パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

小沢一郎・母親説

2007-11-04 22:37:45 | Weblog
 驚いた。小沢が辞任。

 私は、年金政策では、これまで何度も書いてきたように、基礎的年金を全額税でまかなう民主党案に賛成だし、農業問題も、あまりよくはわからないのだが、自民党の農協とか地元土木業者等を通じて行う「補助政策」より、直接お金を農家に渡す民主党案のほうがいいのじゃないかと思っていた。
 ただ問題は「外交・安全保障」問題で、小沢は、世間の安直な「反米主義」にのっかってしまったのではないかと危惧していた。国連の議決があれば、派遣自衛隊による直接的軍事行動も可、という発言も、たしかに小沢の持論ではあるが、民主党内の元社会党連中には、「いや、言うのはただだからさー」とか、「実際の場面では、あんた方の意見を尊重するよ」とか言って納めているのではないかと疑っていた。あるいは、インド洋の給油活動の中止についても、あまり切羽詰まったような雰囲気が、自民、民主両党から感じられなかったので、アメリカを含む「国際社会」の了承を得ているのかな~とも思うようになったのだが、期限切れを間近にして、福田とのトップ会談が急にもたれたりして、あれよあれよという間に、「大連立」構想が話し合われ、それを民主党幹部らに拒否られて、辞任ということになった。

 ところで、「小沢辞任」が報じられる直前のジャンジャンというウェブニュースに、「大連立拒否で正解の小沢さん」というタイトルの評論記事が載っていた。曰く、「小沢さんの歴史から与えられた任務はただ一つ。自民党を次期衆院選でも「KO」し、民主党を中心とする野党連合政権を成立させる。それにより、参院選のマニフェストの方向の政治を他野党(そのときは連立与党か?)とも補い合いながら実現し、国民生活を守る。それしかありません。」

 これを書いたジャンジャンの記者氏は今頃「涙目」なんじゃないかと思うが、民主党内の「空気」もこんなものではなかったかと想像する。ともかく、「悪いのは自民党」。もちろん、自民党がそんなに立派な政策をもっているとは、私だって思っていないが、自民党が悪の権化で、それを倒すことがすべてに優先するのだったら、「小沢さん」なんかに頼らず、自力でやれよ、と言いたい。なんてったって、小沢一郎は、誰ひとり知らぬもののいない、歴とした元自民党の大幹部、もっとも自民党的と言われた政治家じゃないか。その「小沢さん」に、「お願い、自民党やっつけて」って……「恥」を知らないのか!

 いや、実際、知らないらしい。なにしろ、民主党幹部は、急遽「小沢対策委員会」とやらを作り、週明けから「慰留」に全力をあげるらしいのだ。(「大連立」を受け入れれば、小沢さん、きっと慰留に応じるよ。くすくす。)
 いずれにせよ、「大連立」拒否で「正解」というのなら、今の戦術(議会審議拒否)を続ければ、次の衆院選挙では必ず勝てる」と民主党員の多くは信じているということか? 正直言って、このことは、今回の「政変」ではじめて知った。びっくりだ。なんて脳天気なんだ! 自民党が困れば困るほど、国民は喝采→民主党ウマ-ってことらしい。

 そもそも、「世論は《大連立反対》で決まり」というなら、その世論が支持しない「大連立」を主張する小沢を党首に仰ぐ必要はさらさらないではないか。
 
 このように、まさに正気を失い、右往左往する民主党員を見ていて、頭に浮かんだのは『ドグラ・マグラ』だっけかの、「胎児よ胎児よ、何故泣く。母親の気持ちがわかって恐ろしいのか」という無気味な一節。もちろん「胎児」は民主党員、母親は小沢一郎。

 珍しく読売新聞を買う。もちろん、一面の「大連立は小沢が持ちかけた」という見出しに引かれたのだが、小沢は記者会見で激怒していた。実際のところは、両者、「阿吽」の呼吸で、ということなんだろうが、それはそれとして、面白いコラム記事があった。

 それは、古い話になるが、1956年(昭和31年)の経済白書に記された、「もはや戦後ではない」という有名なセリフについてで、従来、終戦直後以来の混乱した経済を脱し、「高度成長」に向けて力強い離陸をはじめた、とする「自信に満ちた日本経済復活宣言」を見られていたが、実は、この白書を書いた後藤誉之介という官僚は全然逆のことを考えていたというのだ。つまり、後藤氏が言いたかったことは、「もはや」とは、「これまでは朝鮮戦争の特需などでつないできたが、それももはや終わってしまった」、という意味の「もはや」で、これからはよほど気を締めてかからないと大変だぞ、という警告の意味だったというのだ。
 「へー」とびっくりしたが、さらに驚いたことに、白書の著者、後藤氏は、自分の予想とはまったく逆になったことを経済分析家として恥じ、かつ悩み、数年後、自殺してしまったんだそうだ。誉之介の「誉」は伊達じゃない、ってか、ジャンジャン……って茶化したくなったが、マジな話、日本の高級官僚(キャリア)の強烈な自負心に改めて驚く。「天下り」も、この「自負心」に応えるための制度だということをよーっく認識する必要があるのだ。(自民党はそれを知っていて、だから手がつけられないのだろう、きっと)