黄金の指紋(ジュブナイル)を読みました。怪獣男爵の登場する3作目になります。つまり昨日読んだ大迷宮の続編となるのです。例によって洋館の屋根が割れて気球で男爵が逃亡したり、パンパンとピストルを撃ったり、品川の港南の倉庫に地下二階のアジトがあったり、大サーカス団があってと豪快な建付けなのは楽しめます。そして大迷宮が1951年の作品でこれは1952年の作品なので背景がつながるのですが、一つどうしてもわからなことがあります。事件は岡山で起きるのですが、岡山から邦男少年(といっても中二生)が帰京する際になんと新幹線に乗るのであります(重要なシーンが起きます)。これは1953年に偕成社から単行本化されたあと、1978年に角川で文庫化されたときに改稿されたものと思うのですが(まさか2022年の改版で起きたとも思えませんが)、その指摘はどの金田一研究サイトをみても書いてないのです。誰か教えてほしい。新幹線が博多まで伸びたのは1975年で(岡山は1972年)70年代を背景にすると、この物語は成り立たないと思うのですね。欧州から帰郷した少女は船で九州に着いたという設定など特にです。さらに20年も怪獣男爵は何をしていたのか。
大迷宮ではニセ刑事が悪玉のスパイとして警視庁にいたり、今回は警視総監秘書が悪玉の手先だったりと50年代には嘘事ではない気がしますけど。
「黄金の指紋」横溝正史 角川文庫電子版
大迷宮を読了。講談社から出版されていた少年クラブに連載された1年間(1951年1月号から12月号まで)、当時の少年たちはワクワクして読んだでしょう。貸本屋かどこかで借りて回し読みしたに違いありません。今読んでも童心に帰ってワクワクさせられます。
「大迷宮」横溝正史 角川文庫電子版
昨日に続いて大迷宮ですが、怪獣男爵というキャラが登場します。怪獣男爵は別に本としてあるので、こちらを先に読んだ方がいいのかもしれません。この怪獣男爵は天才的生理学者が悪に染まって死刑になるのですが、自分の死体をうまいこと(友人の生理学者に)盗ませて、あろうことか脳移植によって復活するのです。移植の相手は蒙古から連れてきたロロという名のゴリラのような男というのですが、それは人間なのでロロの脳はどうしたのだろうと思います。荒唐無稽とはこのことですな。こういうストーリーにワクワクしていた少年たちがいたわけです。
横溝正史の金田一耕助のジュブナイル、大迷宮を読んでいますが、ジュブナイルとはいえ結構面白いのです。昭和26年(1951年)の作品で当時の少年雑誌少年クラブに1年にわたって連載されたものです。今どきの子供に受けるかどうかわかりませんが(ネット情報のおかげでリアリスティックになっている感じ)、荒唐無稽ともいえるような活劇が繰り広げられます。当節大人が読んでワクワク、ドキドキしてしまいますよ。リアリティといえば、例えば悪人が骸骨のいでたちをしているとか、上野の不忍池界隈で開催されている産業博覧会場で軽気球に乗って東京を見物するのに、乗客は縄梯子を使って乗り降りするとか、解き放たれた軽気球に軽業師が係留用ロープに飛び移って輪を作りそこにぶら下がって逃避するとか、そういうのって今は法螺としか言いようがないのですが、昭和26年だから許してしまう。
仮面城を読了。全部で4編のジュブナイルで1952年に発表されたものです。仮面城だけが金田一耕助が登場しますが、少年と袴をはいて地下道を走り抜けピストルをかまえるなど、丁々発止の動きを見せるのが他の金田一作品と違うところ。西伊豆の山中に仮面城という悪のアジトがあるところ(大きな岩がギギギと動いて中に入る)、そして成城の住宅街のちょっと北に抜けたところは麦畑で武蔵野の暗がりがあるなど、現代離れした設定がいいです。三津木俊介と由利先生が登場するものもありました。4編目の怪盗どくろ指紋(いいタイトルです)がそれで、等々力警部も出てくるのです(由利先生は捜査一課長を務めていた)。由利先生から金田一へと探偵の主役が代わるのがこの頃です。どの作品も登場する少女はみなえくぼのある聡明な子というのもいいですね。
「仮面城」横溝正史 角川文庫電子版
続いての金田一耕助はジュブナイルの作品、仮面城(他3作品)です。江戸川乱歩の明智小五郎シリーズにおける少年探偵団のような意味合いの作品ですね。12歳くらいの少年が主人公です。
死仮面を読み終えました。この作品は著者晩年に発掘された作品で、連載された雑誌には8号に渡ってされたものの(中日新聞社の雑誌)、7号しか見つからず、幻の長編として欠けていた章を解説の中島河太郎が(不本意ながら)補ったものです。舞台は東京狛江の辺りに設定された女子学園。死仮面とはデスマスクのことで、日本ではデスマスクというのは見たことがありませんね。近世の欧州ではあったようですけれど。もう一つ短篇の上海氏の蒐集品(コレクション)が掲載されていますが、これは金田一耕助は登場しない作品で、昭和40年頃ものと言われていて、晩年に横溝正史の軽井沢の別荘で原稿が見つかったものということです。ちょっとしたミステリになっています。ただこの作品、横溝正史の住んでいた成城から川崎方面の団地造成地を眺めるシーンがあるのですが、南アルプスがきれいに見えてその向こうに富士が見えると書いてあります。これは明らかな間違いで、丹沢山塊が見えてその向こうに富士があるのですね。南アルプスは東京から見えません。これは解説にも書いてないので誰も気づいていないのかなと思います。
「死仮面」横溝正史 角川文庫電子版
読み始めた金田一耕助は昭和23年、あの八つ墓村事件を解決した後、岡山県警の磯川警部を挨拶かたがた訪れたというところから始まる死仮面という作品です。冒頭、怪しい彫刻家と怪しい女の愛の日々を綴った、その彫刻家の手記から始まります。時代が終戦直後というのがまたいいですね。混沌と混乱がまだ残り、かつ戦前の風俗も残っているこの頃の時代というのが好きです。