功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

恐怖!ニコイチ映画怪進撃(終)『Kickboxer from Hell』

2017-02-26 23:37:41 | カンフー映画:駄作
Kickboxer from Hell/Zodiac America 3: Kickboxer from Hell
製作:1990年(1992年説あり)

●数々のニコイチ映画を作り、世界中の映画ファンを絶望に陥れてきたフィルマークとIFD Films & Artsですが、その栄光にも終わりの時が近付いていました。
まずビデオバブルの勢いが衰え始め、ニンジャ映画も時代遅れの産物に。香港では政府によるレーティングが導入され、グレーゾーンどころか完全に真っ黒なニコイチ映画が(海外向けとはいえ)作りづらい状況となります。
 また、同社の看板監督・何誌強(ゴッドフリー・ホー)が離脱を表明し、ノーマルな動作片や女性アクションに活路を求めるなど、ニコイチ映画を取り巻く環境は刻々と変わっていきました。
この状況には、流石のフィルマークも二の足を踏むようになるのですが、IFDは懲りずにニコイチ映画の製作を強行。90年代になってもニンジャ映画を作り続け、新たにキックボクサー映画を推しはじめます。
 80年代後半に颯爽と現れたジャン=クロード・ヴァン・ダムは、自慢の蹴りと開脚でアクション映画ファンの話題をかっさらい、1989年の『キックボクサー』で格闘スターとしての地位を確固たる物にしました。
彼やフォロワーの活躍により、90年代はマーシャルアーツ映画が最盛期を迎えますが、これにIFDは出稼ぎ外人俳優を引き連れて参入。いつもの調子で突っ走ろうとするも、既にニコイチ映画というジャンル自体が限界に達していたのです。

 本作の主演は、動作片によく出ていたマーク・ホートンが担当。内容はキックボクサーにホラー要素をプラスした異色作ですが、どちらかといえば元作品がホラー映画だったから自然とそうなった珍品…と言うべきでしょうか(苦笑
物語は例によって例の如く、キックボクサーのマークが邪悪な教団と戦う新撮カットと、ある人妻(演者は後述)の周囲で起こる怪奇現象を描いた元作品パートが同時進行していきます。
 元作品は新婚間もない夫婦が怨霊に祟られるサスペンス・ホラーだったらしく、驚いたことに人妻を苗可秀(ノラ・ミャオ)、夫を高強が演じているのです。
どうやら元となったのは『靈魔』という映画で、新撮カットでは教団が怨霊を操っている設定に改変されていました。ちなみにこちらは1976年の作品で、まだ南洋邪術片が流行る前ということもあり、グロい描写はほとんど見られません。

 おかげで全く怖くないのですが、新撮カットはやはりデタラメだらけ。主人公のマークからして、キックボクサーなのにトレーニングで中国武術の形を見せ、トレーナーの兄は空手着に袖を通しています。
敵の教団もとことんショボく、教徒は麻袋に穴を空けて落書きしたコスチュームを着用し、ボスの教祖はデーモン閣下のバッタもん(よく見るとメイクがめっちゃ適当)という始末です(爆
劇中では臆面もなくエクソシスト風のテーマが流され、ロウソクを壊しただけでデーモン閣下が死ぬラストに至るまで、とかくクレイジーな描写が目に付きました。
 ただしキックボクサー映画を騙っているだけあって、これまで取り上げてきた作品と比べても格闘シーンの出来は随一。マーク自身が動ける俳優である点も大きく、それなりに格好のついた戦いが拝めます。
元作品にも2人の霊能者VS高強というサプライズがあり、終盤ではマークと組織の用心棒による一騎打ち(ここはスピード感がなくてイマイチ)もあるなど、アクション的な見せ場は意外と充実していました。
この他、露出度の高い姿を見せる苗可秀のアダルトな魅力など、見所になりそうなポイントも少なくない本作。しかし70年代の作品を弄ったものがウケるはずもなく、ニコイチ系キックボクサー映画は製作側にとって最後の花火となったのです。

 すべてのブームが去り、残されたフィルマークとIFDはニコイチ映画から手を引く事になります。時代はより先鋭化した作品を求め、無茶な映画産業が付け入る隙は無くなっていました。
90年代の香港は黒社会系の映画会社が続々と台頭。粗悪な作品で手っ取り早く儲けることさえ難しくなり、それでも会社自体は存在していましたが、1996年のビル火災によって多大なダメージを受けます。
 この一件でフィルマークの[登β]格恩(トーマス・タン)が死亡し、生き残ったIFDの黎幸麟(ジョセフ・ライ)も業界から脚を洗う…かと思いきや、同僚だった黎慶麟(ジョージ・ライ)と手を組み、今も映画界に留まっているそうです。
 かくして世界からニコイチ映画は消滅し、時代の徒花として好事家が語るだけの存在となりました。しかし、あの異常なジャンルで一時代を築いた彼らの事なので、「ひょっとすると」という不安は未だに残っています。
そう、完全に恐怖が去った訳ではありません。彼らが映画を作り続ける限り、そして映画というビジネスが世界にある限り、新たな“怪進撃”の余地は残されているのかもしれないのです……(特集、終わり)

恐怖!ニコイチ映画怪進撃(4)『地獄のバトルボーダー/戦場に舞い降りた残虐軍団』

2017-02-20 19:26:10 | カンフー映画:駄作
「地獄のバトルボーダー/戦場に舞い降りた残虐軍団」
原題:Hitman the Cobra
製作:1986年(87年説あり)

●様々なタイプのアクション映画に目を付け、安上がりな方法で小銭を稼いできたIFD Films & artsとフィルマーク。彼らはニンジャ映画を主な稼ぎ口としており、それ以外のジャンルも万遍なく摘み食いしていました。
その足跡は今まで紹介してきた通りですが、出来ればもっと早く・安く作りたいというのが本音だったはず。そこで次に目を付けたのは、銃と衣装さえあればそれっぽい代物が作れるコマンド・アクションだったのです。
 ベトナム戦争の影響もあり、80年代は数多くの戦争映画が製作されました。東南アジアでは数えきれないほどのB級コマンド映画が量産され、中には『イースタン・コンドル』のような傑作も存在します。
しかし、IFDやフィルマークはニンジャ映画に執着し、コマンド・アクションは片手間にしか撮っていません。安いにこした事は無いはずなのに、どうして彼らはコマンド映画の開拓に本腰を入れなかったのでしょうか?
 このへんの事情は不明ですが、ニンジャ映画に比べて競合相手が多かったから敢えて避けた、或いは下手に主力のジャンルを増やすと手間暇が掛かると判断したのかもしれません(ちなみに本作の製作は黎幸麟(ジョセフ・ライ)率いるIFD)。
…まぁ、どちらにしても「とりあえず流行ものだから撮っとけ」という方針で製作されたのは間違いないでしょうね(爆

 本作は、第二次大戦下のフィリピンで日本軍と戦う抵抗勢力サイド(元作品)と、マイク・アボット率いる部隊とやりあうリチャード・ハリソンの物語(新撮シーン)が同時に進行します。
いちおうリチャードは抵抗勢力と通じていて、マイクの弟が日本軍に情報を流していたという設定が語られますが、両者の繋がりはそれくらい。元作品の主人公とリチャードは顔を合わせることすらありません。
 また、どうも元作品は戦中~戦後の混乱期を描いた作品のようで、いつの間にか敵が日本軍から悪辣な権力者へと変わっていきます。
恐らく元作品には終戦の様子なども描写されていたのでしょうが、本作は適当にカットしまくっているためストーリーは滅茶苦茶。知らないキャラクターが突然仲間になってたり、誰と戦っているのかさえ解らなくなってしまうのです(苦笑

 新撮シーンについても、リチャードを始めとしたキャスト陣は明らかにやる気が無く、緊張感のカケラも無い銃撃戦がひたすら展開されていました。
なお、アクション面はどちらのパートも大したことはなく、元作品の方は群衆シーンや派手な爆破しか見所がありません(ひょっとすると本国では大作扱いだったのかも)。
一方、新撮パートは香港の裏山でひたすら銃撃戦ごっこをしているだけで、ニンジャ映画のような格闘戦は当然ナシ。もっとも印象に残った場面といえば、上から撮ったカットでリチャードの頭頂部がとても薄かったことぐらいでしょうか(笑
 さて、そんなこんなで80年代は矢のごとく過ぎ去り、ニンジャもコマンドも時代の徒花として散っていきました。しかし、それでもフィルマークとIFDはニコイチ映画の量産を諦めず、更なるジャンルの物色に乗り出します。
果たして、香港映画の裏街道を走り抜けた男たちが最後に見た物とは…? 次回、地獄のようだったこの特集もいよいよクライマックスです。

恐怖!ニコイチ映画怪進撃(3)『U.S.Catman: Lethal Track』

2017-02-15 21:08:51 | カンフー映画:駄作
U.S.Catman: Lethal Track/Catman in Lethal Track
製作:1990年(1989年説あり)

●前回はキョンシー映画がニコイチの犠牲となりましたが、そもそもキョンシー映画がムーブメントを起こしたのはアジア圏のみの話。ニコイチ映画の主戦力となっているニンジャと比べると、国際的な知名度ではやや劣ります。
それでも数本ほどニコイチ系キョンシー映画(『必殺!ムーンウォーク拳/キョンシーマン』『ギャンブル・キョンシー』等)が作られたのは、当時のブームがそれほどの勢いだったことの証なのかもしれません。
 そんなわけで今回取り上げるのは、打って変わって世界的なヒットを飛ばしたジャンルを扱った作品です。80年代末期、ハリウッドではマイケル・キートンが主演を飾り、実力派のティム・バートンが監督した『バットマン』(1989年版)が大ヒットを記録しました。
続いて『パニッシャー』『キャプテン・アメリカ/帝国の野望』が製作され、アメコミ系ヒーローの映画化が続発。この流れにいち早く目を付けたIFD Films & Artsは、無謀にもニコイチ映画でヒーロー・アクションを作ろうと画策します。

 この『U.S.Catman』は、ヒーローに覚醒したジョナサン・イスガー(『天地黎明』の英国商人役でおなじみ。本作ではジョナサン・ジェームス名義)と、タイを混乱に陥れるゲリラや邪教集団との死闘をダラダラと描いた作品です。
もちろんジョナサンのパートは新撮カットですが、ベースとなったタイのアクション映画が『ニンジャ・コマンドー』に比べて質が低く、ゲリラと対抗勢力による無味乾燥な抗争劇には眠気すら感じました。
 主役となるヒーローも実にお粗末で、その名もずばりCatman! 明らかにゴッサムシティの彼を意識したデザインをしており、黒ずくめの衣装にさんぜんと輝く黄色のシンボルは、どう見てもクロネコヤマトのロゴマークにしか見えません(苦笑
ただし誕生の経緯はいささか異なっていて、怪しげなワゴン車を邪教集団から守ったジョナサンが、輸送されていたネコに引っかかれたことで超能力に覚醒します。…もはやどこから突っ込んでいいのか解りませんね、コレは。
なお、超能力の内訳は電化製品の制御・発火能力・怪力の3つだけで、いずれの能力も最初に発揮した以降は忘れ去られていました。恐らく特殊効果を仕込む手間を省きたかったのでしょうが、どうせなら猫っぽいパワーとか使ってくれよ!(爆

 では、敵のボスはどんなヴィランのパクリなのか気になる所ですが、こちらは邪教集団を率いる神父という月並みなキャラが担当。彼も発火能力を持つものの、最終決戦で使うのは単なる機関銃だったりします(笑
アクションシーンではジョナサンが仲間のケン・グッドマンとともにザコ集団(うち1人が『天地黎明』で元彪と戦ったスティーブ・タータリア)と戦い、最終決戦では中国系の幹部が鋭い蹴りを連発していました。
ジョナサン本人の動きも悪くはなく、あまりにも呆気なく終わる敵ボスとの対決を除けば、アクションの質は無難なレベルにまとまっていたといえるでしょう。
 その他のポイントとしては、邪教集団のアジト(そこら中にガラクタを置いただけの単なる倉庫)や、ラストの儀式(そこら中にゴミを並べただけの原っぱ)など、頭を抱えながら笑える箇所がぼちぼち存在しています。
ただし本作は全体的に酷い出来なので、視聴の際は充分ご注意を。ちなみにIFDは1本で終わらすのは勿体無いと判断したらしく、のちに『U.S.Catman 2』なる続編まで作ったそうです。当方は未見ですが、一体どんな惨状になっているんでしょうか?(汗
さて次回は、またもやIFDが激安アクションに挑戦! B級映画の代名詞にして、数多くのアクションスターも関わったメジャーなジャンルに、ニコイチ映画の毒牙が襲い掛かります!

恐怖!ニコイチ映画怪進撃(2)『ロボ道士/エルム街のキョンシー』

2017-02-10 19:38:20 | カンフー映画:駄作
「ロボ道士/エルム街のキョンシー」
原題:The Vampire is Alive/The Vampire Is Still Alive/Counter Destroyer
製作:1988年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 インチキなニンジャ映画を次々と製作し、何も知らない海外のバイヤーに売り捌いていたIFD Film & artsとフィルマーク社。しかし彼らはニンジャだけでは飽き足らず、流行のジャンルなら何でもニコイチ映画に組み込んでいきました。
その捻じ曲がった情熱がもっとも炸裂している作品が、この『ロボ道士/エルム街のキョンシー』です。タイトルを聞いただけでも頭痛がしそうですが、中身は想像をはるかに超える地獄絵図となっており、ニコイチ映画の深淵を垣間見ることが出来ます。
 物語は、ラストエンペラーを題材にした映画のシナリオを書こうとする脚本家の女性×2が、滞在先の別荘で恐ろしい悪夢を見るというもの。映画会社ではライバル会社の妨害工作と断定し、殺人誘拐上等の一大抗争にまで発展していきます(苦笑
どうやらソラポン・チャトリが刑事役で出演したタイ映画を切り刻み、そこにホラー映画っぽい新撮シーンを挟んだ代物のようですが、フィルマークはそこに様々な映画の要素をブチ込みました。
 邦題になっているキョンシーを始め、夢オチ演出とキャラクターを『エルム街の悪夢』から盗用し、当時『ラストエンペラー』で話題だった中国最後の皇帝の要素を加え、ついでにニンジャやゾンビを追加! この盛りっぷりは『雑家高手』を彷彿とさせます。
そんな努力が功を奏したのか、ご覧のようにストーリーは完全に破綻。粗雑な編集のせいで話は繋がっておらず、作品自体が悪夢と化していました。

 出てくる登場人物はすべて狂っており、仕事をする素振りを見せない脚本家の女性、ライバル会社の人間を次々と暗殺する調査員のジャッキー(役名)、突然ニンジャやロボ道士に変身する会社の同僚、役立たずの道士などなど…挙げるとキリがありません。
特にクレイジーなのが腐霊泥(フレディ)という怪物で、こいつの目的はなんと女性とヤりたいだけ。台詞によるとライバル会社から送り込まれた刺客だったようですが、そんな伏線やシーンは一切無いので訳が解りませんでした。
 ちなみにコイツによって脚本家の女性はいつの間にか孕まされ、腹を突き破るという無駄にグロい方法(たぶん『エイリアン2』を意識した演出)でベビーキョンシーが生まれます。
このベビーキョンシーは溥儀と名乗っていますが、だとすると腐霊泥の正体は清朝皇帝・愛新覚羅載[シ豊]ということになるんでしょうか? 腹を突き破られた脚本家もなぜか普通に生きてるし、もう本当になんなんだよコレ!(爆

 閑話休題…続いてアクションについてですが、元作品にこれといって激しい立ち回りは無し。新撮シーンでは映画会社の社員がニンジャに変身し、キョンシーや謎の大男と他愛もない戦いを展開します。
ラストでは腐霊泥がロボ道士を相手になかなかの蹴りを見せるんですが、実はコイツに扮しているのは元・五毒の1人である孫建(スン・チェン)その人! 彼は冒頭で最初に死ぬ運転手、ニンジャと戦うキョンシーも演じていました。
 前回も少しだけ触れましたが、ショウ・ブラザースに在籍していた孫建は五毒という功夫ユニットを組み、『五毒拳』『残酷復讐拳』といった傑作功夫片に出演。しかしショウブラが映画製作から手を引くと、彼は行き場を無くしてしまったのです。
同じ五毒のうち、郭振鋒(フィリップ・コク)は武術指導家の道を選び、江生(チェン・シェン)と鹿峰(ルー・フェン)は台湾に残留し、羅奔(ロー・マン)は別の会社に渡って生き残りました。
 しかし孫建だけは上手く方向転換が出来なかったらしく、本作のようなニコイチ映画に何度となく顔を出しています。90年代に入ると『[イ布]局』のような普通のアクション映画に出演しますが、程なくして映画界から去っていきました。
ひょっとすると、本作でもっとも悪夢を見ていたのはバイヤーや視聴者ではなく、暗中模索の只中にあった孫健自身だったのかもしれません……。
さて次回は、「鳥だ!飛行機だ!いやニコイチ映画だ!」というわけで(謎)、あのジャンルにIFD Film & artsが挑戦状を叩き付けます!

恐怖!ニコイチ映画怪進撃(1)『ニンジャ・コマンドー/地獄の戦車軍団』

2017-02-04 22:06:23 | カンフー映画:駄作
「ニンジャ・コマンドー/地獄の戦車軍団」
原題:Ninja in the Killing Field/The Ninja Connection
製作:1987年

●80年代初頭、世界の映画マーケットは混沌とした活気に満ち溢れていました。多くの才人が傑出した作品を生み出し、アクション大作やホラー映画が世界中に氾濫。さらには家庭用ビデオの普及に伴い、レンタルビデオ店がそこかしこに建ち並んだのです。
かくして映画はスクリーンの手を離れ、世に言う“ビデオバブル時代”が到来します。この狂気をはらんだムーブメントは、B級スプラッターやニンジャ映画の流行を作り上げるのですが、それを見逃さなかった恐るべきプロダクションが存在しました。

 それが、[登β]格恩(トーマス・タン)と黎幸麟(ジョセフ・ライ)率いる通用影業(AN ASSO ASIA FILM)でした。もともと彼らは韓国産功夫片などの海外配給を手掛けていましたが、ビデオバブルが到来すると便乗作品の製作に着手し始めます。
驚くべきはその製作スタイルで、既存の作品を勝手に使用して新撮シーンを追加。威勢のいい英語タイトルを付け、あたかも新作であるかのように売り叩くという、著作権無法地帯の香港でも類を見ない手法を取っていました。
 やがて彼らは禊を分かち、それぞれIFD Film & artsとフィルマークという別々の会社を設立します。しかし両者の製作スタイルは相変わらずのニコイチ体制で、その犠牲となった作品は数知れません。
そんなわけで今回の特集では、このクレイジー極まりない製作陣が何を模倣し、どんなブームに乗ろうとしたのかを検証してみたいと思います。……まぁ、取り上げる作品は全部ダメダメな映画なんですけどね(爆

 さてニコイチ映画の華といえば、やはり外せないのがニンジャ映画でしょう。アメリカでショー・コスギが忍者に扮して以降、ニンジャ映画は世界的なブームを巻き起こし、その影響は日本や香港にまで波及しました。
この流れに乗って、IFDとフィルマークは粗悪なニンジャ映画を量産し、莫大な利益を得たといわれています。アメリカはもちろん、ビデオバブルによって突発的なニンジャ映画ブームに襲われていた日本もその餌食となりました。
ちなみに江戸木純氏が某書籍で語った所によると、ニコイチ系ニンジャ映画の悪評は日本のビデオ業界に大きな影を落とし、しばらく邦題に「ニンジャ」という語句が使えなくなったそうです(一部のニンジャ映画が無関係な邦題で発売されたのはこのため)。

 この『ニンジャ・コマンドー/地獄の戦車軍団』も典型的なニコイチ系ニンジャ映画のひとつで、タイの俳優であるソラポン・チャトリが主演したアクション映画に、スチュアート・スミス演じるインチキ忍者を捻じ込んだ作品です。
元となった映画は結構な大作のようで、戦闘機や戦車が惜し気もなく登場(冒頭には何故か譚道良(レオン・タン)まで出演!)。さらにはニンジャまで出てくるため、意外と新撮シーンが浮いているようには感じませんでした。
 ストーリーはタイ進出を目論むニンジャ一派と、抜け忍であるソラポンの戦いを描いており、ここに警察や軍隊も介入しての死闘が展開されます。こう書くとなんだか楽しそうに思えますが、演出が無味乾燥なのでまったく盛り上がりません。
アクション的にはソラポンの彼女役による立ち回り、新撮シーンでの派手なカースタントに目を引かれます。注目は終盤の戦車部隊VSニンジャの決戦で、新撮と元作品の映像を巧みに編集した失笑必至のスペクタクルが繰り広げられていました。
ところでこの新撮シーン、なんと雑魚ニンジャ役を江島や五毒の孫建(スン・チェン)が演じています。当時はショウブラザースが映画製作から撤退し、所属した俳優たちは四苦八苦しながら活動していましたが、こんな所で彼らを見る事になるとは…(涙

 潤いのない内容に打ちのめされ、最後の蛙オチで頭を抱えてしまいそうになる本作。しかし裏を返せば、矛盾とアナーキーさがギュッと凝縮されたニコイチ映画の見本……と言える作品なのではないでしょうか(←言えない)。
なんだか本作の紹介だけで腹一杯になった気分ですが、ニコイチ映画の全容解明はまだまだこれから。次回は『ニンジャ・コマンド~』に続いて、再びフィルマークが仕掛けた恐怖の逸品に迫ります!

「酔拳」に挑んだ男たち(4)『三十七計/擒龍三十七計』

2014-03-15 22:48:43 | カンフー映画:駄作
三十七計/擒龍三十七計
英題:The No. 37 Plot/37 Plots of Kung Fu
製作:1979年

▼『酔拳』のヒットによって作られた無数の便乗作たち。その大半は「安く・早く」作ることを重視していましたが、今回紹介するケースは最も安上がりなパターンといえます。
本家本元に主演した成龍(ジャッキー・チェン)は、幼少から中國戯劇学院で京劇を学び、アクロバティックな動作を身に付けました。映画製作者たちは彼のようなアクションを求め、同じ京劇出身の若手俳優を起用したのです。
 特に人気が高かったのがジャッキーと同じ七小福の面々で、有名無名を問わず大勢のメンバーが投入されています。もともと武術指導家として評価を得ていた洪金寶(ハン・キンポー)を筆頭に、元彪・元・孟元文・果ては元武や元菊などが主演を飾りました。
七小福以外の京劇出身者も担ぎ出され、本来なら大部屋俳優の1人にすぎない彼らの主演作が氾濫しました。『龍の忍者』で神打使いを演じた脇役俳優・金龍が本作の主人公に抜擢されたのも、そうした流れが影響しているものと考えられます。

■金龍と許不了(『ドラゴン特攻隊』のB子)のボンクラ兄弟は、あるとき悪漢たちに襲われていた趙中興(『新桃太郎』の武術指導でお馴染み)を助けた。彼を祖母の陳慧樓(チェン・ウェイロー)に託した2人は、今日も今日とて金儲けに精を出していく。
いつもトラブルと隣り合わせの金龍たちだが、危ない時は普段から持ち歩いている「三十六計」の兵法書で凌いでいた。そんな彼らの前に奇妙な老人(張義鵬?)が現れ、なにかとチョッカイを出してくる。めっぽう腕の立つ老人の正体とは…?
 一方、趙中興を狙っていた嘉凱と孫樹培の魔の手が、とうとう2人の元に及ぼうとしていた。敵は老人と金龍たちがドタバタしている間に事を起こし、抵抗した陳慧樓・金龍らの妹・趙中興が犠牲となってしまう。
実は嘉凱たちは形意拳の流派を根絶やしにしようと企んでおり、形意拳派の趙中興は師匠に助けを求めようとしていたのだ。その師匠というのが例の老人で、彼は仇討ちを誓う金龍たちに修行を施すのだった。
しばらくして、そこそこ腕を上げた2人はリベンジを強行。孫樹培を倒すが嘉凱には敵わず、形意拳に見切りをつけて「三十六計」を元にしたオリジナル拳法へと鞍替えした(おい!)。果たして、彼らは仇討ちを遂げることができるのだろうか!?

▲主役を功夫俳優と喜劇俳優のコンビで固め、コメディ描写を増やすことでアクセントを加えた本作ですが、残念ながら面白い作品ではありません。一番の問題が演出面のクドさで、『魔柳拳』と同じく1つのギャグを延々と見せるシーンが多すぎるのです。
アクションも非常に野暮ったく、あの許不了が功夫アクションを見せる!という点は興味を惹かれますが、クドい演出(わざわざ敵の目前で4分以上も演舞を見せるなど)が災いしてユルい仕上がりとなっていました。
 作品の肝となるトンデモ拳法もパンチに欠けており、タイトルの三十七計が何を指すのかすら解らない始末(作中では使用する拳法を三十六計or三十六功とだけ呼称)。恐らく、最後に決めた技を含めて三十七計という事なのでしょうが…う~ん。
ラストバトルはそこそこ楽しいし、後半では趙中興VS程天賜(本作の武術指導も兼任)という興味深い対決もあったりしますが、個人的にはまずまず。同じ金龍が主演した便乗作なら、『辣手小子』の方が面白かったと思います。
さて、こうした若手俳優たちが台頭していく一方で、既存のベテラン俳優たちも『酔拳』便乗作に挑戦を表明していきました。次回はそんな作品の数々から、笑顔と扇子が似合う貴公子の主演作が登場です!

「酔拳」に挑んだ男たち(2)『女カンフー 魔柳拳』

2014-03-06 23:27:27 | カンフー映画:駄作
「女カンフー 魔柳拳」
「酔鶴拳マスター」
「酔拳マスター」
原題:醉侠蘇乞兒
英題:The Story of Drunken Master/Drunken Fist Boxing
製作:1979年

▼前回は『酔拳』公開後に現れたジャッキーのバッタもんと、バッタもんを作り出すことの難しさについて触れました。ジャッキーの偽物を用意するのは手間が掛かりすぎる…そう判断した映画制作者たちは、『酔拳』に出演した俳優たちを続々と起用していきます。
中でも便乗作への出演が目立ったのは、酔いどれ師匠の蘇乞兒に扮した袁小田(ユエン・シャオティオエン)です。彼の元には多くのプロダクションから出演依頼が殺到し、似たような師匠役をひたすら演じることになりました。
特に1979年は袁小田にとって忙しさのピークにあたり、わずか1年の間に12本もの作品に出演しています。本作もそうした中の1本で、他にも山怪(サン・カイ)や石天(ディーン・セキ)といった『酔拳』出演組も参加しているのですが…。

■蘇乞兒こと袁小田は3人の弟子たちと平穏な生活を送っていた。1人は踊り子の楊[目分][目分](パメラ・ヤン)、もう1人は血気盛んな[上下]薩伐(カサノヴァ・ウォン)、あとの1人は飯屋の袁龍駒だ。
あるとき袁小田たちはチンピラの山怪と遭遇するのだが、そのボスである任世官(ヤム・サイクン)は袁小田に並々ならぬ恨みを抱いていた。憎むべき相手の居場所を知った任世官は、張華と手を組んで復讐を開始していく。
やがて両者は対決の時を迎え、ここに最終決戦の幕が切って落とされた。山怪と張華は早々に倒れたが、ラスボスである任世官はさすがに手強い。酒が切れて袁小田が闘えなくなる中、最後に立っていたのは…!?

▲本作には袁小田を始めとした『酔拳』出演組に加え、[上下]薩伐や任世官といった実力派も揃っています。しかし作品自体のテンポが非常に悪たいめ、まったくと言っていいほど盛り上がりに欠けていました。
原因はメリハリのない演出にあり、物語の進行に必要のない無駄なシーンが大量に見受けられます。冒頭で山怪が博打に興じるシーン、楊[目分][目分]と石天のやり取りなどは、もっと短くても差し支えなかったはずです。
 蘇乞兒というキャラクターの扱いも雑で、彼の代名詞であるはずの酔拳はオープニングと終盤にしか出てこないという有様。ラストバトルでやっと袁龍駒が酔拳を見せるものの、任世官を少し翻弄しただけで決定打にすらなっていませんでした。
袁小田の演じる人物像も他の便乗作と代わり映えせず、「とりあえず袁小田に蘇乞兒をやらせておけば売れるだろう」という製作側の考えが透けて見えます。その他の登場人物も魅力的とは言いがたく、全体的なクオリティは低いと言えるでしょう。
 功夫アクションはそれなりに頑張っており、袁小田も吹き替えスタントを極力使わないで奮闘しています。[上下]薩伐も鋭いキックを時折見せているし、楊[目分][目分]の柔軟性に富んだ動きも見事でした。
ただ、この面子なら”それなり”以上の凄いアクションが撮れていたのも確か。ラストバトルにおいてもメリハリのない演出が炸裂し、無駄に長いアクションの果てに面白味のないオチを迎えてしまいます。
 まさに便乗作の悪い面を体言したかのような本作。この手の作品に晩年まで振り回された袁小田ですが、彼にとって『酔拳』のフォロワー作品とは如何なる存在だったのでしょうか…?
さて次回は、袁小田たちと同じ『酔拳』の出演者であり、悪役功夫スターとして名を馳せた”あの男”をフィーチャーしてみたいと思います。

『笑太極』(2004年)

2013-12-27 22:53:57 | カンフー映画:駄作
笑太極
英題:Xiao Tai Ji/Laughing Tai Chi
製作:2004年

▼当ブログでは今年も様々な作品をご紹介してきました。一昨年と去年は最後の更新にジミー先生の主演作をセレクトしましたが、今回は前々回の『新報仇』に引き続いて、またもや某傑作功夫片のリメイク版(らしき作品)を取り上げたいと思います。
タイトルを見てお気付きの方も多いと思いますが、本作は甄子丹(ドニー・イェン)の初主演作である『ドラゴン酔太極拳』(原題:笑太極)と同じタイトルを持つ作品です。
相変わらず本家とは無関係のキャスト&スタッフで占められているものの、製作は『必殺のダブルドラゴン』を手掛けた李超、出演は錢嘉樂(チン・ガーロッ)と周比利(ビリー・チョウ)で、他にも往年の功夫職人たちが名を連ねています。
 …ところが、本作は『神鳳苗翠花』のようなTV映画だったらしく、撮影はビデオ撮りで行われているようです。さらに言うと監督の林文偉は役者が本業で、その仕事は脇役がほとんど。『プロジェクトA2』では新任のジャッキーに最初に殴りかかる警官、『インフラマン』では洗脳された隊員に扮していました。
脇役仕事オンリーの監督が撮ったフィルム撮影ではない作品…う~ん、なんだか猛烈に嫌な予感がしてきたような…(汗

■(※ストーリーは若干推測が入っています)
 錢嘉樂は功夫が大好きな金持ちのボンボン。そんな彼が瀕死の男から謎の宝剣を預かり、事件に巻き込まれるところから物語は幕を開ける。実はこの宝剣、明朝が隠した財宝の手がかりとなる重大なものであった。
盗賊?の周比利は捜索を開始し、錢嘉樂のもとに宝剣があるのではないかと疑念を抱く。一方で錢嘉樂は、たまたま出会った功夫使いの老人・陳少鵬(!)に教えを乞い、叔父である白彪(バイ・ピョウ)の取り成しで弟子入りに成功した。
 実は陳少鵬と白彪は清朝に不満を持つ革命派のメンバーであり、彼らも宝剣を探しているという。肝心の宝剣は錢嘉樂の許婚?が持ち去っており、しばらくしてあっさりと彼の手元に帰ってきた。
ここに陳少鵬の娘を加えて三角関係になりそうな雰囲気…だったのだが、周比利が錢嘉樂と因縁のあるチンピラどもと結託し、強引に宝剣の返還を迫ってきた。陳少鵬は錢嘉樂に太極拳と笑拳を伝授し、修行の総仕上げに取り掛かっていく。
だが、周比利の奇襲によって陳少鵬が犠牲となってしまい、錢嘉樂は合流した白彪から2つの拳法を合体させた笑太極を習うことに。宝剣に財宝の地図が隠されていたと明らかになる中、ついに最後の戦いが始まった!

▲さて、結論から申し上げますと、本作はリメイク版でもなんでもありません(爆)。使用する拳法も、ストーリーの骨子も、キャラクターの配置もまったくの別物。共通しているのは題名とそのフォント、コメディ功夫片というジャンルのみです。
作品自体のクオリティも芳しくなく、とても2004年に作られた物とは思えない出来でした。不要になったキャラを片っ端から殺す展開、登場する修行道具やロケ地のショボさなどは、昔の低予算功夫片を(悪い意味で)彷彿とさせます。
 もしかすると、本作はそういった古臭さをあえて狙ったのかもしれません(『超酔拳』みたいに)。そうすると気になるのは功夫アクションの出来ですが、こちらはビデオ撮りのせいか迫力が感じられず、あまりパッとしない殺陣に仕上がっていました。
タイトルにある笑太極という拳法も、適当に笑い顔を浮かべながら戦うというお粗末な代物であり、『ドラゴン酔太極拳』の流れるような動作とは比べるべくも無いでしょう。
 唯一の見せ場は往年の功夫スターである白彪と、ベテラン武術指導家の陳少鵬というビッグネーム2人の存在です。彼らは劇中で錢嘉樂や周比利と拳を交えており、レア対決マニアには垂涎の顔合わせが実現していました。これでアクションが良ければなぁ…。
リメイク版じゃないのは仕方ないとしても、この出来はさすがに微妙すぎました。どうしても白彪と陳少鵬の姿を確認したい方、ヘナヘナな笑拳を見たい方、無断使用されている『もののけ姫』のBGMを確認したい方のみオススメです。
えっと……それではみなさん、良いお年を!(逃げた)

追憶:香港映画レーベル(03)『霊幻道士6/史上最強のキョンシー登場!!』

2013-11-10 23:51:21 | カンフー映画:駄作
「霊幻道士6/史上最強のキョンシー登場!!」
原題:音樂僵屍/天外天音樂精靈
英題:The Musical Vampire/Musical Corpse
製作:1992年

▼成龍(ジャッキー・チェン)が『ドラゴン・ロード』で古典的な功夫スタイルを辞めて以降、日本で公開される香港映画は(旧作の上映を除けば)現代アクションが主流となっていました。
『少林寺』や『最後の少林寺』のような映画も僅かに公開されていましたが、時代はスタイリッシュな現代アクションを求めたのです。しかし、90年代の古装片ブーム到来によって、功夫片は再び息を吹き返していきます。
『ワンス・アポン・ア・タイム/天地大乱』の登場は、多くの功夫映画ファンを驚かせました。その作風は従来のものとは全く違っていましたが、ワイヤーワークを駆使したアクションはダイナミックさに富み、功夫片の新たなる可能性を示したのです。
 東和ビデオは、こうした作品を「極東ハリウッドシリーズ」としてリリースしました。そのラインナップは豊富で、『ワンチャイ』三部作や『スウォーズマン』、『ツインドラゴン』といったジャッキー映画なども名を連ねています。
かくいう私も、初めてレンタルした香港映画が『天地大乱』だったこともあり、このレーベルには特別な思い入れがあったりします。しかし……。

■ぐうたら道士の馮淬帆(フォン・ツイフェン)は、弟子の李家聲と熊欣欣(チョン・シンシン)を伴ってキョンシーを送り届ける仕事をしていた。その道中、李家聲は移送中のキョンシーを西洋人の科学者に強奪されてしまう。
科学者の実験によって凶暴化したキョンシーは、科学者をはじめ近隣の住民を次々と殺害。対応に乗り出した警察隊長・曹査理はまるで役に立たず、彼は馮淬帆たちを脅してキョンシー退治に差し向けた。
 しかし、実験で強化されたキョンシーには術が効かず、唯一の弱点である「音楽」を使った作戦も空振りに終わった。たまらず逃げ出す馮淬帆一行だが、曹査理に発見されて銃殺刑に処されることに…。
そんな彼らの窮地を救ったのは、くだんのキョンシーを追っていたベテラン道士の林正英(ラム・チェンイン)であった。彼は日食の力を利用し、最後の決戦へと挑んでいく。不死身のキョンシーと道士コンビ、勝つのはどっちだ!?

▲同レーベルは、かつて「香港エンターテイメント」からリリースされた『霊幻道士』系列を引き継ぎ、いくつか続編を発売しています。しかし実際は続編とは名ばかりの無関係な作品が大半を占めており、品質に問題のある物も含まれていました。
『霊幻道士完結篇/最後の霊戦』『霊幻道士5/ベビーキョンシー対空飛ぶドラキュラ!』はゴールデンハーベスト製、『霊幻道士7/ラスト・アクション・キョンシー』は第1作のスタッフによる作品なのでまだマシですが、本作はシリーズ中でも特に劣悪な1本として知られています。
 ストーリーは基本的に行き当たりばったりで、第1作の有名なギャグを臆面もなくパクったり、面白みのないやり取りが延々と続いたりします。主役が林正英ではなく馮淬帆一行なので、『霊幻道士』ファンはさぞガッカリしたことでしょう。
人物設定に関しても、キョンシーを紛失しても素知らぬ顔をしている李家聲、ひたすらイヤミで鬱陶しい曹査理、村人の安全より村のイメージが損なわれることを第一に心配する村長など、悪い点を挙げるとキリがありません。
 アクションも野暮ったく、唐偉成(ウィルソン・タン)の監督作にしては雑な印象を受けます。最終決戦では林正英が関刀を振るい、キョンシー映画らしいギミックも登場するのですが、本作の特色である「音楽で大人しくなるキョンシー」という設定が完全に蔑ろにされていました(爆
このように「極東ハリウッドシリーズ」は、多くの名作を日本語吹替え入りで発売する一方、本作のように駄作を勝手にシリーズ化してファンを驚かせるなど、多種多様なラインナップを展開。良くも悪くもファンの記憶に残るレーベルとなりました。
そんなわけで、今回は比較的有名なレーベルを取り上げましたが、次回は90年代に乱立した大小のレーベルについて触れてみたいと思います。

【春のBOLO-YEUNG祭り③】『文打』

2013-04-15 22:59:30 | カンフー映画:駄作
文打
英題:Writing Kung Fu/Chinese Samson/Hot Dog Kung Fu
製作:1979年

▼(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 時は70年代末期。バッタもん映画への出演が続いていた楊斯(ヤン・スエ)は、思い切ってコメディ映画へ挑戦しようとしていました。キャラクター的にコメディとは縁遠い気がしますが、彼がコメディ作品に少なからず興味を持っていたことは確かです。
当時の楊斯はバッタもん作品に出演しつつも、『迷拳三十六招』や『鶴拳』といったコメディ功夫片に出演。77年にはナンセンス・コメディの『白馬黒七』で監督デビューを果たしています。本作は楊斯が放った2本目の監督作で、ところどころに『酔拳』の影響が見られる作品です。

■舞台はとある寂れた村。教師の張午郎(チャン・ウーロン)はとても気が弱く、功夫道場の連中からはいつも苛められ、町人や生徒からもバカにされる日々を送っていた。道場主の娘・余安安や、生徒の1人である少女とその母親は彼の優しさを知っており、密かに慕っていたのだが…。
ある日、生徒たちの理不尽なストライキによって学校を追われた張午郎は、盲目の功夫使い・江正とその従者に出会った。彼らは恐ろしい殺人鬼に襲われ、ここまで逃げ延びてきたという。実はその殺人鬼こそ、功夫道場に来賓として潜り込んでいた楊斯であった。
 しばらくは息を潜めていた楊斯だが、とうとう張午郎の教え子だった少女を殺害。少女の母親も後を追うかのように自殺した。悲劇はそれだけで終わらず、本性を現した楊斯によって江正とその従者、さらには張午郎をかばった浮浪者の男(実は功夫の達人)までもが殺されてしまう。
死の間際、浮浪者の男は仇討ちを決意した張午郎に功夫の基礎を教えた。そして1人残された張午郎は、教師としての知恵と功夫の技術を組み合わせて「習字拳」を編み出し、功夫道場の関係者を皆殺しにした楊斯を追った。果たして勝つのは張午郎の「習字拳」か?楊斯の「笛拳」か!?

▲正統派のコメディ功夫片にせず、捻ったストーリーにして新鮮味を出そうとした楊斯の狙いはわかりますが、残念ながら大失敗した作品です。拳法や人物設定はコメディ調である一方、物語は陰鬱そのものであり、作品の雰囲気がチグハグになっています。
そもそも、登場する人物が大人から子供に至るまで最低な連中ばかりで、ひたすら苛められる張午郎が可哀想としか思えません。功夫アクションの出来は悪くないのですが、それ以外は壊滅的な本作。個人的には『白馬黒七』の方が良かったかなぁ…。
 さて、粗製濫造の70年代が終りを告げ、80年代に突入した香港映画界は大きな転換期を迎えます。バッタもん映画は激減し、老舗のショウ・ブラザーズが映画製作から撤退。代わって新興のシネマシティが勢力を拡大するなど、次々と変革が起きていました。
楊斯も功夫片から距離を置き、それまでの鬱憤を晴らすかのようにコメディ映画への出演を重ねました。かの洪金寶(サモ・ハン)も彼の心意気を理解したのか、『大福星』『十福星』『上海エクスプレス』『サモ&ケニー 人質に気をつけろ!』で彼を連続して起用しています。
 しかし、これらの作品における楊斯は単なる脇役であり、悪役俳優として活躍していたころを思うと寂しいのも事実。まさに過渡期の中にあった楊斯ですが、思いもよらぬ所から出演依頼の声がかかりました。
それがジャン=クロード・ヴァン・ダムの初主演作『ブラッド・スポーツ』です。香港では往時の勢いをなくした楊斯ですが、欧米での人気はいまだに健在でした。そしてこの作品への出演をきっかけに、彼は不死鳥のごとく復活を遂げるのです!
(次回へ続く!)