一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

論告求刑・最終弁論 (模擬裁判体験記15)

2007-12-13 | 裁判員制度
2日目はちょっと遅く9時45分集合。

裁判所のロビーには傍聴マニアと思しき人々が今日開催される期日の一覧表の前に人だかりをつくっていました。
なぜか20代後半(推定)の女性ばかりでしたが、サークルでもあるのでしょうか。

10時からの開廷の前に簡単な感想の交換。

裁判官からは、犯行当時については志村証言・加藤証言の信憑性が争点になるので論告・最終弁論ではそれを争うことになるだろう、という示唆がなされました。

また、犯行は過去の事実なので、事実の細部までわかることは刑事事件では少ないが、その中で判断していく必要がある。
証拠や証言をあわせても細かい部分に1,2穴があくので「この辺はこう判断していいだろう」ということを積み重ねて、最後に全体について判断していく、というプロセスを取ることになる、という話がありました。

確かにすべて細部までつまびらかにならないと有罪にならない、というのでは犯罪者を有罪にするのは不可能でしょうし、そこと「合理的な疑いの余地」の有無の間の判断が難しそうだな、と思いました。
本件は被告人が持っていた包丁で被害者を刺したこと自体は争いがない(殺意があったか、刺さったのかは争いがあるが)のでまだいいですが、事実自体に争いがある場合は大変だと思いました。


法廷に入ると、今回も傍聴席は満員です。志村証人、加藤証人役の人も傍聴席にいます。

今回もスクリーンが2つ立っています。

最初は検察官の論告求刑

例によって資料配布+スライド映写です。
検察官の主張は冒頭陳述とほぼ同じです。
そして
・殺意の有無は具体的な行動から判断するものであり、被告人は被害者を2度も刺し、ひとつは動脈にも達していることから、明らかに殺意があったといえる。
・被告人は普段から酒が強く、当日の酒量も多くない。また犯行後の呼気検査で検出されたアルコール量も心神耗弱状態といえるほどではない。
として殺人未遂の成立を主張します。

そして、求刑として、殺人罪の法定刑は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」(未遂罪は減軽することができる)であり、今回は未遂に終わったものの包丁を持ち出したこと、被害者は4.5Lもの輸血を必要とするなど生死の境をさまよい、結果加療3週間もの重傷を負ったことなどを勘案し、「懲役6年から9年の間」の刑を求めました。

幅を持った求刑ができるとははじめて知りました(昔からできたのでしょうか?)。
でも、幅の下限ってあまり意味がないようにも思うのですが、幅を示すことで裁判員の議論のレンジを絞り込もうという工夫なのかもしれません。


つぎに弁護側の最終弁論

こちらも例によって細かめのレジュメが配られます。
「要旨」のほかに「台本」といってもいいくらいの資料も配られます。

最終弁論の中で弁護側は被害者志村のTシャツにあいた刃物の跡と、傷口の位置のズレを指摘し、正面から一気に刺したのではない、たまたま刺さったんだ、という主張をしました。
この中で、スライドに①Tシャツへの刃物の跡(正面からの図)②傷口(正面からの図)③刃物の跡と傷口の関係(横から見た図)を映写しました。
ここで検察側が何か異議を言おうとしたのですが、裁判長によると、①②は証拠として提出されたものだが③は今回いきなり出てきた図表で、厳密に言えばルール違反なのだそうです。(アングルを変えずに単純に合成したものならいいのかとも思ったのですが、そのへん細かく確認はしませんでした)
映画で見るアメリカの裁判だと、相手方がすぐ異議を述べて、裁判官が「異議を認めます。陪審員は今の発言はなかったこととするように」などというシーンをよく見るのですが、今回模擬裁判だからそのへん大目に見た、ということなのか日本の裁判制度自体そこまでうるさくないのか、そのへんはよくわかりませんでした。

弁護側は傷害罪の成立は認め(あまり正確ではないですが、包丁を持ちだして対峙したという時点で傷害罪は成立するようです)るものの心神耗弱による減軽を主張し、さらに被告人は深く反省していること、被害者は高齢でもあり、ここで実刑を受けると出所後の生活の基盤がなくなることなどを主張し、執行猶予を求めます。

ただ、被告人が高齢だとか再就職の道が閉ざされる、というのが、「やむにやまれず犯行に及んだ」というような事件ではない本件のような事案にも量刑の情状の考慮要素になるというのは、個人的にはどうもピンときませんでした。

しかも最終弁論にたった一番年長の弁護士は「台本」以上に熱弁をふるい、繰り返し、言い換えなどを多用して長々と話します。
当初の時間割り当ては検察側弁護側各30分で、検察側は時間を残して簡潔にどおり終わったのですが、弁護側は時間をはるかに超過して50分近く話していました。
正直この点だけでも、反証の論拠の薄い部分を言葉でカバーしよう、という印象的を持ってしまい、逆効果だったと思います。


これであとは評議を残すのみとなりました。

(つづく)
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