パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

政治記者という人々

2012-12-10 21:50:15 | Weblog
 昔は,総選挙の実況中継というのは、徹夜で面白く見たものだが、最近は投票が終了した八時丁度に結果が出てしまう。

 投票が始まったからずっと「出口調査」を実施しているので、実質的に「調査の結果」は投票が終わる前にわかっていて、でも投票が最後の一人が終わるまではそれを言えないということなのだろう。

 でも、なんか「つまらない」。

 「結果」はもう決まっているのに、それがわかるまでの間に時間的ズレがあるので、人は,それが「無駄」と知りつつ、あれこれ想像する。

 これを,心理学では「なんとか現象」と言うのだそうで、無駄な努力と言えば言えるけれど、人間の創造力の源なんだろうと思う。

 しかし,超速報のおかげで,チェルシー対コリンチャンスの決勝戦をじゅうぶんに楽しむことができたのだった。

 さて,選挙だけれど、投票率が、衆院選挙としては、戦後最低だったそうで、特に若い人の投票率が低いことをマスコミは問題にしているが、これは世界的にどうしてもそうなる。

 何故かというと、たとえ今仕事がなくて、その日暮らしの生活でも、なんといっても「若さ」で、乗り越えてしまうから、将来のことを心配しても、あまり切実ではないから、行動にはなかなかいたらないし、また行動に移すと、ものすごく過激になったりする。

 だから、若者の多い国ほど政治が混乱する、というのは事実なわけで、ともかく、若者の投票率が低いのは世界的に共通していることなので、それを前提に物事を考えればいいだけの話ではないか。

 むしろ、地域別の投票率と選出議員の相関関係なんかを調べると面白いのではないだろうか。

 それはさて、総選挙特番でちょっとびっくりしたのは、テレ東の特番で、マスコミの政治記者たちに、現役の政治家で、誰が一番総理大臣としてふさわしいと思うかというアンケート調査をしたところ、ダントツの第一位が,野田現役総理だったことだ。

 その理由は,真面目で正直ということが一つ。

 今回の突然の解散も、政治記者たちには「三党合意時の約束を守った」ということで高く評価している人が多いということだ。

 しかし、この突然の解散の政治的意味についての評価はさて措いて、なにはともあれ「正直でグッド」では、到底政治記者とは言えないのではないか。

 野田の高評価の二つ目の理由は、「消費税を造成して、財政再建のメドを立てたこと」を挙げていた。

 これにも驚いた。

 私は,前からずっと書いているが、消費税のアップには(日用品,特に食料については何らかの対策が必要だとは思うが)反対でないし、デフレ不況下の消費税上げについてだって、それが貧困対策に使われるというちゃんとした約束があれば,上げてもいいと思っている。

 ただ、「財政再建のための増税」は断じてダメだ。

 増税で財政を再建しようなんて、古今東西、どこも成功していない。

 税金は、必要最低限の額は自ずから決まっているが、それを増やしたり(増税)、減らしたり(減税)するのは、「景気対策」のために行うのだ。

 つまり、景気が過熱(インフレ気味)していると判断したなら、増税して民間から金を吸収し、景気が減速している(デフレ気味)と判断したなら、減税する。

 それができないときは、金融政策で対処する。

 これがインフレターゲット政策なわけだが、政治記者でも、インタゲくらいは、知っていなければダメだろう。

 というのは、そのテレ東の総選挙特番に田勢という元日経新聞の政治記者が出ていて,彼もまた、「政治記者アンケート」の結果と同意見だと言っていた。

 そういえば,彼の基本は「政局の解説」なのだが、それには野田を支持している雰囲気が色濃く感じられたし、その背景には,野田の「財政再建至上主義」を支持する姿勢が垣間見えていた。

 特に、野田がインフレターゲット政策に「不審」を抱いていることに対し,田勢が、「私も同意する」と言っている雰囲気は明瞭に感じられたのだが,そういえば、安倍が総理大臣になったとき、この田勢が非常に安倍のことを嫌っていて、やることなすこと、すべて感情的といってもいいような態度で安倍のことを批難していた。

 私は,安倍が総理のとき、特に塩崎官房長官の態度が気にくわなくて、大嫌いだったのだが、安倍の基本政策には基本的に賛成していたので、田勢の罵詈雑言の意図がわからず、首を傾げたのだったが、今回の総選挙特番で、腑に落ちた。

 要するに田勢は、政治記者としての、政治家に対する感覚的な判断(好き嫌い)を優先していたのだ。

 田勢の「政局判断」は、いつも常にほぼ正しく言い当てているので,私はそれに限って信頼はしているのだが、経済政策、外交政策等に対する具体的献策はほとんどなく、不思議に思っていたが、結局「政策」にはあまり関心のない人なのだ。

 そしてそれは、政治記者に共通した「性格」のようなものなのだろう。

 彼がホストをつとめるテレビ東京の番組では、番組の最後に,彼の趣味であるらしい、短歌,俳句から現代詩にいたる詩人の作品を紹介して終わるのだが、なるほど、彼の「政治解説」も、つまるところ、短歌,俳句の類の「感覚」を柱としているのだ。

 私はそれを見て、政治記者には珍しい趣味の持ち主だと思っていたが、実際のところは,政治家には、彼の郷里の詩人の一言を暗誦すれば、肝胆相照らす仲になれるというか,何か通じるものを持参し、提示するという意味で、短歌,俳句に通じるということは、政治記者として、一つの武器になり得るものなのかもしれない。

 ところで、私はTPPに賛成で,それで総選挙では「みんなの党」に一票を入れたのだが、なんでTPPに賛成なのかというと、そうすれば外国の肉とか魚、野菜などの食料品が圧倒的に安くなるからだ。

 日本の農家には、市場に安く出荷する分、直接、所得保障すればいい。

 ところが、安倍のブレーンの一人とも言われる三橋とか言う経済学者は「デフレなのに、TPPで物価を安くするなんて、とんでもない」と言っていた。

 何を言っているのか。

 デフレ脱却のためのインフレターゲット政策は、「値上げ政策」なんかではない。

 「物価に目標値をつける」というのは、あくまでもデフレの度合いをはかるための「目安」であって、物価を上げることが,即、デフレ対策というわけではない。

 アメリカの日銀、連邦準備会のバーナンキ議長が、インフレターゲット(物価上昇率の目標値)の他に、「失業率」を目標値として持ち出したのも、現在のデフレ状況は、物価だけでは実態がわからないので、失業率を、「物価」の他にも、目標にすると言ったのだ。

 インフレターゲットというと、物価が上がりすぎたらどうするのだという人がいるが、デフレ対策としてのインフレターゲット政策は、「物価」をデフレの度合いをはかる数値として採用しているだけのことである。

 現在の日本において食料品の物価は諸外国よりはるかに高いので、それが下がるということは、デフレとは関係なく、基本的にいいことなのだ。

 安倍は、経済諮問会議を再開させると言っているが、民主党の失敗はちゃんとした学者を、特に経済分野で閉め出してしまったところにあるので、ぜひ、まともな経済学者を選んでほしい。

 まともな経済学者なら、その学問的立場はちがっていようとも、やるべき「最低限」のことは自ずと「一つ」になるはずなのだ。