功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『白馬黒七/白馬七』

2009-06-28 23:44:35 | カンフー映画:珍作
白馬黒七/白馬七
英題:Bolo The Brute/Fists of Justice/Bolo
製作:1977年(1982年説あり)

●一体誰が望んだか、楊斯(ボロ・ヤン)の監督主演作である。香港映画ではピンからキリまで様々な人がメガホンを振るっているが、もちろんこの楊斯も例外ではない。実は今回が初監督作品なのだが、それでいてコメディ功夫片というジャンルに挑んでいるのが興味深く、『酔拳』で本格的にコメディ功夫片がブームになる前にこの手の作品へ参戦しているのも面白い(キャストに曾志偉(エリック・ツァン)がいるのにも注目)。のちに再びコメディ功夫片に手を出して『文打』なる作品まで作っているところを見ると、楊斯本人はこの手の作品を好んでいたという事なのだろうか。
今回の楊斯は刑務所帰りの風来坊という役で、白彪(パイ・ピョウ)とのダブル主演を飾っている。楊斯&白彪といえば『アムステルダム・コネクション』や『Gメン75』なんかでも一緒に仕事をしているが、それよりも驚くべきは今回の楊斯の面構えだ。というのも、本作の楊斯は梁家仁(レオン・カーヤン)みたいなヒゲヅラメイクなのだ!ヒゲの生えた楊斯というのも相当珍しいが、あの楊斯がヒゲヅラなのだから暑苦しさも半端ではない。もしこれで本作が楊斯の単独主演だったらと考えたら気が遠くなるような…まぁ別にいいか(笑
で、この2人が一体何をしているのかというと、どうやら腐敗した街に喝を入れるためにムショから派遣されてきたらしい。敵は街を牛耳るバカボン杜少明とそのパパで、楊斯たちはたびたび山怪や陳龍(チェン・ロン)や金帝といった刺客に命を狙われる羽目に。本作はここからストーリー性一切無視のギャグパートとなっていくのだが、これがまたしょうもないギャグばかり(苦笑)。途中で何故か楊斯が賞金首にされて白彪に捕まり、代わりに白彪が楊斯の後釜に納まるという描写があるが、このへんの展開もあまりよく解らない。
そんなこんなで敵側に一泡吹かせ、杜少明を倒すが黄蝦(日本人役)が最後の刺客として姿を見せる。中華鍋を頭にかぶり、タバコを口から出し入れするという意味不明な芸を持つ黄蝦(笑)だが妙に強く、楊斯と白彪はどうにか撃破するのだが…と、こんな感じで本作は終始笑いと功夫のオンパレードという様相を呈している。
しかし初監督作でコメディに挑んで自爆したジェームズ・リューのように、本作もまた成功どころか失敗の向こう側に飛び抜けてしまっている。単なる仇討ちに終わらない作品を作ろうとした気概こそ感じるが、当時は酔いどれ師匠やあばら家といったコメディ功夫片のアイコンが無かったこともあって、笑いの方向性は不明瞭。従ってストーリーも実に支離滅裂で評価する価値さえ無いが、決して悪い作品ではない。
出演者は全員脇役や悪役専門の俳優ばかりで占められているが、それによって楊斯VS江島や楊斯VS曾志偉というトンチキな顔合わせが実現し、中盤の楊斯VS空手家トリオ戦では梁小熊(ご存知梁小龍の弟)・岑潜波(お馴染み『片腕カンフー』のムエタイ使い)・廖學明(彼も『Gメン75』出演者)というマニアックな三者と対決。ラストのVS黄蝦戦に至るまで、本作には悪役同士の対戦カードが目白押しなのだ。功夫アクションそのものはやや野暮ったいものの、並みのレア対決に満足できない方なら香港悪役商会の皆様による共演は十分見る価値がある…はず。
それ以外の方は無難にショウブラ作品などの安心して見れる大手の映画を見たほうが、本作を見るより50倍ぐらい有意義な時間を過ごせるかと思います(爆

『中原[金票]局』

2009-06-25 23:43:18 | カンフー映画:傑作
中原[金票]局
英題:The Ming Patriots/Revenge of the Patriots/Dragon Reincarnate
製作:1976年

▼あらゆる意味で功夫映画史に残る貴重な顔合わせが見られる作品だ。まず主演の何宗道(ブルース・ライ)はバッタもん李小龍として有名な人だが、バッタもんである事を嫌った本人はそれまでの芸名だった黎小龍という名を捨て、何宗道と改めた。それでも完全にバッタもんの呪縛から逃れる事が出来なかったものの、いくつかの秀作を残している。本作はそんな彼にとってバッタもんの呪縛から完全に解き放たれて作られた作品の1つで、製作は第一影業が務めている。
その第一影業は『片腕カンフーVS空とぶギロチン』で劉家良(ラウ・カーリョン)と劉家榮(ロー・カーイン)の大物武術指導家を呼び寄せたが、両名は本作の武術指導も担当した。これによってバッタもん李小龍と劉家班という、奇跡の共演が果たされたのだ(ちなみに呂小龍は新人時代をショウブラで過ごしているが、劉家良らとの接点は無い)。
更に本作の価値はこれだけではなく、黄家達(カーター・ウォン)にも注目したい。黄家達はデビュー時期がGHで、その後は郭南宏(ジョセフ・クオ)などといった台湾映画に活路を見い出している。そのため彼もまた劉家班との接触は無く、唯一ショウブラに出演した『カンフー東方見聞録』では劉家輝(ゴードン・リュウ)と闘っているが、この作品で張徹と諍いを起こした劉家良は撮影途中で作品から降りてしまったので、ギリギリのところで劉家良とのコラボは果たせなかった。また、黄家達は『黒殺』で劉家班の小候と共に出演しているが、こちらでも出演パートが違うので惜しくもすれ違っている。
そんな訳で本作は、そんな何宗道・黄家達・劉家班の三者が一堂に会するという、まさに夢の取り合わせが実現した作品なのだ。

■明朝が倒れ、新たに清朝政府が立ち上がった動乱の時代…明朝の残党狩りと機密文書の入手を企む皇帝の張翼(チャン・イー)は、傘下の山茅(サン・マオ)らを率いて各地に検問を張っていた。明の姫を守る黄家達は検問突破のために孤軍奮闘し、姫とその側近を逃がす事には成功するが張翼の鉄指拳に倒れてしまう。逃走を続ける姫は、側近と顔なじみだった何宗道の[金票]局(何宗道の部下に龍方が登場)へと駆け込み、安全な場所まで脱出しようと決死行に挑んだ。
道中、襲ってきた山茅を倒して客棧に立ち寄るが、何宗道と因縁を持つ清朝派の陳惠敏(チャーリー・チャン)と遭遇。更に第2の刺客として龍飛(ロン・フェイ)が現れ、ここで姫の側近が命を落としてしまう。何宗道の妹である嘉凌(ジュディ・リー)を仲間に加えた一行は、姫の所持する宝や秘密文書を一緒に持ち運びするのは危険と判断し、豚肉に隠して川に流して運ぶことに…って、もうちょいマシな運び方は無かったんだろうか(笑
一方で龍飛は陳惠敏と共に進軍を続け、茶店での待ち伏せ作戦で何宗道らは一網打尽にされてしまった。激しい尋問の末に追い詰められる何宗道たちだったが、謎の酔っ払い(演じるはなんと『幽幻道士』の金塗!)の助けを借りて危機を脱出。なおも迫る敵勢に龍方を失うが、憎き陳惠敏を倒してこれに報いた。
しかし遂に張翼が何宗道たちの前に現れ、一転して絶体絶命の窮地に追い込まれる。張翼は何宗道らに決闘を挑んでくるが、流石に相手は手強い。そこに再び金塗が現れ、実は自分は明の残党の仲間だったことを明かし、残党軍による攻勢が始まった。こうして形勢は一気に逆転、改めて何宗道・嘉凌・金塗は張翼と相対し、ここに残党リーダーの喬宏(ロイ・チャオ)も参戦!張翼の強さの秘密だった小瓶(阿片?)を奪い、最後の死闘が幕を開ける!
果たして勝敗の行方は、そして機密文書の中身とは…?

▲この映画は、香港映画でお馴染みの[金票]局を取り扱った作品である。[金票]局とは要するにボディガード業のことで、主に積荷や金品の護衛に当たった役職のことを言う。功夫片では時たま見られる職業であり、詳しくは『超酔拳』『雙辣』等に描かれている。
第一影業といえば『不死身の四天王』『妖怪道士』のような、台湾映画らしい泥臭さの残る作品を多く作っている。だが本作は豊富なエキストラを導入し、ロケーションやスケールはショウブラ映画に匹敵する豪華さを確保。よく台湾映画では敵の皇帝の側近が2~3人だったりするが、この作品では最後まで大勢の兵が動員されており、第一影業がこの映画に並々ならぬ力を入れていた事がよく解る。また、キャスト面でも何宗道・黄家達・嘉凌・龍方・張翼といった賑やかな面子が揃っており、オールスター映画として見ても中々面白い。
功夫アクションはさすが劉家良といった感じのハイクオリティな殺陣で、何宗道は今回もいまいちパッとしない印象ながら(爆)他の作品で見せなかった鋭い技を決めている(やっぱりこの人は武術指導でだいぶ出来が左右されるなぁ)。注目の黄家達は序盤だけのゲスト出演だったが、こちらもこちらで映画の幕開けを盛り上げる熱演を見せた。その他にも異色の金塗VS張翼なんて対決もあったりするなど、功夫アクション・ストーリー共に中々の傑作だ。
前述したとおり何宗道の印象が薄いため、何宗道のベスト作品とは言えないところではあるが、第一影業が製作した作品の中では破格の逸品だったのではないだろうか。

格闘映画総特集(終)『拳 アルティメット・ファイター』

2009-06-21 23:16:24 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「拳 アルティメット・ファイター」
原題:HONOR
製作:2006年

●これまで二ヶ月に渡って続いてきた格闘映画特集も本作でいよいよラスト。今回も再び本物の格闘家を起用した作品で…って、なんだか最近のマーシャルアーツ映画はこんな触れ込みばっかだなぁ。ロレンツォ・ラマスとかジェフ・ウィンコットとか、90年代に活躍していた格闘映画スターたちはどこにいっちゃったんでしょうか?
ジェイソン・バリーは軍を退役し、養父であるロディ・バイパー(!)のもとへ戻ってきていた。警察官だったバイパーは職を退き、現在は小さな飲食店を経営しようとしているようだが、街ではラッセル・ウォンら悪党グループが幅を利かせていた。このラッセルという男、かつてはジェイソンとも旧知の仲だったのだが、今では外道に堕ちて冷酷非常な男となっていた。
レミー・ボンヤスキー、ドン・フライ、西冬彦といったそうそうたる顔ぶれを部下に従え、反抗した船木誠勝の日本料亭をぶち壊したりとやりたい放題の限りを尽くすラッセル。その暴力の矛先はジェイソンとバイパーの元にも及び、遂にはバイパーの店が襲撃されて昔馴染みだった刑事が命を落としてしまう。怒りを爆発させたジェイソンはラッセルの元に向かい、虚しき死闘のゴングが響き渡るのだった…。
まず本作で目を引くのがロディ・バイパーの存在だ。バイパーと言えば千葉真一の『リゾート・トゥ・キル』や、ミスコン版『ダイハード』だった『ハードネス』なんかに出ていた往年の格闘映画スターだ。しかし本作では「これがバイパーか!?」と驚くほどの老けっぷりで、それどころか職場を引退した優しき父親という役柄があまりにもハマっており、かつての面影はほとんど残っていない。これには誰もが残念がるだろうが、その判断は早計至極。なんと本作の大詰めで、今まで寛大だったバイパーがブチ切れて悪党どもをボコボコにしてしまうのだ!さすがに途中でスタミナが切れてしまうが(笑)、それでも最終決戦にまでバイパーは参加し、幹部のドン・フライと対決するのである。私はまさか老齢のバイパーが格闘アクションまでやってのけるとは思っていなかったので、この展開には大きな衝撃を受けました。
ちなみに本作はジャケ裏の解説で「また裏社会の格闘大会か」と思ってレンタルした作品だが、どちらかというとオリビエ・グラナーの『エンジェル・タウン』に近い感じ。バイパーたちとジェイソンのやり取りも少々冗長であり、それほど大した作品ではなかった。だが一方で格闘シーンは出来が良く、ちゃんとレミー・ボンヤスキーやラッセルらも動けているように撮れている点は中々よさげ。ちょっと編集で見づらい部分もあるが、ここまで紹介してきた最新の格闘映画では最もいいファイトだった事は確実だ。ただ1つだけ言わせてもらえるなら、ラストバトルの乱戦は一組ずつじっくり見せるタイプでやって欲しかったなぁ…とは思いますが(笑

という事で、今回の特集では90年代の秀作群と2000年代の新たなマーシャルアーツ映画を甲乙織り交ぜて紹介してみました。これら2つの世代の作品を見渡してみて解ったのは、現在のマーシャルアーツ映画界に大きな人材がいない…という事です。この点は香港映画や邦画も抱える問題で、類稀なる実力を持つ人間が徐々に業界から消えていくのは万国共通の悩み。この問題は今回紹介した作品群を比較するとよく解りますが、最近の作品になるにつれて特色の薄い作品になっていく様子が見て取れます。
最近は映画技術が発達し、アクション超人たちの登場も話題になっていますが、本当に格闘映画はこのままでいいのだろうか?格闘家ぐらいしか動ける人材がいなくなってしまうのではないのだろうか?…その答えは、これからも作られていくであろう数多のマーシャルアーツ映画たちの中にあるはず。今後格闘映画がどのような変化を見せるのかは、拳と拳で闘う男たちが作り上げていく事でしょう(またも逃げ気味の結論で、この項は〆…苦笑)。

格闘映画総特集(10)『リアル・ファイト ~最強の鉄拳伝説~』

2009-06-18 21:50:41 | マーシャルアーツ映画:下
「リアル・ファイト ~最強の鉄拳伝説~」
原題:CONFESSIONS OF A PIT FIGHTER
製作:2005年

●またも本物の格闘家を起用した格闘映画だが、今回はちょっとだけ安心できる要素がある。この作品の監督は、あのアート・カマチョなのだ。カマチョといえば無数の作品でスタント・コーディネーターとして活躍している人で、この度の特集でも彼の仕事のひとつである『テロリスト・ウェポン』を取り上げたばかりである。本作以外にも幾つか監督作があるということで、とりあえず変に身構えず見ていたのだが…。
結論から言うと、この映画は『ザ・スコーピオン キング・オブ・リングス』と『パウンド』の相の子だ。要するに殺人を犯して服役した主人公が、弟を闇の闘技場で殺されて敵討ちのために単身乗り込むという話である。
何というワンパターン……もとい、お約束なストーリーだろうか。この時点で見る気がかなり削がれたが、それはまだ序章に過ぎなかった。なんと本作は上記のようなストーリーラインをなぞっておきながら、またもや色恋沙汰へ走る展開に陥ってしまうのだ。香港映画だと物語の中に挟まれる色恋沙汰はノリと勢いで押し切ってしまうから、特にこれといって気にならない。問題なのはマーシャルアーツ映画での恋愛模様で、作品によっては壊滅的につまらない物も存在している。もちろん本作はその壊滅的につまらない部類に入るもので、主人公のヘクター・エチャバリアと恋仲になったヒロインが最終的に彼を裏切るというとんでもないオチが付くのだ。
否、これはそのヒロインに限った話ではない。どうやらカマチョは終盤でドラマ作りが面倒臭くなったらしく、クライマックスでヒロインや死んだ弟の妻などといった各キャラの結末を、なんとも投げやりな終わらせ方で締めている。これが取るに足らないサブキャラとかならまだ良いが、肝心のボスまであんなテキトーな死に様では…アルバート・ピュンの域には達していないが、この辺りのカマチョ演出には誰しも首を捻らざるを得ないはずだ。
恐らくカマチョは、「ドラマを充実させて他とは違う格闘映画を目指そう」と思っていたのだろう。個々のキャラクターに自らの内面を語らせたりするなど、頑張って重厚なドラマを作ろうと試みた痕跡がそこかしこに見て取れる。だが格闘映画は最強の仇敵との戦いがメインイベントでなければならないのに、何故かラスボスのクイントン・ランペイジ・ジャクソンだけキャラの掘り下げが行われておらず、その扱いもまるで重要視されていない。
一方で格闘シーンは監督自身が殺陣師ということもあってか、平均的なボリュームは維持している。しかし動きのバリエーションが少なく、余計な画面効果とバストアップばかりのカメラアングルが酷いため、語るべき点は何も無し。あっさり裏切るヒロイン・あっさり死ぬボス・あっさり目の扱いを受ける仇敵の三点セットに加え、乾いたラブストーリーと10分で飽きが来る格闘シーンが見たい人は、ぜひ本作をオススメ致します(萎

格闘映画総特集(9)『パウンド』

2009-06-15 22:05:59 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「パウンド」
原題:STREET WARRIOR
製作:2008年

●かつて軍人として活動していたマックス・マーティーニは、上官をシバいた罪で除隊処分にされて故郷に戻ってきた。顔なじみのヴァレリー・クルスとの挨拶もそこそこに弟夫婦の元へと向かったマックスだが、そこで弟がボロボロの昏睡状態になっていることを知り、愕然とする。弟の妻が言うには、大金を稼ぐために非合法の闘技場へ出場した末にこうなってしまったと言う。さっそくマックスは調査を開始し、ニック・チンランドが支配する格闘イベントへと単身乗り込んだ。
そこではマックスを含めて8人の闘士がおり、トーナメントで優勝の座を巡って激しい戦いが繰り広げられるのだった。このトーナメントで優勝した者には、高額の賞金と不敗の王者シドニー・J・リューフォ…というかハート様(どう見ても『北斗の拳』のハート様にしか見えません・笑)への挑戦権が手に入る。このハート様が弟に重傷を負わせた宿敵で、加えて弟の妻が人質に取られたため、嫌がおうにもマックスは闘いに勝たなければならなくなってしまう。数々の死闘を越え、いよいよ最後のハート様と闘うマックスだったが、そこには意外な結末が待ち受けていた…。

今回も新作の裏社会闘技場モノだが、こちらは『ザ・スコーピオン~』に比べて随分と普通な作品だ。「俺には家族が居るんだよ…」と話したファイターが次の試合で即退場したりと、ストーリー展開等についてはいつもの如しといった感じで、特に拾い所はない。ただ、前回の『ザ・スコーピオン~』は恋愛ドラマと格闘アクションのバランスが崩れていたのに対し、こちらは恋愛も格闘もきちんと振り分けられており、ストーリーのテンポも良かったので最後までサラッと見ることが出来ました。個人的には、本作と『ザ・スコーピオン~』とどっちを見るか聞かれたら、迷わず本作を選ぶかと思います。
一方の格闘アクションは安定した作りで、各個のキャラクターとファイトスタイルもきちんと描き分けられているし、キャラ的にもいい奴が多かったので好印象。ラスボスのハート様がメタボ体型で凄まじく嫌な予感がしたが、ちゃんと動けているように撮れていたのでこちらも合格だ。ファイト・プロデューサーはあの『NO RULES/ノー・ルール』と同じ人だが、本作では道具や武器で程よくアクセントを効かせているため、無個性で終わった『NO RULES』から進歩している様子が伺える。こちらも『NO RULES』と本作のどちらを見るかと言われれば、本作に挙手したいところである。

ただ、本作で気に食わなかったのはラストバトルに至るまでの展開だ。マーシャルアーツ映画は最後の戦いでいかにスカッとした気分を味わえるかで、視聴後の感想もだいぶ違ってくる。もちろん重いラストであっても面白ければそれでいいのだが、本作では少々こじれた点が見られた。
上記の粗筋を見た人は、最後にマックスとハート様が壮絶な戦いを繰り広げ、ニックはムショにぶち込まれるだろうと予想するはず。ところが中盤で弟が意識を取り戻してしまうので、弟の仇討ちというマックスの目的が揺らいでしまう。そのため「ハート様は実は悪くない奴だった」というフォローがされているが、そのためにマックスVSハート様のバトルはあっという間に終わってしまうのだ(しかもマックスはハート様を説得しようとしていたため、完全に無抵抗なまま)…あれだけ最強の敵として煽っておいたのに、この仕打ちは無いよ!(涙
その後、マックスの説得によって改心したハート様はニックに詰め寄るが、武術の達人だったニックによってハート様はあっさり死亡。なんと、真のラストバトルはマックスVSニックという顔合わせだったのだ。確かにニックが強い事は劇中でチラッと触れられているが、最後の敵として立ちはだかるにはキャラが弱いんじゃないか?ここでの日本刀VSトンファーというウェポンバトルはそれなりに見られたが、どうもこのへんの展開が私は釈然と出来ません。『ザ・スコーピオン~』もそうだったけど、どうしてみんなゴチャゴチャした結末にしちゃうんだろうかなぁ…?

格闘映画総特集(8)『ザ・スコーピオン キング・オブ・リングス』

2009-06-12 23:37:08 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ザ・スコーピオン キング・オブ・リングス」
原題:SCORPION
製作:2007年

●今回は特集という事で、普段はあまり紹介する機会のない新作もいくつか取り上げてみよう。本作はK1ファイターのジェロム・レ・バンナが出演している事がウリになっている作品だ。しかしこの手の「本物の格闘家が出演!」という売り文句は、マーシャルアーツ映画ではあまり信用できないキャッチコピーの代表格として有名だ。
確かに格闘家は身体能力が高く、またネームバリューも無名のスタントマンよりは遥かに大きい。だが映画の格闘シーンというものは乱暴な言い方をすると「技斗」であり、現実の格闘技とは全く異なることを忘れてはならない。また、「本物」をウリにする場合は格闘家の起用によって生まれるリアリティも狙いなのだろうが、リアリティと素晴らしい格闘アクションの間には、容易にイコールを書けないのが現実である(特にその点が最も顕著なのはドン・"ザ・ドラゴン"・ウィルソンだろう。キックボクシングのチャンプとして毎回「本物」をウリにしているが、ドン作品の出来は皆さんもご存じの通り)。
もし本物の格闘家を起用するのなら、まず必要なのは格闘家を強く見せられる演出力である。いくら生きのいい素材があっても、料理人の腕が未熟ならたちまちクズ料理になってしまうものなのだが、マーシャルアーツ映画では中々これが上手くいっていない。特にプロレス上がりの役者などを使った場合、よくパワー重視の木偶の坊スタイルに陥ってしまう事が多く、これが「本物」の価値観を失墜させる一因になっているのだが…。

そんなわけで、私は本作を見る前はかなり不安だったのだ。フランス映画ということで知っている役者は皆無だし、「本物」の投入と暗い感じのパッケージも不安を煽る材料となった。
ストーリーはよくある裏社会の闘技場モノで、ケンカで人を殺してしまった元格闘家のクロヴィス・コルニアックが、麻薬組織の口利きで非合法の闘いに立ち向かうという話だ。クロヴィスはそこで娼婦のカロル・ロシェーヌと出会って恋に落ちるのだが、本作は格闘シーンよりもこの恋愛模様の方に尺を割いている。こっちとしては思春期の中学生みたいな態度でアプローチするクロヴィスとかどうでもいいのだが(苦笑)、余計なサブプロットが作品の進行具合を阻んでいるのはどうにかして欲しかったところだ(特に潜入捜査官の部分が余計で、あのオチはいくらなんでも酷い)。
肝心の格闘シーンだが、こちらはK1みたいな総合格闘技タッチで綴られており、寝技や組み技が多用されている。これはこれで力強い感じが出ているが、印象としてはちょっと地味。主人公はタイ式キックボクシングの選手だったという設定があるが、蹴り技はあまり使用しないので派手さも控えめだ。さて問題のジェロム・レ・バンナだが、彼は表の世界の格闘家としてクロヴィスに立ちはだかる最後の強敵として登場。ただし彼自身は悪役ではなく、腕を折られても試合を続行したり、カロルの窮地を知って試合を抜けようとするクロヴィスを見送るなど、少ないカットでフェアなファイターぶりを見せている。
格闘アクションはさすがにクライマックスという事で見せてくれるし、クロヴィスとジェロムが見せる一進一退のバトルはそれなりに面白く、本作における「本物」は面目躍如の役割を果たしていたといってもいい筈だ。しかしこのラストバトルはカロルの危機を知ったクロヴィスが途中で試合を放棄してしまい、かなり中途半端な形で中断(!)。カロルがいる売春組織のボスのところへクロヴィスが向かい、グダグダな形で事件は決着してしまう。
この売春組織ボスのところに強敵がいたらまだマシだったかもしれませんが、特に何も起こらないまま終わってしまうのはどうにも…っていうか、最後の対決なんだから、ちゃんと決着つけてから終わってくれよ!(爆

格闘映画総特集(7)『サンダー・ウォリアーズ』

2009-06-09 20:54:35 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「サンダー・ウォリアーズ」
原題:Kill and Kill Again
製作:1981年(77年?)

▼今回特集で取り上げる作品の中で最も古いタイトルである本作は、珍しく空手をメインに据えて製作された映画だ。マーシャルアーツ映画に出てくる武術は基本的に見栄えが重視されており、キックボクシングやテコンドー系の足技中心の殺陣か、シンプルな拳闘スタイルが多い。そんな中で合気道を取り入れたセガール映画や、カポエイラを使った『オンリー・ザ・ストロング』などの作品が微々たるも存在し、現在では柔術アクションの『レッド・ベルト』なんて物まで作られている。

■ジェームス・ライアンは空手の達人で凄腕の諜報員だが、そんな彼の元に謎の美女アンライン・キリエルが現れる。
彼女が言うには、洗脳薬を作り出してしまった発明家の父が誘拐されたため、助け出して欲しいという。敵は自らを「古代の神」と名乗り、洗脳薬を利用して一個師団を作り上げたマイケル・メイヤーだ。支配された街アイアンビルに本拠を構えるマイケルの下には多くの兵士と用心棒が控えている。そこでライアンは空手家のスタン・シュミット、元プロレスラーのケン・ガンプ、軽業のノーマン・ロビンソン、口八丁のビル・フリンら仲間を集結。キリエルも同行して敵地への潜入作戦が始まるのだった…こちらの情報が敵に筒抜けであることも知らずに。
敵地に向かう道中でジェームスたちは幾度も刺客に襲われるが、次々と突破して目的地のアイアンビルに到着する。このまま作戦は順調に進行するかと思われが、中心部に辿り着いたところで敵に正体がバレてしまう。捕まった一行のうち、ジェームスだけはマイケルに各施設を案内され、そこで発明家の博士と接触。密かに洗脳薬の解毒剤を入手して事態の打開を図る中、憎きマイケルはジェームスたちを闘技場で始末せんと企む。幾重にも交錯する思惑の中、最後の闘いが幕を開くが…。

▲モノとしては『特攻野郎Aチーム』が『燃えよドラゴン』する話であり、古い作品なので演出もそうこなれてはいない。格闘シーンは少々型にはまりすぎてぎこちない面も見られるが、殺陣自体はコテコテの空手アクション風味。所々で炸裂するシャープな蹴りは一見の価値アリで、程よくアクロバティックな動作も加味されているので、それなりに見られるファイトに仕上がっていた。特にファイト・コーディネーターとしても名を連ねるスタンとノーマンの両氏は別格で、ジェームスと共に作品の底上げに貢献している。そこかしこに李小龍の影響が見られるのはご愛嬌だが、これはこれで面白いといえよう。
個人的には『キックボクサー5』でしかジェームスの格闘シーンを確認出来てなかったので、本作でジェームスのアクションシーンが見られただけでも満足でした。なお本作には『殺るか!殺られるか!!』なる前作が存在するのだが…お察しの通り、この作品も未だ発見に至っていません(爆)。前に本作が置いてあるショップで一緒にレンタルされていたのを確認しましたが、そのショップは現在ビデオを取っ払ってDVDオンリーの店になってしまいました。レンタルショップで中古ビデオが捌かれているのは悪くないが、もうちょっとビデオソフトも残して欲しいんだけどなぁ…マーシャルアーツ映画では特にその点が重要なので、ちゃんとして欲しいところであります。

格闘映画総特集(6)『オンリー・ザ・ストロング』

2009-06-06 23:37:29 | マーシャルアーツ映画:上
「オンリー・ザ・ストロング」
原題:Only The Strong/Street Fighters
中文題:王牌至尊
製作:1993年

▼ビリー・ブランクス、ドン・"ザ・ドラゴン"・ウィルソンと来れば、やはりマーク・ダカスコス作品も紹介しなければならないだろう。という事で、今回は久々の(このフレーズ今回多いなぁ・笑)ダカスコス主演作である。
今更紹介するまでも無いが、マーク・ダカスコスは中国拳法やハプキドーを習得した本格派で、その精鋭なマスクと卓越した技量で幾つもの映画に足跡を残している。ここ最近はあまり格闘系の作品に顔を出しておらず、格闘アクションを期待しているファンには残念がられているが、本作はそんなダカスコスによる記念すべき最初の主演作だ。初主演ということだけあって、この作品におけるダカスコスの気合には並々ならぬものが感じられ、同時に傑出した作品となっている。

■ダカスコスは南米に駐屯していた軍人だったが、退役して生まれ故郷のマイアミに戻っていた。そこで昔の恩師に再会したが、ダカスコスの母校は『ショウダウン』よろしく荒れまくった学校になっていた。その際に不良のケンカをブラジル武術のカポエラを駆使して止めたが、これがきっかけでダカスコスはカポエラ講師としてスカウトされる事となる。教え子は学校でも札付きのワルばかりだったが、ダカスコスの教えによって少しずつ打ち解け始めていくのだった。
順調に進んでいくカポエラ課外授業。不良たちの公正に伴って「カポエラを全市で教えよう」という案が校内で持ち上がり、ダカスコスも合宿で生徒たちと親睦を深めていた。しかし教え子であるリチャード・コッカの従兄、パコ・クリスチャン・プリートが乗り出してきた事により、事態は思わぬ方向に進んでしまう。パコはギャングを従えるボスで、奇遇にもダカスコスと同じカポエラ使いだったのだ。邪魔なダカスコスを潰そうとするパコは、ダカスコスの同僚であるステイシー・トラヴィスや学校を襲撃し、遂には放火で生徒数名が命を落としてしまった。事件の原因として学校を追放されたダカスコスは、宿敵パコを一網打尽にせんと孤独な戦いを始めるのだが…。

▲マーシャルアーツ映画ミーツ学園モノと言えば、先程も名を挙げた『ショウダウン』が記憶に新しいところだが、あちらは「いじめられっ子の成長」をテーマにしていたのに対し、本作は「不良たちの公正」という正反対のテーマを描いている。
どちらも秀作である事に変わりは無いが、格闘アクションについては本作のほうに軍配が上がりそうだ。なにしろこの映画はカポエラという異色な格闘技を扱った点で惹かれるし、難易度の高いアクロバティックなアクションを演じきったダカスコスの技量も賞賛されるべき出来だ。もちろんドラマ部分が成功している事も大きく、不良たちとダカスコスが成長していく様子なども実に面白い。ダカスコスの出演作では、完成度についてはナンバー1と言ってもいいだろう(ちなみに格闘アクションにおけるナンバー1は『破壊王』)。
ところで『ショウダウン』もそうだったが、意外とマーシャルアーツ映画は学園モノと相性がいいのだろうか?実は日本にこの手の作品は豊富にあり、『ろくでなしBLUES』『新宿純愛物語』『男組』などの学園アクションが存在している。現在でも『クローズZERO』『ワルボロ』などがこの系譜を脈々と受け継いでいるが、マーシャルアーツ映画にもこういう学園バトルな作品はあるのか否か…ちょびっと気になるところである(あちらの国には「番長」なんて概念はあるのかな?)。

更新履歴(2009/5月)

2009-06-03 21:21:20 | Weblog
5月の更新履歴です。今回は上半期が功夫片オンリーで、下半期がマーシャルアーツ映画の真っ二つになるという、ちょっと珍しいレビュー模様となりました。6月はマーシャルアーツ映画特集の後半戦をお送りする予定で、あまり取り上げなかった最新の格闘映画を続々紹介していきます。その他にもダカスコスの例の作品やジェームス・ライアンのアレ等も準備していますので、先ずはご期待下さい!

05/03 更新履歴(2009/4月)
05/07 『下南洋』
05/10 『黒殺/殺』
05/13 『小師傅與大殺星』
05/16 祝・ブログ2周年!&新特集スタート!
05/19 格闘映画総特集(1)『アンダー・カバー』
05/22 格闘映画総特集(2)『ショウダウン』
05/25 格闘映画総特集(3)『キング・オブ・キックボクサー3』
05/28 格闘映画総特集(4)『テロリスト・ウエポン/悪魔の最終兵器』
05/31 格闘映画総特集(5)『サイレント・アサシン』