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功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『ブラッド・ブラザーズ』

2018-04-22 15:46:51 | マーシャルアーツ映画:上
「ブラッド・ブラザーズ」
原題:Blood Brothers/No Retreat, No Surrender 3: Blood Brothers/Karate Tiger 3
中文題:親兄弟
製作:1990年

▼独立プロダクションの雄として活躍し、陳星(チン・セイ)や成龍(ジャッキー・チェン)などのスターを育て上げてきた呉思遠(ン・シーユエン)は、80年代の半ばに新たな挑戦を始めました。
まだ香港映画界が成熟期の只中にあった頃、彼は海外市場への本格的な進出を決意。流行をたくみに取り入れ、そこにカンフー映画のテイストを織り交ぜた“香港資本の格闘映画”の製作に着手します。
 『シンデレラ・ボーイ』では李小龍(ブルース・リー)を、『キング・オブ・キックボクサー』では功夫映画タッチの修行を盛り込み、『キング・オブ・キックボクサー/ファイナル』では少林寺を舞台にしました。
そんな中、本作では東洋的なビジュアルを完全に廃し、スケール感の大きなストーリーを設定。『レイジング・サンダー』のローレン・アヴェドンと、キックの世界王者であるキース・ヴィダリを主演に迎えたのです。

■空手道場の指導員であるローレンと、CIA捜査官のキースは不仲の兄弟。今日は元CIAエージェントの父(ジョセフ・キャンパネラ)の誕生会だったが、ここでも口論になってしまう。
だが、その日の晩にテロリストのリオン・ハンターが現れ、襲撃されたジョセフは非業の死を遂げた。ローレンたちは仇討ちを誓うが、両者が手を取りあうことは決して無かった。
 まずキースはCIA本部から「この件から手を引け」と忠告されるが、父の遺した資料からリオンの足取りを掴んだ。この資料を見たローレンは兄を出し抜き、フロリダに飛ぶと密かにテロ組織へ潜入した。
遅れて到着したキースは、元恋人でテロリストの一員だったワンダ・アキューナの力を借り、テロ組織に近付こうとする。その動きを察知したリオンは、新入りのローレンに彼の暗殺を命じた。
 この事態は兄弟の機転によって解決するが、意外な黒幕の登場によってローレンの正体が暴かれてしまった。芋づる式にキースも捕まり、2人は「空港に来るモザンビークの大使を襲撃しろ」と強要されてしまうことに…。
だが、この事件の裏にはアメリカ大統領暗殺と、さらなる陰謀が隠されていた。血を分けた兄弟=ブラッド・ブラザーズは、国家の危機を救えるのだろうか!?

▲実を言うと、本作は私が呉思遠プロデュースの格闘映画で唯一見ることの出来なかった作品でした。このタイトルを探して市外や隣県のレンタル店、ネットの通販やオークションサイト、果ては大阪・東京の中古ビデオ屋まで足を運んだものです。
ところが、必死の捜索にも関わらず『ブラッド・ブラザーズ』は発見できず、もう視聴は無理かな…と諦めかけていましたが、数年前に某氏の厚意により入手することが出来ました。誠に恐縮ですが、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

 さて作品についてですが、やはり呉思遠にハズレなし! 今回も濃厚な格闘アクションが何度も繰り広げられ、加えて主人公ふたりのキャラクターもしっかり立っていました。
兄弟が仲直りするまでのシークエンスが雑だったり、展開が強引なところも幾つかありますが、全体としては破綻もなく纏まっています。動員されたエキストラやロケーションの規模も半端ではなく、呉思遠の力の入れようが窺えます。
 そして肝心のアクションシーンでは、梁小熊(トニー・リャン)の指導による派手な立ち回りが展開! ローレンのバネの良さ、キースの華麗な蹴りが十二分に生かされており、前半では駐車場での集団戦が印象に残りました。
また、単にハードなだけのアクションに拘らず、時には茶目っ気のあるファイトで息抜きを挟むこともあります(キース暗殺の顛末など)。やや作品のタッチから浮いている感がありますが、これも作品が深刻になりすぎないための措置なのでしょう。
 注目はラストバトルで、ローレンとキースの前にテロの首謀者・リオンとその腹心が立ちはだかります。ここから始まる2VS2の目まぐるしい乱戦、足場を使った立体的な殺陣は、まさに本作最大のクライマックスといえます。
ラスボスを担当したリオンは中国拳法を駆使し、主役2人を圧倒する姿はまさに現代の白眉道人! 決着の付け方だけは不満ですが、実力派のアクションスターを相手に一歩も引かない暴れっぷりは、実に堂々たるものでした。
細かな粗はあるものの、最初から最後まで丁寧に作られている“香港資本の格闘映画”有数の傑作。ぜひともDVD化を望みたいですが…そういえば飛行機に乗せて放置されたモザンビークの大使って、あの後どうなったんでしょうか?(爆

迫れ!未公開格闘映画(終)『絶対王者ボイカ(Boyka: Undisputed IV)』

2017-10-31 18:17:01 | マーシャルアーツ映画:上
「絶対王者ボイカ」
原題:Boyka: Undisputed IV/Boyka: Undisputed
製作:2016年

▼香港映画界で下積み時代を過ごし、『人質奪還』で彗星の如く現れたスコット・アドキンス。今や次代の格闘スターとして確たる地位を築いた彼ですが、その地位を確立するのに一役買ったのがアイザック・フロレンティーン監督でした。
見応えのあるアクション演出に定評のあるアイザック監督は、初期の作品でチャド・マックィーンやドルフ・ラングレンといった既存のスターを起用。香港帰りのスコットを発掘し、以後も何度となくタッグを組んで傑作・佳作を撮っています。
 『人質奪還』でスコットに肩慣らしをさせたアイザック監督は、『デッドロックII』で監獄の格闘王・ボイカというキャラクターを創造しました。この役はスコットにとって当たり役となり、続編の『Undisputed III: Redemption』で主役に昇格したのです。
本作はその続編となるシリーズ最新作で、早期の日本公開が待たれる……と言いたいところですが、実はこの作品はNetflixで日本語版が配信済みだったりします(爆
そのため今回の特集で取り上げるのは不適当なんですが、ソフト化もTV放送も未定だしギリギリ未公開作扱いで良いかな?と、超強引な解釈でトリに持ってきてしまいました(でも本作と『III』の日本版は猛烈に欲しい!)。

■前作で自由の身となったボイカ(スコット)は、真っ当なファイターとして活躍していた。今日も必死に食い下がるエミリアン・デ・ファルコを下し、大きな格闘イベントへの参加資格を得ることができた。
だが戦いの末にファルコは死亡し、スコットは激しい罪悪感に苛まれる。ファルコの遺品の中には妻との写真があり、いたたまれなくなったスコットは彼女に謝罪すべく、一路ロシアへと向かった。
 ところが到着してみると、ファルコの妻は孤児院経営のためにマフィアから借金をしており、連中の経営するクラブで働かされていた。マフィアのボス(アロン・アブトゥブール)からは色目を使われ、孤児院には門番までもが張り付いている。
スコットは彼女に陳謝し、先の試合のファイトマネーを渡そうとするが、「それは血塗られた金よ」と拒絶されてしまう。そこでスコットは意を決し、借金の帳消しを賭けてマフィアの主宰する格闘試合に挑んだ。
 アロンから持ちかけられた三本勝負に身を投じるスコットと、次第に心境を変化させていくファルコの妻。やがてスコットはマフィアお抱えのトップ選手(ブラヒム・アチャバクフ)をも倒し、やっとの思いで三本勝負を制した。
これで借金は消え、スコットも今から帰国すれば例の格闘イベントにギリギリで間に合う。だが非道なアロンは更なる勝負を強要し、かつてスコットが収監されていた刑務所で新王者となった怪物(マーティン・フォード)を呼び寄せていた。
目の前で希望を握り潰されたスコットは、圧倒的に不利な状況で最後の戦いに臨む…!

▲本作はアイザック監督が製作に回り、トドール・チャプカノフという人が監督に就任。その点では若干の不安を感じていましたが、ド派手な格闘シーンとド直球のストーリーは今回も変わっておらず、シリーズの名に恥じない傑作アクションに仕上がっていました。
今回のテーマは「贖罪」となっており、今まで闘争本能の赴くまま戦っていたボイカが人のために立ち上がるという、実に印象深い内容となっています。
 本作のボイカは人間的に成長し、『II』で見せた凶暴性は影を潜めています。中盤では孤児院の子供たちに見守られながらトレーニングをするという微笑ましいシーンもありますが、大胆な行動力とラフな戦闘スタイルは健在。今回も縦横無尽に暴れていました。
ドラマに関してはアクションの邪魔をせず、それでいてキッチリと簡潔に描くアイザック監督の作風が継承されており、違う監督になっても違和感はほとんど感じられません。

 そして本命のアクションシーンですが、こちらは近年にわかに注目されているティム・マン(同じアイザック監督の『ニンジャ・アベンジャーズ』も担当)が指導しており、最初から最後まで凄まじい格闘戦のオンパレードとなっていました。
序盤のスコットVSファルコからして気合の入り方が違っており、三本勝負ではスコットのバネを生かした無重力バトルがこれでもか!と炸裂。どの勝負も対戦相手にバリエーションがあって、見応えのあるファイトが展開されています。
 一戦目は普通のタイマンで、鮮やかな蹴りを放つスコットの技量に目を奪われます。続く二戦目では1VS2の変則マッチ(相手の1人がティム・マン)となり、休む間もなく交互に襲いかかる相手との目まぐるしい接戦が見ものです。
そして三戦目では『ザ・サンクチュアリ』で用心棒トリオの一角を担い、『マキシマム・ブラッド』『キルオール』などにも顔を出していたブラヒムが立ちはだかり、スコットに負けない身軽さと足技で互角に渡り合っていました。
 個人的にはこの三戦目が一番好みなんですが、最後に控えていた筋肉ダルマのマーティンとのバトルも実に壮絶。鎧のような筋肉に打撃が効かない中、彼は筋肉で覆われていない頭部を中心に攻撃し、徐々に体勢を崩そうと試みますが…。
正直なところ、本作のラストバトルは相手のビジュアルこそ凶悪ですが、技術や立ち回りの機敏さで言えば『II』のVSマイケル・ジェイ・ホワイト、『III』のVSマルコ・サロールに比べると一歩及ばずといった感じです。
しかしアクションは全体的に高いレベルを保っており、胸のすくラストも含めて“『デッドロック』シリーズにハズレ無し!”と言える出来だったと思います(でもドタキャンされたスコットのオーナーはちょっと可哀想かも・苦笑)。
 と、そんなわけで今月は国内未公開のマーシャルアーツ映画に迫ってきましたが、まだ見ぬ注目作は他にも存在するはず。思えば未公開の功夫片は沢山見てきましたが、格闘映画の未公開作については開拓の余地が大いにあると言えるでしょう。
もしかしたら今回のような特集をまた開催するかもしれないので、その時はまた未知なる格闘アクションに酔いしれ、大いに楽しんでいきたいと思っています。それでは、本日はこれにて……――(特集、終わり)

迫れ!未公開格闘映画(1)『Falcon Rising』

2017-10-07 21:36:49 | マーシャルアーツ映画:上
Falcon Rising
製作:2014年

▼今月は「迫れ!未公開格闘映画」と題して、国内未公開・未ソフト化の格闘映画に注目していきたいと思います。さて初回となる今日は、我らがマイケル・ジェイ・ホワイトに先陣を切ってもらう事にしましょう。
本作は、監督が近年『アサシン・ゲーム』『ファイナル・ブラッド』とマーシャルアーツ映画を連発しているアーニー・バーバラッシュで、なんと共同プロデューサーにアイザック・フロレンティーンが名を連ねています。
内容についてはB級らしさ全開となっているものの、充実したキャストとスタッフ(詳しくは後述)によってアクションがこれでもかと炸裂。このところ失敗作への出演も目に付くマイケルですが、この作品では縦横無尽に暴れ回っていました。

■帰還兵のマイケルは、アフガニスタンで地獄のような戦場を経験し、重度のトラウマを抱えていた。酒に溺れ、自殺未遂を繰り返す彼を心配した妹のレイラ・アリは、はるばる仕事先のリオデジャネイロから帰国。兄を見舞い、翌日には帰路へと着いた。
ところが、暫くしてリオのファヴェーラ(スラム街)の片隅で、瀕死の重傷を負った彼女が発見された。マイケルは米国領事館に勤務する旧友のニール・マクドノーから連絡を受け、一路ブラジルに向かう。
 幸いなことにレイラは一命を取り留めたが、いまだ昏睡状態からは醒めないまま。ニールの紹介で出会った刑事のジミー・ナヴァロとラティーフ・クロウダー、警官のミリー・ルパートに現場を案内されたマイケルだが、思わぬ出来事が彼に降りかかる。
次の日、何者かによってレイラの点滴に薬が投与され、殺されかけるという事件が発生。怒りに燃えるマイケルは、たった1人で真相を探ろうと奔走していく。やがて捜査線上に浮かびあがったのは、ブラジルに拠点を置くジャパニーズ・ヤクザの影だった。
人身売買の闇ビジネスと、意外な(というかバレバレな)裏切り者の存在…全ての点が線で結ばれる時、マイケルは真の敵と対峙する。果たして彼は仇を討ち、悪党どもを一掃できるのだろうか!?

▲敵討ちからの人身売買潰し…という粗筋は『バトルヒート』と若干被っていますが、アクションの濃度は本作も負けていません。ストーリーは凡庸ではあるものの、テンポよく格闘戦とドンパチが挿入されるので、最後まで飽きずに見ることが出来ます。
キャラクターに関しては、主人公のトラウマ持ち&アル中という設定は最後まで忘れ去られず、有効的に活用されていました。この手の作品ではアクションシーンにまでこの設定を持ち込み、戦いがグダグダになってしまうケースもあります。
一方、本作はそうした無粋な演出に走ることなく、適度な按配でこの設定を貫徹。ラストの飲酒を断る(=トラウマからの脱却を示唆)シーンへと結実します。些細な事ではありますが、こういう細かな気配りは本当に大事だと私は思います。

 さて格闘シーンの按配ですが、残念ながらモハメド・アリの実子であるレイラのアクションは無し。ヤクザの幹部であるハヅキ・カトウ(ハリウッドで活躍する日本人女優)やミリーなど、女優陣によるファイトは一切ありませんでした。
しかし不満らしい不満はそれぐらいで、劇中のアクションはマイケルの独壇場と化しています。高い蹴りとパワフルな拳を放ち、ザコを叩きのめす様は実に爽快! 改めて彼のポテンシャルの高さを認識させられます。
 そんな彼の前に立ちはだかるのが『Undisputed III』でも戦ったラティーフ、力押しで迫るジミー、ヤクザの親分の大立昌史の3人なんですが…なんとマイケルはラストにおいて、この猛者たちといっぺんに戦うのです。
即ち、先月紹介した『破門組II』もビックリの1VS3! もちろん3人とマイケルが別個にタイマン勝負で戦うパートもあり、息をつかせぬ乱戦が展開されます。マイケルの武器もナイフやパイプ製のトンファーなど、実にバラエティに富んでいました。
 ちなみに本作のファイトコレオグラファーを務めたラーネル・ストーバルは、かの『Undisputed III』の動作設計も担当した方。マイケルとは何度も組んだ間柄なので、立ち回りの演出も手慣れたものだったと思われます。
と、そんなわけで、特集の1発目からいきなり景気のいい作品に巡りあえましたが、次回は時計の針を戻して90年代の格闘映画をチョイス。実は今でも活躍しているという、ある往年の格闘スターによる作品に迫ります!

ステイサム罷り通る(4)『PARKER/パーカー』

2017-06-28 23:34:17 | マーシャルアーツ映画:上
「PARKER/パーカー」
原題:PARKER
製作:2013年

●凄腕の犯罪者であるジェイソン・ステイサムは、卓越した頭脳と腕力を持ち、目的だけを実直にこなす完璧主義者であった。だが、ある仕事で組んだマイケル・チクリスらに裏切られ、重傷を負ってしまう。
幸運にも通りがかった農夫に救われたステイサムは、搬送先の病院から抜け出すと速効でリベンジを開始。ターゲットの中に大物マフィアの甥っ子(ボビー・カナヴェイル)がいたため、彼は恋人や協力者たちに身を隠すよう促した。
 一方、マフィアからの連絡でステイサムの生存を知ったマイケル一味は、ナイフの刺客(演者は後述)に始末を依頼する。どうやら連中はフロリダのパームビーチに向かったらしく、ステイサムは石油業者に化けて探りを入れていく。
不動産業者のジェニファー・ロペスと知り合った彼は、マイケル一味が宝石オークションで強盗を計画している事を察知。その過程でステイサムたちは親密になっていくが、刺客の襲来で状況は一変する。
深手を負いながらも復讐を遂行するステイサムと、彼に恋人がいたと知って動揺を隠せないジェニファー。やがてマイケル一味が宝石強盗を成功させ、ここに最後の対決が始まるのだが…。

 今月はステイサムの出演作を集中紹介していますが、一般的にステイサムといえば最強&無敵というイメージが強く、その印象はセガールにも劣らないと言えるでしょう。
しかし実際の作品を見てみると、確かに最強&無敵な描写も多いのですが、逆境に立たされるシーンも相応に存在します。本作においても、敵となるマイケル一味は手強い相手ではありませんが、ステイサムは何度となく手傷を負っていました。
最強&無敵が行き過ぎると、セガールのように芸風が固定化し、主演作もワンパターンになってしまう危険性があります。しかしステイサムは適度なバランスでそれを回避しており、そうした案配の良さも彼が支持される所以…なのかもしれません。
 さて作品についてですが、ストーリー自体はシンプルな復讐劇ではあるものの、リベンジに突き進むステイサムの姿が痛快に描かれており、そつなく纏まった逸品に仕上がっています。
また、ジェニファーとの関係もあまり踏み込んだ描写になっておらず、このサッパリした描かれ方も作品の雰囲気と程良くマッチしていました。個人的には、ワガママだけど血だらけのステイサムに動じないジェニファーの母ちゃんがツボにきました(笑

 アクションシーンは前回の『SAFE/セイフ』よりも控えめですが、ストーリーの都合で派手なドンパチができないため、素手でのバトルがほとんど。スタイルは荒っぽい殴り合いタイプで、ステイサムの前にはマイケル一味も敵ではありません。
そんな彼をタイマン勝負で追い込み、本作最大の強敵として立ちはだかるのがナイフの刺客なんですが、演じているのはなんと『ブラッド・スポーツ2』のダニエル・バーンハード! その軽快な体術は健在で、ステイサムと互角に渡り合います。
 ダニエルはヴァンダムのフォロワーとして頭角を現し、多数のマーシャルアーツ映画で活躍。この手の格闘俳優にありがちなモッサリ感のない、スピーディな立ち回りを売りにしていました。
その後、主演俳優としては伸び悩むようになりますが、徐々に助演としての活躍が増えます。『地獄の銃弾』ではチャック・ノリスと戦い、最新作の『ファイナル・ブラッド』では元祖ブラッド・スポーツのヴァンダムと夢の対決を果たしました。
 本作ではステイサムを狙い、激闘の末に壮絶な死に様を披露。この一戦でステイサムは負傷し、本来なら真っ向勝負で潰せるマイケル一味に苦戦せざるを得なくなるという、なかなか重要な影響を及ぼすキャラクターとなっています。
と、このように往年のアクション俳優とも共演していたステイサムですが、ある大物アクション俳優との出会いが彼を待ち受けていました。果たしてステイサムは何処へ向かい、何を目指すのか……次回、いよいよ特集ラストです!

ステイサム罷り通る(2)『ワイルドカード』

2017-06-16 14:21:15 | マーシャルアーツ映画:上
「ワイルドカード」
「WILD CARD/ワイルドカード」
原題:Wild Card
製作:2015年

●ネバダ州ラスベガス。栄光と挫折が渦巻くこの街で、元兵士のジェイソン・ステイサムは堕落した生活を送っていた。酒とギャンブルに溺れ、嘘を吐き出し、冴えない用心棒として殴り殴られる…そんな日々を彼は繰り返していた。
ある日、彼の前に護衛を依頼したいという青年(マイケル・アンガラノ)が現れる。時を同じくして、ステイサムは元恋人のドミニク・ガルシア=ロリドから「私に乱暴したゲス野郎に復讐したい!」と迫られた。
 嫌な予感を覚えつつも調べてみると、ドミニクに酷い仕打ちをした相手はイタリアンマフィアのボンボン(マイロ・ヴィンティミリア)で、さすがのステイサムも「こりゃヤバい」と困り顔。彼女に断りの電話を入れ、マイケルの御守りへと戻っていく。
だが思い直した彼は、敵が滞在するホテルの一室に直行すると、あっという間にマイロとその護衛を一蹴。合流したドミニクはリベンジを果たし、報復が来る前にラスベガスを後にするのだった。
 その後、マイケルの所に戻ったステイサムは「ベガスを去る前にひと勝負」と、マイロからせしめた金でギャンブルに挑む。するとツキがツキを呼び込み、一夜にして50万ドルもの大金を得た。
しかし、それも一時の栄光でしかなく、最後の勝負で全てを失ってしまう。挙句に逃げるタイミングを失い、地元のマフィア(スタンリー・トゥッチ)に確保されたステイサムは、ほくそ笑むマイロの前に引きずり出された。
どうにかその場は切り抜けたが、マイロが殺しに来るのは確実だ。彼は行きつけの喫茶店で最期の食事を採るが、そこへフラリとマイケルが現れ、ある物を手渡した。果たしてステイサムが辿るのは栄光か、それとも……?

 今回は前回と打って変わって、最強路線を確立した後のステイサム主演作の紹介です。この作品は、ラスベガスを舞台にステイサムが大暴れを演じる大活劇…ではなく、ある男の旅立ちを描いた物語となっていました。
全体的にアクションは控えめになっており、序盤はイケてない主人公が元カノの復讐に振り回され、重い腰を上げるまでの物語を淡々と描いています。
 その後、リベンジのほうはアッサリと片付き、欲をかいた末に一文無しになるステイサム。正体を明かしたマイケルからギャンブル中毒を指摘されるも、彼は踏ん切りをつけることが出来ず、自分を認めようとしません。
しかし自らの死が目前に迫り、マイケルから手を差し伸べられたステイサムは、目の前の現実から逃げずに立ち向かうことを選択します。それは自堕落な過去との決別を意味し、マイケルを救おうとした事で彼自身も救われた瞬間でもあるのです。
 ドンパチ賑やかな物語ではないものの、ハードボイルドな雰囲気が徹底された中々の良作。私としては「ああこりゃ破滅エンドだな…」と覚悟していたので、まさかここまで前向きな終わり方をするとは思いもよりませんでした。
ところで“ギャンブル中毒の主人公がベガスで戦う話”といえば、こんな作品もありましたね。もっとも本作のステイサムは過去に見切りをつけているので、あっちと違って中毒の再発はしないと思われますが…(苦笑

 さて、アクションについても控えめと表記しましたが、個々のシーンはケレン味にあふれていて迫力十分。マイロと接触した際はクレジットカードで額を切り裂き、カジノでは襲いかかる雑魚どもを叩きのめすわと、パワフルな殺陣が炸裂しています。
本作のファイト・コレオグラファーはステイサムと何度も仕事をしている元奎(コリー・ユン)ですが、香港アクションのノリをそのまま持って来た『トランスポーター』と違い、あくまでハリウッドらしい雰囲気を崩さない殺陣が構築されていました。
 ラストのレストラン裏での対決では、銃を所持した5~6人をバターナイフとスプーンで瞬殺! その凄惨かつ鮮やかな立ち回りは、ストーリーの展開とも相まって実に痛快なファイトに仕上がっています。
残念ながらラスボスに相当する相手はいませんが、作品的にはこれぐらいの規模がベストでしょう。とはいえ、ステイサムといえばやっぱり暴れてナンボのアクションスターです。そろそろ彼の本領を発揮した作品を見たいところですが…続きは次回にて!

メジャー大作を振り返る:日米編(2)『ベスト・キッド(1984年版)』

2016-05-13 22:49:22 | マーシャルアーツ映画:上
「ベスト・キッド」
原題:THE KARATE KID/THE MOMENT OF TRUTH
製作:1984年

●今月は先月に続いて名作・話題作を中心に紹介していますが、その中で最も有名かつメジャーなのは本作といっても過言ではないでしょう。
この作品は『ロッキー』を手掛けたジョン・G・アヴィルドセンが監督し、当時のアカデミー賞にもノミネートされたスポ根映画の金字塔です。格闘映画としては異例の大ヒットを記録し、多くの人々に感動をもたらしました。
 ストーリーは非常にシンプルで、ひ弱な青年のラルフ・マッチオノリユキ・パット・モリタと出会い、彼に弟子入りして空手大会で優勝するまでを描いています。
こうして粗筋だけを書くと単純すぎるように見えますが、本作は細やかな描写を積み重ねることによってキャラクターに深みを持たせ、作品に奥行きを持たせているのです。
 特にラルフとノリユキの関係は印象的で、友情を結んだ2人が師弟となり、やがて擬似的な親子のようになっていくシークエンスは味わい深いものとなっていました(この点はフォロワー作品でも真似された例がほぼ無く、いかに模倣しづらいかが解ります)。
また、この手の作品では師匠=超人然とした存在として描かれがちですが、本作のノリユキは神秘性と親しみやすさの両立に成功。さらには人間的な弱さを併せ持ち、感情移入のしやすいキャラクターに仕上がっています。

 そして本作最大の長所は、あくまで空手を戦いの手段ではなく「精神鍛練と自衛の為」として扱っている点です。これは武術の本質であり、戦わないと始まらない格闘映画では扱いにくいテーマでした。
香港映画においても、『英雄少林拳』『SPIRIT』等で題材になってはいますが、持て余してしまうケースも少なくありません。それに対し、本作ではノリユキがそうした観念を丁寧に説き、その教えをラルフは最後まで貫くのです。
 修行の内容も専守防衛の色が強く、すべてが守りの型の練習になっているのがミソ(唯一の例外は鶴の舞のみ)。それでいて視聴者に堅苦しい印象を与えず、ワックスがけやペンキ塗りといった明快な動作で描き切っている点は、本当に素晴らしいと思います。
難点を挙げるとすれば、後半の空手大会で守りの型がそれほどフィーチャーされず、修行シーンで登場しなかった攻めの型をラルフが普通に使っている事でしょうか(アクション指導は審判役でも出演している空手家のパット・ジョンソン)。
 アクションにおける見栄えにおいても、ラルフより攻撃的なコブラ会の面々のほうが完全に勝っていて、あまり主人公が強く見えないという問題もあります。まぁ、ここまでの展開を考えれば仕方のない描写なのですが…。
とはいえ、決勝のVSウィリアム・ザブカは手に汗握る名勝負となっていて、最後の決着も実に見事。敗北後のウィリアムの改心が早すぎるのと、諸悪の根源であるマーティン・コーヴの末路がカットされたこと以外は、最高のラストだったと思います。
 のちにシリーズ化され、成龍(ジャッキー・チェン)主演のリメイクが作られたのも納得の傑作。本作は今回の特集に際して目を通したのですが、ここまでの逸品ならもう少し早く見ておけばよかったなぁ…と若干後悔してます(苦笑
さて次回は、欧米から飛び出して日本へと帰国! 隻眼の剣豪VS魔界の使者による死闘にご期待ください!

メジャー大作を振り返る:日米編(1)『トランスポーター』

2016-05-05 19:10:58 | マーシャルアーツ映画:上
「トランスポーター」
原題:The Transpoter
製作:2002年

▼先月は香港映画のメジャータイトルに触れてきましたが、今月は国境を飛び越えて日米の名作アクションに迫りたいと思います。そのトップバッターを務めるのは、当ブログではあまり馴染みのないジェイソン・スティサムの初主演作でいってみましょう。
スティサムといえば、元モデル(その前は飛び込み選手)だった過去を持ち、『ザ・ワン』の出演を経てアクションに開眼。数々のアクション大作で名を馳せ、今もなおハリウッドの最前線で活躍する肉体派スターとして知られています。
しかし、マイナー思考の当ブログでは大作を紹介する機会に恵まれず、なかなか主演作のレビューができずにいました。今回はそんな迷いを振り切り、彼の主演作の中でもっとも有名な作品を再見してみたのですが…。

■スティサムはプロの運び屋で、卓越した運転テクニックと身体能力で確実に依頼をこなしてきた。彼は「契約を守る・依頼人の名前は聞かない・依頼品は開けない」という3つのルールを厳守している。
そんなある日、スティサムはルールを破って依頼品を開けてしまう。そこにはなんと舒淇(スー・チー)が詰め込まれており、彼女を届けた後も依頼主のマット・シュルツから命を狙われる事となった。
加速度的に悪くなっていく状況の中で、彼は舒淇から思わぬ事実を告げられる。刑事のフランソワ・ベルアレンを巻き込みつつ、戦いは遂に最終局面を迎えようとしていた…!

『キス・オブ・ザ・ドラゴン』のリュック・ベッソンが製作総指揮&脚本を手掛けているだけあって、本作は全編にわたってノンストップでアクションが炸裂する、実に賑やかな作品となっていました。
ただし『キス・オブ~』のような情緒や、『TAXi』のような能天気さは皆無。製作サイドもそのへんは割り切っているらしく、アクションシーン以外の要素はとことん切り詰められています。
 おかげでツッコミどころが多く、舒淇の行動していた動機や敵の悪事など、描写不足なところもいくつか見受けられました。とはいえ、ベッソンらしいスタイリッシュな画作りには引き込まれるものがあり、冗長さはほとんど感じません。
ストーリーの進行も早く、ザックリとした終わり方はどこか香港映画を髣髴とさせます。このスマートさと疾走感は、監督であるルイ・レテリエと元奎(コーリー・ユン)の個性が上手く反映された結果といえるでしょう(作品の出来は別として)。

 アクション面も2つの個性が混ざり合い、ド派手なカーチェイスと功夫ファイトが炸裂! 特に後者においては、元奎の指導によってスティサムの実力が存分に発揮されており、華麗な立ち回りが繰り広げられていました。
彼の長所はアクションに対する順応性の高さにあります。香港式のファイトから欧米式の殴り合いに至るまで、そつなくこなせるのがスティサムの凄みなんですが、本作の時点で既に確立されていたとは驚くしかありません。
 残念なのは、因縁のあったマットとの最終決戦が中途半端だったのと、後半でスティサムを拘束した中国系の敵とのリターンマッチが無かったこと。それ以外は上々だったんだけどなぁ…。
作品としてはやや甘く、意地悪な言い方をすればスティサムのPVでしかない本作。しかし裏を返せば、彼のアクションスターとしての魅力が凝縮された作品でもあるので、決して見て損はないと断言できます。
さてさて、次回は時代をググッと戻して80年代にタイムスリップ! ワックスとペンキを用意して次の更新をお待ちください!

『マキシマム・ブラッド』

2016-02-28 23:30:09 | マーシャルアーツ映画:上
「マキシマム・ブラッド」
原題:POUND OF FLESH
製作:2014年

▼ここ数年の間、ハリウッドでは過去のアクションスターたちが再起し、骨太なアクション映画に出るケースが相次いでいます。ドルフ・ラングレンの『バトルヒート』しかり、ゲイリー・ダニエルズの『ワイルド・ファイト エックス』しかり…。
そんな中において、ジャン=クロード・ヴァン・ダムの躍進ぶりは目を見張るものがあります。『ザ・プロテクター』でのスコット・アドキンスとの交戦、『殺戮の黙示録』における血みどろの死闘など、彼の勢いは今なお止まりません。
もちろん微妙な作品にも出演していますが(笑)、アクションに対する情熱が戻ってきているのは確かで、本作では『沈黙の復讐』ダレン・シャラヴィ(合掌…)と激突! 演技にも熱が入っており、実に味わい深い作品に仕上がっていました。

■元兵士のヴァンダムは、ある目的で訪れたフィリピンで売春婦(シャーロット・ピーターズ)に騙され、片方の腎臓を奪われてしまう。彼は昔の仲間であるアキ・アレオンを頼るが、弟のジョン・ラルストンは「なんてことを!」と激昂する。
実はヴァンダムの目的とは、難病を抱えるジョンの娘に腎臓を提供する事だったのだ。残された時間はあと僅か…ヴァンダムたちは腎臓を取り戻すため、謎の敵を追ってフィリピンを駆け抜けていく。
やがて凄腕傭兵・ダレンの存在と、臓器提供に絡む何者かの陰謀が浮上する。シャーロットを仲間に加えた一行は、アキを失いながらも敵の本拠地へ辿り着くのだが…!?

▲ぶっちゃけ言ってしまいますが、本作は粗の多い作品です。特に、事件の発端がヴァンダムの自業自得、車を運転するシーンが全て合成(!)という点には、思わず画面にツッコミを入れてしまいました。
しかし、ストーリーそのものはシリアスな雰囲気を最後まで貫き、不仲だった兄弟の絆が再生するまでをじっくりと描いています。何度も衝突し、道を踏み外しそうになりながらも、最期に兄弟が迎えるラストシーンは実に感動的でした。
 そして日本版の予告編でプッシュされている通り、アクションもかなりの大盤振る舞いとなっているのだから堪りません。序盤でヴァンダムはいきなりダレンと戦い、相変わらず角度のいいキックを炸裂させます。
続くバーでの罰当たりなファイト(助っ人の警棒使いに注目)、格闘賭博に乱入してのタイマン勝負を経て、最後はお待ちかねのヴァンダムVSダレンが開幕! ここでのヴァンダムは大振りな動きを抑え、関節や組み技で仕留めにかかっていました。
 これら一連の立ち回りを指導したのは、なんと甄子丹(ドニー・イェン)作品でおなじみのジョン・サルベティ! どのファイトもシチュエーションや殺陣に工夫があり、本作のアクション・レベルを向上させることに成功しています。
ただ、最後が「おまえはもう死んでいる」的な決着となり、やや派手さに欠ける結末となっているのです。展開的に仕方ありませんが、ここは派手な一撃でフィニッシュして欲しかったなぁ…。
とはいえ、ストーリーもアクションも良質なのは確か。恐らくは近年のヴァンダム作品の中でも、上位の面白さを誇ると言って良いでしょう。ヴァンダムはもちろん、惜しまれつつも旅立ったダレンの雄姿も見逃せない逸品。ファンならずとも必見です!

『キル・オール!! 殺し屋頂上決戦』

2014-04-04 22:00:44 | マーシャルアーツ映画:上
「キル・オール!! 殺し屋頂上決戦」
原題:Kill 'em All
製作:2012年

▼『SAW』の大ヒット以降、閉鎖された空間で極限状態に置かれる人々の恐怖を描いた、いわゆる”ソリッド・シチュエーション・スリラー”というジャンルが流行りました。本作はその流れに乗った格闘映画ですが、非常に充実したキャストを誇っています。
現役スタントマンにして本作のファイト・コレオグラファーを兼任するティム・マン、『チョコレート・ファイター』でジージャー・ヤーニンの母を演じたアマラー・シリポン『NO RULES』で主演を張ったジョニー・メスナーなどなど…。
 さらに『ジャガーNo.1』のジョー・ルイス、元祖少林寺スターの劉家輝(リュー・チャーフィー)まで出演しているのですから、これで期待するなと言う方が無理というものです(笑
ただ、格闘映画では有名スターの共演を生かせないケースが多く、しかも本作の監督はあの『バンコック・アドレナリン!!!』と同じ人。これらの条件を踏まえたうえで、覚悟しながら視聴に至ったのですが…。

■ある日突然、8人の殺し屋たちが”殺戮ルーム”と呼ばれる場所に監禁された。そこに窓はなく、固く閉じられたドアと毒ガスの排出口があるだけだ。彼らは謎の男の命令によって、最後の1人になるまで殺しあう羽目になってしまう。
次々と殺し屋たちが死んでいく中、ティム・ジョニー・アマラーの3人は毒ガスの排出口を塞ぎ、どうにか脱出に成功する。しかし、外の部屋では大勢の狂人や刺客たちが待ち構えていた。果たして彼らは生き残る事が出来るのか?そして謎の男の目的とは!?

▲ストーリーは大したものでもないし、途中でソリッド・シチュエーションという枠から外れてしまっている本作ですが、その欠点を補って余りあるのが格闘アクションの濃密さです。
本作は登場人物の物語を最低限に省略し、アクションを詰め込めるだけ詰め込みまくっています。そうなると殺陣のレベルが問題になってきますが、ティムの振り付けたアクションはスピード感に富み、出演者たちも大いに張り切っていました。
 アクロバットな動作から武器戦闘までこなすティム、体当たりのファイトを見せるアマラーの動きは実に素晴らしく、他の殺し屋たちも負けていません。個人的には本作が遺作となったジョー・ルイスの荒々しい立ち回りが印象的でした。
ラストバトルとなるティム&アマラーVS劉家輝も迫力満点で、圧倒的な実力を誇る劉家輝に翻弄される2人が、一瞬の隙を突いて逆転に転じるシークエンスはとても爽快です(欲を言えば、もうちょっと各々のファイトスタイルを差別化して欲しかったかな?)。
 『バンコック~』では主人公に感情移入ができなかったのですが、本作は徹底的にアクション押しの展開で攻めてくるため、そうしたフラストレーションは感じません。適当気味なストーリーさえ気にしなければ、本作は至高の格闘映画だと言えるでしょう。
ところで本作はタイでロケーションが行われており、出演者やスタッフもタイに縁のある人が多いように思えます。ひょっとしてこの作品、アメリカ映画じゃなくてタイ映画なんでしょうか?

GARY OF GOLDEN AGE(05)『ザ・フォース』

2013-10-19 23:03:44 | マーシャルアーツ映画:上
「ザ・フォース」
原題:COLD HARVEST
製作:1998年

▼これまで色々なゲイリー・ダニエルズの主演作を紹介してきましたが、どの作品も格闘映画というよりアクション映画としての側面が強く、まともなラストバトルが存在しない作品も珍しくありません。
しかし本作にはとても心強い味方がいます。そう、当時『パワーレンジャー』シリーズで経験を積んでいた実力派、アイザック・フロレンティーン監督です。この頃の彼は『ハイボルテージ』『ブラック・ソルジャー』などを撮っていましたが、どちらもアクション以外は精彩に欠け、今一歩の出来に留まっていました。
そこで今回はゲイリーを迎え撃つ敵役に、同じく格闘俳優のブライアン・ジェネスを投入。激しい格闘戦を展開させ、これまでの作品にあったイマイチさの払拭を試みています。

■隕石の落下によって暗雲に包まれ、疫病が蔓延する近未来の地球。流れの賞金稼ぎであるゲイリーは、久々に生まれ故郷へと戻ってきたが、双子の弟(ゲイリーの2役…以下、弟ゲイリーと呼称)は姿を消していた。
実は弟ゲイリーは、国際的な医師団のもとで疫病の抗体を作り出す研究に携わっていた。彼は数少ない抗体の持ち主で、恋人のバーバラ・クランプトンとともに故郷の近くを移動中であった。
 だが、医師団を乗せた車列が悪党のブライアン一味に襲撃されてしまう。連中は技師ひとりを残して医師団を皆殺しにし、弟ゲイリーも死亡。バーバラだけが生き延びたが、実は彼女のお腹には抗体を持つ唯一の存在…弟ゲイリーの子が宿っていたのだ。
それを知ったブライアンはバーバラを生け捕りにしようと動き出した。彼女と出会ったゲイリーは一味との戦いに身を投じていくが、バーバラを保護するために派遣された医師団のヘリが撃墜され、彼女が敵の手に落ちてしまった。
さすがに1人で敵のアジトに突っ込むわけにはいかないので、ゲイリーはブライアン一味と敵対する勢力と手を組み、最後の決戦へと臨む!

▲本作は世紀末を舞台にしたSFアクションですが、これがまたケレン味あふれる快作に仕上がっていました。ゲイリー主演の世紀末SFというと『北斗の拳』が思い浮かびますが、この作品では濃厚な西部劇テイストで勝負に出ています。
アイザック監督の西部劇に対するこだわりは並々ならぬものがあり、アクションの大半を占めるガンファイトがそれを如実に表しています。ストーリーはやや直球すぎるきらいがあるものの、アクションシーンの連続であまり気になりません。
 もちろん格闘アクションも絶好調で、ゲイリーの持つポテンシャルを最大限に発揮!やられた敵の吹っ飛びっぷりも半端ではなく、これによりアクションに更なる激しさをプラスしています(このへんの演出は『ブラック・ソルジャー』も同じ)。
最後のゲイリーVSブライアンの一騎打ちでは、豊富な手数で戦うゲイリーと、回転技(?)で迫り来るブライアンの動きが素晴らしく、流れるような技の応酬が堪能できました。
 ちなみに本作のアクション指導は、『ブラック・ソルジャー』に引き続いて野口彰宏が担当。彼はその後もアイザック監督と組み、『人質奪還 アラブテロVSアメリカ特殊部隊』でスコット・アドキンスの名勝負を演出することになりますが、それはまた別の話です。
キャラクターは個性的だし、きちんと最後にボスとの一騎打ちを用意しているなど、格闘映画としてはとても真っ当な逸品。日本でリリースされたゲイリー主演作の中でも、有数の良作だったのではないかと私は思います。
次回は、ゲイリーが野口彰宏と同じアルファスタントの坂本浩一とタッグを組み、90年代の最後を飾る日米合作に挑戦します。が……!