蛾遊庵徒然草

おこがましくもかの兼好法師にならい、暇にまかせて日頃感じたよしなし事を何方様かのお目に止まればと書きしるしました。

『東京の水っておいしいです』!、嬉しい”声”だ。しかし…

2007-01-26 14:15:53 | 日常雑感
 1月26日(金)晴れ。-2~?

 今朝、新聞を開いて何気なく“声”欄に目をおとしたら、最下段に 『東京の水っておいしいです』との題字に目が止まった。

 22日付け、「天声人語」で「都会の水は清潔ではあっても、あまりにまずくなった」と書かれていたことへの、異議申し立てであった。

 長く東京の水道に関わってきた者の一人にとっては、嬉しい投書であった。
東京新宿区にお住まいの71歳の松木さんとおっしゃるこの方は、次のようにお書きになっていた。

 『…確かに東京では、水道水のまずい時代が長く続いた。かび臭い、タマネギの味がする、カルキのにおいが強いなどと悪評紛々だった。私もペットボトル入りの水を買ったことがある。だが今は違う。水道水ははっきりとよくなった。…』と。
そして末尾を『あのまずかった水道水をここまで改良するためには、多くの関係者の地道な努力があったに違いない。国土の恵に感謝すると共に、その方々の働きにも敬意を払いながら、水道水を味わっていきたいと思う。』と締めくくってあった。

 東京の水道水について、これほどの賛辞を私は目にしたことがなかった。胸が熱くなった。今、国や地方の行政機関のやっていることは、ことごとくといっていいほど、その怠慢や不祥事が毎日のように指弾されて跡をたたない。
そんな中で、幸いにも東京都水道局に関しての不祥事や悪評は耳目にすることなくすぎている。

 反対に、天声人語氏は、その発言の影響力の大きさをどのくらい自覚なさっているのかどうかは知らないが、築地の立派な本社ビルの貯水槽を経た水道水でなく、ご近所のしもた屋の本管直結の蛇口の水をお飲みになってからお書きになったのだろうか?
 私は、僭越ながらそんな手間はおかけにならず、「都市=東京の水は不味い」との思い込みでサラサラと筆をすべらされたように思えてしょうがない。

 ところで昨年、夏に今やブログ界の女王様の観のある“きっこの日記”様が、東京の水の悪さを「多摩川の水では死なない金魚が、東京の水道水では死んでしまう…私は東京の水なんて恐くて飲めない…」というように酷評された。これこそ、今流行とかの捏造、中傷以外のなにものではないか。

 私は、東京水道のOBの一人として、我慢ができず、我がブログでミジンコのような蟷螂の斧をふるってみた。(6月1日付け、「きっこの日記」のきっこさーん、―そんなに“東京の水道のお水が恐ろしい”ですか!―)http://blog.goo.ne.jp/gayuuan239/e/9ebb55b162602d84a8dd19dcf9114fc6
 この記事を、お読みいただいた幾人様からは、そんなことないは無いと、心強いエールをいただいた。私の記事にリンクを張ってくださった方もあった。嬉しかった。

 その際、同時にすわ一大事とばかりに、“きっこの日記”の該当箇所をコピーし、きっこ氏の影響力の大きさ、そしてこのこの記事への反論の案文を添えて、昔は親しいかった後輩でも今は偉くなった当局の該当部署の責任者に親展文書にして送付した。
 だが、あにはからんや、私の杞憂は無視された。東京都水道局のホームページを見ても何の反応もみられなかった。

 そこで、まだ局に嘱託として残っている友人に、この間の経緯を話して中での様子を聞いてみた。
 すると友人の話では、今、局幹部は、近々、雲の上のお方が視察にいらしゃるとかでその対応できり切り舞とのこと、「そんな話はしょっちゅうあるので、いちいちかまっちゃいられないのよ」とこれは大人の話である。

 私は、つくづく力なきOBの立場を自覚すると共に、自分のいつまでたっても物事にすぐあつくなってしまう子供っぽさに、ある種の悲哀を感じた。もう今後何があってもいい歳をして、禿頭を振りたてて「殿、ご注進!ご注進!」なんて馬鹿な真似はすまいと心に固く誓った。

 こんなに局の評判を我がことのように気にするのも、自分の働き盛りを局事業の広報部門で力一杯過ごしたからである。

 水道事業のような地味な事業にあっても、円滑な事業運営を行っていくためには、利用者である住民の皆様にどれだけ当該事業について理解され、愛着をもっていただけるかによって大きな違いがある。

 たとえば、料金値上げ一つにしても、普段から内情を伝え、企業努力振りを知っていただいたうえで、提案するのと、普段、録に何をやっているのかを知らせもしておかないで、いきなり「財政が苦しくなりましたから値上げさせてください」と言うのではまるで違うのではなかろうか。

 そして水道事業につきものの水道工事、本管破裂・断水事故等の際の当該地域住民との関係である。
これだって、普段から局事業の中身や今取り組んでいることを、普段からよくお知らせして理解していただいているのとそうでないのとは、苦情ひとつにしても雲泥の相違であろう。

 ところが、局事業は、戦後、壊滅的な廃墟からの復興、東京のスプロール的な都市域の拡大で水不足、水道未普及地域の解消に追われて、資金はいくらあっても足りずで、広報活動などにかまっていられない時代が長く続いたのである。
その企業体質の中で育ってきた仲間達は、外部の声等、我関せずのよく言えば職人気質の企業体が身に沁み付いてしまったようである。

 現在でも、東電や東京ガスに比べて、東京都水道局の広報費は10分の1強というところではないだろうか。
 この費用をもう少し、増やして美味しい水づくりに費やしている膨大な費用や、日夜安全な水道水の給水への職員の努力を知っていただくようにすれば、東京の水道水に対する皆様の反応ももう少し違ったものとなっていたのではと思うのである。
 働いている職員にとっても、自分の局の評判が良ければ、自然と仕事に誇りがもて職場の士気も高まるではないか。

 私は、現役時代、声を大にして、広報活動の重要性と予算の拡充を叫んでまわったが、多勢に無勢、非力で著しい変化は克ち得なかった。
しかし今は、他にはない水道歴史館や水の科学館などのユニークなPR施設もできて、結構多数の来場者もあると聞く。ホームページも、よくできていると感じる。

 東京都水道局は、その巨体で、ゆっくりだが着実に都民の信頼を増しているようである。どうか、この評価を落とすことなく、より一層たかまるよう願いたい。
東京都水道局は、よく言えば謙虚であり不言実行、公共事業体の優等生だと思う。都の各局の中でも石原知事からは、「水道局は、よくやっている」とお墨付きをもらっていると聞く。

 冒頭の投書は、コピーされて、今頃、局中に回覧されているだろう。
 私が僭越ながら局長であれば、投稿者の松木氏をお訪ねして、感謝状と銘水「東京水」パックをお届けしたいところである。

 それにしても、大きな影響力をお持ちの方が、よく現状を確認もせず、昨日の思い込みや先入観で物事を評することは慎まれたいものだ。
もっとも、天声人語氏は、都市の水とは書いても、東京の水と書いた覚えはないとおっしゃるかもしれないが…。

 かくいう私も、「そのまん何とか氏」のことで、先日、我がブログに時折コメントを、お寄せいただく方から、厳しいご指摘、ご指導をいただいたばかりである。 お目に止まることの少ない我がブログではあるが、深く自戒、自戒、心いたしたい。

と、思うこの頃さて皆様はいかがお思いでしょうか。