功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『霸道縱構/霸道殺星』(『覇拳/振り向けば修羅』香港版)

2009-08-30 21:15:00 | 千葉真一とJAC
霸道縱構/霸道殺星(殺は旧字)
英題:Fighting Fist/Lady Cop in Fury/Bully
製作:1992年

▼かなり以前、私は『覇拳』という作品を当ブログにて紹介した。この作品は千葉真一がメガホンを取ったVシネ映画だが、"JAC最後のスター"塩谷庄吾を筆頭に松田勝(現:松田優)・胡慧中(シベール・フー)・慮恵光(ケン・ロー)・銭嘉樂(チン・ガーロッ)等が集結。作中では香港ロケも敢行され、当時のVシネとしては破格のキャストで作られた作品だった。
内容や格闘アクションはそれほどでもないのが少々残念だが、JACと香港映画が協力した作品として記憶に残る一本である。ところが、本作の香港版に石橋雅史が出演しているという怪異な噂があるのだ。他にも香港パートには日本版には無い追加カットもあると聞くが、そこで今回は『覇拳』香港版の検証を試みたいと思います(ちなみにあらすじは『覇拳』日本版レビューを参照のこと)。

■(※…ネタバレ有りなので、視聴を予定されている方はご注意下さい)
さて香港版の仕様だが、まずBGMが幾つか変更されてて全体的に台詞が増えており、香港版では塩谷の心の声などが追加。打撃音が香港式にアレンジ(重い音に変更)されて日本版にあった軽さが軽減され、香港版ということで香港キャストの出番が若干増え、編集の違いで前後の流れが変わり、日本版にあったアクションのスロー処理が無くなるなどしている。
最初に塩谷が香港のアバティーンに現れて情報屋と接触する…のだが、この情報屋って王清河だったんですね。王清河はショウブラの名脇役で武侠片などで悪役として活躍、次に塩谷がボスの息子を始末するシーンには、ガードマン役で夏占士と李發源の姿も。話は進んで銭嘉樂が捕まるシーンに続くが、ここで遂に追加カットが登場!日本版ではすぐに捕まって見せ場の無かった銭嘉樂だが、香港版では銃撃戦や軽いスタントを披露し、銭嘉樂の家を襲った後の慮恵光と遭遇する。つまり銭嘉樂VS慮恵光!である。ここで銭嘉樂が負けて捕まる訳だが、まさか銭嘉樂VS慮恵光なんてバトルがあったとは驚きだ。
続いて舞台は日本へと移行。ところどころ日本版に無い場面(逆に香港版で省かれた場面もある)を挟みつつ、団次郎の取引現場襲撃へ。日本版では塩谷の独壇場だったこのシーンも、香港版ではなんと胡慧中の功夫アクションがプラスされている。さすがに香港版主演格の扱いは伊達じゃないぞ(嬉)!このあと塩谷VS慮恵光の第1ラウンドがあるが、こちらは特に追加シーンは無し。次に塩谷が大文字三郎らに接触するが、今度は塩谷の回想という形で修行時代の銭嘉樂がチラッと登場する。
ところで石橋雅史出演疑惑だが、どうもHKMDBの情報から察するに大文字三郎を石橋雅史と間違えているようだ。いろいろと追加カットがあるので期待したが…これはちょいと残念です。そんなこんなで、物語はいよいよ大詰めへ。団次郎の兵隊と塩谷の銃撃戦は無編集…と思いきや、日本版だと慮恵光に殺されていた団次郎が香港版では胡慧中に始末されたぞ?!そして塩谷VS慮恵光のラストバトルだが、こちらも追加シーンはありませんでした(流石に塩谷を起用しての撮り足しは不可能だったか)。
最後は千葉ちゃんと塩谷のハイタッチで終わるのだが、ここで作中で最も衝撃的な驚愕のどんでん返しが待っていました。2人がタッチした瞬間、千葉ちゃんの腕にチラリと香港黒社会の印である花の刺青(取引のシーンで李發源らが見せていたアレ)が!?そして恋人と抱き合う塩谷の向こうには時限爆弾らしきものが!!?

▲最後は結末を見せないで幕を引いていましたが、まさかのバッドエンド(?)にただただ呆然とするばかりです。言語が中国語なので何を言ってるのか解りませんが、もしかしたら台詞で千葉ちゃんが敵のスパイである伏線が語られていたのかも。それにしても、この改変でラストに見せた千葉ちゃんの「この作品は俺が作ったんだぞ」的な自己満足スマイルが、一気にドス黒いものに変わっちゃってました(爆
ということで、ガセだった石橋雅史の出演・驚愕の銭嘉樂VS慮恵光・胡慧中の活躍が増加・そして全てをひっくり返すバッドエンド…これまで見たいと思っていた『覇拳』香港版ですが、まさかここまでの内容だったとは思いもよりませんでした。個人的に構成や完成度なら日本版、功夫アクションなら香港版が良かったかと思います。それにしても、香港版の事を千葉真一自身はご存知なんでしょうかね?

『天使特警/野戰神風』

2009-08-27 21:53:50 | 女ドラゴン映画
天使特警/野戰神風
英題:Angel Force
製作:1991年

▼80年代は香港映画にとって大きな転換期となる時代だった。ジャッキーやサモハンといった時代の旗手たちは現代劇へ視点を移し、『悪漢探偵』という傑作の登場が全ての流れを決定付けた。これにより、かつて功夫片で成功したスターたちにとって苦闘の時代が始まることとなったのだ。ある者は大陸に渡って中国産の功夫片に行き場を求め、またある者は台湾に逃れてニンジャ映画にしがみついた。監督業に目覚めて流れを乗り切った者もいれば、ハナから流れに乗ろうとしないで独自路線を突き進んだ者も出てくるなど、80年代終盤の香港映画界は70年代とは違った意味で群雄割拠の時代だったと言っても過言ではないだろう。
その流れも90年代に復活した古装片ブームによって落ち着くのだが、地に足を着けずピョンピョンと飛び回るアクションは明らかにかつての功夫片とは別物だった。動作片・古装片・そして女闘美系列が入り乱れていた90年代の香港映画界…果たしてかつての功夫スターたちは、そこに一体何を見たのだろうか?今回はそんな時期の動作片に迫ってみたいと思う。

■本作は『天使行動』にタイトルは似ているが無関係の作品。李賽鳳(ムーン・リー)と林俊賢の刑事コンビが、成奎安の組織が起こした要人誘拐事件に挑む様が描かれていく。
捜査の過程で謎多き男・呉岱融と接触した2人は、敵地の所在を掴んでタイの奥地に向かったが、暗殺者・高城富士美(何故かノンクレジット…カメオ出演か?)の襲撃に遭って林俊賢が負傷。呉岱融と共に陳光が指揮するコマンド部隊の協力を仰ぐと、死闘の果てに人質の奪還に成功した。あとは成奎安をパクれば全てが丸く収まるかと思われたが、実は李賽鳳の上司である龍方(ロン・フォン)が成奎安を操っていた黒幕だったのだ(でも龍方だから画面に出ただけで悪党であることがモロバレ・笑)。
計画(何の?)を台無しにされた龍方は、さっそく李賽鳳ら3人の始末を成奎安に任せるが…。

▲平均的な完成度を保っており、功夫アクションやスタントシーンなどでアクセントを付けているが、どこか物足りなさを感じてしまう作品だ。
出来は決して悪く無いのだが、本作ならではの要素というものがあまり見えてこないのが欠点で、観客にとっては「いつもの動作片」程度にしか感じられないのも痛い。李賽鳳ファンなら見て損は無いかもしれないが、あまり華やかな作品でない事だけは肝に銘じておいて欲しいところだ。功夫アクションは李賽鳳VS王龍威のバトルが意外と熱いが、ラストのVS成奎安は中途半端な出来でちょい残念。龍方が出てきたときは『新龍争虎鬥』のリターンマッチ実現かと期待したが、本作での龍方はヘタレなボスだったのでこちらも肩透かしを食らってしまいました。
ところで話は前フリから続くが、動作片へ居場所を模索した者の中でも最も変り種だったのが王龍威である。王龍威は張徹(チャン・ツェー)の監督作品で映画界にデビューした人で、演技こそ代わり映えしないがドッシリとした重みのあるアクションが強みの猛者だ。ショウブラで大量の作品に悪役として出演した事から、私は彼を"ショウブラの石橋雅史"なんて呼んでいるが、他にもサモハンと対決した『燃えよデブゴンお助け拳』、同期の梁家仁と闘った協利作品『識英雄重英雄』、唯一の主演作である『バトル・フラッシュ』等々、ショウブラ以外の仕事でも印象的な姿を見せていた。
ここで普通なら単なる悪役スター止まりになりそうなところだが、彼は1985年に製作した『山東狂人』で監督業に目覚め、90年代には劉徳華(アンディ・ラウ)作品などのメガホンを取るようになっていくのだ。その後は役者としても平行して活躍し、古装片にも挑むなど幅広い才能を見せていくが、スクリーンで見せる没個性的な姿とは全く正反対なマルチっぷりが面白い。ちなみに本作の監督は『中国超人インフラマン』『崇山少林寺』の華山で、これが彼の最後の監督作となった。歩む者もいれば足を止める者もいる…という事なのだろうか。

『カンフー・クエスト/覇者の剣』

2009-08-23 23:42:17 | カンフー映画:傑作
「カンフー・クエスト/覇者の剣」
原題:南龍北鳳西山虎/隱侠恩仇録
英題:The Mysterious Heroes/Wu Tang Swordsman
製作:1977年(1979年説有り)

▼多分このブログを見ている人は既にご存じかと思いますが、この秋に倉田保昭と協利電影の功夫片が4本ほどリリースされるそうです突然振って沸いたような話で私も驚いていますが、よもや協利作品が日本でこうしてソフト化されるなんて本当にビックリです。今回発売されるのは倉田保昭の『大追踪』『怒雙衝冠』と協利の『猴形扣手』『十大殺手』で、このうち『猴形扣手』は当ブログでレビュー済みなので、気になる方はご参照を。
 知らない人に説明すると、協利電影とは質の高い作品造りと顔合わせを売りにしていた独立プロダクションで、功夫映画ファンなら絶対に見るべきと言える名タイトルを幾つも世に送り出している。私は『鷹爪鬼手』『識英雄重英雄』『懲罰』『天才功夫』『猴形扣手』等を見てきたが、どれもこれもストーリーに一捻りが加えられており、それでいて功夫アクションも趣向を凝らした物ばかり。ここまでレベルの高い作品が何故今まで日本で紹介されなかったのかが不思議なところだが、実は一本だけ日本でリリースされた協利作品が存在しており…ということで、今回は協利作品の発売を記念して本作を取り上げてみようと思います。

■明朝末期、とある街を支配していた名士・王侠は最強の剣士(石堅)が持つ宝剣を狙ったが、その石堅はどこかへ行方をくらました。消えた石堅を追って多くの刺客が錯綜する中、謎の侠客・黄家達(カーター・ウォン)は自ら石堅の名を名乗って暗躍を続けていた。彼は自身が最強の剣士となるために、そして一族の仇である石堅を討つために行動していたが、彼の前に王侠が立ちはだかる。王侠は石堅を知る者を次々と消し去っていくが、当の石堅は王侠の手によって地下牢に捕らえられていた。
 黄家達は武當剣使いの上官靈鳳(シャン・カン・リンホー)と合流し、物乞いの金童(クリフ・ロク)の協力を得て王侠の屋敷へ潜入。脱出に成功した石堅は自分の家族が王侠によって破滅に追い込まれた事を知り、再び王侠の元へ戻ると敵勢をことごとく切り伏せ、金童を失いながらも王侠を討ち取った。一方、あくまで最強の座を追い求める黄家達は石堅との決闘を望むが、闘いに虚しさを感じていた石堅は黄家達に勝ちを譲った。
しかし最強となった黄家達には、かつて最強だった石堅と同じ修羅の日々が待ち構えている。その事と衝撃的な真実を師から告げられた石堅は、黄家達に自らの力を知らしめると強敵・天外四魔(うち1人が馬場)との闘いに赴く。全ての罪を償うため、石堅は剣を振るうが…。

▲あんまり細かく書いてしまうとネタバレになるので粗筋紹介はこの辺で。
今回の協利は黄家達と上官靈鳳という台湾映画おなじみの顔を起用し、ベテラン石堅をアクセントに加えた渋いキャストを投入。武術顧問に陳秀中を起用しているので功夫アクションに抜かりは無いが、本作の肝は重厚なストーリーにある。武侠片らしい謎が謎を呼ぶ序盤から始まり、王侠との確執を描く怒涛の中盤を経て、終盤は「最強の先に待ち受けるものとは何か?」という大きなテーマを扱っているのだ。
 功夫片や武侠片では愛憎劇や悲恋・仇討ちなどの一貫したテーマは多々見られるが、本作は武術の頂(いただき)に達した男の悲劇という類を見ない題材を取り上げており、とかく裏切りが跋扈しがちな武侠片というジャンルに新風を吹き込んでいる。『識英雄重英雄』でデブゴン映画的なアプローチに挑み、『懲罰』でワールドワイドなロケを行い、『天才功夫』で最初から最強の主役を打ち出してきた協利電影だが、本作でもその多角的な視点は陰りを見せていない。これには流石と言うほか無く、改めて協利電影の凄さを認識した次第である。
監督が陳少鵬なので功夫アクションの割合は多く、いつもならもっさり気味になりがちな黄家達や上官靈鳳も本作では見事な武打シーンを披露。とりわけ最強の剣士を演じた石堅の存在感は素晴らしく、オープニングでの2度にわたる演舞や黄家達との対戦では年齢を感じさせないファイトを演じ、天外四魔を相手取って闘うラストバトルではほとんどスタントを使わない奮闘ぶりを見せている。『龍形摩橋』『狼狽爲奸/狼狽為奸』の石堅も良かったが、個人的には本作の石堅が一番印象に残りました。
 こうなれば今回協利作品をリリースしてくれたメーカーさんには、是非とも本作もDVD化して欲しいところですが…とりあえずは秋に発売される4タイトルを待つことにしましょう(笑

『ヒート HEAT』

2009-08-20 21:19:35 | 甄子丹(ドニー・イェン)
「ヒート HEAT」
原題:黒色城市/色城市/黒道/日本版
英題:Black City/City of Darkness
製作:1999年

●久々に甄子丹(ドニー・イェン)が見たくなって視聴した作品ですが、これってもしかして『衝破死亡遊戲』のついでに撮ったんでしょうか?メインのキャストが『衝破死亡遊戲』とかなり被ってるし、どっちも林萬掌が関わっているし…。なお、本作の主演は甄子丹とされていますが、実際は陳子強と左孝虎のカンフーキッドコンビが本当の主役であり、甄子丹はゲスト出演程度の出番しか無かったりします。
内容の方はかなり単調で、謎に包まれた財宝を巡って少年たちがマフィアに追われるという、吹けば飛ぶよな薄っぺらいストーリーが繰り広げられています。監督は武術指導家の林萬掌が担当していて、彼は『カンフー・キッド/好小子』の後期作品のメガホンを撮った経験もある人ですが、本作の出来はそれほど喜ばしい物ではありません。

 ただし、作中で見せる功夫アクションのレベルはとにかく高いです。なにしろ敵のボスに倪星(コリン・チョウ)、幹部に林萬掌の助手である張藝騰、組織の雇った殺し屋に周比利(ビリー・チョウ)とキム・マリーペンが揃い、どこを切っても激しいバトルのオンパレードとなっているのです。
甄子丹不在時のパートは李羅という知らない俳優さん(でも動きはいい)が務め、当然の事ながら『カンフー・キッド』でも見せた痛いスタントもそこかしこで炸裂しています。最後の甄子丹VS倪星陳子強&左孝虎VS張藝騰の大乱戦も意外と面白く、最後の結末こそ納得がいかなかったものの、充分良いバトルで健闘してみせています。
 しかし、やはりどうしても物語のスカスカさが気になって仕方がありません。他の林萬掌作品がどんなものか知らないので大きいことは言えないんですが、本作を見る限りでは「林萬掌は武術指導だけに徹して欲しいなぁ…」と思ってしまいました。
ところでエンドテロップを見ていて仰天したんですが、本作のどこかに張徹(チャン・ツェー)組出身の程天賜が出ているらしいのです。程天賜は『少林拳対五遁忍術』などに出演した功夫スターですが、80年代における香港映画界の近代化に着いていけず、いつしかフェードアウトしてしまった悲劇の実力者でした。もし本当に程天賜が出ているなら、本作は彼の出演した最後の映画ということになるのですが…さて?

『ファイナルヒート』

2009-08-17 21:14:20 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「ファイナルヒート」
原題:FINAL HEAT/UNDEFEATABLE
製作:1994年

●シンシア・ラスロック主演のマーシャルアーツ映画であるが、この作品には色々と複雑な事情が存在する。…が、その前に本作の監督であり幾多のニコイチ映画を製作したことで知られる何誌強(ゴッドフリー・ホー)について触れておこう。
彼はかつてショウ・ブラザーズで張徹(チャン・ツェー)の元に付き、助監督として幾多の功夫・武侠片に関わった。ところが何を血迷ったか、彼はIFDやフィルマークといったアンダーグラウンドの仕事に走り、その映画人生の大半をクズ映画作りに捧げたのだ。多くのニコイチ作品に関わった何誌強だが、フィルマーク最後の仕事とされている『Ninja Empire』を最後に香港の映画界から離脱。以後はアメリカでマーシャルアーツ映画に従事した。
しかし完全に香港から脚抜けしたという訳ではなく、90年代にはレディ・アクションなどを数本撮っている。その中に『摧花狂魔』という作品が存在するのだが、本作はこの『摧花狂魔』の再編集作品であるという。ストーリーは単純明快で、どちらかというと同じシンシア主演の『タイガークロー』に近い。しかし特にこれといって目新しいポイントは無く、はっきり言うと『タイガークロー』の二番煎じのようなもの。格闘アクションは香港系の激しいファイトが中心。こちらは結構面白いので、そちらだけを楽しむほうが無難だろう(ちなみに本作のラストバトルは、米国だと「最低の格闘シーン」と揶揄される事が多いとか)。
シンシアは不良グループを率いる女ドラゴン。ストリートファイトで手にした賞金で、大学に通う妹の学費をまかなっている。一方、妻に逃げられた格闘家くずれのドン・ニアム(例によって特殊性癖持ちのシリアルキラー)は、妻を捜して花柄の服の女性を探しては殺人を重ねていき、遂にはシンシアの妹が犠牲となってしまう。警察官のジョン・ミラーと共に犯人を追うシンシアだったが、ドンは次なるターゲットを定めつつあった…。

本作で気になるのは、「一体どこからどこまでが『摧花狂魔』なのか?」という事だ。
私は『摧花狂魔』は未見だが、タイトルを見る限りでは本作と内容は大差無いものと推測される(『摧花狂魔』の監督は何致謀となっているが、恐らく何誌強の変名だろう)。データによると、武術指導に孔祥・助演に仇雲波(ロビン・ショウ)とあるものの、どちらも『ファイナルヒート』には登場していない。ジョン・ミラーの役柄を仇雲波が演じたのだろうと考えられるが、それ以前にこの『ファイナルヒート』という作品には、再編集の形跡が全く見られないのだ。
これは完全に私の想像だが、『ファイナルヒート』は『摧花狂魔』のストーリーを流用しただけなのではないだろうか。まず最初に『摧花狂魔』が作られ、そこから脚本だけを使用(映像は流用無し?)したものが『ファイナルヒート』となった……これが事の真相だと思われる(とはいえ、こればっかりは流石に『摧花狂魔』を見ないと何とも言えないところなのですが)。
何誌強はこれと同様の手法で『パワーヒート』(元は『縦横天下』)という作品を作っているが、遥かアメリカの地に渡っても相変わらず自己流の映画作りを続けているなんて、流石は何誌強である…としか言い様が無いな、この人は(爆

※追記…寄せられた情報によると『ファイナルヒート』そのものは再編集作品ではなく、『ファイナルヒート』に追加撮影を加えた物が『摧花狂魔』となった模様(情報提供は蛇形酔歩さん・多謝!)。

『唐山五虎』

2009-08-13 22:04:54 | ショウ・ブラザーズ
唐山五虎
英題:Five Superfighters/The Super Fighters
製作:1979年

▼1979年…その年に公開された2本の映画が、香港映画界の流れを大きく変えた。それが『蛇拳』『酔拳』である。この2本は復讐と仇討ちが吹き荒れていた功夫片に一石を投じ、先鋭的だったコメディ功夫片というジャンルを定着させた傑物だった。このムーブメントには多くの映画人が追従し、香港・台湾・韓国・果ては日本にもコメディ功夫片の嵐が巻き起こったのだ。そんな大ブームを、当時ゴールデンハーベストと競り合いを演じていたショウ・ブラザーズが見逃すはずが無く、当然の如くコメディ功夫片の製作に着手していた。
だが、ここで1つの疑問が浮かぶ。かつて李小龍(ブルース・リー)が人気を博し、多くの映画がその模倣に突っ走っていた70年代前半期、ショウブラは『実録ブルース・リーの死』という李小龍に唾吐くような映画を作り、ブームに背を向けていた。これは李小龍を擁していたハーベストがショウブラのライバルであった事が大きく、他社で起こったブームにおいそれと便乗するものかというショウブラの意地が聞こえてきそうな出来事だった。ならば、李小龍の路線には倣わなかったショウブラが、どうしてコメディ功夫片ブームに乗っかったのだろうか?
これは考えれば簡単な話である。今回のブームは李小龍個人が巻き起こしたものではなく、あくまでコメディ功夫片というジャンルそのもののブームだったため、ショウブラは参入を決意したのだろう。先の武侠片ブームで多くのヒット作を連発したショウブラとしても、今回のブームは黙って見ている訳にはいかなかった。「独立プロが売れる作品を作れるなら、大手の我々が作れば更に上を行く作品が作れるはずだ」とショウブラが言ったか知らないが、大手としてのプライドが後押ししたのは確実なはずである。

■流浪の武術家・關鋒は道場破りマニア。今日も道場破りに現れて…って、ここで襲撃を受ける道場の長は劉鶴年じゃないか!劉鶴年といえば長江電影の常連俳優だが、それ以前に道場破られフェチとして有名なお方だ。『湮報復』『截拳鷹爪功』『龍虎門』等々、この人が道場主をやってると必ず良からぬ事が起きるのだが、わざわざショウブラに来てまで道場を破られるなんて本人が好きでやってるとしか思えないぞ(笑
てな訳でアッサリと劉鶴年を征した關鋒、次に侯朝聲が師を務める一団に遭遇した。そこで呉元俊(七小福の1人)・惠天賜(惠英紅の兄貴)・梁小熊(梁小龍の弟…本作では熊光名義)と戦闘になるが、彼ら4人は關鋒にボロ負けしてしまう。おのが技が通じず、嘆き悲しむ侯朝聲。それを見た弟子3人はリベンジを決意し、実力強化のために別の武術の師を探して修行する事を誓った。まず梁小熊は豆腐売りで足技の達人・黄薇薇と出会い、押しかけ弟子となって厳しい修行に徹した。ちなみに黄薇薇とは『マジック・クリスタル』でリチャード・ノートンと剣で闘ったあの叔母さんだ(その『マジック・クリスタル』では梁小熊が武術指導を担当しているのだから奇縁である)。
そのころ呉元俊はギャンブルがらみのトラブルから酔いどれ師匠・林輝煌と出会う。こっちも強引に押しかけ弟子になり、残る惠天賜は棍術使いの漁師・陸劍明の元に身を寄せた。それにしても功夫片の世界には本当にそこら中に達人がウヨウヨしているなぁ。本作は極端な例かもしれないが、これじゃ中国人全員が功夫の使い手だと勘違いされたって仕方ないかも(爆)。一方、3人の弟子に去られた(と思っている)侯朝聲は酔剣の修行に明け暮れ…。
半年後、集中特訓で修行を終えた3人は侯朝聲のもとへ帰ってきた。突然姿を消した弟子たちにブツクサ文句をたれる侯朝聲を尻目に、彼らは再度現れた關鋒との闘いに挑んだ。習い覚えた拳技で立ち向かう3人だったが、關鋒の隠し玉である槍が出たところで、一気に形勢は不利になってしまう。各々の持ち味を存分に生かして闘う3人だが、果たして關鋒を倒せるのだろうか?

▲本作はコメディ功夫片にショウブラが切り込んだ作品の1つだが、ショウブラ自身が他の独立プロとの違いを宣言したかのような作品だった。なにしろ本作の主人公は3人も存在し、それぞれ絶妙な功夫アクションを見せている。頑張ってもダブル主演の作品を作るのが関の山である独立プロに対し、物量の圧倒的な差をショウブラが示して見せたのがこの作品だったのだ(監督が『実録ブルース・リーの死』と同じ羅馬であるのも、何かの当てつけかと思うのは考えすぎか?)。
しかし同時に見失ってしまったものも本作にある。確かに主演3人の見せる功夫アクションは素晴らしかったし、それぞれ功夫・足技・棒術と特色が分けられていたのも良い。だが複数の主役を揃えたための弊害か、彼ら3人にあまり個性が感じられないのだ。同じ複数主役の作品といえば、ショウブラには五毒という優秀なユニットが存在したが、あちらは個々のキャラクターがきちんと差別化が図れていたし、役割分担も徹底されていた。本作ではそのへんが少し曖昧で、他の侯朝聲といったキャラにも影響が及んでいる。
そんな本作で悪役を演じたのは、"ショウブラの便利屋"關鋒だ。功夫片・武侠片などの隔たりに関わらず大量の作品に出演しているが、同じショウブラ作品常連の王龍威とは違って悪役・善役なんでもこなす器用なタイプの役者である。本作でも呉元俊ら4人を相手取っての死闘を演じ、キャストの中でひときわ印象深いキャラクターを演じていた。やはりコメディ功夫片で最も重要なのは、明確な陽性の登場人物と悪役、これに尽きるだろう。
本作はその点においては少々不満を残すが、功夫アクションそのものは本当に素晴らしい。これでキャラ立ちがはっきりしていれば文句なしの傑作だったのに…ショウブラ側もそれは重々承知していたようで、のちに新たなインパクトを持つ作品を打ち出してくることになるのだが、それについてはまた別の機会にて。

『バトル・ファイター』

2009-08-10 22:40:17 | マーシャルアーツ映画:下
「バトル・ファイター」
原題:FIST FIGHTER
製作:1988年

●デビュー作の『レイジング・サンダー』で大暴れを繰り広げ、格闘映画ファンにインパクトを与えたマシアス・ヒューズ。本作はそんな彼が『レイジング~』の翌年に出演した作品ですが、なんとこれが拳闘映画なのです(殴り合いオンリーでキック系の動きは一切無し)。
物語はとてもシンプルで、親友の仇討ちを誓ったジョージ・リベロが仇のマシアスと違法賭博の場で闘い、紆余曲折を経てリベンジを果たすというもの。もちろんこれだけでは尺が足りないので、後半からジョージが敵の策略によって刑務所送りになるイベントが用意されています。
 そのおかげで単純だったストーリーは回りくどくなり、作品にまとわりつく野暮ったい空気はさらに濃くなっていました。登場人物では、ジョージに協力するエドワード・アルバートや愛犬の存在が印象に残る反面、ヒロインのブレンダ・バーキは取ってつけた感が非常に強かったですね。
また、重複しますが格闘シーンも足技の無い拳闘スタイルであるため、見栄えという点では他の作品よりグッと落ちます。さすがにマシアスの動きは他の演者とは違うものの、最初にジョージと戦った際に思いっきりボロ負けしていたせいで、あまり強そうには見えませんでした。
 決して酷い駄作という訳ではないけれど、あらゆる面でモタついた印象を受ける本作。マシアスにとっては残念な結果となりましたが、この失敗があったからこそ今日の彼がある…のだと思いたいですね(苦笑
ちなみに日本版ビデオの解説に「4人の強敵と戦う!」と書かれていますが、一番目のハゲ男はファイターじゃなくてただのザコ(序盤でジョージに腕相撲で負けるオッサン)。最後に表記されているビーストに至ってはボスキャラでもなんでもないので、視聴の際はご注意を。

『エターナル・フィスト』

2009-08-07 20:23:09 | マーシャルアーツ映画:中(1)
「エターナル・フィスト」
原題:ETERNAL FIST
製作:1993年(1992年説あり)

●この作品は色々と謎の多い作品である。
まず本作の発売元は『ワンチャイ』系列などを発売していた極東ハリウッドシリーズで、作品自体も香港映画という扱いになっている。ビデオ巻末に収録されているオリジナル予告編にはメディア・アジアのロゴも付いているが、どういう訳かHKFAやHKMDBなどの楊麗(シンシア・カーン)のフィルモグラフィーに、本作の情報は一切記載されていないのだ。では本作は香港映画ではないのか?と思うところだが、どうやら製作したダヴィアン・インターナショナルが香港資本の会社だったことからこの混乱が起きたようだ。
ダヴィアンの作品はこれまでに『バトル・ウルフ』『リアル・キックボクサー』と紹介してきたが、ダヴィアンという会社そのものは香港資本で成り立ってはいるが、香港映画の会社という事ではないらしい。つまり厳密に言うと本作は純粋な香港映画ではないのだ(と思われる)が、楊麗が出演している事を考えると香港の映画会社から何らかの介入があった可能性も否定しきれない。現に、本作で主演を飾った楊麗とディル・アポロ・クックが出演している香港映画が存在する。それが『武林聖鬥士』だ。この作品は香港と中国のプロダクションが合作した作品で、于光榮や于海などが顔をそろえている。果たして本作と何か関係があるのだろうか?

…とまぁ、なんとも複雑な事情を孕んだ作品であるが、そんなワケで本作のカテゴリはマーシャルアーツ映画になっている次第です。
物語は『北斗の拳』そのまんまの舞台設定で巻き起こる格闘モノだが、ロケ地は砂漠が大半を占めるというロー・バジェット仕様。ストーリーも驚くほど単純で(闘って復讐するだけ)、こうなってくると最大の見せ場は格闘アクションに集中してくるものだが、本作は格闘シーンに次ぐ格闘シーンで何とか頑張っていました。クックはたまにモタつくが『リアル・キックボクサー』以上のテンションを保ち、楊麗は言わずもがなのファイトを披露(ただし香港映画の時より少々殺陣のレベルが落ちている)。最大の敵となるドン・ナカヤ・ニールセンは、見た目が最高にイケてない(死語)が動きは先の2人に負けておらず、最後のラストバトルも中々の盛り上がりを見せている。
ただ、宣伝文句の「5分に一度の肉弾戦」という言葉通り、作中での格闘シーンは異様に数が多いのが特徴だが、ちょっと多すぎる気がしないでもない。スカスカのストーリーを許容できる人ならば、それなりには楽しめるかな?

更新履歴(2009/7月)

2009-08-03 22:19:33 | Weblog
7月の更新履歴です。今月はやはり先の豪雨被害が大きく響き、山口在住の私の周りでも様々な被害をもたらしました。それでやっとこさ梅雨脱出したと思ったら、もう8月なのだから時が経つのは本当に速いですね。そういえば前回の更新履歴で「暑い夏に負けないように」とか言ってましたが、その言葉に反して冷夏のまま8月に到達してしまいまして…う~ん、どうしたもんかなぁ(笑
という訳で、8月は季節はずれの涼しさに負けることなく、夏らしく熱い作品のレビューで盛り上げていきたいと思います。こんなこと言うと逆に猛暑になっちゃいそうですが(爆)、今度はどんな気候になろうとも私は変わりなく頑張っていくつもりです。


07/02 更新履歴(2009/6月)
07/05 『危うし!タイガー』
07/08 『ユニバーサルキッド』
07/11 『DRAGON BATTLE EVOLUTION』
07/14 『狂犬 Mad Dog』
07/17 『レッド・ウォリアー』
07/22 『少林英雄之方世玉洪熙官/少林英雄/方世玉與洪熙官』
07/25 『ダイナソー・ファイター カンフーVS巨大恐竜』
07/28 『醉蛇小子』
07/31 『バイオソルジャー』