功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『女ギャンブラー リベンジ香港』

2018-02-28 22:36:20 | 日本映画とVシネマ
「女ギャンブラー リベンジ香港」
製作:1991年

●名うての女ギャンブラーである柏原芳恵は、香港の賭場で連日のように大勝し、関係者の間でクィーンと呼ばれていた。彼女が博打に挑むのは、凄腕のギャンブラーだった父を殺した相手に復讐し、行方不明となった妹・橋本実加子を探すためであった。
彼女は父の助手だった高川裕也のバックアップを受けるが、「普通の暮らしに戻るべきだ」と諭されてしまう。そんな中、柏原は賭場で黒社会の大物・谷峰(クー・フェン)の情婦である赤座美代子と対面する。
 彼女は柏原の実母であり、父の死と同時に家族を捨てた冷徹な女だった。一方、谷峰の組織で娼婦として働かされていた橋本は、恋仲となった男の手引きで脱走。この一報を聞きつけた柏原は、高川や旧友の佐藤祐介とともに、香港の街を必死で捜索した。
だが必死の抵抗もむなしく、橋本は再び組織に捕らわれてしまう。柏原はその情報を谷峰の対抗馬・仇雲波(ロビン・ショウ)から知らされ、意を決して組織の経営するホテルへと突入する。
 かくして妹の奪還には成功するが、敵は追及の手を緩めず、ついには佐藤と橋本の両名が死亡。高川も手傷を負う中、柏原は仇雲波の仕掛けた大博打に乗っかり、かつて大敗を喫した赤座とのギャンブル勝負に挑む事となる。
意地と誇りを賭けて戦おうとする柏原、命を捨ててでも仇を討とうとする高川、そして絶対的な自信とプライドを武器に立ちはだかる赤座。…今、香港を舞台に三者三様の思いを秘めた死闘が始まった!

 私がこの作品の存在を知ったのは、日本人の武術指導家・鹿村泰祥の経歴を追っていく過程での事でした。鹿村さんといえば、倉田保昭とともに香港映画界で活躍した日本人であり、アクションスターとしても名を馳せた方です。
そんな彼と結婚している…と噂されるのが元アイドル歌手の柏原芳恵なんですが、本作こそが2人の出会った記念すべき(?)作品とのこと。しかし作品自体の情報が少なく、ネットで検索しても2人の関係を扱った記事ばかりがヒットします。
そのため、どんな内容なのかずっと気になっていましたが、今回その全貌を確認することが出来ました。

 本作は香港でオールロケーションが行われており、柏原嬢は主演、鹿村さんはアクション指導をそれぞれ担当。先述の通り、香港からは仇雲波や谷峰、脇役で夏占士(同じVシネ合作の『霸拳』にも参加)の姿も確認できます。
この面子だとアクションに期待が高まるところですが…結論から申し上げますと、香港側のキャストによる肉弾戦は一切ありませんでした(涙)。全体的に銃撃戦の比率が多く、格闘シーンが集中しているのはホテルへ突入する場面ぐらいです。
 まぁ、鹿村さんが指導しているとはいえ、主題がギャンブルなのでこうなることは予想していました。が、それにしたって仇雲波にアクションをまったくやらせない(僅かに銃を撃つだけ)という采配には納得できません!(爆
ちなみに、格闘シーンを彼らに代わって担当するのは柏原嬢と高川の2人で、両者ともそれなりの奮戦を見せていました。絡み役のスタントマンも派手に吹っ飛んだりしていますが、返す返すも仇雲波の活躍が…(←しつこい)

 これでストーリーが良ければいいんですが、残念ながらこちらも不発気味。ギャンブラーとしての苦悩や、母子による確執の物語などが簡潔に描けておらず、役目を終えたキャラクターから順に殺していく展開も安易さを感じます。
特に問題なのが、主人公がギャンブラーという設定に必然性が感じられない点です。本作の主人公はギャンブラーに転身し、仇敵や妹の行方を捜していますが、彼女が賭け事で情報を掴むシーンなどは存在しません。
 もしギャンブラーが主人公なら、「仇敵の情報が欲しけりゃポーカーで勝負だ!」「妹を救いたければバカラで勝負だ!」てな感じでストーリーを転がし、ギャンブル対決を主軸に展開していけたはずです。
しかし、本編では妹を奪還するために銃撃戦を仕掛けたり、棚ボタ的に情報を得たりと、まったくギャンブラー設定が機能していない有様。しまいには赤座から「ギャンブラーになって有効な情報は掴めたの?」とツッコまれるシーンまでありました。
 母子の確執についても、赤座が徹底的に悪役として描写されているせいで、最後の献身的な行動が「何を今さら」としか思えないものになっています(死に際の台詞も母親としてではなく、ギャンブラーとしての発言だし…)。
単調なカメラワークや、香港ロケを生かさない地味な画作り(ロケ地が廃墟や倉庫街ばっかり)など、他にも問題が山積している本作。ネットで情報が少ないのも納得できる出来なので、どうしても鹿村さんの仕事が気になる方以外は避けた方が無難だと思います(爆

『虎拳鐵掌』

2018-02-25 14:52:10 | カンフー映画:珍作
虎拳鐵掌
英題:On the Black Street/Eagle Claws Champion
製作:1974年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 まったくもって無名の功夫片であり、キャストもスタッフも日本では馴染みのない顔だらけですが、ある一点で歴史に残ることになった作品です。
ストーリーは実にシンプルで、功夫の達人である主人公(後述)が武術大会で優勝するところからスタート。もともと素行の悪かった彼は、ケンカで人を死なせてしまったことで収監され、その間に父親が死んでしまいます。
 悔い改めた彼は更生を誓いますが、因縁のあるヤクザ者たちが嫌がらせを開始し…。と、ここまで来れば明々白々ですが、本作は『ドラゴン危機一発』と同じ“不戦の誓いを立てた主人公”を描いたもので、ここから敵の兆発がひたすら続くのです。
時には仲間が庇ってくれるものの、戦いを避けたい主人公は苦悩するばかり。家計のために主人公の妹が楼閣で働いていたり、それが敵にバレて嫌がらせの材料にされたりと、じつに湿っぽい展開が続きます。
ラストは再び武術大会が開催され、ようやく主人公が怒りの鉄拳を振るいますが、その過程も実にアッサリしているのでカタルシスが得られません。最初から最後に至るまで、実に味付けの薄い作品と言えるでしょう。

 ただ、アクションシーンは李小龍(ブルース・リー)の模倣ではなく、勢い重視でバチバチと殴りあうスタイルを選んでおり、平均以上の質は保たれています。
また、仲間の1人を若き日の蘇真平(スー・ツェンピン)が演じていて、戦えない主人公に代わって俊敏な立ち回りを披露! もう1人の仲間(演者不明)も伸びやかな足技を見せ、間延びしがちな主役不在の状況を乗り切っていました。
 とはいえ、ラスボスとして登場する鐵掌の使い手・蔡弘があまり強そうに見えない(序盤と中盤で思いっきり主人公に負けてる)など、アクションの端々に演出の甘さが感じられます。
肝心の主人公についても、派手な拳法や必殺技を使わないので印象が薄く、せっかくのシャープな動きが生かせていません。タイトルに虎拳と付いているんだし、ビシッと主人公にやらせれば良かったのになぁ…。

 さて、ここまでさんざん引っ張ってきましたが、悩める主人公を演じたのはコナン・ハンという人物です。あまり知らない方だったので調べたところ、中文名は向華勝ということが解りました。……ん? この名前、どこかで見たような……?
そう、向華勝とは永盛電影公司(現在の中國星)を率いた向華強(チャールズ・ヒョン)の弟! 兄と共に多くの映画を製作し、さらには黒い方面の重要人物としても知られています(汗
 向華強が俳優としても活躍していた事は知っていましたが、まさか弟の向華勝も功夫片に出ていたとは驚きです。どうやら本作が唯一の主演作らしく、以後はプロデューサーへと転身。1978年には兄が主演した『梁山怪招』という作品を製作しています。
そういえば、監督の巫敏雄・共演の蔡弘という顔ぶれも、向華強の『子連れドラゴン女人拳』と共通しています。本作に兄の名前はありませんが、ひょっとしたら製作の背景に向華強の関与(意味深)があったのかもしれませんね。

『ザ・セブン・グランド・マスター(虎豹龍蛇鷹)』

2018-02-18 23:30:16 | カンフー映画:傑作
「ザ・セブン・グランド・マスター」
原題:虎豹龍蛇鷹/虎豹龍蛇鷹絶拳
英題:The 7 Grandmasters
製作:1978年

▼今回も引き続き郭南宏(ジョセフ・クオ)作品の紹介ですが、こちらはコメディ功夫片ではありません。主人公のルックスや明朗な性格も、『酔拳』というよりは『蔡李佛小子』や『洪拳小子』などからの影響を感じます。
作品としては実にオーソドックスな功夫片であり、郭南宏らしいサプライズ展開も用意されていますが、注目すべきは武術指導に元奎(コーリー・ユエン)&袁祥仁(ユエン・チョンヤン)の両名がクレジットされている点です。
この2人は当時の袁家班における中心的存在で、彼らは同年に郭南宏の『ドラゴン太極拳』へ参加したばかり。キャストも一部が共通しており、いわば本作は『ドラゴン太極拳』の姉妹作といっても過言ではありません。

■正義門と呼ばれる道場を主宰し、高名な拳法家でもある龍世家(ジャック・ロン)は人々から慕われていた。彼はある祝祭で看板を授与されるが、そこで何者かに挑戦状?を叩き付けられる。
これを重く見た龍世家は、旅に出て各地の達人たちと戦うことを決意。龍冠武(マーク・ロン)を筆頭とした3人の高弟、娘の燕南希(ナンシー・イェン)を連れ、まずは龍飛(ロン・フェイ)と雌雄を決した。
 が、龍飛は勝負の直後に不審な死を遂げ、残された門下生たちは龍世家を怪しむが…。一方、当の龍世家はさまざまな達人と戦っていたが、そこに奇妙な青年・李藝民(サイモン・リー)が付いて回るようになる。
彼は何度も弟子入りを志願し、ドジを踏んでは突っぱねられ続けた。しかし、卑怯な武器の達人・元奎が放った刺客から龍世家を守ろうとしたことで、ようやく正式に弟子入りを認められるのだった。
 なにかと龍冠武から嫌がらせを受ける李藝民であったが、向上心の強い彼はメキメキと腕を上げ、いつしか高弟たちをも追い抜いていく。そして、弟子を動員した対抗戦に勝利した龍世家は、足かけ二年に及んだ旅を終え、ようやく正義門へと帰郷した。
ところが物語は急転直下の事態を見せる。実は李藝民は父親の仇討ちを誓っており、彼の父親こそ序盤で死んだ龍飛だったのである。李藝民は父殺しの容疑者・龍世家を倒すため、あえて彼に弟子入りして拳法を学んでいたのだ。
「待て、龍飛を殺したのは割って入った別の男だ!」「問答無用!いざ尋常に勝負だ!」 かくして、ここに望まざる師弟対決が始まるのだが…。

▲この作品は李藝民が主人公とされていますが、本格的に彼が登場するのは序盤を過ぎてから。全編に渡ってアクションシーンを牽引するのは龍世家であり、見方を変えれば彼こそが主役と言ってもいいでしょう。
龍世家といえば、台湾功夫片おなじみの顔であり、郭南宏の常連俳優としても知られた存在です。素面ではいかにもチンピラ風のルックス(爆)ですが、老けメイクをすると一転して温和な表情となり、温かみのある師匠役を得意としてきました。
 本作は、そんな彼が初めて師匠役を演じた作品のひとつで(同年の『四兩搏千斤』も師匠役ですが、主人公を導くキャラクターではありません)、郭南宏も彼を猛プッシュしている様子が窺えます。
龍世家自身も、時に厳しく、時に優しい師匠役を好演。アクションスターとしては自分よりも大きい役を演じ、ショウ・ブラザースで活躍してきた李藝民に負けじと、迫真の立ち回りを見せていました。

 アクションの出来も素晴らしく、袁家班タッチのスピーディーなバトルが楽しめます。主役サイド以外では、猿拳の達人を演じた錢月笙(チェン・ユーサン)、対抗戦で龍冠武を完封した馬金谷、多様な武器を操る元奎の動きに目を引かれます。
もちろん、彼らに対抗する李藝民たちの動作もキビキビとしており、大胆かつ流れるようなファイトシーンは『ドラゴン太極拳』にも勝るとも劣りません。不満らしい不満といえば、女ドラゴンの燕南希があまり目立ってない事ぐらいでしょうか。
 ラストの師弟対決では、ちゃんと両者が同じ拳法を使用し、続くVS徐忠信(アラン・ツィー)でもスタイルが統一されています。功夫片の中には、場当たり的な殺陣でお茶を濁すような作品もありますが、本作は殺陣への配慮が行き届いた逸品と断言できます。
ダイナミックなアクションと意外なストーリーで楽しませる台湾功夫片の傑作。『ドラゴン太極拳』が好きな人はもちろん、私のように師匠役の龍世家に安心感が持てる人には、是非ともオススメの作品です!(笑

『ドラゴンズ・クロウ 五爪十八翻』

2018-02-16 16:17:03 | カンフー映画:佳作
「ドラゴンズ・クロウ 五爪十八翻」
原題:五爪十八翻/龍拳蛇刀
英題:Dragon's Claws
製作:1979年

▼こんにちは、今年から仕事のシフトが変わって夜勤の数が1.5倍になった龍争こ門です(げっそり)。今年から心機一転を誓った矢先の停滞ですが、忙しかったのは去年も同じ。新作のチェックも欠かしていないので、なんとか更新や特集を続けていきたいと思っています。
さて話は変わりますが、ひとくちにカンフー映画と言っても、年代や流行によって様々なタイプが存在します。その中で私がお気に入りを挙げるとするなら、やはり70年代末期~80年代前半にかけて量産されたコメディ功夫片を推したいと思います。
 『神打』で劉家良(ラウ・カーリョン)によって開拓されたコメディ功夫片は、『酔拳』『蛇拳』の大ヒットで数えきれないほどの亜流作品が作られました。私はこの時期の作品が好きで、ちょっと前に関連した特集を組んだ事もあります。
この手の亜流作品は、やんちゃ坊主に酔いどれ師匠のような“お約束”が多々あり、そのクオリティは製作側の判断に左右されます。果たしてギャグで押し切るのか、それともパターンを外すのか、或いはアクションに全てを賭けるのか、それとも…。
本作はそうしたコメディ功夫片の1つで、『少林寺への道』の郭南宏(ジョセフ・クォ)が製作・監督・脚本の三役を担当。ただし、作品としては執行導演を務めた魯俊谷のカラーが強く、功夫アクション尽くしの一篇となっています。

劉家勇は龍形門を率いる劉鶴年の一人息子。今日も熱心な父を横目に怠けていたが、突如として劉鶴年の体調が急変。すぐに道場へと戻るも、そこには恐るべき龍拳の使い手・黄正利(ウォン・チェン・リー)が待っていた。
この男、かつては劉鶴年と同じ龍形門の門弟であり、劉鶴年の妻・元秋(ユン・チウ)とも浅からぬ関係にあったという。黄正利は挑発的な態度を見せて去ったが、直後に現れた小汚い薬売り・白沙力のせいで珍騒動が持ち上がる。
 実は劉鶴年には後ろめたい過去があり、龍形門の跡取り娘であった元秋を手籠めにし、そのまま道場主の座に納まっていたのである。彼は抵抗した元秋によって死に至る拳を受け、今やその命は風前の灯であった。
その後、部下の朱鐵和・陳樓を引き連れて現れた黄正利は、劉鶴年を決闘の末に撃破。冴えない道場主はそのまま死亡し、その証であるメダルも奪われる…のだが、いつの間にかメダルは偽物にすり替わっていた。
 「本物はどこだ!」と迫る黄正利に刃向った劉家勇は、あろうことか父と同じ死に至る拳を受けてしまう。元秋は一門を解散させ、劉家勇の療養と修行の練り直しを行うべく、人里離れたあばら家に居を移した。
しばらくは親子によるマンツーマンの修行が続くが、その間にも黄正利一派は龍形門の門下生を次々と襲撃。動くことの出来ない劉家勇は苛立ちを覚えていたが、友人の韓國材(ハン・クォーツァイ)が妙に強くなっていることに気付く。
 彼が言うには、あの白沙力から拳法を習っているらしい。劉家勇は詫びを入れて弟子入り志願し、彼の身の上を察した白沙力は治療と修行を施していった。いつしか見違えるほど強くなった息子を見た元秋は、伝説の拳士=白沙力の存在を確証する。
その後、修行を完遂した劉家勇は本物のメダルを白沙力から渡される(前半の珍騒動のドサクサですり替えていた)が、敵の追及によって元秋と韓國材が犠牲となっていた。彼は朱鐵和と陳樓を倒し、因縁の黄正利と最後の決戦に臨むが…!?

▲ご覧の様にストーリーはかなり深刻で、主人公と師匠以外の登場人物はほとんど死亡。そこそこ笑えるシーンはあるんですが、話の根幹がまったくコメディ向きではないため、ストレートに楽しめる作品にはなっていません。
白沙力がメダルをすり替えていた件に関しても、黄正利の野望を防ぐという理由は分かるんですが、おかげで何の罪もない門下生たちが犠牲となっています。魯俊谷のコメディ功夫片は出来にムラがあるんですが、本作も例に漏れず…といったところでしょうか。
 とはいえ、李超俊(本作では師父仔名義)によって振り付けられた殺陣は実にアグレッシブで、話の粗を補って余りあるアクションを構築していました。
本作のファイトシーンは役者の長所を引き出すことに特化しており、劉家勇ならキビキビとした拳技を、元秋なら京劇仕込みの軽業を、黄正利なら蹴り技を中心にスタイルを設定。この方針は最初から最後まで徹底しており、アクションへの拘りを感じさせます。
 彼らが絡むバトルは質が高く、単なる小競り合いでも丁々発止の戦いが堪能できます。特にラストバトルでは、黄正利の猛攻に苦戦しつつも、白沙力から学んだ龍拳と元秋に教わった点穴を駆使し、トリッキーな戦法で戦う劉家勇の姿が実に勇ましく見えました。
話については難がありますが、コメディ功夫片の最盛期に作られただけあって、アクションの出来は二重丸。劉家勇&黄正利といえば『洪拳大師』という作品でも組んでいるようなので、コチラもちょっと気になりますね。