出来るだけいつもの日常に戻ろうとしている。だから今日もサバの塩焼き、納豆、豆腐のガーリックステーキ、白菜の塩揉み、ニラと若布の味噌汁なんてメニューをを食卓に並べる。終わった後もちゃんと洗い物をする。その間に洗い終わった洗濯物を干す。ゴミをまとめて忘れないように玄関においておく。掃除もする……他に何かやることはないか探す。夏物の衣服をまだクリーニングに出してないし、衣服タンスに片づけてもない。ベッドシーツをディノスで注文もしたい。やりたいこと、やらなくてはならないことは数えきれない程ある。でも、そんな日常生活にかまけていていいのかと云う声が俺を脅かす。やらなくてはならない非日常的問題から逃げているんじゃないかと非難する。そう、俺はこの十日間に何一つ問題を解決してない。夫婦問題もまだだ。芝居の台本もまだだ。スタッフを含めた店の経営方針も立ててない。俺は何もできないのかも知れない。無力感と敗北感に襲われて部屋をでてしまう。何処にもいくあてはない。誰とも会う予定もない。今日は映画をみる元気はない。一人で酒を飲む気にもなれない。自然と足は店に向かう。数枚の年賀状をポストから取り、〆飾りを外し、明日からの営業に備えてお酒の発注をした後、誰もいない店の中でカウンターに坐って考える。せめてこれからの経営方針のヒントだけでも掴んで明日からの営業に入りたいと頭を巡らすこと一時間、俺が強く思ってしまったのは俺はこの店にいたいと云うこと。ただここにいたいと云うこと。