功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

【功夫電影専科:功夫動作片番付!(2017年度)】

2017-12-31 20:51:38 | Weblog
 月日が経つのは早いもので、「ブログ開設10周年だから特集を10回やろう!」と思い立ってから、あっという間に一年が経過してしまいました。どうにか完走できたものの、つくづく無茶なことを考え付いたものだと悔やんでなりません(爆
という訳で嵐の様に過ぎていった10年目の功夫電影専科ですが、今年最後の更新は年末恒例の「功夫動作片番付」で行きたいと思います。この企画は一年間に紹介した作品の中から、面白かったものとトホホだったものを選出するという誰得な催しです。
 しかし、2015年は年間レビュー数が28本だったっため、ベスト10を半分に切り詰めて断行。2016年に至っては更新ペースが荒れに荒れ、史上最低の21本となったため「功夫動作片番付」は中止となってしまいました。
ですが今年は連続特集で喝を入れたため、計57本もの作品を紹介することが出来ました。今回はこの中から選りすぐりの作品をセレクトしていきますが、まずはイマイチだったワースト10から列挙していきましょう。

 【功夫動作片番付(ワースト10)】
第10位『極東黒社会』
第9位『無人島物語 BRQ』
第8位『G・F・G ゴールデン・ファンキー・ガール』
第7位『Expect to Die』
第6位『ロボ道士/エルム街のキョンシー』
第5位『Kickboxer from Hell』
第4位『U.S.Catman: Lethal Track』
第3位『男たちの遊戯』
第2位『ニンジャ・コマンドー/地獄の戦車軍団』
第1位『地獄のバトルボーダー/戦場に舞い降りた残虐軍団』
 …まあ2月に特集を組んだ時点でこうなるだろうとは思っていましたが、見事にランキングの半分がニコイチ映画で占領されています(笑
本当なら全部まとめて1位にしても良かったんですが、『エルム街のキョンシー』はムチャクチャすぎて笑える所もあったし、『Kickboxer from Hell』はアクション部分が割としっかりしていたので、微妙に差が付く結果となりました。
 また、今年は邦画系の特集で尖った作品ばかり紹介していたため、ワースト10にはかなりの数がランクインしています。中でも3位に食い込んだ『男たちの遊戯』は久々の問題作で、大物格闘俳優の使い捨てに加え、壮絶なオチのオマケつきという難敵でした(爆
それ以外では、話作りが不親切だった『G・F・G』や『無人島物語』、スターの使いどころを間違えた『極東黒社会』と『Expect to Die』など、「ここさえ良ければ…」と思ってしまう惜しい作品がチラホラありました。
それにしても2月のニコイチ映画特集、あれは本当に辛かったなぁ…(遠い目)。

 【功夫動作片番付(ベスト10)】
第10位『Falcon Rising』
第9位『絶対王者ボイカ(Boyka: Undisputed IV)』
第8位『ドラゴン修行房』
第7位『ワイルドカード』
第6位『捜査官X』
第5位『驚天動地/秋瑾/大漢英豪』
第4位『李小龍 マイブラザー』
第3位『ベスト・キッド(2010年版)』
第2位『ドラゴン・キングダム』
第1位『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地大乱』
 さて次はベスト10ですが、今年は10回にわたる特集企画を開催しただけあって、数々の傑作・名作と巡りあう機会が多かったと思います。
ただ、香港映画系の特集は5回、格闘映画系は2回、邦画系は2回という内訳になっているため、ランキングの内容にはやや偏りが生じています。特に邦画系は先述の通りで、残念ながらベスト10には名を連ねていません。
 そんな中で格闘映画からは圧巻のアクションで魅せた『Falcon Rising』と『絶対王者ボイカ』、ステイサムが男を見せた『ワイルドカード』が推参。12月の王羽(ジミー・ウォング)特集からは3本もランクインし、とりわけ『驚天動地』は印象に残りました。
激戦区だったのは4位~2位までの区間で、どの作品も過去のスターに対するリスペクトに溢れ、完成度の高いものばかり。おかげで順位付けはとても難航し、『ドラゴン・キングダム』が僅差(思い入れの度合い)で2位という結果になっています。
 しかし、この2017年のナンバーワン…もといオールタイムベストは、私にとって『天地大乱』しかありません。私の香港映画に対する興味の原点であり、この作品との出会いが無ければ、格闘映画や邦画作品へ目を向けることも無かったでしょう。
このほか、多くの謎とサプライズに満ちた『神州小劍侠』、格闘映画という枠組みでドラマを展開した『Man from Shaolin』、不良アクションの新たな可能性を示した『B-ON』など、気になる作品との出会いも多々ありました。

 この一年は当ブログにとっても、そして私個人にとっても波乱の年でした。ここ数年は小康状態となっていましたが、一連の特集でようやく功夫電影専科は調子を取り戻すことが出来た…のかもしれません。
また、全10回の特集では韓国や東南アジア圏の映画、メジャーな格闘映画スターの作品にはあまり触れてこなかったので、2018年はそうした作品にも着目していきたいと思っています。
さて、やや急ですが今年の更新は今回をもちまして最後となります。コメントやメールの返信は継続しますが、更新の再開は1月中旬を予定しています。それでは皆さん、良いお年を!

王羽十選(終)『ドラゴン修行房』

2017-12-26 22:09:03 | 王羽(ジミー・ウォング)
「ドラゴン修行房」
原題:虎鶴雙形/少林虎鶴震天下
英題:Tiger & Crane Fists/Savage Killers
製作:1976年

●今日は12月26日。世間では華やかなクリスマスが終わり、大晦日と元旦が間近に迫りつつありますが、当ブログでは相変わらず王羽(ジミー・ウォング)作品一色のまま。季節感ゼロの記事を黙々と更新しています(爆
…なんだか色々と間違っている気がしますが、ここまで来たからには最後まで完走するしかない! というワケで、ついに本日をもってジミー先生特集は最終回となりました。そこで今回はラストに相応しく、彼の代表作のひとつをご紹介いたします。
 時は70年代中盤、李小龍(ブルース・リー)の死去によって功夫片は下火となりました。しかし功夫片そのものは定期的に作られ、『少林虎鶴拳』や『少林寺/怒りの鉄拳』が当時の年間興収ベストテンに食い込んでいます。
中でも劉家良(ラウ・カーリョン)の躍進は著しく、かつてのパートナーだった大導演・張徹(チャン・ツェ)を尻目にヒット作を連発。確かな知識と技量に裏打ちされた名作の数々は、功夫片の在り方を大きく変えていきました。

 特に注目されたのが練功(修行シーン)の描写で、従来の功夫片とは異なった明快な表現、そして有無を言わさぬ説得力に満ちています。劉家良は練功を突き詰め、のちに修行がメインとなる傑作『少林寺三十六房』を作り上げました。
かくして練功は功夫片にとって重要なファクターとなり、張徹も『少林寺列伝』等で対抗。その後、こうした真面目な修行シーンへのアンチテーゼとして『蛇拳』『酔拳』が誕生するのですが、この流行はジミー先生の耳にも当然入っていました。
とはいえ、張徹や劉家良にカンフーの知識で勝てるはずもありません。しかし彼は武術指導と共演に劉家榮(リュー・チャーヨン)、脚本に『少林虎鶴拳』も手掛けた倪匡(ニー・クァン)を迎え入れ、本格的(?)な功夫片を監督するのです。

 さて本作は、仲違いした鶴拳と虎拳の拳士が反目しあいつつ、武術界の制覇を目論む強敵に立ち向かうという王道路線のストーリーとなっています。が、王道を王道で終わらせないのがジミー流。相変わらず今回もツッコミどころ満載の作風となっていました(笑
まず問題となるのがジミー先生のアクションで、今まで勢いだけで立ち回りをこなしていた彼も、本作の複雑な殺陣には相当苦戦したものと思われます(あと武術指導の劉家榮も)
 おかげで劇中のアクションシーンはシリアスなのに和める出来となっていますが、そこはジミー先生のライバル役である劉家榮や、いぶし銀の魅力を見せる陳慧樓(チェン・ウェイロー)が見事にフォローしています。
ただし王道路線のストーリーといっても、主役以外のキャストは引き立て役が基本。劉家榮は最後まで反目したまま死亡し、その恋人だった謝玲玲(ツェ・リンリン)も即効でジミー先生に乗り換えていました(苦笑

 とはいえ、劉家榮は準主役としてしっかり目立っていたし、その他のキャストも個々で熱演を見せています。ラスボスとして立ちはだかる龍飛(ロン・フェイ)についても、その仰々しい存在感はかなりのものでした。
さて、ここで気になってくるのは練功系の功夫片に対し、ジミー先生がどのようなアプローチを試みたのかという点です。本作を監督するにあたり、彼が手本としたのは劉家良の『少林虎鶴拳』だったのではないでしょうか。
 虎鶴雙形という名称、敵の弱点をピンポイントに突く展開などは、同作に関わった劉家榮や倪匡から着想を得たと考えられます。「だが自分は練功について劉家良ほど熟知していない」…そのことを痛感していたジミー先生は、ここで思い切った決断を下しました。
まず修行シーンでは凝った演出を無理に描かず、敵の弱点を突くだけのシンプルな案を採用。敵の弱点も固定された鋲にするなど、徹底的な簡略化を図ります。そして武術の技巧ではなく、いつものアイデア勝負でバトルを征してしまうのです。
 一見すると扱いきれないテーマから目をそらし、自分の得意を押し付けただけに見えるかもしれません。ですが、中途半端に迎合して失敗するよりも、自身のホームグラウンドに引き込んで納得のいく仕事を貫くことにジミー先生は賭けたのでしょう。
これまで練功をメインにした功夫片は数多く作られています。が、練功という要素を自分の色で染め上げ、強引に上書きすることで自らのアプローチとした作品は、他に例がありません。まさに本作はジミー先生だからこそ作れた逸品と言えます。

 天皇巨星・王羽。彼の出演した作品はいかがわしさに満ち、アイデアにあふれ、唯一無二の魅力を誇っています。そのスタイルはバラエティに富み、世界からカルト的な支持を得ていましたが、現在は病床に伏せっているとの事です。
もしジミー先生が退院したとしても、かつてのようにアクションが出来るのか、そもそも日常生活を無事に送れるのかは解りません。しかし、近年も『捜査官X』や『失魂』などで高い評価を得ており、彼のバイタリティーが未だに尽きていないことは明白です。
だからこそ私は信じています。いつの日か銀幕に再臨し、かつてと変わらぬ眼光で後輩たちに睨みをきかせるジミー先生――もとい、天皇巨星・王羽(ジミー・ウォング)の勇姿を!
…2017年を通して始まった10の特集、および王羽十選は今回で終わりますが、きっと彼の伝説は終わらないはずです。ジミー先生の一日も早い回復を祈りつつ、これにて今年最後となる作品紹介の締めにしたいと思います。(特集、終わり)

王羽十選(9)『獨臂侠大戰獨臂侠』

2017-12-23 17:37:57 | 王羽(ジミー・ウォング)
獨臂侠大戰獨臂侠/獨臂刀大戰獨臂刀
英題:One Arm Chivalry Fights Against One Arm Chivalry/Point the Finger of Death
製作:1977年

●天皇巨星と呼ばれ、良くも悪くも香港の映画界を賑わせてきた王羽(ジミー・ウォング)。彼の役者人生は50年以上に及びますが、“あの傑作”と出会っていなければ今のジミー先生は存在しなかったかもしれません。
その作品こそ、彼を一躍スターダムへと押し上げ、張徹(チャン・ツェ)監督の名を知らしめた『片腕必殺剣(獨臂刀)』です。ジミー先生のスター性と張徹の演出、そして華麗な立ち回りによって『片腕必殺剣』は記録的なヒットを記録しました。
 同作はジミー先生の原点ともいえる作品となり、台湾に渡ってからは功夫片としてリメイクした『片腕ドラゴン』を製作。勝手にシリーズを展開し、2代目獨臂刀の姜大衛(デビッド・チャン)を引っ張り出した珍作『獨臂雙雄』にも出ています。
この当時、ジミー先生は『片腕ドラゴン』の続編となる『片腕カンフー対空とぶギロチン』を監督し、ちょっとした片腕ラッシュ状態となっていました。そしてこの『片腕カンフー~』において、彼はある人物と出会います。

 『片腕カンフー~』は武術指導を香港で活躍していた劉家良(ラウ・カーリョン)に依頼し、無理を押して登板してもらったという事情があります。その見返りなのか定かではありませんが、ジミー先生は劉家班の劉家榮(ラウ・カーウィン)を擁立するのです。
劉家榮は劉家良の実弟で、劉家班の主要メンバーであると同時に監督としての才覚も持ち合わせた、実に器用な人物でした。とはいえ、所属するショウ・ブラザースでは活躍の機会が巡ってこず、必然的に外部の会社で経験を積まざるを得なくなります。
 ジミー先生に劉家榮が預けられたのは、少しでも活躍の場を与えたかった劉家良の采配(或いは劉家榮自身の判断)だったのでしょう。かくして劉家榮はジミー先生と肩を並べ、主演スターとして本格的なキャリアをスタートさせました。
本作はそんな2人が組んでいた時期の作品で、劉家榮はジミー先生と並び立つ“もう1人の獨臂刀”という大抜擢を受けています。ただし作品自体は『片腕必殺剣』と無関係で、『獨臂侠大戰獨臂侠』という微妙なタイトルがそれを暗に示しています。

 物語は、反清復明を掲げる光華會に所属するジミー先生が片腕を失い、仲間殺しの濡れ衣を着せられるというシリアスなもの。この殺害された仲間というのが清朝の内通者で、連中に家族を殺された劉家榮(こちらも片腕剣士)が方々で辻斬りを繰り返します。
同じく内通者の光華會幹部・梁家仁(リャン・カーヤン)が暗躍する中、劉家榮は知らぬ間に生き別れた弟(喜翔)と再会するのですが、光華會を混乱させた遠因となったため、ジミー先生と刃を交えることに……。
 ここに華山派で心強い味方となる王冠雄、全ての黒幕である皇帝・龍飛(ロン・フェイ)も加わり、最後の戦いが幕を開けます。ただし演出にキレがなく、せっかく面白くなりそうな要素が幾つもあるのに、それらが全て消化不良に終わっているのです(爆
ジミー先生はただ強いだけで特徴に乏しく、それ以外のキャラクターも月並みな人物設定に留まっているので、あまり奥行きが感じられません。ロケ地も閑散とした野原や山道ばかりとなっており、それが本作の粗末さをさらに助長させていました。
 しかし、アクションは劉家榮自身が受け持っているため、それなりに趣向を凝らしたファイトが楽しめます。2人の片腕剣士は刀に限らず、素手での戦いも得意なので殺陣のバリエーションもなかなか豊富です。
ラストは武器同士によるジミー先生VS龍飛、素手同士による劉家榮VS梁家仁という異なる特色のバトルが堪能できますが、そこへ至る展開も実に淡泊。本当に素材だけは良いのに、つくづくストーリーの煮え切らなさが惜しまれます。

 ジミー作品らしいツッコミどころはあるものの、彼の魅力が出し切れたとは言い難い作品。やはりここはジミー先生直々にメガホンを取って欲しかったところですが、実は劉家榮とのコラボでその条件を満たした映画が1本だけ存在します。
果たして、彼が手掛けた真骨頂ともいえる作品の実態とは? 次回、長いようであっという間だったこの特集もこれでラスト…今年最後の作品紹介にして、我らが天皇巨星の本領を発揮した快作に迫ります!

王羽十選(8)『驚天動地/秋瑾/大漢英豪』

2017-12-22 16:12:41 | 王羽(ジミー・ウォング)
驚天動地/秋瑾/大漢英豪
英題:Dragon Fist/Chow Ken/Fury of King boxer
製作:1972年

●清朝末期、中国で革命の父と呼ばれた孫文に賛同し、動乱の時代に散った1人の女傑が存在します。その名は秋瑾――血気盛んな女性革命家で、明治時代の日本に留学して中国同盟会に参加。のちに浙江省での蜂起が失敗し、31歳の若さで処断されました。
彼女の壮絶な生涯は何度も映画化されており、2011年には黄奕(クリスタル・ホアン)主演の歴史アクション『秋瑾 ~競雄女侠~』が公開され、新たな秋瑾像が作られました。
 しかし、それより39年前に秋瑾を題材にした功夫片が、台湾のファースト・フィルム(香港第一影業)で製作されていたのです。本作は主人公の秋瑾を郭小荘が演じ、王羽(ジミー・ウォング)ことジミー先生とダブル主演を飾っています。
監督は台湾映画界の名匠として数々の作品に関わった丁善璽が担当。彼はジミー先生と何度もタッグを組んでおり、後年の主演作である『ジョイ・ウォンの妖女伝説』も監督していますが、今回は冗談抜きのシリアスな作風を徹底していました。

 ストーリーは義和団事件で揺れる中国からスタート。既に革命家として一目置かれていた彼女が日本に留学し、現地の革命勢力と手を結び、上海に渡って中国女報を創刊…といった具合に、おおむね史実通りの物語が進みます。
劇中では当時の世情が反映され、実在の烈士や大臣たちも登場しています。ジミー先生は革命家の徐錫麟を演じていて、本作では郭小荘をバックアップするために捨て身で戦う、相棒のようなキャラクターとなっていました。
 他にも、同じく革命家で闘死する陳伯平に謝興(武術指導も兼任)が、革命を阻む謎の男・劉光漢(劉師培)に安平が、徐錫麟に討たれた政府高官の恩銘に易原が扮しています。
後半からは史実と同じく、一斉蜂起の機を誤った(劇中では易原の思わぬ行動により計画を急きょ変更した?という設定)ジミー先生が、決死の覚悟で政府軍へ挑む展開に。このあたりは完全に彼の独壇場と化しており、獅子奮迅の闘いが見られました。
 革命家たちが辿る最期も事実に即しており、この徹底した忠実さからは丁善璽による気合の入れようが見て取れます。しかし事実と異なる部分もあり、映画的な脚色をされているパートもあります。
例えば、wikiによると秋瑾とは不仲だった夫・王廷鈞(演者は江明)とのロマンスが用意されており、立場や意思の違いで想いがすれ違うという切ないシーンがあります。
また、史実では抵抗する間もなく政府に捕まった秋瑾が、本作のラストでは大立ち回りを披露。逆にカットされた箇所もあり、かの魯迅も目撃したという留学生相手に激情し短刀を机に突き立てたエピソードは割愛されていました(これは見たかったなぁ)。

 さてアクションについてですが、こちらは郭小荘とジミー先生の両方に万遍なく用意されており、テンションの高い殺陣が随所で見られます。動員されたキャストやセットの規模も、従来のファースト・フィルム作品に比べて破格のスケールとなっていました。
憲兵隊との乱戦、連合国軍の用心棒たちとの戦い(ここだけ若干ジミー作品っぽい)も悪くありませんが、注目すべきは主役2人による最終決戦です。どちらの戦いも壮絶極まりないものとなっていますが、特にジミー先生のラストバトルは見応えがあります。
 ジミー先生は学堂の式典で仲間たちと決起し、大勢の護衛に守られた易原を討つべく奮戦! 謝興に加え、実在の革命家・馬宗漢も加勢するんですが、なんとそれを演じているのが山茅(サン・マオ)なのです。
山茅といえば、ジミー先生の舎弟にして彼の主演作の常連俳優。同じ舎弟の龍飛(ロン・フェイ)に比べると、中ボスや噛ませ役を宛がわれることが多い傾向にあります。
 そんな彼が、本作では主人公の味方を演じたばかりか、この一戦では肩を並べて共闘! ともに蜂起の計画を練り、仲間たちが死にゆく中でも必死に戦い、重傷を負ってもなお立ち上がろうとするなど、かなりの熱演を見せているのだから堪りません。
ジミー先生も上へ下へと駆け回り、政府高官なのにやたらと強い易原を倒し、さらに大勢の兵士を相手に戦い続けます。郭小荘が短刀を手に戦うラストバトルも見事なんですが、個人的には12分以上に及ぶジミー先生の大激闘の方が好みでした。

 重厚なストーリーに圧倒され、入魂のアクションに見入ってしまう骨太な傑作。のちに数々の戦争大作を任され、『プロジェクトA』へ参加したのも納得できる丁善璽の代表作…といっても過言ではないでしょう。
とはいえ、ここ数日はジミー先生特集なのに真面目な作品ばかりが続き、ちょっとダレてきてしまいました(爆)。この特集も終わりが近づいてきたので、次回はいつもの彼らしいバラエティに富んだ作品をピックアップいたします!

王羽十選(7)『獵人』

2017-12-21 23:13:12 | 王羽(ジミー・ウォング)
獵人
英題:The Great Hunter/The Hunter
製作:1975年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 数々の武侠片・功夫片で名を馳せた王羽(ジミー・ウォング)は、60年代に当時の香港映画最大手のスタジオ、ショウ・ブラザース(邵氏兄弟有限公司)でデビューしました。
彼はヒット作を連発しますが、方針の違いから同社を離脱。次にライバルのゴールデン・ハーベスト(嘉禾電影有限公司)に移籍するも、トラブルによって活動拠点を台湾へと移さざるを得なくなります。
 その後のジミー先生は皆さんも知っての通り、数々のトンデモ功夫片を撮りまくっていく事になるんですが、全ての面において彼が主導していた訳では無いと思われます。
確かに、彼は様々な方面(意味深)に顔が利くし、大スターでもあったため現場での発言力は大きかったでしょう。事実、ジミー先生が監督じゃないのに素っ頓狂なテイストに満ちた作品は多く、以前取り上げた『不死身の妖婆』では丁善璽が監督でした。

 しかし時には我を通さず、あくまで一人の役者としてドッシリと腰を据え、自らの個性を抑えた作品にも出演しています。本作は『スカイ・ハイ』と同じ年に製作された作品ですが、ジミー先生らしさは息を潜め、とてもシリアスなタッチで作られていました。
ストーリーは警備隊を指揮する父を殺されたジミー先生が、妹の嘉凌(ジュディ・リー)とともに真の敵へ迫っていく、というもの。慈善家の皮を被った黒幕には張翼(チャン・イー)が扮し、そこに謎の殺し屋・陳鴻烈(チェン・ホンリェ)も絡んできます。
 いつものジミー作品なら、主人公が敵の賭場に押し入って大乱闘を演じたり、悪漢に襲われるヒロインを堂々と助けたりしますが、本作はそうしたご都合主義を一切カット。中心となるのは登場人物たちの駆け引きで、ジミー先生も前半はあまり目立ちません。
宿屋の女主人・徐楓(シュー・ファン)も交えて進むストーリーは、活劇というよりサスペンスに近く、奇しくも前回取り上げた『捜査官X』に近い物があります(って流石にそれは言い過ぎか・苦笑)。

 後半は敵サイドのドラマも濃くなり、物語の把握が難しくなってくるのですが(私が見たのは英語版)、単なる勧善懲悪ではないストーリーに引き込まれます。ラストもジミー作品にしては珍しく、かなり苦い結末となっていました。
本作を監督したのは、座頭市と空飛ぶギロチンが戦う『盲侠血滴子』を手掛けた屠忠訓で、ジミー先生とのコラボはこれが初。恐らく本作がシリアスなタッチで落ち着いたのは、奇をてらうよりも実直に行こうと考えた屠忠訓の案…だったのかもしれません。
 結局、両者の関係は本作と翌年の『燈籠街』だけで終わっていますが、功夫アクションは派手な見せ場こそ少ないものの、腕に覚えのある出演者たちによって中々の迫力が出ています。
前半はおもに嘉凌が立ち回り(途中で嘉凌VS徐楓の女ドラゴン対決が!)、主役のジミー先生が動き出すのは中盤から。対する陳鴻烈はナイフ、ラスボスの張翼は仕込み分銅つきの杖を使用し、アクション面にトリッキーさを加味しています。
 ラストのVS張翼は意外と壮絶で、いつもなら姑息なギミックやケチくさいスタイルで対抗するジミー先生が、本作では特別な必殺技を持っていないため苦戦を強いられます。…う~ん、ここまで真っ当だとジミー先生が別人に見えてくるなぁ(爆
とはいえ、アバンギャルドさのない天皇巨星は新鮮だったし、もう少しこういう路線の彼が見たかったのも事実。そこで次回は、ジミー先生が気心の知れた名監督と共に挑んだ、ある偉人の歴史劇を紹介したいと思います!

王羽十選(6)『捜査官X』

2017-12-17 14:58:06 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「捜査官X」
原題:武侠/武術
英題:Wu Xia/Swordsmen/Dragon
製作:2011年

▼かつては最後の本格派と呼ばれ、今や宇宙最強の男として名だたる存在となった甄子丹(ドニー・イェン)。以前の彼は知る人ぞ知るB級カンフースターであり、その人気もローカルなものでしかありませんでした。
しかし、大ヒットした『HERO 英雄』や『SPL/狼よ静かに死ね』でアクション映画ファンを驚嘆させ、その人気は世界中を席巻。ハリウッドでも成功をおさめ、幅広く認知されていく事となります。
 「…あれ? 今月は王羽(ジミー・ウォング)特集じゃなかったっけ?」と皆さん思ってらっしゃると思いますが、本日紹介するのはジミー先生が甄子丹と夢の共演を果たした異色作、『捜査官X』なのです(だから今回だけカテゴリが甄子丹になってます)。
この作品は普通の功夫片ではなく、推理ミステリーや家族への愛、古き良きカンフー映画へのオマージュなどが絡み合った、実に複雑怪奇な構成となっています。
これだけ盛り沢山だと破綻しそうですが、陳可辛(ピーター・チャン)監督はこれらを纏め上げ、しっかりと1つの作品に仕上げています。果たしてジミー先生と甄子丹、そして金城武はどのようなアンサンブルを奏でたのでしょうか?

■時は1917年…静かな中国の片田舎で、二人組の強盗(喩亢(ユー・カン)と谷垣健治)が紙職人の甄子丹に抵抗され、奇妙な死を遂げた。村人は彼の行動を賞賛するが、捜査官の金城は強盗たちの死因に疑問を抱いていた。
金城はかつて凄惨な事件に遭遇し、その後遺症を治すために鍼を打ち続けている。ゆえに点穴の知識を持つ彼は、甄子丹が人知れず強盗の急所を突いて仕留めたのでは?と推察。捜査の手は甄子丹本人や、その妻・湯唯(タン・ウェイ)へと及んでいく。
 やがて甄子丹が村の外から来た人間であり、重い罪を背負っていることが明かされる…のだが、「甄子丹は恐るべき達人に違いない」と金城は確信していた。そして外部に頼んでいた捜査結果を聞き、その推理が事実だと判明する。
実は、甄子丹は“七十二地刹”と呼ばれる暗殺組織に属し、トップクラスの実力を誇る最強の刺客だったのだ。血生臭い生き方に辟易した彼は、組織から足抜けして過去を捨て去っていたのである。
 だが、経緯はどうあれ今回の事件における甄子丹は無実。それでも愚直な正義を貫こうとする金城であったが、一方で甄子丹を自陣に連れ戻すべく、組織の教主であり甄子丹の実父・ジミー先生が動き出した。
かくして惠英紅(ベティ・ウェイ)ら刺客集団が放たれる。甄子丹はかつての仲間たちを退けるが、自らの素性が村人に明かされたばかりか、多くの人々が犠牲に…。遅れて到着した金城は、最終的に甄子丹を助けようと一計を案じた。
 彼は鍼を利用し、甄子丹を仮死状態にさせて警察と組織の目を欺こうとする。しかし組織の手からは逃れられず、彼は驚くべき行動に打って出た。そして家族を救うため、満身創痍の甄子丹はジミー先生と相対する。
底知れぬ憎悪を燃やすジミー先生と、必死に抗う甄子丹&金城。果たして示されるのは正義なのか、それとも…!?

▲本作は変わったタッチの作品となっていて、前半は金城がメインの推理パート、後半は甄子丹がメインのアクションパートに分かれています。主役がガラリと変わる辺りは『ローグ アサシン』を彷彿とさせますが、あちらほど散漫な内容にはなっていません。
まず推理パートでは事件の様子が克明に描かれ、捜査によって徐々に事実が明かされていきます。発端となる甄子丹VS喩亢&谷垣のバトルは2度に渡って行われますが、事件当時と捜査による回想で内容が違っており、この演出には意表を突かれました。
 この推理パートは幾つかアクションがあり、時おり緊張感が伴うシーンもあったりしますが、やや落ち着いた雰囲気で進行します。しかし甄子丹の正体が判明し、ジミー先生が動き出してからは空気が一転するのです。
後半のアクションパートは甄子丹の独壇場となり、鬼のような形相で迫る惠英紅とのドリームマッチ、刺客たちとの白熱した激突が連続して展開! ケジメをつけた甄子丹の姿(谷垣導演いわく「スケジュールの都合による産物」)にもニヤリとさせられます。

 しかし本作のクライマックスはここから。ついにジミー先生が甄子丹の前に現れ、愛憎入り混じった感情を爆発させるのですが、その様相はあまりにも恐ろしく、観客は彼の一挙一動から目を離せなくなります。
かくて始まるラストバトルでは、鐵布杉で防備を固めたジミー先生が無敵の強さを見せ、甄子丹を圧倒! 一部でスタントを使いつつも、老骨にムチ打って奮戦するジミー先生の勇姿には私も驚かされました。
 その後も激しい攻防戦が続き、甄子丹たちが劣勢に立たされたその時、突如として勝負は決着を迎えます。この結末はかなり唐突な感じがするんですが、あのジミー先生を倒すにはこうでもしないと不可能。金城の最期も含め、私はこれもアリだと思いました。
ところどころに作り込みの甘さを感じますが、色々と深読みのできるラストなど、実に味わい深い逸品。本作が切っ掛けなのかは解りませんが、近年ジミー先生は映画界へ復帰するようになり、銀幕のスターとして再起を果たしつつあります。
そこで次回は、彼がアクションスターの全盛期を迎えていた70年代にタイムスリップ! 本作と同じく、名うての女ドラゴンと共演した未公開作に迫ります!

王羽十選(5)『極東黒社会』

2017-12-15 23:23:47 | 王羽(ジミー・ウォング)
「極東黒社会」
「極東黒社会 Drug Connection」
英題:Drug Connection
製作:1993年

●バブル崩壊に見舞われ、混迷を極めていた経済大国日本。中でも新宿歌舞伎町は人種の坩堝(るつぼ)と化し、これに目を付けたイタリアン・マフィアが麻薬市場の進出を目論んでいた。
一方、歌舞伎町では新興の香港マフィアが台頭し、台湾マフィア(ボスの補佐役は『力王』で四天王を演じた杉崎浩一)と血で血を洗う抗争を展開。この衝突に、フリーの麻薬密売人であった役所広司と近藤真彦も巻き込まれていく事となる。
 激化するマフィアの抗争に対し、警視庁はNYから潜入捜査官のショー・コスギを招き入れ、一匹狼の刑事・中条きよしと共に捜査へ当たらせた。ひょんな事からショーは役所と出会い、奇妙な縁で結ばれるのだが…。
やがて役所の仲間だった売人が香港マフィアの刺客・林偕文に殺され、彼らとマフィアの龍頭・王羽(ジミー・ウォング)の対立は決定的なものに。その過程で北原佐知子がジミー先生に暴行されるが、たまたま居合わせた近藤によって助け出された。
 役所もまた、ショーと因縁のあるジェシカ・ランスロットと出会い、襲いかかって来た林偕文をショーと共に撃破。意を決してジミー先生の麻薬工場に殴り込むが、敵の逆襲によって近藤と北原が犠牲となってしまう。
怒りに燃える役所は、弱腰の警察に見切りを付けたショーや中条、ジェシカたちと共同戦線を組んだ。かくして、彼らは香港マフィアと軍門に下った地元ヤクザ、そして提携を目論むイタリアン・マフィアを一掃すべく、最後の戦いに挑む!

 本作は日本・アメリカ・香港・台湾から国際色豊かなキャストを迎え、過剰なバイオレンスとドンパチで彩ってみたら、思いっきり収拾がつかなくなった作品です(苦笑
ストーリーとしては、武闘派の香港マフィアが好き勝手やりまくり、対抗馬の台湾マフィアは困り顔。そこに日本とイタリアの悪党が乗っかってくるという構図なんですが、次々と人が死んでいく上に新勢力が乱立するので、話が無駄にややこしくなっています。
 キャラクターの設定も荒唐無稽で、いくらなんでも役所が外人部隊出身というのは無理ありすぎ(爆)。売人なのに知り合いがヤク中になったら動揺しまくる近藤、決戦に参加するには動機が薄いジェシカなど、こちらもムチャ振りだらけでした。
中条が死んだ事に誰も触れないまま向かえる最終決戦も、唐突な伏線回収やメインキャラの壮絶な死が相次ぎ、まさに混沌の極みと化しています。最後の役所とショーのやり取りも抽象的すぎて(伏線はあるけど)、誰しも呆気に取られる事は間違いないでしょう。

 そんな中、我らがジミー先生は香港マフィアの元締めとして登場し、モノホンの迫力でスクリーンを席巻。本作で唯一リアリティを感じさせるキャラクターを演じていますが、彼が立ち回るシーンは一切ありません。
私が本作を視聴したのは、『片腕カンフー対空とぶギロチン』でジミー先生を知って間もない頃でした。彼に加えてニンジャスターのショー・コスギまで参加していると知り、夢の共演やアクションに随分と期待しました。
 しかし本作のアクションは銃撃戦がメインで、ショーの格闘戦もほんの僅か。対戦相手もジミー先生や林偕文(彼は『ドラゴン特攻隊』でジャッキーとの対戦経験アリ)ではなく、非・アクション俳優の役所広司という選出にはガッカリしてしまいました。
当時の私は銃撃戦より肉弾戦を好んでいたため、ラストバトルはとても退屈だったと記憶しています。終盤でジェシカを人質に取られる展開になった際は、「やっと素手の勝負が!」と浮き足立ったものです(←直後に期待は裏切られますが)。

 ところで本作には欧陽龍という中国系の俳優が出演しています。彼はショーの相棒として登場し、ラストバトルでは永倉大輔(当時は長倉大介名義)とともに自爆するんですが、ネットで検索しても出演作が見当たりません。
調べたところ、彼の正体は歌手の欧陽菲菲の弟にしてチェリストであるNana(欧陽娜娜)の父親。現在は台北で市会議員に就任しているそうで、私はてっきり王建軍(本作に出演しているそうですが詳細は不明)の変名かと思っていました(汗
 結局、作品としては地雷級の失敗作ではありますが、ジミー先生の存在感だけは特筆すべき珍品。これ以後、ジミー先生は映画界から距離を置き、しばらく本作が最後の映画出演作として扱われていました。
しかし、長年の沈黙を破ってついに天皇巨星が復活を果たす時が訪れます。宇宙最強の男を相手に、伝説の女ドラゴンを従えたジミー先生が見せる“恐怖”とは…詳細は次回にて!

王羽十選(4)『いれずみドラゴン 嵐の決斗』

2017-12-12 16:35:44 | 王羽(ジミー・ウォング)
「いれずみドラゴン 嵐の決斗」
原題:龍虎金剛
英題:The Tattooed Dragon
製作:1973年

●背中に龍のいれずみを背負った風来坊・王羽(ジミー・ウォング)は、強盗団から奪われた義援金を見事に取り返した。しかし思わぬ逆襲に遭い、深手を負った彼は何処ともなく姿を消してしまう。
一方こちらは片田舎の村でノンビリと暮らす許冠傑(サミュエル・ホイ)。彼は村長の一人娘・張艾嘉(シルビア・チャン)との結婚を夢見ているが、どうにも踏ん切りがつかずにいた。彼は傷付いたジミー先生を発見し、療養のため自宅に匿うこととなる。
 そのころ強盗団の頭目・田俊(ジェームス・ティエン)は、ジミー先生に奪われた義援金のことは一旦保留し、別の悪事を企てようとしていた。彼曰く、ある村に巨大な地下鉱脈が眠っており、秘密裏に村ごと乗っ取ってしまおうと言うのだ。
田俊は村に賭場を作らせ、ギャンブル中毒にした村人を借金漬けにした挙句、担保として土地の権利書を簒奪。着々と乗っ取り計画を進めていくが、その村こそジミー先生が身を寄せている場所だった。
 やがて許冠傑の友人・李昆(リー・クン)が博打にのめり込み、悲観した妻子が心中するという悲劇が起きる。村長も強盗団に袋叩きにされ、この状況を見かねたジミー先生は怪我を押して立ち上がった。
まず手始めに賭場で大博打を仕掛け、連中から村人の金と権利書を巻き上げた。さっそくリベンジに現れた強盗団だが、彼と許冠傑の敵ではない。かくして人々の財産は返還され、事件の解決を見届けたジミー先生は村を去ろうとする。
だが、この状況に業を煮やした田俊が自ら動きだし、たちどころにジミー先生の存在を察知。連中は許冠傑を殺害し、それを知ったジミー先生は一目散に賭場へと乗り込んだ。今…ここに、嵐の決斗が幕を開ける!

 『燃えよドラゴン』の登場によって、日本では未曾有のカンフー映画ブームが巻き起こりました。そのムーブメントは凄まじく、あっという間に方々の映画館に「ドラゴン」の名を冠した作品が溢れ返ったのです。
ジミー先生も『片腕ドラゴン』で日本に上陸し、その知名度を極東の地にも知らしめました。本作もその1つで、製作は嘉禾電影ことゴールデンハーベスト、監督は羅維(ロー・ウェイ)、ロケ地はタイという『ドラゴン危機一発』的な陣容で製作されています。
 作品としては可もなく不可もない…といった感じの出来で、ジミー先生らしい奇抜さは低め。台湾では気心の知れた監督とやりたい放題していた彼も、香港映画大手の会社でキャリアのある監督と組む場合、流石に譲歩しなければならない点があったのでしょう。
また、速効で察せてしまう許冠傑の死亡フラグ、じっくり描きすぎて気が滅入ってしまう心中シーンなど、マイナスポイントもいくつかあります(李昆のギャンブル中毒設定も『スカイホーク鷹拳』と被っていますが、こちらは本作の方が先だった模様)。
しかし全体としては悪くない出来で、なかなかの力作に仕上がっていました。

 確かにストーリーはありきたりではあるものの、禁欲的で正義感にあふれる主人公はとても魅力的だし、キャラクターの立たせ方も上々。デビュー間もない許冠傑と張艾嘉も初々しく、芸達者な演技を見せるワンちゃんにも目を引かれます。
敵となる強盗団はずっと同じ面子ばかりで精彩を欠きますが、ラストバトルでは実力を見せてこなかった田俊が奮戦し、豪快な回し蹴りでジミー先生に肉迫! 対するジミー先生も全編に渡ってエネルギッシュな動作を見せ、荒っぽい立ち回りを披露しました。
 ちなみに終盤でジミー先生は田俊を燃やして倒すんですが(苦笑)、ここでの火だるまスタントを田俊は替え身なしで演じています。しかも見るからに薄着で、バトルの行方より田俊の安否のほうが気になってしまいました(爆
『ドラゴン危機一発』を期待すると肩透かしを食らうものの、全体的に堅実な作りを保っている逸品。なお、本作の配給は東映が行っていたそうですが、そのことがジミー先生と日本を再び結びつけることになります。
そんなわけで次回は、時を経てダークなオーラを纏ったジミー先生が歌舞伎町に出現! 無駄に豪華なキャストが集結した底抜け超大作の全貌とは…詳細は後日にて!

王羽十選(3)『ドラゴンVS不死身の妖婆』

2017-12-10 16:10:55 | 王羽(ジミー・ウォング)
「ドラゴンVS不死身の妖婆」
原題:英雄本色
英題:Knight Errant/Dragon Fist
製作:1973年

●ひと口に功夫片といっても、その価値は取り合わせの妙によって決まります。たとえ主役が強くても、物語や設定が洗練されていなければ野暮ったくなり、逆に基礎がしっかりしていても主役に華が無ければ、一気にショボく見えてしまうものです。
例えば、『酔拳』では主人公が軽薄なボンクラ青年で、師匠も小汚いジイさんという(当時としては)斬新な設定となっていました。一方でストーリーも青年の成長物語として完成されており、この完璧な取り合わせが同作を大ヒットへと導いたのです。
仮に主人公がジャッキーではなく、愛想のない無骨な俳優だったら『酔拳』は違う結末を辿ったでしょう。また、ジャッキーが主役でも赤鼻じいさんや父親が無残に殺されるストーリーだったら、ここまでの支持は得られなかったと思います。
 さて、なんだが前置きが長くなってしまいましたが、こうした取り合わせの妙を凄まじい変化球で繰り出しつづけた俳優が存在します。…そう、我らが王羽(ジミー・ウォング)です。
ジミー先生は、片腕の主人公が盲目のギロチン坊主と戦う『片腕カンフー対空とぶギロチン』、主人公が化物じみた空手家軍団と戦う『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』など、余人には想像もつかない取り合わせでスクリーンを彩ってきました。

 その極北…変化球どころかデッドボール級の取り合わせを実現させたのが、この『ドラゴンVS不死身の妖婆』です。本作はジミー先生が倉田保昭と初共演を果たした作品で、ともに全盛期だった2人の対決が見どころの1つとなっています。
しかし、ジミー先生は真っ向から戦うだけのストーリーを良しとせず、タクシー運転手の主人公と不死身の妖婆が殺し合いを展開するという、あまりにも狂ったシナリオに挑戦。その結果、他に類を見ないクレイジーな作品と化していました(笑
 物語は、割腹自殺を果たした帝国軍人の遺児である三兄弟が、謝金菊(ツェ・カムガク)の元で激しい修行を受けている場面からスタート。このシークエンスは異様にテンションが高く、ぶっ壊れた日本語とも相まって見る者を圧倒たらしめます。
三兄弟は倉田と龍飛(ロン・フェイ)山茅(サン・マオ)に成長しますが、同時に喧嘩っ早いジミー先生によるアットホームなドラマも進行し、両者の関係性がまったく見いだせぬまま話は進んでいくのです。
 その後、ジミー先生の父・魏蘇が三兄弟の父親を死に追いやったと説明が入り、三兄弟は台湾へと上陸。ここからツッコミどころがさらに増えますが、車のブレーキを細工されたジミー先生の顛末は、製作当時だれも疑問に思わなかったんでしょうか?(苦笑
やがて父と従弟の高雄(エディ・コー)を傷付けられ、妹をさらわれたジミー先生は三兄弟を返り討ちにするものの、今度は謝金菊が降臨! ここの演出は『片腕カンフー~』を凌駕する程の恐ろしさに満ちていて、最後まで目が離せませんでした。

 さて、あまりにも無茶なストーリーに目を奪われがちですが、アクションの方はジミー先生お得意のケンカスタイルで、今回もテンポのいい立ち回りが楽しめます。脇役の高雄にも見せ場があり、全編にわたってアクション満載の賑やかな作りとなっていました。
一方で敵となる三兄弟は、長男の倉田さんが別格の存在という設定になっていて、龍飛と山茅の活躍は抑え気味。終盤の連戦でも龍飛たちは呆気なく倒されますが、倉田さんだけはヌンチャクや蹴りを武器にジミー先生を追い詰めていきます。
 このへんの采配は、当時大スターだった倉田さんを立てるための計らいだったのでしょう(『不死身の四天王』の陳星みたいに)。しかし、そうした打算を跡形もなく吹き飛ばしたのが、ラストに待ち受けるジミー先生VS謝金菊の死闘でした。
謝金菊は気功術を会得していて、打撃どころか車で轢いてもノーダメージ。功夫片に攻撃の効かない敵は何人かいますが、ここまで化け物じみたキャラはそうそういません(得体の知れなさで言えば銀魔王より数段上)。
 必死で食い下がるジミー先生と彼女の対決は、功夫片というよりホラー映画のノリに近く、そのインパクトは劇中の誰よりも強烈だったと言えるでしょう。しかし、本作を見ていると「取り合わせの妙ってなんだろう?」と考えてしまいますが…ま、いいか(爆
数あるジミー先生の主演作の中でも、奇抜さという点においてはトップクラスに君臨する本作。なんとも強烈な代物だったので、次回は第一次ドラゴンブームにて日本公開された、ちょっと大人しめの作品箸休めしたいと思います。

王羽十選(2)『唐人票客』

2017-12-09 19:42:37 | 王羽(ジミー・ウォング)
唐人票客
英題:The Screaming Tiger/Screaming Ninja/Wang Yu, King of Boxers
製作:1973年

●改めて顧みると、王羽(ジミー・ウォング)ことジミー先生の映画には、日本をネタにした作品が多いことに気付かされます。
ごくごく普通の旧日本軍を皮切りに、機関車で中国大陸を行脚するサムライ、トンファーを操る素浪人、戦うたびに扇子を破り捨てる用心棒などなど…。内容に日本が関与しているか否かに関わらず、彼の主演作にはこうした要素が付き物となっているのです。
 どうしてジミー先生はここまで日本をネタにし続けているのか? 詳しい事は解りませんが、一連のバラエティに富んだ描写からは抗日的な意図は感じられません(人によっては日本を小馬鹿にしているように見えるかもしれませんが・苦笑)。
恐らく、ジミー先生は面倒臭い思想などに左右されず、ただ単に面白そうだから日本のエキゾチックな面に着目しているのだと思われます。本作もそうしたジミー流のエキゾチック・ジャパンが炸裂した映画で、これがまたトンデモない作品に仕上がっていました。

 物語は、故郷の漁村を壊滅させられたジミー先生が来日するところからスタート。当初は仇である日本人に憎悪を燃やしますが、スリで在日中国人の張清清と知り合い、なんやかんやで正義のために戦う事となります。
仇敵を探すジミー先生は、地元のヤクザと結託する空手師範・龍飛(ロン・フェイ)の一派と対立し、その龍飛を追って台湾から来た武芸者・魯平と遭遇。同じく龍飛と敵対する剣術道場の剣士・康凱とも出会い、丁々発止の戦いが展開されます。
 この作品、ジミー先生が暴れるパートは彼らしい唯我独尊っぷりに溢れていて、問答無用でヤクザや相撲取りをボッコボコにする姿には、ある種の爽快感すら感じました(爆
しかし、ドラマパートは入り組んだ人物関係が災いしたのか、やや回りくどい内容となっています。ジミー先生が不在となる場面も多く、もっと主人公が前面に出てくるストレートな作品であったなら、評価は変わっていたかもしれません。
また、この手の作品にありがちな狂った日本描写についても、序盤の縁日(でかい団扇や鯉のハリボテが乱舞する異次元空間)がピークで、あとはそのまま下り坂。主役不在で繰り広げられるアクションシーンの数々も、今回はやや精彩を欠いていました。

 ですが、伝説となっているジミー先生VS龍飛のラストバトルは異様な迫力となっており、ここだけでも本作は必見と言えます。敵の1人(武術指導兼任の黄飛龍)から龍飛が仇敵だと聞き出したジミー先生は、彼と雌雄を決しようとします。
すると両者は全力疾走で貨物列車に飛び乗り、貨車から貨車へとジャンプしながらド突きあいを披露! 走行する列車から転落しそうになる無茶なスタントを挟みつつ、鉄橋で落とすか落とされるかのデスマッチ(こっちもノースタント!)へ移行するのです。
 鉄橋から川に落ちても戦いは続き、実にジミー先生らしい手段(笑)で決着が付きますが、それは見てのお楽しみ。どうやらジミー先生は、当時大ヒットを記録した『餓虎狂龍』のマラソンバトルに着目し、自分もやってみたいと思ったのでしょう。
よくよく考えれば、アクションの連続で畳み掛けるマラソンバトルと、勢い任せのジミー流スタイルには近い物があります。本作はアクションとスタイルの擦り合わせが合致し、功を奏した好例といっても過言ではありません。
さて、まだまだジミー先生inジャパンな作品は沢山ありますが、明日はその中でも最高に凶悪な代物が登場します。トンチキな日本描写のインパクトを凌駕し、見る者のトラウマにもなりかねない恐るべき敵の正体とは…詳細は次回にて!