合気道ひとりごと

合気道に関するあれこれを勝手に書き連ねています。
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85≫ 腕遣い

2008-11-11 16:19:21 | インポート

 これまで合気道としての体捌きを語るときは足遣いを中心に話をしてきています。一方、手や腕についてはあまり多くを語っていません。しかしそれは、体捌きにそれらが関係ないということではありません。腕の振りが体移動を助けることもありますし、手の位置を基準に体を運ぶこともよくあります。そして、体捌きによって現出した空間で、具体的に技を施すのは手や腕ですから、体捌きと協調しつつ常に最適の位置を確保していなければなりません。

 黒岩洋志雄先生の指導においては、体の前面で球の表面をなぞるように腕を動かす遣い方(フックのように)や肘をしぼって掌底を突き上げる動作(アッパーカットのように)を教えていただきました。当初、合気道的な腕遣いになじんだ身には奇異な感じがしたものですが、それこそが本来の遣い方であることがわかると、それまでの動作があまりに外面的すぎる(見た目の美しさや派手さの割りに相手への力の伝達が弱い)ことに気づきました。とにかく、これができれば合気道における腕遣いのかなりの部分がカバーできるという優れ物です。今回は、それを中心にわたしが理解した範囲での腕遣いをお伝えしようと思います。

 フックのような腕使いは、基本的には四方投げなどの横の崩しに対応する動きです。

 逆半身片手取り四方投げは、一般的には、掴みにきた受けの手首をとり、掴まれたほうの腕とともに刀を振りかぶるようにして相手の腕をくぐり、振り返って倒すという動作になります。あるいは、相手の前面に踏み出す動き(転身)を伴う場合は相手の掴み手を自分の手刀で切り落とすようにしてから、同じように振りかぶることが多いと思います。

 これを黒岩先生のやり方では、相手正面に一歩踏み出す(右手首を取られている場合は左足)のは同じですが、相手の手を掴み返す腕(この場合は左)は、フックを出すような感じで手首を巻き込むようにします。そうすると受けは前に吊りだされて、これが横の崩し第1弾となります。そこから、初めに掴まれたほうの腕(右)を同じようにフックぎみに振り出すと四方投げの崩し第2弾となり、ここから相手の腕をくぐっていきます。このように左右の横の崩しをかけていくのが黒岩式の特徴です。

 この横の崩しにつながる腕遣いはいろんなところで使えます。

 まず、相半身片手取りで相手の腕をくぐる場合、腕をフック状に振り出すと受けの肘が上がりますのでくぐりやすくなります。逆半身での転換も腕は同じように動かすのが黒岩流です(手解き技法ですが、いわゆる《実の稽古》では自分から掴んでいきます)。一教の裏で肘を掴むときも同じ動きで、押し下げるような感じで抑えていきます。

 当身技法としてとらえればフックや肘打ちになります。

 もうひとつの、肘をしぼって掌底を打ち上げる腕遣いは縦の崩しを表し、一教がその代表です。ここで最も肝心なのは、肘をしぼるということです。これはわたしが黒岩先生に何度も矯正されたことですが、ほとんど逆サイド(右手なら左側)からアッパーが繰り出される感じになります。それくらい肘を十分にしぼることによって、力が体の真ん中から腕を通じて相手に伝わっていくことが実感されます。

 天地投げの上げ手もこの腕遣いで、下げ手はその返しの動きです。天秤投げで相手の腋の下から差し込む腕もこれです。

 当身技法としてはアッパー、喉もとや脇下への抜き手となります。

 このように、横、縦の崩しにつながる動きがフックやアッパーカット(これらは人類普遍の闘争技法です)の腕遣いと共通するということは、合気道の動きの中で腕を動かす様々の場面においていくつもの当身の機会があるということに他なりません。

 合気道の流れるような動きの中に、普段は意識されない働きを秘めていることを多くの合気道人は知っていてよいのではないかと思います。