功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

王羽十選(6)『捜査官X』

2017-12-17 14:58:06 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「捜査官X」
原題:武侠/武術
英題:Wu Xia/Swordsmen/Dragon
製作:2011年

▼かつては最後の本格派と呼ばれ、今や宇宙最強の男として名だたる存在となった甄子丹(ドニー・イェン)。以前の彼は知る人ぞ知るB級カンフースターであり、その人気もローカルなものでしかありませんでした。
しかし、大ヒットした『HERO 英雄』や『SPL/狼よ静かに死ね』でアクション映画ファンを驚嘆させ、その人気は世界中を席巻。ハリウッドでも成功をおさめ、幅広く認知されていく事となります。
 「…あれ? 今月は王羽(ジミー・ウォング)特集じゃなかったっけ?」と皆さん思ってらっしゃると思いますが、本日紹介するのはジミー先生が甄子丹と夢の共演を果たした異色作、『捜査官X』なのです(だから今回だけカテゴリが甄子丹になってます)。
この作品は普通の功夫片ではなく、推理ミステリーや家族への愛、古き良きカンフー映画へのオマージュなどが絡み合った、実に複雑怪奇な構成となっています。
これだけ盛り沢山だと破綻しそうですが、陳可辛(ピーター・チャン)監督はこれらを纏め上げ、しっかりと1つの作品に仕上げています。果たしてジミー先生と甄子丹、そして金城武はどのようなアンサンブルを奏でたのでしょうか?

■時は1917年…静かな中国の片田舎で、二人組の強盗(喩亢(ユー・カン)と谷垣健治)が紙職人の甄子丹に抵抗され、奇妙な死を遂げた。村人は彼の行動を賞賛するが、捜査官の金城は強盗たちの死因に疑問を抱いていた。
金城はかつて凄惨な事件に遭遇し、その後遺症を治すために鍼を打ち続けている。ゆえに点穴の知識を持つ彼は、甄子丹が人知れず強盗の急所を突いて仕留めたのでは?と推察。捜査の手は甄子丹本人や、その妻・湯唯(タン・ウェイ)へと及んでいく。
 やがて甄子丹が村の外から来た人間であり、重い罪を背負っていることが明かされる…のだが、「甄子丹は恐るべき達人に違いない」と金城は確信していた。そして外部に頼んでいた捜査結果を聞き、その推理が事実だと判明する。
実は、甄子丹は“七十二地刹”と呼ばれる暗殺組織に属し、トップクラスの実力を誇る最強の刺客だったのだ。血生臭い生き方に辟易した彼は、組織から足抜けして過去を捨て去っていたのである。
 だが、経緯はどうあれ今回の事件における甄子丹は無実。それでも愚直な正義を貫こうとする金城であったが、一方で甄子丹を自陣に連れ戻すべく、組織の教主であり甄子丹の実父・ジミー先生が動き出した。
かくして惠英紅(ベティ・ウェイ)ら刺客集団が放たれる。甄子丹はかつての仲間たちを退けるが、自らの素性が村人に明かされたばかりか、多くの人々が犠牲に…。遅れて到着した金城は、最終的に甄子丹を助けようと一計を案じた。
 彼は鍼を利用し、甄子丹を仮死状態にさせて警察と組織の目を欺こうとする。しかし組織の手からは逃れられず、彼は驚くべき行動に打って出た。そして家族を救うため、満身創痍の甄子丹はジミー先生と相対する。
底知れぬ憎悪を燃やすジミー先生と、必死に抗う甄子丹&金城。果たして示されるのは正義なのか、それとも…!?

▲本作は変わったタッチの作品となっていて、前半は金城がメインの推理パート、後半は甄子丹がメインのアクションパートに分かれています。主役がガラリと変わる辺りは『ローグ アサシン』を彷彿とさせますが、あちらほど散漫な内容にはなっていません。
まず推理パートでは事件の様子が克明に描かれ、捜査によって徐々に事実が明かされていきます。発端となる甄子丹VS喩亢&谷垣のバトルは2度に渡って行われますが、事件当時と捜査による回想で内容が違っており、この演出には意表を突かれました。
 この推理パートは幾つかアクションがあり、時おり緊張感が伴うシーンもあったりしますが、やや落ち着いた雰囲気で進行します。しかし甄子丹の正体が判明し、ジミー先生が動き出してからは空気が一転するのです。
後半のアクションパートは甄子丹の独壇場となり、鬼のような形相で迫る惠英紅とのドリームマッチ、刺客たちとの白熱した激突が連続して展開! ケジメをつけた甄子丹の姿(谷垣導演いわく「スケジュールの都合による産物」)にもニヤリとさせられます。

 しかし本作のクライマックスはここから。ついにジミー先生が甄子丹の前に現れ、愛憎入り混じった感情を爆発させるのですが、その様相はあまりにも恐ろしく、観客は彼の一挙一動から目を離せなくなります。
かくて始まるラストバトルでは、鐵布杉で防備を固めたジミー先生が無敵の強さを見せ、甄子丹を圧倒! 一部でスタントを使いつつも、老骨にムチ打って奮戦するジミー先生の勇姿には私も驚かされました。
 その後も激しい攻防戦が続き、甄子丹たちが劣勢に立たされたその時、突如として勝負は決着を迎えます。この結末はかなり唐突な感じがするんですが、あのジミー先生を倒すにはこうでもしないと不可能。金城の最期も含め、私はこれもアリだと思いました。
ところどころに作り込みの甘さを感じますが、色々と深読みのできるラストなど、実に味わい深い逸品。本作が切っ掛けなのかは解りませんが、近年ジミー先生は映画界へ復帰するようになり、銀幕のスターとして再起を果たしつつあります。
そこで次回は、彼がアクションスターの全盛期を迎えていた70年代にタイムスリップ! 本作と同じく、名うての女ドラゴンと共演した未公開作に迫ります!

『三国志英傑伝 関羽』

2016-02-10 22:06:59 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「三国志英傑伝 関羽」
「KAN-WOO/三国志英傑伝 関羽」
原題:關雲長
英題:The Lost Bladesman
製作:2011年

●戦乱の時代を駆け抜けた英雄、関羽雲長こと甄子丹(ドニー・イェン)が死んだ。葬儀を執り行ったのは、姜文(チアン・ウェン)演じる魏の武帝・曹操孟徳…乱世の奸雄と呼ばれた男である。
20年前、甄子丹は捕虜として魏に身を寄せており、姜文は彼を自陣に引き入れたいと思っていた。しかし甄子丹は首を縦に振らず、あくまで「自分は劉備元徳に忠を尽くしている」と言って譲らない。
様々な手段で勧誘を行う姜文だが、劉備の居場所を知った甄子丹は出奔を決意。人質となっていた劉備の妻・孫儷(スン・リー)を伴い、魏から去る事となった。
根負けした姜文はこれを許可するも、今度は何者かの命令によって刺客が暗躍し、甄子丹たちに襲いかかっていく。果てなき戦いの中、彼と孫儷の間には許されざる感情が芽生えるのだが…。

 『インファナル・アフェア』を手掛けた麥兆輝(アラン・マック)&莊文強(フェリックス・チョン)コンビによる監督作ですが、これがなかなか渋いタッチの佳作に仕上がっていました。
本作は『三国志演義』の「過五関 斬六将」を元にした作品で、主役の関羽を甄子丹が熱演。つねにストイックな姿勢を崩さず、戦いでは鬼のように強い猛将を見事に演じきっています。
 当然、アクションシーンも甄子丹の独壇場と化しており、第1の刺客・安志杰(アンディ・オン)とのバトルでは、細い路地というシチュエーションを生かした攻防戦が見ものです。
他にも第5の刺客・王學兵との激突など、展開される戦いはどれも壮絶…と言いたいところですが、残念ながら不満を感じる点も多々ありました。
 まず最初の問題は、まともな立ち回りが開始40分まで無いという点です。おかげで序盤の敵将との勝負が一瞬で終わってしまうんですが、まさかこの敵将を演じているのが錢小豪(チン・シウホウ)だったとは…(涙
次に問題となってくるのが、アクション設計の不親切さでしょう。第2&第3の刺客と戦う場所が暗くて見づらかったり、第4の刺客との戦いが音だけで終わったりと、肩透かしを食らうファイトが幾つもあるのです。
最後の戦いもザコしかおらず、まさに竜頭蛇尾を地で行く結果となった本作。錢小豪がいるのなら、それこそラスボスに持ってきてほしかったと言わざるを得ません。

 ストーリーについても、孫儷とのラブストーリーは取って付けた感が強く、個人的にはあまり好感が持てませんでした。しかし本作を佳作たらしめているのは、姜文が扮した曹操の存在感にあります。
曹操といえば、冷酷な人物というイメージが一般的のようですが、本作では複雑な思いを秘めたキャラクターとして登場。甄子丹に対して友のような感情を抱き、熱心に仲間として迎え入れようとします。
 が、その行動の端々には残忍さが見え隠れし、曹操という人物が“人間でありつつも奸雄でもある”という事を、見る者に強く印象付けていくのです。
この描写は最後まで徹底されており、ラストでは甄子丹の死を心から悼みつつも、戦いの策に利用しようとする狡猾さを見せていました(最後に手を合わせるシーンがかなり怖いです)。
甄子丹の立ち回りと姜文の演技…この2つが見事だっただけに、それ以外のマイナスポイントが実に惜しいです。ところで関羽といえば赤兎馬ですが、どうして本作では登場しなかったんでしょうか??

追憶:香港映画レーベル(04)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアンモンキー』

2013-11-16 22:11:11 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアンモンキー」
原題:少年黄飛鴻之鐵馬[馬留]
英題:Iron Monkey/Iron Monkey: Young Wong Fei Hung
製作:1993年

▼アイドル主演の動作片や古装片の登場によって、にわかに活気付き始めた日本の香港映画マーケット。それに伴って無数の香港映画レーベルが作られ、様々な作品があちこちでリリースされました。
ポニー・キャニオンからは「格闘ハリケーンシリーズ」『大地無限』『プロジェクトS』等)が、アミューズからは「香港英雄列伝」(『ドラゴン・イン』『スウォーズマン/女神伝説の章』等)が発表されています。
 この他にも、『復讐・血の掟』『霊幻勇士』を発売した「香港ハリウッドシリーズ」などが存在し、多くの作品が世に送り出されました。今回紹介する「香港ビクトリアシリーズ」も、いくつかの秀作を擁したレーベルです。
「香港ビクトリアシリーズ」はエムズピクチャーズによって発表され、金城武の主演作などをパッケージ化しました。既存作品の再販も行っており、李小龍(ブルース・リー)作品や『大地無限2』、そして本作が売り出されています。

■清朝末期の浙江省では役人の腐敗が蔓延し、人々は貧困にあえいでいた。そこで民衆を救うために立ち上がったのが、鉄猿と呼ばれる義賊であった。その正体は、町で診療所を開いている医師・干光榮(ユー・ロングァン)だったりするのだが…。
そんな中、政府直属の特使が査察に来ることを知った総督は、鉄猿を捕まえようと大雑把な検挙を断行。それに巻き込まれたのが、たまたま佛山から来ていた黄麒英と黄飛鴻――甄子丹(ドニー・イェン)と曾思敏の親子だった。
 この騒動は鉄猿の介入によって解決するも、甄子丹の実力を知った総督は曾思敏を人質に「ヤツを捕まえて来い!」と命じる。彼は鉄猿に味方する民衆から爪弾きにされたが、干光榮と王静瑩の厚意に助けられ、僅かな間に固い友情を育んだ。
甄子丹の事情を知った干光榮たちは、牢屋で体調を崩していた曾思敏を保護し、手厚く看護を行った。そして特使に化けて総督の財産を巻き上げ、甄子丹親子を再会させるに至ったが、一方で本物の特使・任世官(ニン・シークァン)が町に現れていた。
 任世官は恐るべき拳法の使い手で、少林寺を裏切って政府に付いた卑劣漢でもあった。彼は甄子丹・干光榮と交戦し、金剛手という秘術で2人を圧倒。この一件で甄子丹は鉄猿の正体を知り、ともに巨悪へ立ち向かうことを決意する。
その後、とりあえず2人は身を隠すのだが、任世官の刺客によって曾思敏が捕まってしまう。甄子丹と干光榮は敢然と敵陣に乗り込み、最後の戦いに挑む!

▲本作は大ヒットを記録した『ワンチャイ』シリーズの番外編で、シリーズの生みの親である徐克(ツイ・ハーク)が製作を、袁和平(ユエン・ウーピン)が武術指導と監督を担当。凡百の亜流作品を超えたハイレベルな作品に仕上がっています。
主人公が腐敗した政府と戦う!という図式は、本家と大体同じです。本作はそこに強い絆で結ばれた黄麒英親子や、義賊として生きる男女の関係を絡め、ダイナミックなアクションで一気に物語を引っ張っていました。
 登場人物も魅力的ですが(役人だけど情に厚い袁信義のキャラがナイス)、やはり目を惹かれるのはアクションシーンの数々でしょう。本家シリーズを彷彿とさせる鐵傘功あり、甄子丹のマッハカンフーありと、こちらも盛りだくさんの内容です。
終盤の梅花椿バトル(杭の上で戦うアレ)も壮絶で、化け物じみた強さを誇る任世官が強烈すぎます(笑)。梅花椿は不安定な場所ゆえに撮影が難しく、演者が及び腰になる事も少なくありません。しかし本作では巧みなワイヤーワークの援護を受け、見事なアクションを構築していました。
 …と、ご覧のように90年代は香港映画レーベルにとって、百花繚乱・群雄割拠の時代だったといっても過言ではありません。
しかし00年代以降、日本における香港映画市場の勢いは落ち込んでしまいます。『少林サッカー』『英雄 HERO』などのヒット作には恵まれたものの、昔のように便乗作をバンバン公開するような活力が失せてしまったのです。
アジア圏の映画産業は韓流作品が追い上げを見せ、ますます香港映画の旗色は悪くなっていきます。しかし香港映画レーベルは、過去を振り返ることで辛うじて存続しました。次回、レーベルの探求は00年代に突入します!

『レディーファイター/詠春拳伝説』

2013-09-04 21:59:19 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「レディーファイター/詠春拳伝説」
「ミシェール・ヨーの詠春拳伝説」
「詠春拳」
原題:詠春/紅粉金剛
英題:Wing Chun/The Beautiful Secret Agent
製作:1994年(93年説あり)

●厳詠春こと楊紫瓊(ミシェール・ヨー)は、若くして武術を習得した女傑であった。しかし、拳の道を志すために女としての幸せを捨てており、いつも男のような格好で暮らしていた。
そんなある日、彼女と口うるさい叔母・苑瓊丹の経営する豆腐屋に、薄幸の未亡人・洪欣が転がり込んできた。町の人々はその美しさに目を奪われ、楊紫瓊にアプローチしていた李子雄(レイ・チーホン)も、いつの間にか彼女へと乗り換えてしまう(笑
 さらには楊紫瓊の幼馴染だった甄子丹(ドニー・イェン)が現れ、洪欣を厳詠春と勘違いしたことからトラブルが発生。一方で、前々から楊紫瓊に何度も煮え湯を飲まされてきた山賊たちが、ここにきて大きな行動を起こそうとしていた。
山賊の首領である徐少強(ノーマン・ツイ)は、洪欣を誘拐して楊紫瓊との一騎打ちを迫る。この戦いは楊紫瓊が征し、なんとか洪欣の奪還に成功したものの、拳の腕前では徐少強が一枚も二枚も上手であった。
数日後に改めて再戦することになった楊紫瓊は、師である鄭佩佩(チャン・ペイペイ)のもとへと向かう。果たして彼女は、戦いと己の恋路に決着をつけることができるのだろうか?

 80~90年代に日本でリリースされた香港映画の中には、何故か中古市場に出回りにくい作品が幾つかあります。本作もその1つで、DVD化もされているのになかなか見つからず、個人的に幻の逸品と化していました。
そして昨年、幸運にも発見に至ったわけですが、同じような入手経路を辿った『無敵のゴッドファーザー』が微妙だったこともあり、身構えながらの視聴となりました。その結果はというと…とても素晴らしかったです!
 まず本作がユニークなのは、詠春拳の成り立ちを描く!みたいな小難しい話ではなく、明るいラブコメに徹している点でしょう。話の主軸は楊紫瓊たち女性陣による恋愛模様で、その雰囲気はとってもほのぼの。人死にも最低限に抑えられています。
監督の袁和平(ユエン・ウーピン)はコメディ系の映画を何本も手掛けていますが、本作のようなラブコメを撮るのは稀です。功夫片では恋愛要素があっても蔑ろにされがちですが、本作はきちんと結末まで描いており、最後まで楽しく見られました。
 また、功夫アクションもワイヤーとリアルファイトを適度に織り交ぜ、迫力の立ち回りを構築しています。この手の作品によくある「○○を取られたら負け」ルールのバトル、槍と短刀による武器戦など、どの戦いも実にバラエティ豊かでした。
ラストバトルも圧巻で、しがらみを捨てて女性に戻った楊紫瓊が、大ベテランの徐少強を相手に一進一退の攻防を展開!もちろん甄子丹の見せ場も存在し、この頃から既にマッハ・カンフーの片鱗を見せています。
製作に大陸資本の銀都機構有限公司が噛んでいることもあって、スケール感も抜群の快作。こういう作品こそ廉価版でリリースして欲しいんだけどなぁ…。ちなみに本作のDVDパッケージによると、袁信義の英名はイーグルなのだそうです(爆

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキーグレート』

2011-06-08 22:47:21 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキーグレート」
原題:鐡猴子2 街頭殺手/街頭殺手/鐵血壯士
英題:Iron Monkey 2
製作:1996年

●時は動乱渦巻く清朝末期の中国。黒社会の顔役・張健利(羅鋭の後期作品に出演)は、諸外国と手を組んで武器の密売を行っていた。これを阻止すべく、鐵猿こと甄子丹(ドニー・イェン)は仲間と共に京劇一座に化け、張健利の暗殺へと動いた。しかし暗殺は失敗に終り、仲間の1人である午馬(ウー・マ)が失明してしまう。
同じ頃、一攫千金を夢見る劉耕宏ら貧乏カップルは、張健利を殺すための暗殺者募集に参加していた。もちろん暗殺を請け負うつもりは無く、報奨金をせしめてトンズラしようと企むが失敗。そこで2人は、田舎から来た功夫青年・原文慶を口八丁で言いくるめ、彼を偽の鐵猿に仕立て上げた。原文慶は父親の午馬を探したかったが、張健利一味の武器強奪を手伝わされ、本物の鐵猿と闘うはめになってしまう。
 劉耕宏たちに騙されていたと知った原文慶は落胆するが、襲撃を受けたことで張健利へ怒りを燃やしていく。一方、奪った武器を手土産に張健利へ取り入った貧乏カップルは、念願のクラブ支配人と花形歌手になるものの、その待遇は散々だった。最終的に劉耕宏とその彼女は喧嘩別れになるのだが…。
そのころドニーは、自分を逃がすために捕まった午馬を助けようと敵陣に潜り込むも、午馬は射殺されてしまった。復讐に立ち上がる原文慶だが、今度は協力してくれた劉耕宏の彼女が撃たれて死亡…ドニーは原文慶と劉耕宏に逃げろと言うが、このまま引き下がるわけには行かない。3人の男たちは、極悪非道の張健利(+兄弟分の周比利)に鉄拳を振り上げる!

 『葉門』2部作の劇場公開・『孫文の義士団』の全国上映・『導火線』の日本版ソフト化決定・『精武風雲・陳真』の日本上陸など、日本では最近になって一気にドニーの露出が増えていますが、私もこのドニー・フィーバーには嬉しい悲鳴を上げっぱなしです(笑
そんなドニーですが、ひと昔前まではB級映画ばかりに出演していたため、抜群の格闘センスとは裏腹に評価は得られていませんでした。本作はそのB級映画の中でも粗悪なもので、ワイヤーと早回しでアクションシーンが崩壊している困った作品です。
 この当時、いくつか古装片に出演していたドニーですが、彼の演じるアクションは決まって早回しが使われていました。大体は迫力のある映像になっていますが、ゴチャゴチャして意味不明になる場合も少なくありません。そのドニー式早回しアクションに、本作では羅鋭(アレクサンダー・ルー)作品から李海興が武術指導として加入したことで、早回しに荒唐無稽さがプラスされるという異常事態に発展しているのです(爆
ラストバトルはその兆候が顕著で、闘うたびに室内のありとあらゆる物体が簡単に壊れていく様は、早回しと相まって異様な光景となっていました。殺陣自体は悪くないけど、ここまで動きが早いと功夫映画というよりもコメディに見えてしまいます。個人的には「本当に武術指導を袁和平が担当したの?」という疑問さえ沸きました。
殺し屋を募集したレディが何者だったのか最後まで不明だったり、主役が誰なのか解らない物語など、色んな意味でハチャメチャな本作。もし『ワンチャイ』系列を制覇するのなら、とりあえず本作は無視しちゃってもいいと思います(苦笑

『タイガー・コネクション』

2010-06-26 23:37:32 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「タイガー・コネクション」
原題:洗黒錢
英題:Tiger Cage 2/Tiger Connection
製作:1990年

●例によって問題児な元刑事・甄子丹(ドニー・イェン)は、あるとき黒社会がらみのトラブルに遭遇し、敏腕弁護士の關之琳(ロザムンド・クァン)と一緒に事件に巻き込まれてしまう。この事件は黒社会の一員・仇雲波(ロビン・ショウ)呉大維(デビッド・ウー)の2人が、大金を巡って起こした抗争によるものだった。
仇雲波は關之琳が大金を隠したのではないかと勘違いし、さらに偶然から彼女と甄子丹は殺人犯の容疑を掛けられてしまう。2人は自らの疑いを晴らすべく奔走して、呉大維から真相を聞き出すことに成功する。捜査に当たっていた刑事・楊麗青(シンシア・カーン)も真実に近付く中、甄子丹たち3人は消えた大金をエレベーターの中から見つけ出した。
さっそく彼らは豪遊を始めるが(笑)、呉大維は仲間内の問題を片付けようと1人で仇雲波の元へ乗り込んでいく。が、既にボスの羅烈(ロー・リェ)は仇雲波によって亡き者にされ、呉大維も健闘むなしく惨殺されてしまう。怒りに震える甄子丹は、アメリカから来た刺客のジョン・サルベティ&マイケル・ウッズを倒し、仇雲波との最終決戦に挑む!

 『タイガー刑事』で甄子丹に肩慣らしさせた袁和平(ユエン・ウーピン)が、彼を主演に迎えて作った現代動作片です。功夫アクション的には『タイガー刑事』よりも工夫に富んでいました。例えば、手錠のままの戦闘・暗闇での駆け引き・バス上でのバトル(ここで背景に『ポリス・ストーリー』の永安百貨がチラッと映ります)など、ただの雑魚との闘いでも細部にわたって色分けができています
1VS1のバトルはクライマックス以降に集中していますが、ここでもそれぞれ違った闘いを構築しています。ジョン・サルベティとの闘いでは日本刀を駆使したソード・アクションを、マイケル・ウッズとの闘いでは鎖で自由が利かないハンディキャップ・マッチを、そして仇雲波との闘いではオーソドックスな打ちあいを展開!改めて甄子丹の身体能力と、袁家班のアクションレベルの高さを再確認できました。
 ただ、ストーリーが刑事アクションによくあるパターンの話なので、その点では不満が残ります。「犯罪組織を追い詰めようとする刑事が、陰謀によって犯罪者に仕立て上げられながらも、最後は巨悪を倒して終劇」…この手の話は『皇家師姐』シリーズや『タイガー刑事』『ドラゴン電光石火98』等々で繰り返し演じられてきたため、真新しさというものが全く感じられないのです。
違うのは個々の功夫アクションと役者だけであり、本作も『タイガー刑事』と『クライム・キーパー』にラブストーリーを足す事で完成してしまいます。いくら定番のストーリー展開とはいえ、さすがにこれでは工夫がなさ過ぎるのではないでしょうか…。
ただ、本作ならではの要素がない一方で、全体的な作りはしっかりしているし、功夫アクションに手抜かりはありません(単に粗暴なだけではない甄子丹のキャラなど、評価できる部分もいくつかあります)。これでストーリーにも工夫が行き届いていたなら、本作は甄子丹の代表作になったと思うんですが…つくづく惜しい作品でした。

『ドニー・イェン 邪神拳』

2010-05-10 23:25:26 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ドニー・イェン 邪神拳」
原題:魔唇劫
英題:THE HOLY VIRGIN VS EVIL DEAD
製作:1991年

●本作は甄子丹(ドニー・イェン)によるオカルト功夫片であり、同時期の『ドラゴン・バーニング/怒火威龍』と一緒に撮影されていたと思しき作品です。監督は問題作『群狼大戦』の王振仰(トミー・ウォン)で、彼らしくエロとエグさが同居する世界が構築されています。

 大学教授の甄子丹は、あるとき異形の怪物・慮恵光(ロー・ワイコン)に襲われ、教え子たちを皆殺しにされてしまう。殺人犯として逮捕された甄子丹は無罪を主張するが、刑事の林國斌(ベン・ラム)は非現実的な証言に耳を貸そうとしなかった。とりあえず保釈金を支払い、仮釈放された甄子丹は弟・麥羅と共に事件の調査に乗り出した。
調べを進めていくうちに、カンボジアで祭られるヒゲの女神と大富豪が関連していることを突き止めるも、協力してくれた司書が惨殺されてしまった。甄子丹は、林國斌・麥羅・元カノの徐希文と共にカンボジアに乗り込み、そこで慮恵光を倒そうとしている部族の娘・楊寶玲(ポーリン・ヤン)と遭遇。くだんの大富豪は、徐希文を生贄にして慮恵光の魔力を得ようと画策していた。
誘拐された徐希文を助けようと、甄子丹たちは敵の屋敷に乗り込むのだが、慮恵光の妨害によって一時退散。負傷した林國斌が離脱し、一行は楊寶玲の部族を目指すものの、既に大富豪が魔力を手にするための儀式を始めようとしていた…。

 色んな意味でムチャクチャな作品なんですが、全盛期の甄子丹による功夫アクションは実に迫力満点!当時はまだワイヤーに頼り切る前だったこともあって、地に足を付けたバトルが十分に堪能できます(この翌年、彼は『天地大乱』『ドラゴン・イン』などのワイヤー古装片に出演し、ワイヤー多用の殺陣に傾倒してしまいます)。
本作で一番の収穫だったのは、これまで共演の機会が多かったのに対決まで至らなかった甄子丹VS慮恵光の一戦が実現している事です。それに加えて、準主役的なポジションながら「甄子丹に負けてたまるか!」と言わんばかりの活躍を見せた成家班出身俳優・林國斌の存在も見逃せません。多少グロい演出こそあるものの、全体的に功夫アクションは上出来だったと言えるのではないでしょうか。

 また、今回の甄子丹はお馴染みの問題児キャラではなく、落ち着いたインテリの教授という役柄を好演しているので、いつものようなフラストレーションは感じられませんでした。しかし、甄子丹に代わって胡慧中(シベール・フー)が同様のキャラクター像を引き継いでしまっています。
本作における胡慧中は高飛車な刑事として描かれ、事あるごとに甄子丹や部下たちをバカにしてばかり。遂には上司にまで暴言を吐き、「警察辞めて女優になるわ」とバッジを捨てて退場してしまいます。おまけに彼女は本筋に絡まないし、アクションすら見せないのです。恐らく胡慧中は製作時期の近い『怒火威龍』に集中していたために、仕方なく途中退場してしまったのだと思われますが……仮にそうだとしても、このキャラ設定はヒドすぎです。
ところで、ラストはよく解らないオチ(バッドエンド?)で締めくくられるんですが、なぜか誰も死んでしまった麥羅のことに触れようとしていません。前回の『ブレイザウェイ』では主人公の上司がフェードアウトしていましたが、本作の麥羅は明らかに死んでいます。せめて「彼は気の毒だった」とか言っても良かったんじゃないかと思うんですが、皆さんは忘れ去られる方と無視される方ではどっちが辛いと思いますか?(爆

『クライム・キーパー/香港捜査官』

2009-10-04 20:35:53 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「クライム・キーパー/香港捜査官」
原題:皇家師姐4直撃證人/皇家師姐4直撃証人
英題:IN THE LINE OF DUTY IV
製作:1989年

▼遂に見ました、皇家師姐シリーズ第4弾!これで皇家師姐シリーズは全て制覇した事になるのですが、とりあえずシリーズ全体のおさらいを…。
 第1作の『レディ・ハード/香港大捜査線』はD&Bの処女作で、楊紫瓊(ミシェール・ヨー)の初主演作でもありました。続く『皇家戦士』は日本から真田広之を招集し、白鷹(パイ・イン)といった往年のスターを起用してスケール感を演出。第3作の『香港・東京特捜刑事』では藤岡弘を招き、主役が楊麗青(シンシア・カーン)へと交代します。
第5作は楊麗青が韓国に渡る『皇家師姐5中間人』で、こちらはラストの楊麗青VSキム・マリー・ペン戦が見もの。第6作の『地下兵工廠』は香港・台湾・中国の刑事トリオが銃の密売組織に挑み、最終作『海狼』は楊麗青が脇に回って徐少強の組織と対決するというストーリーでした。この皇家師姐シリーズは、どの作品にも必ず見所が存在し、安心して楽しむことの出来るシリーズであったのです。
ただ、第2弾以降の続編が一度も『レディ・ハード』に匹敵するアクションを作れなかったことだけは実に残念です。確かに第2作以降の作品にいいファイトを見せる場面もありましたが、『レディ・ハード』のような凄まじい殺陣には誰も追いつけなかったのです…そう、本作を除いては。

■今回、楊麗青は甄子丹(ドニー・イェン)と共にシアトルで麻薬組織を追っていた。組織の黒幕はCIAのお偉方なのだが、悪事の証拠を収めたフィルムが不法移民者の袁日初の手に渡り、そのまま紛失してしまう。お陰で麻薬組織からは「フィルムはどこだ!」と襲われ、警察からは「お前殺人犯だろ!」と追われてしまい、袁日初は命からがら香港へ亡命。楊麗青&甄子丹と王敏徳(マイケル・ウォン)は、彼を追って香港へ飛んだ。
一時は警察に身柄を確保される袁日初であったが、麻薬組織は袁日初を意地でも捕まえようと暗躍する。で、お察しの通り王敏徳は裏切り者の悪党であり、袁日初が黒幕の正体を見たと知るや、標的をフィルムから袁日初の命へと変更。邪魔な楊麗青&甄子丹を排除すべく、両者を犯罪者に仕立て上げて消し去ろうとする王敏徳。そんな悪党に対し、楊麗青たちは誘拐された袁日初の母親を救うために敵陣へ乗り込む!

▲本作はシリーズ中、最も国際色豊かな作品造りに務めた一本です。海外ロケーションや大量の外人アクターの投入など、規模に関してはシリーズ中でも破格の内容を誇っています。ストーリーこそ皇家師姐シリーズにありがちな「陥れられたけどそうはいきませんよ」的な内容で代わり映えしないものの、袁和平(ユエン・ウーピン)が手がけた動作片の中では最も面白い作品の1つに数えられるのです。
正直、私は本作の暴力刑事な甄子丹にはあんまり感情移入できないんですが(苦笑)、功夫アクションは袁和平らしくボリューム満点の出来。趣向を凝らしたファイトの数々は正に功夫シーンの見本市で、袁和平の真骨頂を見ることができます。中でも特筆は甄子丹VSマイケル・ウッズの一戦で、他の作品でも何度か闘っている両者にとって、恐らく今回の対戦がベストバウトだと思いました。
 強靭な肉体とパワーで甄子丹を圧倒するウッズ。しかし甄子丹はスピードとテクニックで相手を翻弄し、次第に勝負を自分のペースに引き寄せていく。徐々に防戦一方となってくウッズだが、このままでは勝てぬと悟り、防御を捨てて捨て身の戦いに持ち込んだ。結果、甄子丹も力に力で対抗せざるを得なくなり……と、このように今回のバトルは目まぐるしく優劣が入れ替わる内容になっています。
お互いの攻防や心情の変化などが解りやすく描写されており、実にスリリングな展開を見せます。他にも、楊麗青VS一見弱そうで強い曹榮、テンション高すぎなジョン・サルベティなどなど、この作品には濃厚なファイトが沢山ありました。これなら『レディ・ハード』に匹敵すると言っても過言ではないはずです。
個人的には『タイガー刑事』『タイガー・コネクション』よりも気に入った逸品ですが、そういえばその『タイガー刑事』にも第3弾となる『冷面狙撃手』という作品があります。甄子丹が不在のこの作品、果たして出来の方はどうなんでしょうか…?

『ドラゴン酔太極拳』

2009-09-23 21:42:26 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ドラゴン酔太極拳」
「女デブゴン強烈無敵の体潰し!」
原題:笑太極/醉太極
英題:Drunken Tai Chi
製作:1984年

▼80年代中期、袁和平(ユエン・ウーピン)は苦闘を強いられていました。かつては『酔拳』でジャッキーをスターダムに押し上げ、サモハンやユンピョウともコラボを果たしてきた男も、近代化の進む香港映画界から徐々に取り残されつつあったのです。
ハーベストから飛び出した袁和平ら袁家班は台湾へ向かい、羅維(ロー・ウェイ)や第一影業などを転々としながらオカルト功夫片の製作に着手。当時全盛を極めていたキョンシーをあえて取り入れず、独自のキャラクターやクリーチャーで勝負したまでは良かったものの、パッとしない状況に変わりはありませんでした。
 本作はその袁和平が監督した作品で、甄子丹(ドニー・イェン)のデビュー作としても名高い一編です。本作が作られた1984年は香港映画にとって転換期にあたり、そんな時期に本作のような古いコメディ功夫片を作るとは、いささか時代遅れの感があります。
袁和平らもそれは解っていた様で、作中に自転車や爆破アクションを取り入れているんですが、やはり古臭さは否めません。結果として本作はヒットに恵まれなかったようですが、決して悪い作品ではなかったのです。

■やんちゃ者の甄子丹は兄貴(袁日初)思いな男だが、あるトラブルで金持ちドラ息子の陳志文から恨みを買ってしまう。さっそく報復に現れる陳志文だが、甄子丹はこれをサラッと返り討ちに。ところがアクシデントで陳志文が知的障害者となり、陳志文の父である王道(ウォン・タオ)は息子の復讐を誓い、殺し屋の袁信義(ユエン・シンイー)を差し向けた。
袁信義によって父・李昆と袁日初を殺された甄子丹は、たまたま知り合った袁祥仁(ユエン・チョンヤン)の元に転がり込み、そこで太極拳を伝授される事に。のちに陳志文と王道の問題は決着がついたが、最後に袁信義との対決が待っていた…。

▲…と、物語的に内容はこれだけ。袁祥仁のキャラは一連のオカルト功夫片そのままで、ギャグやギミックの演出は『妖怪道士』の時から殆ど進歩していないし、それらが更に本作の古臭さを助長させています。また、これまで狂気の殺人鬼を演じる事の多かった袁信義を、本作では子持ちという設定にして奥行きを広げる事に成功しています…が、袁信義の息子が辿る末路を考えると、オチにも重苦しさを感じてしまいました。
本作はオカルト功夫片の流れを汲む作品であり、上記の通り全ての演出が『妖怪道士』といった作品群の延長線上にあります。もし今回も袁日初が主演であったなら、恐らく単なる珍作で終わっていたに違いないですが、袁和平とて同じドジを踏むはずがありません。本作が傑作として昇華し得たのは、何よりも甄子丹という新風の存在があったからなのです。

 本作における甄子丹は気のいいあんちゃんを好演していて、オープニングで見せる太極拳の演舞も実に華麗。柔らかさの中にも力強さを感じさせる動きは本当に素晴らしい出来栄えです。武術指導は袁和平が渾身の殺陣を構築し、バラエティに富んだアクションシーンは圧巻の一言。ところどころリアル・ヒッティングな技を見せる部分があり、のちの甄子丹作品を連想させるカットも存在します。
甄子丹との出会いを経た袁和平は動作片へ方針を転換し、『タイガー刑事』系列や古装片で再び盛り返していきました。しかし甄子丹が自らの元から離脱した際、袁和平は呉京(ウー・ジン)を彼の後釜として担ぎ出しますが、本作同様にまたも失敗を喫してしまいます。
 その失敗作というのが『太極神拳』(この作品も本作と同じ太極拳の映画)で、この作品は時代に合ったワイヤー古装片だったんですが、ストーリーがあまりにも二番煎じ過ぎたために凡作止まりの出来でした。この失敗が相当応えたのか、袁和平は『太極神拳』を最後に監督業から退き、武術指導家に専念していくことになります。
しかし、『太極神拳』から数えて13年目の今年(2009年)、袁和平は再びその手にメガホンを構えました。それが趙文卓主演作『蘇乞兒』です。『蘇乞兒』も本作と同じく袁家班が結集して製作に当たっているとの事ですが、果たして『蘇乞兒』は袁和平にとって三度目の正直となるのか…是非とも期待して待ちたいところです。

『ヒート HEAT』

2009-08-20 21:19:35 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ヒート HEAT」
原題:黒色城市/色城市/黒道/日本版
英題:Black City/City of Darkness
製作:1999年

●久々に甄子丹(ドニー・イェン)が見たくなって視聴した作品ですが、これってもしかして『衝破死亡遊戲』のついでに撮ったんでしょうか?メインのキャストが『衝破死亡遊戲』とかなり被ってるし、どっちも林萬掌が関わっているし…。なお、本作の主演は甄子丹とされていますが、実際は陳子強と左孝虎のカンフーキッドコンビが本当の主役であり、甄子丹はゲスト出演程度の出番しか無かったりします。
内容の方はかなり単調で、謎に包まれた財宝を巡って少年たちがマフィアに追われるという、吹けば飛ぶよな薄っぺらいストーリーが繰り広げられています。監督は武術指導家の林萬掌が担当していて、彼は『カンフー・キッド/好小子』の後期作品のメガホンを撮った経験もある人ですが、本作の出来はそれほど喜ばしい物ではありません。

 ただし、作中で見せる功夫アクションのレベルはとにかく高いです。なにしろ敵のボスに倪星(コリン・チョウ)、幹部に林萬掌の助手である張藝騰、組織の雇った殺し屋に周比利(ビリー・チョウ)とキム・マリーペンが揃い、どこを切っても激しいバトルのオンパレードとなっているのです。
甄子丹不在時のパートは李羅という知らない俳優さん(でも動きはいい)が務め、当然の事ながら『カンフー・キッド』でも見せた痛いスタントもそこかしこで炸裂しています。最後の甄子丹VS倪星陳子強&左孝虎VS張藝騰の大乱戦も意外と面白く、最後の結末こそ納得がいかなかったものの、充分良いバトルで健闘してみせています。
 しかし、やはりどうしても物語のスカスカさが気になって仕方がありません。他の林萬掌作品がどんなものか知らないので大きいことは言えないんですが、本作を見る限りでは「林萬掌は武術指導だけに徹して欲しいなぁ…」と思ってしまいました。
ところでエンドテロップを見ていて仰天したんですが、本作のどこかに張徹(チャン・ツェー)組出身の程天賜が出ているらしいのです。程天賜は『少林拳対五遁忍術』などに出演した功夫スターですが、80年代における香港映画界の近代化に着いていけず、いつしかフェードアウトしてしまった悲劇の実力者でした。もし本当に程天賜が出ているなら、本作は彼の出演した最後の映画ということになるのですが…さて?