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功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

GARY OF GOLDEN AGE(03)『ザ・シューター』

2013-10-09 23:41:06 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ザ・シューター」
原題:Hawk's Vengeance
製作:1997年

●イギリス海軍大尉のゲイリー・ダニエルズは、刑事の兄が殺害された事を知り、すぐさまアメリカへと飛んだ。兄の相棒であったジェイン・ハイトマイヤーによると、彼は中国系とネオナチ系マフィアの抗争に関与していたというのだ。
中国系マフィアのジョージ・チェン(『ハイボルテージ』のジョージとは同名異人)と知り合ったゲイリーは、彼とともにネオナチ系マフィアに探りを入れていく。そして捜査の結果、兄殺しの真犯人が裏社会の大物として知られるキャス・マクダだと判明する。
 キャスは裏で臓器密売を行っており、中国系マフィアのメンバーを誘拐しては臓器を摘出。上得意の客に法外な値段で売りさばいていたのだ。ゲイリーはジョージと一緒に敵地へ突入しようとするが、先手を打たれて逆に捕まってしまう。
臓器のドナーにされたジョージに危機が迫る中、ゲイリーは先に捕まっていた者たちと協力して逆襲へと転じる。時を同じくしてジェインも駆けつけ、ここに最後の闘いが始まった!

 主にPMエンターテイメント(以下、PM)で活躍していたゲイリーですが、今回は思い切って古巣から飛び出し、他のプロダクションで主演作を撮っています。そのため、本作にはおなじみのカーチェイスや大規模スタントが無く、全体的に小ぢんまりとした印象を受けました。
例によって粗筋は単純極まりなく(ゲイリーが兄の仇を討つだけ)、警察が動くのも最後の最後だけ。ジョージの存在やマヌケな殺し屋コンビのやり取りなど、人物設計はそこそこ拘っているようですが、作品としてはPM作品の縮小コピーでしかありません。
 しかし格闘アクションの演出は、大味になりすぎているPM作品よりも丁寧さを感じさせるものとなっていました。ゲイリーだけではなく、ジョージやジェインにもアクションの見せ場を配置しており、殺陣の一部にはカンフー系の動きが取り入れられています。
また、PM作品ではラスボスとの一騎打ちが軽視されがちな傾向にありますが、本作ではキャス(暇さえあれば部下を相手にひたすら修行するというナイスなキャラ。実際に彼本人もフィリピン武術の使い手)との最終決戦がしっかり用意されているのです。
残念なのはアクションのテンポがやや遅いこと。絡み役がただの的になる場合が多く、ラストバトルもフィリピン武術ではなくそのへんに転がってる物を使っての殴り合いが中心となっています(苦笑
良くも悪くも典型的なB級アクションとしか言いようの無い作品ですが、やはり格闘映画は最後に一騎打ちがあってナンボだと再認識できました。個人的には『メガロ』よりこっちがギリギリ好みかなぁ…。さて、次回はゲイリーが再びPMに帰還を果たし、著名なスターたちと一筋縄ではいかない作品にチャレンジします!

GARY OF GOLDEN AGE(02)『メガロ 人質奪還指令』

2013-10-05 22:26:25 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「メガロ 人質奪還指令」
原題:RIOT
製作:1996年

●1999年、クリスマスのロサンゼルスでは暴動が発生し、各地で様々な衝突が起きていた。そんな喧騒の中、英国大使の娘であるペギー・ローランドが誘拐され、ギャングのテックス・エリオット・サンダースが身代金を要求してきた。
テックスは「金を持ってくる奴は丸腰のまま1人で来い」と告げたが、指定された受け渡し場所は暴動の中心部にあり、容易に近付くことができない。そこで白羽の矢が立ったのが、英国特殊部隊SASに所属するゲイリー・ダニエルズであった。
 彼はペギーの元恋人で、諸事情により別れた今も彼女のことを想い続けていた。友人であるシュガー・レイ・レナードや英国大使らのバックアップを受け、ゲイリーは暴徒が暴れ回る危険地帯へと乗り込んでいく。
だが、この誘拐事件の裏には過激派のパトリック・キルパトリックの姿があった。ゲイリーと因縁の仲である彼は、大使令嬢を誘拐して英国本土に収監されている同志の解放を目論んでいたのだ。果たしてゲイリーとペギーは、この地獄絵図から脱出できるのだろうか!?

 ゲイリー・ダニエルズ特集第2弾は、ちょっと『ニューヨーク1997』チックな本作の紹介です。ちなみに舞台は近未来となっていますが、製作年度から数えてほんの3年後の話なので、いくら近未来と言っても近すぎるのでは…という気がしないでもありません(笑
この作品は「危険地帯と化した街」というシチュエーションに全てを賭けています。投入されたエキストラの数、街中で横転・破壊・爆破されまくる車両など、暴動によって混乱した街並みを破格のスケールで描写しているのです(製作はもちろんPMエンターテイメント!)。
 しかし、荒れ果てた街というのはSF映画でよく見る光景だし、登場する敵キャラもヒャッハー!な連中ばかり。そのため、折角の大がかりなシチュエーションも目新しく見えず、あまり効果を発揮していませんでした。
物語もゲイリーがペギーを助けて連れ帰るだけなので、これといって特筆すべきポイントは無し。やはり『怒りの逃亡者』と同じように、ゲイリーが見せるアクションそのものが最大の見せ物ということなのでしょう。

 今回もゲイリーのアクションは鋭敏で、傲慢な野球チームを友人のシュガーと一緒にボッコボコ。その後も危険地帯で次々と湧いてくる悪党どもを叩きのめし、いよいよ真の敵であるパトリック一派と対峙します。
走ってくるバイクに蹴りをかまし、容赦なく首をへし折るゲイリー。パトリックの弟も倒れ、ラストバトルに向けて盛り上がってきたぞ!…と思ったのも束の間、急襲したゲイリーによってパトリックは1分も経たずに倒されてしまいます(爆
 その後、仲間の兵士が駆けつけたおかげでパトリックは九死に一生を得ますが、狭い立体駐車場でのカーチェイスで呆気なく爆死。あまりの呆気なさに「あれ?ラストバトルこれで終り!?」と思ってしまいました。
アイスホッケー軍団やバイク乗りとの対決、そして前後のカーチェイスはなかなか面白かったのに、まさかラスボスが一番弱いなんて…。まさに竜頭蛇尾を地で行く本作。ゲイリー主演作としても今ひとつ、といった感じでした。
次回はゲイリーが兄貴を殺した相手に復讐する、クライム・アクションでいってみましょう。

GARY OF GOLDEN AGE(01)『ラン・ダウン 怒りの逃亡者』

2013-10-02 23:39:13 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ラン・ダウン 怒りの逃亡者」
「怒りの逃亡者」
原題:RAGE
製作:1995年

▼今月は格闘映画ファンなら誰もが知っている実力派、ゲイリー・ダニエルズが最も輝いていた時期の作品を集中して紹介したいと思います。ゲイリーはキックボクシングから俳優に転向し、ブレイクするまで長い下積み時代を送っていました。
香港映画での活動を経て、B級アクション映画を量産していたPMエンターテイメント(以下、PM)に流れ着いた彼は、端役として『カジノファイター』『ドラゴンチェイサー』等に出演。やがて卓越した技量を見込まれ、単独主演作を撮るようになります。
本作はその頃の作品で、ゲイリーを売り出すために大がかりなアクションが豊富に盛り込まれています。製作にはゲイリー本人も直々に参加しており、どれだけ気合を入れて撮影に臨んだのかがよく解ります。

■小学校の教師であるゲイリーは、公私ともに恵まれた生活を送っていた。だが、いきなり彼の運転する車に銃を持った男が乗り込んできたことから、その運命は大きく変わっていく。
ゲイリーは男を追っていた警察に拘束され、謎の施設で人体実験を受けさせられてしまう。なんとか施設から脱出したものの、逃走を続ける彼をマスメディアは異常犯罪者として書きたて、FBIがその行方を執拗に追った。
 やがて彼はレポーターのケン・タイガー&ジリアン・マクホワーターと出会い、自分が受けた仕打ちの一端を吐露。そして警察に監視されていた妻子を助け出し、改めて全ての決着をつけるため立ち上がろうとする。
再びケンたちに接触を試みようとするゲイリーだったが、同時にFBIの追及も迫りつつあった。果たして、彼の運命は…?

▲PMとゲイリーが注力しただけあって、本作は激しいスタントとアクションが次から次へと襲い来る、ハイテンションな作品となっていました。
初っ端から施設で暴れ回り、その次にはハイウェイを舞台に巨大トレーラーでカーチェイス!SM夫婦とのバトル(笑)が終わったと思ったら、高層ビルの壁で宙吊りアクション!…といった具合に、ド派手なシーンが展開されていきます。
 最終決戦はショッピングモールを舞台にした乱戦で、格闘戦から始まって店内ディスプレイを使ったスタント(『コマンドー』のパクリ)、そして大量のガラスを砕きながら銃撃戦が繰り広げられます。
最後にタイマン勝負できる相手が居ないのは不満ですが、全体的にスタントも格闘アクションも充実していたと言えるでしょう。ところで、ラストバトルの雰囲気がなんとなく『ポリス・ストーリー』に似ているような…もしかして意識してたのかな?
 しかし、勢い重視で作ってしまったせいか、ストーリーがかなり稚拙な感じになっていました。それが最も顕著なのが終盤の展開で、なんだかんだあってゲイリーの無実が晴れて万事解決となりますが、そこに至るまでの展開が強引過ぎるのです。
そもそも本作の敵は政府やFBI、果ては警察や報道機関にまで口出しできるほどの力を持っています。そんな相手がゲイリーの主観的なインタビュー映像(物的証拠いっさい無し)や、州知事が上院議員に働きかけただけで止められるものなのでしょうか?
 主人公が警察だけではなく、マスメディアからも追い詰められる展開はユニークだっただけに、ストーリーの練りこみ不足が残念でなりません。ここが上手く演出できていれば、本作は傑作になれたのですが…。
さて、次回はゲイリーが近未来(うそ)のロサンゼルスで活躍する、パニック・アクション映画をお送りしたいと思います。

『ガーディアン・エンジェル』

2013-09-11 22:40:12 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ガーディアン・エンジェル」
原題:GUARDIAN ANGEL
製作:1994年(93年説あり)

●刑事のシンシア・ラスロックは、同僚で恋人のマーシャル・ティーグと共に偽札事件を追っていた。しかし、偽札製造の主要メンバーだったリディ・デニアを逮捕するものの、彼女によってマーシャルが殺されてしまう。
それから半年後、恋人の死をきっかけに警察を辞めたシンシアは、1人でボディガードの仕事をしていた。ある日、実業家のダニエル・マクヴィカーから警護の依頼が舞い込んできた。実は彼はリディの元恋人であり、刑務所を脱獄した彼女に狙われているというのだ。
 シンシアは依頼を拒もうとするが、成り行きからダニエルのガードを担当する事となる。そのころ、リディは逮捕された際に消えた偽札の原版を血眼で探していた。どうやら原版はダニエルの元にあるらしいが…。
果たして原版の行方は?そしてダニエルに惹かれつつあるシンシアの想いは?予期せぬ敵が姿を現す中、最後の戦いの幕が切って落とされる!

 前回に引き続き、今回もリチャード・W・マンチキンがPMエンターテイメントで監督した作品の登場です。本作は格闘シーンに偏重しすぎた『カジノファイター/地獄の拳闘』とは違い、まっとうなアクション映画に仕上がっていました。
物語は前半の30分が刑事アクション、後半の1時間が恋愛を絡めた活劇という2部構成になっています。主演のシンシアは格闘シーンだけではなく、珍しく恋に思い悩む姿を披露しており、いつも戦ってばかりの彼女とは違う一面を見ることができます。
 格闘シーンについては、ファイトコレオグラファーがあのリチャード・ノートンなので、序盤からスピーディーな技の応酬が見られます。中盤は息切れしてスロー気味になるものの、最後のシンシアVSケン・マクレオド(『ショウダウン』)は上々の出来でした。
本作はこの他にもカースタントやボートチェイス、馬に引き回される危険なスタントなど、PMエンターテイメントらしい見栄えのするアクションを盛り込んでいます。傑作というわけではありませんが、安定した面白さを持っている作品だと私は思います。
 ちなみにリチャード監督は、『キング・オブ・キックボクサー3』『リング・オブ・ファイア/炎の鉄拳』、そしてアクション以外は難ありの『カジノファイター』といった微妙な格闘映画を多数撮っています(苦笑
今のところ、氏が監督した格闘映画(国内発売作品)で未見なのは『キング・オブ・キックボクサー2』だけですが、少なくとも現時点では本作がベスト。『キング・オブ~2』はあまりいい評判を聞きませんが、いつかは目を通してみたいですね。

『カジノファイター/地獄の拳闘』

2013-09-08 23:34:53 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「カジノファイター/地獄の拳闘」
原題:DEADLY BET
製作:1992年(91年・93年説あり)

▼以前、B級映画プロダクションのPMエンターテイメントと、格闘俳優のジェフ・ウィンコットが組んだ『刑事ベルモア 共謀者』を紹介しました。内容は凡庸な刑事アクションですが、同じタッグによる格闘映画がもう1本あったことをすっかり忘れていました(苦笑
本作は格闘試合に生きる男たちを描いたもので、全編に渡って大量の格闘シーンが挿入されています。反対にPMエンターテイメント名物のカーチェイスや爆破スタントが一切無く、どれほど本作が格闘シーンを重視していたか(予算がなかったか)が解ります。
さらには、出演者が『ハードブロー』のスティーヴン・ヴィンセント・リーといった猛者揃いなのもポイント。彼らの見せるアクションを見ているだけでも面白い――と言いたいところなのですが…。

■ラスベガスで暮らすジェフは、恋人であるチャーリー・ティルトンとの結婚を目前に控えていた。しかし、ギャンブル好きの彼は無謀にも賭け格闘試合に挑み、スティーヴに大金とチャーリーを奪われてしまう。
身を持ち崩したジェフは、その後もギャンブルから足を洗うことが出来ず、借金は膨れていくばかり。遂には借金取りの片棒まで担ぐはめになるが、一念発起してトレーニングを開始。色々と吹っ切れた彼は、ラスベガスから去ろうとした。
そんな時、スティーヴが主催する格闘トーナメントの話が持ち上がり、いまだ借金のあるジェフはこれに挑戦することになる。全てはスティーヴへのリベンジと、チャーリーを取り戻すため…。今、戦いのゴングは鳴った!

▲まず最初に目玉の格闘アクションですが、これがなかなか良い感じでした。アクション指導はドン・ウィルソン作品でおなじみのエリック・リー&アート・カマチョですが、様々な格闘技と動ける役者を揃えたおかげで、とても充実しています。
また、主軸となるジェフVSスティーヴのバトルも熱いのですが、いきなり序盤に登場するゲイリー・ダニエルズ、珍しくアクションを見せるジェラルド・オカムラなど、多彩な格闘俳優たちの競演も見どころの1つといえるでしょう。
 しかし、ストーリーについては散々な出来栄えで、正直言って全然面白くないのです。作り手としては挫折と栄光のドラマを描きたかったのでしょうが、肝心の主人公がギャンブル狂のダメ男では感情移入のしようがありません。
どれくらいダメダメかというと、酒とギャンブルから抜け出せない描写が一時間も続く(!)ほどのダメっぷり。終盤以降もギャンブル癖が抜けておらず、彼女とよりを戻した後も同じ失敗を繰り返すんだろうなぁ…と思ってしまいました(苦笑
 対するスティーヴに関しても、悪役らしい行為はほとんど見せておらず(終盤に強盗を使って悪巧みするくらい)、相対的にジェフのダメっぷりが強調される結果を招いています。
そんなわけで、アクションは良好ですがストーリーに難ありという、困った内容の本作。ちなみに監督のリチャード・W・マンチキンは他にも幾つか作品を撮っており、こちらは次回紹介したいと思います。

【春のBOLO-YEUNG祭り(終)】『未来警察TC2000』

2013-04-28 21:13:31 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「未来警察TC2000」
原題:TC 2000
製作:1993年

●環境汚染によって荒廃し、多くの人々が地下都市に移住した近未来の地球。パトロール部隊に属するビリー・ブランクスとボビー・フィリップスは、地上の荒んだ世界からやってくる犯罪者と日夜戦っていた。
ある時、ジャラル・メーリ率いる一団が何者かの手引きによって都市内に侵入。その際にボビーが殉職し、相棒を失ったビリーは除隊を決意する。だが、これら一連の事件を仕組んだのはパトロール部隊の司令官であった。
 司令官はある野望の為にボビーをアンドロイドとして蘇生させ、真実に近付いたビリーを排除せんと企む。果たして彼の目的とは…?一方、地上世界に脱出したビリーは、そこで戦いに明け暮れる楊斯(ボロ・ヤン)と運命的な出会いを果たす。
彼に救われたビリーはジャラルを倒そうとするが、そこには司令官の命令で徒党を組みに来ていたボビーの姿があった。一時撤退したビリーは、敵の狙いが地上世界の全住人抹殺だと知り、楊斯や勇敢な者たちとともに毒ガス散布装置のある施設へ乗り込んだ。
果たして、彼はボビーを取り戻して邪悪な野望を粉砕することができるのだろうか!?

 格闘映画で活躍を続けていた楊斯は、徐々に演じる役柄の幅を拡げていきました。香港映画の頃と大きく違うのは、主演やそれに近い位置で善役を演じる機会が多くなったことです。『シュート・ファイター/暗黒ドラゴン伝説』では心優しき空手家に扮し、続編の『Shootfighter 2』でも熱演。そして本作では拳法の師匠を演じています。
作品自体は少ないロケ地・野暮ったい物語・ショボいSFXの三拍子が揃っており、とても褒められた出来ではありません。最後は毒ガス装置を元の大気浄化装置に戻し、地上世界が救われる…のかと思ったら、装置を止めて終りという芸の無いオチで脱力してしまいました(苦笑

 格闘シーンにも甘い部分があり、アクションを多く見せようとして逆に冗長さを誘発しています。ラストでビリーと戦う相手がジャラルや司令官ではなく、単なる名無しの戦闘員というのも×。なんとなくスピード感も足りない(演者の動きが若干遅い)気がしました。
ただし、殺陣そのものはキックに偏重しないオールラウンドな動作であり、ザコとの戦闘も相手の特色を分けることによって印象の重複を避けています。物越しに相手を吹き飛ばす浸透勁という技を、解りやすく表現している点も実に興味深いです。
そしてビリーVSマシアス・ヒューズの新旧シーゾナル悪役対決を筆頭に、ビリーVS楊斯・楊斯VSマシアスというドリームマッチが実現しているのもポイント。残念ながらジャラルだけはあまり絡んできませんが、アクション描写は総合的に考えると上々の出来だったと思います。

 激動の90年代を過ごした楊斯ですが、加齢などの理由により00年代以降は映画界から遠ざかっていきます。しかし、2人の息子が自分と同じボディビルダーとなり、香港でボディビル協会やジム運営の要職に就くなど、プライベートでの躍進は続きました。
露出こそ減ったものの、現在も彼は俳優活動を継続中です。2007年の『Blizhniy Boy: The Ultimate Fighter』では総合格闘家のカン・リーと共演。そして今年公開の『The Whole World at Our Feet』で、再びスクリーンに返り咲いています。
 御年66歳…かつて大部屋俳優の1人だった男は、今や世界中で愛されるカンフー映画の象徴的存在になりました。今回は現在にいたるまでの来歴を駆け足気味に辿ってみましたが、彼は今なお戦い続けています。その姿はとても気高く、尊敬の念を禁じ得ません。
赤い虎、香港カラテの殺し屋、チョン・リー、そしてボロ…。幾多の勇名を馳せた重鎮にささやかなエールを贈りつつ、このたびの特集を終えたいと思います。(特集、完)

【春のBOLO-YEUNG祭り④】『ダブル・インパクト』

2013-04-21 22:53:27 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ダブル・インパクト」
原題:DOUBLE IMPACT
製作:1991年

●『ブラッド・スポーツ』で健在ぶりを示した楊斯(ヤン・スエ)は、この頃から本格的にハリウッドへの進出を開始します。英名をボロ・ヤンに改め、再出発を誓った彼は次々と本格的な格闘映画に出演していきました。
ジョナサン・キー&ジェリー・トリンブル主演の『炎のマーシャル・アーツ』、香港ロケ作品の『Fearless Tiger』、シンシア・ラスロックと対決した『タイガークロー』などなど…。そしてヴァンダムから2度目のお呼びが掛かったのが、この『ダブル・インパクト』です。
この映画はヴァンダムにとって初のメジャー作品であり、スタッフやロケ地にとことん拘って製作されました。その甲斐あって本作は大ヒットを記録し、彼をトップスターの座へと押し上げますが、全体的なクオリティは同じ監督作の『ライオンハート』より劣っています。

 ストーリーは、香港に住んでいた設計技師の遺児である双子が、両親を殺した悪党どもに復讐を遂げるまでを描いています。しかし、双子のキャラクターが上手く差別化できておらず、個性に乏しいせいでイマイチ魅力に欠けています。
せめて兄弟でファイトスタイルを変えたり、両者の人物像を膨らませる描写を徹底していれば、結果は変わったかもしれませんが…。このイマイチな雰囲気はラストまで続き、最終的に敵を皆殺しにして終わります(必死に悪事の証拠を調査してたヒロインの立場は!?)。
 このように洗練されていない感じの本作ですが、楊斯の存在感だけは存分に発揮されていました。今回の楊斯は敵の用心棒として登場し、いきなりヴァンダム兄弟の両親を殺害!その後もヴァンダム(弟)を叩きのめしたりと、憎々しげな悪役っぷりを見せています。
最大の見せ場は終盤のVSヴァンダム(弟)戦で、キックとパワーが激突する好勝負に仕上がっています。惜しむらくは、この対決以外のラストバトルがどれも地味だったこと。楊斯が死んだあとも延々と戦いが続くので、ちょっと蛇足な感じがしてしまいました。

 ヴァンダムとの再戦を終えた楊斯は、それからも格闘映画への出演を継続するのですが、次第に演じる役柄に変化が生じていきます。決して香港映画時代には顧みられることの無かった、「善」としての存在…導く者としてのポジションを求められるようになったのです。
「春のBOLO-YEUNG祭り」も次回で最終回。本当は『Blizhniy Boy: The Ultimate Fighter』を紹介したかったのですが、ソフトを入手することができなかったので、「黒い楊斯」と共演した某作でお茶を濁したいと思います(爆
(次回へ続く!)

『ASSASSIN -アサシン-』

2013-03-21 23:38:41 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ASSASSIN -アサシン-」
原題:One in the chamber
製作:2012年(一部サイトなどで1992年製となっているが、これは誤り)

●『エクスペンダブルズ』がヒットして以降、それまで軽視されていた格闘スターたちの共演が盛んに行われるようになってきました。たとえ落ち目の俳優であっても、2人3人と集まれば価値を生むということに製作サイドが気付いてきたのです。
このことは当ブログでも何度か触れていますが、その流れに同調したのは製作サイドだけではありません。『エクス~』に出演した格闘スターたちも次々と行動を起こしており、中でもドルフ・ラングレンとスティーヴ・オースティンの2人は、ここのところ活発な動きを見せています。
スティーヴは『S.W.A.T.』『ザ・ハンティング』など、次々と「解っている」作品を連発。ドルフもヴァンダムやスコット・アドキンスと共演を重ねており、本作ではアカデミー俳優のキューバ・グッティングJrと拳を交えています。

 ストーリーは実に単純明快で、マフィア同士の抗争に2人の殺し屋が参加。やがて殺し屋たちによる代理戦争的な戦いに発展するが、そう簡単に物事は終わらず…というもの。主役はどちらかというとキューバの方で、ドルフは彼に対抗するマフィアが雇った伝説の殺し屋として登場します。
このドルフのキャラクター設定が最高で、あまりパッとしない本作の照明代わりになっていました。アロハシャツを着用し、つねに子犬を連れ回している奇妙な風体。それでいて仕事ぶりは慎重かつ確実という、クレイジーでクレバーな人物像はドルフ自身の雰囲気と見事に合致しています。

 一方、主人公のキューバはクールな暗殺者として登場しますが、ヒロインに対してストーカー行為に及んだりするので、あんまり魅力的なキャラには思えません。狂っているけど格好良いドルフと、格好いいつもりで狂っているキューバ…この対照的な2人は、後半に差し掛かったところで本格的な対決に挑みます。
関節技の応酬からナイフ合戦にまで発展するこのバトルは、一部で吹替えスタントこそ使ってはいるものの、なかなか白熱した激突となっています。格闘戦としての見せ場はこの部分ぐらいですが、その後もド派手な銃撃戦が続くので、アクション的には充実していたと言えるでしょう。
ぶっちゃけドルフ以外に魅力がない作品ですが、そのぶんドルフの個性が際立っていたのも事実。今後も様々なスターとの共演を控えているようなので、これからのドルフ(とスティーヴ)の動向からは目が離せませんね。

『刑事ベルモア 共謀者』

2013-02-12 23:28:37 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「刑事ベルモア 共謀者」
原題:LAST MAN STANDING
製作:1995年

▼『アンダー・カバー/炎の復讐』や『マーシャル・コップ』など、数々の傑作格闘映画に出演しているジェフ・ウィンコット。これらの作品はIMAGEというプロダクションで作られましたが、実をいうと私はそれ意外の会社で作られた彼の主演作を見たことがありません(苦笑
そこで今回は、B級アクション映画に定評のあるPMエンターテイメントが製作し、カーチェイスと爆破スタントに彩られた本作をチェックしてみたいと思います。PMエンターテイメントとは、ゲイリー・ダニエルズの主演作などを作ったアメリカの映画会社で、過去にも当ブログで同社製作の『アベンジャー』という作品を紹介しています。

■正義に燃える刑事のジェフは、相棒のジョナサン・バンクスとともにジョナサン・フラー率いる銀行強盗グループを逮捕するが、連中は悪徳警部補のスティーヴ・イースティンによって釈放されてしまう。憤るジェフだが、警察の内情を知るフラーは「警部補を無闇に突っつくのは止めとけ」と忠告する。
だがその後、とある事件で人質にされたバンクスがスティーヴのミスによって死亡。上司のマイケル・グリーンは、適切な対応が出来なかったとしてジェフを謹慎処分にし、現場から引き離してしまう。やがてジェフのことを邪魔に思ったスティーヴは、彼に罪を着せて抹殺してしまおうとするが…?

▲本作はまさに刑事アクションの典型、あるいは王道と言ってもいい作品です。解りやすい死亡フラグを立てて死ぬ相棒、陥れられて孤軍奮闘を強いられる主人公など、いろんな刑事アクションで見られたパターンが一堂に会しているのです。
とはいえ、パターンどおりに構成するだけでは芸が無さすぎます。そこでPMエンターテイメントは、自身の十八番であるカーチェイスを景気よく挿入し(序盤・中盤・後半の3回)、これでもかと車をクラッシュさせまくっていました。『アベンジャー』もそうでしたが、本当にこの会社はカーチェイスが好きなんですね(笑
 しかしカーチェイスにばかり懲りすぎたせいで、ジェフの見せる格闘アクションはあまり多くなかったりします。タイマンで戦えそうなフラーは事故って死ぬわ、最後に戦うスティーヴはただの中年オヤジで動けないわと、対戦相手にもとことん恵まれていません。走る車に引き回されるなど、危険なスタントもあるんですが…。
とりあえず作品自身のテンポは良いので、格闘シーンに過度な期待さえしなければ気楽に楽しめるはずです。ところで、本作にはスティーヴをはじめとして様々な悪党が登場しますが、邦題の「共謀者」って誰のことを指しているんでしょうか?(爆

『ICHIGEKI 一撃』

2013-02-01 22:51:47 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ICHIGEKI 一撃」
原題:OUT OF REACH
製作:2004年

●『DENGEKI 電撃』に引き続き、これまたスティーブン・セガールが香港系のスタッフと組んで製作した作品です。2000年代前半のセガールは香港を意識していたのか、香港にゆかりのある作品に多く関わっていました。
『奪還 DAKKAN アルカトラズ』では武術指導に熊欣欣(チョン・シンシン)を招き、『沈黙の標的』では功夫使いと対決。『沈黙の聖戦』では程小東(チン・シウトン)の指導を受け、『イントゥ・ザ・サン』では成家班のエースである慮恵光(ロー・ワイコン)と戦い、ついには香港で『ドラゴン・スクワッド』の製作に乗り出します。
 そんな中で本作は、1979年に香港で年間配収3位を記録した『ザ・ポップマン』を手掛け、周潤發(チョウ・ユンファ)主演で『風の輝く朝に』を生み出した名匠・梁普智(レオン・ポーチ)を監督に招いています。武術指導には七小福の元(ユエン・タク)が就き、とても香港映画に近い布陣で製作されているのです。
おかげで本作は従来のセガール作品とは違った(なおかつ『電撃』とは違う方向性の)雰囲気で満ちています。ストーリーは、カナダで隠遁生活を送る元特殊工作員のセガールが、文通相手であるワルシャワ在住のアイダ・ノヴァクスカを救うため、国際的な人身売買組織と戦うというものです。

 まず、セガールの行動動機が家族の仇や己の正義感ではなく、「1人の少女を助けようとするため」というひたむきさが泣かせます。孤児院の少年との交流など、ここまで子供と親密になるセガールはなかなか見られません。
異国情緒あふれるワルシャワの地、そして最終決戦の舞台となる真っ白な城など、派手すぎない色調でまとめられた情景もイイ感じでした。
ただ、こういった落ち着いた雰囲気はセガールに似つかわしくない…というのもまた事実。非常に攻撃的なイメージを持つ彼と本作では、あまりにも毛色が違いすぎます。本作でセガールは滅多にアクションを見せず、カーチェイスすら行いません。爆破シーンも無く、これでは彼を主役にした意味が無いといっても過言ではないでしょう。

 ストーリー部分にも穴が多く、最終的に組織を壊滅させたのはいいんですが、バックにいた連中や黒人の刺客を送り込んだ偉そうなジジイを放置したまま終わっています。アイダ以外の子供たちがどうなったかも描かれず、身内の描写だけで話が完結してしまうのには思わずツッコミを入れてしまいました(爆
アクション描写についても派手さを抑えた描写が裏目に出ています。個々の動作は地味で、いったいどこを元が指導したのかすら解らない始末。ラストは組織のボスであるマット・シュルツとのソードバトルですが、こっちもすぐに決着がつくので迫力不足でした。
もう少し演出にメリハリを持たせて、主演がセガールではなく落ち着いた雰囲気の俳優であったなら、現状よりも化けた可能性がある本作。いっそのこと思い切って周潤發にやらせていたら面白かったかもしれないですね(笑