リリークラウスのモーツァルト

2013-08-06 23:57:19 | Weblog
最近、よく聴いているのが、リリークラウスのモーツァルトソナタ全集旧盤。稀代のモーツァルト弾きとして有名なピアニスト。大平洋戦争中に、ジャワ島で日本軍に3年もの間拘束されたことでも有名。そんなことがあっても戦後、幾度か来日し、名演を聴かせたという。彼女のピアノは、一言で言えばドラマチックである。小綺麗で美しいだけのモーツァルトとは大きくへだたっている。打鍵は強く、時にスホルツアンドも目立つ。天国的な美しさがあるかと思うと、悲劇的雰囲気に一変し、地獄に落ちるかのようである。しかし、何と音符と音符の間にかくも雄弁に語りかけてくるピアノなのであろうか。名指揮者のワルター氏は、確か「モーツァルトは一小節ごとに表情を変えねばならない。」と語ったが、リリークラウスのモーツァルトには、まさしくそれがあてはまっている。彼女の数奇な人生のひとつひとつの経験が、音として結晶化され、聴く人の心を揺さぶるのではなかろうか。