一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

評議 その2 (模擬裁判体験記17)

2007-12-19 | 裁判員制度

午後も評議のつづきです。

まずは論点のひとつ「刺突行為の有無」(=刺したのか刺さったのか)に関して証拠からどのような判断ができるのかについて検討します。


被害者である志村証人は「被告人が刺した」と明言しています。
一方弁護側は「もみ合いの中で偶然刺さった」と主張しています。
その理由として弁護側は、①傷が浅いこと②まっすぐに入っていないことを主張しています。

※この「まっすぐ入っていない」というのは最終弁論で弁護側が言い出したことで、被害者の断面図から傷を説明する図の提示はルール違反だったそうですが、この論点自体は排除して考えろ、という指示はありませんでした。証拠の提示方法がルール違反なだけで、主張をすること自体は適法、ということなのでしょうか。

裁判員の意見としては

・ 「すぐ刺した」というが志村が加東の部屋を出てから加東が部屋を出るまで2,3分かかったのだから、それなりのやり取りはあったのではないか。
・ 2,3分というのは本人の印象なのであまり厳密に考える必要はないのでは。
・ 「もみあい」というのが具体的にどういうことを言うのかわからない(単なる言葉のあやのような感じもする)。
・ 志村証言でも1mくらいの距離があったといい、加東証言や通行人の証言でも被告人が志村の肩を押さえていた、といっており、抱き合うような形ではなく距離があったので、やはり「刺す」という積極的な行為はあったのではないか。
・少なくとも志村は抜き身の包丁を持った被告人ともみ合ったり(=自ら刃物に体を寄せる)するだろうか。
・傷の浅さは逆に距離があったことの証左では?
・志村は被告人の右手を押さえ、助けを呼んでいる(これは加東も聞いている。)

なんとなく被告人役の男性がかなりいい味を出していたのが印象に残り、若干成績は応じて利益分配がなされるかもしれません。
議論がひとしきり出た後で、裁判長がまとめます。  

事実は細部までは再現できないので提示された証拠の中から何が言えるだろう、と考えて判断してください。

というようなことを言われます。

ということで、被告人が積極的に刺したかについてそこで裁判員と裁判官の意見を確認した結果、「偶然刺さった」のではなく「刺した」という意見に全員が一致しました。


次に殺意の有無について。
裁判長から配られたレジュメをもとに簡単な説明があります。

殺意の有無で殺人未遂罪か傷害罪かがわかれる。ただし殺意にも強い殺意(相手を殺してやろうという明確な意思)と弱い殺意(相手が死んでしまうかもしれないけどそれでもかまわないという意思)があり、弱い殺意でも「殺意あり」ということになる。
ここについてはいろいろな意見が出、また私も含めてそれぞれの意見が二転三転しました。

そもそも裁判員全員「『相手が死んでしまうかもしれない』という程度の行為」を見たりした経験がないので、どのレベルの行為が「殺意あり」というのかいきなり聞かれても判断に困る、というのが正直なところだと思います。 

さらにその後

・「志村を殺す」という発言の重さ、逆に興奮状態で口走ったともいえないか。
・加東が駆けつけたとき、加害行為は止めていた。興奮して刺してしまった、ということはないか。
(興奮していれば殺意がないのか?とも思ったのですが、そこは深く突っ込みませんでした)
・しかし、被告人は血を流している志村を手当てしようともしていなかった。
・深く刺さっていないことをどう考えるか。振りかぶってとか踏み込んでではない。
・しかし包丁を握る手には力が入っており、手をはがすのに大変だった。

などという議論がでたあと、誰かが「志村が出血多量で死んでいたとしたらどうなんでしょうね」とするどい疑問を呈します。
そうすると志村は証言できないわけでまさに「死人に口なし」になってしまう、というのもおかしな話であります。


これをうけて裁判長がまた解説します。
被告人と志村の間に実際に何が起こったのか、どう考えていたのかについては完全には解明はできない。その解明できない部分が検察側の主張、それが立脚している志村証言に疑問を抱かせるかを判断していただくことになります。

そこで皆で志村証言をおさらいしたうえで(繰り返しになるので省略)、殺意の有無を議論することに。
意見としては

・2回刺した、という点で少なくとも弱い殺意はあったのではないか。
・「外に出ろ」といってすぐに包丁を取り出したあたりからも殺意は感じられる。
・いや、酔っ払いは気が大きくなるもので、すぐに「殺してやる」とか包丁を手に持とうとする(元居酒屋経営の女性談。「喧嘩が始まると必ず包丁は隠していた」という実体験をふまえ非常に説得力ありました。)
・殺すために呼び出したのなら「何の用だ」といわれてカッとなったりはしないのでは?
・いや、かっとしてそこで殺意がわいたということもある。

などいろいろ出たのですが結局ひとつにはまとまらず、多数決をすることになりました。
結果は「殺意あり」が多数になりました。


個人的にはこのあたりの判断に迷いました。刃物で相手を刺す(切る)という行為をすることで当然に殺人があると認定されるのか(それもちょっと厳しすぎるような)、逆に相手を刺しても殺意がないと認定される場合はどのような場合か、というところは何のガイドラインもなく判断にまかされています。

アメリカのように構成要件を細分化して、たとえば刃物を持って相手に切りつけたら第○級故殺、という風に刑法に定められていれば楽なのでしょうが、殺意の有無を常識で判断しろ、と言われてもそもそも本気で人を殺そうと思ったこともなく、また刃物でどこをどう刺すなり切るなりすれば人は死ぬかという経験もない中で殺意の有無を認定しろというのはけっこう難易度が高いと思います。

逆に上に出たように被害者が死んでいた場合は、殺意を認定しやすい心理状態になってしまうのではないかとちょっと心配です。
 

(つづく)

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