功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

メジャー大作を振り返る:日米編(終)『刑事物語』

2016-05-31 15:33:01 | 日本映画とVシネマ
「刑事物語」
製作:1982年

▼日本における格闘アクションといえば、数多くの代表格が存在します。ソニー千葉の空手映画、『ビーバップハイスクール』を筆頭とした不良アクション、武術を真正面から描いた西冬彦作品などなど…。
どれもケレン味あふれる作品ばかりですが、本作はそうした派手さ・華やかさとは無縁でありながら、これらのメジャータイトルと肩を並べるまでに至った異色のアクション映画です。
 まず主演が武田鉄矢で、中国拳法を駆使する刑事役という点。これだけでも異色に思えますが、本作はそこに悲劇的なヒロインの物語やトルコ嬢の悲哀など、様々な要素を大量に盛り込んでいます。
しかし本作はこうした要素のメガ盛りを破綻させることなく、最後まで簡潔に描き切っているのです。アクションスターではない俳優による格闘映画は数あれど、ここまでストーリー・アクションともに抜かり無し!という作品はそうそうありません。

■福岡県警の刑事だった武田は、静岡県の沼津署に転属となる。直前のトルコ風呂摘発で知り合った聾唖の美女・有賀久代を連れた彼は、そこでトルコ嬢の連続殺人事件の捜査に加わる事となった。
なかなか有力な情報が得られない中、銀行襲撃事件で人質となった女性から事件絡みの証言が得られ、昔馴染みの元侠客・花沢徳衛から重要なタレコミが飛び込んできた。
 曰く、この事件はヤクザと無関係な組織による仕業で、女たちをシャブ漬けにして売春させている連中の存在が浮上する。しかし有賀との気持ちがすれ違い始めていた武田は、トルコ風呂のガサ入れで必要以上に暴れてしまう。
その結果、偶発的とはいえ死人が出てしまい、警察はマスメディアから非難を浴びることに…。ところが何者かに武田が襲撃された事で、有賀が組織に狙われている事が判明する。
武田は敵の尻尾を掴むべく、仲間の刑事とともに彼女の周囲を張り込む。やがて組織の正体が白美社というクリーニング店だと判明し、2人は誘拐された有賀を追って敵陣に乗り込んだ!

▲最初の方で結論を書いてしまいましたが、本作は心に沁みるストーリーを構築し、なおかつ鮮烈なアクション描写に目を見張る快作に仕上がっていました。
まず始めは邦画らしい落ち着いた雰囲気で始まり、昭和の香りを感じさせる情景に心地良さを感じつつも、私は「これって本当に格闘映画?」と不安に思い始めてしまいました(苦笑
 しかし銀行襲撃犯を撃退する衝撃的なシーン(相手に的を与えて逆に行動を制限させるという策に仰天!)から雰囲気が一変し、武田と有賀の関係からも目が離せなくなっていきます。
その後も何度となく武田の激しいアクションが繰り広げられ、二段構えのサプライズ(予告編がネタバレ気味なので注意)と切ない結末、余韻を後押しする吉田拓郎の主題歌にはとても感動しました。
 重要な伏線や小道具の出し方も実に自然で、刑事アクションにありがちな“陥れられて孤軍奮闘”や、“上層部や官僚に対する批判”といった展開に舵を切らず、作品の身の丈にあったストーリーづくりに徹している点も好印象です。
組織はどうやって有賀と接点を持ったのか、田中邦衛に関する描写がやや物足りない等の不満点もありますが、全体的には上々の出来。ただ、言うなれば本作は武田鉄矢の俺様映画じみた面があり、このへんは好みが分かれるところと思われます。

 さてアクション描写についてですが、武田の動作はさすがに本職のアクションスターには敵わないものの、撮影に際して蟷螂拳の修行をしたという彼の動きは力強く、叩き込まれる打撃は真に迫るものがありました(武術指導は松田隆智!)。
先述したVS襲撃犯の他にも、トルコ風呂での大乱闘では李小龍チックな緩急を付けながらザコを一蹴! ラストバトルはボルテージが最高潮に達し、鉄パイプの掴み合いで膠着→足で踏んづけて落とすという対処法など、実戦的なテクニックが随所で炸裂します。
そして語り草となっているハンガーヌンチャクもインパクト抜群で、流れるようにハンガーを操る武田の勇姿は日本のアクション映画史に残る名シーンと言えるでしょう。
 そんなわけで、2ヶ月ほど続いた「メジャー大作を振り返る」もこれにて終了。やはりメジャーな作品には名声に見合っただけの特色や長所が存在し、名作と呼ばれるだけのクオリティがある事を再認識させられました。
当ブログは今後もマイナー指向で作品紹介をしていくつもりですが、時にはメジャーだからといって敬遠することなく、様々な作品に出会いたいと改めて思った次第です。それでは、今回はこの辺で………。(特集、終わり)

メジャー大作を振り返る:日米編(3)『魔界転生(1981年版)』

2016-05-22 23:01:55 | 千葉真一とJAC
「魔界転生」
英題:Samurai Resurrection
製作:1981年

▼日本における格闘アクション映画の第一人者にして、今もなお精力的な活動を続ける千葉真一。そんな彼が設立したJAC(ジャパン・アクション・クラブ)にとって、80年代は全盛期といえる時代でした。
『戦国自衛隊』でスタント表現を極めていた千葉とJACは、新進気鋭のニューフェイス・真田広之の主演作を連発。その路線は『里見八犬伝』で最高潮を迎え、TVでは特撮ヒーローや『影の軍団』シリーズが人気を博します。
多くのスターを擁した彼らは、やがてJACアクションの集大成となる『将軍家光の乱心 激突』を手掛けますが、本作はアクション推しの作品とは一線を画す内容に仕上がっているのです。

■島原の乱で大勢のキリシタンとともに処刑された天草四郎時貞(沢田研二)が蘇った。彼は神を見限り、魔界の力を借り受けることで秘術・魔界転生を会得。この世に未練を残して死んだ者たちを復活させ、徳川幕府への復讐を目論んだ。
手始めに彼は、細川ガラシャ(佳那優子)を徳川家綱の元に送り込み、彼を骨抜きにして政権を揺るがせる。さらに作物に呪いをかけて民衆を惑わし、幕府に反旗を翻すよう仕向けていった。
 一方、沢田ら魔界衆の動きを察知した千葉であったが、父・柳生但馬守(若山富三郎)までもが敵に回ってしまう。千葉は刀鍛冶の丹波哲郎に依頼し、化物退治の妖刀を製造。彼や魔界に魅入られた真田の死を乗り越え、遂に全面対決の時を迎える。
剣豪・宮本武蔵(緒方拳)を下した千葉は、燃え盛る江戸城で最後の決戦を挑んだ。果たして勝敗の行方は、そして沢田との決着は…!?

▲長編小説の映画化だけあって、本作はキャラクターを切り詰めてストーリーの再構成を敢行。そのせいか冷静に見てみると、真田が活躍するパートは本筋から浮いているし、ラストも投げっぱなしなオチとなっていました。
とはいえ、深作欣二監督による演出は一切の妥協がなく、山田風太郎の世界観を圧倒的な暴力と迫力で表現しています。特筆すべきは出演者たちの見せる存在感で、誰も彼もが独特の妖気を漂わせているのです。
 妖艶さすら感じさせる沢田、野性味あふれる千葉、淫靡さと狂気を兼ね備えた佳那、もはや怪物としか言えない緒方などなど…。中でも柳生但馬守を熱演した若山富三郎は、影の主人公と呼んでも差し支えありません。
物語前半で転生した彼は、これを境に人間らしい仕草をしなくなり、化け物じみた挙動で千葉に迫ります。その立ち振る舞い、アクションでの動作などは完全に人間のそれではなく、本当に魔界転生したんじゃないかと思うほどのものでした(爆
クライマックスの江戸城決戦では、『子連れ狼』でも見せた抜群の運動神経を生かし、年老いた外見からは想像もつかないほど軽快な殺陣を披露。最後のVS千葉では、2人のやり取りや劇的な決着など、インパクト抜群の名勝負となっています。
 この他、方々で見せる真田の華麗な立ち回りや、緊張感に富んだ千葉VS緒方など、アクションの見せ場も少なくない本作。しかし役者たちによる“存在感の激突”が凄まじく、邦画史に残るアクション大作であることは明々白々と言えるでしょう。
さて、二か月に渡ってお送りした「メジャー大作を振り返る」も次回でいよいよ最終回。最後はド派手な作品で――と思いましたが、ここは敢えて蟷螂拳を駆使する刑事アクションをレビューしてみる予定です!

メジャー大作を振り返る:日米編(2)『ベスト・キッド(1984年版)』

2016-05-13 22:49:22 | マーシャルアーツ映画:上
「ベスト・キッド」
原題:THE KARATE KID/THE MOMENT OF TRUTH
製作:1984年

●今月は先月に続いて名作・話題作を中心に紹介していますが、その中で最も有名かつメジャーなのは本作といっても過言ではないでしょう。
この作品は『ロッキー』を手掛けたジョン・G・アヴィルドセンが監督し、当時のアカデミー賞にもノミネートされたスポ根映画の金字塔です。格闘映画としては異例の大ヒットを記録し、多くの人々に感動をもたらしました。
 ストーリーは非常にシンプルで、ひ弱な青年のラルフ・マッチオノリユキ・パット・モリタと出会い、彼に弟子入りして空手大会で優勝するまでを描いています。
こうして粗筋だけを書くと単純すぎるように見えますが、本作は細やかな描写を積み重ねることによってキャラクターに深みを持たせ、作品に奥行きを持たせているのです。
 特にラルフとノリユキの関係は印象的で、友情を結んだ2人が師弟となり、やがて擬似的な親子のようになっていくシークエンスは味わい深いものとなっていました(この点はフォロワー作品でも真似された例がほぼ無く、いかに模倣しづらいかが解ります)。
また、この手の作品では師匠=超人然とした存在として描かれがちですが、本作のノリユキは神秘性と親しみやすさの両立に成功。さらには人間的な弱さを併せ持ち、感情移入のしやすいキャラクターに仕上がっています。

 そして本作最大の長所は、あくまで空手を戦いの手段ではなく「精神鍛練と自衛の為」として扱っている点です。これは武術の本質であり、戦わないと始まらない格闘映画では扱いにくいテーマでした。
香港映画においても、『英雄少林拳』『SPIRIT』等で題材になってはいますが、持て余してしまうケースも少なくありません。それに対し、本作ではノリユキがそうした観念を丁寧に説き、その教えをラルフは最後まで貫くのです。
 修行の内容も専守防衛の色が強く、すべてが守りの型の練習になっているのがミソ(唯一の例外は鶴の舞のみ)。それでいて視聴者に堅苦しい印象を与えず、ワックスがけやペンキ塗りといった明快な動作で描き切っている点は、本当に素晴らしいと思います。
難点を挙げるとすれば、後半の空手大会で守りの型がそれほどフィーチャーされず、修行シーンで登場しなかった攻めの型をラルフが普通に使っている事でしょうか(アクション指導は審判役でも出演している空手家のパット・ジョンソン)。
 アクションにおける見栄えにおいても、ラルフより攻撃的なコブラ会の面々のほうが完全に勝っていて、あまり主人公が強く見えないという問題もあります。まぁ、ここまでの展開を考えれば仕方のない描写なのですが…。
とはいえ、決勝のVSウィリアム・ザブカは手に汗握る名勝負となっていて、最後の決着も実に見事。敗北後のウィリアムの改心が早すぎるのと、諸悪の根源であるマーティン・コーヴの末路がカットされたこと以外は、最高のラストだったと思います。
 のちにシリーズ化され、成龍(ジャッキー・チェン)主演のリメイクが作られたのも納得の傑作。本作は今回の特集に際して目を通したのですが、ここまでの逸品ならもう少し早く見ておけばよかったなぁ…と若干後悔してます(苦笑
さて次回は、欧米から飛び出して日本へと帰国! 隻眼の剣豪VS魔界の使者による死闘にご期待ください!

メジャー大作を振り返る:日米編(1)『トランスポーター』

2016-05-05 19:10:58 | マーシャルアーツ映画:上
「トランスポーター」
原題:The Transpoter
製作:2002年

▼先月は香港映画のメジャータイトルに触れてきましたが、今月は国境を飛び越えて日米の名作アクションに迫りたいと思います。そのトップバッターを務めるのは、当ブログではあまり馴染みのないジェイソン・スティサムの初主演作でいってみましょう。
スティサムといえば、元モデル(その前は飛び込み選手)だった過去を持ち、『ザ・ワン』の出演を経てアクションに開眼。数々のアクション大作で名を馳せ、今もなおハリウッドの最前線で活躍する肉体派スターとして知られています。
しかし、マイナー思考の当ブログでは大作を紹介する機会に恵まれず、なかなか主演作のレビューができずにいました。今回はそんな迷いを振り切り、彼の主演作の中でもっとも有名な作品を再見してみたのですが…。

■スティサムはプロの運び屋で、卓越した運転テクニックと身体能力で確実に依頼をこなしてきた。彼は「契約を守る・依頼人の名前は聞かない・依頼品は開けない」という3つのルールを厳守している。
そんなある日、スティサムはルールを破って依頼品を開けてしまう。そこにはなんと舒淇(スー・チー)が詰め込まれており、彼女を届けた後も依頼主のマット・シュルツから命を狙われる事となった。
加速度的に悪くなっていく状況の中で、彼は舒淇から思わぬ事実を告げられる。刑事のフランソワ・ベルアレンを巻き込みつつ、戦いは遂に最終局面を迎えようとしていた…!

『キス・オブ・ザ・ドラゴン』のリュック・ベッソンが製作総指揮&脚本を手掛けているだけあって、本作は全編にわたってノンストップでアクションが炸裂する、実に賑やかな作品となっていました。
ただし『キス・オブ~』のような情緒や、『TAXi』のような能天気さは皆無。製作サイドもそのへんは割り切っているらしく、アクションシーン以外の要素はとことん切り詰められています。
 おかげでツッコミどころが多く、舒淇の行動していた動機や敵の悪事など、描写不足なところもいくつか見受けられました。とはいえ、ベッソンらしいスタイリッシュな画作りには引き込まれるものがあり、冗長さはほとんど感じません。
ストーリーの進行も早く、ザックリとした終わり方はどこか香港映画を髣髴とさせます。このスマートさと疾走感は、監督であるルイ・レテリエと元奎(コーリー・ユン)の個性が上手く反映された結果といえるでしょう(作品の出来は別として)。

 アクション面も2つの個性が混ざり合い、ド派手なカーチェイスと功夫ファイトが炸裂! 特に後者においては、元奎の指導によってスティサムの実力が存分に発揮されており、華麗な立ち回りが繰り広げられていました。
彼の長所はアクションに対する順応性の高さにあります。香港式のファイトから欧米式の殴り合いに至るまで、そつなくこなせるのがスティサムの凄みなんですが、本作の時点で既に確立されていたとは驚くしかありません。
 残念なのは、因縁のあったマットとの最終決戦が中途半端だったのと、後半でスティサムを拘束した中国系の敵とのリターンマッチが無かったこと。それ以外は上々だったんだけどなぁ…。
作品としてはやや甘く、意地悪な言い方をすればスティサムのPVでしかない本作。しかし裏を返せば、彼のアクションスターとしての魅力が凝縮された作品でもあるので、決して見て損はないと断言できます。
さてさて、次回は時代をググッと戻して80年代にタイムスリップ! ワックスとペンキを用意して次の更新をお待ちください!