「捜査官X」
原題:武侠/武術
英題:Wu Xia/Swordsmen/Dragon
製作:2011年
▼かつては最後の本格派と呼ばれ、今や宇宙最強の男として名だたる存在となった甄子丹(ドニー・イェン)。以前の彼は知る人ぞ知るB級カンフースターであり、その人気もローカルなものでしかありませんでした。
しかし、大ヒットした『HERO 英雄』や『SPL/狼よ静かに死ね』でアクション映画ファンを驚嘆させ、その人気は世界中を席巻。ハリウッドでも成功をおさめ、幅広く認知されていく事となります。
「…あれ? 今月は王羽(ジミー・ウォング)特集じゃなかったっけ?」と皆さん思ってらっしゃると思いますが、本日紹介するのはジミー先生が甄子丹と夢の共演を果たした異色作、『捜査官X』なのです(だから今回だけカテゴリが甄子丹になってます)。
この作品は普通の功夫片ではなく、推理ミステリーや家族への愛、古き良きカンフー映画へのオマージュなどが絡み合った、実に複雑怪奇な構成となっています。
これだけ盛り沢山だと破綻しそうですが、陳可辛(ピーター・チャン)監督はこれらを纏め上げ、しっかりと1つの作品に仕上げています。果たしてジミー先生と甄子丹、そして金城武はどのようなアンサンブルを奏でたのでしょうか?
■時は1917年…静かな中国の片田舎で、二人組の強盗(喩亢(ユー・カン)と谷垣健治)が紙職人の甄子丹に抵抗され、奇妙な死を遂げた。村人は彼の行動を賞賛するが、捜査官の金城は強盗たちの死因に疑問を抱いていた。
金城はかつて凄惨な事件に遭遇し、その後遺症を治すために鍼を打ち続けている。ゆえに点穴の知識を持つ彼は、甄子丹が人知れず強盗の急所を突いて仕留めたのでは?と推察。捜査の手は甄子丹本人や、その妻・湯唯(タン・ウェイ)へと及んでいく。
やがて甄子丹が村の外から来た人間であり、重い罪を背負っていることが明かされる…のだが、「甄子丹は恐るべき達人に違いない」と金城は確信していた。そして外部に頼んでいた捜査結果を聞き、その推理が事実だと判明する。
実は、甄子丹は“七十二地刹”と呼ばれる暗殺組織に属し、トップクラスの実力を誇る最強の刺客だったのだ。血生臭い生き方に辟易した彼は、組織から足抜けして過去を捨て去っていたのである。
だが、経緯はどうあれ今回の事件における甄子丹は無実。それでも愚直な正義を貫こうとする金城であったが、一方で甄子丹を自陣に連れ戻すべく、組織の教主であり甄子丹の実父・ジミー先生が動き出した。
かくして惠英紅(ベティ・ウェイ)ら刺客集団が放たれる。甄子丹はかつての仲間たちを退けるが、自らの素性が村人に明かされたばかりか、多くの人々が犠牲に…。遅れて到着した金城は、最終的に甄子丹を助けようと一計を案じた。
彼は鍼を利用し、甄子丹を仮死状態にさせて警察と組織の目を欺こうとする。しかし組織の手からは逃れられず、彼は驚くべき行動に打って出た。そして家族を救うため、満身創痍の甄子丹はジミー先生と相対する。
底知れぬ憎悪を燃やすジミー先生と、必死に抗う甄子丹&金城。果たして示されるのは正義なのか、それとも…!?
▲本作は変わったタッチの作品となっていて、前半は金城がメインの推理パート、後半は甄子丹がメインのアクションパートに分かれています。主役がガラリと変わる辺りは『ローグ アサシン』を彷彿とさせますが、あちらほど散漫な内容にはなっていません。
まず推理パートでは事件の様子が克明に描かれ、捜査によって徐々に事実が明かされていきます。発端となる甄子丹VS喩亢&谷垣のバトルは2度に渡って行われますが、事件当時と捜査による回想で内容が違っており、この演出には意表を突かれました。
この推理パートは幾つかアクションがあり、時おり緊張感が伴うシーンもあったりしますが、やや落ち着いた雰囲気で進行します。しかし甄子丹の正体が判明し、ジミー先生が動き出してからは空気が一転するのです。
後半のアクションパートは甄子丹の独壇場となり、鬼のような形相で迫る惠英紅とのドリームマッチ、刺客たちとの白熱した激突が連続して展開! ケジメをつけた甄子丹の姿(谷垣導演いわく「スケジュールの都合による産物」)にもニヤリとさせられます。
しかし本作のクライマックスはここから。ついにジミー先生が甄子丹の前に現れ、愛憎入り混じった感情を爆発させるのですが、その様相はあまりにも恐ろしく、観客は彼の一挙一動から目を離せなくなります。
かくて始まるラストバトルでは、鐵布杉で防備を固めたジミー先生が無敵の強さを見せ、甄子丹を圧倒! 一部でスタントを使いつつも、老骨にムチ打って奮戦するジミー先生の勇姿には私も驚かされました。
その後も激しい攻防戦が続き、甄子丹たちが劣勢に立たされたその時、突如として勝負は決着を迎えます。この結末はかなり唐突な感じがするんですが、あのジミー先生を倒すにはこうでもしないと不可能。金城の最期も含め、私はこれもアリだと思いました。
ところどころに作り込みの甘さを感じますが、色々と深読みのできるラストなど、実に味わい深い逸品。本作が切っ掛けなのかは解りませんが、近年ジミー先生は映画界へ復帰するようになり、銀幕のスターとして再起を果たしつつあります。
そこで次回は、彼がアクションスターの全盛期を迎えていた70年代にタイムスリップ! 本作と同じく、名うての女ドラゴンと共演した未公開作に迫ります!
原題:武侠/武術
英題:Wu Xia/Swordsmen/Dragon
製作:2011年
▼かつては最後の本格派と呼ばれ、今や宇宙最強の男として名だたる存在となった甄子丹(ドニー・イェン)。以前の彼は知る人ぞ知るB級カンフースターであり、その人気もローカルなものでしかありませんでした。
しかし、大ヒットした『HERO 英雄』や『SPL/狼よ静かに死ね』でアクション映画ファンを驚嘆させ、その人気は世界中を席巻。ハリウッドでも成功をおさめ、幅広く認知されていく事となります。
「…あれ? 今月は王羽(ジミー・ウォング)特集じゃなかったっけ?」と皆さん思ってらっしゃると思いますが、本日紹介するのはジミー先生が甄子丹と夢の共演を果たした異色作、『捜査官X』なのです(だから今回だけカテゴリが甄子丹になってます)。
この作品は普通の功夫片ではなく、推理ミステリーや家族への愛、古き良きカンフー映画へのオマージュなどが絡み合った、実に複雑怪奇な構成となっています。
これだけ盛り沢山だと破綻しそうですが、陳可辛(ピーター・チャン)監督はこれらを纏め上げ、しっかりと1つの作品に仕上げています。果たしてジミー先生と甄子丹、そして金城武はどのようなアンサンブルを奏でたのでしょうか?
■時は1917年…静かな中国の片田舎で、二人組の強盗(喩亢(ユー・カン)と谷垣健治)が紙職人の甄子丹に抵抗され、奇妙な死を遂げた。村人は彼の行動を賞賛するが、捜査官の金城は強盗たちの死因に疑問を抱いていた。
金城はかつて凄惨な事件に遭遇し、その後遺症を治すために鍼を打ち続けている。ゆえに点穴の知識を持つ彼は、甄子丹が人知れず強盗の急所を突いて仕留めたのでは?と推察。捜査の手は甄子丹本人や、その妻・湯唯(タン・ウェイ)へと及んでいく。
やがて甄子丹が村の外から来た人間であり、重い罪を背負っていることが明かされる…のだが、「甄子丹は恐るべき達人に違いない」と金城は確信していた。そして外部に頼んでいた捜査結果を聞き、その推理が事実だと判明する。
実は、甄子丹は“七十二地刹”と呼ばれる暗殺組織に属し、トップクラスの実力を誇る最強の刺客だったのだ。血生臭い生き方に辟易した彼は、組織から足抜けして過去を捨て去っていたのである。
だが、経緯はどうあれ今回の事件における甄子丹は無実。それでも愚直な正義を貫こうとする金城であったが、一方で甄子丹を自陣に連れ戻すべく、組織の教主であり甄子丹の実父・ジミー先生が動き出した。
かくして惠英紅(ベティ・ウェイ)ら刺客集団が放たれる。甄子丹はかつての仲間たちを退けるが、自らの素性が村人に明かされたばかりか、多くの人々が犠牲に…。遅れて到着した金城は、最終的に甄子丹を助けようと一計を案じた。
彼は鍼を利用し、甄子丹を仮死状態にさせて警察と組織の目を欺こうとする。しかし組織の手からは逃れられず、彼は驚くべき行動に打って出た。そして家族を救うため、満身創痍の甄子丹はジミー先生と相対する。
底知れぬ憎悪を燃やすジミー先生と、必死に抗う甄子丹&金城。果たして示されるのは正義なのか、それとも…!?
▲本作は変わったタッチの作品となっていて、前半は金城がメインの推理パート、後半は甄子丹がメインのアクションパートに分かれています。主役がガラリと変わる辺りは『ローグ アサシン』を彷彿とさせますが、あちらほど散漫な内容にはなっていません。
まず推理パートでは事件の様子が克明に描かれ、捜査によって徐々に事実が明かされていきます。発端となる甄子丹VS喩亢&谷垣のバトルは2度に渡って行われますが、事件当時と捜査による回想で内容が違っており、この演出には意表を突かれました。
この推理パートは幾つかアクションがあり、時おり緊張感が伴うシーンもあったりしますが、やや落ち着いた雰囲気で進行します。しかし甄子丹の正体が判明し、ジミー先生が動き出してからは空気が一転するのです。
後半のアクションパートは甄子丹の独壇場となり、鬼のような形相で迫る惠英紅とのドリームマッチ、刺客たちとの白熱した激突が連続して展開! ケジメをつけた甄子丹の姿(谷垣導演いわく「スケジュールの都合による産物」)にもニヤリとさせられます。
しかし本作のクライマックスはここから。ついにジミー先生が甄子丹の前に現れ、愛憎入り混じった感情を爆発させるのですが、その様相はあまりにも恐ろしく、観客は彼の一挙一動から目を離せなくなります。
かくて始まるラストバトルでは、鐵布杉で防備を固めたジミー先生が無敵の強さを見せ、甄子丹を圧倒! 一部でスタントを使いつつも、老骨にムチ打って奮戦するジミー先生の勇姿には私も驚かされました。
その後も激しい攻防戦が続き、甄子丹たちが劣勢に立たされたその時、突如として勝負は決着を迎えます。この結末はかなり唐突な感じがするんですが、あのジミー先生を倒すにはこうでもしないと不可能。金城の最期も含め、私はこれもアリだと思いました。
ところどころに作り込みの甘さを感じますが、色々と深読みのできるラストなど、実に味わい深い逸品。本作が切っ掛けなのかは解りませんが、近年ジミー先生は映画界へ復帰するようになり、銀幕のスターとして再起を果たしつつあります。
そこで次回は、彼がアクションスターの全盛期を迎えていた70年代にタイムスリップ! 本作と同じく、名うての女ドラゴンと共演した未公開作に迫ります!