命あるものは、
すべて、
実さえ花さえ、
その葉さえ、
今生を限りと
生きてこそ美しい。
江戸・向嶋で種苗屋を営む若夫婦、新次とおりんは、人の心を和ませる草木に丹精をこらす日々を送っている。二枚目だが色事が苦手な新次と、恋よりも稽古事に打ち込んで生きてきたおりんに、愛の試練が待ち受ける。
実さえ花さえ朝井 まかて講談社このアイテムの詳細を見る |
講談社、小説現代長編新人賞奨励賞受賞作品。本作がデビューだそうです(しかも、はじめて書き上げた作品とのこと)。むむぅ。すごく豊かで鮮やかな世界でした。装丁も雰囲気があっていいですね。
作品を京都の行き帰りで読んでしまったのが・・・もったいなかった。もっと、余韻を味わいながらゆっくり読めばよかったです。
というのも、連作小説で一章ごとは完結しているのですが、章ごとの間には数年、終章までは実に長い時間が流れているのです。
江戸時代を舞台にした時代小説ですから、その世界の構築は深い造詣のもと。それだけでも凄いことなのですが、登場者それぞれが人間らしく、また愛しい。
このタイトルはある人物の言葉から取られているのですが、これも唸りました。だって、たぶん、これって・・・、むちゃ切ない。私、このあたりだけで一週間くらい作品世界に浸ってしまいそうです。作者の作品世界に対する深い愛情を感じました。