「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

何のための判定か …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (48)

2010年11月25日 20時27分01秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○ 東央大病院・ ICU

  川添が 安達にグリセオール、 ステロイド

  などの投与、 人工呼吸器装着など、 蘇生

  術を施している。

  美和子が手伝う。

  安達の脳波計は 平坦を示している。

川添 「脳波はフラット」

  川添、 安達の瞳に 光を当てて確認する。

川添 「瞳孔も散大」

  安達の手足を診る 川添。

川添 「筋肉が弛緩してきている」

世良 「除脳硬直が消えて、 さっきより悪くな

 ったと いうことですね?」

美和子 「(ちょっと驚いて) 恐れ入ったわ、

 いつの間に そんなことまで?」

世良 「(モニターを見て) 脳圧が随分高い …

 …。 脳死、 に近いんでしょうか ?」

川添 「熱心に 勉強されているようですが、

 脳死というのは そんな簡単なものではありま

 せん。 専門家の間でも 見解は一致していな

 い。 ある病院で 脳死と診断された患者が、

 別の病院では まだ生きているということに

 なったりもするんです。 取材されるなら、

 そのあたりを きっちり書いてほしいです

 ね」

世良 「分かっています」

美和子 「川添先生、 脳死判定をしてみては

 どうでしょう …… ?」

川添 「何のために ?」

美和子 「え …… ?  そ、 その結果によって、

 治療法を考えないと …… 」

川添 「ごまかさないでください。 臓器が新鮮

 なうちに 判定をしたいのではありません

 か?  移植のために」

美和子 「いえ …… 」

川添 「佐伯先生、 私たちは 患者さんを助けよ

 うとしているんですよ。 死ぬのを確かめよ

 うと しているのではありません。 そういう

 のを 本末転倒というんです」

美和子 「 ……… 」

川添 「もうつまらないことは 言わんでくださ

 い」

美和子 「 ……… はい」

川添 「(目に手を当てて) ふう …… すみませ

 んが、 少し休ませてもらいます。 夕べも寝

 ていないもので。 患者さんも落ち着いてき

 たようだし、 申し訳ないが 少し観ていても

 らえますか ?」

美和子 「ええ …… 分かりました。 どうぞ」

川添 「バイタルのチェックを怠らずに」

美和子 「はい、 おやすみなさい」

  川添、 出ていく。

  無言でたたずむ 美和子と世良。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/61362317.html
 
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