イスラエル正規軍の激しい空陸全面攻撃に対抗して、<ヒズボラ>勢力(指導者:ハッサン・ナスラッラー師)はクラシックなカチューシャ・ミサイル(イラン製)を繰り返し叩き出す。通常は、40-50kmの射程だが、この数日射程が80kmに及ぶ場合があり、テル・アビブにも届きそうな勢いだ。1日平均120-150発、多い時は230発のミサイルをイスラエル北部へ打ち込んでいるから、その総数は既に3000発を越えているだろう。
イスラエル御自慢のメルカバ戦車や、攻撃ヘリコプターも彼らのロケット砲により破壊されているので、これはもう立派な軍隊である。東堂一氏が得た2年前の情報によれば、中、長距離ミサイルも<ヒズボラ>は所有しているらしい。
テロリストがミサイルを持った日?
レバノンの空港、港湾、幹線道路、橋梁、発電所は、イスラエルの空爆により大きなダメージを受けた。加えて、官庁、公共施設、民間住居等は無差別爆撃のため、町の姿は瓦礫に覆われている。海岸には石油タンクからの重油が流れ出し、美しいレバノンの海浜は勿論、キプロス島やギリシャの海岸にも汚染が押し寄せるとの事。
こうしたインフラストラクチュアや民間資産の喪失は、金額に直して5000億円を越え、なお拡大している。レバノンの国家体制は、イスラエルに摺り潰されつつあると言って過言では無い。<ヒズボラ>の戦死者は100人、加えてレバノンの市民800人が巻き込まれて既に亡くなった。住居を失い、あるいは爆撃を避けて移動する人々100万人(レバノンの人口は400万人である)、シリア国境を越えて逃げる人達も多い。CNN、NYTimes、BBCは、ネットでその凄まじくも哀しい姿を伝えている。
一方、イスラエル側では死者80人(兵士戦死者を含む)で、戦闘開始以来レバノン側犠牲者と比べ、大凡10対1の死者比率は変わらない。国際世論の強烈な批判がイスラエルに集中する所以である。
イスラエル地上軍は約1万人をレバノン南部に侵攻させたが、こちらは空爆と異なり、捗々しい成果を上げていない。一進一退、あるいは緩慢な進撃である。それだけ<ヒズボラ>の地下施設が強固なのだろうか。それとも、イスラエル軍の電撃作戦は野戦にのみ通用するものなのか。
<ヒズボラ>は、レバノンの国政にも関与する党派構成体(原理主義シーア派)であるが、その武装勢力は国境で小競り合いを起こし、2名のイスラエル兵士を捕虜とした事がこの戦争を招いた。国際情勢に詳しい宮崎正弘氏は、メルマガで次のように伝えている。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成18年(2006年)7月28日(金曜日)
通巻第1526号
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
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「国中国」的存在から、いまやレバノンを乗っ取る「ヒズボラ」
エイリアンの化け物が人間の身体に寄生し、いつしか食いちぎって外へ出た
*****************************
『エイリアン』という映画の何本目だったか、異星人の化け物が人間の身体に入り込み、食い荒らし、その人間になりすまし、或る日、身体を食い破って醜い本性を現す。
殆ど映画をみない小生でもこのシーンは見た。
多くの読者も、きっとこの場面をご記憶だろう。
レバノンのおける“ヒズボラ”という存在は、このエイリアンそっくりなのである。
「国中国」がヒズボラだが、その軍は正規のレバノン国軍をとうに凌駕し、なんといってもミサイルを一万基も保有して独自の行動をとる。
主権の主体者ではないのに、外交を主導する。戦争も勝手におっぱじめる。
つまり主権国家レバノンの「主権」を越えて、ヒズボラが勝手な軍事行動をとるのに、レバノン政府は為す術がないのである。レバノンは「主権国家」の体をとうになしていないばかりか、テロリストに完全に乗っ取られている。
レバノンではなく、ヒズボラ共和国?
このヒズボラという化け物を背後から協力に支援してきたのがシリアとイランである。
シリアは、そもそもレバノンを「国家」とは認めていないから大使館を置かないし、これまでは勝手にシリア軍をレバノンに駐留させてきた。自分の領土のつもりであり、いまもそれに近い認識である。
イランがヒズボラを支援してきた理由は、中東におけるシーア派拡大、ペルシア的なイランのナショナリズム拡大などが原因であり、イラク南部のシーア派への梃子入れはサダム・フセインの時代から続いてきた。
「ヒズボラ」はイランの傀儡から、一歩踏み出した。
レバノンという国を食い荒らし、食いちぎり、ついにイスラエルにゲリラ戦争、爆弾闘争を仕掛けるまでの軍事的実力を蓄積するに至った。
この化け物の殲滅を企図して開始したイスラエル軍による爆撃と地上侵攻も、EU軍か、NATO軍の介入がありそうで、またまた中途半端で終わるだろう。
ヒズボラが棲息できる地下要塞とありの巣のような拠点をレバノン南部に確保しており、退却が必要になればNATOを介入させて勢力の温存に入り、毛沢東と同じ戦術を行使する。
ヒズボラは暫く息をついたのちに、再び傲然と甦り、かつてのPLO以上の力量を溜め込んで、もっと大規模なテロをやらかすであろう。
むろんイスラエルは生存をかけて闘うだろう。
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♪
7月5日現在、国連安保理で、米国と仏国が停戦へ向けて激しいやり取りをしているが、利は米国にあらず、時間を限って即時停戦となる可能性大。だが、イスラエルがそれをすんなりと受け入れるかどうか、大いに疑問である。仮に受け入れたとしても、10日を待たずしてイスラエル軍は空爆再開の決断をするのかも知れぬ。停戦後の国際派遣軍構成にもたつく事、派遣軍が<ヒズボラ>の武装解除を充分に出来ない事がその理由となる。
国連に参加はしたものの、イスラエルは国連決議を無視する過去を持つ。今回は国連施設を数回に亘って空爆している。体質的に国連を尊重しない国柄なのだ。イスラエル国内でも意見は割れていると思うが、穏健派の意志を踏み躙って強硬派はアラブ・モスレムへの2正面侵攻策を採った。何をやっても米国はイスラエルの味方をしてくれるとの読みがあるのだろう。強硬派としては、最大の支援国米国がイラン核武装に対し穏健的に振舞い過ぎるとの精神的不満が背景にあるのだ。
米軍はイラク内政対策でふらふらになっており、現時点ではイラン侵攻を採りたく無いのかも知れない。一方、米国内でもイスラエルに加担するのは止めよとの意見が共和党内で強くなって来た。ブッシュ(共和党)政権が、どこまでイスラエルを支援するかは、EUの動きを見つつ政権内ネオコングループとの意見調整で決まると想像する。
イスラエル御自慢のメルカバ戦車や、攻撃ヘリコプターも彼らのロケット砲により破壊されているので、これはもう立派な軍隊である。東堂一氏が得た2年前の情報によれば、中、長距離ミサイルも<ヒズボラ>は所有しているらしい。
テロリストがミサイルを持った日?
レバノンの空港、港湾、幹線道路、橋梁、発電所は、イスラエルの空爆により大きなダメージを受けた。加えて、官庁、公共施設、民間住居等は無差別爆撃のため、町の姿は瓦礫に覆われている。海岸には石油タンクからの重油が流れ出し、美しいレバノンの海浜は勿論、キプロス島やギリシャの海岸にも汚染が押し寄せるとの事。
こうしたインフラストラクチュアや民間資産の喪失は、金額に直して5000億円を越え、なお拡大している。レバノンの国家体制は、イスラエルに摺り潰されつつあると言って過言では無い。<ヒズボラ>の戦死者は100人、加えてレバノンの市民800人が巻き込まれて既に亡くなった。住居を失い、あるいは爆撃を避けて移動する人々100万人(レバノンの人口は400万人である)、シリア国境を越えて逃げる人達も多い。CNN、NYTimes、BBCは、ネットでその凄まじくも哀しい姿を伝えている。
一方、イスラエル側では死者80人(兵士戦死者を含む)で、戦闘開始以来レバノン側犠牲者と比べ、大凡10対1の死者比率は変わらない。国際世論の強烈な批判がイスラエルに集中する所以である。
イスラエル地上軍は約1万人をレバノン南部に侵攻させたが、こちらは空爆と異なり、捗々しい成果を上げていない。一進一退、あるいは緩慢な進撃である。それだけ<ヒズボラ>の地下施設が強固なのだろうか。それとも、イスラエル軍の電撃作戦は野戦にのみ通用するものなのか。
<ヒズボラ>は、レバノンの国政にも関与する党派構成体(原理主義シーア派)であるが、その武装勢力は国境で小競り合いを起こし、2名のイスラエル兵士を捕虜とした事がこの戦争を招いた。国際情勢に詳しい宮崎正弘氏は、メルマガで次のように伝えている。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成18年(2006年)7月28日(金曜日)
通巻第1526号
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「国中国」的存在から、いまやレバノンを乗っ取る「ヒズボラ」
エイリアンの化け物が人間の身体に寄生し、いつしか食いちぎって外へ出た
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『エイリアン』という映画の何本目だったか、異星人の化け物が人間の身体に入り込み、食い荒らし、その人間になりすまし、或る日、身体を食い破って醜い本性を現す。
殆ど映画をみない小生でもこのシーンは見た。
多くの読者も、きっとこの場面をご記憶だろう。
レバノンのおける“ヒズボラ”という存在は、このエイリアンそっくりなのである。
「国中国」がヒズボラだが、その軍は正規のレバノン国軍をとうに凌駕し、なんといってもミサイルを一万基も保有して独自の行動をとる。
主権の主体者ではないのに、外交を主導する。戦争も勝手におっぱじめる。
つまり主権国家レバノンの「主権」を越えて、ヒズボラが勝手な軍事行動をとるのに、レバノン政府は為す術がないのである。レバノンは「主権国家」の体をとうになしていないばかりか、テロリストに完全に乗っ取られている。
レバノンではなく、ヒズボラ共和国?
このヒズボラという化け物を背後から協力に支援してきたのがシリアとイランである。
シリアは、そもそもレバノンを「国家」とは認めていないから大使館を置かないし、これまでは勝手にシリア軍をレバノンに駐留させてきた。自分の領土のつもりであり、いまもそれに近い認識である。
イランがヒズボラを支援してきた理由は、中東におけるシーア派拡大、ペルシア的なイランのナショナリズム拡大などが原因であり、イラク南部のシーア派への梃子入れはサダム・フセインの時代から続いてきた。
「ヒズボラ」はイランの傀儡から、一歩踏み出した。
レバノンという国を食い荒らし、食いちぎり、ついにイスラエルにゲリラ戦争、爆弾闘争を仕掛けるまでの軍事的実力を蓄積するに至った。
この化け物の殲滅を企図して開始したイスラエル軍による爆撃と地上侵攻も、EU軍か、NATO軍の介入がありそうで、またまた中途半端で終わるだろう。
ヒズボラが棲息できる地下要塞とありの巣のような拠点をレバノン南部に確保しており、退却が必要になればNATOを介入させて勢力の温存に入り、毛沢東と同じ戦術を行使する。
ヒズボラは暫く息をついたのちに、再び傲然と甦り、かつてのPLO以上の力量を溜め込んで、もっと大規模なテロをやらかすであろう。
むろんイスラエルは生存をかけて闘うだろう。
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7月5日現在、国連安保理で、米国と仏国が停戦へ向けて激しいやり取りをしているが、利は米国にあらず、時間を限って即時停戦となる可能性大。だが、イスラエルがそれをすんなりと受け入れるかどうか、大いに疑問である。仮に受け入れたとしても、10日を待たずしてイスラエル軍は空爆再開の決断をするのかも知れぬ。停戦後の国際派遣軍構成にもたつく事、派遣軍が<ヒズボラ>の武装解除を充分に出来ない事がその理由となる。
国連に参加はしたものの、イスラエルは国連決議を無視する過去を持つ。今回は国連施設を数回に亘って空爆している。体質的に国連を尊重しない国柄なのだ。イスラエル国内でも意見は割れていると思うが、穏健派の意志を踏み躙って強硬派はアラブ・モスレムへの2正面侵攻策を採った。何をやっても米国はイスラエルの味方をしてくれるとの読みがあるのだろう。強硬派としては、最大の支援国米国がイラン核武装に対し穏健的に振舞い過ぎるとの精神的不満が背景にあるのだ。
米軍はイラク内政対策でふらふらになっており、現時点ではイラン侵攻を採りたく無いのかも知れない。一方、米国内でもイスラエルに加担するのは止めよとの意見が共和党内で強くなって来た。ブッシュ(共和党)政権が、どこまでイスラエルを支援するかは、EUの動きを見つつ政権内ネオコングループとの意見調整で決まると想像する。
ブキャナンだったと思いますが、言ってましたね・・
「コレは俺達の戦争じゃない、○○○の戦争だ」って・・
たしかにアメリカも割れてはいるんですよね。
コメントを有難うございます。
イスラエルの振る舞いは異常ですね。オルメルトが停戦に少しでも同意しようとすると、軍部はUN施設爆撃やレバノン市民殺戮を繰り返して調停を壊す。米国内でも、もっとイスラエルにやらせろと言う意見と、最早イスラエルからは手を引けと言う意見が錯綜しているようです。
米国がイスラエルを見放したら、今までのレバノン侵攻とは異なった無差別爆撃、大虐殺をやってしまった訳ですから、アラブ諸国との調和回復は絶対に無理で、イスラエルは自滅へ向かうのでは無いでしょうか。
その時、400発と言われるイスラエル保有の核兵器を使うのが心配です。ここ数週間の中東の動きで、本当にハルマゲドンが起きるのかも知れません。