展開されていました。個人的には「そういう方向で攻める作品なのか…」と興味深げに見れましたが、活劇を期待して視聴する人にとっては、やや退屈に感じるかもしれません。
また、主演のペンさんはアクションこそ一級品ですが、そのルックスは完全に普通のおっさんなので、スター性が致命的なレベルで不足しています。愛嬌にも乏しく、せめてもう少し砕けた演技をしてくれれば、もっと感情移入できたのですが…。
 ただ、アクションシーンでは香港映画に近い機敏なバトルが見られるので、その点に関しては上々と言えるでしょう。劇中ではペンさんが少林寺にまつわる故事を思い出し、自らが登場する回想シーンで激しいファイトを見せています。
現実の戦いでは、中盤で道場破りとペンさんが戦い、後半には悪漢たちを蹴散らすシークエンスも。ストーリー的にラストバトルは無いかな…と思いきや、最後の最後に道場破りと再戦が果たされ、短いながらも見事な攻防を披露していました。
 格闘映画なのに少林僧が主役で、功夫ではなくドラマが中心になるという異色中の異色作。日本ではまったく無名の作品ですが、マーシャルアーツ映画にはこういった作品がまだまだ沢山あるのかもしれませんね。
さて次回は、あの懐かしの女ドラゴンが満を持しての登場! さらには某作で主演を飾って以降、しばらく音沙汰を聞かなかったあの格闘俳優と共演するのですが…詳細は次回にて!

迫れ!未公開格闘映画(3)『Trinity Goes East』

2017-10-15 22:55:29 | マーシャルアーツ映画:中(2)
Trinity Goes East
中文題:三位一體雲東
製作:1998年

●映画監督のケン・ラッセルを父に持ち、世界的な功夫映画マニアとして多方面で活躍しているトビー・ラッセル。私が彼の名を知ったのは、功夫映画評論家・知野二郎氏の著作「龍熱大全」を読んだことが切っ掛けでした。
トビーは単に功夫片の批評のみならず、『死闘伝説/ベスト・オブ・アクション』『死闘伝説TURBO!!』といった傑作ドキュメンタリーを製作。自ら香港映画の撮影現場にも立ち入るなど、ディープかつアクティブなアプローチで功夫片と向かい合っています。
 時には裏方から飛び出し、俳優としてアクションまで見せているトビーですが、そんな彼が製作総指揮を務めたのが『Trinity Goes East』です。この作品は直前に彼が手掛けた『Fists of Legend 2』と違って、完全オリジナルの新作として作られました。
ただ、監督はトビーと一緒に仕事をしてきた戴徹(ロバート・タイ)が務め、香港・台湾から多数の功夫アクターが集結。製作も東南アジアで行われており、まったくもって格闘映画に見えないのですが…まぁ細かい事は気にしない方向で行きましょうか(爆

 ストーリーは神秘の秘宝・龍の玉を巡って、泥棒のスティーブ・タータリア(『天地黎明』)、捜査官で子豚を飼ってるロベルト・ロペス(体格は太めだが現役のスタントマン)、石天龍(最狂のバッタもん李小龍)が巨悪と戦う様子を描いています。
主役サイドだけでも濃いメンツが揃っていますが、注目すべきは敵ボスを『南拳北腿』の劉忠良(ジョン・リュウ)が演じているという点でしょう。劉忠良はテコンドー仕込みの足技で香港映画を席巻し、70年代末期を中心に活躍した武打星です。
しかし徐々に時流から取り残され、いつしか表舞台から姿を消してしまいました。あれから20年近いブランクを経ての電撃復活ですが、本作でも鋭い蹴りは健在! ラストでは過去の因縁から石天龍と対峙し、世代を超えたドリームマッチを披露しています。

 ところが、ストーリーは子豚を追いかけて七転八倒するパートが大半を占めており、後半には瀕死の子豚をロベルトが抱きしめて涙する…という展開に。おかげで作品から殺伐さが消え、なんとも気の抜けた雰囲気で占められています。
私としては主役3人が秘宝を奪い合い、騙し騙されるような丁々発止のアクションを期待していたので、これには盛大な肩透かしを食らってしまいました。一応、この子豚が秘宝を飲み込んだという設定になっているんですが、いくらなんでもこれはなぁ…。
 また、ヒロインの存在意義が皆無だったり(お色気シーンすら無し)、キャラクター同士の掛け合いがパッとしなかったりと、ドラマにおける粗がいくつも浮き彫りとなっています。
そういえば本作の監督である戴徹は、過去の作品で必ず血とオッパイを乱舞させていました。しかし、今回は作品の雰囲気を考慮して暴力的な演出をカットしており、彼としても本調子では無かったのかもしれません。
 ただ、その一方で功夫アクションは相変わらず激しく、90年代になっても変わらない早回しファイトが炸裂! 序盤から石天龍と戴徹がバチバチと殴り合い、ロベルトによる軽快な棒術アクション、スティーブの派手な蹴りも見応えバッチリです。
後半ではロベルトがニンジャ軍団に立ち向かい、若山富三郎もビックリのハイテク乳母車で子豚がニンジャを大虐殺! 最後の石天龍VS劉忠良に至るまで、ハイテンションなバトルが各所で繰り広げられていました。
 功夫片に近付きすぎて格闘映画としての意義を失った作品は幾つもありますが、本作は夢の対決を目玉イベントとして用意しています。作品としては珍作止まりではあるものの、トビーの功夫片に対する思い入れが窺える一篇…と言えるでしょう。
さて次回からはアメリカ本国に戻りますが、登場するのは中国から来た少林僧!? ハリウッドで密かに主演作を作り続ける、謎のカンフー・アクターに迫ります!

迫れ!未公開格闘映画(2)『Expect to Die』

2017-10-11 16:35:21 | マーシャルアーツ映画:下
Expect to Die/Time to Die
製作:1997年

▼90年代におけるアメリカのマーシャルアーツ映画界は、ヴァンダムやセガールといった多くのスターに恵まれ、腕に覚えのある男たちが続々と名乗りを上げました。
そんな中、アクションの技量だけに頼らず、自らの企画力で業界を渡り歩いた風変わりなスターが存在します。彼の名はジャラル・メーリ…ブラジル生まれのテコンドー使いだった彼は、自分の会社で格闘映画の製作を手掛けました。
 彼は自らのスター性を過信せず、他の格闘スターと共演する事で作品に価値を持たせました。シンシア・ラスロックと楊斯(ボロ・ヤン)を起用した『タイガークロー』、ビリー・ブランクスと組んだ『キング・オブ・ドラゴン』などは、その典型と言えます。
本作もそうした作品のひとつで、『アメリカン忍者』の後期シリーズを支えたデビッド・ブラッドリーに加え、『アメリカン・キックボクサー』のエヴァン・ルーリを投入。彼らの活躍に期待を寄せたいところですが、その出来はというと…(汗

■米軍で極秘裏にVR(ヴァーチャル・リアリティ)を駆使した訓練装置の開発が行われていた。しかし被験者の死亡事故が相次ぎ、デビッドが開発したVR装置は企画もろとも破棄を命じられる。だが彼はこの結果に納得せず、秘かに行動を開始していく。
一方、NY市警のジャラルは兵器の密売現場に突入し、同僚を失いながらも取引されていたブツを押収した。ところが麻薬や銃器に混じって、奇妙なディスクが見つかる。
 解析の結果、ディスクにはゲームのデータと思しき物が記録されていた。やがて「Expect to Die」というゲームソフトとの関連が疑われ始め、ジャラルは新たな相棒のエヴァンとともに捜査へ乗り出す。
実はゲームの開発元の代表(先のVR装置開発にも関与)と密売を主導していたブローカー、そしてデビッドは裏で繋がっていたのである。デビッドはシステムの開発を強行し、被験者を誘拐しては装置の餌食にしていた。
事件の核心に迫るジャラルたちと、徐々に狂気にかられていくデビッド。やがて敵襲によりエヴァンを失ったジャラルは、誘拐された妻を助けるためにVR装置のクエストに挑戦せざるを得なくなる。果たして、恐るべきゲームの結末とは…!?

▲本作は『サイバー・ウォーズ』と同じく、仮想現実を扱った作品となっています。VRといえば最近になって普及してますが、劇中に登場する装置は今のVRゴーグルとそんなに変わっておらず、デザインだけなら割とリアルに感じました。
ただしVR装置のCGが恐ろしいほどショボく、そのクオリティは初期の天才てれびくん以下。背景のパターンも限られているようで、VRの中で繰り広げられるアクションシーンでは、カメラワークが完全に固定化されています。
 デザインのセンスも壊滅的で、剣道着を着た敵キャラが斧を持って襲いかかってきたり、お姫様みたいな恰好で捕えられてるヒロイン(しかも何故か透けチクビ)など、頭を抱えたくなる描写が頻出します(爆
ストーリーについても単調さが拭えず、ジャラルの捜査もデビッドの狂気も上手く表現できていません。ヒロインはただの脱ぎ要員だし、相棒であるエヴァンとの関係も非常に淡泊だったりと、個々のドラマも薄味な仕上がりとなっていました。

 こうなるとアクションに望みを託すほかありませんが、残念ながら格闘シーンも問題だらけ。ジャラルとエヴァンは刑事なので銃を撃ち、デビッドはVRの開発に集中しまくるため、素手でのファイトが一向に見られないのです。
途中、VR装置の被験者たちがバトルを見せるものの、そこまで大したものではありません。主役の刑事2人が格闘戦に挑むのは開始1時間を過ぎてからで、一番いい動きを見せたエヴァンはここで殉職します…って、何この展開?!
 このあとジャラルはVR装置に挑戦しますが、先述したカメラワークの問題で迫力が出ず、最後のジャラルVSデビッドも実に微妙(フラフラしながら殴ったり投げたりするだけ)でした。
確かにジャラルはキャスティングに対する拘りを持っています。が、肝心の作品は大味な出来になっている事が多く、その中でも本作は最悪に近いパターンだったと言えるでしょう。せめてVRに固執せず、普通に殴りあってくれれば良かったのになぁ…。
 なお、現在はすっかり名前を聞かなくなったジャラルですが、現在も映画界で活動中。2015年には久々の主演作となる『Risk Factor』を発表し、ローレン・アヴェドン(!)と久々に共演。どうやら今も相変わらずの調子でやってるようです(苦笑
さて、少々テンションがダウンしてしまったので、次回はお口直しに香港アクションとのコラボ作品をピックアップ! 世界的な功夫映画マニアが仕掛けた、意外な対戦カードとは…詳細は次回にて!

迫れ!未公開格闘映画(1)『Falcon Rising』

2017-10-07 21:36:49 | マーシャルアーツ映画:上
Falcon Rising
製作:2014年

▼今月は「迫れ!未公開格闘映画」と題して、国内未公開・未ソフト化の格闘映画に注目していきたいと思います。さて初回となる今日は、我らがマイケル・ジェイ・ホワイトに先陣を切ってもらう事にしましょう。
本作は、監督が近年『アサシン・ゲーム』『ファイナル・ブラッド』とマーシャルアーツ映画を連発しているアーニー・バーバラッシュで、なんと共同プロデューサーにアイザック・フロレンティーンが名を連ねています。
内容についてはB級らしさ全開となっているものの、充実したキャストとスタッフ(詳しくは後述)によってアクションがこれでもかと炸裂。このところ失敗作への出演も目に付くマイケルですが、この作品では縦横無尽に暴れ回っていました。

■帰還兵のマイケルは、アフガニスタンで地獄のような戦場を経験し、重度のトラウマを抱えていた。酒に溺れ、自殺未遂を繰り返す彼を心配した妹のレイラ・アリは、はるばる仕事先のリオデジャネイロから帰国。兄を見舞い、翌日には帰路へと着いた。
ところが、暫くしてリオのファヴェーラ(スラム街)の片隅で、瀕死の重傷を負った彼女が発見された。マイケルは米国領事館に勤務する旧友のニール・マクドノーから連絡を受け、一路ブラジルに向かう。
 幸いなことにレイラは一命を取り留めたが、いまだ昏睡状態からは醒めないまま。ニールの紹介で出会った刑事のジミー・ナヴァロとラティーフ・クロウダー、警官のミリー・ルパートに現場を案内されたマイケルだが、思わぬ出来事が彼に降りかかる。
次の日、何者かによってレイラの点滴に薬が投与され、殺されかけるという事件が発生。怒りに燃えるマイケルは、たった1人で真相を探ろうと奔走していく。やがて捜査線上に浮かびあがったのは、ブラジルに拠点を置くジャパニーズ・ヤクザの影だった。
人身売買の闇ビジネスと、意外な(というかバレバレな)裏切り者の存在…全ての点が線で結ばれる時、マイケルは真の敵と対峙する。果たして彼は仇を討ち、悪党どもを一掃できるのだろうか!?

▲敵討ちからの人身売買潰し…という粗筋は『バトルヒート』と若干被っていますが、アクションの濃度は本作も負けていません。ストーリーは凡庸ではあるものの、テンポよく格闘戦とドンパチが挿入されるので、最後まで飽きずに見ることが出来ます。
キャラクターに関しては、主人公のトラウマ持ち&アル中という設定は最後まで忘れ去られず、有効的に活用されていました。この手の作品ではアクションシーンにまでこの設定を持ち込み、戦いがグダグダになってしまうケースもあります。
一方、本作はそうした無粋な演出に走ることなく、適度な按配でこの設定を貫徹。ラストの飲酒を断る(=トラウマからの脱却を示唆)シーンへと結実します。些細な事ではありますが、こういう細かな気配りは本当に大事だと私は思います。

 さて格闘シーンの按配ですが、残念ながらモハメド・アリの実子であるレイラのアクションは無し。ヤクザの幹部であるハヅキ・カトウ(ハリウッドで活躍する日本人女優)やミリーなど、女優陣によるファイトは一切ありませんでした。
しかし不満らしい不満はそれぐらいで、劇中のアクションはマイケルの独壇場と化しています。高い蹴りとパワフルな拳を放ち、ザコを叩きのめす様は実に爽快! 改めて彼のポテンシャルの高さを認識させられます。
 そんな彼の前に立ちはだかるのが『Undisputed III』でも戦ったラティーフ、力押しで迫るジミー、ヤクザの親分の大立昌史の3人なんですが…なんとマイケルはラストにおいて、この猛者たちといっぺんに戦うのです。
即ち、先月紹介した『破門組II』もビックリの1VS3! もちろん3人とマイケルが別個にタイマン勝負で戦うパートもあり、息をつかせぬ乱戦が展開されます。マイケルの武器もナイフやパイプ製のトンファーなど、実にバラエティに富んでいました。
 ちなみに本作のファイトコレオグラファーを務めたラーネル・ストーバルは、かの『Undisputed III』の動作設計も担当した方。マイケルとは何度も組んだ間柄なので、立ち回りの演出も手慣れたものだったと思われます。
と、そんなわけで、特集の1発目からいきなり景気のいい作品に巡りあえましたが、次回は時計の針を戻して90年代の格闘映画をチョイス。実は今でも活躍しているという、ある往年の格闘スターによる作品に迫ります!

更新履歴(2017年/8・9月)

2017-10-04 23:13:26 | Weblog
 すっかり肌寒くなり、気が付けば今年もあと僅か。8月は中国で製作された古き良き功夫片を、9月は控え目に作品を紹介してきましたが、今月からは差し迫る年末に向けてノンストップで特集をお送りしていく予定です。
大まかな予定は以前触れましたが、10月は格闘映画をピックアップいたします。去る6年前、当ブログでは国内で公開されていないマーシャルアーツ映画にスポットを当て、隠れた名作・佳作に触れました。
 あれから随分と時が経ちましたが、今月はその試みに再トライ! <迫れ!未公開格闘映画>と題しまして、今なお日本で公開・ソフト化されていない格闘アクションを列挙していきます(紹介本数も出来るだけ増やす予定)。
今回も前回と同様に90年代~現代までの映画をセレクトしましたが、やや色物系の作品(笑)をチョイスしています。また、先々月の特集は更新ペースが散々だったので、そうした点の改善も考慮していくつもりです。


08/07 更新履歴(2017年/7月)
08/15 中国産功夫片を追え!(1)『武當』
08/21 中国産功夫片を追え!(2)『京都球侠』
08/27 中国産功夫片を追え!(3)『神丐』
08/28 中国産功夫片を追え!(4)『天湖女侠』
08/31 中国産功夫片を追え!(終)『神州小劍侠』

09/23 『クローサー』
09/29 『破門組II』