功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『猛龍征東』

2015-11-26 20:03:44 | バッタもん李小龍
猛龍征東
英題:Bruce Lee Against Supermen/Superdragon vs Superman
製作:1975年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 アメリカで活躍するグリーン・ホーネットと助手のカーターこと何宗道(ホ・チョンタオ)。今日も彼らは逃走犯の金を警察に届け、報復に来た山茅(サン・マオ)たちを退けていた。
そんな2人の元に新たな指令?が下る。どうやら香港で世界的に有名な科学者・楊易木を狙い、マフィアが動き出しているようなのだ。先んじて香港に渡った何宗道は、旧知の功夫青年・歐陽鐘(『金色太陽』でも共演)と共闘する事となる。
 楊易木の娘と恋仲になったり、余裕でヒットマンを退けていく何宗道であったが、マフィアも黙ってはいない。彼らはスーパーマンと呼ばれる凄腕の刺客・龍飛(ロン・フェイ)とその弟子を助っ人として呼び寄せたのだ。
その後、敵の女とベッドインしている隙に楊易木を拉致された何宗道は、仲間たちと奪回作戦を展開。しかし敵の思わぬ逆襲に遭遇し、反対に歐陽鐘たちが捕まってしまう。
何宗道はリベンジを誓い、たった1人で敵陣に突入した。遅れて到着したグリーン・ホーネットも加わり、ここに最後の戦いが幕を開ける!

 李小龍(ブルース・リー)とジャッキーの偽者を戦わせた『雙輩』、李小龍に海女を絡ませた屈指の珍作『海女』など、クレイジーなコラボを追求し続けた香港の映画監督が存在します。
その名は呉家駿…カメラマンとしてキャリアをスタートさせ、監督の他にもプロデューサーとしての顔を持つ男です。本作もバッタもん李小龍にプラスアルファを施した作品ですが、そのプラスしたものがブっとんでいました(笑
 呉家駿が今回選んだのは、なんとグリーン・ホーネットとスーパーマン! と言っても、龍飛が演じるスーパーマンはクラーク・ケントで有名なアレではなく、中華服に白いマントを羽織った珍妙な代物となっています。
グリーン・ホーネットに至っては、本家のオープニングを再現した映像は蚊取り線香に止まったハエにしか見えず、有名なカトーマスクが出てくるのも序盤のみ。劇中でのルックスは真っ赤なタイツ姿という有様です(爆
 これで演出が吹っ切れていれば最高のバカ映画になったのですが、今回も呉家駿の“いまいち弾け切れてない作風”が災いし、締まりの無いストーリーに仕上がっていました。平気で浮気する主人公、単調な追跡劇などはその象徴と言えます。
先述の赤タイツ姿も、バンバン登場させていれば観客の笑いを誘えたはずなのに、披露するのは最初と最後(事件が解決する直前)のみ……これでは完全に出落ちです。

 アクションシーンにも問題が多く、何宗道・龍飛・山茅の3人以外はすべて無名俳優ばかり、絡み役のレベルが明らかに低いというハンデまで抱えています。
武術指導はあの『胡惠乾血戰西禅寺』を手掛けた張鵬ですが、彼の腕前もこの悪条件では満足に振るえなかったのでしょう。おかげで劇中の殺陣は精彩を欠き、野暮ったいアクションがひたすら繰り広げられていました。
 何度か展開される何宗道VS龍飛はそこそこ見られますが、ザコ戦では殺陣の質が目に見えてダウンしているのが解ります。奇をてらった敵キャラの数々、あの山茅をザコとして早々に消費した点についても、失敗だったと言わざるを得ません。
ビジュアル的には化ける可能性があったものの、結局は尻すぼみに終わってしまった呉家駿らしい本作。彼は他にも少林寺にプラスアルファを施した作品などを監督しているので、いつかは目を通したいと思っています。

『アンジェラ・マオ レディ・クンフー/密宗聖拳』

2015-11-22 22:56:50 | 女ドラゴン映画
「アンジェラ・マオ レディ・クンフー/密宗聖拳」
原題:密宗聖手
英題:The Himalayan
製作:1976年

●チベット族の陳星(チン・セイ)は虎爪拳の名手で、恐るべき野望に燃えていた。彼は弟の凌漢(チン・ハン)を漢族の豪商・關山の元に婿入りさせ、富や名声を独占しようとしていたのである。
計画に同意しない凌漢を殺した陳星は、別人(凌漢の二役)を身代りに仕立てて潜り込むと、内通者の愛人・王恩姫や手下を率いて暗躍を開始。ニセ凌漢と結婚した茅瑛(アンジェラ・マオ)と、彼女を密かに想う使用人・譚道良(レオン・タン)に目を付けた。
 まず虎爪拳の秘術によって茅瑛の口を利けなくさせ、ニセ凌漢は「嫁に暴力を振るわれている」と關山に直訴する。「茅瑛は浮気していた使用人の元に向かった」とも証言し、彼の視線を王恩姫(茅瑛に変装!)に誘惑させていた譚道良に向けさせた。
その隙に陳星はニセ凌漢を刺殺し、気絶していた彼女にその罪を擦り付けてしまう。こうして茅瑛は弁解もできぬまま追放され、譚道良は陳星に襲われて逃走。心労によって弱りきった關山に代わり、とうとう陳星が天下を掴む事となった。
 しかし、悪の栄えた例はない。ニセ凌漢の正体は黄楓の執事・韓英傑(ハン・インチェ)によって見破られ、落ち延びていた茅瑛&譚道良も陳星の恐るべき計画に気付いた。そして復讐を遂げるため、2人はチベット密教の拳法を学んでいく。
韓英傑が口封じに殺される中、名実ともに全ての覇権を握った陳星のもとへ茅瑛たちが現れる。大勢の手下に加え、チベットから来た洪金寶(サモ・ハン・キンポー)が彼女らの前に立ちはだかるが…?

 『女活殺拳』以来、何度となくコンビを組んできた黄楓(ウォン・フェン)監督と茅瑛。本作では実際にテコンドーの達人である譚道良を迎え、チベットでの大々的なロケーションを敢行しました。
それだけでも特徴的な本作ですが、最も注目すべきはストーリー構成にあります。この作品では主人公の茅瑛たちではなく、悪役である陳星の悪事をつぶさに描写しており、綿密かつ用意周到な犯行が展開されていくのです。
 思えば、黄楓と茅瑛のコンビもこれで6本目…そろそろ彼女が暴れるだけではマンネリが生じてくる頃合だったのでしょう。だからこそ監督は陳星を引き立たせることに徹し、今までと違うインパクトを求めたのだと考えられます。
その弊害として、茅瑛と譚道良が陳星に存在感で負けていたり、陳星のやたら濃いベッドシーン(苦笑)が展開しますが、作品そのものの出来は今回も良好。冗長な修行シーン以外は文句の付けどころが無く、実にクオリティの高い作品でした。

 功夫アクションについても素晴らしい物を見せていて、陳星の力強い動きはブレイク当初を彷彿とさせます。対する茅瑛も足技中心の殺陣を余裕でこなし、見事なフットワークを見せる譚道良とともに場を盛り上げていました。
ラストバトルではファイトの質も最高潮に達し、ここまで劣勢に立たされ続けていた主役2人が、並みいる敵をバッタバッタと蹴り倒すさまは実に痛快です(ストーリーがストーリーだけに、陳星の凄まじい最期もなかなかのカタルシスを感じます)。
どのへんがチベット密教の拳なのか解りづらいですが、きちんと修行の成果が役立っているのも◎。腕に覚えのあるキャストにはもれなく見せ場が配置されており、茅瑛の主演作をチェックするなら本作は絶対に外せない!と言えるでしょう。

『クライム・ジャングル/怒りの鉄拳』

2015-11-07 23:37:02 | マーシャルアーツ映画:中(2)
「クライム・ジャングル/怒りの鉄拳」
原題:A DANGEROUS PLACE
製作:1994年

●空手少年のテッド・ジャン・ロバーツは、兄のディーン・コクランや優しい母親に囲まれ、静かな暮らしを送っている。しかし背伸びをしたい年頃のディーンは、コリー・フェルドマン率いる不良グループと付き合い、夜な夜な外出を繰り返していた。
ある日、「本当に仲間になりたかったら盗みをしろ」とコリーに迫られたディーンは、彼らと乱闘になり転落死してしまう。この一件はコリーたちによって自殺に偽装され、残された家族は深い悲しみに包まれた。
 兄の死に疑問を感じたテッドは、真相を探ろうと捜査を開始。自らコリーたちの仲間に加わり、彼らが通うマーシャル・ティーグの空手道場に潜入していく。いきなり不良じみた彼の姿に、周囲の人々は困惑するのだが…。
その後、道場ぐるみで行われる犯罪行為&兄を殺した真犯人が判明するも、証拠らしい証拠は無いに等しい。やがてマーシャルが率いる道場と、テッドがかつて所属していた道場による対抗戦が開催され、テッドは古巣の道場に舞い戻った。
兄の仇討ちに執念を燃やすテッドと、この機を利用して彼を殺そうとするコリー。今、宿命の戦いのゴングが鳴る!

 アメリカにおける数少ないアクション子役の1人であり、『ユニバーサルキッド』などに出演しているテッド・ジャン・ロバーツ。本作はそんな彼の主演作なんですが、単刀直入に言うと実に微妙な作品でした(苦笑
まず気になるのがストーリーの“雑さ”です。真相解明に至るまでの過程(兄の幽霊によるメッセージで判明)、警察が証拠もないのに大挙して出動するラストなど、例を挙げればキリがありません。
 特に問題なのが作中における警察の扱いでしょう。本作の粗筋は「警察の態度に業を煮やした一般人が立ち上がる」というもの。こうした作品では、警察がどれだけ無能なのか描写しておかないと、主人公の戦う必要性が弱くなってしまいます。
本作はこの点を思いっきり失敗していて、警察が自力でコリーのいる道場が怪しいと見抜き、先述したように速攻で駆けつけてマーシャルたちを一網打尽にするのです(ちゃんとダメっぷりを見せるシーンもあるんですが…)。
警察が普通に役立つとなると、テッドのやっている潜入捜査は単なる先走りとなり、完全に無駄な行為でしかなくなっています。撮影時、この矛盾に誰か気付かなかったのでしょうか?(爆

 壊滅的な物語が繰り広げられる一方で、アクションについては割と健闘しています。製作元がPMエンターテイメントだけあって、計2回ほど行われるカーチェイスはとても豪快! 主題となる格闘シーンも充実していました。
今回もテッドは自分より大きな相手に立ち向かい、素早い蹴りをビシバシと叩き込みます。子役としてはテッドの先輩格となるコリー、大ボスとなるマーシャルも機敏な動きを見せており、彼らの見せるファイトは悪くありません。
 唯一の欠点は、非常に強いはずのマーシャルがテッドの師匠であるマコ岩松に、呆気なく倒されてしまう点でしょうか。直後にテッドVSコリーというメインディッシュが控えているとはいえ、師匠同士の対決が一瞬で終わるのはとても残念です。
なお、本作のアクション指導はドン・ウィルソン作品でおなじみのアート・カマチョ。身軽なティーンの役者が多かったおかげで、今回は立ち回りがスピーディーに感じられました。
真相を探るためとはいえ、犯罪(窃盗&警備員への暴行)を犯したテッドが不問で終わるラストといい、最後まで“雑さ”に振り回される本作。アクションだけは本当に良いんだけど…う~ん。