夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

露のゆかり その2

2016-11-13 18:36:21 | 日記
藤壺は、普段は決して源氏に返事をしたりはしないが、この時だけは、かすかに書きさしたように、次の歌を詠む。

袖濡るる露のゆかりと思ふにもなほうとまれぬやまと撫子
(厭うべきあなたとの関係ゆえに若宮が生まれ、袖を涙で濡らして嘆き続ける日々を送っていることを思うにつけても、この子がうとましく思われてしまいます。)

藤壺にとって、源氏との関係は、自分の意に反して結ばされたものであり、望まない妊娠をした挙句、不義の子を帝との間の皇子として今後育てていかなければならない。そんな過酷な運命を私に背負わせたあなたのゆかりだと思うと、愛しむべきわが子であるはずなのに、どうしてもうとましく思わずにはいられない、といった心情を詠んでいるのだろう。

源氏とそっくりなわが子を見るにつけ、何も知らない帝や世間を欺き、この子を帝との間の皇子として育てていかなければならない罪の重さにおののく苦しさが伝わってくるような歌である。

受講者の皆さんにもその深刻さが伝わり、私が、
「この巻にはすごく怖いことが書いてありますよね。」
と言ったら、一様にうなずいていた。
一方で、『源氏物語』もこの「紅葉賀」巻あたりから、これまでの話が噛み合い、物語として大きく動き始めた感がある。
今後の展開が楽しみだ。