功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

ジャッキー、ハリウッドに行く(終)『ベスト・キッド(2010年版)』

2017-01-30 14:51:19 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ベスト・キッド」
原題:The Karate Kid
中文題:功夫梦/功夫夢
製作:2010年

●2000年代における成龍(ジャッキー・チェン)の躍進は、ハリウッドへの本格進出だけに留まりません。この当時、中国では好景気の到来に伴い、映画市場が規模を拡大していました。
その勢いはハリウッドでさえ無視できないものになり、米国での活動が頭打ちになっていたジャッキーは、新たなフロンティアである中国への参入を決意します。
中国における映画製作にも制約はありますが、ハリウッドよりは馴染みやすい土壌だったらしく、彼は徐々に大陸寄りの姿勢へと転換。中国との合作映画を連発し、多大な成功を収めていくのです。
 また、ほぼ同時期にジャッキーは役者としての在り方を改め、スタントより演技に集中していくようになります。その結果、『香港国際警察/NEW POLICE STORY』で評価を受け、『新宿インシデント』でシリアス路線を確立するに至りました。
中国での名声と演技者としての改革。この2つの要素によって新たな局面を迎えたジャッキーですが、それに合致するかのような、まさに最高のタイミングでハリウッドからオファーが舞い込んできました。それが『ベスト・キッド』だったのです。

 この作品は1984年に製作された同名作品のリメイクで、ストーリーラインはほぼそのまま。主人公は製作を担当したウィル・スミス夫妻の息子であるジェイデン・スミス、ジャッキーはパット・モリタにあたる役柄を演じました。
オリジナルとの違いは、使用する武術が空手から功夫に、舞台がカリフォルニアから北京に変わったこと。登場人物の設定にも手直しが行われ、オリジナルではあまり存在感の無かった母親とヒロインに関する描写も、かなり付け加えられています。
 他にも細々とした部分での変更はありますが、先述したように全体の物語はほとんど同じです。しかし本作は、中国の伝統的な文化や人々との交流、キャラクターの細やかな心情の変化を描いており、単に原典を模倣しただけで終わってはいません。
矛盾点の解消にも力が注がれていて、たとえばオリジナルでは防御しか練習するシーンが無かったのに対し、本作では最初から攻撃と防御についての描写が存在します。これにより、大会で攻撃の型を使用している点が唐突に見えなくなっていました。

 しかし本作でもっとも素晴らしいのは、師匠を演じたジャッキーの存在そのものにあります。本作における彼は非常に無愛想(ミヤギさん以上に取っつきにくそう)で、他人との交流にも消極的な世捨て人を演じています。
そこには過去のハリウッド作品で見せた愛想や、誇張されたヒーローの面影は存在しません。大人数を相手にすれば息切れもするし、年相応に老け込んだ姿からは虚構を超えた現実味すら感じました。
やがて彼はジェイデンとの特訓を通じて絆を育み、後半のクライマックスである車中のシーンに至ります。ここでのジャッキーは情感に満ちた演技を見せ、それを見ていたジェイデンが取った行動が更なる感動を呼ぶのです。
 この作品が製作された背景には、中国市場を見据えたハリウッドの戦略や、自分の息子を主演にしたいスミス夫婦の意思、世界に自国の文化をアピールしたい中国側の野望など、様々な思いが渦巻いていたことは確かでしょう。
ですが、このシーンでジャッキーは役者としての本領を存分に発揮し、その実力を世界中の観客に見せつけました。周りの思惑が何であれ、「決して自分はハリウッドという冠が付いただけのアクションスターではない」と明確に示したのです。

 思えば、かつて奇妙な師匠に特訓を受けていた青年が、時を経て特訓を課す側となっている点も実に感慨深いものがあります。『ドラゴン・キングダム』でも同じ立場でしたが、あちらはお祭り映画的な要素が強く、情緒的な物では本作に分があると言えます。
また、しっかり体を仕上げて見事なアクションを見せたジェイデン、コブラ会の5倍くらい怖かった于榮光(ユー・ロングァン)の存在感もなかなかのもの。欲を言えばNG集の挿入と、どこかでラルフ・マッチオをカメオ出演させてもらいたかったかなぁ…。

 …と、そんなわけで今月はジャッキーのハリウッド主演作をおおまかに追ってみました。ハリウッドという巨大な壁に立ち向かい、一旦は挫けるも役者として研鑽を積み、遂にはハリウッドをも制覇したジャッキーの生き様にはドラマチックさすら感じます。
彼の活躍は現在も続いており、去年はロシア映画でジェイソン・スティサムやシュワルツェネガーと仕事をしたばかり。さらにはブルース・ウィリスとの共演も噂されているらしく、今後の動向が注目されます。
果たして、ジャッキーは次にどんな作品をハリウッドで撮ってくれるのか? まだまだバイタリティ溢れる彼に大きな期待を抱きつつ、今回の特集はこの辺りで終わりたいと思います。

ジャッキー、ハリウッドに行く(4)『ドラゴン・キングダム』

2017-01-29 22:41:34 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ドラゴン・キングダム」
原題:The Forbidden Kingdom
中文題:功夫之王
製作:2008年

●名実ともに世界的なアクションスターとなった成龍(ジャッキー・チェン)ですが、ハリウッドでの出演作はどれも似たようなコメディ映画ばかり。彼自身も不満を抱いており、活動の舞台を香港や中国に移し始めていました。
しかし、ハリウッド進出でジャッキーが得た物は決して少なくありません。過去のレビューでも触れましたが、大物俳優との共演や夢の対決がそれに当たります。
 『ラッシュ・アワー3』の真田広之しかり、『80デイズ』のアーノルド・シュワルツェネガーしかり、『アラン・スミシー・フィルム』のシルベスター・スタローンしかり。作品の出来はともかく、香港映画では決して実現不可能な顔合わせばかりです。
そしてジャッキーのハリウッド時代における最大のドリームマッチが、この『ドラゴン・キングダム』における“功夫皇帝”こと李連杰(リー・リンチェイ)との邂逅でした。
 ジャッキーと彼は昔から交流があり、いつかは共演作を撮りたいと思っていたとのこと。ところがプロダクションの違いやタイミングの悪さでスケジュールが確保できず、流れ流れてようやくハリウッドで形となったのです。
とはいえ、私は公開前の情報を聞いて不安を感じていました。監督のロブ・ミンコフは本業がアニメーション監督、ジャッキーと李連杰が主役ではない、さらに意図の読めない一人二役、そして製作するのが香港ではなくハリウッド資本…。
懸念すべき材料はとても多く、ぶっちゃけ全く期待しないで視聴したのを覚えています。

 ストーリーはとてもシンプルで、功夫映画オタクでいじめられっ子だったマイケル・アンガラノが異世界に旅立ち、冒険を通して成長していくネバーエンディングなもの。ジャッキーは酔拳の、李連杰は少林拳の師匠として登場します。
まず率直な感想から申しますが、本作はハリウッド産ジャッキー映画の中でベストの出来でした! 確かに物語は真新しいものではなく、出てくるビジュアルはアニメっぽさが強め。ツッコミどころを挙げようとすれば幾つも挙げられます。
しかし本作は功夫片への、ひいてはジャッキーや李連杰に対するリスペクトに満ち溢れており、それでいて2人のスターを並び立たせることに成功しているのです。

 まずリスペクトに関してですが、これまで製作されたハリウッド製のジャッキー映画は、そのほとんどが凡庸なアクション映画の型枠にはめ込まれていました。ゆえにリスペクトに欠けた面があり、中には彼が主役である必要性を感じない作品もあります。
同様のアプローチは『ラッシュ・アワー2』でも行われていますが、こちらがリスペクトしたのは『燃えよドラゴン』のみ。それなりのオマージュこそ感じられるものの、ジャッキーVS章子怡(チャン・ツィイー)をスルーするなど、難点も多々ありました。
一方、本作では人物設定を功夫片や武侠片から引用し、作中の随所に香港映画を彷彿とさせるイメージを挿入。オープニングではショウ・ブラザース作品のコラージュまで飛び出すなど、これでもかと言わんばかりのリスペクトっぷりを見せています。

 ジャッキーや李連杰の扱いについても、各々がそれまで培ってきたキャラクター性をきちんと把握し、それに見合った役柄と設定が用意されています。これは脚本家であるジョン・フスコの、功夫片に対する深い造詣があればこそ実現したのでしょう。
当然、アクションシーンもこの2人の独壇場であり、多くのファンが待ち望んだジャッキーVS李連杰は出会って早々に実現! 2人の長所を知り尽くした袁和平(ユエン・ウーピン)の指導によるこの一戦は、両者の個性を上手く生かした名ファイトでした。
また、主人公であるマイケルを必要以上に目立たせず、それでいて身の丈に合った活躍をさせるという難題もクリアしています。こうした点も今までのハリウッド産ジャッキー映画では調整できなかった部分であり、本作は上手く料理できていたと思います。

 改めて考えると、本作でジャッキーと李連杰が見事に並び立てたのは、2人を助演に配置したハリウッド製の作品だったからではないでしょうか。もしこれが2人とも主役で、香港資本の作品だったとしたら同じ結果になったとは限りません。
たとえ両者が共演を望んでいたとしても、香港映画なら我の強いジャッキーが自己主張を示し、『酔拳2』の監督交代劇のような結果を招いていた可能性があります。
 しかし制約で守られたハリウッドという場所で、一歩下がった助演という立場に身を置いたからこそ、ジャッキーは自らの立場を貫き通せたのでしょう。もしかすると、これまでの凡庸な主演作はこのビッグイベントのために存在した…のかもしれませんね。
その後、そつなく作品を纏め上げたロブ監督の力量と、脚本を担当したジョン(彼は『グリーン・デスティニー』の続編である『ソード・オブ・デスティニー』のシナリオも担当)のカンフー愛もあって、本作はヒットを飛ばしました。
そして、ハリウッドでの立ち位置を見極め始めたジャッキーは、一連のハリウッドでの主演作の総決算ともいえる作品と出会います。その想いは次世代へ、そして時代は2010年代へ……次回、いよいよ特集最終回です。

ジャッキー、ハリウッドに行く(3)『80デイズ』

2017-01-22 23:35:30 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「80デイズ」
原題:Around the World in 80 Days
中文題:環遊世界八十天/八十日環遊世界
製作:2004年

成龍(ジャッキー・チェン)のハリウッド進出は、彼に新たな名声をもたらしました。しかし、香港とまったく異なる製作環境はジャッキーを困惑させ、さらにコメディ作品への出演が相次いだことで、作風のマンネリ化も深刻になっていきます。
そんな状況への反発として撮られたのが『アクシデンタル・スパイ』です。この作品はハリウッドで要求される凡庸なコメディとは一線を画す内容で、過激なスタントシーンからはジャッキーの対抗意識が見て取れました。
 しかしハリウッドの「いつものやつをやってくれ」という姿勢は変わらず、そればかりか香港との合作である『メダリオン』は大失敗。この状況を重く見たジャッキーは、ハリウッドから距離を置きはじめます。
この『80デイズ』は、彼が一連のゴタゴタでハリウッドから離れる直前に撮った、まさに過渡期の真っ只中にあったころの作品なのです。

■時は華やかなりし開拓と発明の時代。ロンドンの銀行を襲撃したジャッキーは、故郷の村から盗まれた翡翠の仏像を奪還し、警察から逃れようと発明家のスティーヴ・クーガンが住む家に転がり込んだ。
そこで助手となったジャッキーだが、当のスティーヴは奇天烈な発明ばかりしている変わり者。王立科学アカデミーの会長であるジム・ブロードベントとは仲が悪く、口論の末に「80日間で世界一周してみせる」というムチャな賭けをしてしまう。
 実はこの賭けは、警察に追われるジャッキーが一刻も早く故郷に帰るため、ひそかに仕組んだものだった。奮起したスティーヴと彼はイギリスを出発するが、仏像を村から盗んだ黒幕であるジムはすべてを見抜いていた。
この男は仏像を利用した軍事取引を画策しており、取引相手である莫文蔚(カレン・モク)を刺客として差し向ける。一方、フランスに立ち寄ったクーガンたちは画家志望のセシル・ドゥ・フランスと出会い、紆余曲折の末に旅の仲間として迎え入れた。
さまざまな国を渡り歩く一行であったが、いくつもの困難が彼らの前に立ちふさがっていく。刻一刻と期限が迫る中、はたしてクーガンたちは無事に世界一周を成し遂げられるのだろうか?

▲今回もジャッキーがプロデュースに加わっているため、アクションについては上々のボリュームを維持。中国パートでは洪金寶(サモ・ハン・キンポー)や呉彦祖(ダニエル・ウー)も参加しています。
また、リメイク元に倣って大物俳優や芸能人がカメオ出演しており、そうした点も見どころのひとつと言えるのですが…残念ながらそこまで痛快な作品ではありませんでした。
 まず本作最大の問題点は、主人公の人物設定です。本作のジャッキーは故郷のために戦っていますが、人生を左右するような大博打をスティーヴに背負わせ、彼やセシルをプライベートな戦いに巻き込んでいきます。
これで秘密を抱えて苦悩するキャラならまだ理解できますが、ちゃっかりセシルにだけ教えて旅をエンジョイするのですから、感情移入のしようがありません。そのせいか、後半の仲直りするシークエンスはとても雑に見えました。
 そのほかのキャラクターについては、多少の誇張はあれどマトモな感じにまとまっています。しかし頂けないのはラストの締め方で、エンドクレジットにNG集もエピローグも表示されないのです。
NG集がないのは製作が大御所のディズニーなので仕方ない面もありますが、劇中では思わせぶりな台詞がいくつも存在します(画家として成功してやると息巻くセシル、協力してくれた船長に対して「新しい船を買ってやる」という約束などなど)。
 そのため、最後は登場人物たちのエピローグ的なカットが挿入されるのでは…と期待していたのですが、まさか何もないとはガッカリです。作品としては可もなく不可もない作りでしたが、この2点と凄まじい日本語吹替えだけは釈然としなかったですね。
それにしても、今にして思えばシュワちゃんの役どころ(女に目が無くて何人も妻を娶っている権力者)が、なんだかちょっと洒落になってないような気が…(笑

 さて、度重なるハリウッドがらみの失敗に落胆したジャッキーは、香港に腰を据えて新たな演技スタイルを模索し始めます。一連のハリウッド作品において、彼が求められたのは多種多様なアクション“だけ”でした。
ゆえに単なるアクションスターではなく、役者としての地盤を固めなければならないとジャッキーは悟ったのでしょう。本作が公開された同年に、彼はその第一歩となる『香港国際警察/NEW POLICE STORY』に出演。これまでにない熱演を見せます。
 武侠片にチャレンジした『神話』、人情物の『プロジェクトBB』と意欲作を連発したジャッキーは、2007年の『ラッシュ・アワー3』でハリウッドに復帰します。内容は「いつものやつをやってくれ」でしたが、真田広之と熱い演技合戦を見せていました。
そしてその翌年、彼はハリウッド出演作における最大のドリームマッチを実現するに至ります。幾星霜の時を超え、ついに肩を並べることのできた最強武打星の名とは……続きは次回にて!

ジャッキー、ハリウッドに行く(2)『シャンハイ・ナイト』

2017-01-08 23:21:51 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「シャンハイ・ナイト」
原題:Shanghai Knights
中文題:贖金之王2皇廷激戰/皇家威龍
製作:2003年

成龍(ジャッキー・チェン)の名を全米に知らしめた『ラッシュ・アワー』シリーズは、ハリウッドのスタッフによって製作されたコメディ・アクションの快作でした。
その後、ジャッキーは自らのプロデュースで異なる人種のコンビが活躍する、違ったアプローチの映画を考案します。それが白人俳優のオーウェン・ウィルソンを相棒に迎えた『シャンハイ・ヌーン』だったのです。
 彼が大きく関わったことにより、この作品は古き良き西部劇にオマージュを捧げつつも、『ラッシュ~』よりカンフー色の強いアクションを構築。ややインパクトには欠けますが、こちらも上々の成績を記録しました。
注目すべきはラストの2連戦で、今やすっかりジャッキー映画の常連となった于榮光(ユー・ロングァン)、スタントマンとして数々の格闘映画に関わったロジャー・ユアンと夢の対決が実現しています。
相棒となるオーウェンの飄々としたキャラ、最後のちょっとしたサプライズも実に痛快で、当然のように続編が作られる事となりました。それが『シャンハイ・ナイト』であり、今回もナイスな対戦相手とサプライズが待っていたのです…(詳しくは後述)。

■中国・紫禁城の宝物殿から、皇帝の権威の象徴とされる秘宝・龍玉が盗まれた。その際に番人であったジャッキーの父・陳錦湘(キム・チャン)が殺され、アメリカで保安官となっていたジャッキーは思わぬ訃報に落涙するのだった。
この事件は、英国王室の皇位継承者であるエイダン・ギレンの企みであり、ジャッキーは仇討ちに向かった妹の范文芳(ファン・ウォン)を追って、落ちぶれていたオーウェンと共にイギリスへ向かった。
 道中、スコットランドヤードのトム・フィッシャーや、浮浪児のアーロン・ジョンソンと出会いつつ、事件の真相に近付いていくジャッキーたち。やがて、この事件には中国皇帝の座を狙う甄子丹(ドニー・イェン)も一枚噛んでいたことが判明する。
自らが皇位継承者のトップに躍り出ようとするエイダンは、龍玉を渡す代わりに甄子丹へ他の継承者たちと王女の暗殺を指示。范文芳をスケープゴートに仕立て上げ、全てを闇に葬ろうと目論んだのだ。
だが、アーロンの協力で危機を脱したジャッキーたちは、一丸となって暗殺計画の阻止に乗り出した。今、華やかな記念式典でにぎわうテムズ川を舞台に、最後の戦いの幕が上がる!

▲前作は西部劇のテイストを色濃く残していましたが、本作ではロンドンを舞台にした活劇仕立ての内容となっています。一部にミュージカルや喜劇映画のオマージュもあり、それが後半のサプライズ的な展開へと至るのです。
ただ、今回のサプライズは色々と盛り込み過ぎていた感があり、製作側のドヤ顔が透けて見えてしまいました。アーロンの本名も最後の最後に判明した方が、もっと観客を驚かすことが出来たはずです。
 また、今回のストーリーは西部劇の要素がごっそりと省かれています。そのため、前作のラストで判明したオーウェンの正体が死に設定となり、活躍の場も激減していました(彼がガンマンらしいスキルを見せるのは終盤の乗馬シーンぐらい)。
もっとも、今回のオーウェンは完全にギャグ担当となっており、クリス・タッカーと違ってアクションに介入する事すら許されていません。おかげで楽しいシーンも多いので、こればかりは仕方ないと割り切るしかないでしょう。
 しかし『ラッシュ~』の主役2人があくまでバディだったのに対し、本作の主役2人はコンビという垣根を飛び越えた友達同士であり、喧嘩をしてもすぐ仲直りできる関係には微笑ましさを感じます。
ところで、この2つの作品における主役関係の変化ですが、なんとなく『蛇拳』『酔拳』の変遷を彷彿とするのは私だけでしょうか?(『蛇拳』では師匠と弟子が友達同士、『酔拳』は師匠と弟子の関係を徹底、という具合に逆となってますが)

 さて、功夫アクションについては今回も趣向を凝らしていて、先述したサプライズ関連の前振りとなるサイレント映画調の立ち回り等、見所は随所にあります。
しかし最大の見せ場は、なんといってもワイヤー功夫片で慣らした甄子丹とのドリームマッチに尽きるでしょう。彼はジャッキーとの初共演に緊張していたのか、演技面やアクションに硬さが見受けられました。
 それでも、終盤におけるジャッキーアクションとマッハカンフーの激突は、ハリウッドのジャッキー作品としては中々の出来。残念ながら彼との絡みは一度だけで、尺もそれほど長くないのが惜しまれます。
その後に待ち受けるVSエイダンも、甄子丹の迫力に押されがちですが悪くはありません(吹替えスタントも多々ありますが)。のちにジョン・シナとも戦うエイダンの動きはそこそこ流暢で、それなりに強敵感も出ていたと思いますね。
 そんなわけで、作品自体は相変わらず平々凡々ではあるものの、その賑やかな作風からは「ジャッキーもハリウッドに順応しつつあるのでは?」という希望をほのかに感じさせてくれます。
ハリウッドもそんなジャッキーを認めるようになり、彼に大物俳優が多数登場するオールスター作品の主演を任せようとしますが……詳細は次回にて!

ジャッキー、ハリウッドに行く(1)『ラッシュ・アワー』

2017-01-02 22:33:34 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ラッシュ・アワー」
原題:Rush Hour
中文題:火[才并]時速
製作:1998年

▼90年代末期、一本の香港映画がアメリカで上映されました。極東から持ち込まれたその作品は、激しい格闘シーンと命知らずのスタントで観客を魅了し、全米興行収入記録で香港映画初となる初登場1位を記録します。
その作品の名は『レッド・ブロンクス』。主演を務めた孤高のドラゴンは、この成功を足掛かりに映画の都・ハリウッドへと乗り込むのですが、行く手には様々な困難が待ち構えていました……。
 と、いうわけで皆さん明けましておめでとうございます。今年は以前告知した通り、ブログ開設10年目にちなんで10の特集をお送りする予定です。その第1弾となる今月は、成龍(ジャッキー・チェン)がハリウッドで出演した作品群に着目してみましょう。
これらの作品は香港で撮った主演作と比べると、アクションやテンポに著しい差が見られます。そのため評価が低くなりがちで、実際に私も「ヌルいなぁ」とボヤきながら見ていた事もありました(汗
しかしジャッキーが世界的なスターになれたのは、間違いなくこの時期の作品があったからこそ、とも言えるのです。果たしてハリウッドで製作されたジャッキー映画は凡作か否か? 今回の特集では、そのへんも含めて色々と考察したいと思います。

■中国返還の前夜、香港警察のジャッキーは“ジュンタオ”と呼ばれる黒幕が率いる組織を急襲。盗まれた文化財を見事に奪還し、アメリカの中国大使館で領事に就任するツィー・マや、その娘であるジュリア・スーとささやかな談笑を交わした。
所変わって二カ月後のアメリカ。そのジュリアが誘拐される事件が起こり、FBIが捜査に乗り出した。しかし、「私の知人にも協力してもらいたい」というツィーの意見により、香港からジャッキーが招集されることになる。
 FBIは部外者の介入を快く思わず、ロス市警から適当なお目付け役を駆り出し、事件に関わらないように監視させようと目論んだ。その白羽の矢を立てられたのが、一匹狼のトラブルメーカーであるクリス・タッカー刑事だった。
厄介払いも同然のかたちで任務を押し付けられたクリスは、正反対の性格であるジャッキーとことごとく対立。やがて2人は事件の捜査に乗り出し、その過程で徐々に距離を縮めていく。
 敵が“ジュンタオ”の組織だと判明する中、2人はあと一歩のところで犯人一味を取り逃がしてしまう。結果的に身代金の引き渡しは失敗し、責任を問われたクリスは捜査から外され、ジャッキーもまた帰国の途へ着くことに…。
しかしクリスは諦めていなかった。同僚である爆破処理班のエリザベス・ペーニャの協力を仰いだ彼は、ジャッキーを引き止めて再び捜査に舞い戻る。果たしてジュリアの安否は? そして“ジュンタオ”の正体とは? 今、最後の戦いの幕が上がった!

▲この当時、ジャッキーはスタント方面に特化したアクションを追求しており、ガチンコバトルを繰り広げた80年代の頃とは違った魅力に満ちていました。
そんな中で製作された本作ですが、ストーリーは典型的なバディものの域を出ておらず、アクションの質はジャッキー映画の平均的なレベルに留まっているのです。
 良くも悪くも安全牌といった感じの出来で、これでは香港時代を知るファンから不満の声が上がるのも仕方ありません。とはいえ、改めて見てみるとストーリーにこれといって不備はなく、伏線回収や起承転結もしっかりしています。
アクションはジャッキー、口八丁はクリスという役割分担も絶妙で、クリスの立ち回りは相方の邪魔にならない程度に調節。反対にジャッキーはクリスが積極的に関われないシリアスなドラマを担っています。
この2人のバランスは続編で崩れることになりますが、本作はバディものとして手堅く纏まっていました。確かに典型的ではあるものの、内容は安定していたと言えるでしょう(悪役に関してはツッコミどころ満載ですが・苦笑)。

 また、アクションについても香港式の殺陣が炸裂し、おなじみの小道具を使った立ち回りも楽しめます。撮影現場ではハリウッドのキツい制約に苦しめられたそうですが、それでも可能な範囲で出来うることをやったジャッキーの執念が伺えます。
しかしスタントに関しては壁面を登ったり、看板にぶら下がったりするシンプルなものが多く、『ナイスガイ』のように豪邸一件を潰すような無茶は流石にしていません。
終盤ではドカンといきそうなC4爆薬を爆発させず、最後のスタントが高所で落ちそうになるだけ(ラストの落下はワイヤー使用)なので、ド派手な香港のジャッキー映画に慣れた身としては物足りなさを感じてしまいました。
 さらに追い打ちをかけるのが、最後にタイマン勝負が無いという点です。当時のジャッキーがスタントに傾倒していたのは先述したとおりで、同時期の『レッド・ブロンクス』『ナイスガイ』ではラストバトルすらありません。
そうしたジャッキーの意向が反映されたのかは解りませんが、本作には最後の一騎打ちと呼べるような戦いは無く、それらしいのは中盤のVSケン・レオンのみとなっています。
 作品の質は悪くないですが、小振りなスタントとガチンコ勝負の不足、そして意外性のないストーリーは好みが分かれるところ。おそらく拳シリーズを劇場で見た直撃世代の人にとっては、とても評価が難しい作品なのではないでしょうか。
ただ、ハリウッドスターとしてのジャッキーの礎を築いた作品なのは事実だし、今こそ再評価すべき時なのでは…と私は考えています。さて次回は“ガチンコ不足”の問題を解消し、ハリウッドにおけるもう1つの看板シリーズとなった作品に迫ります!