河童の歌声

歌声喫茶&キャンプ&ハイキング&写真&艦船

後世まで語り伝えられたイギリス人魂

2021-10-26 07:38:49 | 船舶
1852年2月26日、
イギリスの兵員輸送船バークンヘッド号は、
南アフリカ大陸南端のディンジャー岬の岩礁に乗りあげて沈没し、
630人中、420人が亡くなるという遭難事件がありました。

この種の海難事故はこの時代にはありふれた出来事でした。
しかし、この事故の顛末はイギリスだけでなく、
世界の海員のシーマンシップの根幹として長く伝えられる事になったのです。

その教訓とは、
「全ての海員はいかなる海難に直面しても、
不統率な行動によって自らや乗船員全員を窮地におとしいれる事は許されず、
また自分だけが生き残る権利を主張する事も許されず、
海員は第一にとるべき行動とは、
婦女子などの弱者を救助する事を第一にしなければならない。」
という現在に伝えられる海難時の救助の厳正な秩序を厳守することである。

当時、南アフリカでは、
新たな領土獲得を目指すイギリスと先住民族との激しい戦闘が起こっていた。
これを支援する為に陸軍のセント大佐らがバークンヘッド号に乗り込んだ。

この時の乗船員は、兵士480名。
その一部家族(婦人7名、子供13名)別部隊の将校6名。
一般乗客50名。そしてバークンヘッド号の乗組員130名の、合計686名だった。

バークンヘッド号は1845年製の鉄製(鋼鉄ではない)の帆船で、
一部には蒸気機関を備えていました。
1918トン。全長64メートル。
途中のケープタウンで一部が下船し、630名になります。

ケープタウンを出港した時は午後6時。
バークンヘッド号の艦長は経験豊かなサモンド海軍中佐です。
彼は夜間航海にも自信を持っていました。
しかし、念の為にスピードを落としていましたが、
午前2時10分、突然、大音響と共に船は未知の暗礁に乗り上げてしまったのです。
それは全く不運でした。

船は後進をかけて暗礁からの離脱を計りますが、
乗組員からの報告で艦長は船の沈没をさとります。
サモンド艦長は海軍と陸軍との違いはありますが、
階級はひとつ上のセトン大佐に対し全ての将兵の後甲板への集合を要請します。

セトン大佐は、直ちにこれからは全員が自分の命令に従う事を厳命し、
勝手に退船する様な秩序を乱すような行動を厳重に戒めたのです。
セトン大佐のこの命令に対し、全将兵は誰一人として命令に違反する者はなく、
この命令とそれに対する服従こそ、その後の部隊の厳正な行動を決定したのです。

大佐はまず沈没を少しでも遅らせるように、不要な重量物の海上への廃棄。
100頭の軍馬の追い出しと、エサの束の廃棄。
乗組員は船底に潜り込み、排水ポンプを作動させて海水の排水作業を行ったのです。
この作業は沈没を遅らせ、艦からの脱出時間を稼ぐのに極めて有効に作用したのです。

サモンド艦長は救命艇を降ろし、まず婦女子を乗せ脱出させます。
沈没迫る船体からの脱出はそう甘くはありません。
そのうち救命艇も無くなってしまいました。
この事態になっても将兵たちは誰一人あわてる者はなく、大佐からの命令を待っていました。

この状況で皆が勝手な行動を取れば艦上は大混乱になり、
無用な犠牲者を出す事は間違いありません。
大佐は、「そこを勝手に動くな。私の命令に従え」と命令し、
「各自協力しあって浮遊物を探せ、それらにつかまって互いに励ましあって、
海岸へ向かえ、海岸は遠くはない」と命じました。

セトン大佐は一人になって沈みつつある後甲板にたたずんでいました。
そこへ一人の将校が近ずき「陸地でまたお逢いしましょう」と言うと、
大佐は苦笑しながら「それは無理だと思うね。実は私はカナヅチなんだ」
それがセトン大佐の最期でした。


バークンヘッド号の遭難と、その時に展開された厳正な行動の話は、
たちまちイギリス本国に伝わり、
全イギリス国民の知るところとなりました。
イギリス国民は、この行為こそ自分達の誇りであると感じ、
みなが深い感銘を受けたのです。

一方、海軍はおろか商船界でも、
最悪な事態に直面しても、秩序を乱さず、服従の精神を失わず、
婦女子の救助を第一にするという海員魂の根幹を貫く伝統が、
ここで確立されたのでした。





それとは全く逆だったのが、
2014年の、韓国セウォル号の沈没。
船員たちは若い高校生たちを見殺しにし、
船長などは、一般乗客を装って逃げ出す見苦しさ。

同じ人間でありながら、こうまでも違うものか。
私だったら・・



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 携帯電話の思い出 | トップ | 雨の箱根路 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

船舶」カテゴリの最新記事