功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊 vs PLA特殊部隊』

2016-01-30 13:24:34 | カンフー映画:珍作
「ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊 vs PLA特殊部隊」
原題:戰狼
英題:Wolf Warrior
製作:2015年

●中国人民解放軍の凄腕スナイパー・呉京(ウー・ジン)は、仲間の命を守ろうとする意識が強く、たびたび命令違反を犯していた。そんな彼に目を付けたのが、特殊部隊“戦狼”の隊長・余男(ユー・ナン)であった。
彼女の勧めで“戦狼”に入隊し、正規軍との模擬戦闘では見事に勝ち星を上げた呉京。しかし、かつて彼が射殺した麻薬密売人の兄であり、東南アジアの犯罪王・倪大紅(ニー・ターホン)が復讐に動き出した。
彼は元特殊部隊のスコット・アドキンスらを差し向け、呉京の仲間(直前に娘の写真を自慢するという解りやすいフラグ付き・笑)が犠牲となってしまう。軍の誇りを汚し、仲間を殺した悪党を倒すため、男たちの魂が燃え上がる!

 さあ今回も申年&猿にゆかりのある作品を…と思いましたが、続けているとキリが無いのでひとまず終了(爆)。今回はリリースされたばかりの新作動作片の紹介です。
本作は『狼牙 ライジング・フィスト』に次ぐ呉京の監督・主演作で、彼の母国である中国にて製作されています。彼は製作総指揮や脚本にも関わっており、大陸産らしくスケールの大きい画作りが徹底されていました。
しかし何より目を惹くのは、『エクスペンダブルズ2』のスコット・アドキンスが参戦している点でしょう。彼は傭兵部隊のリーダーとして睨みを利かせ、呉京とは最初の接触でいきなり対決。ここでの絡みはすぐに中断し、最終決戦への期待が高まります。
ところが肝心のラストバトルでは、ナイフと蹴りの応酬が展開されたと思いきや、あっという間に終わってしまうのです。決着の付け方も満足のいく物ではなく、惜しいと言わざるを得ません(涙
この顔合わせに加え、武術指導が成家班の李忠志(ニッキー・リー)というお膳立ても揃っているというのに、この程度の内容に留まってしまったのは残念至極。要所要所では良い立ち回りもあるだけに、悔しさはひとしおです。

 ストーリーについても難があり、視聴された方は痛いほど感じたと思われますが、全編に渡ってプロパガンダ的な雰囲気で満ちていました。作品の根底にあるのは“国家最高!軍隊最高!”という思想で、事あるごとにアピールが繰り返されます。
演出面では場面ごとの繋がりが唐突で、「これは回想なのか?」「なぜ彼らは戦ってるのか?」と思ってしまうシーンが続発。特に仲間を撃ち殺さざるを得なかった回想シーンは、誰の過去なのか非常に解りづらい描写となっていました。
功夫スターとして円熟味を増してきている呉京ですが、監督としての評価はまだまだ微妙なところ。『狼牙』は本作よりも見られる出来だったので、できれば次回は香港で撮って欲しいなぁ…。

『トップ・ドッグ』

2016-01-19 23:04:49 | マーシャルアーツ映画:中(2)
「トップ・ドッグ」
原題:TOP DOG
製作:1995年

●まだまだ続く申年フェアですが、皆さんは猿といえばどんな諺(ことわざ)を思い浮かべるでしょうか? 猿も木から落ちる、猿に絵馬、猿の尻笑い…色々あると思いますが、最も有名なのは“犬猿の仲”だと思います。
というわけで、今回は物凄く強引ですが(笑)猿のライバルである犬の映画を見てみました。本作はチャック・ノリス主演のアクション・コメディで、彼と警察犬(上記画像参照)のコンビが犯罪捜査に挑むという物語です。
しかし作品としては目新しいものではなく、過去にも『K-9/友情に輝く星』『ターナー&フーチ/すてきな相棒』といった、同タイプの映画が既に作られています。問題はそこに如何なる特色を盛り込むかという点なのですが…?

 本作のノリスは一匹狼の刑事で、トレーナーを殺された警察犬・リノとタッグを結成。互いに反目しあいながらも、トレーナー殺しの犯人で連続爆破テロを引き起こす極右組織(ネオナチ系)に戦いを挑みます。
この手の作品では、犬が巻き起こす騒動に主人公が振り回されるというのがお約束で、ノリスもしたたかなリノに手柄を奪われたりと七転八倒。本人は相変わらず仏頂面ですが、芸達者なリノとの絡みは実にユーモラスでした。
 もちろん主演がノリスなので、格闘シーンもばっちり用意されています。自宅を襲撃したザコを蹴散らし、組織のアジトで大立ち回りを繰り広げ、最後はボスの腹心とタイマン勝負! コメディのわりには中々のボリュームです。
当時のノリスは『炎のテキサス・レンジャー』で再ブレイクを果たし、まだまだ動きにキレがありました。本作ではややスタンドインの影が見え、最後のタイマン勝負も一方的な展開になってしまうものの、健在ぶりを発揮していたと言えるでしょう。
 ただ、全体を通して見ると野暮ったい部分も多々あります。ノリスとリノの距離が縮まるシークエンスが雑、サブキャラクター(ヒロインやトレーナーの孫)の描写が薄い、ラストバトルでリノがほとんど絡んでこない等々…。
やたらと現実的でシリアスな設定の敵を登場させたりと、幾つか不満の残る本作。しかし作品としては充分コメディとして成立しているし、他の犬の映画にはない格闘アクションという特色もあるので、個人的にはそつなく纏まった佳作だと思いますね。
それにしても、見れば見るほど似ているなぁ…チャック・ノリスとリノの顔って(爆

『マッドクンフー 猿拳』

2016-01-11 20:13:50 | ショウ・ブラザーズ
「マッドクンフー 猿拳」
原題:瘋猴
英題:Mad Monkey Kung Fu
製作:1979年

▼今回は『天中拳』に続いて、猿にちなんだ作品を再びセレクトしてみました。猿といえば猿拳、猿拳といえば『モンキーフィスト/猿拳』!…はもう紹介済みなので、本日は巨匠・劉家良(ラウ・カーリョン)の監督作でいってみたいと思います。
本作は香港映画界をリードしていたショウ・ブラザーズにて、『酔拳』のヒットに追い付け追い越せとばかりに企画された作品の1つです。この手の便乗作過去にいくつかレビューしていますが、どれもある程度の質を保っていました。
そんな中、功夫映画の大家である劉家良が手掛けた本作は、他の便乗作を遥かに凌駕するアクションを構築。“功夫良”の二つ名に恥じない、素晴らしいファイトを残しています。

■物語は劇団を率いる劉家良が、楼閣を経営する羅烈(ロー・リェ)の元に招かれるところからスタート。実はこの男、劉家良の妹・惠英紅(ベティ・ウェイ)に下心を抱いており、彼女を我が物にしようと企んでいたのだ。
その結果、夜這いの濡れ衣を着せられた劉家良は両手を潰され、妹を奪われた挙句に猿回しへ身を落とす事となる。その後も悪党たち(実は羅烈の手下)による嫌がらせが続き、商売道具の猿を殺されてしまう。
 そんな彼を慕い、親身になってくれたのが好青年の小候(シャオ・ホウ)であった。仕事の手伝いを買って出た彼は、度重なる嫌がらせに対抗すべく、「おいらに猿拳を伝授してくれ!」と直訴する。
かくして2人は山籠もりに入り、指やバランス感覚を鍛える特訓に没頭した。その後、一旦下山することになった小候はリベンジを敢行するも、別格の強さを誇る羅烈に敗北。一時は殺されそうになるが、惠英紅の機転によって救われた。
 彼女が師匠の妹と知り、なんとか救出を試みようとする小候であったが、やはり相手は手強い。結局、奮闘むなしく惠英紅は殺され、逃げ帰った弟子から「全ては羅烈の陰謀だった」と聞かされた劉家良は、特訓の総仕上げに突入する。
そして心身ともに充実した猿拳師弟は、いよいよ仇討ちのために楼閣へと向かう。…今、仇討ちのゴングは鳴った!

▲古来より、猿拳映画というものは幾つか作られてきました。大聖劈掛拳の大御所・陳秀中が主演した『猴拳寇四』に始まり、元彪(ユン・ピョウ)の軽快さが光る『モンキーフィスト』、陳觀泰(チェン・カンタイ)の監督作である『鐵馬[馬留]』等々…。
これらに対し、劉家良は自らの得意とする猴拳の妙技と、小候による京劇仕込みのフットワークに全てを賭けたのです。その成果は皆さんもご存じの通り、惚れ惚れとするようなパフォーマンスの連続となっていました。
 冒頭、気を良くした劉家良のデモンストレーションからして、その動作は実に軽やか。実際に内弟子であった小候との演武では、徐々に動きがシンクロしていく様を見事に演じ切っています。
ラストバトルでは、小候がジャッキーや元彪も驚くほどの身軽さを見せ、怒りを内に秘めた劉家良も迫真の殺陣を披露(ちょっと李小龍が入ってるかも)。そんな彼らを真っ向から迎え撃つ羅烈との決戦は、手に汗握る名勝負に仕上がっていました。
 と、このようにアクションだけなら芸術的なレベルなのですが、本作のストーリーはやや小ぢんまりとした物になっています。ギャグに冗長さを感じる場面も多く、もう少し洗練されていたら文句なしの傑作になれたのに…と悔やんでなりません。
しかし先述した過去の猿拳映画にも負けない、圧倒的なボリュームのアクションを誇っているのも事実。のちに猴拳を再演した『超酔拳』ともども、功夫映画ファンには必見の作品と言えるでしょう。

『カンニング・モンキー/天中拳』

2016-01-05 20:53:45 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「カンニング・モンキー/天中拳」
原題:一招半式闖江湖/點止功夫[口甘]簡單
英題:Half a Loaf of Kung Fu!
製作:1978年

●新年明けましておめでとうございます。年明けはいつも休止期間を設けている当ブログですが、今年は早々に再開してみました。更新頻度はどうなるか解りませんが、2016年も功夫電影専科を宜しくお願い致します!
さて今年は申年なので、今回は猿にちなんだ作品をピックアップしてみましょう。猿といえばモンキー、モンキーといえば拳シリーズ…というわけで、成龍(ジャッキー・チェン)の拳シリーズから『天中拳』の登場です。

 この当時、ジャッキーは専属契約していた羅維(ロー・ウェイ)からシリアス路線を押し付けられ、失敗作を連発していました。彼はそんな状況を打開すべく、監督の陳誌華(チェン・シーホワ)とともに新たな様式の映画作りを模索します。
そうして出来上がったのがミステリー功夫片の『蛇鶴八拳』であり、スラップスティックな笑いを追求した『天中拳』でした。特に後者の内容は意欲的で、真面目な作品が多かった当時としては、実に斬新な試みだったと思われます。
しかしその結果、羅維の怒りを買ったことで本作はお蔵入りとなり、ジャッキーは再びシリアス路線へ逆戻り。彼の考えが正しかったと証明されるのは、『蛇拳』や『酔拳』が登場する1年後を待たなければなりませんでした。

 本作はジャッキーにとって初のコメディ功夫片で、そういう意味では大きな意義を持った作品…と言えなくもないのですが、完成度についてはボチボチ。肝心のギャグシーンも洗練されておらず、イマイチな出来となっています。
物語は、ボンクラな青年がひょんな事から武術の達人に成り代わり、ドジを踏みながらも一人前になっていく…というもの。若造の成長物語としてもそつなく仕上がっており、展開に不備は見当たりません。
 ただし序盤はギャグ描写が空回りしていて、主要な登場人物が揃うまでは辛い雰囲気が続きます。後半までジャッキーが弱いままという点も、本作のハードルを上げる一因になっていると言えるでしょう。
とはいえ、中盤からはスタッフもキャストもこなれてきたらしく、アクションと笑いのペースが安定し始めます。敵味方が大集合するクライマックスはとても賑やかで、最後までナンセンスな笑いが炸裂していました。

 この手のコメディ功夫片では、クライマックスで急に陰惨な雰囲気になったり、思いもよらぬどんでん返しが発生する場合があります。本作はそうした脱線を良しとせず、あくまでコメディに徹し続けました。
これは私の想像ですが、ここまでブレずにコメディを貫いた背景には、羅維に対するジャッキーの強い反発があったのではないでしょうか。先述した陰惨な雰囲気・どんでん返しなどは、羅維の好きな武侠片でよくある展開です。
 主人公の造形に関しても、本作と羅維の価値観には大きな隔たりが見られました。羅維が理想とする主人公像はストイックな英雄であり、『成龍拳』や『龍拳』でもその傾向は確認できます。
最後には悲劇的な結末が待ち構え、必ず何かを失うというのがパターン化しているのですが、本作の主人公像はまったくの正反対。ジャッキー演じる江鴻はケンカがめっぽう弱く、口だけは達者なガキンチョとして描かれます。
 味方に犠牲が出ることはないし(モブは除く)、可愛い女の子がいればボケッと見とれることもしばしば。ラストも絵に書いたようなハッピーエンドとなっており、羅維が目指すものとは明らかに異なっています。
功夫片と武侠片というジャンルの違いもありますが、まるで狙い澄ましたかのように羅維と違う方向性を見出した本作。映画としては凡作止まりではあるものの、当時のジャッキーの置かれていた状況を考慮すると、なかなかに興味深い作品といえます。
意地悪な見方をすれば、本作はジャッキーによる壮大な皮肉…だったのかもしれませんね。