陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

トルコの怒りを買う米国下院外交委員会の採決

2007-10-13 14:53:00 | 中東問題
 トルコの東側国境、そしてイランの北側になるが、そこに人口300万人のアルメニア共和国がある。全く海に面していない内陸国だ。今年早々に、米国議会(下院)が「アルメニア人大虐殺」に関し、トルコを非難する決議上程を計画中と言うので大いに話題になった。それが切っ掛けで、第一次世界大戦に絡んで、この大虐殺事件がオスマン・トルコ帝国と関係することを私も Wikipedia で始めて知った。

 ここに来て、米下院外交委員会が非難決議をする方向で動いた。産経新聞によると

米下院外交委 僅差で「トルコ非難決議」を可決
2007.10.11 19:53

 【ワシントン=古森義久】米国下院外交委員会は10日、90年以上前のアルメニア人虐殺に関して当時のオスマン・トルコ帝国を非難する決議案を27対21の僅差で可決した。米国、トルコ両政府とも同決議案は両国関係を傷つけ、米国のイラクでの軍事活動にまで支障を及ぼすとして強く反対しており、米国が中東戦略で頼りにするトルコとの同盟関係を緊迫させる見通しとなった。
 決議案を審議する下院外交委員会(トム・ラントス委員長)が10日午後、開いた公聴会はアルメニア系、トルコ系の関係者らで満席となり、テレビ傍聴の別室まで満員となって熱気を高めた。

 決議案は1915年から数年間に起きたアルメニア人大量虐殺を公式に「ジェノサイド」(事前に計画された集団的虐殺)と呼び、その悲劇への理解などを米国の外交政策に反映させるという内容だが、虐殺をオスマン・トルコ帝国の全責任とし、犠牲者150万として「ジェノサイド」と断じる点などに対しトルコ政府が激しく反対している。
 
 トルコ政府が「事実の一方的解釈」と非難する点で同決議案は日本糾弾の慰安婦決議にも類似する。

 米国議会側ではアルメニア系米人の意向を受けたカリフォルニア州選出のアダム・シフ下院議員(民主党)らが決議案を提出し、下院で226人、上院で31人の共同提案者を得るにいたった。
 トルコ政府は「いわゆるアルメニア虐殺の実態は不明確な部分も多く、ジェノサイドとは呼べず、決議採択はトルコ国民を激怒させて、トルコ・米国関係に重大な打撃を与える」として反対し、エルドアン首相が5日、ブッシュ大統領に電話して議会に抑制を求めることを要請した。同大統領も10日朝の会見で「決議案採択はNATO(北大西洋条約機構)、そして対テロ国際闘争での枢要同盟国との関係を傷つける」として改めて反対を述べたばかりだった。

 米国はイラクでの軍事活動に必要な機材や物資の7割以上をトルコ領内のインジルリク基地などを経由して運んでいる。トルコ側では同決議案への反発が激しく、外相や議員団をワシントンに送って、採択された場合は同基地を使用禁止にする意図までを示唆してきた。こうしたトルコの官民の激烈な反応は慰安婦決議案への日本側の対応とは対照を描いてきた。

 同外交委員会の審議では委員長のラントス議員(民主党)が「大虐殺は非難されねばならない。トルコとの関係は確かに重要だ。だが日本の慰安婦決議案の審議でも、『これを通せば日米関係に重大な結果が起きる』と警告があったが、なにも起きなかった」と賛成論を述べた。これに対しダン・バートン議員(共和党)らは「現在のトルコの政府も国民もこの虐殺への責任はなく、トルコはいまイラクだけでなく中東全域への米国の対応で最も頼りになる同盟国だ」と述べ、同決議案に反対を表明した。

 外交委員会で可決された不拘束の同決議案は次に下院本会議にかけられる。だが委員会レベルでの採択でもトルコ側は官民で激しく反発することが必至となった。
http://sankei.jp.msn.com/world/america/071011/amr0710111953007-n1.htm


 米国下院は、世界中の様々な事に対し踏み込んだ決議するようであるが、90年以上も前の国際事件を取り上げ、現トルコ共和国にジェノサイドの責任を問うような決議は如何なものかと思う。トルコは、現在イラク治安に関して米政府に協力しているわけだから、ここで敢えてトルコ国民の反感を買うようなことをする意図が分からない。

 民主党が議席の多数を占めたからと言って、国家レベルの活動においてこれまでの経緯を無視する形で同盟国の名誉を巻き込みながら水を差すような事をしていては、米国の国際的信用を失う。流石に小ブッシュ政権は、これはまずいと考えたのか、議会へ決議しないよう書簡を送って要請していた。

 「慰安婦問題」に関する米下院決議は、中共の工作が裏面にあることが内外に報道されたが、それは同盟国日本に対して米国が大いに信頼を損なうような内容であった。

 ラントス外交委員長が、「それをやれば大きなリアクションがあると言われたが、何もなかった。今回のアルメニア問題もそれと同じだ」との判断で動いているようだが、甘過ぎはしないか。現時点で問題山積の米国外交であるのに、歴史学的にも議論の多い内容を含むにも係わらず、90年も前の事案を取り上げて同盟国トルコを断罪するような国家的行為に、私は大きな疑問を感じる。

 この問題、米国の外交姿勢が、昨今一貫していないとの批判を裏書きしたように思えてならない。人権問題は、なるべく現在に限って政治が関与すべきではないかと考える所以(ゆえん)である。

(追記:10月19日)

 この問題について、米国に住む苺畑カカシさんが米国民主党に対する厳しい意見を述べており、参考になった。

http://biglizards.net/strawberryblog/archives/2007/10/turkey.html

「株式日記と経済展望」でも、米国民主党の愚挙を歴史への政治関与との視点から批判している。

http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/5582d6883fa17466b94cbaa81ae97b01

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