goo

リヤドという美






わたしは独立円柱(コラム)のある回廊、それにぐるりと取り囲まれた吹き抜け中庭、この2つで構成された建物が大大大好きだ。

回廊と中庭があるだけでなく、外部とは壁で隔絶され、上空から見下ろして建物が”口”の形(線の部分が建物ね)をしていたら最高!

例えば母の実家は、独立柱、縁側と渡り廊下(<回廊に似ている)があり、壷庭を備えた古い家だが、凸型の底1本を欠いた形をしていることと外庭に向かって窓や扉がたくさん開いていることで隔絶感が全くない。四方八方から風が抜けるこういう形は温暖湿潤な日本型の気候に合っていたのだろうし、腹の底から湧き出るような愛着は感じて余りがあるが。


”口”型建物は乾燥し暑く雨の少ない地域に適している。
エジプトやギリシャ/ローマ等の古代建築は別にしても、現代のファミリー・ハウスとしてイスラエルやメキシコでもよく見かけた。

この夏スペイン南部、フランス南部、モロッコ中南部と旅して、「リヤド」を含む多くの”口”型建物と遭遇、また特に意図なくスペイン南部とモロッコの両国を続けて訪れたことで、ムーア様式の広がりとつながりを実感できたのは、旅の大きな収穫となった。
あの辺りの歴史は、受験生時代に魅せられつつも語呂合わせで年代を覚えまくるといった上辺だけの知識しか得ていなかったので、これからイブン・ハルドゥーンの「歴史序説」でも読もうと思っている。秋の夜長にもってこいの長編。


前置きはこのくらいにして...
本題の「リヤド」について。

「リヤド(riad)」はアラビア語で「庭」という意味だそうで、広義においては吹き抜けの中庭のある伝統的なモロッコの"口”型の建築(8、9世紀にかけて栄えたイドリース朝時代にはすでにこの様式が見られ、ムラービト朝時代にはスペイン南部のアンダルシア地方にも広がった)を指す。わたしの好きな形そのものだ。ちなみにスペイン・アンダルシアで宿泊したパラドールもこの様式だった。

近年、リヤドはモロッコ人の生活スタイルの変化や建物の老朽化によって見捨てられる傾向にあり、しかし一方で西洋人がその美に目を付け、規模によって4室から20室ほどのブティック・ホテルに改装されていることも多い(今調べたら、2010年頃リアリティ・ショウで取り上げられたらしい)。

そういうリヤドにどうしても泊まってみたかったので、マラケシュではヒッチコックの「知りすぎていた男」のロケ地になったホテル(<わたしが世界最高だと思うホテルのひとつ。リヤドではない)と、知り合いの超リッチなフランス人が所有するおしゃれなリヤドにも投宿した。ここは全6室で、しかも客はわたしたちだけだった。


ホテルになったリヤド、当たり外れがあるのかもしれないが、ほんとうーに素晴らしい!

静まりかえった回廊を支える数学的に美しいコラム(<世界中のコラムをコレクションしたいほど大大大好き。マラケシュの古道具屋でらくだの骨を象眼した円柱に惚れ、値段を聞いたら!)。エンタブラチュアのレリーフ、からからに渇いた木製の手すり。つやつやの漆喰の壁、中庭のプールに沈む微妙なトーンのモザイク。上空から流れ込む涼しい風。吹き抜けから眺める額縁に入ったかのような青空、夜は緞帳のように降りてくる宇宙。たゆたう水の、音、音...
小さすぎず、大きすぎない建物の規模が、”口”型の魅力を最大限に活かせていたと思う。規模は大切だ。

ここが自分の家だったらと何度夢想したことか。わたしもいつか超リッチになって、リヤドを一つ改装したい...と吹き抜けから見える夜空の星に何度も何度も願った。

実現したら千夜一夜物語ですよ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )