つい先日、二日間にわたり本県合気道協会主催の講習会が開かれました。本部師範宮本鶴蔵先生を講師にお招きし充実したご指導をいただきました。今回はそこで感じたいくつかのことをお伝えしたいと思います。
ここ数年にわたり、本部から各回異なる先生においでをいただいていますが、指導にあたっての共通するスタイルがあるようです。それは参加者一人びとりに手ずからご指導されることを大切にしておられるということです。会場をくまなく回り、上級者も初心者も区別なく親しくご指導されます。直接手をとり、またとられることは最上の指導法ですから、そのような機会に接することは受講者にとってとても貴重です。
また、やはり各先生に共通することなのですが、概して技法についてのご説明が少ないのではないかと感じています。見て、体感して覚えなさいということなのでしょう。伝統的教授法であり、かつ、海外で指導する機会の多い本部師範としてはあまり言葉に頼らない指導法というのも大切なのかもしれません。
しかし、地方在住者にとって本部師範による指導に接する機会は年に何度もあるものではありませんので、受講者としては講師の理念やそれにもとづく技法の意味、あるいはまた合気道そのものに対する認識なども伺ってみたいものです。実際に体を動かす時間が短くなっても構わないし、はっきり言えば、参加者どうしの稽古などどうでもよいので、もっと講師の謦咳に接したいというのが偽らざる心境です(どうでもよいというのはちょっと度を過ぎた表現かもしれません。もちろん、よそで稽古されている方と手合わせすることで得られるものもたくさんあります)。
次に、受講者を観ての感想です。わたしは二日目の後半は会場のすみっこにいたせいか、ペアを組むタイミングを逃し、しかたがないので参加者の様子を観察する場面がよくありました。そこで目に付いたこと、特に有段者について気になる点がありました。この人たちはそこそこ長く稽古されてきたので、ある程度ご自分のスタイルができつつあることは理解しています。それが講師の示す技法と異なることもままあるでしょう。しかし講習会で講師の指示どおりにできない、あるいはしないというのは、これはいけません。指示どおりにできないというのは見取り能力や身体能力の欠如、指示どおりにしないのは精神的硬直か自己過信というものです。心身ともに鍛錬の不足というべきです。
講習会への参加は義務ではありません。自由意志にもとづくものです。ですから講師の指示に従えないのならなにも無理して参加する必要はありません。ですが参加した以上は普段自分が馴染んでいる合気道を一時封印し、講師が大事にしている考えや技法を、なにか一つでも覚えて帰るという心構えで臨むべきでありましょう。
また、これも多くの有段者に共通する悪癖ですが、相手が自分よりも下位だとみるとすぐに教えたがるのも、みっともないのでやめましょう。その日、教える役目はあくまでも講師の先生であり、古株の有段者といえども受講生ですから、頼まれもしないのに相手の動きに注文をつけたり余計な指示をするのは越権行為と認識すべきです。はたで見ていると講師とは違う自分流儀のやり方を下位者に指図している人もいて、これは二重に迷惑です。
わたしの場合、中級者とおもわれる女性の方と稽古をした際、『悪いところがあったら教えてください』といわれましたが、『そういうことは先生に聞いてください』とお答えしました。なんか冷たく突き放した言い方をしたかなとも思いましたが、それが筋目折り目というものでしょう。ただ、初級レベルの方で、何をどうすればよいのか皆目わかっていないような方もいらっしゃたので、その方には基本的な動きだけは教えてさしあげました。そうでないとせっかくの講習に臨むことすらできないですから。
ところで、今回の宮本先生も昨年おいでいただいた小林幸光先生もおっしゃっていましたが、稽古中は適宜水分を摂るようにとか、このようにしたらケガにつながるから注意するようにとか、健康や安全に配慮するご指示がありました。おそらく先生ご自身がハードに稽古しておられた青年時代には考えもしなかったことだろうと思いますが、社会や家庭で果たすべき役割をさまざまに持った多くの愛好者をかかえる現在の合気道界においては、日常生活に支障が出ないことが必須条件であり、指導する側でも特に留意すべきことであろうと思います。
わたしが主宰する道場でも、一番に心がけていることが安全の確保です。昔風に考えれば軟弱のそしりをまぬがれないかもしれませんが、これは、武道というのは常に危険をはらんでいるのだという意識と表裏一体のものです。ケガをして長く稽古を休んだり、果てはやめてしまうことほどつまらないものもありません。
そういうわたしも肩、肘、手首、膝、足首と、ほとんどあらゆる関節を傷めた経験がありますので、あまり偉そうなことは言えた身分ではありません。ケガをしていいことは何一つありませんでした。それでもなんとかやめずに続けてこられたことに感謝しているような次第です。
今回の講習会も含め、いろいろな行事において、わたしも主催者側の一員として運営に関わる人間の一人ですが、実施に向けての実際の交渉や準備はしかるべき役員の方が骨を折っておられます。こちらは当日ありがたく参加させていただくだけですので、いささか申し訳なく思っていますが、そのような方々のご労苦に報いるには、まずは参加すること、そして合気道をさらに普及させる努力を普段から心がけることに尽きるのだろうと考えています。
このような地道な努力が日本はもちろん世界各地でなされており、そこでは多くの方が合気道と合気道愛好家のために様々なかたちで尽力しておられるということに、あらためて気付き感謝したくなった講習会でした。
そんなことを言ってるわりに、いろいろケチをつけた文章になってしまいました。本ブログ全体を通じても、どうしても指導者や上級者の方々への評価は厳しくなってしまいます。中核にある方々に対する期待の大きさの表れと受け取っていただければありがたいのですが。