半七捕物帳は17話まで進みました。お上のご意向を傘に御用を行う岡っ引き親分は、小説に出てくるほどの良人ではなかったともいわれますが、少なくとも銭形親分や半七親分は(創作の人物でもあり)人情味のある親分に描かれています。昨日も書きましたがオカルティックなところをエッセンスで振りかけてあるところが、半七ものの面白いところですね。
今日も半七捕物帳にハマっていました。宮部みゆきも半七捕物帳が好きで何回も読み直しているそうですが、宮部ワールドとなにか繋がるものがあると感じますね。宮部みゆきの江戸時代ものは大好きです。
半七捕物帳は明治になって新聞記者の私がもう隠居した半七親分の話を聞くという体裁になっています。全69話の今日は6話目まで進みましたが、宮部みゆきの江戸物のような怪奇とは言いすぎですが、そんな雰囲気を漂わせるところがあります。今のところ銭形親分が銭を投げるような捕物シーンがなく、半七親分の推理力が冴える展開となっています。
捕物帖という江戸時代の警察ものは、銭形平次とか人形佐七とかありますが、半七捕物帳が嚆矢とされます。大正の作家、岡本綺堂が作り上げた岡っ引きで、シャーロック・ホームズに触発されて、現代に(といっても大正)に設定するとマネっぽくなるので、江戸時代に設定して自由に書いたようです。日本初のテレビ時代劇は半七捕物帳でした。長谷川一夫、平幹二朗、里見浩太朗など有名人が演じています。いろいろな文庫版がありましたが、現在は青空文庫で全話無料で読めます。それを入手して読んでいます。時代設定は文政から安政にかけてで、作者が時代考証を綿密に行っているので、読んでいると幕末の江戸の市井がよくわかります。大正に書かれたので江戸時代からわずか半世紀ちょっとということもありますね。4話ほど読みましたが、面白くサクサクと読めます。
昭和のごく普通な家庭を描写する夕べの雲を読み終えました。日経新聞夕刊に連載されたものでのちに読売文学賞を受賞しました。多摩丘陵の丘の上の一軒家で始まり、周りの丘は森で覆われていましたが、やがて造成が進み木々は伐採されていきます。今ではごく普通の郊外住宅地ですが、1965年頃は自然がまだまだいっぱいの地でしたね。庭にどういう木を植えていくかと悩むところがいいですね。
「夕べの雲」庄野潤三 講談社学芸文庫電子版
淡々とつづられる夕べの雲ですが、昭和40年前後と思われる小田急線生田(作者の住んでいた所)の風景描写も相まって、昭和へのノスタルジーも感じます。今日読んだ話のタイトルはムカデで、天井から落ちてきたとか、室内にいて咬まれたとかあって、でも本人も細君も咬まれたことは痛いのですが、ムカデに恐怖するということはないのですね。現在はムカデを見る機会は減りましたが、存在していれば家の中に入ってきて咬むらしいので、昔や田舎の話ではありません。でも、咬まれなくても生きているムカデを見たらかなり引いてしまいますね。
庄野潤三の夕べの雲を読んでいます。淡々と家庭の状況を描く文章がいいですね。悲劇的ではない、ごく普通の家庭の日常という感じです。川崎の生田にながいこと住んでいて、そこを題材とした短編集なのですが、大浦家の5人家族の日常が描かれています。
昭和初期からの写真館を営んできた写真師の祖父、入婿の写真家の父、歌舞伎好きの母を家族に持つ高校生の主人公は、軽免許でN360を乗り回し、六本木のバーで飲みナンパし、朝帰りもする。素行は悪いが不良ではない。現代では半グレのような生活かもしれないが、真面目な高校生でもある。麻布十番や六本木がまだまだ東京の盛場として名をなしていない、でもちょっとハイカラな盛場だった頃の話が短編集となっている。面白くて一気に読んでしまいましたね。霞町は今は無くなって西麻布と名を変えています。
「霞町物語」浅田次郎 講談社文庫電子版
ジョージ・ルーカスの傑作に1962年のカリフォルニアを舞台にしたアメリカングラフィティがあります。青春のノスタルジーが感じられて自分も大好きな作品です。これとほぼ同じ年代の東京六本木周辺を舞台にしたのが浅田次郎の霞町物語です。都営の路面電車がまだ縦横無尽に走り、六本木にはまだ米兵の姿があった時代です。日比谷高校生徒思われる主人公は写真館の生まれで、祖父と父母との4人家族です。もちろん自身のことを綴ったものではありませんが、著者は神田の写真館で育ち、祖母は芸者だったというのは物語の設定と同じです。面白いです。