goo blog サービス終了のお知らせ 

平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

ゴシック

2006年11月29日 | 洋画
 鬼才ケン・ラッセルの描くホラー映画「ゴシック」。

 登場するのは天才詩人バイロンと詩人のシェリー、それにシェリーの愛人メアリーとその妹クレア、そしてバイロンに想いを寄せる医者ポリドリ。
 実際にあった事件をモチーフにしている。

 物語の概要はこうだ。
 1816年6月16日、シェリーらはその背徳的な生活ゆえにイギリスを追われたバイロンのスイスの別荘・ディオダディの館にやって来る。
 彼らはメアリー以外、いずれも世の中に退屈した退廃的人物。
 嵐の夜、阿片を吸って狂乱のパーティを行い、趣向として各自が「怪談」を創ろうと言い出す。
 バイロンなどは「どうせ創るなら本物の幽霊を創り出そう」と言って、降霊術を行ったりする。
 そして狂乱の一夜が過ぎて、メアリーとポリドリが物語を創り出す。メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」とポリドリの「吸血鬼」(B・ストーカーのものとは違うもの)だ。
 これが実際にあった文学史上有名な事件「ディオダディの幽霊会議」。
 ふたりはここで得た着想を数年後小説に仕上げ発表する。

 さて、この作品、ジュリアン・サンズ演じる詩人のシェリーが美しい。
 阿片でラリったシェリーは嵐の中にはだかで飛び出し、豪雨と稲妻の光る屋根の上で大きく手を広げて叫ぶ。(フランケンシュタインは雷の力で生命を得るが、メアリー・シェリーはこの姿を見て着想を得たのであろう)
 そしてこんなシェリーをめぐり、バイロンたちが争い出す。
 バイロンはシェリーの美しさに魅了され、メアリーとクレアの三角関係に悩むシェリーにこう言う。
「女ごときの為に君の才能を浪費することはない」
 またバイロンに想いを寄せるポリドリは嫉妬してシェリーにナイフで襲いかかる。
 そしてそれがかなわぬと考えると首つり自殺をしようとする。
 たくさんの蛭を自分の体に乗せて血を吸わせ、自分で自分を痛めつける。
 すべてはポリドリにはないシェリーの美しさゆえ。
 阿片による乱痴気騒ぎにシェリーが加わって、騒ぎはどんどん加速していく。

 この作品の創りだした退廃的でシュールな映像も魅力だ。
 騎士の鎧に絡まったニシキヘビ、修道士のどくろ、首のないピアノを弾く人形、阿片の幻覚が見せる醜悪なモンスター、鉄のペニスをつけて迫り来る騎士。
 美しさはきれいな風景や絵画の中だけにあるものではない。
 グロテスクで怖ろしいものの中にもある。
 それはまるで悪夢を見ている様。

 そしてバイロンらが見ているこれらのイメージは、阿片でラリったバイロンたちの見た幻覚なのか、彼らの狂態が邪悪なものを惹きつけ、モンスターを呼び出したんものか観客にはわからない。
 面白いホラー映画だ。
 バイロンたちが見たイメージはいずれも彼らが心の奥底に閉まっていた苦悩や秘密でもあり、多分に精神分析学的でもある。

 なお、この「ディオダディの幽霊会議」をモチーフにした作品には他にも「幻の城」(バイロン役はヒュー・グラント)がある。
 こちらはバイロンとシェリーの話を正攻法で描いている。

※この記事は以前に雑誌に書いた記事を加筆修正したものです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする