一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

不幸の均霑

2009-01-23 | 余計なひとこと
「きんてん」と読みます。

この言葉は『学歴・階級・軍隊―高学歴兵士たちの憂鬱な日常』で紹介されていた歴史学者の加藤陽子の造語。
加藤は『徴兵制と近代日本』のなかで、帝国陸軍が徴兵制の公平と軍隊内の平等を喧伝し、「機会不平等」の状態に置かれた貧民や農民の味方を標榜した姿勢をさす言葉です。
それは結局「みんなが平等に不幸になることだけがみんなを満足させられる」というところに行き着きます。

戦後の経済成長の中で本来の意味の均霑=雨の恵みのように皆が平等に恵みを得てきた時代から「格差社会」が語られるようになり、また嫉妬の感情や「不平等感」が表面に出だしています。


名古屋にいる知人の話では、トヨタ自動車は正社員に対し「夜間外出禁止令」を出しているそうです。
仕事帰りに酒を飲んでいてトヨタ自動車の社員だとわかると「期間工や派遣社員を切っておきながら酒なんか飲んでいやがって!」という非難をおそれてのことなのでしょう。
日中ときおり「派遣切り反対!」などのデモ行進が駅前の本社ビル周辺で見られるだけに、そういう指示を出したい気持ちはわからないでもないそうです。

しかもトヨタはきわめて統率の取れた(プレッシャーのきつい?)会社ですし(参照)、トヨタの社員が遊ばないのに下請けや納入業者が遊んでいるわけにはいかない(更に値下げを要求される)という相乗効果で、夜の繁華街は閑古鳥も鳴かないくらいの寂しさだそうです。
(あくまで噂話なので実際は接待自粛の影響なのかもしれませんが、本当に盛り場から人影が消えているそうです。)


デモがいけない、というつもりはないのですが「トヨタはけしからん」という論調の中に不幸の均霑を求める気持ちを感じてしまうのも事実です。
正直いって期間労働者が派遣労働者が当然に継続的に(ということは一生?)トヨタで雇用されることを期待できるか、といえばその主張は無理があると思います(個人的には正社員でもそれを当然のように主張することが本当にいいことなのかということにも疑問はあるのですが)。
確かにいきなり契約を打ち切られることへの不満はあると思いますが、それなら
「自分達を切って確保した利益をきちんと地元に還元しろ、そうすれば自分達は地元で新しい職場を見つけることが出来る」
という主張の方が建設的ではないでしょうか。

雇用を守られたトヨタの正社員に対してもトヨタの車を買わせよう、という貪欲さに対してこそ批判をすべきだと思います。
「そのかわり社員にはきちんと給料を払って、飲み食いや買い物をさせろ。トヨタが勝ち残るのはいいが一人勝ちはいけない」
という主張のほうが、前向きだと思います。


「平等への下り坂」をみんなで肩を並べて歩くことを目標にするような風潮は、僕は嫌いです。


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2 コメント

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京極純一 (ねずみ男)
2009-07-31 03:10:38
「均霑」は古くからある言葉です。最近では政治学者京極純一が使って広めました。名著『日本の政治』(東京大学出版会、1983年)をご参照下さい。
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たしかに (go2c)
2009-07-31 08:12:31
ねずみ男さん
コメントありがとうございます。
「不幸の均霑」というのが加藤氏の造語だ、と書いたつもりだったのですが、分かりにくかったですね。
それとも「不幸の均霑」自体が京極先生オリジナルだったのでしょうか。
『日本の政治』は書棚の奥にあったと思いますので、気が向いたら読見返してみます。
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