功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『カンフー無敵』

2008-12-29 21:00:07 | カンフー映画:佳作
「カンフー無敵」
原題:功夫無敵
英題:Kung Fu Fighter
制作:2007年

●この作品、結論から言うと『カンフーハッスル』のような抱腹絶倒のコメディアクションではない。確かに『カンフーハッスル』にあやかったキャスティングが成されているし、コミカルな描写もあるにはある。しかし、少なくとも『カンフーハッスル』と同じタイプの作品として見るには難がある作品で、どちらかというと作品的には『馬永貞』…というか、金城武の『暗黒街』に近いテイストの作品なのだ。
怪力の持ち主である呉建豪(ヴァネス・ウー)は、生き別れの父を探して上海へ来ていた。ここでは陳國坤(チェン・クォッククン)と田啓文(ティン・カイマン)の二大勢力がにらみ合っており、同郷のダメ男・林子聰(ラム・ジーチョン)と共に騒動に巻き込まれてしまう。その際に梁小龍(ブルース・リャン)らが経営する食堂を壊してしまった呉建豪と林子聰は、修理費を捻出するためにそこで働く事になる。
物語はここに陳國坤の女である黄伊[シ文]と呉建豪の交流を交えつつ、最終的には田啓文が呉建豪らを討伐するために放った凄腕の刺客・樊少皇(ルイス・ファン)との死闘を迎え、呉建豪の秘密が明らかになっていく…のだが、本作はこのへんで随分と損をしている。この黄伊[シ文]とのサブストーリーが本筋である呉建豪の父親探しに全く絡んでこず、樊少皇の登場も随分と唐突。樊少皇を仕向けた田啓文が健在なまま話が終わっている点など、アラの多い作品になってしまったのは残念だ。
だが、その一方で功夫アクションの方は素晴らしい出来になっているのだから皮肉なものである。
本作の動作設計は樊少皇が担当しており、基本的にあまりCGに頼らない重厚なスタイルのファイトに挑戦している。この樊少皇、樊梅生の息子として知られているが、過去に多くの動作片に出演していた経歴を持ち、日本でも彼の主演作である『力王』がリリースされている。この他には『衝破死亡遊戯』や『力王』系列などがあるのだが、いずれも日本未公開の物ばかり。個人的には『衝破死亡遊戯』が見たくて仕方が無いのだが(爆)、これらの作品群で培ってきた経験ゆえか、本作の功夫アクションは本当に見事なものばかりなのだ。
もちろん呉建豪は十分頑張っていたし、梁小龍に関しても言わずもがな。クライマックスの梁小龍VS樊少皇と呉建豪VS樊少皇の対決は、本作でも1番の見どころだろう。これで物語が簡潔であったならなぁ…。

…というわけで(?)、突然ですがこれが今年最後の更新となりますので、次回以降は来年から更新を再開するつもりです(もしかしたら前の正月の時同様、1月中は更新が停滞するかもしれません・苦笑)。来年もまた当ブログにご愛顧の程を何とぞ宜しくお願いしまして、本項の〆にしたいと思います。それでは、来年もよいお年を!
(管理人:龍争こ門)

『ダブルブレイド』

2008-12-27 22:06:54 | カンフー映画:珍作
「ダブルブレイド」
中文題:雙[金票]/双[金票]
英題:Twin Daggers
制作:2006年

●本作は中国とアメリカの合作という事になっているが、全編に漂うテイストはまさしく香港映画そのもの(というか、スタッフはほとんど香港系が主)。パッケージこそ『ブレイド』のパチモンみたいだが、実際の中身はストーリーが80年代前半の武侠片で、アクションが90年代前半の動作片といった趣のものとなっている(なんのこっちゃ)。
物語はレット・ガイルズら元暗殺部隊の面々が、蘇瑾(スー・ジン)の依頼で彼女の双子の姉(蘇瑾の二役)を狙い、賞金を巡って血で血を争う戦いを繰り広げる…というもの。
ガイルズは身分を偽って蘇瑾(姉)に接近するが、次第に彼女に惹かれてしまう。完璧に依頼を遂行するため、ガイルズは他の仲間たちを次々と仕留めていき、遂に残ったのは彼1人となった。蘇瑾(妹)から「今日以内に依頼を遂行しなければ賞金は無し」との最後通告を受け、蘇瑾(姉)を殺そうとするのだが…。
香港系のスタッフが手がけているだけあって、本作のアクションは(当然だが)質が高い。武術指導の呉勉勤は洪家班出身の武師。当ブログでも取り上げた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地激震』にも関わっており、彼がメガホンを取った『チャイニーズ・ファイター/天空伝説』なんて作品も存在しているが…しかし、さすがに本作で見せた早回しとワイヤーアクションはやりすぎではないだろうか。
確かに殺陣自体は迫力があったが、この過剰な早回しとワイヤーワークは荒唐無稽を通り越し、作品全体のアクションバランスを崩壊させている。90年代に最盛を極めたワイヤー古装片であればまだ視聴に耐えられただろうが、ごく最近に作られた近代を舞台にした作品では完全に水と油。せめてもう少し演出を抑え目にしてくれたら良かったのだが、そういえば『天地激震』でも似たような感じだったので、これが呉勉勤のスタイルなのだろう。
ちなみにラストではガイルズに驚愕の真相が告げられるのだが、この真相というのがとんでもないクセ物。意外な結末ではあるが、これによってガイルズにも蘇瑾(姉)にも感情移入が出来ない状況を生んでいる。オチに至っては完全にイラズラ番組の種明かしと化し、その雰囲気と蛇足っぷりは『シベリア超特急』並みと言ってしまっても差し支えないかもしれない。真相が明かされる直前までは結構楽しめていたが、これは流石になぁ…。
個人的には一回見ただけでもう十分。見栄えのする殺陣が見たいのならオススメだが、前述のいらない特殊効果や役者のスタントダブルが多いので、気になる方はご注意を。

『アルティメット・マシーン』

2008-12-24 20:32:53 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「アルティメット・マシーン」
原題:HEATSEEKER
制作:1995年

●前作のハッピーエンドを台無しにした『キックボクサー2』、李小龍の有名作品をパクった『キックボクサー4』、笑えないアクション喜劇の『ワイルド・スマッシャー』、ベニー・ユキーデが宝の持ち腐れと化した『ブラッド・マッチ』…今年は一年を通してアルバート・ピュンに悩まされる年でもありましたが、今回もピュン印の作品の登場です(萎
舞台は近未来。人体に改造を施した半機械のファイターが席巻していた格闘大会で、キース・クックは生身の体でありながら王者となった。しかし、クックに倒されたゲイリー・ダニエルズが更なる改造を受けて復活。ゲイリーの雇い主はクックの恋人(兼トレーナー)を強引に誘拐し、自ら企画した格闘大会にクックを半ば無理矢理に出場させてしまう。ヒロインはゲイリーの雇い主からゲイリーを指導せよと強要され、否応なしに大会へ参加したクックはゲイリーとの最終決戦に挑むのだった…と、話だけを見るなら結構ありがちな感じだ。
だが本作は、格闘大会が始まった途端に無個性な格闘アクションが淡々と続くだけの作品に成り下がってしまう。
言うなれば、『片腕カンフー対空とぶギロチン』の格闘トーナメントが延々と続いていく(ただし選手は全員没個性的で、ファイトスタイルは全く差別化されていない)と言えば解りやすいだろう。この格闘大会での演出もまたクセモノで、全体的に画面がボカシ気味の効果で覆われており、正直言って見え辛いことこのうえないのだ。クックとゲイリーの格闘アクションは流石に素晴らしいものの、この全編を通して炸裂するピュン独特のタルい雰囲気で、全てがご破算となっている。
ストーリーは格闘大会モノにありがちな八百長やそれぞれの確執を挟み、クライマックスに向けて展開していく。だが、最後の戦いに挑むクック・2人の男の間で揺らぐヒロイン・疑問を感じ始めるゲイリー・雇い主の末路などといった物語の決着を、ああいう形で処理してしまったのは流石に酷過ぎる。香港映画ならこの終わり方でも許せたかもしれないが、いかんせんこの作品は近代のハリウッド映画。それなのにあんなラストで締めてしまうなんて、ピュンは他所から文句を言われなかったのだろうか?
かつてクックとゲイリーは、共にゴールデンハーベストのスクリーンで闘い(クックは『チャイナ・オブライエン』、ゲイリーは『シティ・ハンター』)、共に呉思遠の薫陶を受けた(クックは『キング・オブ・キックボクサー』、ゲイリーは『BloodMoon』)。そんな上質の素材も料理人の腕がトンチキならゲテモノに成り果ててしまうものなのだと、本作を視聴する前に2人の名前を見て少しでも期待していた自分に言い聞かせてやりたい気分になる映画でした(爆

特集・50Movies(終)『ジャッキー・チェンの必殺鉄指拳』

2008-12-22 21:57:43 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ジャッキー・チェンの必殺鉄指拳」
「ビッグマスター」
原題:刀手怪招
英題:Master With Crack Fingers/Snake Fist Fighter/Ten Fingers of Death
制作:1979年

▼とうとう『Martial Arts 50 Movie Pack』在庫セールもこれにて完結。一応とはいえ、遂に完全制覇を成し遂げたとあって感慨深い思いもありますが、まずは作品の紹介から。本作の成り立ちについては前回の『燃えよジャッキー拳』で説明済みなのでそちらを参照していただくが、『ジャッキー拳』はあまりユーモアのある描写は無く、果たしてどうやってこの作品からコメディに仕立て上げるのか気になっていましたが…さて?

■まず出だしは権永文(クァン・ユンムン)の演舞からスタート(そういえばこの人、同じバッタもんジャッキー映画の『醒拳』にも出てたなぁ)。権永文は殺し屋一門のボスで、自らの意にそぐわなかった手下を殺した。これが『ジャッキー拳』では陳鴻烈に田豊の兄弟子が殺される場面に相当するのだろう。ただし『ジャッキー拳』ではいきなり大人になっていたが、こちらでは子供時代のエピソードが加味されている。
子供ジャッキーの前に乞食の酔いどれ師匠・袁小田が現れ、お約束の修行へと移行。しばらくして子供ジャッキーは『ジャッキー拳』のジャッキーに成長し、袁小田の指導の下で更なる修行を続けた。ここから『ジャッキー拳』が本格的に流用されていき、ストーリーは『ジャッキー拳』そのままの道筋を辿る。田豊なども登場(ただし花屋の設定はカット)していくが、コメディっぽいBGMを乗せるなどしてコメディ功夫片に見せている。
袁小田はジャッキーを見守る役で顔を出しているが、実際に共演はしていない。それでも絡むシーンになると偽者ジャッキーの出番となり、不自然に顔を隠したり後頭部のアップばかりとなる。この袁小田との絡みで生まれた唯一の救いは、田豊による叱咤の印象が変わったことだろう。『ジャッキー拳』での田豊の叱る様は暴力的で嫌なだけのシーンだったが、袁小田が優しく接する事でジャッキーにとって救いが生じる結果となっている。
その後、石天(ディーン・セキ)演じる麻雀大将とのバトルを経て、田豊と陳鴻烈との対面へ(田豊がジャッキーと姉を戦わせて大怪我をさせる場面はカット)。この陳鴻烈が権永文の子分という設定に変わり、隠れ家を放火される場面で田豊はそのまま死亡する。物語は韓國才が殺されて陳鴻烈とのバトルになるが、当然ここで終わらない。ここからは偽ジャッキーの独壇場になり、袁小田の修行を受けて権永文との決戦に挑むのだった。

▲見ての通りニコイチもどきの作品ではあるが、ストーリーの根本は『ジャッキー拳』そのままだ。
やっている事はフィルマーク作品…というか『火爺』に近いのだが、元ネタよりも豪華な俳優をそろえている点では『火爺』よりも格段にこちらが勝っている。だが、無理矢理コメディに仕立てた場面がミスマッチで、オリジナルで付け加えた部分も全然面白くない。そもそも元の『ジャッキー拳』という作品からして面白くない作品だったので、いくらコメディ功夫片にしようとも面白くなるはずが無かったのだが…ま、話のネタに見るぐらいで十分な作品だろう。

と、そんな訳で『Martial Arts 50 Movie Pack』の収録作品を巡るレビューもこれにて完結である。思えば『Martial Arts 50 Movie Pack』の中で最初にレビューした『猴[馬付]馬』で、私は「全部制覇するのもそう遠くない話かも」と締めくくっている。しかし、この言葉を実際に達成するまで幾多の難関が待ち構えていようとは、当時の私は知るよしもなかった。
『雌雄雙殺』のラストバトル編集問題、『猛獅』『大惡寇』『七殺街』の抗日映画三連発、収録作品で唯一傑作のカテゴリにランクした『三毛流浪記』の登場、苦行のようだった大長編『鬼面忍者』三部作の視聴、そして今回の特集…様々な事のあった『Martial Arts 50 Movie Pack』だが、こうして見終わってしまうと随分と寂しいものだ。中には二度と見たくないようなつまらない作品や、一度も見ずに封印した作品もあるというのに、何故だか無性に名残惜しい。
50本収録というかつてないスケールで発売された『Martial Arts 50 Movie Pack』。だが、いつまた第2第3の同パックが発売されるとも限らない。その時はきっと今回のように十把一絡げのクズ作品がかき集められて収録されるのだろうが、それでも私はそれを見てしまうことだろう。『Martial Arts 50 Movie Pack』を購入した、あの時のように……。

特集・50Movies(09)『燃えよジャッキー拳』

2008-12-21 20:09:06 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「燃えよジャッキー拳」
「タイガー・プロジェクト/ドラゴンへの道・序章」
原題:廣東小老虎
英題:Little Tiger from Canton/The Cub Tiger from Kwangtung
制作:1974年

▼9回に渡って色々と紹介してきた『Martial Arts 50 Movie Pack』在庫セールも、いよいよ『必殺鉄指拳』でオーラス。だが今回はちょっと寄り道して『必殺鉄指拳』の元となった本作の紹介から先に済ませておこう。
ご存知の通り、『必殺鉄指拳』は本作を再編集して作られたデッチ上げ作品だ。似たようなタイプの作品で『醒拳』という作品があるが、こちらはジャッキーが途中で撮影を投げてしまったという複雑な事情がある。だが『必殺鉄指拳』の場合は、ジャッキーの人気が高まってきた時期に勝手に既成の本作を利用して設けようと企んだ、文字通りの詐欺映画でしかないのだ(とはいえ、フィルマークやIFDのニコイチ映画と比べたら随分と良心的なのだが)。

■…という訳で元ネタの本作は、ジャッキーが初主演を飾った記念すべき作品なのだが、やはりというかなんというか凄まじくショボい作品である(爆)。かつて悪党の陳鴻烈(『大酔侠』)によって田豊(ティエン・ファン)の兄弟子が殺された。兄弟子の遺児を育てる事になった田豊は、兄弟子の二の舞にならないようにと、遺児のジャッキーに私闘を厳しく禁じた。
しかし、私闘をしなけりゃ功夫映画は始まらない。さっそくスリの韓國財(ハン・クォツァイ)らに当り散らすチンピラどもと戦いになるジャッキーだったが、ケンカを起こすたびに田豊はジャッキーを叱り飛ばした。このチンピラグループのボスが都合良く陳鴻烈だったりするのはご愛嬌だが、こんなに近くに田豊がいたというのに18年間も行方を掴めなかった陳鴻烈たちは、相当頭が悪いと言わざるを得ないだろう(爆
なんだかんだでジャッキーと田豊の関係は陳鴻烈の知る所となり、ジャッキーは陳鴻烈によって傷を負った田豊を匿って港町へと居を移した。しかしここにも陳鴻烈組織の魔の手が迫り、遂には韓國財が殺されてしまう。怒りを爆発させたジャッキーは不適にあざ笑う陳鴻烈に、怒りの鉄拳を打ち込む!

▲本作は武術指導をジャッキーと元奎(コリー・ユン)の七小福コンビが担当。この2人が手がけているだけあってか、当時の低予算映画にしては功夫アクションの出来は良い。
だが初期作品であるためか動作はどこかもっさりしており、ジャッキー自身もまだ自分なりのファイトスタイルを確立できていない。また、肝心のラスボスである陳鴻烈があまり動けないためか、ラストバトルも随分と小ぢんまりした出来になっている。ネームバリューはあるし、ショウブラスターとジャッキーの対決もレアではあるが、さすがに陳鴻烈がボスというのは…。
また、本作で一番癪に障った存在が陳鴻烈ではなく田豊というのも気がかりだ。田豊はいつもの頑固一徹キャラを演じているが、いくらなんでもジャッキーの話を聞かずに叱咤一辺倒というのは見ていて息苦しすぎる。陳鴻烈の組織がもっと悪らつに描けていれば、あるいは田豊が組織の悪事を知っていた上で自らも我慢していたりすれば、田豊の叱咤にも説得力が持たせられたはず。だが陳鴻烈の組織がやる悪事は月並みなものばかりで、田豊は単に怒ってばかり。その結果、更に田豊のドメスティックぶりが目立つジレンマを抱えている。
私としてはとっとと田豊が陳鴻烈に殺されてジャッキーが怒りの鉄拳を振り上げる展開を望んでいたのだが(酷)、しぶとくも田豊は最後の最後まで生存。巨悪を倒してスカッとしている視聴者とジャッキーに冷や水を浴びせるラストの台詞(あれで今までの爽快感が全てブチ壊し)に至るまで、不快感ばっかりが先行する結果となってしまった。
JVDの仕様にも憤慨したが(いくらフィルムが入手できなかったからといって、セピア同然の画質で中文二段字幕が入ったまんまの素材をソフト化するなんて…)、作品自体も非常にお粗末なもの。この作品が『必殺鉄指拳』になるとどうなっているのかは、また次回のレビューにて。

特集・50Movies(08)『搏紮』

2008-12-18 22:08:07 | カンフー映画:珍作
搏紮
英題:Shadow Ninja/The Killer in White/Ghost of the Ninja/Killer Wears White
制作:1980年

●(※…画像は例によって例の如くということで・笑)
コメディ功夫片の一大ブームは、香港や台湾に無数のジャッキー(或いはサモハンの)フォロワーを大量に生み出す事態を生んだ。
これによって李藝民(サイモン・リー)や張力(チャン・リー)、更にはコメディ系のキャラクターではない戚冠軍(チー・クワンチュン)までもが引っ張り出されることとなったが、徳に重要視されたのが京劇畑の人員だった。香港映画界最大手のショウ・ブラザーズはこの点で最も過敏で、元徳や孟元文といったジャッキーと同郷の面々をコメディ功夫片へと出演させていき、他の七小福も同様の道を辿っていくことは周知の事実である。
このように、京劇独特のしなやかな動きこそが当時のコメディ功夫片に最も求められたものであり、本作の主演を飾った董[王韋](トン・ワイ)もその関係でいくつかの主演作を撮っている。役者としての彼は『プロジェクトD』などで知られているが、ここ最近は武術指導家として活動。近年は話題作や大作に多く参加しており、今なお第一線で活躍し続けている。

本作はストーリーがあまり良く解らないが、新米警官の董[王韋]が任世官(ニン・シークワン)率いる賭博組織と、それに繋がる悪辣な警察内部などの敵(陳龍や大細眼など)と戦うストーリーのようだ。コメディ的な要素はあるものの、物語自体は登場人物が次から次へと殺されていく陰惨なもので、個人的にはあまり好きではない(最後に生き残ったのが董[王韋]だけだというのも…)。
だが、そこでの董[王韋]の活躍ぶりは素晴らしいものがあり、当時の水準以上の仕事をしているのは流石である(クライマックスでを殺されてからキレた董[王韋]のアクションが『ヤングマスター・師弟出馬』チックなのはご愛嬌)。ストーリーが理解できればもう少し評価は上がりそうな作品ではあるが、『Martial Arts 50 Movie Pack』の中では随分マシな方であることは、これまでの特集で紹介したゴミ作品の数々を見れば明白なはずである(爆

特集・50Movies(07)『偸情/火爺/城市忍者』

2008-12-16 21:25:45 | カンフー映画:珍作
偸情/火爺/城市忍者
英題:108 Golden Killers/City Ninja/Ninja Holocaust/Rocky's Love Affairs
制作:1985年(88年?)

▼通算7回目となる『Martial Arts 50 Movie Pack』在庫セールですが…皆さん着いてこれてますか?(爆
こうして特集として紹介こそしていますが、要するに見る予定の無かったクズ作品を無理矢理取り上げているだけのものなので、そのラインナップも非常につまらないものばかり。はっきり言って紹介している私のほうがギブアップしそうなので(苦笑)残る未レビュー作のうち、黒人映画の『喧嘩プロフェッショナル』、『The Black Godfather』、『忍者ジョン&マックス』2本と『ブラックコブラ』三部作は除外。残りの作品と『必殺鉄指拳』でラストにしたいと思いますので、除外したものに関しましては、どうしても見たいという物好きな人だけ見て下さい…(疲)。

■本作はもともと[上下]薩伐(カサノバ・ウォン)主演作だったものが、新たに[上下]薩伐主役版と陳惠敏(チャーリー・チャン)主役版のそれぞれに編集されたという、紆余曲折を経た作品である事は皆さんも周知の事実。今まで散々な作品ばかり紹介してきたが、今回はそのラインナップの中でも最も散々な作品である。
1940年。謎の外人ジョン・レズウィックは、秘宝のありかが記されたネックレス狙うニンジャに狙われていた。ニンジャの猛攻にフラフラのジョンは、なぜか通りすがりのオッサンにネックレスを託した。この場面を筆頭に、本作でニンジャが出てくる場面は全て追加撮影されたシーンだが、フィルマークやIFD以外の新撮ニンジャというのも珍しい(本作の製作は第一影業)。
一転、時代は1985年へ。キックボクシングのチャンピオンである陳惠敏は栄光と名誉に酔いしれていた。その陳惠敏の試合を主催したプロモーターがなぜかネックレスを持っているらしく、そのネックレスを巡って争奪戦が繰り広げられるのだった…と、話の筋はこれだけだ。

▲作中の功夫アクションは、陳惠敏も[上下]薩伐もキレのいいファイトを繰り広げている。前者では陳惠敏VSジョン・ラダルスキー、後者では[上下]薩伐VS韓鷹(イーグル・ハン)という珠玉の顔合わせによるバトルを見ることができ、ラストの陳惠敏VS[上下]薩伐もなかなか壮絶。功夫アクションだけを評価するなら、佳作と言っても差し支え無いだろう。
しかし致命的な事に、本作はお色気シーンの数々がかなり鬱陶しく、ただでさえ追加撮影であやふやな本作を完全に崩壊たらしめている。ストーリーの繋ぎは全て功夫アクションかベッドシーンという有様で、ドラマ性など二の次と言わんばかりにサービスカットが挿入されまくる。陳惠敏も[上下]薩伐も、オヤジ臭がこっちまで漂ってきそうな濃い絡みを作中で何度も展開し、さながら2人によるセックス合戦の様相を呈しているのだ(萎
ニンジャ、濃厚なエロス、功夫アクション、そして破綻しまくったストーリー…構成する要素こそ同じではあるが、フィルマーク作品とは違ったベクトルで疲れる一本。多分これまでの在庫セールで紹介した中では一番見るのがしんどかった作品だと思うが、功夫アクションは一見の価値ありなので、そちらだけ見れば十分かと。

特集・50Movies(06)『The Impossible Kid』

2008-12-14 20:59:45 | 東南アジア映画
The Impossible Kid
制作:1982年

●(※…画像は本作を収録したDVDパックのものです)
『Martial Arts 50 Movie Pack』在庫セールも6回目となると、いよいよ功夫片も底を突いてきたところですが(苦笑)今回は一風変わったフィリピン映画の紹介です。

 本作で主演を務めたのはウェン・ウェンという方で、身長83cmの○人さんです。かつて世界一背の低い俳優としてギネスに記載された事もあり、フィリピンでは結構な人気を誇った大スターだった人でした。
ですが、残念なことに彼は1992年に34歳の若さでこの世を去っています。本作は、そんな彼の看板シリーズであったスパイアクション「エージェント00(Agent 00)」の一編。同シリーズの『For Your Height Only』では、『激突!ドラゴン稲妻の対決』のトニー・フェラーと共演しているそうです。

 インターポール捜査官のウェンは、上官からテロ組織壊滅を依頼される。首領は白い覆面を被った謎の男、ミスターXだ。犯行声明を各所に送っているミスターX…具体的にどんな悪い事をしているのか良く解らないが(笑)、テロリストなら放っておくわけにはいかない。
ウェン捜査官とその仲間たちは組織の幹部たちと熾烈な戦いを続けるが、その裏にはさらに大きな陰謀の影が渦巻いていた…。

…という感じの話ですが、本作の見どころはウェン・ウェン氏そのものにあります。彼はその体格ゆえにスタントダブルが使えないため、作中でのアクションはほぼ全て吹替え無しで演じています(ちなみに格闘シーンでは、身長差の都合で攻撃がほとんど金的オンリー・笑)。
また、彼にとって背の低さは弱点ではなく、逆に武器として活用しまくっている点も実にユニークでした。大人では隠れられないような場所に隠れたり、体格を生かして堂々と敵地に侵入したりするなど、ハンディキャップを逆用した際どいアクションも見せ場の1つといえるでしょう。

 作品としては、巨悪を追うウェン氏が七つ道具で困難に立ち向かい、エロいねーちゃんの裸も出てくる凡庸な『007』系のスパイ映画でしかありません。良くも悪くもまったり気味の作風、一本調子のBGM、なぜか異様にモテモテのウェン氏など、おかしな箇所もいくつかあります。
というか、少なくとも功夫映画や格闘映画と同列に語るには無理がありすぎる本作ですが、ここから先の『Martial Arts 50 Movie Pack』在庫セールも更にレビューしづらい映画が待ち構えているはずなので、そこらへんはご容赦のほどをお願いします(爆

特集・50Movies(05)『七靈寶塔/寶塔侠女劫』

2008-12-12 22:16:26 | 女ドラゴン映画
七靈寶塔/寶塔侠女劫
英題:Seven Spirit Pagoda/Shaolin Temple
制作:1976年

▼(※…画像は本作を収録したDVDパックのものです)
さて、『Martial Arts 50 Movie Pack』在庫セールもこれで5回目。駄作が三本も続いて辛かったが、『人虎戀』のインパクトでなんとかこちらも持ち直しました。今度は台湾の女ドラゴンが活躍する作品なのだが…ああ、やっと普通の作品が紹介できそうで、なんだかホッとします(苦笑

■宴を催していた皇帝・王宇の元に、革命を目論んで鐵孟秋が川原ら軍団を率いて現れた。王宇を筆頭に王族は次々と死に、残された皇子の林光曽は「私の仇を討っておくれ」という王宇の最後の言葉を深く胸に刻んだ。皇帝の死によって政権は鐵孟秋の手へ移り、林光曽は護衛の剣士である聞江龍と共に決死の脱出を試みた。追っ手の川原に見つかり、攻撃を受けた林光曽は毒刃を受けて半死半生だ。同じく毒刃を受けた聞江龍は「後の事は2人の娘に任せる」と、死を賭して敵の足止めに残った。
聞江龍を失いながらも逃避行を続ける一行だが、毒の影響で林光曽はパーになってしまう。このままでは頭どころか命さえも危ない…一行は聞江龍の言っていた徐楓(シー・ファン)と嘉凌(ジュディ・リー)の2人にやっとこさ合流。徐楓は林光曽を治そうと解毒剤のある少林寺の塔にチャレンジし、嘉凌は護衛と共に林光曽を懸命に守り続けた。
少林寺版死亡遊戯を突破した徐楓だが、林光曽を守っていた護衛と嘉凌は川原の猛攻によって大打撃を受けていた。川原はなんとか倒すものの、最後まで闘っていた嘉凌は死んでしまう。最後に残ったのは徐楓と解毒剤で復活した林光曽のみ。鐵孟秋を討つべく、2人は敵の中心へと飛び込む!

▲なんとか盛り上げようと頑張っているのは解るが、どう見ても本作はバリバリの低予算作品だ。背景が思いっきり絵だったり、王の宴なのに出席者が少なかったりと、気になる点もチラホラしている。だが本作の製作者たちは、そんなネガティブな状況に負けることなく、どうにか派手に面白く見せてやろうと最大限の努力を惜しまなかったのだ。
特に「これは」と思ったのは、徐楓と嘉凌の扱いである。物語前半は彼女たちの出番が全く無く、おまけに登場したと思ったらすぐに別行動をとり、再会したらすぐに嘉凌は死亡してしまう。主演というにはちょっと疑問符の付く扱われ方だ。だがここで主役2人を別行動にしたのは、製作側がスターである2人を長く拘束することが困難だったための措置と思われる。苦肉の策とはいえ、双方にそれぞれ見せ場を持ってきている辺りは上手い演出であり、ここらへんの工夫は上手である。
結局、作品自体はそれほど面白いものにはならなかったが、製作者の努力だけは垣間見られる作品に仕上がっている。ラストに功夫アクションを持ってこない演出を、斬新と取るか不満と取るかで、本作の評価は大きく変わってくることだろう。

特集・50Movies(04)『人虎戀/虎姑婆』

2008-12-09 22:21:32 | カンフー映画:珍作
人虎戀/虎姑婆
英題:Tiger Love/Tiger's Love/The Tiger Love/Tiger's Kong Fu
制作:1977年

▼(※…画像は本作を収録したDVDパックのものです)
『50Movie Pack Martial Arts』在庫セールも今回で第4弾。さすがにクズ映画レビュー3連続は避けたいところなので(苦笑)、今回は久々に功夫片の紹介である。監督である金翁の監督作は、同じ『Martial Arts 50 Movie Pack』に収録されていた『猴[馬付]馬』『闖王李自成』に続いて三本目となるのだが、今回も金翁らしく一筋縄ではいかない内容になっている。
…ところで金翁、もしかして動物マニアか?(後述)

■冒頭、羅烈と胡錦が王侠の一団に追われている場面から本作は幕を開ける。実はこの2人はロミオとジュリエットな関係で、双方の家が対立関係にあったのだ(それにしても嫌なロミオとジュリエットだ・笑)。胡錦家の王侠によって羅烈を殺された胡錦は投身自殺をしてしまうが、実は羅烈は生きていた。そして身を投げた胡錦の元には一頭の虎が…?
虎によって助けられた胡錦は、それから虎と一緒に生活を始めた。もとから身篭っていた子供も生まれ…あれ?これって『猴[馬付]馬』とまんま同じじゃないか?ともあれ、生まれた子供はあっという間に虎拳使いの董[王韋](トン・ワイ)へと成長。一人前になった董[王韋]に、胡錦はこれまでのいきさつを明かした。
話を聞いて父のことが気になった董[王韋]は街へと繰り出し、そこで偶然にも羅烈と出会う。長い時を経て再会を果たした胡錦に羅烈は優しく声をかけるが、胡錦はどうにも複雑そうだ。一方、王侠と虎狩りに来ていた娘の夏之夢は董[王韋]と遭遇するが、どうやら董[王韋]は夏之夢を気に入った様子。強引なアプローチで夏之夢の心を射止めるが、夏之夢に横恋慕していた王侠の手の者と争いになり、人を殺してしまった事で話は大事になってしまう。
羅烈は董[王韋]を勘当して追い出したが、怒りの王侠はこれを機に羅烈たちを潰そうと画策。羅烈は果敢に立ち向かったが、結局は多勢に無勢で全滅を喫してしまった。董[王韋]は復讐に立ち上がるも、その戦力差から一時撤退。死に際の側近から話を聞いた胡錦は王侠のところへ仇討ちに向かうが、王侠にやられて?(描写が無いので不明)彼女までもが死んでしまう。
一族の仇を討つことを誓った董[王韋]…だが、その側で胡錦が息を引き取る瞬間を見ていた虎もまた復讐心に燃えていた。怨念に駆られた虎は王侠の一族を根絶やしにしてしまおうと発起し、化け物に変身して(!!?)復讐を開始した。虎が相手ではさすがの王侠でさえもあっという間に瞬殺。しかも虎は王侠を倒しただけでは飽き足らず、夏之夢たちまでも殺そうと暴れまわった。董[王韋]が止めようとするが、果たして2人の運命は…?

▲本作は金洋影業の製作だが、この金洋影業は『猴[馬付]馬』や『闖王李自成』など金翁の監督作ばかり手がけている。
どうやら金洋影業は金翁の会社だった可能性が高いが、そもそもこの金翁という人の作品には動物にゆかりのある物が幾つもある。『猴[馬付]馬』ではチンパンジーとお姫様が結婚する素っ頓狂な作品だし、他にも『狼女』『蛇魔女』といった動物系と思しき作品も存在する。そして今回はそんな彼の動物路線の最終形態ともいえる作品なのだが…以前、何宗道の『蛇女慾潮』を「トチ狂った作品」と形容したが、本作も同様にかなりトチ狂った作品だったのだ!(爆
『蛇女慾潮』は物語自体は結構まともだったが、設定が珍妙過ぎて怪作と化した作品だった。だが本作の場合は、物語そのものの時点から既に狂っているのだから堪らない。最初こそ『猴[馬付]馬』と同じパターンの物語かと思いきや、話の方向はどんどん明後日明々後日の方向へと突っ走り、最後にはホラー&モンスターパニックと化していく。いくら香港映画がなんでもありとはいえ、いくらなんでもこれはムチャクチャ。作品の出来を論じる以前に、製作者が正気だったのかと論じたい作品である(笑
それにしても、どうして『Martial Arts 50 Movie Pack』はこんな凄まじい作品を収録したのだろうか?『鬼面忍者』の件もあるが、向こうの人たちの選定基準がとても気になります。